(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】NMR測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 24/00 20060101AFI20240109BHJP
G01R 33/44 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01N24/00 580B
G01N24/00 580E
G01R33/44
(21)【出願番号】P 2021176250
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】蜂谷 健一
(72)【発明者】
【氏名】根本 暢明
(72)【発明者】
【氏名】濱津 順平
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 文寛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴之
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-119346(JP,A)
【文献】特開2010-025895(JP,A)
【文献】特開2016-024118(JP,A)
【文献】特開平11-352203(JP,A)
【文献】実開平04-081082(JP,U)
【文献】米国特許第05442292(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-G01N 24/14
G01R 33/00-G01R 33/64
A61B 5/055
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
APS Journals
Oxford Journals
ACS PUBLICATIONS
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる周波数成分を有する送信信号に対して
前記複数の異なる周波数成分に対して共通のローカル信号を乗算し、これにより周波数変換後の送信信号を生成するミキサと、
前記周波数変換後の送信信号を増幅し、増幅後の送信信号を出力するパワーアンプと、
互いに異なる通過帯域特性を有する
並列配置された複数のフィルタを備え、前記増幅後の送信信号を前記複数のフィルタに通過させることにより複数の異なる照射周波数を有する複数の送信信号を並列的に生成し、前記複数の送信信号をNMR検出回路へ出力する分波器と、
前記ミキサによる周波数変換の条件として前記複数の異なる照射周波数を生じさせる条件を設定する制御部と、
を含
み、
前記周波数変換の条件には前記ローカル信号の周波数が含まれる、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項2】
請求項1記載のNMR測定装置において、
前記複数の送信信号は、第1照射周波数を有する第1送信信号、及び、第2照射周波数を有する第2送信信号を含
み、
前記ローカル信号の周波数は、前記第1照射周波数及び前記第2照射周波数の内の少なくとも1つに基づいて算出された周波数である、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項3】
請求項2記載のNMR測定装置において、
前記第1照射周波数及び前記第2照射周波数の内の一方が主参照周波数であり、
周波数変換方式として差方式又は和方式が採用されており、
前記ローカル信号の周波数は、前記主参照周波数及び前記周波数変換方式に基づいて算出された周波数である、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項4】
請求項3記載のNMR測定装置において、
前記複数の異なる周波数成分は、第1周波数を有する第1周波数成分、及び、第2周波数を有する第2周波数成分を含み、
前記第1照射周波数及び前記第2照射周波数の内の他方が副参照周波数であり、
前記周波数変換の条件には、前記第1周波数及び前記第2周波数が含まれ、
前記第1周波数及び前記第2周波数の内の少なくとも1つは、前記副参照周波数、前記ローカル信号の周波数及び前記周波数変換方式に基づいて算出された周波数である、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項5】
請求項4記載のNMR測定装置において、
前記第1周波数及び前記第2周波数の内で前記主参照周波数に対応する周波数は、生成可能な周波数範囲内の指定周波数であり、
前記第1周波数及び前記第2周波数の内で前記副参照周波数に対応する周波数は、前記生成可能な周波数範囲内の算出周波数であり、
前記ローカル信号の周波数は、前記主参照周波数、前記指定周波数及び前記周波数変換方式に基づいて算出された周波数であり、
前記算出周波数は、前記副参照周波数、前記ローカル信号の周波数及び前記周波数変換方式に基づいて算出された周波数である、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項6】
請求項5記載のNMR測定装置において、
前記周波数変換方式は前記差方式であり、
前記指定周波数は、前記生成可能な周波数範囲の1/2を超える周波数であり、
前記主参照周波数は、前記第1照射周波数及び前記第2照射周波数の内で低い方の周波数である、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項7】
請求項5記載のNMR測定装置において、
前記周波数変換方式は前記差方式であり、
前記指定周波数は、前記生成可能な周波数範囲の1/2に満たない周波数であり、
前記主参照周波数は、前記第1照射周波数及び前記第2照射周波数の内で高い方の周波数である、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項8】
請求項5記載のNMR測定装置において、
前記周波数変換方式は前記和方式であり、
前記指定周波数は、前記生成可能な周波数範囲の1/2に満たない周波数であり、
前記主参照周波数は、前記第1照射周波数及び前記第2照射周波数の内で低い方の周波数である、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項9】
請求項5記載のNMR測定装置において、
前記周波数変換方式は前記和方式であり、
前記指定周波数は、前記生成可能な周波数範囲の1/2を超える周波数であり、
前記主参照周波数は、前記第1照射周波数及び前記第2照射周波数の内で高い方の周波数である、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項10】
請求項5記載のNMR測定装置において、
前記算出周波数がマイナス周波数にならず且つ前記算出周波数が周波数上限を超過しないように、前記周波数変換方式として前記差方式又は前記和方式が選択され、且つ、前記指定周波数が指定される、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項11】
請求項2記載のNMR測定装置において、
前記複数のフィルタは、前記第1送信信号を生成するための第1通過帯域特性を有する第1フィルタ、及び、前記第2送信信号を生成するための第2通過帯域特性を有する第2フィルタを含む、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項12】
請求項1記載のNMR測定装置において、
前記NMR検出回路を有するプローブと、
前記ミキサと前記パワーアンプとの間に設けられたフィルタバンクと、
前記ミキサと前記パワーアンプとの間に設けられ、前記フィルタバンクを迂回するバイパス路と、
を含み、
前記パワーアンプと前記プローブとの間で前記分波器を機能させる場合に前記バイパス路が機能し、
前記パワーアンプと前記プローブとの間で前記分波器を機能させない場合に前記フィルタバンクが機能する、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【請求項13】
請求項1記載のNMR測定装置において、
受信時において前記分波器が混合器として機能し、
前記パワーアンプと前記分波器の間から混合受信信号が取り出される、
ことを特徴とするNMR測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はNMR測定装置に関し、特に、複数の送信信号を生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
NMR測定装置は、試料で生じるNMR(核磁気共鳴:Nuclear Magnetic Resonance)現象を測定する装置である。NMR装置は、分光計、及び、プローブを含む。プローブは検出器に相当する。分光計には、送信部及び受信部が含まれる。
【0003】
特許文献1にはNMR測定装置が開示されている。そのNMR測定装置内の送信部は、周波数変換器を有している。周波数変換器内のミキサにおいて、送信信号に対して局発発振器からのローカル信号が乗算されている。周波数変換器から出力された周波数変換後の送信信号がプローブへ送られている。特許文献2にもNMR測定装置が開示されている。そのNMR測定装置は、単一の送信信号から複数の送信信号を生成する分波回路を有している。
【0004】
特許文献1、2には、周波数変換技術と分波技術の組み合わせは開示されていない。特に、それらの特許文献には、周波数変換のための単一のローカル信号を利用しつつ複数の送信信号を生成する技術は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-24118号公報
【文献】特開2002-31673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
NMR測定においては、場合により、試料に対する複数の電磁波の同時照射が必要となる。例えば、観測核の励起と観測核・周辺核間のデカップリング(相互作用を弱める操作)のための周辺核の励起とを同時に行いたい場合に、そのような目的に適う複数の異なる照射周波数を有する複数の電磁波が同時に照射される。そういった複数の電磁波の照射のために、つまり互いに異なる複数の周波数を有する複数の送信信号の生成のために、複数の送信部(例えば、複数のパワーアンプや複数の周波数変換器)を並列的に設けると、装置構成が複雑化し、製造コストが増大してしまう。加えて、それら複数の送信部に対応する複数の受信部(例えば、複数のプリアンプや複数の周波数変換器)を並列的に設けるならば、装置構成の複雑化や製造コストの増大はより顕著になる。
【0007】
本発明の目的は、NMR測定装置において、簡易な構成で、複数の異なる周波数を有する複数の送信信号を生成できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、NMR測定装置において、周波数変換を経て複数の送信信号を生成するに際して適切な周波数変換条件が設定されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るNMR測定装置は、複数の異なる周波数成分を有する送信信号に対してローカル信号を乗算し、これにより周波数変換後の送信信号を生成するミキサと、前記周波数変換後の送信信号を増幅し、増幅後の送信信号を出力するパワーアンプと、互いに異なる通過帯域特性を有する複数のフィルタを備え、前記増幅後の送信信号を前記複数のフィルタに通過させることにより複数の異なる照射周波数を有する複数の送信信号を並列的に生成し、前記複数の送信信号をNMR検出回路へ出力する分波器と、前記ミキサによる周波数変換の条件として前記複数の異なる照射周波数を生じさせる条件を設定する制御部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な構成で、複数の異なる周波数を有する複数の送信信号を生成できる。あるいは、本発明によれば、周波数変換を経て複数の送信信号を生成するに際して適切な周波数変換条件が設定される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係るNMR測定装置を示すブロック図である。
【
図3】第1の組み合わせにおける周波数セットの計算例を示す図である。
【
図4】第2の組み合わせにおける周波数セットの計算例を示す図である。
【
図5】第3の組み合わせにおける周波数セットの計算例を示す図である。
【
図6】第4の組み合わせにおける周波数セットの計算例を示す図である。
【
図7】差方式を採用した場合における周波数セットの決定方法を示す図である。
【
図8】和方式を採用した場合における周波数セットの決定方法を示す図である。
【
図11】分波器(混合器)についての幾つかの具体例を示す図である。
【
図12】分波器(混合器)の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(1)実施形態の概要
実施形態に係るNMR測定装置は、ミキサ、パワーアンプ、分波器、及び、制御部を有する。ミキサにおいて、複数の異なる周波数成分を有する送信信号に対してローカル信号が乗算される。これにより周波数変換後の送信信号が生成される。パワーアンプにおいて、周波数変換後の送信信号が増幅され、パワーアンプから増幅後の送信信号が出力される。分波器は、互いに異なる通過帯域特性を有する複数のフィルタを備える。分波器において、増幅後の送信信号を複数のフィルタに通過させることにより複数の異なる照射周波数を有する複数の送信信号が並列的に生成される。複数の送信信号がNMR検出回路へ出力される。制御部は、ミキサによる周波数変換の条件として複数の異なる照射周波数を生じさせる条件を設定する。
【0013】
上記構成においては、複数の異なる照射周波数を有する複数の送信信号が適正に生成されるように、周波数変換の条件が設定される。その上で、ミキサにより、複数の周波数成分が周波数変換され、続いて、パワーアンプにより、周波数変換後の複数の周波数成分が増幅される。その後、分波器により、増幅後の複数の周波数成分が複数の送信信号として並列的に取り出される。よって、上記構成によれば、適正な条件の下で簡易な構成を動作させて、NMR測定で必要となる複数の送信信号を生成できる。特に、複数の送信信号を生じさせる複数の周波数成分に対して、それらに共通の構成要素(例えば、単一のミキサ、単一のパワーアンプ)を適用できるので、装置構成の簡素化を図れる。
【0014】
ミキサを用いて行われる周波数変換の条件には、ローカル信号の周波数、複数の周波数成分の周波数、周波数変換方式、等が含まれ得る。事前に決定された条件が制御部より送信部に設定されてもよいし、制御部により算出された条件が制御部より送信部に設定されてもよい。複数の送信信号がNMR検出回路に送られると、複数の電磁波が試料に対して同時又は順次照射される。基本的に、複数の送信信号が有する複数の異なる照射周波数は、それぞれ、観測核(観測対象となる原子核)、測定目的、測定条件、等に基づいて定められる。上記のNMR検出回路は、電磁波照射機能を有する回路であり、その意味において、NMR検出のための照射検出回路である。
【0015】
実施形態において、複数の送信信号は、第1照射周波数を有する第1送信信号、及び、第2照射周波数を有する第2送信信号を含む。周波数変換の条件には、ローカル信号の周波数が含まれる。ローカル信号の周波数は、第1照射周波数及び第2照射周波数の内の少なくとも1つに基づいて算出された周波数である。
【0016】
ローカル信号は、複数の周波数成分に乗算される共通の信号であり、ローカル信号の周波数が周波数変換後の複数の周波数を直接的に規定する。よって、ローカル信号の周波数は、周波数変換における重要なパラメータの1つである。そのようなパラメータが、第1照射周波数及び第2照射周波数の内の一方又は両方に基づいて算出される。
【0017】
実施形態において、第1照射周波数及び第2照射周波数の内の一方が主参照周波数である。周波数変換方式として、以下に説明する差方式又は和方式が採用されている。ローカル信号の周波数は、主参照周波数及び周波数変換方式に基づいて算出された周波数である。
【0018】
周知のように、ミキサの出力側には、入力された2つの周波数の乗算の結果として、差周波数成分(差成分)及び和周波数成分(和成分)が現れる。上記の差方式は差成分を抽出し和成分を除外する方式であり、一方、上記の和方式は和成分を抽出し差成分を除外する方式である。差方式及び和方式が選択的に採用されてもよいし、差方式及び和方式のいずれか一方が固定的に採用されてもよい。いずれにしても、ローカル信号の周波数の計算に際し、周波数変換方式が考慮される。
【0019】
ローカル信号の周波数の決定に当たって、第1照射周波数及び第2照射周波数の内の一方を基礎とすれば、つまり主参照周波数を基礎とすれば、ローカル信号の周波数を一義的に決定し得る。
【0020】
実施形態において、複数の異なる周波数成分は、第1周波数を有する第1周波数成分、及び、第2周波数を有する第2周波数成分を含む。第1照射周波数及び第2照射周波数の内の他方(つまり主参照周波数でない方)が副参照周波数である。周波数変換の条件には、更に、第1周波数及び第2周波数が含まれる。第1周波数及び第2周波数の内の少なくとも1つは、副参照周波数、ローカル信号の周波数及び周波数変換方式に基づいて算出された周波数である。
【0021】
実施形態において、第1周波数及び第2周波数の内で主参照周波数に対応する周波数は、生成可能な周波数範囲内の指定周波数である。第1周波数及び前記第2周波数の内で副参照周波数に対応する周波数は、生成可能な周波数範囲内の算出周波数である。ローカル信号の周波数は、主参照周波数、指定周波数及び周波数変換方式に基づいて算出された周波数である。算出周波数は、副参照周波数、ローカル信号の周波数及び周波数変換方式に基づいて算出された周波数である。
【0022】
第1周波数及び第2周波数の内の一方を指定すれば、その指定に基づいてローカル信号の周波数を算出し得る。続いて、第1周波数及び第2周波数の内の他方が算出される。そのような段階的な周波数決定により、周波数変換の条件を決定するプロセスを簡素化できる。実施形態において、上記の周波数範囲は、第1周波数を生成する第1周波数生成器が生成可能な第1周波数範囲、及び、第2周波数を生成する第2周波数生成器が生成可能な第2周波数範囲に一致する。指定周波数は、先に決められる周波数であり、算出周波数は、後から決まる周波数である。
【0023】
周波数変換方式が差方式であり、且つ、指定周波数が、生成可能な周波数範囲の1/2を超える周波数である場合、主参照周波数を、第1照射周波数及び第2照射周波数の内で低い方の周波数とした方がよい(低周波数基準)。一方、周波数変換方式が差方式であり、且つ、指定周波数が、生成可能な周波数範囲の1/2に満たない周波数である場合、主参照周波数を、第1照射周波数及び第2照射周波数の内で高い方の周波数とした方がよい(高周波数基準)。差方式及び指定周波数の高/低の組み合わせに応じて、低周波数基準又は高周波数基準を採用すれば、許容し得る周波数差(第1照射周波数と第2照射周波数の差)を拡大できる。換言すれば、差方式、及び、選択された基準(低周波数基準又は高周波数基準)の組み合わせに応じて、生成可能な周波数範囲内において高い指定周波数又は低い指定周波数を定めれば、許容し得る周波数差を拡大できる。
【0024】
周波数変換方式が和方式であり、指定周波数が、生成可能な周波数範囲の1/2に満たない周波数である場合、主参照周波数を、第1照射周波数及び第2照射周波数の内で低い方の周波数とした方がよい(低周波数基準)。一方、周波数変換方式が和方式であり、且つ、指定周波数が、生成可能な周波数範囲の1/2を超える周波数である場合、主参照周波数を、第1照射周波数及び第2照射周波数の内で高い方の周波数とした方がよい(高周波数基準)。和方式及び指定周波数の高/低の組み合わせに応じて、低周波数基準又は高周波数基準を採用すれば、容認可能な周波数差を拡大できる。換言すれば、和方式、及び、選択された基準(低周波数基準又は高周波数基準)の組み合わせに応じて、生成可能な周波数範囲内において高い指定周波数又は低い指定周波数を定めれば、許容し得る周波数差を拡大できる。
【0025】
第1照射周波数及び第2照射周波数が低周波数帯域に属する場合、一般に、周波数変換方式として差方式が採用される。第1照射周波数及び第2照射周波数が高周波数帯域に属する場合、一般に、周波数変換方式として和方式が採用される。ローカル信号の周波数を低く抑えることにより、装置設計上の難易度を下げられる、信号純度の悪化を回避できる、等の利点を得られる。低周波数帯域及び高周波数帯域は相対的な概念であり、高周波数帯は、低周波数帯域よりも高い周波数帯域である。
【0026】
実施形態においては、算出周波数がマイナス周波数にならず且つ算出周波数が周波数上限を超過しないように、周波数変換方式として差方式又は和方式が選択され、且つ、指定周波数が指定される。制御部が差方式又は和方式を選択してもよい。その場合に、第1周波数及び第2周波数の属する周波数帯域が考慮されてもよい。上記の周波数上限は、生成可能な周波数範囲の上限である。
【0027】
実施形態において、複数のフィルタは、第1送信信号を生成するため第1通過帯域特性を有する第1フィルタ、及び、第2送信信号を生成するための第2通過帯域特性を有する第2フィルタを含む。第1通過帯域特性及び第2通過帯域特性は互いに異なる特性である。
【0028】
実施形態に係るNMR測定装置は、NMR検出回路を有するプローブと、ミキサとパワーアンプとの間に設けられたフィルタバンクと、ミキサとパワーアンプとの間に設けられフィルタバンクを迂回するバイパス路と、を含む。パワーアンプとプローブとの間で分波器を機能させる場合にバイパス路が機能する。パワーアンプとプローブとの間で分波器を機能させない場合にフィルタバンクが機能する。
【0029】
分波器における各フィルタは、差成分抽出器又は和成分抽出器としても機能し得る。すなわち、分波器における各フィルタは、フィルタバンクを構成する各フィルタと同じ機能を発揮し得る。そこで、ミキサから出力された送信信号を、フィルタバンクを通さずに、分波器へ送っても、差成分又は和成分を適切に抽出できる。これにより、送信信号の純度の低下を防止又は軽減できる。複数の照射周波数群に対応する複数の分波器を用意しておき、選択した照射周波数群に適合する分波器が選択的に使用されてもよい。一方、排除したい不要成分の抑圧が不十分である場合や、パワーアンプへ入力される信号に含まれる不要成分を抑圧したい場合には、フィルタバンクと分波器を同時に機能させた方がよい。
【0030】
実施形態においては、受信時において分波器が混合器として機能する。パワーアンプと分波器との間から混合受信信号が取り出される。例えば、混合受信信号に対して、送信信号の周波数変換で用いられたローカル信号と同じ信号が乗算され、これにより混合受信信号が周波数変換される。その後、周波数変換後の混合受信信号に対する信号処理が実行される。この構成を採用する場合、複数のプリアンプや複数の受信用周波数変換器を設けなくてもよいので、受信系の構成を簡素化できる。
【0031】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係るNMR測定装置が示されている。NMR測定装置は、試料分析装置の一種である。具体的には、NMR測定装置は、試料においてNMR現象を生じさせ、それにより生じたNMR信号を観測・解析することで試料を分析する装置である。実施形態に係るNMR測定装置は、複数の異なる周波数を有する複数の電磁波を同時に照射する機能を備えている。
【0032】
図1において、NMR測定装置は、分光計10、静磁場発生器12、プローブ14等を有し、更に、中継器16及び分波器18を有する。静磁場発生器12は、静磁場を生じさせる超伝導磁石、静磁場を補正する補正コイル、等を有する。プローブ14は、挿入部14A及び基部14Bにより構成される。挿入部14Aは、補正コイル等が有するボアの中に挿入される。挿入部14Aの中には、NMR検出回路20が設けられている。
【0033】
NMR検出回路20は、NMR信号を検出するための電子回路であり、それはNMR信号を検出するために電磁波を照射する機能を備える。NMR検出回路は20は、例えば、送受信コイル、送信コイル等を有している。送受信コイルは、例えば、試料中の観測核に対して電磁波を照射し、観測核で生じたNMR信号を検出するものである。送信コイルは、例えば、観測核・周辺核の間のデカップリングのための電磁波を照射するものである。複数の送信信号が複数のコイルに対して個別的に供給されてもよいし、1つのコイルに対して複数の送信信号が供給されてもよい。NMR検出回路20は、同調回路(例えば、チューニング回路、及び、マッチング回路)も有している。NMR検出回路20を室温下又は極低温下で動作させてもよい。
【0034】
基部14Bは、ボアの外側に配置される部分である。それには複数のポートA,B,Cが設けられている。図示の構成例では、ポートAに、第1送信信号が供給されている。ポートBに、第2送信信号が供給されている。ポートA及びポートBは、2つの内部信号線を介して、NMR検出回路20に接続されている。また、図示の構成例では、基部14BにポートCも設けられている。ポートCに他の送信信号が供給される。
図1においては、当該他の送信信号を生成する送信部の図示が省略されている。実施形態においては、ポートA,Bが低周波数帯域用のポートであり、ポートCが高周波数帯域用のポートである。もっとも、そのような割り付けは一例に過ぎないものである。
【0035】
図1においては、第1電磁波の周波数(第1照射周波数)及び第2電磁波の周波数(第2照射周波数)がRF1及びRF2で表現されている。例えば、観測核、周辺核、静磁場強度、測定目的、測定条件等に従って、照射周波数の組み合わせ、つまりRF1,RF2が決定される。第1送信信号の周波数は第1照射周波数と同じくRF1であり、第2送信信号の周波数は第2照射周波数と同じくRF2である。以下、第1送信信号の周波数を単にRF1と表現し、第2送信信号の周波数を単にRF2と表現する。
【0036】
分光計10は、コントローラ25、送信部22、受信部24、発振器48等を有する。コントローラ25は、例えば、プロセッサを有するコンピュータにより構成され、それは制御部として機能する。コントローラ25により、NMR測定装置内の各要素の動作が制御される。実施形態に係るコントローラ25は、送信部22に対して、周波数変換条件(具体的には後述する周波数セット)を設定する機能を有する。実施形態に係るコントローラ25は、フィルタ選択機能、ルーティング制御機能、等も備えている。コントローラ25はメモリを有し、あるいは、コントローラ25の外部にメモリが設けられている。そのメモリには、送受信において必要な条件が格納されている。その条件には周波数セットが含まれる。コントローラ25は、メモリに格納された情報に基づいて送受信制御を行う。
【0037】
送信部22は、信号生成部26、加算器36、周波数変換器28、及び、パワーアンプ(電力増幅器)30を有する。信号生成部26は、図示の構成例において、第1信号生成器32及び第2信号生成器34を有する。第1信号生成器32で生成される第1原送信信号の周波数(第1周波数)がF1で表現されている。第2信号生成器34で生成される第2原送信信号の周波数(第2周波数)がF2で表現されている。以下、第1周波数を単にF1と表現し、第2周波数を単にF2と表現する。後述する周波数変換の観点から見て、F1,F2は、それぞれ中間周波数(IF)とも言い得る。F1及びF2は、コントローラ25により設定される。
【0038】
第1信号生成器32が生成可能な周波数範囲を第1周波数範囲と表現し、第2信号生成器34が生成可能な周波数範囲を第2周波数範囲と表現した場合、実施形態において、第1周波数範囲と第2周波数範囲は同一である。以下、第1周波数範囲及び第2周波数範囲をいずれも単に周波数範囲と表現する。後に詳述するように、実施形態においては、F1及びF2の一方が周波数範囲内において指定される指定周波数であり、F1及びF2の他方が周波数範囲内において算出される算出周波数である。装置操作条件を決める過程において、指定周波数は、先に決まる周波数であり、算出周波数は、後から決まる周波数である。
【0039】
加算器36は、第1原送信信号及び第2原送信信号を加算して混合原送信信号を生成する。その混合原送信信号は、F1を有する第1周波数成分、及び、F2を有する第2周波数成分、を含む単一の送信信号である。
【0040】
周波数変換器28は、ミキサ38、フィルタバンク(FB)40、スイッチ42、スイッチ43等を有する。スイッチ42及びスイッチ43により、ミキシング路44及びバイパス路46のいずれかが選択される。ミキサ38は、周波数変換のための乗算器である。すなわち、ミキサ38において、混合原送信信号とローカル信号とが乗算される。これにより、ミキサ38の出力側に差成分及び和成分が生じる。
【0041】
実施形態においては、周波数変換方式として差方式が採用されている。差方式においては、乗算後に生じる差成分及び和成分の内で差成分が利用される。具体的には、差成分が抽出され且つ和成分が除去されるように、フィルタバンク40内のフィルタが選択される。選択されたフィルタに対して、ミキサから出力された周波数変換後の送信信号が送られる。フィルタバンク40内の各フィルタは、例えば、LPF(Low Pass Filter)又はBPF(Band Pass Filter)により構成される。
【0042】
なお、周波数変換方式として和方式が採用されてもよい。その場合、和成分が抽出され且つ差成分が除去されるように、フィルタバンク40内のフィルタが選択される。その場合、フィルタバンク40内の各フィルタが、例えば、HPF(High Pass Filter)又はBPFにより構成されてもよい。コントローラ25により、RF1及びRF2に従って、差方式及び和方式が選択されてもよい。
【0043】
周波数変換後の送信信号がパワーアンプ30へ送られている。パワーアンプ30は、送信信号の増幅を行うものである。実施形態においては、送信部22内に、単一の周波数変換器28及び単一のパワーアンプ30が設けられており、送信部22の構成が簡素化されている。パワーアンプ30として様々な電力増幅デバイスを用い得る。なお、パワーアンプ30が複数の増幅回路により構成されてもよい。
【0044】
実施形態に係る周波数変換器28は、バイパス路46を備えている。周波数変換が不要な場合、スイッチ42及びスイッチ43によりバイパス路46が選択される。その場合、送信信号がバイパス路46を経由してパワーアンプ30に送られる。
【0045】
発振器48は、周波数F0を有するローカル信号を生成する。発振器48は、いわゆる局部発振器(Local Oscillator)である。ローカル信号は周波数変換のための信号である。ローカル信号の周波数F0は、コントローラ25により設定される。ローカル信号は、送信部22及び受信部24の両者に対して供給されている。ローカル信号の供給路上に必要に応じて位相調整器が設けられてもよい。以下においては、ローカル信号の周波数を単にF0と表現する。
【0046】
中継器16は、ヘッドアンプシャーシとも呼ばれる。中継器16の内部には、T/Rスイッチ(送受信経路切替スイッチ)50及びプリアンプ(前置増幅器)52が設けられている。プリアンプ52は、NMR検出回路20から得られた微小なNMR信号を増幅する回路を有する。T/Rスイッチ50は、パワーアンプ30から出力された送信信号を分波器18へ送り、分波器18から出力された受信信号をプリアンプ52へ送る回路であり、つまり、送受信経路切替えのための電子回路である。T/Rスイッチ50が方向性結合器等により構成されてもよい。分波器18は、以下に説明するように、受信時において混合器として機能する。
【0047】
分波器18は、並列的に設けられた第1フィルタ54及び第2フィルタ56を有する。第1フィルタ54は、第1周波数帯域特性を有し、第2フィルタ56は、第2周波数帯域特性を有する。第1周波数帯域特性及び第2周波数帯域特性は互いに異なる。第1フィルタ54により、RF1を有する周波数成分(つまり第1送信信号)が抽出され、他の周波数成分が抑圧される。第2フィルタ56により、RF2を有する周波数成分(つまり第2送信信号)が抽出され、他の周波数成分が抑圧される。RF1及びRF2は互いに異なる。このように、分波器18は、第1送信信号及び第2送信信号を並列的に生成し、また、第1送信信号及び第2送信信号を並列的に出力するものである。分波器18はダイプレクサーとも呼ばれる。
【0048】
送信時においては、分波器18から出力された第1送信信号がポートAを介してNMR検出回路20へ送られ、また、分波器18から出力された第2送信信号がポートBを介してNMR検出回路20へ送られる。NMR検出回路20により、第1電磁波及び第2電磁波が試料に対して照射される。
【0049】
受信時において、分波器18は混合器として機能する。詳しくは、第1受信信号がポートA及び第1フィルタ54を介して分波器18の出力側(T/Rスイッチ側)に現れる。また、第2受信信号がポートB及び第2フィルタ56を介して分波器18の出力側に現れる。分波器18の出力側において、第1受信信号及び第2受信信号からなる混合受信信号が生じる。混合受信信号がT/Rスイッチ50及びプリアンプ52を介して受信部24に送られる。通常、混合受信信号を構成する第1受信信号及び第2受信信号の内で一方の受信信号が処理対象となる。但し、それらの両方が処理対象とされてもよい。
【0050】
なお、実施形態において、分波器18は挿抜可能である。第1フィルタ54及び第2フィルタ56が、それぞれ、複数のフィルタ要素により構成されてもよい。後述するように、分波器18内に3つ以上のフィルタが設けられてもよい。中継器16内に分波器18が設けられてもよいし、プローブ14内に分波器18が設けられてもよい。分波器18を取り除いた状態においては、送受信チャンネルごとに単一の周波数信号を送受信する一般的なNMR測定装置が構成される。分波器18を挿入した状態においては、単一の送受信チャンネルで複数の送受信信号を送受信する特別なNMR測定装置が構成される。望ましくは、測定対象となった核種等に応じて、分波器18の使用の有無、及び、NMRプローブの種類が選択される。
【0051】
受信部24は、周波数変換器58及び受信信号処理部70を有する。周波数変換器58は、ミキサ60、バンドパスフィルタ62、スイッチ64、スイッチ65等を有する。ミキサ60において、混合受信信号に対して、ミキサ38に供給されたローカル信号と同じ信号が乗算される。それにより生じた差成分及び和成分の内で差成分がバンドパスフィルタ62において抽出される。バンドパスフィルタ62は周波数変換後の観測周波数成分を通過させ、その他の周波数成分を除去する役割をもつ。バンドパスフィルタ62として、通過帯域を可変できるものを設けてもよい。
【0052】
スイッチ64及びスイッチ65は、ミキシング路66及びバイパス路68のいずれかを選択するものである。周波数変換を行う場合にはミキシング路66が選択され、周波数変換を行わない場合にはバイパス路68が選択される。受信信号処理部70は、AD変換器、直交検波回路、等を有する。受信信号処理部70内において、受信信号の周波数解析が行われてNMRスペクトルが生成されてもよい。
【0053】
図1に示した実施形態によれば、第1送信信号及び第2送信信号の生成に当たって、複数の周波数変換器や複数のパワーアンプを設ける必要がない。つまり、単一の周波数変換器及び単一のパワーアンプを用いて第1送信信号及び第2送信信号を生成できる。よって、送信部の構成を簡素化できる。また、第1受信信号及び第2受信信号の検波に当たって、複数の周波数変換器や複数のプリアンプを設ける必要がない。つまり、単一の周波数変換器及び単一のプリアンプを用いて第1受信信号及び第2受信信号を検波できる。よって、受信部の構成を簡素化できる。
【0054】
分波器18は比較的に安価な部品であるから、実施形態によれば、送信部及び受信部の構成の簡素化により、大幅なコストダウンを図れる。なお、受信信号の処理に際しては、送信信号と受信信号との間で位相が同期した状態を保持する必要がある。複数の受信部を並列的に設ける場合、複数の受信部の性能をできる限り揃えることが求められるが、その要請を完全に満たすことは実際には容易ではない。複数の受信部を並列的に設ける場合、性能差に起因する処理精度低下という問題が生じ易くなる。これに対し、実施形態の構成によれば、そのような問題が生じない。
【0055】
ところで、実施形態の構成においては、RF1及びRF2が適正に生成されるように、採用されている周波数変換方式に従って、F0、F1及びF2(つまり周波数セット)を適切に定める必要がある。以下、周波数変換の条件に関して詳述する。
【0056】
周波数変換方式として差方式が採用される場合、周波数変換において、F0-F1=RF1、及び、F0-F2=RF2、が成立する必要がある。一方、周波数変換方式として和方式が採用される場合、周波数変換において、F0+F1=RF1、及び、F0+F2=RF2、が成立する必要がある。
【0057】
既に説明したように、F1及びF2は、それぞれ、周波数範囲内において、指定され又は算出される周波数である。F1及びF2の内で一方が指定周波数であり、F1及びF2の内で他方が算出周波数である。周波数範囲は、例えば200MHzである。周波数範囲の下限は例えば0又は1MHzであり、周波数範囲の上限は200MHzである。それを前提とした場合、125MHz、150MHz、175MHz等の比較的に高い周波数が指定周波数とされ、あるいは、25MHz、50MHz、75MHz等の比較的に低い周波数が指定周波数とされる。
【0058】
差方式において、指定周波数が周波数範囲の1/2を超える場合つまり高周波数指定の場合、RF1及びRF2の内で低い方のRFが主参照周波数とされ、RF1及びRF2の内で高い方のRFが副参照周波数とされる。端的に表現すると、差方式と高周波数指定の組み合わせ(以下「第1の組み合わせ」という。)の場合、低周波数基準が採用される。一方、差方式において、指定周波数が周波数範囲の1/2に満たない場合つまり低周波数指定の場合、RF1及びRF2の内で高い方のRFが主参照周波数とされ、RF1及びRF2の内で低い方のRFが副参照周波数とされる。端的に表現すると、差方式と低周波数指定の組み合わせ(以下「第2の組み合わせ」という。)の場合、高周波数基準が採用される。
【0059】
和方式において、指定周波数が周波数範囲の1/2に満たない場合つまり低周波数指定の場合、RF1及びRF2の内で低い方のRFが主参照周波数とされ、RF1及びRF2の内で高い方のRFが副参照周波数とされる。端的に表現すると、和方式と低周波数指定の組み合わせ(以下「第3の組み合わせ」という。)の場合、低周波数基準が採用される。一方、和方式において、指定周波数が周波数範囲の1/2を超える場合つまり高周波数指定の場合、RF1及びRF2の内で高い方のRFが主参照周波数とされ、RF1及びRF2の内で低い方のRFが副参照周波数とされる。端的に表現すると、和方式と低周波数指定の組み合わせ(以下「第4の組み合わせ」という。)の場合、高周波数基準が採用される。
【0060】
以上のような要件に従って周波数セットを定めることにより、後に
図7及び
図8を用いて説明するように、許容し得る周波数差(RF1とRF2の差)を拡大することが可能となる。つまり、より多くの核種に対応した周波数生成を行なうことが可能となる。なお、実施形態においては第1の組み合わせが採用されているが、状況に応じて他の組み合わせが選択的に採用されてもよい。
【0061】
いずれの組み合わせにおいても、最初に、主参照周波数(RF1又はRF2)及び指定周波数FS(=F1又はF2)に基づいて、ローカル信号の周波数F0が算出される。次に、副参照周波数(RF2又はRF1)及びF0に基づいて、算出周波数(F2又はF1)が算出される。以上のような段階的な過程を経て、周波数セット(F0,F1,F2)が特定される。
【0062】
なお、以上の説明では、RF1とF1を固定的に対応付け、RF2とF2を固定的に対応付けたが、RF1、RF2及びF1,F2の対応関係として他の対応関係を採用してもよい。例えば、RF1,RF2の内で低いRFをF1に割り付け、RF1,RF2の内で高いRFをF2に割り付けてもよい。
【0063】
図2には、4つの周波数セットが例示されている。すなわち、第1の組み合わせ(#1)、第2の組み合わせ(#2)、第3の組み合わせ(#3)、及び、第4の組み合わせ(#4)に対応する、4つの周波数セットが示されている。
図2において、RF1及びRF2の内で、グレー表現されているセル内の周波数が主参照周波数である。F1及びF2の内で、グレー表現されているセル内の周波数が指定周波数である。なお、周波数範囲FRは0-200MHzである。但し、本願明細書上の各数値は例示に過ぎないものである。
【0064】
第1の組み合わせ(#1)に対応する周波数セットを参照すると、RF1が60MHzであり、RF2が150MHzである。指定周波数は125MHzである。差方式の下で、低いRFであるRF1が主参照周波数とされ、それに対応するF1に対して指定周波数である125MHzが割り当てられる。その結果、F0が185MHzと算出され、F2が35MHzと算出されている。
【0065】
第2の組み合わせ(#2)に対応する周波数セットを参照すると、上記同様、RF1が60MHzであり、RF2が150MHzである。指定周波数は25MHzである。差方式の下で、高いRFであるRF2が主参照周波数とされ、それに対応するF2に対して指定周波数である25MHzが割り当てられる。その結果、F0が175MHzと算出され、F1が115MHzと算出されている。
【0066】
第3の組み合わせ(#3)に対応する周波数セットを参照すると、RF1が560MHzであり、RF2が600MHzである。指定周波数は25MHzである。和方式の下で、低いRFであるRF1が主参照周波数とされ、それに対応するF1に対して指定周波数である25MHzが割り当てられる。その結果、F0が535MHzと算出され、F2が65MHzと算出されている。
【0067】
第4の組み合わせ(#4)に対応する周波数セットを参照すると、上記同様、RF1が560MHzであり、RF2が600MHzである。指定周波数は125MHzである。和方式の下で、高いRFであるRF2が主参照周波数とされ、それに対応するF2に対して指定周波数である125MHzが割り当てられる。その結果、F0が475MHzと算出され、F1が85MHzと算出される。
【0068】
実施形態においては、第1の組み合わせが採用されているが、4つの組み合わせの中から、使用する組み合わせが選択されてもよい。実施形態においては、指定周波数は、RF1及びRF2の組み合わせによらずに固定される。もっとも、RF1及びRF2の組み合わせに応じて、指定周波数を変化させてもよい。
【0069】
図3には、第1の組み合わせにおける周波数セット算出方法の一例が模式的に示されている。
図3において、符号74は、RF1,RF2の組み合わせを示している。符号75で示すように、RF1は60MHzであり、符号76で示すように、RF2は150MHzである。相対的に見て低い周波数つまりRF1が主参照周波数とされ、相対的に見て高い周波数つまりRF2が副参照周波数とされる。符号77で示すように、F1は指定周波数FSであり、つまりF1は125MHzである。
【0070】
最初に、符号78で示すように、F1及びRF1に基づいて、F0が算出される。具体的には、F0=F1+RF1により、F0として185MHzが算出される。次に、符号80で示すように、RF2及びF0に基づいて、F2が算出される。具体的には、F2=F0-RF2により、F2として35MHzが算出される。
【0071】
図4には、第2の組み合わせにおける周波数セット算出方法の一例が模式的に示されている。
図4において、符号81は、RF1,RF2の組み合わせを示している。符号82で示すように、RF1は60MHzであり、符号83で示すように、RF2は150MHzである。相対的に見て高い周波数つまりRF2が主参照周波数とされ、相対的に見て低い周波数つまりRF1が副参照周波数とされる。符号84で示すように、F2は指定周波数FSであり、つまりF2は25MHzである。
【0072】
最初に、符号85で示すように、F2及びRF2に基づいて、F0が算出される。具体的には、F0=F2+RF2により、F0として175MHzが算出される。次に、符号86で示すように、RF1及びF0に基づいて、F1が算出される。具体的には、F1=F0-RF1により、F1として115MHzが算出される。
【0073】
以上のように、差方式の下で、固定的に定める指定周波数を用意し、段階的な計算を行うことにより、RF1,RF2の組み合わせに適合した周波数セットを迅速かつ簡易に特定又は計算することが可能となる。
【0074】
図5には、第3の組み合わせにおける周波数セット算出方法の一例が模式的に示されている。
図5において、符号87は、RF1,RF2の組み合わせを示している。符号88で示すように、RF1は560MHzであり、符号89で示すように、RF2は600MHzである。相対的に見て低い周波数つまりRF1が主参照周波数とされ、相対的に見て高い周波数つまりRF2が副参照周波数とされる。符号90で示すように、F1は指定周波数FSであり、つまりF1は25MHzである。
【0075】
最初に、符号91で示すように、F1及びRF1に基づいて、F0が算出される。具体的には、F0=RF1-F1により、F0として535MHzが算出される。次に、符号92で示すように、RF2及びF0に基づいて、F2が算出される。具体的には、F2=RF2-F0により、F2として65MHzが算出される。
【0076】
図6には、第4の組み合わせにおける周波数セット算出方法の一例が模式的に示されている。
図6において、符号93は、RF1,RF2の組み合わせを示している。符号94で示すように、RF1は560MHzであり、符号95で示すように、RF2は600MHzである。相対的に見て高い周波数つまりRF2が主参照周波数とされ、相対的に見て低い周波数つまりRF1が副参照周波数とされる。符号96で示すように、F2は指定周波数FSであり、つまりF2は125MHzである。
【0077】
最初に、符号97で示すように、F2及びRF2に基づいて、F0が算出される。具体的には、F0=RF2-F2により、F0として475MHzが算出される。次に、符号98で示すように、RF1及びF0に基づいて、F1が算出される。具体的には、F1=RF1-F0により、F1として85MHzが算出される。
【0078】
以上のように、和方式が採用された場合でも、固定的に定める指定周波数を利用し、段階的な計算を行うことにより、RF1,RF2の組み合わせに適合した周波数セットを迅速かつ簡易に特定又は計算することが可能となる。
【0079】
第1の組み合わせにおいて、不適切な設定値が算出されるケースとして、例えば、次のようなものが挙げられる。先の説明内容とは逆に、相対的に見て高い周波数つまりRF2を主参照周波数とし、相対的に見て低い周波数つまりRF1を副参照周波数とする場合を考えてみる。F2は指定周波数FSであり、つまりF2は125MHzとなる。F2及びRF2に基づいて、F0が算出される。具体的には、F0=F2+RF2により、F0として275MHzが算出される。次に、RF1及びF0に基づいてF1が算出される。具体的には、F1=F0-RF1により、F1として205MHzが算出される。その周波数はFRを超えており、不適切なものである。
【0080】
図7には、差方式における周波数セットの計算、具体的には、第1の組み合わせ及び第2の組み合わせにおける周波数セットの計算が図解されている。差方式は、一般に、RF1,RF2が低周波数帯域に属する場合に採用される。符号114は、第1の組み合わせを示しており、符号116は、第2の組み合わせを示している。縦軸は周波数を示している。
【0081】
図示された第1の組み合わせ及び第2の組み合わせのいずれにおいても、RF1<RF2が成立している。第1の組み合わせでは、指定周波数FSは、周波数範囲FRの1/2を超える高い周波数である。第2の組み合わせでは、指定周波数FSは、周波数範囲FRの1/2に満たない低い周波数である。当然ながら、指定周波数FSは、周波数範囲FRの上限値以下の周波数である。
【0082】
第1の組み合わせにおいては、低い方のRF1が主参照周波数つまり基準周波数とされる。RF1に対してF1(=FS)を加算することにより、F0が算出される。続いて、F0からRF2を減算することにより、F2が算出される。図示の例では、F2は正の周波数である。RF1とRF2の差がΔRFで示されている。
【0083】
例えば、RF2がRF2’になった場合、ΔRF’が大きくなる。ΔRF’がF1(=FS)を超えると、算出されるF2’が数値計算上、マイナスの周波数になってしまう。そのような事態を避けるためには、FSに対してできるだけ大きな値を与えた方がよい。例えば、FSに対して、周波数範囲FRの上限値を与えることも考えられる。FSに大きな値を与えた場合、ミキサから出力される和成分と差成分の差が大きくなるため、つまり必要な信号と不要な信号との間での周波数差が大きくなるため、不要な信号を排除し易くなる。つまり、FSに大きな値を与えれば、フィルタ設計が容易となる。
【0084】
第2の組み合わせにおいては、高い方のRF2が主参照周波数つまり基準周波数とされる。RF2に対してF2(=FS)を加算することにより、F0が算出される。続いて、F0からRF1を減算することにより、F1が算出される。RF1とRF2の差がΔRFで示されている。ΔRFを大きくするためには、FSはできるだけ小さい方がよい。周波数範囲FRにおける最小値(下限値)をFSに与えてもよい。FSに小さな値を与えた場合、高性能デバイスを用いる必要がなくなる、信号純度を大きく損なうことがない、といった利点を得られる。
【0085】
図8には、和方式における周波数セットの計算、具体的には、第3の組み合わせ及び第4の組み合わせにおける周波数セットの計算が図解されている。和方式は、一般に、RF1,RF2が高周波数帯域に属する場合に採用される。符号120は、第3の組み合わせを示しており、符号122は、第4の組み合わせを示している。縦軸は周波数を示している。
【0086】
図示された第3の組み合わせ及び第4の組み合わせのいずれにおいても、RF1<RF2が成立している。第3の組み合わせでは、指定周波数FSは、周波数範囲FRの1/2に満たない低い周波数である。第4の組み合わせでは、指定周波数FSは、周波数範囲FRの1/2を超える高い周波数である。
【0087】
第3の組み合わせにおいては、RF1及びRF2の内で低い方のRF1が主参照周波数とされる。RF1からF1(=FS)が減算され、これによりF0が算出される。RF2からF0を減算することによりF2が算出される。当然ながらF2は周波数範囲FR内に収まっている必要がある。第3の組み合わせにおいて、許容し得るΔRFを大きくするためには、FSは小さい方がよく、FSをFRの下限値に一致させてもよい。FSが小さい場合には、第2の組み合わせにおいてFSを小さくした場合に得られる利点と同様の利点を得られる。
【0088】
第4の組み合わせにおいては、RF1及びRF2の内で高い方のRF2が主参照周波数とされる。RF2からF2(=FS)が減算され、これによりF0が算出される。続いて、RF1からF0を減算することによりF1が算出される。第4の組み合わせにおいて、許容し得るΔRFを大きくするためには、FSは大きい方がよく、FSをFRの上限値に一致させてもよい。FSが大きい場合には、第1の組み合わせにおいてFSを大きくした場合に得られる利点と同様の利点を得られる。
【0089】
図7及び
図8に示した内容は例示に過ぎないものである。具体的な周波数関係に応じて、周波数変換方式、基準となるRF、指定周波数、等を選択すればよい。なお、指定周波数が可変されてもよい。例えば、ΔRFに基づいて、指定周波数が適応的に決定されてもよい。
【0090】
図9には、送信部の変形例が示されている。
図9は、送信部22Aの一部を示すものである。送信部22Aは、信号生成部26A及び加算器36Aを有する。信号生成部26Aは、複数の信号生成器32Aにより構成される。各信号生成器32Aは、シーケンサー130及びDDS(Direct Digital Synthesizer)132により構成される。シーケンサー130により、所望のパルス系列又はそれに対応するコマンド列が生成され、それに従ってDDS132が原送信信号を生成している。DDS132は様々な波形を生成する機能を備えている。加算器36Aにおいて、複数の原送信信号が加算されている。加算後の混合原送信信号が図示されていない周波数変換器に送られる。
【0091】
図10には、周波数変換器の変形例が示されている。なお、
図10において、
図1に示した要素と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0092】
分波器内の複数のフィルタは、フィルタバンク40の機能と同様の機能を発揮し得る。すなわち、分波器内の複数のフィルタは、差成分抽出器又は和成分抽出器としても機能し得る。それを前提として、スイッチ134及びスイッチ135により、バイパス路138を選択すれば、送信信号の純度を維持することが可能となる。送信信号をフィルタバンク40に送り込みたい場合には、スイッチ134及びスイッチ135にフィルタリング路136を選択させればよい。
【0093】
図11には、分波器の構成についての幾つかの具体例が示されている。TYPE1で特定される2つのBPFの組み合わせは、符号140-1で示す周波数特性を有する。TYPE2で特定されるHPF及びLPFの組み合わせは、符号140-2で示す周波数特性を有する。TYPE3で特定されるBPF及びLPFの組み合わせは、符号140-3で示す周波数特性を有する。TYPE4で特定されるHPF及びBPFの組み合わせは、符号140-4で示す周波数特性を有する。TYPEkで特定される2つのBRF(Band Rejection Filter)の組み合わせは、符号140-2で示す周波数特性を有する。BRFはBEF(Band Elimination Filter)とも称される。
【0094】
図12には、分波器の変形例が示されている。分波器18Aは、並列配置された第1フィルタ142、第2フィルタ144、及び、第3フィルタ146を有する。分波器18Aは、トリプレクサーとも言い得る。第1フィルタ142により、周波数RF1を有する送信信号が生成され、第2フィルタ144により、周波数RF2を有する送信信号が生成され、第3フィルタ146により、周波数RF3を有する送信信号が生成される。
【0095】
RF1,RF2,RF3に従って、上記で説明した手法に基づき、周波数セットが算出される。具体的には、差方式と高周波数指定を前提とする場合、RF1,RF2,RF3の中で最も低い周波数が主参照周波数とされ、残りの2つの周波数がそれぞれ副参照周波数とされる。RF1,RF2,RF3に対応する3つの周波数の内で、主参照周波数に対応する周波数が指定周波数とされ、残りの2つの周波数がそれぞれ算出周波数とされる。上記は一例に過ぎず、本変形例において、和方式や低周波数指定を採用してもよい。
【0096】
上記実施形態では、2つのRFの内で低い側の周波数又は高い側の周波数が基準とされていたが、2つのRFに基づく平均周波数を基準とすることも考えられる。また、上記実施形態において、F0を決定するための指定周波数を測定目的や測定状況に応じて変動させてもよい。ユーザーによりF0が指定されてもよい。指定周波数を用いることなく、F1及びF2を適応的に決定する変形例も考えられる。複数の照射周波数群に対応する複数の分波器を用意しておき、選択した照射周波数群に適合する分波器が選択的に使用されてもよい。なお、送信部及び受信部に対して、それぞれ、直列に接続された複数の周波数変換器を設けてもよい。その場合、段階的な周波数変換が行われる。また、複数の分波器を並列的に設ける構成を採用してもよい。その場合、分波器ごとに
図1に示した構成が設けられる。
【符号の説明】
【0097】
10 分光計、12 静磁場発生器、14 プローブ、16 中継器、18 分波器、22 送信部、24 受信部、25 コントローラ、26 信号生成部、28 周波数変換器、30 パワーアンプ、38 ミキサ、48 発振器、54 第1フィルタ、56 第2フィルタ。