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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】鞍乗り型車両
(51)【国際特許分類】
   B62J 27/00 20200101AFI20240109BHJP
   B62J 50/22 20200101ALI20240109BHJP
   B62K 21/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B62J27/00
B62J50/22
B62K21/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021551157
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020036029
(87)【国際公開番号】W WO2021065671
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2019180877
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 爾
(72)【発明者】
【氏名】和田 容輔
(72)【発明者】
【氏名】戸村 甲子男
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/087579(WO,A1)
【文献】特開2000-062636(JP,A)
【文献】特開2019-001350(JP,A)
【文献】特開2013-235437(JP,A)
【文献】特開2016-145016(JP,A)
【文献】特開2017-140952(JP,A)
【文献】国際公開第2014/162538(WO,A1)
【文献】特開2010-137774(JP,A)
【文献】特開2016-047717(JP,A)
【文献】特開2019-202591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62K 21/00-21/26
B62J 27/00-27/30,
45/00-45/423,
50/00-50/28
B62D 6/00- 6/10
B60W 10/00-10/30,
30/00-60/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者に警告を与えるべく予め定めた振動を発生させる警告振動発生装置(205)を備える鞍乗り型車両(1)において、
前記警告振動発生装置(205)は、運転支援制御の強さに応じて予め定めた警告を選定するとともに運転者に振動を発生させる警告選定部(210)を備え、
前記警告振動発生装置(205)は、前記警告選定部(210)が選定した警告に応じて、前記鞍乗り型車両(1)に特有の振動周波数を避けた周波数帯で、前記警告としての振動を発生させ、
前記警告振動発生装置(205)は、前記鞍乗り型車両(1)のホイール振動の周波数よりも高く、前記鞍乗り型車両(1)のエンジン振動の周波数よりも低い周波数帯で、前記警告としての振動を発生させ、
前記警告としての振動の周波数帯は、人の身体の共振周波数であり、
前記警告としての振動のトルクは、前記鞍乗り型車両(1)の操縦性に影響を及ぼさない程度のものであり、
前記警告振動発生装置(205)は、前記鞍乗り型車両(1)の前方の障害物に対する相対時間距離に応じて、複数段階の警告レベルを設定し、前記相対時間距離が短い程、前記警告レベルは大きくなるよう設定され、
最も警告度合いの小さい警告レベルでは前記警告としての振動を発生させず、
前記最も警告度合いの小さい警告レベルよりも警告度合いの大きい警告レベルのときに前記警告としての振動を発生させ、前記警告レベルが大きくなるほど前記振動を大きくし、
前記鞍乗り型車両(1)は操舵輪(2)を支持する懸架装置(3)にアシストトルク(Tm)を付与するステアリングアクチュエータ(43)と、前記ステアリングアクチュエータ(43)を含む車両部品を駆動制御する制御手段(23)と、を備え、
前記制御手段(23)は、車両の加速、減速及び操舵の少なくとも一つを運転者の操作によらず作動させる前記運転支援制御を行うとともに、前記警告選定部(210)が選定した警告に応じて前記ステアリングアクチュエータ(43)を作動させて、前記警告としての振動を操舵ハンドル(4)に発生させ、
前記警告振動発生装置(205)は、ヨー角速度(Y)及びロール角速度(R)に基づいて合成角速度(S)を算出するとともに前記合成角速度(S)を用いて前記アシストトルク(Tm)を算出し、
前記警告振動発生装置(205)は、前記合成角速度(S)が大きい場合は前記アシストトルク(Tm)が小さくなり、かつ前記合成角速度(S)が小さい場合は前記アシストトルク(Tm)が大きくなるように前記アシストトルク(Tm)を設定する鞍乗り型車両。
【請求項2】
前記警告としての振動は、ハプティック振動である請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項3】
記制御手段(23)は、前記警告選定部(210)を含請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項4】
運転支援制御を行う制御装置(23)を備え、
前記制御装置(23)は、前記警告としての振動を発生させる際に、前記鞍乗り型車両(1)の姿勢制御を向上するように制御ゲインを設定する請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【請求項5】
前記警告振動発生装置(205)は、運転アシスト制御を行う場合には、前記ステアリングアクチュエータ(43)を短周期で正逆駆動することにより前記警告としての振動を発生させる請求項3に記載の鞍乗り型車両。
【請求項6】
前記警告としての振動のトルクは、前記鞍乗り型車両(1)の操作性に影響を与えないよう所定の値以下に設定されている請求項5に記載の鞍乗り型車両。
【請求項7】
前記警告としての振動の周波数は、30Hz以上かつ50Hz以下である請求項1に記載の鞍乗り型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両に関する。
本願は、2019年9月30日に出願された日本国特願2019-180877号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、乗員に接触する複数部分に警告用のバイブレータを備える鞍乗り型車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許第5972332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動二輪車等の鞍乗り型車両は、エンジン等の原動機の振動、路面の凹凸による振動、タイヤのアンバランスによる振動、等の特有の振動を有している。このため、一般的なバイブレータを用いた振動では、前記特有の振動に紛れてしまい、運転者が警告に気付かないことがある。このような警告は、追突軽減ブレーキや車線逸脱警告等の運転支援システムの作動初期段階時になされるため、この警告に気付かない場合には、その後の運転支援のシステムの作動によっておこる運転者が意図しない挙動の発生により運転者が疲労しやすいという課題がある。
【0005】
本発明の態様は、運転支援システムの作動時に運転者が気付きやすい警告を与えることができる鞍乗り型車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る一態様の鞍乗り型車両は、運転者に警告を与えるべく予め定めた振動を発生させる警告振動発生装置を備える鞍乗り型車両において、前記警告振動発生装置は、運転支援制御の強さに応じて予め定めた警告を選定するとともに運転者に振動を発生させる警告選定部を備え、前記警告振動発生装置は、前記警告選定部が選定した警告に応じて、前記鞍乗り型車両に特有の振動周波数を避けた周波数帯で、前記警告としての振動を発生させ、前記警告振動発生装置は、前記鞍乗り型車両のホイール振動の周波数よりも高く、前記鞍乗り型車両のエンジン振動の周波数よりも低い周波数帯で、前記警告としての振動を発生させ、前記警告としての振動の周波数帯は、人の身体の共振周波数であり、前記警告としての振動のトルクは、前記鞍乗り型車両の操縦性に影響を及ぼさない程度のものであり、前記警告振動発生装置は、前記鞍乗り型車両の前方の障害物に対する相対時間距離に応じて、複数段階の警告レベルを設定し、前記相対時間距離が短い程、前記警告レベルは大きくなるよう設定され、最も警告度合いの小さい警告レベルでは前記警告としての振動を発生させず、前記最も警告度合いの小さい警告レベルよりも警告度合いの大きい警告レベルのときに前記警告としての振動を発生させ、前記警告レベルが大きくなるほど前記振動を大きくし、前記鞍乗り型車両は操舵輪を支持する懸架装置にアシストトルクを付与するステアリングアクチュエータと、前記ステアリングアクチュエータを含む車両部品を駆動制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、車両の加速、減速及び操舵の少なくとも一つを運転者の操作によらず作動させる前記運転支援制御を行うとともに、前記警告選定部が選定した警告に応じて前記ステアリングアクチュエータを作動させて、前記警告としての振動を操舵ハンドルに発生させ、前記警告振動発生装置は、ヨー角速度及びロール角速度に基づいて合成角速度を算出するとともに前記合成角速度を用いて前記アシストトルクを算出し、前記警告振動発生装置は、前記合成角速度が大きい場合は前記アシストトルクが小さくなり、かつ前記合成角速度が小さい場合は前記アシストトルクが大きくなるように前記アシストトルクを設定する
【0007】
(2)上記(1)の態様において、前記警告としての振動は、ハプティック振動であってもよい
【0008】
(3)上記(1)又は(2)の態様において、前記制御手段は、前記警告選定部を含んでもよ
(4)上記(1)から(3)のいずれかの態様において、運転支援制御を行う制御装置を備えてもよく、前記制御装置は、前記警告としての振動を発生させる際に、前記鞍乗り型車両の姿勢制御を向上するように制御ゲインを設定してもよい。
(5)上記(3)の態様において、前記警告振動発生装置は、運転アシスト制御を行う場合には、前記ステアリングアクチュエータを短周期で正逆駆動することにより前記警告としての振動を発生させてもよい。
(6)上記(1)から(5)のいずれかの態様において、前記警告としての振動のトルクは、前記鞍乗り型車両の操作性に影響を与えないよう所定の値以下に設定されていてもよい。
(7)上記(1)から(6)のいずれかの態様において、前記警告としての振動の周波数は、30Hz以上かつ50Hz以下であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)の態様によれば、鞍乗り型車両に特有の振動周波数を避けた周波数帯で警告振動を発生させるので、当該鞍乗り型車両に特有のホイール振動やエンジン振動に警告振動が紛れ難く、運転者が感知しやすい警告振動を容易に発生させることができる。また、鞍乗り型車両のホイール振動やエンジン振動に紛れない領域で警告振動を発生させるので、運転者に対する警告の確実性を高めることができる。
上記(3)の態様によれば、転支援制御の強さに応じて運転者に警告を行う際に、この振動の発生機としてステアリングアクチュエータを兼用することで、専用のバイブレータを用いる場合に比べて、部品点数の増加を抑えることができる。ステアリングアクチュエータの作動による振動は、ハンドル回動軸中心の回動として発生するので、一般的なバイブレータによる振動とは異なる振動を得やすい。このため、単に操舵ハンドルにバイブレータを設置する場合と比べて、当該鞍乗り型車両に特有のエンジン振動等に警告振動が紛れ難く、運転者が感知しやすい警告振動を容易に発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態における自動二輪車の左側面図である。
図2】上記自動二輪車の制御装置の構成図である。
図3】上記自動二輪車の操舵アシスト装置の構成図である。
図4】上記操舵アシスト装置のふらつき抑制アシストトルク算出ブロックの構成図である。
図5図1のV矢視図である。
図6】上記自動二輪車の運転支援システムの機能別の警告例、および高安定化制御に移行する際のトリガー案を示す表である。
図7】上記運転支援システムの追突軽減ブレーキの警告閾値の説明図である。
図8】上記運転支援システムの車線逸脱警告の警告閾値の説明図である。
図9】上記運転支援システムのブラインドスポットインフォメーションの警告閾値の説明図である。
図10】上記操舵アシスト装置のステアリングアクチュエータを用いた警告振動発生装置を示す図5に相当する説明図である。
図11】上記ステアリングアクチュエータを用いた警告振動を発生させる際の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、車両上方を示す矢印UP、車体左右中心を示す線CL、が示されている。
【0012】
<車両全体>
図1に示すように、本実施形態は、大型のカウリングを備えた自動二輪車(鞍乗り型車両)1に適用されている。自動二輪車1の前輪2は、前輪懸架装置3に支持されている。前輪懸架装置3は、車体フレーム5の前端部に支持されている。車体フレーム5の前端部には、前輪懸架装置3を支持するフロントブロック6が設けられる。フロントブロック6の上部には、前輪転舵用のバーハンドル4が取り付けられている。バーハンドル4は、ライダー(運転者)Jが把持する左右一対のグリップを備えている。
【0013】
フロントブロック6の後方には、左右一対のメインフレーム7が斜め下後方に延びている。左右メインフレーム7の後端部は、それぞれ左右一対のピボットフレーム8の上端部に接続されている。左右メインフレーム7の下方かつ左右ピボットフレーム8の前方には、例えば水平対向六気筒型のエンジンを含むパワーユニットUが搭載されている。
【0014】
左右ピボットフレーム8には、スイングアーム11の前端部が支持されている。スイングアーム11の後端部には、自動二輪車1の後輪12が支持されている。スイングアーム11の前部と車体フレーム5の前後中間部との間には、不図示のリヤクッションが介設されている。
【0015】
左右ピボットフレーム8の後部には、リヤフレーム9の前端部が接続されている。リヤフレーム9の上方には、乗員着座用のシート14が配置されている。シート14の下方には、燃料タンク15が配置されている。シート14の後方には、リヤトランク16が配置されている。リヤトランク16の下方の左右両側には、左右サドルバッグ17がそれぞれ配置されている。
【0016】
自動二輪車1は、前輪2を制動する前輪ブレーキ2Bと、後輪12を制動する後輪ブレーキ12Bと、を備えている。前後ブレーキ2B,12Bは、それぞれ油圧ディスクブレーキである。自動二輪車1は、前後ブレーキ2B,12Bに対する油圧を給排するブレーキアクチュエータ42(図5参照)を備えている。自動二輪車1は、前後ブレーキ2B,12Bと、ライダーJが操作するブレーキレバーおよびブレーキペダル等のブレーキ操作子と、を電気的に連係させるバイワイヤ式のブレーキシステムを構成している。
【0017】
<前輪懸架装置>
前輪懸架装置3は、ハンドル支持部6aと、ハンドルポスト4aと、ヘッドパイプ3aと、フロントフォーク部材3bと、転舵部材3cと、リンク部材4bと、揺動アーム3dと、クッションユニット3eと、を備えている。ハンドル支持部6aは、フロントブロック6の上端部に設けられている。ハンドルポスト4aは、ハンドル支持部6aに回動可能に支持されている。ヘッドパイプ3aは、車体フレーム5とは別体に設けられている。フロントフォーク部材3bは、ヘッドパイプ3aに回動可能に支持されている。転舵部材3cは、フロントフォーク部材3bの上端部に一体回動可能に取り付けられている。リンク部材4bは、転舵部材3cとハンドルポスト4aとを連結している。揺動アーム3dは、フロントブロック6に対してヘッドパイプ3aを揺動可能に連結している。クッションユニット3eは、フロントフォーク部材3bとフロントブロック6との間に介設されている。
【0018】
フロントフォーク部材3bは、左右フォークの下端部に前輪2を支持する。フロントフォーク部材3bの上端部には、ステアリング軸が一体に設けられ、このステアリング軸がヘッドパイプ3aに挿通支持されている。ステアリング軸の上端部は、ヘッドパイプ3aの上方に突出し、この上端部に転舵部材3cが取り付けられている。
【0019】
以下、ハンドル支持部6aに対するハンドルポスト4aの回動中心軸線をハンドル回動軸線C2と称する。また、ヘッドパイプ3aに対するフロントフォーク部材3bの回動中心軸線をステアリング軸線C3と称する。ステアリング軸線C3は、ハンドル回動軸線C2よりも前方にオフセット(離間)している。ステアリング軸線C3とハンドル回動軸線C2とは、車両の1G状態で互いに実質的に平行である。
【0020】
図5は、図1におけるステアリング軸線C3およびハンドル回動軸線C2に沿う矢印V方向から見た矢視図である。図5において、リンク部材4bは、転舵部材3c及びハンドルポスト4aと共に平行リンクを形成する。これにより、バーハンドル4の操舵角と前輪2の転舵角とが互いに同一になる。
【0021】
図1を参照し、揺動アーム3dの前端部は、ヘッドパイプ3aに上下揺動可能に支持されている。揺動アーム3dの後端部は、フロントブロック6に上下揺動可能に支持されている。揺動アーム3dは、上下一対のアーム部材を備えている。揺動アーム3dは、ヘッドパイプ3aを規定の軌跡で上下動可能とする。例えば下アーム部材には、クッションユニット3eの下端部が連結されている。
【0022】
前輪懸架装置は、揺動アーム3dを上方へ揺動させて、フロントフォーク部材3b及びヘッドパイプ3aを上方移動させる。このとき、下アーム部材がクッションユニット3eの下端部を上方移動させて、クッションユニット3eを圧縮させる。
前輪懸架装置は、揺動アーム3dを下方へ揺動させて、フロントフォーク部材3b及びヘッドパイプ3aを下方移動させる。このとき、下アーム部材がクッションユニット3eの下端部を下方移動させて、クッションユニット3eを伸長させる。
【0023】
<制御装置>
図2は、本実施形態における自動二輪車1の制御装置23の構成図である。
自動二輪車1は、制御装置23を備えている。制御装置23は、各種センサ類21から取得した検知情報に基づき、各種装置類22を作動制御する。制御装置23は、例えば一体または複数体の電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)として構成されている。制御装置23は、少なくとも一部がソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。制御装置23は、エンジン10の運転を制御する燃料噴射制御部、点火制御部およびスロットル制御部を含んでいる。自動二輪車1は、スロットル装置48等のエンジン補機と、ライダーJが操作するアクセルグリップ等のアクセル操作子と、を電気的に連係させるバイワイヤ式のエンジン制御システムを構成している。
【0024】
各種センサ類21は、スロットルセンサ31、車輪速センサ32およびブレーキ圧センサ33の他、車体加速度センサ34、舵角センサ35、操舵トルクセンサ36および車速センサ37、ならびに外部検知手段38を含んでいる。
各種センサ類21は、ライダーJの各種操作入力、ならびに自動二輪車1および乗員の各種状態、ならびに自車周囲の状況を検知する。各種センサ類21は、制御装置23に各種の検知情報を出力する。
【0025】
スロットルセンサ31は、スロットルグリップ等のアクセル操作子の操作量(加速要求)を検知する。
ブレーキ圧センサ33は、前記ブレーキ操作子の操作力(減速要求)を検知する。
車体加速度センサ34は、5軸または6軸のIMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)であり、車体における3軸(ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸)の角速度および加速度を検知し、さらにその結果から角度を検知する。以下、車体加速度センサ34を車体角速度センサ34ということがある。
舵角センサ35は、例えば操舵軸(ステアリング軸又はハンドル回動軸)に設けられたポテンショメータであり、車体に対する操舵軸の回動角度(操舵角度)を検知する。
【0026】
操舵トルクセンサ36は、例えばフォーク部材3bのステアリング軸(又はハンドルポスト4aの回動軸)に設けられた磁歪式トルクセンサであり、バーハンドル4から入力される捩じりトルク(操舵入力)を検知する。操舵トルクセンサ36は、バーハンドル4(ステアリング操作子)に入力される操舵力を検知する荷重センサの一例である。
【0027】
実施形態の前輪懸架装置3は、バーハンドル4を支持するハンドルポスト4aの回動軸と、前輪2を操向可能とするステアリング軸と、が互いに別体であるが、これに限らない。例えば、一般的な前輪懸架装置のように、ハンドル回動軸と操舵軸(前輪回動軸)とが互いに同一であってもよい。前輪懸架装置が車体フレーム5前端部のヘッドパイプに支持される構成であってもよい。
【0028】
外部検知手段38は、例えば、カメラと、レーダ装置と、ファインダと、物体認識装置と、を含んでいる。
カメラは、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を利用したデジタルカメラである。カメラは、自動二輪車1の任意の箇所に取り付けられる。前方を撮像する場合、カメラは、車体部品(転舵側および非転舵側を含む)や種々外装部品等に取り付けられる。カメラは、例えば、周期的に繰り返し自動二輪車1の周辺(例えば前後左右)を撮像する。カメラが撮像した画像は、適宜の画像処理がなされ、所望の画像データとなって種々の制御に用いられる。カメラからの情報は、検知方向の物体の位置、種類、速度等の認識に供され、この認識に基づいて、自動二輪車1の運転アシスト制御や自動運転制御等がなされる。例えば、カメラは、可視光のみならず赤外線等の不可視光を撮影するカメラでもよい。
【0029】
レーダ装置は、自動二輪車1の周辺にミリ波などの電波を放射すると共に、物体によって反射された電波(反射波)を検出して少なくとも物体の位置(距離および方位)を検知する。レーダ装置は、自動二輪車1の任意の箇所に取り付けられる。レーダ装置は、自動二輪車1の前後左右の物体の位置および速度を検知する。
【0030】
ファインダは、LIDAR(Light Detection and Ranging)である。ファインダは、自動二輪車1の周辺に光を照射し、散乱光を測定する。ファインダは、発光から受光までの時間に基づいて、対象までの距離を検知する。照射される光は、例えば、パルス状のレーザー光である。ファインダは、自動二輪車1の任意の箇所に取り付けられる。
【0031】
物体認識装置は、カメラ、レーダ装置、およびファインダのうち一部または全部による検出結果に対してセンサフュージョン処理を行って、物体の位置、種類、速度などを認識する。物体認識装置は、認識結果を制御装置23に出力する。物体認識装置は、カメラ、レーダ装置、およびファインダの検出結果をそのまま制御装置23に出力してもよい。物体認識装置が省略されてもよい。
【0032】
自動二輪車1には、自動運転システムが採用されている。
ここで、車両の自動運転には、以下の度合が存在する。自動運転の度合は、例えば、所定の基準未満であるか、所定の基準以上であるかといった尺度で判断することができる。 自動運転の度合が所定の基準未満とは、例えば、手動運転が実行されている場合、またはACC(Adaptive Cruise Control System)やLKAS(Lane Keeping Assistance System)等の運転支援装置のみが作動している場合である。自動運転の度合が所定の基準未満の運転モードは、「第1の運転モード」の一例である。
【0033】
また、自動運転の度合が所定の基準以上とは、例えば、ACCやLKASよりも制御度合の高い、ALC(Auto Lane Changing)、LSP(Low Speed Car Passing)等の運転支援装置が作動している場合、或いは、車線変更や合流、分岐までを自動的に行う自動運転が実行されている場合である。自動運転の度合が所定の基準以上の運転モードは、「第2の運転モード」の一例である。
上記「所定の基準」については任意に設定することができる。第1の運転モードは手動運転であり、第2の運転モードは自動運転であるものとする。本実施形態は、第1の運転モードに相当する運転アシスト制御(運転支援システム)に適用されるが、自動運転制御に適用されてもよい。
【0034】
図2を参照し、各種装置類22には、エンジン制御手段45、ブレーキアクチュエータ42およびステアリングアクチュエータ43を含んでいる。
エンジン制御手段45は、燃料噴射装置46、点火装置47およびスロットル装置48等を含んでいる。すなわち、エンジン制御手段45は、エンジン10を駆動させるエンジン補機を含んでいる。
【0035】
ブレーキアクチュエータ42は、ブレーキ操作子への操作に応じて前後ブレーキ2B12Bに油圧を供給してこれらを作動させる。ブレーキアクチュエータ42は、ABS(Anti-lock Brake System)の制御ユニットを兼ねている。
【0036】
ステアリングアクチュエータ43は、バーハンドル4からフォーク部材3bまでの操舵機構に操舵トルクを出力する。ステアリングアクチュエータ43は、操舵トルクセンサ36の検知情報に応じて、自身の駆動源である電気モータを作動させ、操舵機構にアシストトルクを付与する。ステアリングアクチュエータ43は、前記電気モータの作動を電気的に制御するST-ECUを含んでいる。
【0037】
図5を参照し、ステアリングアクチュエータ43は、ハンドル支持部6aの左側方に配置されて車体フレーム5に取り付けられている。ステアリングアクチュエータ43は、前記電気モータの駆動軸43aをハンドル回動軸と平行にして配置されている。駆動軸43aには、揺動アーム43bが一体回動可能に取り付けられている。揺動アーム43bは、ハンドルポスト4aのアクチュエータ連結部4a1と連結ロッド43cを介して連結されている。これにより、前記電気モータの駆動力(トルク)がハンドルポスト4aに伝達可能である。これにより前輪2の操舵がアシストされる。ステアリングアクチュエータ43は、規定の周期で電気モータの正逆回転を繰り返すことで、バーハンドル(操舵ハンドル)4の左右グリップ部に規定周波数の振動を発生可能である。
<操舵アシスト制御>
【0038】
図1を参照し、車体加速度センサ34は、自動二輪車1の車体(例えば車体フレーム5)に支持されている。例えば、車体加速度センサ34は、側面視で後輪12の接地点Gpとヘッドパイプ3aの略中央部とを結ぶ線分Lの近傍に配置されている。車体加速度センサ34は、自動二輪車1のヨー方向の角速度Yとロール方向の角速度Rとを検知する。以下、ヨー方向の角速度YをヨーレートYということがある。なお、実施形態の車体とは、車体フレーム5のみならず、車体フレーム5と一体的にローリング、ピッチングおよびヨーイングといった挙動をなす構成を含む。
【0039】
自動二輪車1の低速時には、バーハンドル4の操作による転舵により車体のヨーが発生してから車体のバンク(ロール)が発生する特性を有する。つまり、自動二輪車1の低速時には、ヨーが先行して発生するので、ライダーの能動的な操作の検知についてはヨー角速度Yを多く検知することが好ましい。一方、自動二輪車1の高速時には、車体のバンク(ロール)が発生してから車体のヨーが発生する特性を有する。つまり、自動二輪車1の高速時には、ロールが先行して発生するので、ロール角速度Rを多く検知することが好ましい。この特性を自動二輪車1の転舵特性と称する。
【0040】
図4を参照し、制御装置23は、車体加速度センサ34が検知したヨー角速度Y及びロール角速度Rを合成し、合成角速度Sを生成する。制御装置23は、検知された車速Vに応じて、車体加速度センサ34が検知したヨー角速度Y及びロール角速度Rの重み付けを以下のように変えて合成する。つまり、上記した自動二輪車1の転舵特性から、車速Vが低いときにはヨー角速度Yの重み付けをロール角速度Rより大きくして合成し、車速Vが高いときにはロール角速度Rの重み付けをヨー角速度Yより大きくして合成する。
【0041】
合成角速度Sの生成は、例えば、次の(1)式に示すように、ヨー角速度Yに第1調整値AD1を乗算した値(Y×AD1)と、ロール角速度Rに第2調整値AD2を乗算した値(R×AD2)と、を加算することで、合成角速度Sを生成してもよい。
S=Y×AD1+R×AD2…(1)
【0042】
この場合、第1調整値AD1は、低速側で大きく高速側で小さくなるように設定され、第2調整値AD2は、低速側で小さく高速側で大きくなるように設定される。
【0043】
図3は、操舵アシスト装置50の構成図である。
操舵アシスト装置50は、操舵トルクセンサ36、車速センサ37、車体角速度センサ34、外部検知手段38、制御装置23およびステアリングアクチュエータ43を備えている。
【0044】
車速センサ37は、例えば自動二輪車1のパワーユニットUの出力軸の回転速度を検知し、この回転速度から後輪12の回転速度ひいては自動二輪車1の車速を検知する。なお、ABSおよびTCS(Traction Control System)の少なくとも一方から車輪速情報を得て車速を検知してもよい。
【0045】
制御装置23は、パワーアシストトルク算出ブロック00、およびふらつき抑制アシストトルク算出ブロック300を備えている。各ブロック00、300は、単独に動作することが可能であり、全体として動作することも可能である。
【0046】
パワーアシストトルク算出ブロック00は、車速Vと操舵トルクTsとに基づき、バーハンドル4に付与するパワーアシストトルクTpを算出する。車速Vは、車速センサ37の検知情報すなわち駆動輪(後輪12)の回転速度から算出される。操舵トルクTsは、運転者によるバーハンドル4への入力トルクに相当し、操舵トルクセンサ36の検知情報から算出される。パワーアシストトルクTpは、運転者のバーハンドル4の操舵を軽減するためのトルクである。
【0047】
ふらつき抑制アシストトルク算出ブロック300は、車速Vとヨー角速度Yおよびロール角速度Rとに基づき、バーハンドル4に付与するふらつき抑制アシストトルクTwを算出する。ヨー角速度Yおよびロール角速度Rは、車体角速度センサ34の検知情報から算出される。ふらつき抑制アシストトルクTwは、自動二輪車1のふらつきを抑制するためのトルクである。例えば、ふらつき抑制アシストトルクTwは、自動二輪車1が左に傾いた場合は、バーハンドル4および前輪2を左に切る方向に作用する。ふらつき抑制アシストトルクTwは、自動二輪車1が右に傾いた場合は、バーハンドル4および前輪2を右に切る方向に作用する。
【0048】
制御装置23は、加算器224及びモータ駆動部226を備えている。
加算器224は、次の(2)式に示すように、パワーアシストトルクTpと、ふらつき抑制アシストトルクTwと、を加算し、アシストトルクTmを生成する。加算器224は、生成したアシストトルクTmをモータ駆動部226に出力する。
Tm=Tp+Tw…(2)
【0049】
モータ駆動部226は、アシストトルクTmをトルク電流に変換し、ステアリングアクチュエータ43の電動モータに供給する。電動モータは、トルク電流が供給されている間に駆動し、トルク電流に応じた駆動力を発生する。電動モータの駆動力は、連結ロッド43c等を介してハンドルポスト4aに伝達され、バーハンドル4および前輪2の回動をアシストする。すなわち、バーハンドル4および前輪2に対し、アシストトルクTmに応じた駆動力(補助力)が付与される。
【0050】
図4を参照し、ふらつき抑制アシストトルク算出ブロック300は、合成角速度生成部302と、乗算器304と、第1車速補正係数生成部306と、第2車速補正係数生成部308と、乗算器310と、加算器312と、除算器314と、乗算器316と、を備えている。
合成角速度生成部302は、車体角速度センサ34が検知したヨー角速度Y及びロール角速度Rを合成して、自動二輪車1の挙動を示す合成角速度(車体挙動レート)Sを生成する。
乗算器304は、合成角速度Sと合成角速度Sとを乗算して合成角速度Sの二乗を生成する。
【0051】
第1車速補正係数生成部306は、車速Vに基づきふらつきを抑制する第1車速補正係数Fを生成する。
第2車速補正係数生成部308は、車速Vに基づきふらつきを抑制する第2車速補正係数Gを生成する。
乗算器310は、第2車速補正係数Gと合成角速度Sの二乗とを乗算する。
加算器312は、乗算器310が出力した値(G×S)と定数αとを加算する。
除算器314は、第1車速補正係数Fを加算器312が出力した値(G×S+α)で除算する。
【0052】
乗算器316は、除算器314が出力した値(F/(G×S+α))に合成角速度Sを乗算する。すなわち、乗算器316は、次の(3)式に示すふらつき抑制アシストトルクTwを出力する。
Tw=F×S/(G×S+α)…(3)
【0053】
自動二輪車1がふらついている場合(運転者の意図しない傾きが発生している場合)、合成角速度Sは相対的に小さい値となる。自動二輪車1が運転者の体重移動や操舵の操作により傾いている場合、合成角速度Sは相対的に大きい値となる。これらの場合に対し、ふらつき抑制アシストトルクTwを(3)式によって算出することで、以下の効果を得る。すなわち、合成角速度Sが大きい時には、ふらつき抑制アシストトルクTwを小さくすることができる。従って、運転者の体重移動や操舵による操作の邪魔をしないよう、ふらつき抑制アシストトルクTwを設定し、ドライバビリティの向上を図ることができる。
【0054】
合成角速度生成部302は、前述したように、低速側ではヨー角速度Yの重み付けを大きくロール角速度Rの重み付けを小さくしてこれらを合成(加算)する。また、合成角速度生成部302は、高速側ではヨー角速度Yの重み付けを小さくロール角速度Rの重み付けを大きくしてこれらを合成(加算)する。自動二輪車1の転舵特性を鑑みると、低速時にはヨー角速度Yを多く検知し、高速時にはロール角速度Rを多く検知することが、自動二輪車1の挙動を高精度に検知する点で好ましい。
【0055】
そして、制御装置23は、自動二輪車1の挙動が大きい場合は、運転者の体重移動や操舵の操作によるものと判断してアシストトルクTwを小さくする。制御装置23は、自動二輪車1の挙動が小さい場合は、運転者の体重移動や操舵の操作ではなく車体のふらつきであると判断してアシストトルクTwを大きくする。
このように、自動二輪車1が低速時及び高速時のどちらにあっても、運転者の操作に対して違和感のないふらつき抑制アシストを行うことができる。
【0056】
ところで、前述した運転アシスト制御を行う場合、自動二輪車1にはライダーが意図しない挙動が生じる。このため、運転アシスト制御を行わない場合の通常のアシストステア制御に比べて、車体の安定化の効果を高めることが望ましい。つまり、運転アシスト制御の発動時には、アシストトルクTmを増加させることが望ましい。本実施形態では、自動二輪車1の運転支援システム(ARAS:Advanced rider assistance system)の規定の機能(警告を含む)が作動した際には、車体挙動安定性重視の制御に移行する。
【0057】
本実施形態において、車体挙動安定性重視の制御を適用する機能は、自動二輪車1の運転支援システムの諸機能の内、例えば以下の三つである。
第一に、追突軽減ブレーキ(CMBS:Collision Mitigation Brake System)であり、第二に、車線逸脱警告(LDW:Lane Departure Warning)であり、第三に、ブラインドスポットインフォメーション(BSI:Blind Spot Information)である。
【0058】
まず、CMBSの例について説明する。
図6図7を参照し、実施形態のCMBSでは、三段階の警告閾値TTCが設定されている。CMBSの警告閾値TTCには、自車M前方の他車T等の障害物に対する相対時間距離(現状速度で規定時間内に進む距離)が用いられる。第一の警告閾値t1は、インジケータランプや液晶パネル等を用いた注意表示(第一の警告)を行う際の閾値である。第一の警告は、障害物からの相対時間距離が閾値t1以下になったときに発動する。
【0059】
第二の警告閾値t2は、第一の警告よりも強い第二の警告(例えば車体の身体接触部分を振動させる等のライダーの触覚に対する警告、および弱い制動を行う等の車体挙動を発生させる警告)を行う際の閾値である。第二の警告は、障害物からの相対時間距離が閾値t1よりも短い閾値t2以下になったときに発動する。
【0060】
第三の警告閾値t3は、第二の警告よりも強い第三の警告(例えばより強い振動等による警告、およびより強い制動等による警告)を行う際の閾値である。第三の警告は、障害物からの相対時間距離が閾値t2よりも短い閾値t3以下になったときに発動する。
【0061】
第一から第三の各警告は、障害物からの相対時間距離が短くなるほど強まるように設定されている。
実施形態では、障害物からの相対時間距離が閾値t3以下となったとき(第三の警告フラグONのとき)、自動二輪車1の姿勢制御の向上を優先した高安定化制御に移行する。高安定化制御では、アシストステア制御ゲインをより高い高安定ゲインに補正する。これにより、アシストトルクTmの減少を抑えて高い値に維持し、自動二輪車1の姿勢制御の向上を図る。
【0062】
次に、LDWの例について説明する。
図6図8を参照し、実施形態のLDWでは、三段階の警告閾値TTLDが設定されている。LDWの警告閾値TTLDには、車両通行帯(走行レーン)の区画線(中央線、境界線および外側線等)L1から自車までの距離が用いられる。第一の警告閾値t1は、インジケータランプや液晶パネル等を用いた注意表示(第一の警告)を行う際の閾値である。第一の警告は、区画線L1からの距離が閾値t1以下になったときに発動する。
【0063】
第二の警告閾値t2は、第一の警告よりも強い第二の警告(例えば車体の身体接触部分を振動させる等のライダーの触覚に対する警告、および弱い制動を行う等の車体挙動を発生させる警告)を行う際の閾値である。第二の警告は、区画線L1からの距離が閾値t1よりも短い閾値t2以下になったときに発動する。なお、閾値t2は距離0の場合を含む。すなわち、車線逸脱直前に第二の警告が発動する設定も有り得る。
【0064】
第三の警告閾値t3は、第二の警告よりも強い第三の警告(例えばより強い振動等による警告、およびより強い制動等による警告)を行う際の閾値である。第三の警告は、区画線L1からの距離が閾値t2よりも短い閾値t3以下になったときに発動する。なお、閾値t3は負の距離の場合を含む。すなわち、車線逸脱量が閾値t3以上になったときに第三の警告が発動する設定も有り得る。
【0065】
第一から第三の各警告は、区画線L1からの距離が短くなるかマイナス側に大きくなるほど強まるように設定されている。
実施形態では、区画線L1からの距離が閾値t3以下となったとき(第三の警告フラグONのとき)、自動二輪車1の姿勢制御の向上を優先した高安定化制御に移行する。高安定化制御では、アシストステア制御ゲインをより高い高安定ゲインに補正する。これにより、アシストトルクTmの減少を抑えて高い値に維持し、自動二輪車1の姿勢制御の向上を図る。
【0066】
次に、BSIの例について説明する。
図6図9を参照し、実施形態のBMIでは、二段階の警告閾値が設定されている。BMIの警告閾値には、予め定めた検知フラグが用いられる。
BMIの警告閾値に用いる検知フラグは、例えば以下の第一フラグ及び第二フラグの二つのフラグである。
第一フラグは、自車Mよりも後方の左右何れかの検出エリアARに他車Tの存在を検知したことを示すフラグである。第二フラグは、第一フラグが立った状態で、他車Tが検知されている側への自車Mの進路変更予測動作(進路変更が予測される動作)を検知したことを示すフラグである。
【0067】
第一フラグは、実施形態ではカメラやレーダ等で実際に他車Tを検知したことを示すが、これに限らない。例えば、第一フラグは、同一車線内で自車Mの後方に位置する他車Tが左右何れかのウインカを出していることで他車Tの存在を予測して検知してもよい。
第二フラグは、実施形態では他車Tの存在が認められる側の自車Mのウインカの作動を示す、これに限らない。例えば、第二フラグは、自車Mのライダーの着座位置、着座姿勢、逆ハンドル等の操作、の少なくとも一つを進路変更予測動作として検知したことを示してもよい。
【0068】
第一フラグが立ったとき(検出エリアに他車Tの存在を検知したとき)、第一の警告が発動する。第一の警告は、例えばインジケータランプや液晶パネル等を用いた注意表示である。
第二フラグが立ったとき(進路変更予測動作を検知したとき)、第一の警告よりも強い第二の警告(例えば車体の身体接触部分を振動させる等のライダーの触覚に対する警告、および規定以上の強い制動を行う等の車体挙動を発生させる警告)を行うとともに、他車Tの存在が認められる側へのロール(ひいては車線変更)を抑制するべく、アシストステア制御ゲインを調整する。
【0069】
具体的に、他車Tの存在が認められる側と反対側への逆ハンドル操作が、他車Tの存在が認められる側へのハンドル操作よりも重くなるように、アシストステア制御ゲインを調整する。例えば、高安定化制御では、他車Tの存在が認められる側と反対側への逆ハンドル操作に対してのみ、アシストステア制御ゲインをより高い高安定ゲインに補正し、他車Tの存在が認められる側へのハンドル操作に対しては、アシストトルクTmを減少させる制御を維持する。
【0070】
実施形態では、前述の第二の警告として、バーハンドル4の左右グリップ部に対し、自動二輪車1の走行中に特有の振動の範囲とは異なる範囲の警告振動を発生させる。この警告振動は、図10に示す警告振動発生装置205により生成される。警告振動発生装置205は、警告選定部210と、モータ駆動部226と、ステアリングアクチュエータ43と、を備えている。警告振動は、ステアリングアクチュエータ43を短周期で微小量ずつ正逆駆動させ、バーハンドル4に左右交互のアシストトルクを短周期で付与することで発生させる。警告振動は、左右グリップ部を把持する運転者の手の触覚に刺激を与えるハプティック振動といえる。
【0071】
自動二輪車1の走行中に特有の振動としては、エンジン等の原動機(電気モータを含む)の振動、路面の凹凸による振動、タイヤのアンバランスによる振動、等がある。鞍乗り型車両の車両重量は乗用車と比べて軽いので、バーハンドル4の左右グリップ部のような末端部分には振動が生じやすい。一方、偏心ウェイトを用いた一般的なバイブレータにより警告振動を発生させると、警告振動と前記特有の振動とが互いに近い周波数および強さ、振動方向になる。このため、警告振動が前記特有の振動に紛れやすくなり、運転者が警告振動に気付き難い。
【0072】
実施形態では、警告振動を、前記特有の振動に紛れない領域で、かつ運転者が生体共振周波数上で感知しやすい領域(例えば30~50Hz)で発生させるので、運転者が警告振動に気付きやすくなる。振動発生機にステアリングアクチュエータ43を利用するので、別途バイブレータ等を設ける場合に比べて部品点数の増加が抑えられ、スペース、コストおよび重量の面で有利になる。
【0073】
次に、第二の警告を行う際の制御装置23の処理を図11のフローチャートを参照して説明する。
まず、制御装置23の警告選定部210は、運転支援制御の閾値情報を取得する(ステップS1)。次いで、警告選定部210は、第二の警告の発動指令がなされたか否か(警告3状態フラグが立ったか否か)を判定する(ステップS2)。第二の警告の発動指令がなされた場合(ステップS2でYES)、モータ駆動部226がステアリングアクチュエータ43を駆動制御し、左右グリップ部にハプティック振動を発生させる(ステップS3)。第二の警告の発動指令がなされていない場合(ステップS2でNO)、一旦処理を終了する。
【0074】
このように、自動二輪車1の運転アシスト制御を行う場合には、左右グリップ部の振動により運転者に確実に警告することが可能となる。これにより、運転アシスト制御を行うことで運転者が意図しない挙動が生じる場合にも、運転者が挙動の発生を認識して余裕をもって対処することができる。このため、運転者の疲労を軽減させ、運転支援システムの効果を高めることができる。
なお、バ-ハンドルは、左右グリップ部を含む一体のハンドルパイプで構成されるもの、および左右グリップ部を別体とした一対のハンドル部材で構成されるもの、の両方を含むものとする。
【0075】
以上説明したように、上記実施形態における操舵アシスト装置50は、車体(例えば車体フレーム5)をロール方向に揺動させて操舵輪(例えば前輪2)に舵角を発生させる鞍乗り型車両(例えば自動二輪車1)の操舵アシスト装置50である。操舵アシスト装置50は、前輪2を支持する前輪懸架装置3に操舵方向のアシストトルクTmを付与するステアリングアクチュエータ43と、ステアリングアクチュエータ43を駆動制御する制御装置23と、車両周囲の状況を検知する外部検知手段38と、を備えている。
制御装置23は、運転支援制御を行う際、車体挙動安定性重視の制御に移行する。制御装置23は、ARAS(CMBS、LDW、BSI等)の警告、作動判断閾値情報、または作動中である旨の情報を基に、制御ゲインを変化させる。これにより、ARAS作動時の各状況に応じて、より適切な度合いのアシストステア制御を実施することが可能となり、車両の姿勢制御の向上を図ることができる。
【0076】
そして、上記実施形態における自動二輪車1は、運転者に警告を与えるべく予め定めた振動を発生させる警告振動発生装置205を備える鞍乗り型車両であり、制御装置23は、車両の加速、減速および操舵の少なくとも一つを運転者の操作によらず作動させる運転支援制御を行うとともに、警告振動発生装置205は、制御装置23内に、運転支援制御の強さに応じて予め定めた警告を選定する警告選定部210を備え、警告選定部210が選定した警告に応じてステアリングアクチュエータ43を作動させて、警告としての振動(ハプティック振動)を操舵ハンドル4に発生させる。
この構成によれば、運転支援制御の強さに応じて運転者に警告を行う際に、この振動の発生機としてステアリングアクチュエータ43を兼用することで、専用のバイブレータを用いる場合に比べて、部品点数の増加を抑えることができる。ステアリングアクチュエータ43の作動による振動は、ハンドル回動軸中心の回動として発生するので、一般的なバイブレータによる振動とは異なる振動を得やすい。このため、単に操舵ハンドル4にバイブレータを設置する場合と比べて、当該自動二輪車1に特有のエンジン振動等に警告振動が紛れ難く、運転者が感知しやすい警告振動を容易に発生させることができる。
【0077】
また、上記自動二輪車1において、警告振動発生装置205は、警告振動を、当該自動二輪車1に特有の予め定めた領域とは異なる領域(例えば30~50Hz)で発生させる。
この構成によれば、ステアリングアクチュエータ43により当該自動二輪車1に特有の振動に紛れない領域で警告振動を発生させるので、運転者に対する警告の確実性を高めることができる。
前記「予め定めた領域」とは、当該自動二輪車1の原動機の振動、ハンドル共振、タイヤアンバランス振動、などの振動領域である。自動二輪車1の走行振動として、例えばホイール振動(車速100km/m以下)によるハンドル振動は、φ600mmのホイールの起振で15Hz以下である。またエンジン振動として、例えば走行時(エンジン回転数3000rpm以上)によるハンドル振動は50Hz以上である。
前記「予め定めた領域とは異なる領域」とは、運転者が生体共振周波数上で感知しやすい振動領域である。この振動領域は、例えば人の身体(特に手首の先)の共振周波数である30~50Hzである。トルク範囲は、自動二輪車1の操縦性に影響を与えないよう5Nm以下に設定される。
【0078】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、リンク式の前輪懸架装置3を備える車両を例示したがこれに限らない。例えば、前輪懸架装置に周知のテレスコピック式フロントフォークを備える車両であってもよい。
自動二輪車は、運転者が車体を跨いで乗車する車両に限らず、ステップフロアを有するスクータ型車両や原動機付自転車を含む。また、自動二輪車に限らず、前輪および前輪懸架装置を、車体フレーム5とともに傾斜させて旋回する、鞍乗り型車両への適用も可能である。
【0079】
鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車し、かつ車体をロールさせてバランスをとる車両全般が含まれる。また、自動二輪車のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれる。また、ステップフロアを有するスクータ型車両や原動機付自転車も含まれる。また、原動機に電気モータを含む車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、実施形態の構成要素を周知の構成要素に置き換える等、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
2 前輪(操舵輪)
3 前輪懸架装置(懸架装置)
4 バーハンドル(操舵ハンドル)
23 制御装置(制御手段)
43 ステアリングアクチュエータ
50 操舵アシスト装置
205 警告振動発生装置
210 警告選定部
Tm アシストトルク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11