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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】試料カートリッジ保持装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20240109BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20240109BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/28 B
H01J37/317 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022010038
(22)【出願日】2022-01-26
(65)【公開番号】P2023108798
(43)【公開日】2023-08-07
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】作田 訓将
(72)【発明者】
【氏名】福田 知久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 修
(72)【発明者】
【氏名】柴田 昌照
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-206333(JP,A)
【文献】特開2007-115666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
H01J 37/28
H01J 37/317
G01N 1/28
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料台及び傾斜機構を有する試料カートリッジが挿入される収容部を備える本体と、
前記本体に固定された部分であって、前記収容部への前記試料カートリッジの挿入過程において前記傾斜機構が有するレバーに当たって前記レバーの運動を生じさせる当接部分と、
を含み、
前記傾斜機構は、前記レバーの運動を前記試料台の傾斜運動に転換し、
前記収容部への前記試料カートリッジの挿入が完了した取付状態において、前記試料カートリッジにおける前記試料台の傾斜角度が所定角度になる、
ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【請求項2】
請求項1記載の試料カートリッジ保持装置において、
前記所定角度は、0度以外の角度であって最大傾斜角度以下の角度である、
ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【請求項3】
請求項1記載の試料カートリッジ保持装置において、
前記本体を基準として、前記本体の中心軸に平行なz軸と、前記z軸に直交するx軸と、前記z軸及び前記x軸に直交するy軸と、が定義され、
前記収容部は前記本体において傾斜しており、
前記収容部の傾斜角度は、前記z軸及び前記x軸により定義される平面内に属し、且つ、前記y軸周りの一方方向の回転角度に相当し、
前記取付状態において前記試料カートリッジにおける前記試料台の傾斜角度は、前記平面内に属し、且つ、前記y軸周りの他方方向の回転角度に相当し、
前記本体における前記収容部の傾斜角度と前記試料カートリッジにおける前記試料台の傾斜角度とが全体的又は部分的に打ち消し合う関係にある、
ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【請求項4】
請求項1記載の試料カートリッジ保持装置において、
前記本体には、前記試料カートリッジの挿入方向に直交する正面開口及び前記挿入方向に平行な側面開口を有する切欠きが形成されており、
前記側面開口がカバー部材で覆われ、これにより前記収容部が構成され、
前記カバー部材の一部分が前記当接部分である、
ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【請求項5】
請求項4記載の試料カートリッジ保持装置において、
前記本体において前記収容部が傾斜しており、
前記本体は、前記カバー部材が取り付けられる傾斜面を有し、
前記傾斜面の傾斜角度は、前記収容部の傾斜角度と同じである、
ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【請求項6】
請求項4記載の試料カートリッジ保持装置において、
前記カバー部材は、前記試料カートリッジにおける被収容部分を部分的に露出させる開口を有する、
ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【請求項7】
請求項6記載の試料カートリッジ保持装置において、
前記傾斜機構は、前記試料台に対して一方方向の回転力を与える弾性部材を有し、
前記当接部分が前記レバーに当たって前記試料台が他方方向に回転し、
前記試料カートリッジは、前記試料台の一方方向の回転運動を制限する制限機構を含み、
前記被収容部分は、前記制限機構の動作を操作するための操作部分を含み、
前記開口を通じて前記操作部分が露出している、
ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【請求項8】
請求項1記載の試料カートリッジ保持装置において、
前記収容部へ挿入された前記試料カートリッジを捕獲する捕獲機構を含む、
ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【請求項9】
請求項8記載の試料カートリッジ保持装置において、
前記捕獲機構は、
前記試料カートリッジに形成された窪みに入るボールと、
前記ボールに対して前記試料カートリッジ側へ弾性力を与えるバネと、
を含む、ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【請求項10】
請求項1記載の試料カートリッジ保持装置において、
当該試料カートリッジ保持装置は、試料の加工及び観察を行う装置が有する可動ステージに搭載されるものである、
ことを特徴とする試料カートリッジ保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料カートリッジ保持装置に関し、特に、試料加工装置に設けられる試料カートリッジ保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料加工装置は、一般に、集束イオンビーム(FIB)を利用して試料を加工する装置である。試料加工装置はFIB加工装置とも称される。走査電子顕微鏡を備えた試料加工装置は、試料加工観察装置又はFIB/SEM装置とも称される。通常、加工後の試料が透過電子顕微鏡(又は走査透過電子顕微鏡)により詳細観察される。特許文献1及び特許文献2には、試料加工装置が開示されている。それらの特許文献には、傾斜機構を有する試料カートリッジは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開99/05506号公報
【文献】特開2002-150990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工後の試料を適切な方向から詳細観察するために、試料台を傾斜させる傾斜機構を有する試料カートリッジを実現することが求められている。傾斜機構を有する試料カートリッジの使用を想定した場合、試料加工装置における保持装置を当該試料カートリッジに適合させることが求められる。
【0005】
本発明の目的は、傾斜機構を備える試料カートリッジを保持する試料カートリッジ保持装置を提供することにある。あるいは、本発明の目的は、傾斜機構を備える試料カートリッジを保持する際に、試料カートリッジにおける試料台の傾斜角度が自然に適正化されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る試料カートリッジ保持装置は、試料台及び傾斜機構を有する試料カートリッジが挿入される収容部を備える本体と、前記本体に固定された部分であって、前記収容部への前記試料カートリッジの挿入過程において前記傾斜機構が有するレバーに当たって前記レバーの運動を生じさせる当接部分と、を含み、前記傾斜機構は、前記レバーの運動を前記試料台の傾斜運動に転換し、前記収容部への前記試料カートリッジの挿入が完了した取付状態において、前記試料カートリッジにおける前記試料台の傾斜角度が所定角度になる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、傾斜機構を備える試料カートリッジを保持する試料カートリッジ保持装置を提供できる。あるいは、本発明によれば、傾斜機構を備える試料カートリッジを保持する際に、試料カートリッジにおける試料台の傾斜角度が自然に適正化される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る試料加工装置を示す模式図である。
図2】試料カートリッジを示す斜視図である。
図3】支持板の一例を示す模式図である。
図4】透過電子顕微鏡に装着される試料カートリッジ保持器を示す斜視図である。
図5】試料台の水平状態を示す断面図である。
図6】試料台の傾斜状態を示す断面図である。
図7】制限状態を示す平面図である。
図8】解除状態を示す平面図である。
図9】実施形態に係る試料カートリッジ保持装置を示す斜視図である。
図10】カバー部材が取り外された試料カートリッジ保持装置を示す拡大斜視図である。
図11】挿入過程における初期状態を示す断面図である。
図12】挿入過程における傾斜運動開始状態を示す断面図である。
図13】挿入過程における傾斜運動完了状態(取付状態)を示す断面図である。
図14】捕獲機構の構成及び作用を示す断面図である。
図15】可動ステージの動作例を示す図である。
図16】実施形態に係る加工観察方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る試料カートリッジ保持装置は、本体、及び、当接部分を有する。本体は、試料カートリッジが挿入される収容部を備える。試料カートリッジは、試料台及び傾斜機構を有する。当接部分は、本体に固定された部分であって、収容部への試料カートリッジの挿入過程において傾斜機構が有するレバーに当たってレバーの運動を生じさせる。傾斜機構は、レバーの運動を試料台の傾斜運動に転換する。収容部への試料カートリッジの挿入が完了した取付状態において、試料カートリッジにおける試料台の傾斜角度が所定角度になる。
【0011】
上記構成によれば、収容部へ試料カートリッジを挿入すると、当接部分がレバーに当たって傾斜機構が動作する。挿入量の増大に伴って試料台の傾斜角度が増大する。挿入完了状態つまり取付状態において、試料カートリッジにおける試料台の傾斜角度が所定角度(試料を加工又は観察するための規定角度)になる。すなわち、試料台の傾斜角度が適正化される。
【0012】
一般に、試料の加工後に、試料カートリッジが透過電子顕微鏡にセットされ、加工後の試料が詳細観察される。その際、傾斜機構を利用して試料台の傾斜角度(つまり試料を観察する角度)を所望のものに変更し得る。実施形態においては、試料カートリッジにおいて試料台がフレームによって囲まれている。一般に、透過電子顕微鏡において試料を詳細観察する際、フレームは邪魔にならない。一方、試料加工装置において試料を加工又は観察する際、試料台が傾斜していないと、フレームが邪魔になってしまう。すなわち、フレームを避けて、加工用ビーム又は観察用ビームを試料に照射することが困難となる。フレームにおいて邪魔になる部分を除去することも考えられるが、その場合、試料カートリッジの強度又は剛性が低下してしまう。上記構成によれば、試料台がフレームによって囲まれていても、試料カートリッジの取付状態で、試料台の適正な傾斜姿勢が自然に形成される。よって、試料の加工又は観察を行う場合において、フレームが邪魔にならなくなる。換言すれば、フレームが邪魔にならないように、所定角度が定められる。所定角度が実現されるように、収容部に対する当接部分の相対的な位置が定められる。
【0013】
実施形態において、所定角度は、0度以外の角度であって最大傾斜角度以下の角度である。収容部に対する当接部分の相対的な位置を調整することにより、所定角度として所望の角度を定め得る。所定角度として、数度又は数十度が設定されてもよい。最大傾斜角度は、通常、機構上の限界角度又は設計上の限界角度である。
【0014】
実施形態において、試料台は支持部材を保持する。支持部材は、例えば、複数の突起を有する。各突起は前端面及び側端面を有する。前端面及び側端面に対して、試料が取り付けられる。実施形態において、前端面に直交するベクトルが試料台の向きベクトルとして定義される。試料台の非傾斜状態において、向きベクトルが試料カートリッジの中心軸に一致し又はその中心軸と平行になる。試料台の傾斜状態において、向きベクトルが試料カートリッジの中心軸に対して傾斜する。試料カートリッジの挿入方向は、試料カートリッジの中心軸に一致し、且つ、収容部の中心軸に一致する。本願明細書に記載する各中心軸及び各回転軸は仮想的な軸である。
【0015】
バルク試料の一次加工により生成された試料に対して更に二次加工が施されてもよい。その場合、一次加工後の試料が試料カートリッジ上の支持部材に取り付けられてもよい。試料の一次加工、一次加工後の試料の移載、及び、試料の二次加工の全工程が同じ試料加工装置において実施されてもよい。
【0016】
実施形態においては、本体を基準として、本体の中心軸に平行なz軸と、z軸に直交するx軸と、z軸及びx軸に直交するy軸と、が定義される。収容部は本体において傾斜している。収容部の傾斜角度は、z軸及びx軸により定義される平面内に属し、且つ、y軸周りの一方方向の回転角度に相当する。取付状態において試料カートリッジにおける試料台の傾斜角度(所定角度)は、上記の平面内に属し、且つ、y軸周りの他方方向の回転角度に相当する。本体における収容部の傾斜角度と試料カートリッジにおける試料台の傾斜角度とが全体的又は部分的に打ち消し合う関係にある。
【0017】
上記構成によれば、取付状態において、試料台の向きベクトルがz軸に対してなす角度を小さくでき又はゼロにできる。例えば、z軸に対する収容部の傾斜角度は負の回転角度であり、取付状態での試料カートリッジにおける試料台の傾斜角度(所定角度)は正の回転角度である。実施形態において、所定角度の絶対値は、収容部の傾斜角度の絶対値以下である。なお、実施形態において、試料台の回転軸はy軸に平行であり、試料台の向きベクトルはy軸に対して直交している。
【0018】
実施形態において、本体には、切欠きが形成されている。切欠きは、試料カートリッジの挿入方向に直交する正面開口及び挿入方向に平行な側面開口を有する。側面開口がカバー部材で覆われ、これにより収容部が構成されている。カバー部材の一部分が当接部分である。実施形態において、本体において収容部が傾斜している。本体は、カバー部材が取り付けられる傾斜面を有する。傾斜面の傾斜角度は、収容部の傾斜角度と同じである。この構成によれば、製作容易、構造簡易化、及び、部品点数削減といった利点を得られる。
【0019】
実施形態において、カバー部材は、試料カートリッジにおける被収容部分を部分的に露出させる開口を有する。実施形態において、傾斜機構は、試料台に対して一方方向の回転力を与える弾性部材を有する。当接部分がレバーに当たって試料台が他方方向に回転する。試料カートリッジは、試料台の一方方向の回転運動を制限する制限機構を含む。被収容部分は、制限機構の動作を操作するための操作部分を含む。開口を通じて操作部分が露出している。
【0020】
上記構成においては、弾性部材の作用により、試料台に対して一方方向への回転力が常に及んでいる。レバーに対して押圧力が及んでいない状態では、試料台が一方方向へ自由に回転運動してしまう。それを防止するのが制限機構である。例えば、制限機構により試料台の非傾斜状態が維持される。制限機構の具体例は後述する回転止め機構である。開口を通じて、制限機構の動作状態を確認し得る。これにより、試料カートリッジを収容部から取り外した時点で、試料台が一方方向へ突然に回転してしまう事態の発生を回避できる。開口を通じて器具を挿入することにより、制限機構の動作状態を切り替える操作が行われてもよい。
【0021】
実施形態に係る試料カートリッジ保持装置は、収容部へ挿入された試料カートリッジを捕獲する捕獲機構を含む。捕獲機構は、試料カートリッジに形成された窪みに入るボールと、ボールに対して試料カートリッジ側へ弾性力を与えるバネと、を含む。この構成により、試料カートリッジの安定的な取付状態を形成でき、また、試料カートリッジの挿入及び引き抜きを容易に行える。
【0022】
実施形態に係る試料カートリッジ保持装置は、試料の加工及び観察を行う装置が有する可動ステージに搭載されるものである。可動ステージは、試料カートリッジ保持装置の位置及び姿勢の変更を通じて、試料の位置及び姿勢を変更するものである。
【0023】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る試料加工装置が示されている。試料加工装置は、バルク試料(元試料)に対する一次加工、及び、一次加工後の試料に対する二次加工を行う装置である。試料加工装置は、試料の観察を行う機能も備えている。具体的には、試料加工装置は、集束イオンビーム(FIB)を用いて試料を加工する装置であり、走査電子顕微鏡(SEM)を備えている。
【0024】
図1には、試料加工装置における試料室10が示されている。試料加工装置は、SEM鏡筒及びFIB鏡筒を有する。SEM鏡筒は対物レンズ14を有する。FIB鏡筒は対物レンズ16を有する。光軸18は観察用の光軸であり、光軸18に沿って電子ビームが照射される。光軸20は、加工用の光軸であり、光軸20に沿って集束イオンビームが照射される。交点(原点)Oは、光軸18及び光軸20が交わる点である。
【0025】
試料室10内には可動ステージ12が設けられている。可動ステージ12に対して、実施形態に係る試料カートリッジ保持装置32が搭載されている。試料カートリッジ保持装置32は、試料カートリッジ50を保持する台座である。試料カートリッジ保持装置32は、本体36及びカバー部材38により構成される。試料カートリッジ保持装置32については後に詳述する。
【0026】
可動ステージ12は、試料カートリッジ保持装置32の位置及び姿勢を変更することにより、試料カートリッジ50に保持された試料の位置及び姿勢を変更するものである。可動ステージ12は、チルト機構、Zスライド機構、Xスライド機構、Yスライド機構、回転機構、等を有する。図1において、符号22はチルト運動を示しており、符号24はZスライド運動を示しており、符号26はXスライド運動又はYスライド運動を示している。符号28は、回転運動を示している。チルト運動22は、交点Oを横切るチルト軸を中心とした回転運動である。
【0027】
以下においては、最初に、試料カートリッジ及び試料カートリッジ保持器を説明する。
【0028】
図2には、試料カートリッジ50が示されている。試料カートリッジ50は、フレーム51、試料台52、傾斜機構54、回転止め機構56、等を有する。図2においては、直交関係にあるi方向、j方向及びk方向が示されている。試料カートリッジ50は中心軸200を有する。中心軸200はi方向に平行である。
【0029】
フレーム51は、i方向及びj方向に広がる形態を有し、具体的には、試料台52を取り囲む形態を有している。フレーム51は、フレーム本体58及び補強板60により大別される。但し、フレーム本体58及び補強板60は一体化されており、フレーム51は単一の部材からなる。フレーム本体58は、前部58A、中間部58B及び後部58Cからなる。前部58Aはj方向に肥大しており、幅広の形態を有する。中間部58Bは、j方向に絞られた形態を有する。後部58Cは、i方向、j方向及びk方向の3つの方向に対して傾斜した斜面66を有する。
【0030】
別の見方をすると、フレーム51は、2つの側壁62,64及び補強板60を有する。2つの側壁62,64により挟まれる空間内に、試料台52及び傾斜機構54が配置されている。後部58Cには、切欠き67が形成されており、切欠き67内に回転止め機構56の一部が露出している。補強板60は、i方向及びj方向に広がった平板状の形態を有する。
【0031】
傾斜機構54は、透過電子顕微鏡(又は走査透過電子顕微鏡)を用いて試料の詳細観察を行う場合において、試料を観察する角度を変更するために設けられている。試料加工装置において、試料台52が非傾斜状態にあると、試料の加工又は観察に際して補強板60が邪魔になる。そこで、試料カートリッジ50を試料カートリッジ保持装置へ取り付ける際に、試料台52の傾斜状態が形成される。これについては後に詳述する。
【0032】
試料台52は、その水平姿勢(傾斜角度がゼロの状態)において、i方向及びj方向に広がった平板状の形態を有する。試料台52は、支持板70を着脱可能に保持するものである。後述するように、支持板70は、複数の突起を有する。各突起は、試料を取り付けることが可能な前端面及び2つの側端面を有する。試料台52の向きベクトル202は、前端面に直交するベクトルであり、つまり前端面の法線に相当する。試料台52に対して支持板70を固定するために、バネ72A,72B及びスペーサ74が設けられている。
【0033】
試料台52は、j方向に平行な回転軸76を中心として回転運動する。図2においては、正方向の回転(+θ)及び負方向の回転(-θ)が示されている。回転方向を示す正負の符号は便宜上のものである。例えば、正方向の最大回転角度(正の最大傾斜角度)は+30度であり、負方向の最大回転角度(負の最大傾斜角度)は-30度である。
【0034】
試料台52が非傾斜状態にある場合、試料台52の向きベクトル202は、試料カートリッジ50の中心軸200に一致し又は中心軸200と平行である。つまり、向きベクトル202と中心軸200との間の角度がゼロとなる。一方、試料台52が傾斜状態にある場合、向きベクトル202Aは中心軸200から離れて、中心軸200に対して交差する。つまり、向きベクトル202Aと中心軸200との間の角度がゼロ以外の値(正の値又は負の値)をとる。
【0035】
傾斜機構54について具体的に説明する。傾斜機構54は、試料台52を傾斜(回転運動)させる機構である。傾斜機構54は、レバー78、アーム80、及び、トーションばね(ねじりコイルばね)82を有する。レバー78はカムとして機能する部材であり、それは当接壁78A及びアーム78Bを有する。アーム78Bにはピンが設けられている。一方、試料台52にはアーム80が一体的に取り付けられている。そのアーム80には長穴が形成されている。長穴はアーム80の伸長方向に沿って伸長している。アーム78Bに形成されたピンがアーム80に形成された長穴にスライド可能に挿入されている。レバー78は回転軸84を中心として回転運動する。トーションばね82は、試料台52を負方向に回転運動させる弾性力を生成するものである。
【0036】
当接壁78Aの背面が当接面86である。当接面86に対して、-i方向へトーションばね82の弾性力を上回る押圧力が及ぶと、当接壁78Aが前側つまり試料台52側へ倒れる。つまり、レバー78が回転軸84を中心として負方向へ回転する。これにより、アーム78Bが図2において下方へ運動し、これに連動して、アーム80も下方へ運動する。その結果、試料台52が回転軸76を中心として正方向に回転する。一方、当接面86に与えている-i方向への押圧力を弱めると、当接壁78Aが後側へ倒れる。つまり、レバー78が回転軸84を中心として正方向へ回転する。これにより、アーム78Bが図2において上方へ運動し、これに連動して、アーム80も上方へ運動する。その結果、試料台52が回転軸76を中心として負方向に回転する。
【0037】
後述するように、透過電子顕微鏡用の試料カートリッジ保持器に対して試料カートリッジが取り付けられた場合、試料カートリッジ保持器におけるロッドが当接面86に当たり、ロッドのストローク量の調整により、試料台52の傾斜角度が変更される。一方、実施形態に係る試料カートリッジ保持装置に対して試料カートリッジが取り付けられた場合、試料カートリッジ保持装置における当接部分が当接面86に当たり、-i方向に当接壁78Aを所定量押し込む。これにより、試料台52の傾斜角度として所定角度が設定される。所定角度は、0度以外の角度であって最大傾斜角度以下の角度である。試料加工装置において、試料に対する加工及び観察を適正に行えるように、所定角度が定められる。
【0038】
当接面86に対するロッド又は当接部分の当たりが消失した時点で、トーションばね82の作用により、試料台52が-θ方向へ自由に回転運動してしまう。場合によっては、試料の脱落や破損等の問題が生じる。その問題が生じることを防止するために、制限機構としての回転止め機構56が設けられている。
【0039】
回転止め機構56は、回転板88を有する。回転板88は、k軸に平行な回転軸90を中心として回転する部材である。回転板88は、i方向及びj方向に広がる平板状の形態を有している。回転板88が一方方向へ回転して、回転板88の作用端部がレバー78の後側から突き出た凸部(又は顎部)の下側に差し込まれた場合、回転軸84を中心とするレバー78の正方向の回転運動(後部58C側への回転運動)が制限される。制限状態では、試料台52の回転角度が0度に維持される。但し、回転軸84を中心とした、レバー78の負方向の回転運動は許容される。よって、試料カートリッジを試料カートリッジ保持装置へ取り付ける際に、回転止め機構56が作動状態にあっても、試料台52の傾斜角度を所定角度にすることが可能である。一方、回転板88が他方方向へ回転して、回転板88の作用端部がレバー78の凸部の下側から離脱した場合、レバー78の正方向の回転運動の制限が解除され、つまりレバー78の正方向の回転運動が許容される。
【0040】
側壁64には、くぼみ64Aが形成されている。くぼみ64Aは、捕獲機構の1要素をなすものである。捕獲機構については後述する。
【0041】
図3には、支持板70の一例が示されている。支持板70は、p方向及びq方向に広がる半円状の部材である。支持板70は、本体94と突起列96により構成される。突起列96は、p方向に並ぶ複数の突起98により構成される。各突起98は、本体94からq方向に突き出ている。各突起98は、前端面98a及び2つの側端面98bを有する。選択された前端面98a又は側端面98bに対して、1又は複数の試料100が取り付けられる(図3においては試料100が誇張表現されている。)。各前端面98aは、q方向に直交している。各側端面98bはp方向に直交している。q方向は、試料台の向きベクトルに相当し又はそれと平行である。
【0042】
図4には、試料カートリッジ保持器102の先端部が示されている。試料カートリッジ保持器102は、透過電子顕微鏡の中に試料カートリッジ50を設置する際に使用される器具であり、透過電子顕微鏡に取り付けられるものである。透過電子顕微鏡として、走査透過電子顕微鏡が用いられてもよい。試料カートリッジ保持器102は、取付構造104を有する。取付構造104に対して試料カートリッジ50が取り付けられる。
【0043】
取付構造104は、取付面、側壁104A、傾斜壁104B、等を有する。取付面に対して試料カートリッジ50の下面が接合される。傾斜壁104Bは、試料カートリッジ50が有する斜面に接合する逆斜面を有している。取付構造104への試料カートリッジ50の挿入過程で、斜面と逆斜面が接合し、逆斜面により斜面が案内され、取付構造104における所定位置に試料カートリッジ50が定位する。その状態で、試料カートリッジ保持器102が有する捕獲機構により、試料カートリッジ50が捕獲される。通常、試料カートリッジ50の取付時に、回転止め機構56の作動状態が解除される。
【0044】
試料カートリッジ保持器102は、スライド運動するロッド106を有する。ロッド106の先端部がレバー78の当接壁78Aに当たっており、レバー78の正方向への回転を制限している。ロッド106を前進させると、レバー78が負方向へ回転運動し、傾斜機構54の転換作用により、試料台が回転軸76を中心として正方向へ回転する。一方、ロッド106を後退させると、トーションばね82の弾性力により、レバー78が正方向へ回転運動し、傾斜機構54の転換作用により、試料台52が回転軸76を中心として負方向へ回転する。符号110は、ロッド106のスライド運動を示している。符号112は、レバー78の回転運動を示している。符号114は試料台52の回転運動を示している。
【0045】
試料カートリッジ保持器102が有する回転軸77を中心として、試料カートリッジ保持器102を回転運動させ得る。正方向の回転運動が+φで示されており、負方向の回転運動が-φで示されている。回転軸77は、試料カートリッジ保持器102の中心軸200に一致している。
【0046】
図5には、試料台52の水平状態が示されており、図6には、試料台52の傾斜状態が示されている。図5において、回転止め機構による回転制限は解除されている。つまり、回転板88の作用端部88aがレバー78に設けられた凸部144の下側から離脱している。その状態では、試料台52の正方向及び負方向の回転運動が許容される。
【0047】
トーションばね82は、基端部82A、コイル部82B、中間部82C、及び、先端部82Dを有する。先端部82Dがアーム80に設けられたピン122に弾性力を及ぼしている。矢印108は弾性力が及ぶ方向を示している。アーム78Bにはピン118が設けられ、一方、アーム80には長穴120が設けられている。ピン118が長穴120へ挿入されている。レバー78の回転軸に沿って軸部材124が設けられており、試料台52の回転軸に沿って軸部材126が設けられている。
【0048】
例えば、矢印130が示すように、当接壁78Aに対して図中左側へ押圧力が及ぶと、矢印132が示すように、レバー78が回転し、アーム78Bが下方へ傾斜運動する。その際、矢印134が示すように、アーム78Bに設けられたピン118がアーム80を下方へ押し、アーム80が下方へ傾斜運動する。
【0049】
その結果、例えば、図6に示す状態が生じる。試料台52が正方向へ回転運動しており、試料台52の傾斜状態が形成されている。+θaは、試料台52の正方向の最大回転角度(正の最大傾斜角度)を示している。-θbは、試料台52の負方向の最大回転角度(負の最大傾斜角度)を示している。+θaは例えば+30度であり、-θbは例えば-30度である。
【0050】
図7及び図8を用いて回転止め機構の作動状態及び解除状態について説明する。図7において、試料カートリッジ50は、試料カートリッジ保持器102に取り付けられている。試料カートリッジ50が有する斜面66と、試料カートリッジ保持器102が有する逆斜面145とが接合している。試料カートリッジ保持器102は、スライド運動する操作部材146を有する。操作部材146は、シャフト150及びヘッド148を有する。回転板88は、作用端部88a、第1エッジ88b、及び、第2エッジ88cを有する。
【0051】
操作部材146を前進運動させると、ヘッド148が第1エッジ88bを押し込み、これにより、回転板88が正方向(図7において時計回り方向)へ回転する。それに伴って、作用端部88aが凸部144の下側に入り込む。
【0052】
作用端部88aが凸部144の下方への運動を規制し、これにより、レバー78の正方向への回転運動が制限される。レバー78の負方向への回転運動は許容されるが、レバー78に対してはトーションばねの弾性力(正方向への回転力)が常時及んでいるので、レバーの負方向への回転運動は自然には生じない。よって、試料台の水平姿勢が維持されることになる。
【0053】
図8に示すように、操作部材146を後退運動させると、ヘッド148が第2エッジ88cを押し込み、これにより回転板88が負方向(図7において反時計回り方向)へ回転する。それに伴って、作用端部88aが凸部144の下側から離脱する。その状態では、試料台の正方向及び負方向への回転運動が許容される。
【0054】
次に、図9図15を用いて、実施形態に係る試料カートリッジ保持装置について詳しく説明する。既に説明したように試料カートリッジ保持装置は、試料加工装置の可動ステージに搭載されるものである。
【0055】
図9において、試料カートリッジ保持装置32は、本体36及びカバー部材38により構成される。図9には、本体36を基準として定義される直交座標系が示されており、具体的には、x軸、y軸及びz軸が示されている。z軸は、本体36の中心軸に対して平行である。
【0056】
本体36は、例えば、アルミニウム等の金属により構成され、それは上部42及び下部44からなる。下部44はベースとして機能し、それは円柱状の形態を有している。上部42には、試料カートリッジ50を収容する収容部160が形成されている。収容部160は、z軸に対して傾斜しており、具体的には、収容部160の中心軸がz軸に対して傾斜しており、その傾斜角度はθ1である。θ1は例えば-30度である。収容部160へ試料カートリッジ50を挿入する際、試料カートリッジ50の中心軸200が収容部160の中心軸に一致し、且つ、試料カートリッジ50の挿入方向が試料カートリッジ50の中心軸200に一致する。
【0057】
上部42は、取付面42Aを有し、その取付面42Aもz軸に対して傾斜している。その傾斜角度もθ1である。取付面42Aには、カバー部材38が取り付けられている。カバー部材38は、例えば銅などの金属により構成される。上部42に対しては、入口開口及び側面開口を有する切欠きが形成されており、側面開口がカバー部材38で覆われている。これによりスリット状又は井戸状の収容部160が構成されている。入口開口を通じて試料カートリッジ50が収容部160へ挿入される。なお、カバー部材38は、2つのねじ162,164により上部42に固定されている。
【0058】
カバー部材38は、切欠きを有し、切欠きの底部が当接部分38Aとして機能する。すなわち、試料カートリッジ50を収容部160に挿入する過程で、傾斜機構54が有するレバーに対して当接部分38Aが当たり、レバーの回転運動が生じる。この回転運動により試料台52が正方向に所定角度、回転運動する。その結果、試料台52の傾斜状態が生じる。
【0059】
上記の所定角度は、試料カートリッジ50の取付状態において、試料カートリッジ50の中心軸200に対して、試料台52の向きベクトル202Aがなす角度である。図示の構成例では、向きベクトル202Aがz軸と平行になるように、所定角度が定められている(図9においてθ2を参照)。θ1はy軸周りの負の回転角度に相当し、所定角度はy軸周りの正の回転角度に相当する。θ1をy軸周りの正の回転角度に相当すると理解し、所定角度をy軸周りの負の回転角度に相当すると理解してもよい。いずれにしても、試料カートリッジ50の取付状態において、本体36における収容部160の傾斜角度θ1と試料カートリッジ50における試料台52の傾斜角度(所定角度)とが、全面的又は部分的に打ち消し合う関係を有する。
【0060】
所定角度として、θ2より小さなθ3が採用されてもよい。所定角度としてθ3が採用された場合における、試料台52の向きベクトルが符号202Bで示されている。所定角度は上記のように、0度以外の角度であって最大傾斜角度以下の角度である。所定角度を、数度(例えば3度又は4度)としてもよいし、数十度(例えば20度又は30度)としてもよい。なお、最大傾斜角度を40度、50度又は60度としてもよい。本願明細書において挙げる各数値は例示に過ぎないものである。
【0061】
より詳しくは、収容部160の傾斜角度は、x軸及びz軸で定義されるxz面内にあり、且つ、y軸周りの一方方向の回転角度に相当する。取付状態における試料台52の傾斜角度つまり所定角度は、上記xz面内にあり、且つ、y軸周りの他方方向の回転角度に相当する。試料の加工観察時において、試料カートリッジ50のフレーム(特に補強板)が加工ビーム及び観察ビームに干渉しないように、所定角度が定められる。
【0062】
図示の構成例では、θ1は-30度であり、θ2は+30度である。つまり、所定角度は+30度である。その状態では、可動ステージが原状態にある場合、観察用の電子線153に対して、支持板の前端面が直交する。もっとも、そのような態様は一例に過ぎない。既に説明したように、加工観察の都合から、あるいは、試料室内の他の構造体を考慮して、所定角度として他の傾斜角度が採用されてもよい。なお、所定角度をマイナスの角度にする変形例が考えられる。
【0063】
試料カートリッジ保持装置32は捕獲機構を有する。捕獲機構は、カバー部材38に固定された板ばね166を有する。捕獲機構については後に説明する。
【0064】
カバー部材38は円形の開口168を有する。開口168は、回転止め機構の一部を露出させるものであり、具体的には、上述した第1エッジ及び第2エッジを露出させるものである。第1エッジ及び第2エッジの状態(突出量)から、回転止め機構の作動状態及び非作動状態を識別し得る。試料カートリッジ50の取り外しに先立って、開口168を通じて、回転止め機構の状態が確認される。回転止め機構が非作動状態にある場合、開口168を通じて工具等が差し込まれ、第1エッジが押し込まれる。これにより回転止め機構の作動状態が形成される。その後、試料カートリッジ50が収容部160から引き抜かれる。
【0065】
本体36には台座170が固定されている。台座170にはテーブル172が設けられている。テーブル172は例えばピンスタブである。テーブル172の高さ(z方向の位置)を可変し得る。テーブル172が有する載置面172A上に元試料であるバルク試料が載置される。バルク試料に対して一次加工が実施される。一次加工後の試料が、プローブ等を利用して、試料カートリッジ50に保持された支持板へ移載される。すなわち、支持板における特定の前端面又は特定の側端面に試料が取り付けられる。一次加工、一次加工後の試料の移載、及び、試料に対する二次加工の全部が試料加工装置内において実施される。なお、載置面172Aはz軸に対して直交している。
【0066】
図10においては、カバー部材の図示が省略されている。切欠きの側端面を通じて、試料カートリッジ50の被収容部分が現れている。収容部160は、試料カートリッジ50の被収容部分を収容する形態を有している。収容部160の底面に対して、試料カートリッジ50の底面が接合している。符号174は、一次加工後の試料の移載を模式的に示している。図10に示すように、取付状態においては、レバーに対して当接部分から押圧力が及んでいる(矢印を参照)。
【0067】
図11図13を用いて、試料カートリッジ挿入時の動作を説明する。図11には初期状態が示されている。符号178Aは差し込み動作を示している。試料カートリッジ50が収容部160の底面160Aに沿って差し込まれる。初期状態では、試料台52は試料カートリッジ50上で傾斜しておらず、水平姿勢(傾斜角度0)を保っている。レバー78に対して当接部分38Aが当たっているが、レバー78は回転運動をまだ開始していない。
【0068】
図12には中間状態が示されている。試料カートリッジの挿入運動178Bの進行に伴って、当接部分38Aからレバー78へ押圧力180が及び、レバー78の回転運動182が生じる。2つのアームの端部が符号184で示す方向へ運動する。これによって、試料台52が傾斜運動する。なお、回転止め機構56において、回転板88の作用端部88aは、レバー78に設けられた凸部144の下側に入り込んでいる。その状態では、レバー78の正方向への回転運動は制限されるが、レバー78の負方向への回転運動は許容される。
【0069】
図13には挿入完了状態つまり取付状態が示されている。試料カートリッジ50に対して試料台52が傾斜している。その傾斜角度はθ2である。本体における収容部の傾斜角度(試料カートリッジ50の傾斜角度)θ1と試料カートリッジ50上での試料台52の傾斜角度θ2とが打ち消し合いの関係にあり、z方向に対して支持板の前端面が直交している。もっとも、上述したように、取付状態における試料台52の傾斜角度(所定角度)として、θ2よりも小さな角度θ3を定めてもよい。なお、所定角度としてθ2よりも大きな角度を定める変形例が考えられる。
【0070】
図14には、試料カートリッジの捕獲状態が示されている。捕獲機構186は、板ばね166、ボール188等を有する。試料カートリッジにおける側壁64にくぼみ64Aが形成されている。カバー部材38には、ボール室が形成され、ボール室内にボール188が収容されている。ボール188に対しては、板ばね166からの弾性力が及んでいる。
【0071】
試料カートリッジの挿入過程で、ボール188が斜面66を転がり上がり、側壁64上を転がった上で、くぼみ64A内に落ち込む。これにより、捕獲状態が形成される。試料カートリッジを取り出す際には、捕獲機構186による捕獲力を上回る引き出し力を試料カートリッジへ及ぼせばよい。捕獲機構186として図示されたもの以外の機構を採用してもよい。
【0072】
上記実施形態によれば、試料カートリッジ保持装置に対して試料カートリッジを取り付けた際に、試料台が試料カートリッジに対して自動的に所定角度傾斜するので、試料カートリッジのフレーム(特に補強板)が加工ビームや観察ビームに対して干渉しなくなる。すなわち、試料加工、試料観察及び試料移載を適切に行うことが可能となる。
【0073】
図15には、試料加工時の動作例が示されている。可動ステージの機能により、試料カートリッジの位置及び姿勢が変更されている。図15に示す例では、加工用の光軸20が支持板の前端面に直交している。
【0074】
図16には、実施形態に係る試料加工観察方法が示されている。S10では、試料加工装置に対して試料カートリッジ保持装置が搭載されている状態において、試料カートリッジ保持装置に対して試料カートリッジが取り付けられる。試料カートリッジを試料カートリッジ保持装置に取り付けてから、試料カートリッジ保持装置が試料加工装置に搭載されてもよい。
【0075】
S12では、試料の加工及び観察が実施される。具体的には、テーブル上に載置されたバルク試料に対して一次加工が実施され、その後、一次加工後の試料が支持板上に移載される。その試料が二次加工され、詳細観察用の試料が製作される。試料の加工過程において、必要に応じて、走査電子顕微鏡により試料が観察される。
【0076】
S14では、試料加工後に、試料カートリッジ保持装置から試料カートリッジが取り出される。S16では、取り出された試料カートリッジが試料カートリッジ保持器に取り付けられる。その際、試料カートリッジからの支持板の取り出しは不要である。
【0077】
S18では、透過電子顕微鏡に対して試料カートリッジ保持器が取り付けられる。すなわち、透過電子顕微鏡の中に試料カートリッジが配置される。S20では、透過電子顕微鏡により試料が詳細観察される。その際において、必要に応じて、試料の姿勢が調整される。
【0078】
上記実施形態によれば、傾斜した収容部へ試料カートリッジを挿入すると、当接部分がレバーに当たって傾斜機構が動作する。これにより、取付状態において試料カートリッジにおいて試料台の傾斜角度が適正化される。つまり、試料の加工等を適正に行うことが可能な状態が形成される。具体的には、試料カートリッジにおいて試料台がフレームによって囲まれていても、試料の加工観察時にフレームが邪魔にならなくなる。逆に言えば、取付状態での試料台の傾斜を前提として、試料カートリッジの強度及び剛性を高めることが可能である。取付状態において形成される所定角度を調整するための調整機構を設けてもよい。調整機構は収容部に対する当接部分の相対的位置を変更することにより所定角度を調整するものである。調整機構として、本体の斜面上において、カバー部材を固定する位置を変更するスライド機構を採用してもよい。上記実施形態において、集束ビーム以外のビームにより試料が加工されてもよい。試料カートリッジ保持装置が試料観察装置に搭載されてもよい。
【符号の説明】
【0079】
10 試料室、12 可動ステージ、32 試料カートリッジ保持装置、36 本体、38 カバー部材、50 試料カートリッジ、51 フレーム、52 試料台、54 傾斜機構、56 回転止め機構、70 支持板、102 試料カートリッジ保持器、160 収容部、168 開口。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16