(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】エレベータシステム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20240109BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B66B5/02 S
B66B3/00 R
B66B3/00 U
(21)【出願番号】P 2022112338
(22)【出願日】2022-07-13
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昇平
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-200178(JP,A)
【文献】特開2021-095258(JP,A)
【文献】特開2017-214179(JP,A)
【文献】特開2013-136449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親機として設置され、第1の無線周波数帯の電波を使用してクラウドサーバに接続する第1の通信端末と、
監視対象とする機器の近くに子機として設置され、上記機器の状態を示すデータを第2の無線周波数帯の電波を使用して上記第1の通信端末に送信する第2の通信端末とを備え、
上記第1の通信端末は、上記第2の通信端末から受信した上記データを上記クラウドサーバに送って上記機器の故障診断を行うエレベータシステムにおいて、
上記第1の通信端末は、
予め定められた定期通信の開始時刻に上記第2の通信端末から上記データを受信できない場合に、一定時間待機した後にリトライ通信を行うリトライ通信手段と、
上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、上記定期通信の開始時刻を変更する時刻変更手段と、
上記定期通信の開始時刻を変更後、上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、上記第2の無線周波数帯のチャンネルを変更する周波数帯変更手段とを具備
し、
上記周波数帯変更手段は、
上記第2の無線周波数帯として選択可能な複数のチャンネルの中から予め決められた優先順の高いチャンネルに変更することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
親機として設置され、第1の無線周波数帯の電波を使用してクラウドサーバに接続する第1の通信端末と、
監視対象とする機器の近くに子機として設置され、上記機器の状態を示すデータを第2の無線周波数帯の電波を使用して上記第1の通信端末に送信する第2の通信端末とを備え、
上記第1の通信端末は、上記第2の通信端末から受信した上記データを上記クラウドサーバに送って上記機器の故障診断を行うエレベータシステムにおいて、
上記第1の通信端末は、
予め定められた定期通信の開始時刻に上記第2の通信端末から上記データを受信できない場合に、一定時間待機した後にリトライ通信を行うリトライ通信手段と、
上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、上記定期通信の開始時刻を変更する時刻変更手段と、
上記定期通信の開始時刻を変更後、上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、上記第2の無線周波数帯のチャンネルを変更する周波数帯変更手段とを具備し、
上記周波数帯変更手段は、
上記第2の無線周波数帯として選択可能な複数のチャンネルの中からランダムに選択したチャンネルに変更することを特徴とす
るエレベータシステム。
【請求項3】
親機として設置され、第1の無線周波数帯の電波を使用してクラウドサーバに接続する第1の通信端末と、
監視対象とする機器の近くに子機として設置され、上記機器の状態を示すデータを第2の無線周波数帯の電波を使用して上記第1の通信端末に送信する第2の通信端末とを備え、
上記第1の通信端末は、上記第2の通信端末から受信した上記データを上記クラウドサーバに送って上記機器の故障診断を行うエレベータシステムにおいて、
上記第1の通信端末は、
予め定められた定期通信の開始時刻に上記第2の通信端末から上記データを受信できない場合に、一定時間待機した後にリトライ通信を行うリトライ通信手段と、
上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、上記定期通信の開始時刻を変更する時刻変更手段と、
上記定期通信の開始時刻を変更後、上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、上記第2の無線周波数帯のチャンネルを変更する周波数帯変更手段とを具備し、
上記周波数帯変更手段は、
上記クラウドサーバから隣接するエレベータが使用中の無線周波数帯に関する情報を取得し、上記第2の無線周波数帯として選択可能な複数のチャンネルの中で上記隣接するエレベータとは異なるチャンネルに変更することを特徴とす
るエレベータシステム。
【請求項4】
上記時刻変更手段は、
上記定期通信の開始時刻を変更後、上記第2の通信端末から一定時間内に応答がなかった場合に、エラーを発報することを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか1項に記載のエレベータシステム。
【請求項5】
上記周波数帯変更手段は、
上記第2の無線周波数帯のチャンネルを変更後、上記第2の通信端末から一定時間内に応答がなかった場合に、エラーを発報することを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか1項に記載のエレベータシステム。
【請求項6】
上記第2の通信端末は、
通常時に第1の伝送レートで上記データを上記第1の通信端末に送信し、異常時に上記第1の伝送レートよりも高い第2の伝送レートで上記データを上記第1の通信端末に送信する伝送レート制御手段を具備したことを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか1項に記載のエレベータシステム。
【請求項7】
上記第2の通信端末は、
通常時に第1の検出周期で上記データを取り込み、異常時に上記第1の検出周期よりも短い第2の検出周期で上記データを取り込む検出周期制御手段を具備したことを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか1項に記載のエレベータシステム。
【請求項8】
上記第1の無線周波数帯として5GHz帯、上記第2の無線周波数帯として920MHz帯を使用することを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか1項に記載のエレベータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、制御盤の近くに第1の通信端末(親機)を設置し、監視対象となる機器の近く第2の通信端末(子機)を設置しておき、両者の無線通信によって、上記機器の故障診断を行うシステムが考えられている。このような無線通信を利用したシステムでは、データ伝送のためのケーブルが不要であり、場所を選ばずに通信端末を設置して、各機器の状態を診断できるといったメリットがある。しかし、その一方で、無線電波を利用するため、端末間の無線通信が不安定な状態にあると、故障診断できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特願2020-5266746号公報
【文献】特許第5976871号公報
【文献】特許第6783902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
監視対象とする機器に何らかの異常が生じている場合に、少しでも早く、当該機器の故障診断を行って対処する必要がある。このような場合に、端末間の無線通信が不安定な状態にあると、故障診断をすぐに行えず、対応に遅れが生じる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、端末間の無線通信の信頼性を確保し、監視対象とする機器の故障診断を迅速に行うことのできるエレベータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係るエレベータシステムは、親機として設置され、第1の無線周波数帯の電波を使用してクラウドサーバに接続する第1の通信端末と、監視対象とする機器の近くに子機として設置され、上記機器の状態を示すデータを第2の無線周波数帯の電波を使用して上記第1の通信端末に送信する第2の通信端末とを備え、上記第1の通信端末は、上記第2の通信端末から受信した上記データを上記クラウドサーバに送って上記機器の故障診断を行う。
【0007】
上記エレベータシステムにおいて、上記第1の通信端末は、リトライ通信手段と、時刻変更手段と、周波数帯変更手段とを備える。上記リトライ通信手段は、予め定められた定期通信の開始時刻に上記第2の通信端末から上記データを受信できない場合に、一定時間待機した後にリトライ通信を行う。上記時刻変更手段は、上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、上記定期通信の開始時刻を変更する。上記周波数帯変更手段は、上記定期通信の開始時刻を変更後、上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、上記第2の無線周波数帯のチャンネルを変更する。
上記構成において、上記周波数帯変更手段は、上記第2の無線周波数帯として選択可能な複数のチャンネルの中から予め決められた優先順の高いチャンネルに変更することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は一実施形態に係るエレベータシステムの概略構成例を示す図である。
【
図2】
図2は同実施形態における子機として用いられる通信端末の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は同実施形態における第1の伝送レートと第2の伝送レートとの関係を示す図である。
【
図4】
図4は同実施形態における第1の検出周期と第2の検出周期との関係を示す図である。
【
図5】
図5は同実施形態における親機として用いられる通信端末の機能構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は同実施形態におけるエレベータシステムの親機と子機との関係を示す図である。
【
図7】
図7は同実施形態におけるエレベータシステムの子機側の処理を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は同実施形態におけるエレベータシステムの親機側の処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は変形例として複数台のエレベータが並設されたシステムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0010】
図1は一実施形態に係るエレベータシステムの概略構成例を示す図である。
図1の例では、エレベータ全体の制御を行うエレベータ制御装置10と巻上機17が上部機械室1に設けられている。なお、機械室を持たないマシンルームタイプのエレベータでは、エレベータ制御装置10と巻上機17が昇降路2内の上部に配置される。
【0011】
エレベータ制御装置10には、エレベータ全体の制御を行うための制御盤11と、無線通信の親機(マスター)として用いられる通信端末CMとが含まれる。通信端末CMは、第1の無線周波数帯(5GHz帯)の電波を使用し、一般回線である通信ネットワーク31を介してクラウドサーバ32に接続可能な機能を備える。クラウドサーバ32は、複数台のエレベータの動作状態などを通信ネットワーク31を介して監視している。
【0012】
図1に示すように、昇降路2内には、乗りかご12及びカウンタウェイト13が設けられており、それぞれガイドレール14a~14dに昇降動作可能に支持されている。ガイドレール14a,14bは乗りかご12用のガイドレールであり、ガイドレール14c,14dはカウンタウェイト13用のガイドレールである。乗りかご12は、ガイドシュー15a,15bを介してガイドレール14a,14bに摺動可能に取り付けられている。カウンタウェイト13は、ガイドシュー15c,15dを介してガイドレール14c,14dに摺動可能に設けられている。
【0013】
また、地震発生時の揺れを検出(計測)するために、上部機械室1にはS波センサSSが設けられ、ピット3にはP波センサPSが設けられている。S波センサSS及びP波センサPSは、エレベータ制御装置10と有線にて接続されている。
【0014】
メインロープ16の一端に乗りかご12が連結され、メインロープ16の他端にカウンタウェイト13が連結されている。メインロープ16は、巻上機17の回転軸に取り付けられたメインシーブ18aに巻回されている。18bはそらせシーブである。
【0015】
巻上機17は、メインシーブ18aを回転させるためのモータ19を含んでいる。エレベータ制御装置10からの駆動指示により巻上機17のモータ19が駆動されると、メインシーブ18aが所定方向に回転し、メインロープ16を介して乗りかご12がカウンタウェイト13と共につるべ式に昇降動作する。メインシーブ18aには位置検出器(パルスジェネレータ)20が設置されている。位置検出器20は、メインシーブ18aがどの方向にどれだけ回転したかを検出することで、昇降動作に伴う乗りかご12の移動量を検出する。
【0016】
乗りかご12には、かご制御装置21とドア制御装置22とが設けられている。かご制御装置21及びドア制御装置22は、エレベータ制御装置10(制御盤11)に接続されている。
【0017】
かご制御装置21は、エレベータ制御装置10からの指示にしたがって、乗りかご12内の照明機器の駆動制御や空調制御を行う。また、かご制御装置21は、かご内に設けられた操作パネル4に関する情報、具体的には、乗客によって押下された行先階ボタンやドア開閉ボタン等に関する情報をエレベータ制御装置10やドア制御装置22に出力する。
【0018】
ドア制御装置22は、エレベータ制御装置10やかご制御装置21からの指示にしたがって乗りかご12のドアの開閉制御を行う。ドア制御装置22は、乗りかご12のドアを開閉するためのモータ23と接続し、このモータ23を駆動することでドアの開閉制御を行う。
【0019】
乗りかご12が着床する各階の乗場5には、乗場呼びボタン6と乗場制御装置30とが設けられている。乗場呼びボタン6は、乗客が乗りかご12に乗車する乗場の位置(階床)と行先方向(上方向/下方向)を登録するためのボタンである。乗場制御装置30は、エレベータ制御装置10(制御盤11)に接続され、乗場呼びボタン6によって登録された情報をエレベータ制御装置10に出力する。
【0020】
ここで、本実施形態では、上部機械室1の巻上機17の近くに、無線通信の子機として用いられる通信端末CS1が設置されている。通信端末CS1は、センサS1から監視対象である機器のデータを取得し、親機の通信端末CMに送信する機能を有する。なお、「機器のデータ」とは、詳しくは、機器の動作状態を示すデータのことであり、例えば電圧データや振動データなどを含む。例えば、巻上機17のモータを監視対象機器とした場合には、センサS1として、上記モータの電圧状態を検出するための電圧センサが用いられる。
【0021】
乗りかご12やカウンタウェイト13に対しても、無線通信の子機として用いられる通信端末CS2,CS3が設置されている。通信端末CS2は、センサS2から監視対象である機器のデータを取得し、親機の通信端末CMに送信する機能を有する。例えば、乗りかご12のドアモータを監視対象機器とした場合には、センサS2として、上記ドアモータの電圧状態を検出するための電圧センサが用いられる。また、乗りかご12のローラガイドを監視対象機器とした場合には、センサS2として、上記ローラガイドの振動を検出するための振動センサが用いられる。
【0022】
通信端末CS3は、センサS3から監視対象とする機器のデータを取得し、親機の通信端末CMに送信する機能を有する。例えば、カウンタウェイト13のローラガイドを監視対象機器とした場合には、センサS3として、上記ローラガイドの振動を検出するための振動センサが用いられる。
【0023】
センサS1は、無線基板を備え、通信端末CS1に無線接続されている。同様に、センサS2,S3についても無線基板を備え、それぞれに子機の通信端末CS2,CS3に無線接続されている。子機の通信端末CS1,CS2,CS3は、親機の通信端末CMと共にローカルネットワークを構築し、それぞれに第2の無線周波数帯(920MHz帯)の電波を使用して、監視対象機器のデータを親機の通信端末CMに定期的に送信する。
【0024】
なお、センサや子機の設置台数は、
図1の例に限られない。また、センサと子機の通信端末が同一筐体内に組み込まれ、無線機能を有するセンサ端末として構成されていても良い。
【0025】
図2は子機として用いられる通信端末CS2の機能構成を示すブロック図である。
通信端末CS1、CS2、CS3は、同様の機能を有している。ここでは、乗りかご12に設置された通信端末CS2を例にして説明する。通信端末CS2には、少なくとも1つのセンサS2が接続されている。通信端末CS2は、第2の無線周波数帯(920MHz帯)の電波を使用して、センサS2で検出された機器のデータを親機の通信端末CMに送信する。
【0026】
図2に示すように、通信端末CS2は、バッテリ100、電力供給制御部101、入力部103、保存部104、検出周期制御部105、通信制御部106等を備える。バッテリ100は、充電式あるいは交換可能であり、通信端末CS2およびセンサS2の電源として用いられる。電力供給制御部101は、バッテリ100の電力を通信端末CS2内の通信制御部106を含む各機能部に供給すると共にセンサS2に供給する。
【0027】
入力部103は、センサCS2で検出された機器のデータを予め定められた検出周期Tで取り込む。保存部104は、入力部103によって取り込まれたデータを時系列順に保存する。省電力の観点から通常運転時には、検出周期Tは、通常測定用の長周期T1に設定されている。一方、異常時(監視対象とする機器に何らかの異常が検出された場合や、地震が発生した場合)には、データのサンプリング数を増やすため(機器の状態を詳細に分析するため)、検出周期Tは、長周期T1よりも時間間隔が短く設定された短周期T2に切り替えられる(
図4参照)。
【0028】
通信制御部106は、子機の通信端末CS2と、親機の通信端末CMとの間の通信制御を行う。この通信制御部106には、監視部106aと伝送レート制御部106bとが備えられている。
【0029】
監視部106aは、通信端末CS2およびセンサS2の動作状態を確認するための死活監視を行う。詳しくは、監視部106aは、予め設定された監視周期Wで死活監視信号を要求するためのトリガ信号を親機の通信端末CMに送信し、そのトリガ信号の応答で親機の通信端末CMから送られてくる死活監視信号を受信する。上記監視周期Wは、例えば10分に設定される。死活監視信号を受信できた場合に、監視部106aは、親機の通信端末CMに対して、ACK(acknowledge)信号を返す。
【0030】
伝送レート制御部106bは、保存部104に保存された機器のデータを親機の通信端末CMに送るときの伝送レートを制御する。伝送レート制御部106bは、標準の伝送レートである第1の伝送レートR1と、第1の伝送レートR1よりも単位時間当たりのデータ量が多い第2の伝送レートR2とを有する。通常運転時は第1の伝送レートR1に設定され、異常時に第2の伝送レートR2に切り替えられる(
図3参照)。
【0031】
図3に第1の伝送レートR1と第2の伝送レートR2との関係を示す。
本実施形態では、サブギガヘルツの無線周波数帯(920MHz帯)の電波を使用して、親機と子機との間で無線通信を行う。第1の伝送レートR1は、例えば50kbpsの伝送速度を有し、単位時間当たりのデータ量が少ないが、通信距離が長く、消費電流も少ない。一方、第2の伝送レートR2は、例えば200kbpsの伝送速度を有し、単位時間当たりのデータ量が多いが、通信距離が短く、消費電流も大きい。サブギガヘルツの周波数帯の無線電波を使えば、論理的には数kmの無線通信が可能であるが、昇降路の中は障害物が多く、電波環境が悪い。このため、親機と子機が一定距離以上離れていると、パケットエラーが発生しやすい。
【0032】
ここで、通常運転時において、親機と子機との間では小容量のデータしか授受していない。したがって、伝送レートを下げておけば、通信距離を確保でき、昇降路が長くても、中継器を介さずにデータ送信できる。また、伝送レートを下げると、子機の消費電流を抑制できるので、子機の電源である電池の交換サイクルが長くなり、保守性が向上する。一方、機器の異常、あるいは、地震が発生した場合には、そのときの機器のデータを早く解析して対処する必要がある。したがって、異常時には、伝送レートを通常時よりも上げることが好ましい。これにより、親機に対して、多数のデータを短時間で送ることができる。
【0033】
図4に第1の検出周期T1と第2の検出周期T2との関係を示す。
「検出周期」とは、単位時間当たりにデータをサンプリングする時間間隔のことである。「検出周期」が「長」とは、言い換えればサンプリング周波数が低い状態を示す。サンプリング周波数が低いと、データの取り込み量が少なくなるが、バッテリ100の消費電力を抑えることができる。「検出周期」が「短」とは、言い換えればサンプリング周波数が高い状態を示す。サンプリング周波数が高いと、データの取り込み量が多くなるが、バッテリ100の消費電力が高くなる。
【0034】
通常運転時は、バッテリ100の消費電力を優先して、第1の検出周期T1(サンプリング周波数=低)にしておくことが好ましい。一方、機器の異常、あるいは、地震が発生した場合には、そのときの機器のデータを早く解析して対処する必要がある。したがって、異常時には、第2の検出周期T2(サンプリング周波数=高)に切替えて、多数のデータを短時間で取り込み、親機に送ることが好ましい。
【0035】
図5は親機として用いられる通信端末CMの機能構成を示すブロック図である。
親機の通信端末CMは、第1の無線周波数帯(5GHz帯)の電波を使用して、クラウドサーバ32に無線接続される。また、この通信端末CMは、第2の無線周波数帯(920MHz帯)の電波を使用して、エレベータの各機器の近くに設置された通信端末CS1,CS2,CS3と無線接続される。
【0036】
通信端末CMは、通信制御部201、記憶部202、出力部203等を備える。なお、通信端末CMは、制御盤11から電力供給を受けているため、バッテリ不要である。通信制御部201は、定期通信時に子機の通信端末CS1,CS2,CS3から監視対象とする各機器のデータを受信する。記憶部202には、通信制御部201によって受信された各機器のデータを記憶する。出力部203は、所定のタイミングで、記憶部202に記憶された各機器のデータを
図1に示した通信ネットワーク31を介してクラウドサーバ32に送る。
【0037】
図6は本システムの親機と子機との関係を示す図である。
親機の通信端末CMとクラウドサーバ32との無線通信には、第1の無線周波数帯として、一般回線の周波数帯である5GHz帯の無線電波が使用される。これに対し、親機の通信端末CMと子機の通信端末CS1,CS2,CS3との間の無線通信には、サブギガヘルツの周波数帯である920MHz帯の無線電波が用いられる。なお、
図6の例では、子機の通信端末CS1にセンサS1-1,S1-2、子機の通信端末CS2にセンサS2-1,S2-2、子機の通信端末CS3にセンサS3-1が無線接続された状態が示されている。これらのセンサは、例えば電圧センサや振動センサなどであり、それぞれに無線基板を備え、920MHz帯の無線電波を使用して、ペアリングされた子機と無線接続される。
【0038】
ここで、親機が子機から機器のデータを取得するときの定期通信は、例えば6時間間隔で実施される。ところが、920MHz帯の無線電波は、他の無線機器でも利用されていることが多いため、子機から親機への定期的なデータ通信に支障が生じることがある。特に、複数台のエレベータが並設されている環境下では(
図9参照)、各エレベータで920MHz帯の無線電波を使用して定期通信を行っているため、電波干渉が生じやすく、子機から親機に監視対象とする機器のデータを安定して送れない可能性がある。
【0039】
図5に示すように、親機の通信端末CMの通信制御部201には、このような無線通信の不具合を解消するための機能として、リトライ通信部201a、時刻変更部201b、周波数帯変更部201cが備えられている。リトライ通信部201aは、予め定められた定期通信の開始時刻に子機から機器のデータを受信できなかった場合に、一定時間待機した後にリトライ通信を行う。時刻変更部201bは、リトライ通信が一定回数連続する場合に、定期通信の開始時刻を変更する。周波数帯変更部201cは、定期通信の開始時刻の変更後、リトライ通信が一定回数連続する場合に、第2の無線周波数帯のチャンネルを変更する。
【0040】
次に、本システムの動作について、(a)子機側の処理と、(b)親機側の処理とに分けて説明する。
【0041】
(a)子機側の処理
図7は本システムの子機側の処理を示すフローチャートである。ここでは、説明を簡単にするために、子機として通信端末CS2を例にして説明するが、他の子機(通信端末CS1,CS3)でも同様である。
【0042】
通常運転時には、親機の通信端末CMからの指示により、第1の伝送レートR1と第1の検出周期T1に設定されている(ステップST11~ST13)。
図3で説明したように、第1の伝送レートR1は、単位時間当たりのデータ量が少ないが、通信距離が長いといった特性を有する。通常運転時は、親機子機間で機器のデータを定期的(例えば6時間間隔)に送るだけである。したがって、例えば乗りかご12が最下階近くにあって、子機が親機から離れていても、小容量のデータであれば、第1の伝送レートR1によって確実に送ることができる。また、
図4で説明したように、第1の検出周期T1に設定した場合(サンプリング周波数を低くした場合)、データの取り込み量が少なくなるが、バッテリ100の消費電力を抑えることができる。
【0043】
子機の通信端末CS2において、第1の検出周期T1でセンサS2から取り込まれた機器のデータは、
図2に示した保存部104に保存された後、定期通信の開始時刻に親機の通信端末CMに第1の伝送レートR1で送信される(ステップST14)。上記「定期通信の開始時刻」は、例えば6時間間隔で更新される。
【0044】
親機の通信端末CMは、子機の通信端末CS2から受信した機器のデータを所定のタイミングでクラウドサーバ32に送って、故障診断を行う。具体的には、例えば乗りかご12のドアモータが監視対象機器であり、センサS2として電圧センサが用いられているとする。この場合、電圧センサによって検出されたドアモータの電圧データが子機から親機を介してクラウドサーバ32に送られる。クラウドサーバ32は、この電圧データを予め設定された判定基準と比較することで、ドアモータの状態を「通常」,「要注意」,「即交換」の3段階で診断する。
【0045】
機器のデータが範囲基準の範囲内にあれば、「通常」と診断される。機器のデータが判定基準から少し外れていれば、「要注意」と診断される。機器のデータが判定基準から大きく外れていれば、「即交換」と診断される。この診断結果は、親機の通信端末CMに通知される。「即交換」以上の診断結果であった場合、親機の通信端末CMから図示せぬ保守センタに対して発報があり、保守員が派遣される。「要注意」の診断結果であった場合、機器の状態を詳細に分析する必要があるため、親機の通信端末CMから当該機器を監視対象としている子機の通信端末CS2に対して、伝送レートと検出周期の切替えが指示される。
【0046】
子機の通信端末CS2は、伝送レートと検出周期の切替え指示を受信すると(ステップST15のYes)、伝送レートを第2の伝送レートR2、検出周期を第2の検出周期T2に切り替える(ステップST16,ST17)。上述したように、第2の検出周期T2に切り替えることで、センサS2から多数のデータを短時間で取り込むことができる。また、第2の伝送レートR2に切り替えることで、多数のデータを短時間で親機に送ることができる。第2の検出周期T2でセンサS2から取り込まれた機器のデータは、
図2に示した保存部104に保存された後、親機の通信端末CMに第2の伝送レートR2で送信される(ステップST18)。
【0047】
なお、ここでは、親機の通信端末CMからクラウドサーバ32に監視対象とする機器のデータを送り、クラウドサーバ32側で機器の故障診断を行う構成としたが、エレベータ制御装置10(制御盤11)が行う構成としても良い。この場合、診断結果に応じて、エレベータ制御装置10から親機を介して子機に伝送レートと検出周期の切替えが指示される。
【0048】
また、地震発生時に検出された機器のデータは、地震によるエレベータの状態を点検する上で重要であり、できるだけ早くエレベータ制御装置10に送る必要がある。したがって、地震感知器(S波センサSSやP波センサPS)によって高ガルの地震が検知された場合に、エレベータ制御装置10から親機を介して全ての子機に第2の伝送レートR2、第2の検出周期T2への切替えを指示することでも良い。
【0049】
(b)親機側の処理
図8は本システムの親機側の処理を示すフローチャートである。
以下では、親機が子機から監視対象とする機器のデータを取得するときの処理について説明する。前提事項として、親機子機間では、監視周期W(例えば10分)の時間間隔で死活監視を行っているものとする。また、少なくとも1台の子機と定期通信できない状況になった場合に、全ての子機に対して、定期通信の開始時刻と周波数CH(チャンネル)の変更を行うものとする。
【0050】
親機の通信端末CMは、予め設定された定期通信の開始時刻になったときに、子機の通信端末CS1,CS2,CS3から各機器のデータを取得するための定期通信を実施する(ステップST21)。このとき、親機子機間の無線通信が安定した状態にあれば、上記死活監視の監視周期Wで、各子機からACK(acknowledge)信号が送られてくる。これにより、親機の通信端末CMは、子機の通信端末CS1,CS2,CS3から監視対象とする各機器のデータを取得し、所定のタイミングでクラウドサーバ32に送って故障診断を行う。
【0051】
一方、親機子機間の無線通信が不安定な状態にあると、定期通信時に各子機から監視周期WでACK信号が送られて来ない。このような場合、親機の通信端末CMは、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)方式により、一定時間待ってからリトライ通信を行う(ステップST22)。このリトライ通信が成功すれば(つまり、各子機からACK信号が送られてくる状況になれば)、親機の通信端末CMは、子機の通信端末CS1,CS2,CS3から監視対象とする各機器のデータを取得して、所定のタイミングでクラウドサーバ32に送って故障診断を行う。以後、このリトライ通信の成功時を起点として、6時間間隔で定期通信を継続的に行う。
【0052】
ここで、リトライ通信がN回連続した場合、つまり、N回のリトライ通信を繰り返しても、各子機と無線通信できない状況であった場合には(ステップST22→ST23のYes)、親機の通信端末CMは、他の無線機器と電波干渉している可能性があると判断し、第1の対応策として、以下のような方法で定期通信の開始時刻を変更し(ステップST24)、その変更後の開始時刻に定期通信を実施する(ステップST25)。
【0053】
・定期通信開始時刻の変更方法
(1)各子機の中の少なくとも1台の子機からACK信号が送られて来ない場合に、親機から全ての子機に対して定期通信の変更要求を行う。
(2)親機は、全ての子機に対して定期通信の開始時刻を一定時間(例えば1時間)ずらす。例えば、「12時」が定期通信の開始時刻であった場合には、次回は「13時」に定期通信を実施する。
(3)定期通信の開始時刻を変更後、タイムアウト時間(例えは30分)内に全ての子機から死活監視のACK信号が送られて来た場合、その変更した定期通信の開始時刻に従って定期通信を行う。定期通信の開始時刻を変更後、タイムアウト時間内に全ての子機から死活監視のACK信号が送られて来ない場合、エレベータ制御装置10にエラーを発報する。
【0054】
定期通信の開始時刻を変更しても、リトライ通信を必要とし(ステップST26のYes)、このリトライ通信がN回連続する場合には(ステップST27のYes)、親機の通信端末CMは、第2の対応策として、以下のような方法で周波数CHを変更する(ステップST24)。
【0055】
・周波数CHの変更方法
(1)親機は、全ての子機に対して、例えばリトライ通信失敗後の1時間後に周波数CHの変更要求を行う。例えば、920MHzの無線周波数帯として選択可能なチャンネルとして、A,B,C,D,Eの5つのチャンネルがあったとする。これらのチャンネルの帯域幅は、例えば600KHzである。親機は、予め決められた優先順の高い周波数CHに変更する。つまり、A→B→C→D→Eの順に決められているとすると、現在使用中の周波数CHがチャンネルAであれば、チャンネルBに変更される。なお、チャンネルA以外の周波数CHにランダムに変更することでも良い。
(2)周波数CHを変更後、タイムアウト時間(例えば30分)内に全ての子機から死活監視のACK信号が送られて来た場合、変更した周波数CHで定期通信を行う。タイムアウト時間内に全ての子機から死活監視のACK信号が送られて来ない場合、エレベータ制御装置10にエラーを発報する。
【0056】
このように、定期通信の開始時刻を変更しても、同じ無線周波数帯を使用する他の無線機器との電波干渉の影響を受ける場合に、別の周波数CHに変更することで、各子機から監視対象とする各機器のデータを確実に取得して、故障診断を行うことができる。これにより、機器に何らかの異常が生じている場合に、故障診断によって早期に発見して対処することができる。
【0057】
(変形例)
図9は複数台のエレベータが並設されたシステムの構成を示す図である。
図9の例では、A号機,B号機,C号機で示される3台のエレベータ33a~33cが並設された例が示されている。図中の11a~11cは制御盤(CNT)、12a~12cは乗りかご、13a~13cはカウントウェイト(C/W)、16a~16cはロープ、20a~20cは巻上機を示している。また、CMa~CMcは親機の通信端末、CS1a~CS3a,CS1b~CS3b,CS1c~CS3cは子機の通信端末を示している。
【0058】
A号機のエレベータ33aにおいて、子機の通信端末CS1a~CS3aは、監視対象とする機器の近くに設置された図示せぬセンサに接続されている。子機の通信端末CSa1~CSc1は、これらのセンサによって検出された各機器のデータを第2の無線周波数帯(920MHz帯)の電波を使用して、親機の通信端末CMaに定期的に送信する。親機の通信端末CMaは、第1の無線周波数帯(5GHz帯)の電波を使用して、通信ネットワーク31に接続し、各機器のデータをクラウドサーバ32に送って故障診断を行う。B号機のエレベータ33b、C号機のエレベータ33cについても同様であり、それぞれに親機子機間の無線通信によって、監視対象となる機器のデータを子機から親機に定期的に送っている。
【0059】
このような構成において、A号機のエレベータ33aでは、親子子機間の無線通信に第2の無線周波数帯としてAチャンネルを使用しているとする。Aチャンネルを使用中に、子機から親機に機器のデータを送れない状況になったときに、上記実施形態のように優先順あるいはランダムに周波数CHを変更すると、他号機で使用中の周波数CHと重なる可能性がある。
【0060】
A号機の親機(通信端末CMa)は、他号機の親機と接続されていないため、他号機で使用中の周波数CHを認識できない、そこで、各号機の上位装置であるクラウドサーバ32に各号機で使用中の周波数CHを管理する機能を持たせておく。これにより、例えばA号機で周波数CHを変更するときに、クラウドサーバ32からB号機,C号機で使用中の周波数CHに関する情報を取得すれば、B号機,C号機と重ならない周波数CHに変更することができる。つまり、例えばB号機でBチャンネル、B号機でCチャンネルを使用中であれば、A号機の無線CHとしてDチャンネルに変更すれば、隣接する他号機の無線電波の影響を受けずに、監視対象とする機器のデータを安定して送れるようになる。
【0061】
このように、クラウドサーバ32側で各号機の使用中の周波数CHを管理する構成により、隣接する他号機とは異なる周波数CHに変更することで、監視対象とする機器のデータを確実に取得して、故障診断を行うことができる。これにより、機器に何らかの異常が生じている場合に、故障診断によって早期に発見して対処することができる。
【0062】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、端末間の無線通信の信頼性を確保し、監視対象とする機器の故障診断を迅速に行うことのできるエレベータシステムを提供することができる。
【0063】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1…上部機械室、2…昇降路、3…ピット、4…操作パネル、5…乗場、6…乗場呼びボタン、10…エレベータ制御装置、11…制御盤、12…乗りかご、13…カウンタウェイト、14a~14d…ガイドレール、15a~15d…ガイドシュー、16…メインロープ、17…巻上機、18a…メインシーブ、18b…そらせシーブ、19…モータ、20…位置検出器、21…かご制御装置、22…ドア制御装置、23…モータ、30…乗場制御装置、31…通信ネットワーク、32…クラウドサーバ、100…バッテリ、101…電力供給制御部、103…入力部、104…保存部、105…検出周期制御部、106…通信制御部、106a…監視部、106b…伝送レート制御部、201…通信制御部、201a…リトライ通信部、201b…時刻変更部、201c…周波数帯変更部、202…記憶部、203…出力部、CM,CS1,CS2,CS3…通信端末、PS…P波センサ、SS…S波センサ、S1,S2,S3…センサ。
【要約】
【課題】端末間の無線通信の信頼性を確保し、監視対象とする機器の故障診断を迅速に行う。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータシステムにおいて、親機として設置された第1の通信端末は、リトライ通信手段と、時刻変更手段と、周波数帯変更手段とを備える。上記リトライ通信手段は、予め定められた定期通信の開始時刻に、子機として設置された上記第2の通信端末から機器のデータを受信できない場合に、一定時間待機した後にリトライ通信を行う。上記時刻変更手段は、上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、上記定期通信の開始時刻を変更する。上記周波数帯変更手段は、上記定期通信の開始時刻を変更後、上記リトライ通信が一定回数連続する場合に、無線周波数帯のチャンネルを変更する。
【選択図】
図5