(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】乗客コンベア診断装置
(51)【国際特許分類】
B66B 27/00 20060101AFI20240109BHJP
B66B 31/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B66B27/00 C
B66B31/00 D
(21)【出願番号】P 2022183387
(22)【出願日】2022-11-16
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】首藤 正志
(72)【発明者】
【氏名】閔 子
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔
(72)【発明者】
【氏名】司馬 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高澤 理志
(72)【発明者】
【氏名】山本 顕生
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-112163(JP,A)
【文献】特開2013-060295(JP,A)
【文献】特開2010-018385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の踏段を無端状に連結して成る踏段を走行する際に発生する異音を診断する乗客コンベア診断装置において、
乗客コンベアを構成するトラス内の往路側踏段と帰路側踏段の高さ方向の中間部に設置され、隣接する位置に2つ以上のマイクを有する集音部と、
前記乗客コンベアの走行時に前記集音部によって集音された走行音に基づき、前記隣接するマイク間の到達時間差または音量差から異音の発生方角を算出する算出部と、
算出された発生方角に基づき、異音を発生している踏段を特定する異音解析部と、
前記乗客コンベアの据付当初に前記集音部で集音された走行音を基準音として設置する基準音設定部と、を備え、
前記算出部は、運転時に前記基準音との音圧レベルでの増分が閾値を超えた際に異常ありと判断して、前記閾値を超えた音について前記集音部における隣接マイクへの到達時間差または音量差から音の発生方角を算出するとともに、
前記算出部は、前記閾値を超えた音が周期的に発生している際に音の発生方角をその都度算出し、
前記異音解析部は、
前記閾値を超えた音の発生方向が周期的に変化する場合には、踏段に異常があると判断し、
周期的に発生している音の発生方角をその都度算出した結果、音の発生方角に変化がみられないと判断した場合には、踏段を支持するレールに異常があると判断する、乗客コンベア診断装置。
【請求項2】
複数の踏段を無端状に連結して成る踏段を走行する際に発生する異音を診断する乗客コンベア診断装置において、
乗客コンベアを構成するトラス内の往路側踏段と帰路側踏段の高さ方向の中間部に設置され、隣接する位置に2つ以上のマイクを有する集音部と、
前記乗客コンベアの走行時に前記集音部によって集音された走行音に基づき、前記隣接するマイク間の到達時間差または音量差から異音の発生方角を算出する算出部と、
算出された発生方角に基づき、異音を発生している踏段を特定する異音解析部と、
少なくとも1つの踏段を基準踏段として特定する基準踏段特定部と、を備え、
前記基準踏段を起点とする踏段の番号付けを行い、閾値を超えた音を発している踏段の位置と番号を照合し、
閾値を超えた音を発生している当該番号の踏段を、保守員が点検し易い往路側の任意の位置に移動させて停止させる、乗客コンベア診断装置。
【請求項3】
基準踏段特定部は、基準踏段に設置された突起部材と、トラス側に設定され、走行時において前記突起部材を検出する近接センサとを備える請求項
2に記載の乗客コンベア診断装置。
【請求項4】
前記集音部を複数備え、
前記算出部は、前記乗客コンベアの走行時に複数の集音部によってそれぞれ集音された走行音に基づき、各集音部における前記隣接するマイク間の到達時間差または音量差から異音の発生方角を算出する、請求項
1~3の何れか1項に記載の乗客コンベア診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベア診断装置および踏段診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアとしてのエスカレータは、無端状に連結された踏段が下階側乗場と上階側乗場との間を循環移動しながら各階間を走行する。
【0003】
踏段の上下方向の荷重は、前輪ローラ及び後輪ローラで支える構造であるため、使用状況や経年変化などでローラ自体や、ローラの軸受けが劣化してくる。その場合、踏段のローラにはローラの転動に伴う周期的な音が発生する。また、前輪ローラを支持する前輪用レール及び後輪ローラを支持する後輪用レールに異物が付着するとローラが異物を乗り越える度に通過音が発生する。これらの音は、利用者に不快感を与えるだけではなく、最悪の場合は、ローラの破損などによる踏段の事故につながる可能性があり、早期に異常の予兆を捉え対処する必要がある。
【0004】
これらの問題を解決する手段として、従来、稼働音を集音する集音部と被写体の画像を撮像する撮像部を備え、点検時に運転方向や運転速度を変えたときの変化から異常部を特定する技術がある。
【0005】
また、点検時に正方向及び逆方向の運転時の状況からエスカレータの踏段の前輪ローラやそれ以外のローラに異常があると判断する技術もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6748044号
【文献】特許第6970005号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の踏段や構成部材の異常の診断は、あくまで点検時に確認することが前提となっており、エスカレータの進行方向や速度などを変更し、その時の特徴から異常部位を特定するものである。そのため、点検周期での確認となり、点検後に発生した異常は次の点検まで検知することはできない。また、点検時の測定が前提であり、例えばローラのベアリングの異音などにみられるように一度運転を止めてしまうと再現するまでに時間がかかる異音もあり、必ずしも実稼働中に発生した異常を正しく検知できない可能性がある。
【0008】
さらに、保守員が運転方向や速度を変え、異常箇所を特定する方法では、点検結果を受けてから異常箇所への対応を実施するまでに時間がかかり、保守時間が増加してしまうという課題がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、簡素な構成で実稼働中の動作音(走行音)を用いて異常のある踏段を特定することができる乗客コンベア診断装置および踏段診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための実施形態は、複数の踏段を無端状に連結して成る踏段を走行する際に発生する異音を診断する乗客コンベアを診断する装置であって、集音部と、算出部と、異音解析部とを備える。
【0011】
集音部は、前記乗客コンベアのトラス内の往路側踏段と帰路側踏段の高さ方向の中間部に設置され、隣接する位置に2つ以上のマイクを有する。算出部は、前記乗客コンベアの走行時に前記集音部によって集音された走行音に基づき、前記隣接するマイク間の到達時間差または音量差から異音の発生方角を算出する。異音解析部は、算出された発生方角に基づき、異音を発生している踏段を特定する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態のエスカレータの全体構成を示す説明図。
【
図3】第1実施形態の乗客コンベア診断装置を構成する踏段診断装置の機能構成を示すブロック図。
【
図4】踏段診断装置の処理手順を示すフローチャート。
【
図5】第1実施形態における異音発生箇所を特定する処理を示す説明図。
【
図6】第2実施形態のエスカレータの全体構成を示す説明図。
【
図8】第2実施形態の乗客コンベア診断装置を構成する踏段診断装置の機能構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態のエスカレータの全体構成>
本発明の実施形態が適用されるエスカレータ1は下階側乗場2と上階側乗場3との間を無端状に連結された踏段4が循環移動しながら各階間を走行する。踏段4の踏板5が上方にあり利用可能な状態の側を往路側と称する。また、踏段4が目的階まで到達後、スプロケットで反転し、踏板5が下向きになり移動する側を帰路側と称する。
【0014】
エスカレータ1のトラス6内の上階側には、駆動モータ7が設置され、減速機などを経由しモータ側スプロケット8に回転を伝達している。モータ側スプロケット8は、駆動チェーン9が巻き掛けられ駆動スプロケット10が取り付けられている軸に回転が伝達され駆動スプロケット10が回転する。駆動スプロケット10にはローラチェーン11が巻き掛けられ、ローラチェーン11には踏段4の前輪ローラ12が取付られおり、駆動スプロケット10の回転に伴い踏段4が移動する。
【0015】
下階側には、従動スプロケット13が設置され、ローラチェーン11は駆動スプロケット10と従動スプロケット13との間で折り返され循環する。また、手すり14は押圧された状態で手すり駆動シーブ23に巻き掛けられ、手すり駆動シーブ23には駆動モータ7からの回転が伝達され、踏段4と同じ移動速度で手すり14が移動する。
【0016】
踏段4の前輪ローラ12はローラチェーン11と連結されており、ローラチェーン11には、前輪用レール15が敷設され、踏段4の上下方向の荷重を支えながら、ローラは前輪用レール15上を転動し移動する。また、踏段4の後輪ローラ16には後輪用レール17が敷設され、踏段の上下方向の荷重を支えながら、ローラが後輪用レール17上を転動しながら移動している。尚、ここでは、ローラチェーン11に連結されている側のローラを前輪ローラ12と称し、もう一方のローラを後輪ローラ16と称する。なお、前輪ローラ12と後輪ローラ16は進行方向の左右両側に設置されている。
【0017】
上述のように、踏段の上下方向の荷重は、前輪ローラ12及び後輪ローラ16で支える構造であるため、使用状況や経年変化などでローラ自体や、ローラの軸受けが劣化してくる。その場合、踏段4のローラにはローラの転動に伴う周期的な音が発生する。また、前輪ローラ12を支持する前輪用レール15及び後輪ローラ16を支持する後輪用レール17に異物が付着するとローラが異物を乗り越える度に通過音が発生する。これらの音は、利用者に不快感を与えるだけではなく、最悪の場合は、ローラの破損などによる踏段の事故につながる可能性があり、早期に異常の予兆を捉え対処する必要がある。
【0018】
以下の実施形態では、これらの問題を解決する手段を具体的に説明する。
【0019】
<第1実施形態>
《第1実施形態の構成》
図2は、
図1のA部で示すトラス6の中央部を拡大したものであり、往路側踏段と帰路側踏段が見えるよう側面パネル24の表示は省略されている。トラス中央部の往路側踏段と帰路側踏段の高さ方向の中央付近には、集音部18が設置されている。集音部18は、往路側および復路側の踏段音を均等に拾うためにトラス中央部に設けるのが好適である。
【0020】
集音部18には、4つのマイク(第1マイク19a、第2マイク19b、第3マイク19c、第4マイク19d)が設置されている。
図2の例では、4つのマイク19a~19dは、指向性マイクを使用している。例えば、第1マイク19aは下階側の往路側の踏段からの音が収集し易く、第2マイク19bは下階側の帰路側の踏段からの音が収集し易く、第3マイク19cは上階側の往路側の踏段からの音が収集し易く、第4マイク19dは上階側の帰路側の踏段からの音が収集し易くなっている。4つのマイク19a~19dの取付方向は、往路側および復路側の踏段音を均等に拾えるように、集音部18の中心位置から放射方向(45度)が好適である。
【0021】
また、異音を発した踏段を識別するため、基準となる踏段を設け、そこから番号付けをすることで異音を発した踏段が何番の踏段であるかを把握する。
図2のA部拡大図に示すように、基準となる踏段には突起部材21が設置されており、この突起部材21をセンサ22にて検知する。センサ22は近接センサを想定しており、突起部材21がセンサ22を通過する際に検出され、以降エスカレータ1の上昇・下降などの進行方向の順で付番される。
【0022】
図3は、第1実施形態の乗客コンベア診断装置を構成する踏段診断装置の機能構成を示すブロック図である。
【0023】
同図に示す踏段診断装置30は、集音データ入力部31と、異音発生方向算出部32と、基準音設定部33と、基準踏段検出部34と、異音解析部35と、解析結果出力部36とを備える。
【0024】
集音データ入力部31は、集音部18で集音されたマイク音を集音データとして入力する。
【0025】
異音発生方向算出部32は、エスカレータ1の走行時に集音部18によって集音された走行音(集音データ)が、基準音設定部33に設定された基準音との音圧レベルでの増分が閾値を超えた際に異常ありと判断し、隣接するマイク間の到達時間差または音量差から異音の発生方角を算出する。
【0026】
基準音設定部33は、エスカレータ1の据付当初に集音部18で集音された走行音を基準音として設定する。
【0027】
基準踏段検出部34は、基準となる踏段に設置された突起部材21がセンサ22で検出された場合、この踏段を基準踏段として検出する。これは、異音を発した踏段を識別するため、基準となる踏段を設け、そこから番号付けをすることで異音を発した踏段が何番の踏段であるかを把握する際に利用される。
【0028】
異音解析部35は、閾値を超えて発生している音が連続して発生し、方角を算出した結果、近づいている、もしくは、離れている等、発生方角が変化すると判断できる場合は踏段に起因する異音と判断する。この場合には、異音発生に該当する踏段の番号を記憶する。また、閾値を超えて発生している音の方角に変化が見られない場合は、前輪用レール15または後輪用レール17に異物付着などの異常があると判断する。この場合には、発生方角に基づいてレール位置を算出、記憶する。
【0029】
解析結果出力部36は、解析結果を遠隔監視センタやビル内の防災センタ、保守員が所持する保守員端末等に出力する。また、保守点検時には、記憶された異音発生に該当する番号の踏段4が保守点検できる位置に移動されるように走行制御部に指令する。
【0030】
《第1実施形態の作用》
次に、第1実施形態の作用について説明する。
図4は踏段診断装置の処理手順を示すフローチャートである。この処理では、
図5に示すように踏段4の後輪ローラ16aに異常があり異音が発生していると仮定する。
【0031】
後輪ローラ16aで発生した異音は、トラス6内の空気中を異音が伝搬し、集音部18に届き、マイク19a、19b、19c、19dにて集音される。マイク19a、19b、19c、19dは図示したように踏段の進行方向に対して平行になるようエスカレータ1と同じ傾斜角をもって設置されており、後輪ローラ16aからの各マイクまでの距離は各々異なる。これらのマイクへの到達時間の差や音量差などを相対的に分析することで、異音の発生している方角Θを算出することができる。
【0032】
往路側に異音を検知した場合には、前輪ローラ12と後輪ローラ16が近接しているため分離することはできず、前輪ローラ12及び後輪ローラ16のいずれかに異常があると判定し、隣り合う2つの踏段4に異常があると判断する。帰路側で異音を検知した場合には、後輪ローラ16の方が、集音部18に対して踏段4の進行方向に対する垂直成分である高さ方向の距離が近い軌道を走行しており、同じ時間での角度Θの変化は前輪ローラ12よりも大きくなることから、経過時間に対する算出角度Θの変化から異常部位が後輪ローラか前輪ローラかを判別する。算出した角度に位置する踏段の番号または、踏段レールの位置を記憶する。
【0033】
保守点検時には、基準となる踏段4から数えて、異音の発生した踏段4を探すのは手間がかかるので、保守点検時には踏段4を確認し易いよう、異音を発している踏段4を自動で上階側の任意の位置まで移動させる。以上は、踏段のローラに異常がある場合について説明したが、連続的に発生している異音で、近づいてきている場合や離れている場合には、踏段4に異常があると判断し、異音の発生している方角が変動しない場合には、前輪用レール15か、後輪用レール17に異常があると判断する。
【0034】
踏段診断装置30で実行される処理手順を示す
図4のフローチャートにおいては、まず、運転中の動作音を集音部18で収集し(ステップS1)、収集された集音データは集音データ入力部31に入力される。異音発生方向算出部32は、基準音設定部33に設定されている基準音の閾値を超える大きさの音が発生した場合には(ステップS2YES)、その音が発生した方角を算出する(ステップS3)。
【0035】
異音解析部35は、閾値を超えて発生している音が連続して発生し、方角を算出した結果、近づいている、もしくは、離れている等、発生方角が変化すると判断できる場合は(ステップS4YES)、踏段に起因する異音と判断できる(ステップS5)。この場合には、異音発生に該当する踏段の番号を記憶し、処理を終了する(ステップS6)。
【0036】
一方、閾値を超えて発生している音の方角に変化が見られない場合は(ステップS4NO)、前輪用レール15または、後輪用レール17に異物付着などの異常があると判断する(ステップS7)。そして、発生方角に基づいてレール位置を算出、記憶した後、処理を終了する(ステップS8)。
【0037】
解析結果は解析結果出力部36から遠隔監視センタ、ビル内の防災センタ、保守員が所持する保守員端末等に出力される。また、保守点検時には、記憶された異音発生に該当する番号の踏段4が保守点検できる位置に移動されるように走行制御部に指令することもできる。
【0038】
なお、運転中の動作音の集音は、利用客の乗降によるノイズの影響を低減するため、利用時間の終了に近い時間帯など、長時間連続運転した状態で利用者の少ない時間での測定が望ましい。
【0039】
このように、第1実施によれば、運転時の走行音の到達時間差や音量差を利用し、音の発生方角を算出することで、どの踏段4に異音が発生しているか、または、どのレール位置に異音が発生しているかを把握することができる。また、実稼働時の音をトラス6内で集音して診断するため、踏段4の異常をいち早く検出することができ、異常の初期段階での検出・対処が可能となる。また、保守点検の前に予め異常部位を把握することができるため、保守員の点検時に迅速な対処が可能となる。
【0040】
なお、踏段の前輪ローラ12や後輪ローラ16の診断のみに特化する場合には、集音部18に設置するマイクは、下階側からの異音を集音する第1マイク19aと第2マイク19b、または、上階側の異音を集音する第3マイク19cと第4マイク19dの2つのマイクがあれば診断が可能である。
【0041】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態のエスカレータの全体構成を示す説明図、
図7は、
図6のB部を拡大して示す説明図、
図8は、第2実施形態の乗客コンベア診断装置を構成する踏段診断装置の機能構成を示すブロック図である。
【0042】
第2実施形態では、第1実施形態で示した集音部18に加え、第2集音部28、第3集音部38を追加し、3か所に集音部を設定したものである。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0043】
エスカレータ1の昇降工程が高く上階から下階までの距離が長い場合、集音部18だけでは方角の算出誤差が大きくなる可能性がある。そこで、第2実施形態では、集音部18に加え、第2集音部28及び第3集音部38での検出も加えることで、算出誤差を低減するようにしている。
【0044】
図6に示すように、第2集音部28は、例えば、下段側乗場2付近に設置されている従動スプロケット13の付近に設定されるのがよい。第3集音部38は、例えば、上段側乗場3付近に設置されている駆動スプロケット13の付近に設定されるのがよい。
【0045】
図7では、後輪ローラ16aから異音が発生している場合を示したもので、異音は、トラス6内の空気中を伝搬して集音部18及び第2集音部28で集音される。この場合、集音部18及び第2集音部28でそれぞれ算出した異音の発生方角(Θ1及びΘ2)の交点上に異音発生部があると判断できる。このため、異音の発生している位置の特定をより正確に行うことができる。異音の発生方角の交点が分かれば、帰路側については前輪ローラ12と後輪ローラ16のいずれのローラに異常があるのかも容易に判別可能である。
【0046】
また、前輪用レール15や後輪用レール17から異音が発生している場合には、異音の発生位置は不動のため、集音部18では距離が離れて算出誤差が大きくなる懸念がある。第2実施形態によれば、第2集音部28、第3集音部38を追加することで、より近い位置での集音部を使用して方角を算出することができる。また、2つの集音部(集音部18と第2集音部28、または集音部18と第3集音部38)で算出した発生方角の交点で位置を特定することで、異音の発生位置の算出をより正確に行うことができる。
【0047】
なお、以上の各実施形態では、隣接するマイク間の到達時間差により異音の発生方角を算出するようにしたが、隣接するマイク間の音量差から異音の発生方角を算出するようにしてもよい。
【0048】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1…エスカレータ、2…下階側乗場、3…上階側乗場、4…踏段、5…踏板、6…トラス、7…駆動モータ、8…モータ側スプロケット、9…駆動チェーン、10…駆動スプロケット、11…ローラチェーン、12…前輪ローラ、13…従動スプロケット、14…手すり、15…前輪用レール、16…後輪ローラ、17…後輪用レール、18…集音部、19a…第1マイク、19b…第2マイク、19c…第3マイク、19d…第4マイク、21…突起部材、22…センサ(近接センサ)、23…手すり駆動シーブ、24…側面パネル、29…第2集音部、29a…第1マイク、29b…第2マイク、29c…第3マイク、29d…第4マイク、30…踏段診断装置、31…集音データ入力部、32…異音発生方向算出部、33…基準音設定部、34…基準踏段検出部、35…異音解析部、36…解析結果出力部
【要約】
【課題】保守点検時を待つことなく、簡素な構成で実稼働中の走行音(動作音)を用いて異音発生方向から異常のある踏段を特定することができる乗客コンベア診断装置および踏段診断方法を提供する。
【解決手段】複数の踏段を無端状に連結して成る踏段を走行する際に発生する異音を診断する乗客コンベアを診断する装置であって、集音部と、算出部と、異音解析部とを備える。集音部は、前記乗客コンベアのトラス内の往路側踏段と帰路側踏段の高さ方向の中間部に設置され、隣接する位置に2つ以上のマイクを有する。算出部は、前記乗客コンベアの走行時に前記集音部によって集音された走行音に基づき、前記隣接するマイク間の到達時間差または音量差から異音の発生方角を算出する。異音解析部は、算出された発生方角に基づき、異音を発生している踏段を特定する。
【選択図】
図3