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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】処理ツールのマスタリング方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/12 20060101AFI20240109BHJP
   B25J 13/00 20060101ALI20240109BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B25J9/12
B25J13/00 Z
G05B19/18 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022517687
(86)(22)【出願日】2021-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2021016279
(87)【国際公開番号】W WO2021220931
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020078311
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】本橋 応朗
(72)【発明者】
【氏名】柳原 健太朗
【審査官】仁木 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-064200(JP,A)
【文献】特開平02-198783(JP,A)
【文献】特開2013-039643(JP,A)
【文献】特開2006-082171(JP,A)
【文献】特開平04-365586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
G05B 19/18 - 19/416
19/42 - 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
理ツールをアーム先端部に保持し、単数又は複数の駆動軸を駆動する少なくとも1つの駆動部を備える多関節型のロボットにおける前記駆動部を制御すると共に、前記処理ツールの駆動部を制御することにより、前記ロボットの基準方向に対して前記処理ツールの基準方向を合わせるようにマスタリングを行う、処理ツールのマスタリング方法であって、
前記ロボットの動作から前記ロボットの前記基準方向の情報である基準方向情報を取得し、取得した前記基準方向情報に基づいて、前記処理ツールのマスタリングを行う、処理ツールのマスタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリップや加工などの各種処理を行う処理ツールのマスタリングを行う、処理ツールのマスタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットにおいては、製造工程の最終段階あるいはユーザへの出荷のための調整作業時、ロボットの駆動源の一例であるサーボモータの交換時、ロボットシステム運転中に干渉事故が起こった後の修復時などの際に、ロボット現物の原点姿勢とロボットに係るプログラムの原点との間の一致を図る較正、つまり、マスタリングが行われる(例えば、下記特許文献1参照)。このようなマスタリング作業は、ロボットのアーム先端部に搭載される処理ツールであって、処理ツール自身が有する単数又は複数の(回転)駆動軸を駆動することにより、処理ツールによる処理対象物への処理位置を制御する処理ツールについても、同様に行われる。
【0003】
このような処理ツールの例として、ロボットのアーム先端部に取り付けられる2つのリンクで構成される関節型のハンドアームがある。マスタリング作業では、ハンドアームに付された目印や、専用の治具を使用して調整を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平08-171410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ハンドアームに目印が無い場合、出荷後の保守時に専用設備が用意されていない環境では、再マスタリング作業に大きな手間が掛かるという問題が生じる。専用の治具が無い場合も同様である。また、一般的には、ロボットの基準方向と処理ツールの基準方向とを合わせるように設定する必要があるところ、目印が無い場合、両基準方向が一致するようにマスタリングを行うには手間が掛かる。そこで、駆動軸を有するロボットのアーム先端部に搭載される処理ツールに対して容易に遂行可能なマスタリング方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、処理対象物に所定の処理を施す処理ツールをアーム先端部に保持し、単数又は複数の駆動軸を駆動する複数の駆動部を備える多関節型のロボットにおける前記駆動部を制御すると共に、前記処理ツールによる前記処理対象物への処理位置を制御することにより、前記処理ツールのマスタリングを行う、処理ツールのマスタリング方法であって、前記ロボットの動作から前記ロボットの基準方向の情報である基準方向情報を取得し、取得した前記基準方向情報に基づいて、前記処理ツールのマスタリングを行う、処理ツールのマスタリング方法である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、駆動軸を有するロボットのアーム先端部に搭載される処理ツールに対して容易に遂行可能なマスタリング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用される第1適用例のロボットシステムのシステム構成を示す図である。
図2A】第1適用例のロボットシステムの側面図である。
図2B】第1適用例のロボットシステムの部分拡大平面図である。
図3A】第1適用例のロボットシステムのマスタリング作業の1ステップを示す側面図である(図2A対応図)。
図3B図3Aに対応する部分拡大平面図である(図2B対応図)。
図4A図3Aの次のステップを示す側面図である。
図4B図4Aに対応する部分拡大平面図である。
図5A図4Aの次のステップを示す側面図である。
図5B図5Aに対応する部分拡大平面図である。
図6A図5Aの次のステップを示す側面図である。
図6B図6Aに対応する部分拡大平面図である。
図7A図6Aの次のステップを示す側面図である。
図7B図7Aに対応する部分拡大平面図である。
図8】本発明が適用される第2適用例に係るロータリーウェッジスキャナの原理図である。
図9A】第2適用例のロボットシステムのマスタリング作業の1ステップを示す側面図である。
図9B図9Aに対応する部分拡大平面図である。
図10A図9Aの次のステップを示す側面図である。
図10B図10Aに対応する部分拡大平面図である。
図11A図10Aの次のステップを示す側面図である。
図11B図11Aに対応する部分拡大平面図である。
図12】本発明が適用される第3適用例に係るガルバノスキャナの原理図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔第1適用例〕
以下、添付の図面を参照して、本発明の処理ツールのマスタリング方法が、ロボット及びハンドアームを備えるロボットシステムに適用された例である第1適用例について、説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付している。図1は、本発明が適用される第1適用例のロボットシステムのシステム構成を示す図である。図2Aは、第1適用例のロボットシステムの側面図である。図2Bは、第1適用例のロボットシステムの部分拡大平面図である。
【0010】
図1図2Bに示すように、第1適用例のロボットシステム1は、ロボット2と、処理ツールの一例であるハンドアーム3と、ロボット2を制御するロボット制御装置41と、ハンドアーム3を制御するツール制御装置42と、を備える。ロボットシステム1は、ロボット2及びハンドアーム3を目標位置に移動させて、ハンドアーム3によりワーク(図示せず)に所定の処理を施す。
【0011】
処理は、第1適用例では、ワーク等のグリップ(挟持、吸着など)であるが、これに制限されない。処理は、接触による除去加工(切削、溶接など)、非接触による除去加工(レーザー加工など)、流動体(シール材、塗料など)の吐出であってもよい。
【0012】
ロボット2は、例えば6軸垂直多関節型のロボットであり、基台(ベース)21と、下ロボットアーム22と、上ロボットアーム23と、ロボットアーム先端部24(アーム先端部)とを有する。基台21は、床上面である基準面R1に設置されている。下ロボットアーム22の一端側は、基台21上に、第1軸(垂直軸)J1まわりに回転可能に、かつ、第2軸(水平軸)J2まわりに回転可能に連結されている。下ロボットアーム22の他端側には、上ロボットアーム23の一端側が第3軸(水平軸)J3まわりに回転可能に連結されている。上ロボットアーム23の他端側には、ロボットアーム先端部24が第3軸J3に垂直な第4軸J4まわりに回転可能に、かつ、第4軸J4に垂直な第5軸J5まわりに回転可能に連結されている。ロボットアーム先端部24には、処理ツールの一例であるハンドアーム3が、第5軸J5に垂直な第6軸J6まわりに回転可能に取り付けられている。
【0013】
なお、ロボット2は、6軸垂直多関節型に限定されず、4軸垂直多関節型ロボットなど他のタイプの多関節型ロボットであってもよい。駆動軸は1軸でもよい。
【0014】
ロボット2は、第1軸J1~第6軸J6の複数の駆動軸をそれぞれ駆動する複数のサーボモータ(図示せず)を内蔵する。サーボモータはロボット制御装置41からの制御信号により駆動される。このサーボモータの駆動により、ロボット2の位置及び姿勢は変更されると共に、ロボット2に装着されたハンドアーム3の位置及び姿勢は変更される。
【0015】
ハンドアーム3は、処理ツールの一例である。処理ツールは、処理対象物への処理位置を制御されて、処理対象物に所定の処理を施す。処理対象物及び処理位置は、処理の内容によってそれぞれ異なる。処置がグリップの場合、処理対象物はグリップされるものであり、処理位置はグリップされる位置である。処置が加工の場合、処理対象物は被加工物であり、処理位置は加工位置である。処置が吐出の場合、処理対象物は被付着物(例えば、シール材が付着される部材)であり、処理位置は付着位置である。
【0016】
ハンドアーム3は、ロボットアーム先端部24に保持されている。ハンドアーム3は、例えば、1軸関節型のアーム機構であり、第1ハンドアーム31と、第2ハンドアーム32と、グリッパー33とを有する。第1ハンドアーム31の一端側は、ロボットアーム先端部24に、第6軸J6まわりに回転可能に連結されている。第1ハンドアーム31の他端側には、第2ハンドアーム32の一端側が第7軸J7まわりに回転可能に連結されている。第2ハンドアーム32の他端側には、ワーク等をグリップするグリッパー33が連結されている。グリッパー33の基準軸を第8軸J8(図2A参照)という。第6軸J6と第7軸J7と第8軸J8とは平行に配列している。グリッパー33によるグリップ方式は、限定されず、例えば、挟持、吸着、吸引である。
【0017】
ハンドアーム3は、第7軸J7の駆動軸を駆動するサーボモータ(図示せず)を内蔵する。サーボモータはツール制御装置42からの制御信号により駆動される。このサーボモータの駆動により、ハンドアーム3におけるグリッパー33の位置及び姿勢は変更されると共に、グリップ動作は行われる。
【0018】
ロボット制御装置41及びツール制御装置42は、それぞれCPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。ロボット制御装置41とツール制御装置42とは、互いに信号の送受信(通信)を行う。ロボット制御装置41は、ロボット2及び処理ツールの動作プログラム(作業プログラム)、教示データ等を格納している。なお、ロボット制御装置41はツール制御装置42を兼用していてもよい。
【0019】
図2A図7Bを用いて、第1適用例のロボットシステムのマスタリング作業について説明する。図3Aは、第1適用例のロボットシステムのマスタリング作業の1ステップを示す側面図である(図2A対応図)。図3Bは、図3Aに対応する部分拡大平面図である(図2B対応図)。図4Aは、図3Aの次のステップを示す側面図である。図4Bは、図4Aに対応する部分拡大平面図である。図5Aは、図4Aの次のステップを示す側面図である。図5Bは、図5Aに対応する部分拡大平面図である。図6Aは、図5Aの次のステップを示す側面図である。図6Bは、図6Aに対応する部分拡大平面図である。図7Aは、図6Aの次のステップを示す側面図である。図7Bは、図7Aに対応する部分拡大平面図である。
【0020】
図2A及び図2Bに示すように、ロボットシステム1(ハンドアーム3が搭載されたロボット2)の最終駆動軸である第7軸J7が、ロボット2の基台21の基準面R1に対して垂直になるように、ロボット2の位置及び姿勢を移動させる。なお、第7軸J7が基準面R1に対して垂直になると、結果的に、第6軸J6及び第8軸J8も基準面R1に対して垂直になる。ロボットの基準となる直交座標系として、Xt-Yt座標系(原点:Ot)を設定する。基準面R1は、Xt-Yt平面に平行である。Xt軸と第1ハンドアーム31の長手方向とがなす角度をθ1という。第1ハンドアーム31の長手方向と第2ハンドアーム32の長手方向とがなす角度をθ2という。
【0021】
図3A及び図3Bに示すように、ハンドアーム3のグリッパー33に、装置側ピンQ1をグリップさせる。装置側ピンQ1の先端は、基準面R1を向いている。また、基準面R1には、基準面R1と平行な第2基準面R2を有する台が置かれている。第2基準面R2には、装置側ピンQ1と対となるターゲットピンQ2が置かれている。ターゲットピンQ2の先端は、基準面R1の反対側を向いている。ターゲットピンQ2の先端の位置であって、基準面R1(第2基準面R2)への投影位置を「位置P1」という。
【0022】
ハンドアーム3のグリッパー33の位置J8(装置側ピンQ1の先端の位置であって、基準面R1(第2基準面R2)への投影位置でもある)を、位置P1に移動させて、装置側ピンQ1の先端とターゲットピンQ2の先端とを突き合わせる。この状態において、Xt軸と第1ハンドアーム31の長手方向とがなす角度をθ11といい、第1ハンドアーム31の長手方向と第2ハンドアーム32の長手方向とがなす角度をθ21という。
【0023】
図4A及び図4Bに示すように、ハンドアーム3の姿勢を維持したまま(角度θ11、θ12を維持したまま)、ロボット2を直交座標系の+Xt方向に、移動量+X2、移動させる。この状態において、装置側ピンQ1の先端の位置であって、基準面R1(第2基準面R2)への投影位置を「位置P2」として記憶する。
【0024】
図5A及び図5Bに示すように、ロボット2の位置及び姿勢を維持したまま、ハンドアーム3のグリッパー33の位置J8を、直交座標系の-Xt方向に、移動量-X2、移動させて、装置側ピンQ1の先端の位置P1に移動させる。そして、装置側ピンQ1の先端(J8)とターゲットピンQ2の先端(P1)とを、再度突き合わせる。その際、Xt軸と第1ハンドアーム31の長手方向とがなす角度θ12は、角度θ11よりも大きくなり(θ12>θ11)、第1ハンドアーム31の長手方向と第2ハンドアーム32の長手方向とがなす角度をθ22は、角度θ21よりも小さくなる(θ22<θ21)。
【0025】
図6A及び図6Bに示すように、ハンドアーム3の姿勢を維持したまま(角度θ21、θ22を維持したまま)、ロボット2を直交座標系の+Xt方向に、移動量+X3、移動させる。この状態において、装置側ピンQ1の先端の位置であって、基準面R1(第2基準面R2)への投影位置を「位置P3」として記憶する。
【0026】
図7A及び図7Bに示すように、ロボット2の位置及び姿勢を維持したまま、ハンドアーム3のグリッパー33の位置J8を、直交座標系の-Xt方向に、移動量-X3、移動させて、装置側ピンQ1の先端の位置P1に移動させる。そして、装置側ピンQ1の先端(J8)とターゲットピンQ2の先端(P1)とを、再度突き合わせる。その際、Xt軸と第1ハンドアーム31の長手方向とがなす角度θ13は、角度θ12よりも大きくなり(θ13>θ12)、第1ハンドアーム31の長手方向と第2ハンドアーム32の長手方向とがなす角度をθ23は、角度θ22よりも小さくなる(θ23<θ22)。
【0027】
位置P1、P2、P3の3点に関するハンドアーム3の移動量から、ロボット2の基準方向とハンドアーム3の基準方向とがなす角度を計算する。そして、この角度がゼロとなるように、つまり、両基準方向が一致するように、マスタリングを行う。要するに、ロボット2の動作からロボット2の基準方向の情報である基準方向情報を取得し、取得した基準方向情報に基づいて、処理ツールの一例であるハンドアーム3のマスタリングを行う。
【0028】
本実施形態のマスタリングは、駆動軸を有するロボット2のロボットアーム先端部24に搭載される処理ツールであるハンドアーム3に対して、容易に遂行可能である。これにより、マスタリング後の動作確認と、マスタリングの修正作業の手間とが減り、マスタリング作業の効率化を図ることができる。特に、ハンドアーム3に目印が無い場合や、専用の治具が無い場合であっても、マスタリング作業を容易に行うことができる。目印や専用の治具の廃止により、コストダウンを図ることができる。
【0029】
〔第2適用例〕
次に、本発明の処理ツールのマスタリング方法が、ロボット及びロータリーウェッジスキャナを備えるロボットシステムに適用された例である第2適用例について、説明する。本発明の処理ツールのマスタリング方法は、レーザ光を透過可能又は反射可能であると共に回転軸まわりに回転可能な光学部品と、レーザ光を集光する集光光学系とを有する加工ヘッドを有する処理ツールに対しても、適用可能である。
【0030】
第2適用例以降の説明にあたって、第1適用例と同一の構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0031】
図8は、本発明が適用される第2適用例に係るロータリーウェッジスキャナの原理図である。図9Aは、第2適用例のロボットシステムのマスタリング作業の1ステップを示す側面図である。図9Bは、図9Aに対応する部分拡大平面図である。図10Aは、図9Aの次のステップを示す側面図である。図10Bは、図10Aに対応する部分拡大平面図である。図11Aは、図10Aの次のステップを示す側面図である。図11Bは、図11Aに対応する部分拡大平面図である。
【0032】
処理ツールの一例であるロータリーウェッジスキャナ(「トレパニングスキャナ」等とも呼ばれることがある)は、例えば、一方の面が傾斜した形式のレンズをモータで回転させることで、入射したレーザ光を屈折させて、任意の位置に照射することが可能である。具体的には、図8に示すように、ロータリーウェッジスキャナ6においては、レーザ光Lがレンズの厚み方向に入射するように、2枚のプリズムレンズ61a及び61b(以下、双方をまとめて「プリズムレンズ61」と総称することがある)と、集光レンズ62とが重なって配置され、2枚のプリズムレンズ61a及び61bが、回転軸J11を中心に回転する。これにより、照射位置(処理位置)が二次元平面上に制御可能となる。
【0033】
プリズムレンズ61は、例えば、回転軸方向に視たときに円状に形成されている。プリズムレンズ61は、その周方向において厚みが連続的に変化している。プリズムレンズ61は、モータ(図示せず)によって回転駆動され、その回転方向に沿って厚みが連続的に変化するようになっている。
【0034】
プリズムレンズ61に入射したレーザ光Lは、プリズムレンズ61の屈折率に応じて屈折し、屈折光として出射される。このとき、屈折によりシフトするレーザ光Lのビーム位置は、プリズムレンズ61の厚みと相関を有する。すなわち、レーザ光Lの入射位置におけるプリズムレンズ61の厚みが大きいほど、屈折によるレーザ光Lのビーム位置のずれであるシフト量は大きくなる。回転方向に厚みが連続的かつ周期的に変化するプリズムレンズ61にレーザ光Lを通過させることで、レーザ光Lのビーム位置、すなわちレーザ光Lの照射位置(処理位置)を、連続的かつ周期的に変化させることが可能となる。
【0035】
ところで、ロータリーウェッジスキャナは、レンズの位相をモータで調整し、入射したレーザ光が出射する方向を制御するという前述の機構上、基準方向の目印が無い。そのため、マスタリング作業では、照射面に対して垂直で且つ焦点が合っている状態でガイドレーザ光を照射し、照射位置を目視にて確認しながら調整を行う。初めにレンズ間の相対角度を調整して原点位置を見付け、最後に直交動作方向の調整を行う。直交動作方向の調整では、ガイドレーザ光の照射位置を直交座標系での原点位置から任意方向へ動かし、基準方向に対する移動方向の角度を測定して記録する。ガイドレーザ光の照射位置を原点位置に動かした後、記録した前記角度の値をロボット制御装置41に設定して、マスタリングは終了する。
【0036】
以下、具体例を説明する。図9A及び図9Bに示すように、ロボットの基準座標系としてXR-YR-ZRの3次元直交座標系(原点:OR)を設定する。また、ロータリーウェッジスキャナ6の基準座標系としてXt-Yt直交座標系(原点Ot)を設定する。基準面R1は、XR-YR平面及びXt-Yt平面に平行である。
【0037】
ロータリーウェッジスキャナ6の原点位置を合わせる。その後、ガイドレーザ光Lが平坦な基準面R1に照射されるように、ロータリーウェッジスキャナ6が連結されたロボット2の位置及び姿勢を移動させる。この位置を位置P1として記憶する。ガイドレーザ光Lの照射位置P1に目印を付す。
【0038】
図10A及び図10Bに示すように、ロータリーウェッジスキャナ6の姿勢を維持したまま、ロボット2を直交座標系の任意の方向(例えば、+XR方向)に動かす。これにより、照射位置はP2へ移動する。
【0039】
図11A及び図11Bに示すように、ロボット2の位置及び姿勢を維持したまま、ロータリーウェッジスキャナ6から出射されるガイドレーザ光Lの照射位置を前記照射位置P1へ移動させる。
【0040】
ガイドレーザ光Lの照射位置の移動量ΔPから、ロボット2の基準方向とロータリーウェッジスキャナ6の基準方向とがなす角度Δθを計算する。そして、角度Δθがゼロとなるように、つまり、両基準方向が一致するように、マスタリングを行う。要するに、ロボット2の動作からロボット2の基準方向の情報である基準方向情報を取得し、取得した基準方向情報に基づいて、処理ツールの一例であるロータリーウェッジスキャナ6のマスタリングを行う。
【0041】
第2適用例においても、第1適用例と同様の効果が奏される。また。作業者が基準方向を認識しづらく、装置の導入後の保守時に専用設備が用意されていない環境であって、再マスタリング作業に手間が掛かる環境であっても、マスタリング作業を容易に行うことができる。
【0042】
〔第3適用例〕
次に、本発明の処理ツールのマスタリング方法が、ロボット及びガルバノスキャナを備えるロボットシステムに適用された例である第3適用例について、説明する。図12は、本発明が適用される第3適用例に係るガルバノスキャナの原理図である。
【0043】
第3適用例については、処理ツールの一例であるガルバノスキャナ7の構成及び原理について容易に説明する。図12に示すように、ガルバノスキャナ7は、レーザ発振器76から出射されるレーザ光Lを受けて、ワークWに対してレーザ光Lを走査可能なスキャナである。ガルバノスキャナ7は、レーザ発振器76から出射されるレーザ光Lを反射させる2つのガルバノミラー71、72と、ガルバノミラー71、72をそれぞれ回転駆動するガルバノモータ74、75と、集光レンズ73とを備える。集光レンズ73は、ガルバノミラー71、72によって順次反射されてワークWに向かうレーザ光Lを透過すると共に、集光する。
【0044】
ガルバノミラー71、72は、互いに直交する2つの回転軸J21、J22まわりにそれぞれ回転可能に構成される。ガルバノモータ74、75は、ツール制御装置42からの駆動データに基づいて回転駆動し、ガルバノミラー71、72を回転軸J21、J22まわりに独立して回転させる。
【0045】
レーザ発振器76から出射されたレーザ光Lは、2つのガルバノミラー71、72で順次反射された後にガルバノスキャナ7の集光レンズ73から出射され、ワークWの加工位置(溶接点。処理位置)に到達する。このとき、ガルバノモータ74、75により2つのガルバノミラー71、72がそれぞれ回転すると、これらガルバノミラー71、72に入射するレーザ光Lの入射角が連続的に変化する。その結果、ガルバノスキャナ7からワークWに対して所定の経路でレーザ光Lが走査され、そのレーザ光Lの走査経路に沿ってワークW上に溶接軌跡を形成するようになっている。ガルバノスキャナ7からワークW上に出射されるレーザ光Lの走査経路は、ガルバノモータ74、75の回転駆動を適宜制御してガルバノミラー71、72のそれぞれの回転角度を変化させることにより、X、Y方向に任意に変化させることができる。
第3適用例においても、第2適用例と同様の効果が奏される。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
2 ロボット
3 ハンドアーム(処理ツール)
6 ロータリーウェッジスキャナ(処理ツール)
7 ガルバノスキャナ(処理ツール)
24 ロボットアーム先端部(アーム先端部)
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12