(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 5/00 20060101AFI20240109BHJP
B25J 19/06 20060101ALI20240109BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B25J5/00 A
B25J19/06
B25J13/08 Z
(21)【出願番号】P 2022524538
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019187
(87)【国際公開番号】W WO2021235520
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020089282
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】森岡 昌宏
【審査官】國武 史帆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-094935(JP,A)
【文献】特開2006-026828(JP,A)
【文献】特開昭61-127597(JP,A)
【文献】特開平05-004177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットと、該ロボットを制御する制御装置とを備え、
前記ロボットが、台車と、該台車に搭載されるマニピュレータとを備え、
該マニピュレータが、1以上の関節に作用する力またはモーメントを検出するセンサを備え、
前記制御装置が、前記センサにより検出された力またはモーメントに基づいて、前記台車に作用するモーメントが転倒モーメントを超えない状態に前記マニピュレータおよび前記台車の少なくとも一方を制御
し、前記台車に対する前記マニピュレータの動作中の各位置において、前記転倒モーメントから前記台車に作用するモーメントを減算した差分モーメントを算出し、該差分モーメントが所定値になった時点で前記マニピュレータの動作を減速させ、
前記所定値が、前記台車に対する前記マニピュレータの動作中の各位置において、前記マニピュレータを非常停止させるために必要な減速トルクよりも大きな値に設定されるロボットシステム。
【請求項2】
前記センサが、水平な第2軸線回りのモーメントを検出する請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記マニピュレータが、前記第2軸線回りに、前記台車に対して回転駆動される第1アームを備え、
前記センサが、前記第2軸線近傍に設置されている請求項2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
ロボットと、該ロボットを制御する制御装置とを備え、
前記ロボットが、台車と、該台車に搭載されるマニピュレータとを備え、
該マニピュレータが、1以上の関節に作用する力またはモーメントを検出するセンサを備え、
前記制御装置が、前記センサにより検出された力またはモーメントに基づいて、前記台車に作用するモーメントが転倒モーメントを超えない状態に前記マニピュレータおよび前記台車の少なくとも一方を制御し、
前記マニピュレータが、水平な第2軸線回りに、前記台車に対して回転駆動される第1アームを備え、
前記制御装置は、前記台車に対する前記第1アームの動作中の各位置において、前記転倒モーメントから前記台車に作用するモーメントを減算した差分モーメントを算出し、該差分モーメントに対応する加減速度よりも小さい加減速度で前記第1アームを動作させ
るロボットシステム。
【請求項5】
前記マニピュレータが、前記第2軸線に平行な第3軸線回りに、前記第1アームに対して回転駆動される第2アームを備え、
前記制御装置は、前記差分モーメントが所定値になった時点で、前記センサにより検出されるモーメントを低下させる方向に前記第2アームを動作させる請求項
4に記載のロボットシステム。
【請求項6】
前記マニピュレータが、鉛直な第1軸線回りに、前記台車に対して回転駆動される旋回胴を備え、
前記第1アームが、前記第2軸線回りに前記旋回胴に対して回転駆動される請求項
4または請求項
5に記載のロボットシステム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記差分モーメントが所定値になった時点で、前記転倒モーメントを増大させる方向に前記旋回胴を動作させる請求項
6に記載のロボットシステム。
【請求項8】
前記センサが、前記第1軸線回りのトルクを検出するトルクセンサである請求項
6または請求項
7に記載のロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
台車に搭載されたマニピュレータを有する台車移動型ロボットが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この特許文献1には、台車搭載型ロボットの挙動に基づいて求められる実ZMPと、台車搭載型ロボットの起立状態が不安定となるZMP限界値とに基づいてZMPの目標変化分を設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、台車の移動中に、台車の加速度によって転倒しないように、マニピュレータの角度を調整する。しかしながら、台車移動型ロボットにおいては、台車による移動先において、その都度、固定具により台車を地面に固定せずにロボットを作動させる。したがって、台車の移動中のみならず、移動先の各作業場所に台車を停止させた状態においても、マニピュレータの動作による転倒を防止することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、ロボットと、該ロボットを制御する制御装置とを備え、前記ロボットが、台車と、該台車に搭載されるマニピュレータとを備え、該マニピュレータが、1以上の関節に作用する力またはモーメントを検出するセンサを備え、前記制御装置が、前記センサにより検出された力またはモーメントに基づいて、前記台車に作用するモーメントが転倒モーメントを超えない状態に前記マニピュレータおよび前記台車の少なくとも一方を制御するロボットシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係るロボットシステムを示す斜視図である。
【
図2】
図1のロボットシステムを示すブロック図である。
【
図3】
図1のロボットシステムに備えられる台車移動型ロボットの平面図である。
【
図4】
図1のロボットシステムに備えられる台車移動型ロボットの旋回胴の角度と転倒モーメントとの関係の一例を示す図である。
【
図5】
図3の台車移動型ロボットの旋回胴の角度θ1=0°のときの各部に作用するモーメントを説明する側面図である。
【
図6】
図3の台車移動型ロボットの旋回胴の角度θ1=90°のときの各部に作用するモーメントを説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の一実施形態に係るロボットシステム1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係るロボットシステム1は、
図1および
図2に示されるように、台車移動型ロボット(ロボット)2と、台車移動型ロボット2を制御する制御装置3とを備えている。制御装置3は、例えば、台車移動型ロボット2に内蔵されている。
【0008】
台車移動型ロボット2は、路面を走行可能な自走式または手押し式の台車4と、台車4に搭載されたマニピュレータ5とを備えている。
台車4は、例えば、4輪車であり、その上面にマニピュレータ5を搭載するとともに、マニピュレータ5の動作範囲内にワーク等を搭載する載置台6を備えている。図中、符号14は台車4の車輪である。
【0009】
マニピュレータ5は、台車4の上面に固定されたベース7と、鉛直な第1軸線J1回りにベース7に対して回転可能に支持された旋回胴8とを備えている。また、マニピュレータ5は、水平な第2軸線J2回りに旋回胴8に対して回転可能に支持された第1アーム9と、第2軸線J2に平行な第3軸線J3回りに第1アーム9に対して回転可能に支持された第2アーム10と、第2アーム10の先端に備えられた3軸の手首ユニット11とを備えている。マニピュレータ5の形態は直立多関節型に限定されるものではなく、水平多関節型、直動型等任意の形態のものを採用することができる。
【0010】
第1アーム9には、
図1に示されるように、第2軸線J2近傍に、第2軸線J2回りのモーメントを検出するトルクセンサ(センサ)12が備えられている。第2軸線J2回りのモーメントを検出するトルクセンサ12は、マニピュレータ5から台車4に作用するモーメントそのものを検出できる。
また、手首ユニット11の先端には、ワーク(図示略)を把持するハンド13が装着されている。
【0011】
制御装置3は、プログラム等を記憶する記憶部16と、記憶部16に記憶されているプログラムに従ってマニピュレータ5を制御する制御部17とを備えている。記憶部16はメモリ、制御部17はプロセッサおよびメモリにより構成されている。
【0012】
また、制御装置3は、トルクセンサ12により検出された第2軸線J2回りのモーメントを受け取って、台車4に対して動作しているマニピュレータ5の各位置において、検出されるモーメントが転倒モーメントMaを超えない状態にマニピュレータ5を制御する。
【0013】
転倒モーメントMaは、マニピュレータ5から台車4に作用するモーメントであって、台車4が転倒する限界値である。転倒モーメントMaは、ベース7に対する旋回胴8の第1軸線J1回りの角度θ1に応じて予め記憶部16に記憶されている。
例えば、
図1および
図3に示されるように、台車4の4つの車輪14が配置され、第1軸線J1が、左右の車輪14の中央に、前後の車輪14の前輪寄りに配置されている場合には、転倒モーメントMaは、
図4に示されるように、角度θ1に応じて変化する。
【0014】
そして、例えば、
図5に示されるように、マニピュレータ5の旋回胴8が、ベース7に対して台車4の進行方向前方に向かう原点位置(θ1=0°)に配置されている状態においては、台車4が静的に転倒する条件は、下式(1)の通りである。
【0015】
L1×W1<L2×W2 (1)
ここで、
W1は台車4の質量、
L1は台車4の前輪の中心から台車4の重心までの距離、
W2はマニピュレータ5、ハンド13およびワークの質量、
L2は台車4の前輪の中心からマニピュレータ5、ハンド13およびワークの合計の重心までの距離である。
【0016】
質量W1,W2および距離L1は既知の値である。
距離L2はマニピュレータ5の姿勢によって定まる値であるが、トルクセンサ12により検出される第1軸線J1回りのモーメントMを用いて下式(2)のように算出できる。
【0017】
M=(L2+L3)×W2 (2)
ここで、L3は台車4の前輪の中心から第1軸線J1までの距離であり、既知の値である。
【0018】
式(2)を用いて式(1)を変形すると、下式(3),(4)の通りとなる。
L1×W1<(M/W2―L3)×W2 (3)
M>L1×W1+L3×W2=Ma(θ1) (4)
ここで、
Ma(θ1)は、角度θ1に応じて変化する転倒モーメントである。
【0019】
すなわち、式(4)の左辺のモーメントMが右辺の転倒モーメントMa(θ1)を超えると台車4が転倒する。
制御装置3は、トルクセンサ12により検出されたモーメントMと転倒モーメントMaとの差分である差分モーメントをマニピュレータ5の各位置において、その都度算出する。
【0020】
一般には、定格以下の質量のワークを把持している限り、式(4)の転倒条件が満たされることはなく、マニピュレータ5は、全動作範囲にわたって、台車4を転倒させることなく、動作できるように設計される。しかしながら、マニピュレータ5の動作範囲を制限しても取り扱うワークの定格質量を増大させたい場合もあり、そのような場合に、台車4の転倒を考慮する必要がある。
【0021】
台車4が転倒する状況は、以下の通りである。
第1に、例えば、ハンド13に重いワークを把持した状態で、第1アーム9および第2アーム10を台車4の進行方向前方に伸ばしていくと、式(4)の転倒条件に近づいていき、ある時点で差分モーメントがゼロになり、台車4が転倒する。この場合の転倒を回避するために、制御装置3は、式(4)の転倒条件が満たされる前に、マニピュレータ5の動作を停止させる。
【0022】
第2に、式(4)の転倒条件に近づく方向に移動しているマニピュレータ5を停止させるために減速すると、減速トルクに等しい反力トルクが追加されることにより、台車4に作用するモーメントが急激に増大して式(4)の転倒条件が満たされる。
この場合の転倒を回避するためには、制御装置3は、台車4に対するマニピュレータ5の動作中の各位置において、その都度算出された差分モーメントが所定値となった時点でマニピュレータ5の動作を減速させる。
【0023】
マニピュレータ5が動作中に非常停止させられる場合に、最も大きな減速トルクが発生するので、所定値としては、非常停止に必要な減速トルク以上の値を設定することが好ましい。
非常停止に必要な減速トルクは、マニピュレータ5の動作速度によって異なるので、各位置における動作速度に基づいて算出される。
【0024】
マニピュレータ5が、式(4)の転倒条件に近づく方向に移動している場合、非常停止時の減速度よりも小さな減速度によって減速しても、転倒条件にさらに近づくことになるが、速度が低下することによって非常停止に必要な減速トルクが低下する。したがって、式(4)の転倒条件が満たされない状態を保ちながらマニピュレータ5を動作させることができ、仮に、非常停止指令がなされても、台車4を転倒させずに済む。
【0025】
第3に、マニピュレータ5がいずれかの軸を加速したために、反力によって動的に発生するモーメントによって、式(4)の転倒条件が満たされる場合がある。
例えば、
図5の位置において、式(4)の転倒条件が満たされていない場合であっても、第1アーム9が第2軸線J2回りに、反時計回りに加速すると、台車4には時計回りの反力トルクが作用する。これにより、式(4)の転倒条件が満たされて台車4が転倒することがある。この場合には、制御装置3は、第1アーム9の反時計回りの加速度の大きさを制限する。
【0026】
このように、本実施形態に係るロボットシステム1によれば、マニピュレータ5に設けたトルクセンサ12によって台車4に作用するモーメントを検出し、制御装置3が、検出されるモーメントが転倒モーメントMaを超えない状態にマニピュレータ5を制御する。これにより、台車4を停止させた状態で、台車4を転倒させずにマニピュレータ5を動作させることができるという利点がある。
【0027】
なお、本実施形態においては、動作指令に基づくマニピュレータ5の動作軌跡を変更することなく、動作速度あるいは加減速度を調整することにより、台車4の転倒を防止する場合を例示した。これに代えて、動作指令に基づくマニピュレータ5の動作軌跡を変更することにより、台車4の転倒を防止することにしてもよい。
【0028】
例えば、上述したように、台車4の転倒モーメントMaは、第1軸線J1回りの旋回胴8の角度θ1に応じて変動する。
図4の場合には、角度θ1=0°のときに転倒モーメントMaが最も小さいので、
図6に示されるθ1=90°の場合よりも、
図5に示されるθ1=0°の場合の方が転倒し易い。したがって、マニピュレータ5の動作の各位置において、トルクセンサ12により検出されたモーメントがその時点での角度θ1における転倒モーメントMaに近い場合に、より大きな転倒モーメントMaとなる角度θ1に旋回胴8を回転させてもよい。
【0029】
また、例えば、台車4が自走式である場合であって、第1アーム9が
図5において時計回りに回転している場合に、第1アーム9を減速すると台車4が前方に転倒する場合には、制御装置3は、台車4を前進方向に加速させるよう制御してもよい。これにより、マニピュレータ5から台車4に作用するモーメントを軽減することができ、台車4の転倒を防止することができる。
【0030】
あるいは、第1アーム9が
図5において時計回りに回転している場合に、第1アーム9を減速すると台車4が前方に転倒する場合には、第2アーム10を第1アーム9に対して第3軸線J3回りに、時計回りに加速してもよい。
この場合にも、マニピュレータ5の重心位置を第2軸線J2に近接させて、マニピュレータ5から台車4に作用するモーメントを軽減することができるとともに、第2アーム10の加速による反力トルクを第1アーム9に発生させて、モーメントを軽減することができる。
【0031】
旋回胴8を回転させたり、第2アーム10を回転させたりする場合には、動作指令に基づくマニピュレータ5の動作ではないため、台車移動型ロボット2と周辺機器との間に、干渉が生じないことを確認しておく必要がある。
【0032】
また、本実施形態においては、第2軸線J2回りのモーメントを検出するトルクセンサ12を第1アーム9との間に設けたが、旋回胴8またはベース7に内蔵したり、台車4とベース7との間に設けたりしてもよい。これに代えて、少なくとも1つの関節に作用する力またはモーメントを検出する加速度センサ等の力センサあるいはトルクセンサを採用してもよい。
【0033】
また、本実施形態においては、台車4が停止している状態でマニピュレータ5を動作させたときに台車4が転倒しない状態にマニピュレータ5を制御する場合について説明した。これに代えて、台車4が動作している状態でマニピュレータ5を動作させたときに適用してもよい。この場合には、台車4の加減速度により台車4に作用するモーメントを追加して考慮すればよい。
【符号の説明】
【0034】
1 ロボットシステム
2 台車移動型ロボット(ロボット)
3 制御装置
4 台車
5 マニピュレータ
8 旋回胴
9 第1アーム
10 第2アーム
12 トルクセンサ(センサ)
J1 第1軸線
J2 第2軸線
J3 第3軸線
Ma 転倒モーメント