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特許7414989フローチャンバー内の主ガスの流れの検出方法、そのためのガス混合物の使用、およびガス混合物
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  • 特許-フローチャンバー内の主ガスの流れの検出方法、そのためのガス混合物の使用、およびガス混合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】フローチャンバー内の主ガスの流れの検出方法、そのためのガス混合物の使用、およびガス混合物
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/45 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
G01N21/45 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022528250
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2020082737
(87)【国際公開番号】W WO2021099494
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】102019131328.7
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511201071
【氏名又は名称】ラヴィジオン・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ベルク・トーマス
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5127264(US,A)
【文献】特開2006-201063(JP,A)
【文献】特開2005-282892(JP,A)
【文献】特開平08-166400(JP,A)
【文献】米国特許第5153665(US,A)
【文献】流れ場の新しい可視化技術(Background Oriented Schlieren:BOS)の研究,2019年06月29日,http://pel.mech.muroran-it.ac.jp/未分類/bos.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00- G01N 21/01
G01N 21/17- G01N 21/61
G01N 33/00
G01M 9/00- G01M 9/08
G01F 1/56- G01F 1/90
G01P 5/00- G01P 5/26
G01P 13/00- G01P 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローチャンバー(10)内の主ガスの流れ(18)を検出するための方法であって、フローチャンバー(10)内で流れている主ガス(18)に局所的に注入ガスが注入され、主ガス(18)の流れを表す注入ガスの動きが、結像光学系(30)が前置された画像検出器(28)を使ってイメージング検出され、
注入ガスとして、主ガス(18)と一緒に動くガス混合物(34)が使用され、ガス混合物(34)が、主ガス(18)と識別可能な屈折率を有しており、イメージング検出が、背景シュリーレン測定法を使って行われる方法において、
ガス混合物(34)が、
【数1】
<2g/mol、
および
【数2】
>70、
(式中、mは主ガスのモル質量およびn’は主ガスの屈折率、mは注入ガスのi番目のガス成分のモル質量およびn’は当該ガス成分の屈折率、Nは注入ガスのガス成分の数、ならびにaは注入ガス中のガス成分のそれぞれの相対モル分率である)
を満たすように配合され、その結果、ガス混合物(34)が、相対運動なく、0.1~1.0m/sの流速で流れる主ガス(18)と一緒に動き、
前記ガス混合物が、He25%、Ar55%およびO 20%、
またはHe55%、Kr25%およびO 20%、
またはHe65%、Xe15%およびO 20%、
を含んでおり、それぞれ、積算して100%になる個々のガス成分の量の許容差が+/-1%であることを特徴とする方法。
【請求項2】
背景シュリーレン測定法に必要なパターン化された背景が、画像検出器の視野内で主ガスの流れの後ろに配置された投影面のコヒーレント照明によって生成されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
投影面の少なくとも一領域が、フローチャンバーの間仕切壁によって構成されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項4】
投影面の少なくとも一領域が、フローチャンバー内に配置された物体の外壁によって構成されることを特徴とする、請求項またはに記載の方法。
【請求項5】
結像光学系(30)が、投影面(14)の後ろに置かれた点(36)へと焦点調節されることを特徴とする、請求項のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
結像光学系(30)が、鮮明に結像される距離範囲内に主ガスの流れ(18)があるように絞られることを特徴とする、請求項1~のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
主ガス(18)へのガス混合物(34)の注入が、1つまたは複数のディフューザー(32)を使って行われることを特徴とする、請求項1~のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数のディフューザー(32)がガス混合物(34)用の引込管と一緒に、可動可能に、フローチャンバー(10)内に配置されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項9】
ガス混合物(34)が、人間にとって無毒であり、窒息性でないガス成分だけを含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローチャンバー(Stroemungsraeumen)内のとりわけ遅い主ガスの流れ、すなわち、とりわけ流速0.1~1m/s、好ましくは0.3~0.5m/sの主ガスの流れを検出するための方法であって、フローチャンバー内で流れている主ガスに局所的に注入物質(Impfsubstanz)を注入し、主ガスの流れを表すこの注入物質の動きを、結像光学系が前置された画像検出器を使ってイメージング検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬産業における充填工程、例えば販売のために指定されたポーションバイアル内への医薬液剤の充填は、いわゆるフローボックス内で行われるのが典型的である。フローボックスは、たいていは透明な壁をもつ覆いであり、この覆いが、作業台上に配置された充填装置を取り囲み、非滅菌物のあらゆる侵入を防ぐため、滅菌ろ過された空気によって貫流される。ここでは主ガスの流れとも言うそのような空気の流れは、定めた設定に従っていなければならない。典型的なのは、とりわけフローチャンバー、すなわちここではフローボックスを好ましくは層流状に上から下へと貫流し、設定された流出口でのみ外に出ていく流速0.3~0.5m/sの遅い流れである。ただしこの流れは、流れの中にある構造物およびフローボックス内に取り付けられた物体によって乱される。それにもかかわらず、定められた流れパラメーターの順守は充填プロセスの本質的な品質基準であり、当局の厳しいチェックを受ける。こうして米国では、例えば米国食品医薬品局FDAが、流れ特性の規則通りの検査および記録を行う。このために定められた方法は、主ガスの流れに、ノズルにより局所的に注入物質としてのグリコールエアロゾルを注入することを規定している。入射光がエアロゾルで散乱され、これにより、フローボックスの透明な壁を通してエアロゾルの動きを光学的に検出でき、とりわけビデオカメラを使って捕捉および記録できる。エアロゾルは、定義上は主ガスの流れと一緒に動く浮遊粒子なので、記録されたエアロゾルの動きが主ガスの動きを表すとみなすことができる。この場合、本来の充填装置のかなりの汚染が欠点であり、この汚染は、充填装置がグリコールエアロゾルで濡れることで生じる。したがって各流れ検査の後には、この充填装置が改めて運転可能になる前に、充填装置の集中的な洗浄が必要である。
【0003】
他の分野の当業者には、例えば保護ガスが流れている中での食品の包装のように、または例えばサーバーファームもしくはさらに住居空間もしくは自動車の室内空間での、空間の強制換気の際のように、類似した場面が公知である。いずれの場合にも、それぞれの主ガスの流れの可視化がエアロゾルの注入によって行われるのが典型的であり、これが、上で挙げた欠点を生じさせる。
【0004】
例えばDE19942856B4(特許文献1)に詳細に記載された航空宇宙技術の分野から、しばしば英語の略語BOS(Background Oriented Schlieren)で表記されるいわゆる背景シュリーレン測定法が公知である。高速の流れの場合、流れの中に大きな圧力勾配が、したがって大きな、局所的な質量密度差が生じる。この質量密度差は、流れているガスの屈折率の相応の差を引き起こす。BOS法では、可視化されるべき流れの後ろにはパターン化された背景が、および流れの前にはこの背景に向けられた画像検出器が位置決めされる。画像検出器上での背景の結像は、光がそのときの背景点から画像検出器へと進む具体的な進路に依存しており、この進路は、偏向特性に、すなわち、とりわけ背景と画像検出器の間を通過する媒質の屈折率に依存している。上で解説したように、背景と画像検出器の間を通っている流れの屈折率は局所的に異なる可能性があり、これにより、異なる背景点から画像検出器に当たる光線は、その途中で異なる偏向を受ける。その結果として生じる検出されたパターンの変化は、公知の相関法によって計算でき、それにより屈折率勾配を可視化できる。計算には、当業者に公知の相関アルゴリズムを活用してもよい。可視化するには、画像検出器の各ピクセルに、相応の位置で計算された屈折率変化の値を割り当て、カラーでまたはグレースケールによって符号化する。このBOS画像を、この場面の従来の画像に重ねてもよい。流れの可視化のためのBOS手法の枠内で画像処理法を利用してもよい。しかしながらすべては、流れに起因する屈折率の変化の位置分解された測定に基づいており、この屈折率の変化は、可視化されるべき流れを通した、パターン化された背景の経時的に変化する結像に現れる。BOS法は熱流の可視化にも適しており、すなわち、例えば流れの局所的な加熱のような温度差による関連する密度差が生じる場合にも適している。
【0005】
BOS法のために必要なパターン化された背景は、相応にパターン化された面によって提供されるのが典型的である。パターンは、面に印刷、接着、投影してもよく、または別のやり方で、画像検出器によって検出可能な手法において施してもよい。上で挙げた文献は、これに加えて天然の背景の使用の可能性を開示しており、画像検出器の相応に高い分解能および上で概説したBOS法の実施に十分な計算能力の場合、天然の背景の天然のパターンで十分である。
【0006】
Meier, A. H.;Roesgen, Th.:「Improved background oriented schlieren imaging using laser speckle illumination」Exp. fluids (2013) 54:1549 (DOI 10.1007/s 00348-013-1549-8)(非特許文献1)から、熱流をBOSベースで可視化するための背景として、画像検出器から見て蝋燭の炎の後ろに位置決めされた投影面を使用し、この投影面の大部分をコヒーレント光で照射する、すなわちコヒーレントに照明することが公知である。このようなコヒーレント照明の場合、干渉現象に基づき、実質的に点パターンとして現れるいわゆるレーザースペックルが生じる。それぞれの空間的な質量密度の状況、したがって屈折率の状況に応じて、この点パターンが画像検出器上に異なって結像される。その他の点では古典的なBOS法についての上記の解説を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】DE19942856B4
【非特許文献】
【0008】
【文献】Meier, A. H.;Roesgen, Th.:「Improved background oriented schlieren imaging using laser speckle illumination」Exp. fluids (2013) 54:1549 (DOI 10.1007/s 00348-013-1549-8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、フローチャンバー内のとりわけ遅い主ガスの流れを検出するための属概念の方法を、フローチャンバーの不利な汚染が生じないようにさらに発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、請求項1のプリアンブルの特徴と関連して、注入物質として、相対運動なく主ガスと一緒に動き、主ガスと識別可能な屈折率を有するガス混合物(以下に、注入ガスとも言う)を使用し、背景シュリーレン測定法(BOS法)を使ってイメージング検出を行うことによって解決される。
【0011】
本発明の好ましい実施形態は従属請求項の対象である。
【0012】
本発明は2つのアイデアをベースとする。第1のアイデアに基づき、汚染を引き起こすことを根拠として不利な、注入物質としてのエアロゾルを、相対運動なく主ガスと一緒に動くのに適したガス混合物と取り換える、すなわち注入ガスは、主ガスに類似する質量密度を有していなければならない。「相対運動なく」とは、この文脈では「質量差に起因する自己運動がない」の意味において、本方法の実施中に、すなわち、それぞれ当該の流速および貫流距離の場合に、主ガスと注入ガスの流速の(方向および量の)ズレが生じない、または目標とする測定精度にとって決定的なズレが生じないということである。上で既に言及したように、典型的な流速は、0.1~1.0m/sの範囲内、好ましくは0.3~0.5m/sの範囲内である。典型的に重要な距離は、それぞれのフローチャンバーの長さ寸法である。本発明にとって重要な、注入ガスと主ガスの間の相対運動がないことをさらに達成するために、主ガスの検出される流速が大きいほど、およびそれぞれの貫流距離が小さいほど、注入ガスと主ガスの質量密度の許容可能なズレがより大きくなり得ることを、当業者は理解されよう。主ガスより明らかに重い注入ガスは、主ガスの流れとは関係なく沈下するであろうし、明らかにより軽い注入ガスは、これとは反対に上昇するであろう。いずれの場合にも、注入ガスの動きが主ガスの流れを望ましい程度に表すことはなくなるであろう。
【0013】
この手法により、注入物質としてエアロゾルを使用する際に生じるような、フローチャンバー内の汚染の問題は回避される。ただし注入ガスおよび主ガスは、典型的には光スペクトル領域内で透明であり、それどころか不可視なので、従来のカメラには識別できない。したがって本発明は、さらなる基本的アイデアとして、注入ガスの検出を、当業者に基本的に公知の背景シュリーレン測定法を使って行う。ただしこのためには注入ガスが、主ガスと(BOS法の枠内で)識別可能な屈折率を有する必要がある。光学的に識別可能な別の方式、例えば色差またはエアロゾルの場合のような散乱は、本発明の枠内では必要なく、それどころか望ましくない。当業者は、主ガスに対する注入ガスの前述の特性、すなわち、同じ圧力条件および温度条件での類似する質量密度および類似しない屈折率が存在しなければならないことを、理解されよう。なぜなら、典型的には遅い流速のために、流れの中で自然に発生する圧力差も、相応の屈折率変化を引き起こすほど十分に大きくはない。本発明の枠内では主ガスと注入ガスの大きな温度差が生成されることもなく、いずれにせよ温度差は流れている間になくなるであろう。
【0014】
主ガスに注入ガスを局所的にのみ注入することで、相応の屈折率の乱れも局所的に限定されるようになり、とりわけ主ガスの流れと一緒にフローチャンバーを動いていくようになる。そして、上で解説したようにBOS法は屈折率差の経時的変化の検出に基づくので、BOSを使って可視化された乱れが主ガスの流れを表すとみなし得る。したがって本発明による方法は、主ガスの流れの間接的な可視化を可能にする。
【0015】
本発明にとって特に重要なのは、注入ガスが、ガス混合物、すなわち様々な種類の純ガスの混成物ということである。すなわちこうすることでしか、上で既に解説した本発明の本質をなす質量密度および屈折率に関する特性を有する注入ガスを生成することができない。これに関しては、本発明者が突き止めたように、注入ガスの様々なガス成分が本発明による方法の実施の枠内で分離して、とりわけ様々なガス成分の純粋な形態の質量密度が異なることに基づき、主ガスに対する望ましくない相対運動をするおそれがあると懸念する必要はない。むしろ配合されたガス混合物の特性は維持され続ける。
【0016】
とりわけ主ガスの動きが遅い場合の、主ガスとしての空気のための特に有利な例示的な注入ガスは、酸素20%、ヘリウム25%およびアルゴン55%からのガス混合物であることが明らかとなり、これに関し、それぞれ+/-1%のズレは問題ないとみなすことができる。このようなガス混合物は、モル質量29.3g/molおよび屈折率n’215((n-1)×10として提示しており;この場合nは無次元屈折率である)を有する。したがって空気に対するモル質量の差は1.5g/molで十分に小さく、よって数メートル超の低い流速の場合でさえ、主ガスである空気に対する相対運動を懸念しなくてよい。他方で-73という屈折率差は、BOSベースの検出方法が流れの可視化に関する非常に良好な結果をもたらす程度に大きい。
【0017】
下の表は、主ガスとして空気を用いた本発明による方法のための、本発明による注入ガスとして適しているさらなる例示的なガス混合物と、空気に対するこれらのガス混合物のモル質量および屈折率の差を提示している。これらの例示的な設定に基づいて、それぞれの適用事例(主ガス、流速、貫流距離、画像検出器の分解能など)のために最適なガス混合物を配合すること、およびその際に任意選択的に、様々な純ガスの異なる価格から生じる経済的観点も考慮することは、当業者には容易であろう。
【0018】
【表1】
【0019】
いずれの場合にも、個々のガス成分の量に関する+/-1%のズレはほとんど問題がない。
【0020】
十分に相対運動がなく、および屈折率が十分に識別可能であるという特性を有しており、注入ガスとして好適とみなされるガス混合物に関する一般式として、下式を示すことができる。
【0021】
【数1】
<2g/mol、好ましくは<1g/mol、特に好ましくは≦0.5g/mol、
および
【0022】
【数2】
>70、好ましくは>100、特に好ましくは≧110
(式中、mは主ガスのモル質量およびn’は主ガスの屈折率、mは注入ガスのi番目のガス成分のモル質量およびn’は当該ガス成分の屈折率、Nは注入ガスのガス成分の数、ならびにaは注入ガス中のガス成分のそれぞれの相対モル分率である)である。言い換えれば、主ガスと注入ガスのモル質量差の絶対値が2g/mol未満、好ましくは1g/mol未満、特に好ましくは0.5g/mol以下であり、主ガスと注入ガスの屈折率差の絶対値が70超、好ましくは100超、特に好ましくは110以上であることが好適である。その際、注入ガスのモル質量および屈折率は、注入ガスのガス成分のそれぞれの相対モル分率を用いて平均された、これらガス成分の相応の値として計算される。個々のガス成分は、好ましくは純ガスであり、それ自体は既にガス混合物となっておらず、1<N<6、すなわち少なくとも2種から多くとも5種、好ましくは3種または4種、特に好ましくはちょうど3種の純ガスを、ガス混合物の製造に使用することが好ましい。
【0023】
もちろん、上の表には挙げていないその他の純ガスも、本発明による注入ガスの成分として使用可能である。ただし、とりわけ当該のフローチャンバーが通常運転中にすべての人間の職員から気密に隔てられてはいない典型的な適用事例では、ガス混合物が、人間にとって無毒であり、窒息性でないガス成分だけを含む場合が適当である。これに対し爆発の危険がある適用では、酸化力のあるガスの使用をやめることが望ましい。使用可能なガスのこのような制限は、とりわけ労働安全規則の文脈において重要であろう。
【0024】
主ガスへの注入ガスの注入は、1つまたは複数のディフューザーを使って行われることが好ましい。ノズルによる導入とは違いディフューザーによる導入の場合、注入ガスがほぼ自己運動なく主ガスの流れの中に入り、したがって注入ガスの初期の自己速度に基づく相対運動が発生し得ない。1つまたは複数のディフューザーは、接続された注入ガス引込管と一緒に移動可能、とりわけ可動可能に、当該のフローチャンバー内に配置することができ、したがってフローチャンバー全体の流れの分布を可視化し得る。
【0025】
背景シュリーレン測定法に必要なパターン化された背景は、画像検出器の視野内で主ガスの流れの後ろに配置された投影面のコヒーレント照明によって生成されるのが好適である。
【0026】
その際、投影面の少なくとも一領域をフローチャンバーの間仕切壁によって構成することができる。その代わりにまたはそれに加えて、投影面の少なくとも一領域をフローチャンバー内に配置された物体の外壁によって構成することができる。これに関し、画像検出器と投影面の間の透明な壁、例えばフローボックスの前面窓は基本的に障害とならない。
【0027】
すなわちレーザースペックルBOS法の特別な利点は、レーザースペックルパターンが、結像光学系の距離調節に関係なく、画像検出器上で常に鮮明に結像されることにある。この特性は、レーザースペックルパターンの発生の基礎になっている干渉の物理学から明らかである。他方で、現実の背景パターンを用いる従来のBOS形式によって公知なのは、可視化すべき流れと、結像光学系が鮮明な結像のためにそこに焦点調節しなければならないパターン化された背景との間隔が遠いほど、この方法の感度がより大きくなるということである。その理由は、可視化の基礎となっている光偏向の乱れが、通り抜ける道程が長いほどより強く現れる角度現象であることに見出せる。流れと背景の間の大きな間隔は、例えば航空宇宙技術において用いられるような従来のBOS法では問題ない。これに対し狭いフローチャンバー内での測定では、寸法が明らかにより小さいのが典型的であり、フローチャンバー自体の間仕切壁であれ、またはフローチャンバー内に配置された物体、例えば構造物もしくは機械の外壁であれ、壁のすぐ近くの流れにとりわけ関心がある。これが特に当てはまるのは、例えばフローボックス内の流れの可視化の好ましい適用事例の場合である。ここで、フローボックスのうち画像検出器とは反対側の後面壁に、現実にパターン化された背景を設置し、結像光学系をこの背景上に焦点調節する場合、これは、この方法の感度を明らかに制限する。しかしながら本発明の枠内で好ましく実現されるようなレーザースペックルBOS法を適用する場合、レーザースペックルパターンを、フローボックスの後面壁へ、フローボックス内の支持体へ、および/またはそれどころかフローボックス内で充填されるべき容器自体へ、直接的に投影できる。画像検出器の結像光学系はそれに対して、(任意選択的に複数の平面を組み合わせた)投影面の後ろの一点へと調節することができ、これによりパターンを仮想的に後ろへずらすことができる。これに相応して測定の感度が上昇する。
【0028】
結像光学系のこのような遠くへの調節の際に、可視化されるべき流れの動きが起こっているフローチャンバー領域も鮮明に結像し得るためには、鮮明に結像される距離範囲内に主ガスの流れがあるように結像光学系を絞ることが好ましい。言い換えれば、結像光学系を、感度を上げるために本来の投影壁の後ろにある一点へと焦点調節しているにもかかわらず、結像光学系により、流れの領域内にある構造を一緒に内包する焦点深度範囲が実現されている。
【0029】
投影壁のコヒーレント照明は、画像検出器の光軸に対して同軸に位置合わせされて流れを通り抜けるレーザーを使って行うことが好ましい。これが、結像精度にとって特に好適であることが分かった。これに関し、画像検出器の光軸に対して非同軸に位置合わせされたレーザーの光は、ビームスプリッターを使って画像検出器の光軸へと向きを変えることができる。すなわち、画像検出器によって検出される光は、屈折率の乱れを二重に、すなわち1回目は投影光として投影壁への途中で、2回目は検出光として投影壁から画像検出器への途中で、通っている。これは、屈折率の乱れによって引き起こされる光線偏向を大きくする。ただし、投影光と検出光の非同軸の位置合わせの場合、検出器上で、画像評価にとって邪魔な、いわゆるゴースト像が発生する。もちろん、投影光が流れを事前に通過せずに投影壁を照明する形態、または発生するゴースト像が、敏感な検出器領域の外に向くように、投影壁を斜めに照射する形態も考えられる。
【0030】
本発明のさらなる詳細および利点は、以下の個別的な説明および図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】フローボックス内の空気の流れを可視化するための本発明による方法の実施の概略図である。
図2】本発明による方法を実施する際の好ましい画像検出器調節を図解するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図中の同じ符号は同じまたは類似の要素を示している。
【0033】
図1は、いわゆるフローボックス10の例において本発明による方法を実施するための構造を非常に概略化した形態で図解している。フローボックス10は、透明な前面壁12および艶消しされた後面壁14を有している。後面壁14の艶消しは、例えば、透明な後面壁14の外側または内側に、マットスクリーン、例えば白い紙を施すことで行うことができる。透明でない後面壁14の場合には、このような措置は不要である。フローボックス10はその上側領域で、矢印記号で表される空気接続16を有しており、この空気接続16を介し、滅菌ろ過された空気をフローボックス10の内部に入れることができる。前述の実施形態では、この滅菌ろ過された空気が主ガスとして用いられている。もちろん、その他の種類の主ガスも本発明の枠内で使用可能である。
【0034】
導入された主ガスは、詳細には図示していない空気誘導要素を介し、同様に矢印として図示された主ガスの流れ18の中へと向きを変えられ、この主ガスの流れ18は、図示した実施形態では、実質的に層流状に下へ、フローボックス10の12、14、流れている。フローボックス10内の作業台20上には、任意の機器、とりわけ医薬液剤用の充填設備を設置してもよい。もちろん本発明の枠内でその他の種類の設備も考えられる。図1では、このような装入物または中に入れた物体を概略的に障害物21として図示している。フローボックス10の下側領域には、主ガスの流れ18のための唯一の出口として設けられた横の空気出口22が配置されている。
【0035】
本発明による方法は、主ガスの流れ18が実際に所望の流路に沿っているかどうかを検査するために用いることができる。このために、後面壁14および(後面壁14を障害物21の外壁が遮っている場合には)障害物21の外壁へ、レーザースペックルパターンを投影し、それ故に後面壁14および障害物21の外壁が、組み合わされた投影面として働く。このためにレーザー24が設けられており、このレーザー24の好ましくは光スペクトル領域内にあるレーザー放射が、適切な偏向および拡張光学系26によって投影面に投影される。図1で左側に例示的に示唆したレーザースペックルパターン27が生じる。このレーザースペックルパターン27が、結像光学系30が前置された画像検出器28によってイメージング検出される。示した実施形態では、レーザー24の偏向および拡張光学系26は、レーザースペックルパターン27の投影の光軸が、画像検出器28へのレーザースペックルパターン27の結像の光軸に対して同軸にあるように形成されている。
【0036】
フローボックス10内の可動可能なディフューザー32により、注入ガス34、すなわち一般的な説明の枠内で詳細に論じた特性をもつガス混合物が、主ガスの流れ18に混ぜ合わされる。ディフューザー32が可動可能であることにより、空間的な流れ画像を作成するために、注入場所の簡単な変更が可能になる。ディフューザー32により、ほとんど自己速度なく主ガスの流れ18の中に入った注入ガス34は、相対運動なく流れ18に追従し、しかしながらこの注入ガス34が、流れ18の屈折率の局所的な乱れを生成する。この屈折率の乱れは、2通りに影響を及ぼす。一つには、この屈折率の乱れが、レーザースペックルパターン27の投影面への投影を変化させることであり、もう一つには、この屈折率の乱れが、画像検出器28上へのパターン27の結像に影響を及ぼすことである。注入ガス34、したがって注入ガス34によって引き起こされた屈折率の乱れは主ガスの流れ18と一緒に動くので、屈折率の乱れは経時的に変化する。次いで、とりわけ明らかに1秒未満、好ましくは1/10秒未満、特に好ましくは1/100秒未満の時間間隔をあけて時間的に相次ぐ撮影と、結果として生じる画像のとりわけ相関アルゴリズムによる比較とが、引き起こされた乱れのそれぞれ空間的に割り当てられた値の計算および表示を可能にする。それにより、このように乱された主ガスの流れ18の可視化が可能である。したがって、本発明による方法を使って、流れ18の正しい軌道をほぼリアルタイムに検査できる。その際、フローボックス10の内部の構造、とりわけ障害物10は、少なくともおぼろげに認識可能なままである。このような細部の認識可能性を改善するため、この間に繰り返し何度も、非コヒーレント照明によって「通常の」画像を撮影して、計算したBOS画像に重ねることができる。スペクトル狭帯域レーザー照明が広帯域の周囲照明に加えて行われる通常の場合には、一方ではBOS画像の撮影のために、他方では「通常の」画像の撮影のために、相応のフィルターを備えた異なるカメラを用いてもよい。
【0037】
一般的な説明の枠内で既に解説したように、結像光学系30を、図2で概略的に図解したように投影面(そのうち図2では見やすくする理由から後面壁14だけを示している)の後ろ、すなわちレーザースペックルパターン27の後ろの点36へと焦点調節することが好ましい。それにもかかわらず、場合によっては存在している障害物の外面を含む投影面のすべての領域のレーザースペックルが画像検出器28上で鮮明に結像される。これにより、この方法の感度の本質をなす量、すなわち屈折率の乱れとパターン化された背景との間隔が仮想的に拡大される。これに関し、離れた点36への焦点調節にもかかわらず、焦点深度範囲38がフローボックス10内の構造をまだ(十分に)鮮明に結像するように結像光学系30を絞る場合が好適である。
【0038】
個別的な説明において論じ、図に示した実施形態は、もちろん本発明の図解用の例示的実施形態にすぎない。ここでの開示を考慮した、可能な変形形態の幅広い多様性は、当業者に委ねられている。とりわけ、本発明による方法はその他の種類の空間内、例えば強制換気される空間内の流れの可視化にも適している。いずれの場合でも、レーザースペックル形式の適用は、空間的に狭い条件下での高感度の可視化が可能であるという利点を有する。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.フローチャンバー(10)内の主ガスの流れ(18)を検出するための方法であって、フローチャンバー(10)内で流れている主ガス(18)に局所的に注入物質が注入され、主ガス(18)の流れを表す注入物質の動きが、結像光学系(30)が前置された画像検出器(28)を使ってイメージング検出される方法において、
注入物質として、相対運動なく主ガス(18)と一緒に動くガス混合物(34)が使用され、ガス混合物(34)が、主ガス(18)と識別可能な屈折率を有しており、イメージング検出が、背景シュリーレン測定法を使って行われることを特徴とする方法。
2.背景シュリーレン測定法に必要なパターン化された背景が、画像検出器の視野内で主ガスの流れの後ろに配置された投影面のコヒーレント照明によって生成されることを特徴とする、上記1に記載の方法。
3.投影面の少なくとも一領域が、フローチャンバーの間仕切壁によって構成されることを特徴とする、上記1または2に記載の方法。
4.投影面の少なくとも一領域が、フローチャンバー内に配置された物体の外壁によって構成されることを特徴とする、上記1~3のいずれか一つに記載の方法。
5.結像光学系(30)が、投影面(14)の後ろに置かれた点(36)へと焦点調節されることを特徴とする、上記2~4のいずれか一つに記載の方法。
6.結像光学系(30)が、鮮明に結像される距離範囲内に主ガスの流れ(18)があるように絞られることを特徴とする、上記1~5のいずれか一つに記載の方法。
7.主ガス(18)へのガス混合物(34)の注入が、1つまたは複数のディフューザー(32)を使って行われることを特徴とする、上記1~6のいずれか一つに記載の方法。
8.1つまたは複数のディフューザー(32)がガス混合物(34)用の引込管と一緒に、可動可能に、フローチャンバー(10)内に配置されることを特徴とする、上記7に記載の方法。
9.ガス混合物(34)が、人間にとって無毒であり、窒息性でないガス成分だけを含むことを特徴とする、上記1~8のいずれか一つに記載の方法。
10.ガス混合物(34)が、
【数3】
<2g/mol、
および
【数4】
>70、
(式中、m は主ガスのモル質量およびn’ は主ガスの屈折率、m は注入ガスのi番目のガス成分のモル質量およびn’ は当該ガス成分の屈折率、Nは注入ガスのガス成分の数、ならびにa は注入ガス中のガス成分のそれぞれの相対モル分率である)
を満たすように配合されることを特徴とする、上記1~9のいずれか一つに記載の方法。
11.ガス混合物が、20+/-1%のO を含むことを特徴とする、上記1~10のいずれか一つに記載の方法。
12.ガス混合物が、そのガス成分としての2種~5種の純ガスから製造されることを特徴とする、上記1~11のいずれか一つに記載の方法。
13.ガス混合物が、He25%、Ar55%およびO 20%、
またはHe55%、Kr25%およびO 20%、
またはHe65%、Xe15%およびO 20%、
を含んでおり、それぞれ、積算して100%になる個々のガス成分の量の許容差が+/-1%であることを特徴とする、上記1~12のいずれか一つに記載の方法。
14.上記1~13のいずれか一つに記載の方法を実施するためのガス混合物の使用において、
ガス混合物が、
【数5】
<2g/mol、
および
【数6】
>70、
(式中、m は主ガスのモル質量およびn’ は主ガスの屈折率、m は注入ガスのi番目のガス成分のモル質量、およびn’ は当該ガス成分の屈折率、Nは注入ガスのガス成分の数、ならびにa は注入ガス中のガス成分のそれぞれの相対モル分率である)
を満たすように、N個のガス成分が配合されていることを特徴とする前記使用。
15.He25%、Ar55%およびO 20%、
またはHe55%、Kr25%およびO 20%、
またはHe65%、Xe15%およびO 20%からなっており、
それぞれ、積算して100%になる個々のガス成分の量の許容差が+/-1%であるガス混合物。
【符号の説明】
【0039】
10 フローボックス
12 10の前面壁
14 10の後面壁
16 空気接続
18 主ガスの流れ
20 作業台
21 障害物
22 空気出口
24 レーザー
26 偏向および拡張光学系
27 レーザースペックルパターン
28 画像検出器
30 結像光学系
32 ディフューザー
34 注入ガス/ガス混合物
36 焦点調節点
38 焦点深度範囲
図1
図2