(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】塩化物イオン選択性センサーを形成するための光硬化性試薬ならびにその製造方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/333 20060101AFI20240109BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01N27/333 331C
G01N27/416 351K
(21)【出願番号】P 2022535477
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(86)【国際出願番号】 US2020058206
(87)【国際公開番号】W WO2021118706
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-08-10
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508147326
【氏名又は名称】シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】キョン・ハ・チァー
(72)【発明者】
【氏名】ヂュー・テン
(72)【発明者】
【氏名】シィ・ヤン
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-256725(JP,A)
【文献】特開平03-033649(JP,A)
【文献】特開昭62-163960(JP,A)
【文献】特表2007-535678(JP,A)
【文献】特表2007-513320(JP,A)
【文献】特表2019-514351(JP,A)
【文献】特表2003-521248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性
及びエポキシ系
のイオン選択性塩化物センサー膜混合物であって、
少なくとも1種のエポキシ樹脂;
少なくとも1種の硬化剤;および
少なくとも1種の光硬化性化合物
を含
み、
少なくとも1種の硬化剤は、N
1
,N
1
,N
6
,N
6
-テトラアリルヘキサン-1,6-ジアミン、ポリプロピレンイミンテトラミンデンドリマー、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、前記混合物。
【請求項2】
少なくとも1種のエポキシ樹脂は、少なくとも1種の液状エポキシ樹脂である、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
少なくとも1種の液状エポキシ樹脂は、D.E.R.(商標)331、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の混合物。
【請求項4】
少なくとも1種の光硬化性化合物は、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンである、請求項1に記載の混合物。
【請求項5】
イオン選択性塩化物センサーであって、
ポリマー層;
電極層;
導体層;および
変換層
を含み、ポリマー層は、少なくとも1種のエポキシ樹脂、少なくとも1種の硬化剤、および少なくとも1種の光硬化性化合物を含む光硬化された混合物を含
み、
少なくとも1種の硬化剤は、N
1
,N
1
,N
6
,N
6
-テトラアリルヘキサン-1,6-ジアミン、ポリプロピレンイミンテトラミンデンドリマー、およびこれらの組み合わせ
からなる群から選択される、前記センサー。
【請求項6】
少なくとも1種のエポキシ樹脂は、少なくとも1種の液状エポキシ樹脂である、請求項
5に記載のセンサー。
【請求項7】
少なくとも1種の液状エポキシ樹脂は、D.E.R.(商標)331、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項
6に記載のセンサー。
【請求項8】
少なくとも1種の光硬化性化合物は、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンである、請求項
7に記載のセンサー。
【請求項9】
混合物は、紫外線スペクトル内の少なくとも1つの波長の光によって光硬化される、請求項
5に記載のセンサー。
【請求項10】
イオン選択性塩化物センサーを製作する方法であって、
有効量の少なくとも1種のエポキシ樹脂、少なくとも1種の硬化剤、および少なくとも1種の光硬化性化合物を混合して、光硬化性ポリマー混合物を形成する工程であり、光硬化性ポリマー混合物は単一の分配装置内に含有される前記工程と;
有効量の光硬化性ポリマー混合物を、不活性イオン選択性電極基材の表面上に分配する工程であり、不活性イオン選択性電極基材は、電極層、導体層、および変換層を含み、光硬化性ポリマー混合物は、不活性イオン選択性電極基材の電極層上に分配される前記工程と;
光硬化性ポリマー混合物に少なくとも1つの波長の光を照射し、それによって光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーを形成する工程と
を含
み、
少なくとも1種の硬化剤は、N
1
,N
1
,N
6
,N
6
-テトラアリルヘキサン-1,6-ジアミン、ポリプロピレンイミンテトラミンデンドリマー、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、前記方法。
【請求項11】
少なくとも1種のエポキシ樹脂は、少なくとも1種の液状エポキシ樹脂である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1種の液状エポキシ樹脂は、D.E.R.(商標)331、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種の光硬化性化合物は、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンである、請求項
10に記載の方法。
【請求項14】
光の少なくとも1つの波長は、紫外線スペクトル内にある、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
該当なし。
【0002】
連邦政府資金による研究または開発に関する記述
該当なし。
【背景技術】
【0003】
生物学的試料中の様々な分析物の存在および量を決定するために、イオン選択性電極(ISE)を使用することは、有用な診断技術になってきている。例えば、ISEは、ほんの一例として、マグネシウム、フッ化物、ナトリウム、カリウム、カルシウム、および塩化物イオンのような分析物を検出するために使用されてきた。これらのISEのいくつかは、多くの分析物を同時分析するために、しばしば臨床診断機器内に収容されている。
【0004】
ISEは、通常は、(1)(例として、シリケートまたはカルコゲニドを含む膜のような)ガラス膜;(2)(例として、フッ化物イオンの検出用のフッ化ランタン(LaF3)結晶の使用のような、単一物質のモノクリスタリットもしくはポリクリスタリットを含む膜のような)結晶性膜;および/または(3)イオン交換樹脂膜から構成される、少なくとも1種のイオン選択性膜を含む。
【0005】
イオン交換樹脂膜は、少なくとも1種の特定のイオン交換物質(樹脂)を含有する、特別の有機ポリマー膜に基づいている。特定の樹脂を利用することによって、単一原子イオンおよび複数原子イオンの両方を幅広く検出する選択性電極の製造が可能になる。
【0006】
ISEの1つのこうした使用は、生物学的試料、特に血液中の塩化物イオンの量の決定である。一般に当該技術分野で公知のイオン交換樹脂膜の製作は、少なくとも2つの成分を混合して、樹脂膜を形成することを含む。1つの非限定的実施形態では、イオン交換樹脂膜を形成する少なくとも2つの成分は、樹脂ペーストのような少なくとも1種の樹脂材料、および硬化剤ペーストのような少なくとも1種の硬化剤材料を含むことができる。少なくとも1種の樹脂材料と少なくとも1種の硬化剤の混合は、短い硬化時間(すなわち、約5分未満)をもたらす可能性があるので、プレミックスすることができず、基材上に材料を分配して混合するために、少なくとも2つの別の分配装置を必要とする別の材料を使用することは、理想的ではない可能性があり、樹脂膜およびISEの生産コストを増加させる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、塩化物ISEに組み込みおよび使用するためのイオン交換樹脂膜を形成する、単独で分配された(singularly-dispensed)混合物を形成するために一緒にプレミックスすることができる、少なくとも1種の光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物膜化合物を含む、ISEを製造するための改善された配合物、装置、および方法への需要が存在する。本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念が対象とするのは、こうした配合物、装置、および方法である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念による塩化物イオン選択性センサーで使用する、光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物膜の生成に利用される試薬の非限定的な実施形態を説明する図である。
【
図2】本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念による、塩化物イオン選択性膜を形成するための、エポキシ基と、(a)第一級アミン、(b)第三級アミンとの反応機構、ならびに(c)BF1とDMPAとの光開始、および次のBF1とエポキシ基との間のラジカル重合の反応機構の非限定的実施形態を説明する図である。
【
図3】本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念によって構成される光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーによって示される、(a)塩化物感度および(b)サリチレートバイアス、の安定性のグラフ表示の図である。
【
図4】3つの市販の塩化物センサーに対する、28日の期間にわたる塩化物感度の安定性のグラフ表示の図である。
【
図5】本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念によって構成される、5つの光硬化性、イオン選択性、塩化物センサーに対する、28日の期間にわたる塩化物感度の安定性のグラフ表示の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
例示的な図、実験、結果、および実験室手順を介して、発明の概念の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、発明の概念が、以下の記述で述べる、または図、実験および/もしくは結果で説明される、構成要素の構造および配置の詳細への適用に限定されないことを理解すべきである。本発明の概念は、他の実施形態が可能、または様々な方法で実施もしくは実行することができる。そのため、本明細書で使用する用語は、できるだけ広い範囲および意味を与える意図であり;実施形態は、例示的であって、網羅的ではないことを意味している。また、本明細書で用いられる語法および用語学は、説明の目的であって、限定的とみなされるべきではないことを理解すべきである。
【0010】
本明細書で特に定義されない限り、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念に関連して使用される科学的および技術的用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。さらに、文脈によって特に必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。酵素反応および精製技術は、製造業者の規格によって、または当該技術分野で一般に行われるように、または本明細書に記述のように実施される。前述の技術および手順は、一般に、当該技術分野で周知の、ならびに本明細書全体を通して引用され議論される、様々な一般的およびより具体的な引用文献に記述されているような、従来の方法によって実施される。本明細書に記述される分析化学、有機合成化学、ならびに医薬品化学および製薬化学に関連して利用される命名法、ならびに実験室手順および実験室技術は、当該技術分野において周知であり、一般に使用されるものである。
【0011】
本明細書で言及される全ての特許、公開特許出願、および非特許刊行物は、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念が関係する、当業者の技術レベルを示す。本出願のいずれか一部で参照された、全ての特許、公開特許出願、および非特許刊行物は、あたかも各個別の特許または出版物が参照により組み込まれるものと、特別にかつ個別に示されるのと同程度に、その全体の参照によって本明細書に明確に組み込まれる。
【0012】
本明細書で開示されるおよび/または特許請求される全ての組成物および/または方法は、本開示に照らして不必要な実験を伴うことなく、行い、実行することができる。本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の組成物および方法を、好ましい実施形態の観点から記述してきたが、本明細書に記述される組成物および/または方法に対し、ならびに方法の工程、または工程の順序において、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、変形を適用することができることは当業者には明白であろう。当業者に明白な全てのこうした類似する代用物および修正は、添付特許請求の範囲によって定義される発明の概念の趣旨、範囲および概念の範囲内にあるとみなされる。
【0013】
本開示により利用される場合、以下の用語は、特に断りのない限り、以下の意味を有すると理解されるべきである:
【0014】
単語「a」または「an」の使用は、特許請求の範囲および/または明細書において用語「含む(comprising)」と併せて使用される場合、「1つ」を意味してもよいが、「1つまたはそれ以上」「少なくとも1つ」、および「1つまたは1つより多く」の意味とも一致する。単数形「a」、「an」、および「the」は、特に文脈が明確に示さない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「化合物(a compound)」への言及は、1もしくはそれ以上、2もしくはそれ以上、3もしくはそれ以上、4もしくはそれ以上、またはより多数の化合物を指すことができる。用語「複数」は、「2つまたはそれ以上」を指す。特許請求の範囲における用語「または」の使用は、代替物のみを指す、または代替物が互いに排他的であると明示的に示されない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物のみ、ならびに「および/または」を指すという定義を支持する。本出願全体を通して用語「約」は、値が、装置、値を決定するために用いられる方法に対する誤差の固有の変動、または研究対象間中に存在する変動を含むことを示すために使用される。例えば、用語「約」が利用される場合、限定されるものではないが、指定される値は、特定された値から±20%、または±10%、または±5%、または±1%、または±0.1%変動する可能性があり、こうした変動は開示された方法を実施するのに適切であり、当業者によって理解される。用語「少なくとも1つ」の使用は、1、ならびに、限定されるものではないが、2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、100などを含む1を超える任意の量を含むと理解される。用語「少なくとも1つ」は、それが付されている用語に応じて100もしくは1000またはそれ以上に拡張してもよく;加えて、100/1000の量は限定的とみなすべきではなく、より高い限界もまた満足な結果を生む可能性がある。加えて、用語「X、YおよびZの少なくとも1つ」の使用は、Xのみ、Yのみ、およびZのみ、ならびにX、YおよびZの任意の組み合わせを含むと理解される。序数用語(すなわち、「第1の」、「第2の」、「第3の」、「第4の」など)の使用は、単に2つまたはそれ以上の項目間を区別する目的であり、別の項目を超えて1つの項目に任意の順番もしくは順序もしくは重要性、または例えば添加の任意の順序を示唆することを意味しない。
【0015】
本明細書および特許請求の範囲において使用する場合、用語「含む(comprising)」(ならびに「comprise」および「comprises」のようなcomprisinの任意の形態)、「有する(having)」(ならびに「have」および「has」のようなhavingの任意の形態)、「含む(including)」(ならびに「includes」および「include」のようなincludingの任意の形態)または「含有する(containing)」(ならびに「contains」および「contain」のようなcontainingの任意の形態)は、包括的または非制限的であり、付加的、列挙されていない要素または方法の工程を排除しない。
【0016】
本明細書で使用する用語「またはこれらの組み合わせ」は、用語に先行する列挙された項目の全ての順列および組み合わせを指す。例えば、「A、B、C、またはこれらの組み合わせ」は、A、B、C、AB、AC、BC、またはABCの少なくとも1つを含み、特定の文脈において順序が重要な場合は、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、またはCABもまた含む意図である。この例に続けて、BB、AAA、AAB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなどのような1つまたはそれ以上の項目または用語の繰り返しを含む組み合わせが明確に含まれる。文脈から特に明白でない限り、通常は、いずれの組み合わせにおいても、項目または用語の数に関して制限がないことを当業者は理解するであろう。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語「実質的に」は、その後に記述される事象または状況が完全に起こる、またはその後に記述される事象または状況が大きい範囲もしくは程度まで起こることを意味する。例えば、用語「実質的に」は、その後に記述される事象または状況が、少なくとも90%の時間、または少なくとも95%の時間、または少なくとも98%の時間で起こることを意味する。
【0018】
本明細書で使用する場合、成句「と関連した」は、2つの部分の互いへの直接的な関連性および2つの部分の互いへの間接的な関連性の両方を含む。関連性の非限定的な例としては、直接結合によるまたはスペーサー基を通した1つの部分の別の部分への共有結合、直接的なまたは部分へ結合した特異的結合対メンバーによる1つの部分の別の部分への非共有結合、別の部分への1つの部分の溶解による、または合成によるような別の部分の中への1つの部分の組み込み、および1つの部分の別の部分上への被覆が挙げられる。
【0019】
本明細書で使用する用語「精製された」は、出発原料または天然材料と比較して少なくとも1桁の精製、例えば、限定はされないが、出発原料または天然材料の2、3、4、または5桁の精製が達成されることを意味する。したがって、本明細書で利用される用語「精製された」は、材料が100%精製されることを必ずしも意味せず、したがってこうした用語は、精製された組成物中に存在する他の材料の存在を排除しない。
【0020】
本明細書で使用する用語「試料」は、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念により利用することができる、任意のタイプの生物学的試料を含むと理解される。利用することができる生物学的試料の例としては、限定されるものではないが、全血またはこれらの任意の一部(すなわち、血漿または血清)、唾液、痰、脳脊髄液(CSF)、皮膚、間質液、涙、粘液、尿、スワブ、組み合わせ等が挙げられる。1つの非限定的実施形態では、試料は一定量の全血である。
【0021】
前に述べたように、(ほんの一例として、塩化物イオンを検出するISEのような)ISEで使用するイオン交換樹脂膜の現行の製造プロセスは、2つの別の分配装置-センサー基材上に、所定量(例えば、約10ナノリットル)の樹脂ペーストを分配するもの、および所定量(例えば、約10ナノリットル)の硬化剤ペーストを分配する別のもの使用を必要とする。本製造方法は、速い硬化時間(約5分未満)のせいで、単一の分配装置によって使用するために2つのペースト(樹脂ペーストおよび硬化剤ペースト)をプレミックスすることができない点に苦しんでいる。
【0022】
本発明の明細書に記述されるおよび/または特許請求されるように、塩化物ISEで使用する膜の製作のために1つの分配装置しか必要としない、光硬化性が改善された、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサー膜を生成する配合物が存在することが、今回発見された。こうした新しい配合物は、例として、UV光(すなわち、約100ナノメートル~約400ナノメートルの波長)のような、光の特定の波長またはスペクトルによって、配合物を硬化させることができる、少なくとも1種の光硬化性/光-開始剤化合物を利用する。
【0023】
本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念が対象とするのは、こうした試薬、ならびに組成物/配合物、キット、およびそれらに関連する方法である。
【0024】
これから本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の実施形態に目を向けると、塩化物センサーが従来技術のセンサー/試薬の組み合わせと比較して、安定性の向上および応答速度論(response kinetics)の改善を示すように、塩化物センサーとともに使用することができる新しく改善された試薬が提供される。本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の試薬は、イオン化塩化物用の電位差ISEとともに使用することができ、センサー/試薬の組み合わせは、応答速度論および回復安定性の改善、ならびにこうしたISEの製作に関連した生産コストの減少を示す。
【0025】
エポキシ樹脂は、改善された選択性ならびに増加したセンサー安定性および機能寿命を有する、次世代塩化物センシング材料として認識されてきた。一般に、エポキシ基はポリアミンおよびメルカプタンと架橋して、アミンおよび/またはアンモニウムサイトがポリマー主鎖に埋め込まれた三次元の高密度ポリマーネットワークを形成する。特に、エポキシドは第3級ジアミンと反応して、塩化物イオンと対になることができる正に帯電した第4級アンモニウムサイトを形成する。
【0026】
この可逆的認識は、ISEセンサーで電位差信号を発生する塩化物イオンを測定するのに好適である。加えて、架橋ポリマーネットワークは、例えば、試料が全血、サリチレート、ヘパリン、および/またはタンパク質である場合のように、親油性化学種の拡散を限定する構造的バリヤを生成する。したがってエポキシ系塩化物センサーは、複雑な実試料の検出において、改善された選択性を提供する。
【0027】
本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の1つの非限定的実施形態では、塩化物ISEで使用する、光硬化性の改善された、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサー膜を形成する混合物は、少なくとも1種のエポキシ樹脂、少なくとも1種の重合/硬化剤、および少なくとも1種の光硬化性/光開始剤化合物からなる。これらの構成要素をプレミックスして同じ分配装置から不活性なセンサー基材上に分配し、その後、特定の波長および/または複数の波長の光、例えば、ほんの一例として、紫外線(UV)スペクトル内の波長の光の使用によって、光硬化することができる。
【0028】
図1に示す、1つの非限定的な実施形態では、改善された膜は、例として、Dow Chemical Companyによって商業的に売り出されているD.E.R.(商標)331および/またはD.E.R.(商標)332(ビスフェノールAジグリシジルエーテル)のような少なくとも1種の液状エポキシ樹脂、例として、N
1,N
1,N
6,N
6-テトラアリルヘキサン-1,6-ジアミン(BF1)および/またはポリプロピレンイミンテトラミンデンドリマー(DAB)のような少なくとも1種の重合/硬化剤、ならびに例として、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)のような少なくとも1種の光硬化性/光開始剤化合物、のような所定量の少なくとも1種のエポキシ樹脂を含むまたはそれからなることができる。
図1は、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の、光硬化性の改善された、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサー膜混合物を形成するために使用される試薬の非限定的な実施形態を示している。
【0029】
(BF1および/またはDABのような)少なくとも1種の重合剤は、塩化物イオンと対になることができる正に帯電した第4級アンモニウムサイトを形成する第3級ジアミンを提供する。従来の市販のエポキシ硬化剤(すなわち、メルカプタン)の代わりに、DMPAと組み合わせた(BF1およびDABのような)ジアミンが、臨床分析に有用な安定的長期使用寿命を有する高度に選択性の塩化物センサーを生成することを、本発明の概念によって発見した。
図2は、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念による光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサー膜を形成する反応機構の、非限定的な実施形態を示している。
図2に示すように、エポキシ基と(a)第1級アミン(X=H)、(b)第3級アミン(X=アルキル基)との重合の反応機構が示されているが、(c)は、光開始剤DMPAによるジアミンBF1の光開始、および次のBF1とエポキシ基の間のラジカル重合の反応機構を示している。
【0030】
本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の別の実施形態は、本発明により構成される塩化物イオン交換膜を利用する、光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーを製造する方法を対象とする。この方法では、不活性基材を、上記本明細書で記述したさもなければ想定した1種またはそれ以上の試薬を含む混合物と接触させ、それによって、ポリマー層、電極層、導体層、および/または変換層(transducer layer)を含む、光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーを形成する。1つの特定の実施形態では、不活性センサー基材は、少なくとも1種のエポキシ樹脂、少なくとも1種の重合/硬化剤、および少なくとも1種の光硬化性化合物の混合物と接触する。1つの特定の実施形態では、少なくとも1種のエポキシ樹脂は、D.E.R.(商標)331および/またはD.E.R.(商標)332を含むおよび/またはそれらからなる。少なくとも1種の重合/硬化剤は、BF1および/またはDABを含むおよび/またはそれらからなり、少なくとも1種の光硬化性化合物は、DMPAである。
【実施例】
【0031】
実施例を以下に提供する。しかしながら、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念は、本明細書の以下に開示する特定の実験、結果、および実験室手順への適用に限定されないことを理解すべきである。むしろ、実施例は様々な実施形態として単に提供され、例示的であって網羅的でないという意味である。
【0032】
実施例1
百分率(PPH)を使用した、硬化剤の、アミン水素当量(AHEW)に対するエポキシ当量(EEW)による化学量論比の計算
EEW、AHEWおよびPPHは、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念に必要な、化学量論比を計算する際に有益な値である。市販のエポキシ樹脂のEEWは、それらの製品情報から得ることができ、例えば、D.E.R.(商標)331の平均EEWは、当量当たり187グラムである。重合/硬化剤ブレンド(BF1およびDAB)のAHEWは、各化合物のアミン水素の数および分子量を使用して計算される。PPHは、重合/硬化剤ブレンドのEEWおよびAHEWを使用して計算される。したがって、AHEWおよびPPHの計算は、以下の3つの式によって計算することができる:
【数1】
【数2】
【数3】
【0033】
上記本明細書で詳述した重合/硬化剤(BF1およびDAB)に基づき、BF1、DABおよび重合/硬化剤ブレンドのAHEWは、それぞれ、当量当たり138グラム、当量当たり32グラム、および当量当たり117グラムである。D.E.R.(商標)331のEEWが当量当たり187グラムであるとすれば、PPHは62であると計算される。したがって、限定はされないが、光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサー膜の生成を含む、本明細書に開示されるおよび/または特許請求される発明の概念を行うためには、100部のD.E.R.(商標)331当たり62部の硬化剤ブレンドが必要である。
【0034】
実施例2
光硬化性エポキシ系イオン選択性塩化物センサー膜混合物の製造
この非限定的実施形態では、D.E.R.(商標)331 1,250ミリグラム、BF1 851マイクロリットル、DAB 41.7ミリグラム、およびDMPA 60.5ミリグラムを、3ミリリットルのプラスチック琥珀色管中で混合した。SPEX(登録商標)SamplePrepによって商業的に売り出されている混合機を使用して、混合物が実質的に均一な状態になるように20±2分間混合物を混合した後、混合物を-70℃の冷凍庫に貯蔵し、その後混合物を不活性電極基材上に分配した。最終混合物を製造するために、重合/硬化剤ブレンドに対して8:2(BF1:DAB)の化学量論比を使用した。
【0035】
実施例3
光硬化性エポキシ系イオン選択性塩化物センサーの製造
上記実施例2で製造した塩化物センサー膜混合物0.5マイクロリットルを、(実施例2からの混合物を含む)ポリマー層、電極層、導体層、および/または変換層を含む不活性基材上に分配した。基材上への(単一の分配装置からの)分配に続いて、膜混合物にUV光を約10分間照射し、それによって光硬化された、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーを形成した。次に、センサーを100℃の炉に約10分間入れた。次に、センサーを約40℃の炉で72時間硬化させ、その後性能試験を始めた。
【0036】
実施例4
光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーの性能
この特定の非限定的実施例では、全部で4つの光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーを、ポテンシオスタット(この特定のケースでは、Lawson Labs,Inc.により商業販売用に売り出されているポテンシオスタット)を利用してベンチテストした。
図3に示すように、塩化物感度とサリチレートバイアスの両方の安定性を、各センサーに対して15日の期間にわたって測定した。この15日の期間中にセンサーを試験しない場合、センサーは、塩化ナトリウム10mM、塩化カリウム0.4mM、重炭酸ナトリウム4.0mM、ウシ血清アルブミン0.01%、および当該技術分野で一般に公知の他の防腐剤を含むリン酸緩衝液溶液中に貯蔵した。臨床的に適用可能であるために、各センサーは好ましくは、約-40~約-60mV/decadeの範囲内の塩化物感度に対する傾斜を生成する。
図3から分かるように、試験した各センサーは、塩化物感度についてこの臨床的適用可能な範囲内に入る。加えて、
図3に示すように、試験した4つのセンサーの合計で5mg/dLのサリチレートに由来するサリチレートバイアスは、15日の期間にわたって約0.25%未満である(これは現行のセンサー膜が、サリチレートのような望まない化合物がセンサーの中へ移ることを軽減する/排除するのに有効であることを示している)。
【0037】
実施例5
市販の塩化物センサーと、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の光硬化性イオン選択性塩化物センサーとの、塩化物感度およびサリチレートバイアスの比較
図4は、3つの市販塩化物センサーの28日の期間にわたる塩化物感度の安定性を示し、一方
図5は、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念により構成された、5つの光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーの、同じ28日の期間にわたる塩化物感度の安定性を示している。28日の期間の間、それぞれのセンサー(市販のセンサーと、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の、光硬化性の改善された、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーとの両方)を、塩化ナトリウム10mM、塩化カリウム0.4mM、重炭酸ナトリウム4.0mM、ウシ血清アルブミン0.01%、および当該技術分野で一般に公知の他の防腐剤を含むリン酸緩衝液中に貯蔵した。臨床的に適用可能であるために、各センサーは好ましくは、約-40~約-60mV/decadeの範囲内の、塩化物感度に対する傾斜を生成する。
【0038】
図4および
図5から分かるように、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念により構成された光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーは、28日の期間にわたってこの範囲内に入り、これらのセンサーは、塩化物感度に対して、
図4に示される市販の塩化物センサーと(より安定ではなくとも)少なくとも同じくらい安定である。市販の塩化物センサー、ならびに本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念により構成された光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーのサリチレートバイアスを以下の表1に示す。表1に示すように、市販の塩化物センサー、ならびに本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーのサリチレートバイアスは、それぞれ、約5.6±0.2%未満および3.3±2.0未満である。これは、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーのサリチレートバイアスが、膜を通ってサリチレートがセンサーに移動するのを軽減する点で、市販の塩化物センサーと、より有効ではなくとも、同じくらい有効であることを示している。
【0039】
【0040】
発明の概念の非限定的実施例
以下は、本明細書に開示された本発明の概念の、非限定的、例示的実施形態の番号付きリストである:
【0041】
少なくとも1種のエポキシ樹脂;少なくとも1種の硬化剤;および少なくとも1種の光硬化性化合物を含む、光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサー膜混合物。
【0042】
少なくとも1種のエポキシ樹脂は、少なくとも1種の液状エポキシ樹脂である、混合物。
【0043】
少なくとも1種の液状エポキシ樹脂は、D.E.R.(商標)331、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、混合物。
【0044】
少なくとも1種の硬化剤は、N1,N1,N6,N6-テトラアリルヘキサン-1,6-ジアミン、ポリプロピレンイミンテトラミンデンドリマー、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、混合物。
【0045】
少なくとも1種の光硬化性化合物は、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンである、混合物。
【0046】
ポリマー層;電極層;導体層;および変換層を含み、ポリマー層が、少なくとも1種のエポキシ樹脂、少なくとも1種の硬化剤、および少なくとも1種の光硬化性化合物を含む光硬化された混合物を含む、光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサー。
【0047】
少なくとも1種のエポキシ樹脂は、少なくとも1種の液状エポキシ樹脂である、センサー。
【0048】
少なくとも1種の液状エポキシ樹脂は、D.E.R.(商標)331、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、センサー。
【0049】
少なくとも1種の硬化剤は、N1,N1,N6,N6-テトラアリルヘキサン-1,6-ジアミン、ポリプロピレンイミンテトラミンデンドリマー、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、センサー。
【0050】
少なくとも1種の光硬化性化合物は、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンである、センサー。
【0051】
混合物は、紫外線スペクトル内の少なくとも1つの波長の光によって光硬化される、センサー。
【0052】
光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーを製作する方法であって、有効量の少なくとも1種のエポキシ樹脂、少なくとも1種の硬化剤、および少なくとも1種の光硬化性化合物を混合して、光硬化性ポリマー混合物を形成する工程であり、光硬化性ポリマー混合物は単一の分配装置内に含有される前記工程と;有効量の光硬化性ポリマー混合物を、不活性イオン選択性電極基材の表面上に分配する工程であり、不活性イオン選択性電極基材は、電極層、導体層、および変換層を含み、光硬化性ポリマー混合物は、不活性イオン選択性電極基材の電極層上に分配される前記工程と;光硬化性ポリマー混合物に少なくとも1つの波長の光を照射し、それによって光硬化性、エポキシ系、イオン選択性塩化物センサーを形成する工程と、を含む前記方法。
【0053】
少なくとも1種のエポキシ樹脂は、少なくとも1種の液状エポキシ樹脂である、方法。
【0054】
少なくとも1種の液状エポキシ樹脂は、D.E.R.(商標)331、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【0055】
少なくとも1種の硬化剤は、N1,N1,N6,N6-テトラアリルヘキサン-1,6-ジアミン、ポリプロピレンイミンテトラミンデンドリマー、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
【0056】
少なくとも1種の光硬化性化合物は、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンである、方法。
【0057】
光の少なくとも1つの波長は、紫外線スペクトル内にある、方法。
【0058】
このため、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念により、本明細書の上に述べた目的および利点を完全に満たす、試薬、ならびにそれを含有するキットおよびその使用方法が提供されてきた。本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念を、特定の図、実験、結果、および本明細書の上で述べた用語と併せて記述してきたが、多くの代替物、修正、および変形が当業者には明白なのは明らかである。したがって、本明細書で開示されるおよび/または特許請求される発明の概念の趣旨および広い範囲内に入る、全てのこうした代替物、修正、および変形を包含することを意図している。