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特許7415041グルタミン生産能を向上させる形質転換用組換えベクターおよびこれを導入した菌株
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  • 特許-グルタミン生産能を向上させる形質転換用組換えベクターおよびこれを導入した菌株 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】グルタミン生産能を向上させる形質転換用組換えベクターおよびこれを導入した菌株
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20240109BHJP
   C12N 15/77 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240109BHJP
   C12P 13/14 20060101ALI20240109BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20240109BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/77 Z
C12N1/21
C12P13/14 A
C12N9/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022560115
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 KR2021003633
(87)【国際公開番号】W WO2021201489
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0038628
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518431347
【氏名又は名称】デサン・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イン・ピョ・ホン
(72)【発明者】
【氏名】ボン・キ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ジン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ソク・ヒョン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・チュン・ハン
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】韓国特許第10-1992-0005975(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0087201(KR,A)
【文献】国際公開第2006/001380(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106635946(CN,A)
【文献】UniProtKB/TrEMBL,[online],A0A160PS60_CORGT,Accession No. A0A160PS60,entry version 10,[retrieved on 2023.08.04],2019年,<URL: https://rest.uniprot.org/unisave/A0A160PS60?format=txt&versions=10>
【文献】JAKOBY M et al.,“Isolation of the Corynebacterium glutamicum glnA gene encoding glutamine synthetase I.”,FEMS microbiology letters,1997年,Vol. 154, No. 1,p.81-88
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるグルタミン合成酵素をコードする塩基配列を含む形質転換用ベクター。
【請求項2】
前記グルタミン合成酵素をコードする塩基配列は、配列番号2の塩基配列からなるものである、
請求項1に記載の形質転換用ベクター。
【請求項3】
前記形質転換用ベクターは、前記グルタミン合成酵素をコードする塩基配列と作動可能に連結されたプロモーターを含むものである、
請求項1に記載の形質転換用ベクター。
【請求項4】
前記形質転換用ベクターは、前記グルタミン合成酵素をコードする塩基配列と作動可能に連結された転写終結因子配列を含むものである、
請求項1に記載の形質転換用ベクター。
【請求項5】
請求項1に記載の形質転換用ベクターで形質転換された菌株。
【請求項6】
前記菌株は、内生glnE遺伝子の発現が不活性化されたものである、
請求項5に記載の菌株。
【請求項7】
前記菌株は、コリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、
請求項5に記載の菌株。
【請求項8】
請求項5に記載の菌株を培養するステップを含む、
グルタミン生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタミン生産能を向上させる形質転換用組換えベクターおよびこれを導入した菌株に関する。
【背景技術】
【0002】
GSの活性はグルタミン合成酵素アデニリルトランスフェラーゼ(glutamine synthetase adenylyltransferase、ATase、glnE)によって調節される。ATaseは、GSのアデニル化(adenylylation)と脱アデニル化(deadenylation)を触媒してGSの活性を調節し、培地内の窒素濃度の影響を受ける。ATaseの活性はPII(nitrogen regulatory protein P-II Gene、glnB)によって調節される。図1を参照すれば、窒素濃度が高ければ、PIIとATaseの活性化によってGSの活性が低下する機序が開示されている。したがって、グルタミンを生産するために窒素源を供給すれば、供給された窒素源によってGSの活性がフィードバック阻害(feedback inhibition)されてグルタミン生産が低下する問題がある。
【0003】
したがって、グルタミン生産効率を増加させるためには、ATaseによるGSのフィードバック阻害を抑制することが要求される。日本国特許JP4898441によれば、GSの活性低下に関与するglnBおよびglnE遺伝子の活性を抑制することにより、グルタミン生産が増加した菌株を開示しているが、改善の余地は依然として残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国登録公報JP4898441B2(2012.01.06)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一具体例によれば、配列番号1のアミノ酸配列からなるグルタミン合成酵素(glutamine synthetase、GS)をコードする塩基配列を含むベクターを含むグルタミン生産菌株を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様によれば、配列番号1のアミノ酸配列からなるグルタミン合成酵素(glutamine synthetase、GS)をコードする塩基配列を含む形質転換用ベクターを提供する。
【0007】
前記グルタミン合成酵素は、グルタメート(glutamate)とアンモニアからグルタミンを合成する酵素である。前記配列番号1のアミノ酸配列からなるグルタミン合成酵素は、他の配列からなるグルタミン合成酵素よりATaseによって活性が抑制される程度が低いため、グルタミン生産性を向上させることができる。
【0008】
一具体例によれば、前記グルタミン合成酵素をコードする塩基配列は、配列番号2の塩基配列からなるものであってもよい。
【0009】
一具体例によれば、前記配列番号1のアミノ酸配列からなるグルタミン合成酵素および前記配列番号2の塩基配列からなるglnA遺伝子は、寄託番号KFCC10694のコリネバクテリウムグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)菌株に由来するものであってもよい。一実施例によれば、前記KFCC10694由来glnA配列は、他のコリネバクテリウムグルタミカム菌株であるATCC13032由来glnA配列の相同性を比較した結果、塩基配列の相同性が88.2%、これから発現したグルタミン合成酵素のアミノ酸配列の相同性が93.7%に過ぎないことが確認された。このような配列の差によって、KFCC10694由来グルタミン合成酵素は、他の配列からなるグルタミン合成酵素よりATaseによって活性が抑制される程度において差がありうる。
【0010】
一具体例によれば、前記形質転換用ベクターは、前記グルタミン合成酵素をコードする塩基配列と作動可能に連結されたプロモーターを含むものであってもよい。用語「作動可能に連結されている(operably linked)」は、発現が必要な遺伝子とその調節配列が互いに機能的に結合して遺伝子発現を可能にする方式で連結されたことを意味する。前記プロモーターによってGSの発現量が増加すると、ATaseによる抑制が阻害されてグルタミン生産性が向上できる。前記プロモーターは、構成的(constitutive)プロモーターまたは誘導性(inducible)プロモーターであってもよい。例えば、前記構成的プロモーターは、PcspB、PaprE、P180、Psod、PdapA、PporB、PilvC、PL10、PL26、PI16、PI51、PH30、PH36であってもよいし、誘導性プロモーターは、PlacUV5、Ptac、Ptrc、PpopB、PaceA/aceB、PgntP/gntK、PCJ1OX2、Ptac-M、PmalE1、PBADであってもよい。一実施例によれば、前記プロモーターは、Psod(superoxide dismutase)プロモーターであってもよい。前記形質転換用ベクターは、エンハンサー(enhancer)のような発現調節配列を含むことができる。
【0011】
一具体例によれば、前記形質転換用ベクターは、前記グルタミン合成酵素をコードする塩基配列と作動可能に連結された転写終結因子配列を含むものであってもよい。一実施例によれば、前記転写終結因子配列は、rrnBT1T2配列であってもよい。
【0012】
前記形質転換用ベクターは、選択標識として抗生剤(例えば、ネオマイシン、カルベニシリン、カナマイシン、スペクチノマイシンまたはハイグロマイシンなど)耐性遺伝子(例えば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(nptII)またはハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hpt)など)を含むことができる。
【0013】
前記ベクターは、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクター、ウイルスベクターなどを含むが、これらに限定されるものではない。
【0014】
他の態様によれば、前記形質転換用ベクターで形質転換された菌株を提供する。
【0015】
一具体例によれば、前記形質転換された菌株は、内生(native)glnA遺伝子が不活性化されたものであってもよい。用語「内生(native)」は、微生物が天然的に有している遺伝子を意味する。前記不活性化(inactivation)は、当該遺伝子の転写、解読、遺伝子産物の活性の損傷をもたらす遺伝子上の変形を意味し、プロモーターの不活性化も含まれる。このような遺伝子の特異的不活性化は、当分野にて確立された方法により行うことができる。例えば、遺伝子の欠失および異型配列(heterogenous sequence)の挿入による遺伝子の切断(truncation)、ナンセンス突然変異(nonsense mutation)、フレームシフト突然変異(frameshift mutation)、ミスセンス突然変異(missense mutation)などによることができる。
【0016】
一具体例によれば、前記形質転換された菌株は、内生(native)glnE遺伝子が不活性化されたものであってもよい。前記内生glnE遺伝子の発現が低下または喪失すれば、グルタミン合成酵素の活性を阻害するATaseの発現が減少するので、グルタミン生産能が向上できる。
【0017】
一具体例によれば、前記形質転換された菌株は、コリネバクテリウム属菌株であってもよいし、例えば、寄託番号KFCC10694で寄託されたグルタミカム(Corynebacterium glutamicum)菌株であってもよい。
【0018】
前記形質転換は、当該分野にて公知のように、宿主細胞によって適したベクター導入技術を選択することができる。例えば、ベクターの導入は、電気穿孔法(electroporation)、熱衝撃(heat-shock)、リン酸カルシウム(CaPO4)沈殿、塩化カルシウム(CaCl2)沈殿、微細注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、陽イオンリポソーム法、酢酸リチウム-DMSO法、またはこれらの組み合わせによって行われる。
【0019】
さらに他の態様によれば、前記形質転換された菌株を培養するステップを含むグルタミン生産方法を提供する。
【0020】
前記培養は、当業界にて知られた適切な培地と培養条件によって行われる。また、通常の技術者であれば、培地および培養条件を容易に調整して使用することができる。具体的には、前記培地は、液体培地であってもよいが、これに限定されるものではない。培養方法は、例えば、回分式培養(batch culture)、連続式培養(continuous culture)、流加式培養(fed-batch culture)、またはこれらの組み合わせ培養を含むことができるが、これに限定されない。
【0021】
前記培地は、適切な方式で特定菌株の要件を満たさなければならず、通常の技術者によって適宜変形可能である。例えば、コリネバクテリア菌株に対する培養培地は、公知の文献(Manual of Methods for General Bacteriology.American Society for Bacteriology.Washington D.C.、USA、1981)を参照することができる。また、培地に多様な炭素源、窒素源および微量元素成分を含むことができる。使用可能な炭素源の例を挙げると、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースのような糖および炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などのようなオイルおよび脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸のような脂肪酸、グリセロール、エタノールのようなアルコール、酢酸のような有機酸が含まれる。これらの物質は、個別的にまたは混合物として使用できる。使用可能な窒素源おしては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆小麦および尿素または無機化合物があり、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムが含まれる。窒素源も、個別的にまたは混合物として使用することができる。使用可能なリンの供給源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウム-含有塩が含まれる。培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄のような金属塩を含有することができる。その他、アミノ酸およびビタミンのような必須成長物質が含まれる。また、培養培地に適切な前駆体が使用できる。前記培地または個別成分は、培養過程で培養液に適切な方式によって回分式または連続式で添加可能である。
【0022】
培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸および硫酸のような化合物を微生物培養液に適切な方式で添加して培養液のpHを調整することができる。また、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を用いて気泡の生成を抑制することができる。追加的に、培養液の好気状態を維持するために、培養液中に酸素または酸素-含有気体(例、空気)を注入することができる。培養液の温度は、通常20℃~45℃、例えば、25℃~40℃であってもよい。培養期間は、所望する量のL-グルタミンが生成されるまで持続可能であり、例えば、10~160時間であってもよい。
【0023】
前記生産方法は、培養した微生物または培地からL-グルタミンを回収するステップを含むことができる。前記L-グルタミンを回収する方法は特に限定されるものではなく、培養方法により当該分野にて公知の適した方法を用いて回収できる。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどが使用できる。
【発明の効果】
【0024】
一具体例による菌株が発現するグルタミン合成酵素は、ATaseによるフィードバック抑制に対する影響が低いので、グルタミン生産量を著しく増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】グルタミン合成酵素活性の調節機序を示すものである。
図2】一実施例によるpk19ms/△glnAベクターを示す図である。
図3】一実施例によるpk19ms/△glnEベクターを示す図である。
図4】一実施例によるpa’-glnA(ATCC13032)ベクターを示す図である。
図5】一実施例によるpa’-glnA(KFCC10694)ベクターを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、一つ以上の具体例を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は一つ以上の具体例を例示的に説明するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0027】
[実施例1:KFCC-10694染色体上のglnA、glnE遺伝子欠損用ベクターの作製]
ベクターの作製に使用した材料は、Wizard Genomic DNA Purification Kit(Promega、USA)、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(Takara、Japan)、DNA ligation kit(Takara、Japan)、HindIII、BamHI(NEB、England)を使用した。
【0028】
[1-1.glnA欠失用ベクターの作製]
KFCC-10694菌株(Corynebacterium glutamicum MWM-891020)の染色体DNAを鋳型としてプライマー1およびプライマー2でPCRを実施して、KFCC-10694のglnAのleft arm増幅産物を得た。同じく、プライマー3およびプライマー4の組み合わせでPCRを実施して、glnAのright arm増幅産物を得た。
【0029】
前記glnAのleft armとright arm増幅産物をプライマー1およびプライマー4の組み合わせでクロスオーバーPCRを実施して、left armとright armが結合した増幅産物を得て、pK19mobSacBベクターのBamHI位置に挿入した。作製されたglnA欠失用ベクターはpK19ms/△glnAと名付けた。(図2参照)
【0030】
[1-2.glnE欠失用ベクターの作製]
前記glnA欠失用ベクターと同様の方法により、プライマー5とプライマー6との組み合わせでPCRを実施して、KFCC-10694のglnEのleft arm増幅産物を得て、プライマー7とプライマー8との組み合わせでPCRを実施して、glnEのright arm増幅産物を得た。
【0031】
前記glnEのleft armとright arm増幅産物をプライマー5とプライマー8との組み合わせを用いたクロスオーバーPCRで増幅してleft armとright armとが結合した産物を得て、これをpK19mobSacBベクターのHindIII位置に挿入した。作製されたglnE欠失用ベクターはpK19ms/△glnEと名付けた。(図3参照)
【0032】
前記KFCC-10694のglnA、KFCC-10694のglnE、プライマー1~8の塩基配列に関する情報は、下記表1に開示されている。
【表1】
【0033】
[実施例2:glnA過発現ベクター2種の作製]
ATCC13032のglnA遺伝子DNAを鋳型としてプライマー9およびプライマー10の組み合わせでPCRを実施して、glnA(AT)増幅産物を得た。
【0034】
これとは別個に、KFCC10694のglnA遺伝子DNAを鋳型としてプライマー11およびプライマー12の組み合わせでPCRを実施して、glnA(KF)増幅産物を得た。
【0035】
前記glnA(AT)とglnA(KF)の相同性を確認した結果、塩基配列の相同性が88.2%、アミノ酸配列の相同性が93.7%に過ぎないことが確認された。glnA(AT)とglnA(KF)のアミノ酸配列と塩基配列は、下記表2に記載されている。
【表2A】
【表2B】
【0036】
sodプロモーターは、ATCC13032染色体DNAを鋳型としてプライマー13(forward)とプライマー14(backward)との組み合わせで増幅した第1sodプロモーター増幅産物、プライマー13(forward)とプライマー15(backward)との組み合わせで増幅した第2sodプロモーター増幅産物を作製した。逆方向プライマーをプライマー14および15に区別して用いた理由はglnA配列の差のためであり、sodプロモーター配列は同一である。(下記表3のgggtaaaaaatcctttcg参照)
【0037】
rrnBT1T2転写終結因子(ターミネーター)配列は、大膓菌DH5a染色体DNAを鋳型としてプライマー16(forward)とプライマー17(backward)との組み合わせで増幅した第1rrnBT1T2増幅産物;およびプライマー18(forward)およびプライマー17(backward)の組み合わせで増幅した第2rrnBT1T2増幅産物を得た。正方向プライマーをプライマー16および18に区別して用いた理由はglnA配列の差のためであり、転写終結因子の配列は同一である。(下記表3のagaatttgcctggcggca参照)
【0038】
プライマー13とプライマー17との組み合わせを用いたクロスオーバーPCRを実施して、前記第1sodプロモーター増幅産物、glnA(AT)、および第1rrnBT1T2ターミネーター増幅産物をE.Coli-Corynebacteriumシャトルベクターであるpa’ベクター内のBamHI位置に挿入してpa’-glnA(AT)ベクターを作製した。(図4参照)
【0039】
同じく、プライマー13とプライマー17との組み合わせを用いたクロスオーバーPCRを実施して、前記第2sodプロモーター増幅産物、glnA(KF)、および第2rrnBT1T2ターミネーター増幅産物をE.Coli-Corynebacteriumシャトルベクターであるpa’ベクター内のBamHI位置に挿入してpa’-glnA(KF)ベクターを作製した。(図5参照)
【0040】
実施例2で使用された実験材料は、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(Takara、Japan)、DNA ligation kit(Takara、Japan)、BamHI(NEB、England)である。
【0041】
前記プライマー9~18の塩基配列は、下記表3に開示されている。
【表3】
【0042】
[実施例3:glnA遺伝子および/またはglnE遺伝子が欠損したKFCC10694菌株の作製]
コンピテント細胞で作られたKFCC10694菌株に、前記実施例1で作製されたpK19ms/△glnAベクターを電気衝撃療法(electroporation)で導入し、2YT KM AGAR培地に塗抹後、30℃の培養器で4日間培養してコロニーを得た。1次相同組換えが誘導されたコロニーのうち形質転換が確認されたコロニーを2YT液体培地で12時間培養後、2YT Sucrose GM AGAR培地に塗抹し、2次相同組換えにより抗生剤マーカーを除去した。選別されたコロニーをPCRおよび配列分析によりglnA遺伝子が意図どおりに除去されたかを最終確認した。前記過程により作製されたglnA遺伝子が欠損した菌株をD10694Aと名付けた。
【0043】
同様の方法により、前記D10694A菌株に、前記実施例1で作製したpK19ms/△glnEベクターを用いてglnAとglnE遺伝子が同時に欠損した菌株を作製した。本実験に使用された培地にはglutamineを100mg/Lの濃度で添加して使用した。前記過程により作製されたglnAおよびglnE遺伝子がすべて欠損した菌株をD10694AEと名付けた。
【0044】
前記実施例3で使用された実験材料は、2YT AGAR(Tryptone16g/L、Yeast extract10g/L、NaCl5g/L、AGAR1.5%)、2YT KM AGAR(2YT AGAR、Kanamycine15mg/L)、2YT Sucrose GM AGAR(2YT AGAR、Sucrose100g/L、Glutamine100mg/L)、electrophorator(BIO-RAD、USA)である。
【0045】
[実施例4:pa’-glnA(AT)ベクターまたはpa’-glnA(KF)ベクター導入菌株の作製]
実施例2で作製されたpa’-glnA(ATCC13032)ベクター、pa’-glnA(KFCC10694)ベクターを、前記実施例3で作製したD10694AおよびD10694AE菌株に電気衝撃療法(electroporation)で導入した。ベクターを導入した菌株を2YT KM AGAR培地に塗抹し、30℃の培養器で3日間培養してコロニーを得た。前記過程により作製された菌株をD10694A/pa-glnA(AT)、D10694A/pa-glnA(KF)、D10694AE/pa-glnA(AT)、D10694AE/pa-glnA(KF)と名付けた。
【0046】
実施例4で使用された実験材料は、2YT AGAR(Tryptone16g/L、Yeast extract10g/L、NaCl5g/L、AGAR1.5%)、2YT KM AGAR(2YT AGAR、Kanamycine15mg/L)、Electrophorator(BIO-RAD、USA)である。
【0047】
[実施例5:実施例4で作製された菌株のグルタミン生産性の確認]
種培地20mlを500mlの三角フラスコに分注して、通常の方法により加圧滅菌した後、菌株を接種して、30℃で24時間振盪培養したものを種菌培養液とした。生産培地100mlを500mlの三角フラスコに分注して、通常の方法により加圧滅菌した後、予め用意した種菌培養液100mlを接種して、30℃で72時間振盪培養した。D10694AとD10694AE菌株に対する生産性の比較には、培地に100mg/Lのグルタミンを添加した。培養終了液でのL-グルタミン含有量の決定は、通常のHPLC法で定量した。
【0048】
グルタミン生産性の実験結果は、下記表4に記載されている。
【表4】
【0049】
前記表4の実験結果によれば、D10694A菌株およびD10694AEは、glnA(GS発現遺伝子)が欠損してL-グルタミンが生産されなかった。
【0050】
前記表4のD10694A/Pa-glnA(AT)とD10694A/Pa-glnA(KF)のグルタミン生産をみると、D10694A/Pa-glnA(AT)は、親株であるKFCC10694よりL-グルタミン生産性が減少したのに対し、D10694A/Pa-glnA(KF)は、親株であるKFCC10694より生産性が向上した。両菌株は同一のsodプロモーターを導入したにもかかわらず、glnA(AT)よりglnA(KF)を導入した場合、生産性が著しく高かった。これは、glnA(AT)とglnA(KF)はフィードバック抑制の程度において差があることを示唆する。
【0051】
ATaseが不活性化されてフィードバック抑制を受けないD10694AE/Pa-glnA(AT)とD10694AE/Pa-glnA(KF)のグルタミン生産をみると、D10694AE/Pa-glnA(AT)菌株は、D10694A/Pa-glnA(AT)より生産性が約1.91%向上したので、ATase活性の有無による差が大きいことが分かった。しかし、D10694AE/Pa-glnA(KF)菌株は、D10694A/Pa-glnA(KF)より生産性が0.07%向上したものの、その程度は大きくなかったので、ATase活性の有無による差が大きくないことが分かった。これは、glnA(KF)はATaseによるフィードバック抑制の影響が少ないことを意味する。
【0052】
より詳しくみると、D10694A/Pa-glnA(KF)菌株は、親株対比約47%増加した生産性を示し、D10694AE/Pa-glnA(KF)菌株は、親株対比約49%増加した生産性を示した。ここで注目すべきは、D10694A/Pa-glnA(KF)とD10694AE/Pa-glnA(KF)の生産性の差が親株対比2%に過ぎず大きくなかったという点である。D10694AE/Pa-glnA(KF)は、D10694A/Pa-glnA(KF)よりGSのフィードバック阻害に関与するglnE遺伝子を追加的に欠損させたにもかかわらず、親株対比わずか2%の生産性向上を示したので、ATase活性の有無によるグルタミン生産性の差が大きくないということである。これは、glnA(KF)の導入による生産性増加は、単純にsodプロモーターの寄与によるだけでなく、glnA(KF)のフィードバック阻害に対する抵抗が寄与したことを示唆する。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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