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特許7415104ジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 317/14 20060101AFI20240110BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C07C317/14
C08B37/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019104039
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020196684
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】511027699
【氏名又は名称】株式会社シクロケムバイオ
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】伏見 麻由
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 啓二
(72)【発明者】
【氏名】石田 善行
(72)【発明者】
【氏名】木村 円香
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-279139(JP,A)
【文献】特開平05-117105(JP,A)
【文献】特開平11-001468(JP,A)
【文献】特表2001-521411(JP,A)
【文献】特開平07-165801(JP,A)
【文献】特開2010-104765(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03485887(EP,A1)
【文献】特開2007-063249(JP,A)
【文献】特表2019-521147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C、C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ジヨードメタン化合物、シクロデキストリン誘導体及び水を、30℃以上120℃以下の温度で混合する混合工程を有し、
前記ジヨードメタン化合物に対する前記シクロデキストリン誘導体のモル比が、2.2~4.0であり、
前記ジヨードメタン化合物が、ジヨードメチル-p-トリルスルホンであり、
前記シクロデキストリン誘導体が、メチル-β-シクロデキストリンである、ジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記温度が、40℃以上120℃以下である請求項1記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記温度が、50℃以上120℃以下である請求項1又は請求項2に記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程は、前記ジヨードメタン化合物と、前記シクロデキストリン誘導体と、水と、下記式1で表される化合物及び下記式2で表される化合物の少なくとも1つと、を混合する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
【化1】

式1中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキニル基又はアルケニル基を表す。
【化2】

式2中、A1及びA2は、それぞれ独立に、-O、-S、又は-OHを表す。但し、A1及びA2の内、少なくとも1つは-Oである。
式2中、Xは、スルホニル基、スルフィニル基又はジスルフィニル基を表し、Bは1価のアルカリ金属イオン又は2価のアルカリ土類金属イオンを表し、l及びnは1又は2を表し、mは1-又は2-を表す。
但し、A1及びA2の内、一方が-OHであり、他方が-O又は-Sであることにより、mが1-である場合、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは1である、又は、lは2でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である。
また、A1及びA2が、それぞれ独立に、-O又は-Sであることにより、mが2-である場合、lは1でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である、又は、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは2である。
【請求項5】
さらに、前記混合工程で得られた混合物に対し、下記式1で表される化合物及び下記式2で表される化合物の少なくとも1つを添加する添加工程を有する請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
【化3】

式1中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキニル基又はアルケニル基を表す。
【化4】

式2中、A1及びA2は、それぞれ独立に、-O、-S、又は-OHを表す。但し、A1及びA2の内、少なくとも1つは-Oである。
式2中、Xは、スルホニル基、スルフィニル基又はジスルフィニル基を表し、Bは1価のアルカリ金属イオン又は2価のアルカリ土類金属イオンを表し、l及びnは1又は2を表し、mは1-又は2-を表す。
但し、A1及びA2の内、一方が-OHであり、他方が-O又は-Sであることにより、mが1-である場合、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは1である、又は、lは2でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である。
また、A1及びA2が、それぞれ独立に、-O又は-Sであることにより、mが2-である場合、lは1でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である、又は、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは2である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ジヨードメタン化合物を水溶化させることに関する検討がなされている。
中でも、ホスト化合物としてのシクロデキストリン誘導体と、ゲスト化合物としてのジヨードメタン化合物と、を含む包接化合物を用いてジヨードメタン化合物を水溶化させることが研究されている。
例えば、特許文献1には、熱や光・紫外線に対する安定性を実現し、防菌・防かび剤としての持続性を長期化し、かつ、白色系統の色調を保持することができる防菌・防かび剤組成物として、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメイト、3-ブロモ-2,3-ジヨード-2-プロペニルエチルカーボナート、2,3,3-トリヨードアリルアルコール、ヨードプロパルギルアルコール、3-ヨードプロパルギル 4-クロロフェニルオキシメチルエーテル及びジヨードメチル-p-トリルスルホンからなる群から選ばれる1個以上の化合物を、シクロデキストリンにより包接することを特徴とする防菌・防かび剤組成物が開示されている。
また、特許文献2には、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(本明細書中、DMTSともいう)の水溶性を向上させるとともに抗微生物活性を更に向上させる方策として、ジヨードメチル-p-トリルスルホンを、シクロデキストリン誘導体と適当な溶剤中で撹拌、振盪あるいは混練し、次いで乾燥して包接化合物とする方策が開示されている。特許文献2には、上記方策により、ジヨードメチル-p-トリルスルホンの水溶性を向上させるとともに、純粋なジヨードメチル-p-トリルスルホンよりも高い抗微生物活性を発現させることができること、及び、この包接化合物またはその水溶液は水系の製品の防腐剤として適していることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-117105号公報
【文献】特開平11-279139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、ジヨードメタン化合物をシクロデキストリン誘導体によって包接する包接化合物を作製することで、ジヨードメタン化合物を水溶化することが行われてきたが、ジヨードメタン化合物の水溶性を良好に向上させることは未だ困難である。
この理由は、シクロデキストリン誘導体によって包接されていないジヨードメタン化合物は水に難溶であるところ、シクロデキストリン誘導体によるジヨードメタン化合物の包接性が充分でないために、包接されていないシクロデキストリンが水中で多量に残存していることが考えられる。
特許文献1に記載の防菌・防かび剤組成物は、有機ヨウ素系化合物に対するシクロデキストリンの包接性が不足しているために、有機ヨウ素系化合物が十分に水に溶解できていない可能性がある。
特許文献2に記載の包接化合物は、ホスト化合物としてのシクロデキストリン誘導体と、ゲスト化合物としてのDMTSと、を含む包接化合物の形成性をより向上させるため、シクロデキストリン誘導体とDMTSと水と、の撹拌を室温で行っているために、DMTSの水溶化について改善の余地があると考えられる。また、上記包接化合物を形成するために多量のシクロデキストリン誘導体を用いており、実用上の費用が増大する可能性があると考えられる。
【0005】
本開示の実施形態が解決しようとする課題は、ジヨードメタン化合物の水に対する溶解性に優れるジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 少なくとも、ジヨードメタン化合物、シクロデキストリン誘導体及び水を、30℃以上120℃以下の温度で混合してジヨードメタン化合物の水溶液を調製する混合工程を有するジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
<2> 前記温度が、40℃以上120℃以下である<1>記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
<3> 前記温度が、50℃以上120℃以下である<1>又は<2>に記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
<4> 前記混合工程は、ジヨードメタン化合物と、シクロデキストリン誘導体と、水と、下記式1で表される化合物及び下記式2で表される化合物の少なくとも1つと、を混合する<1>~<3>のいずれか1つに記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
【0007】
【化1】
【0008】
式1中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキニル基又はアルケニル基を表す。
【0009】
【化2】
【0010】
式2中、A1及びA2は、それぞれ独立に、-O、-S、又は-OHを表す。但し、A1及びA2の内、少なくとも1つは-Oである。
式2中、Xは、スルホニル基、スルフィニル基又はジスルフィニル基を表し、Bは1価のアルカリ金属イオン又は2価のアルカリ土類金属イオンを表し、l及びnは1又は2を表し、mは1-又は2-を表す。
但し、A1及びA2の内、一方が-OHであり、他方が-O又は-Sであることにより、mが1-である場合、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは1である、又は、lは2でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である。
また、A1及びA2が、それぞれ独立に、-O又は-Sであることにより、mが2-である場合、lは1でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である、又は、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは2である。
<5> さらに、前記混合工程で得られた混合物に対し、下記式1で表される化合物及び下記式2で表される化合物の少なくとも1つを添加する添加工程を有する<1>~<4>のいずれか1つに記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
【0011】
【化3】
【0012】
式1中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキニル基又はアルケニル基を表す。
【0013】
【化4】
【0014】
式2中、A1及びA2は、それぞれ独立に、-O、-S、又は-OHを表す。但し、A1及びA2の内、少なくとも1つは-Oである。
式2中、Xは、スルホニル基、スルフィニル基又はジスルフィニル基を表し、Bは1価のアルカリ金属イオン又は2価のアルカリ土類金属イオンを表し、l及びnは1又は2を表し、mは1-又は2-を表す。
但し、A1及びA2の内、一方が-OHであり、他方が-O又は-Sであることにより、mが1-である場合、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは1である、又は、lは2でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である。
また、A1及びA2が、それぞれ独立に、-O又は-Sであることにより、mが2-である場合、lは1でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である、又は、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは2である。
<6> 前記ジヨードメタン化合物に対する前記シクロデキストリン誘導体のモル比が、1.0~8.0である<1>~<5>のいずれか1つに記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
<7> 前記ジヨードメタン化合物がジヨードメチル-p-トリルスルホンである<1>~<6>のいずれか1つに記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
<8> 前記シクロデキストリン誘導体がβ-シクロデキストリン誘導体である<1>~<7>のいずれか1つに記載のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示の実施形態によれば、ジヨードメタン化合物の水に対する溶解性に優れるジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「抗菌剤」とは、抗菌作用及び抗カビ作用の少なくとも一方を有するものをいう。
【0017】
≪ジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法≫
本開示のジヨードメタン化合物の水溶液の製造方法(以下、単に「本開示の製造方法」ともいう)は、少なくとも、ジヨードメタン化合物、シクロデキストリン誘導体及び水を、30℃以上120℃以下の温度で混合してジヨードメタン化合物の水溶液を調製する混合工程を有する。
本開示の製造方法は、上記の構成により、シクロデキストリン誘導体によって包接されていないジヨードメタン化合物は水に難溶であるところ、シクロデキストリン誘導体によるジヨードメタン化合物の包接性を向上させることができる。
これによって、30℃以上120℃以下の温度の水中において、ジヨードメタン化合物を包接する包接化合物の水に対する溶解性を向上させることができる。
以下、本開示の製造方法について詳細に説明する。
【0018】
<混合工程>
混合工程は、少なくとも、ジヨードメタン化合物、シクロデキストリン誘導体及び水を、30℃以上120℃以下の温度で混合してジヨードメタン化合物の水溶液を調製する工程である。
これによって、水中で、ジヨードメタン化合物とシクロデキストリン誘導体とが接触し、ジヨードメタン化合物がシクロデキストリン誘導体によって包接された包接化合物(以下、特定包接化合物ともいう)が形成され、ジヨードメタン化合物の水溶液が得られる。
混合工程の後に、必要に応じ、得られた水溶液を濾過して、水に溶解していないジヨードメタン化合物等を除去してもよい。
【0019】
混合工程における温度は、30℃以上120℃以下である。
混合工程における温度が30℃以上120℃以下であることで、ジヨードメタン化合物をシクロデキストリン誘導体によって良好に包接することができる。
上記同様の観点から、混合工程における温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。
また、上記同様の観点から、混合工程における温度は、110℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0020】
混合工程における混合の時間は、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上である。
混合の時間の上限は、生産性等を考慮して適宜決定できるが、上限は、例えば50時間である。
【0021】
混合工程における混合の方法は、上記の各成分(ジヨードメタン化合物、シクロデキストリン誘導体及び水)を合わせ、合わせた液を攪拌する方法、各成分を収容した容器を振盪する方法、等の公知の方法によって行うことができる。
【0022】
混合工程は、具体的には、以下の方法により行うことができる。
反応器にシクロデキストリン誘導体(CD)と水を装入した後、30℃以上120℃以下の範囲内における所望の温度においてジヨードメタン化合物を添加し、攪拌する。その後、加圧ろ過を行い、ジヨードメタン化合物、シクロデキストリン誘導体を含む水溶液を得る。
【0023】
~溶液A及び溶液Bを混合する態様~
混合工程は、ジヨードメタン化合物と水溶性有機溶剤とを含む溶液A、及び、シクロデキストリン誘導体と水とを含む溶液Bを混合し、特定包接化合物を含む溶液Cを得る工程としてもよい。
溶液Aと溶液Bとを混合することにより、水溶性有機溶剤と水との混合溶媒中で、ジヨードメタン化合物とシクロデキストリン誘導体とが接触し、特定包接化合物が形成され、特定包接化合物を含む溶液Cが得られる。
【0024】
-溶液A-
溶液Aは、ジヨードメタン化合物と水溶性有機溶剤とを含む
溶液Aとしては、予め調製された溶液Aを入手して用いてもよいし、材料を入手して調製した溶液Aを用いてもよい。
【0025】
本開示において水溶性有機溶剤における「水溶性」とは、25℃の水100gに対する溶解度が1g以上(好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上)である有機溶剤を意味する。
【0026】
水溶性有機溶剤は、ニトリル化合物、アルコール化合物、ケトン化合物、及びエーテル化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
この場合、本開示の製造方法による効果がより効果的に奏される点で、ニトリル化合物、アルコール化合物、ケトン化合物、及びエーテル化合物の合計含有量は、水溶性有機溶剤の全量に対し、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0027】
水溶性有機溶剤に含まれ得る、ニトリル化合物、アルコール化合物、ケトン化合物、及びエーテル化合物は、いずれも沸点が100℃未満であることが好ましい。
これにより、特定包接化合物を含む溶液Cから溶媒が蒸発する際、特定包接化合物の分解(即ち、特定包接化合物からのジヨードメタン化合物の分離)が抑制される。
詳細には、溶液C中の溶媒は、溶液A由来の水溶性有機溶剤及び溶液B由来の水を含む。水溶性有機溶剤に含まれ得る、ニトリル化合物、アルコール化合物、ケトン化合物、及びエーテル化合物の沸点が100℃未満である場合には、溶液Cから溶媒が蒸発する際、これらの化合物(ニトリル化合物、アルコール化合物、ケトン化合物、又はエーテル化合物)が水よりも先に蒸発する。これにより、これらの化合物の蒸発後においても、特定包接化合物及び水を含む溶液が残存する。ジヨードメタン化合物は水に対する溶解性が低いため、残存した溶液中において、シクロデキストリン誘導体に包接されたままの状態で(即ち、特定包接化合物の形態で)安定的に存在する。従って、ニトリル化合物、アルコール化合物、ケトン化合物、及びエーテル化合物の沸点がいずれも100℃未満である場合には、溶液Cから溶媒が蒸発する際、特定包接化合物の分解(即ち、特定包接化合物からのジヨードメタン化合物の分離)が抑制される。
【0028】
本開示において、沸点とは、1気圧(101325Pa)下における沸点を意味する。
【0029】
ニトリル化合物としては、アセトニトリル又はプロピオニトリルが好ましく、アセトニトリルがより好ましい。
アルコール化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、又はイソプロパノールが好ましく、メタノール又はエタノールがより好ましく、メタノールが更に好ましい。
ケトン化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、又はジエチルケトンが好ましい。
エーテル化合物としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、又は1,2-ジメトキシエタンが好ましく、テトラヒドロフラン又は1,2-ジメトキシエタンがより好ましい。
【0030】
水溶性有機溶剤は、ニトリル化合物及びアルコール化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
この場合、ニトリル化合物及びアルコール化合物の合計含有量は、水溶性有機溶剤の全量に対し、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0031】
また、水溶性有機溶剤は、ニトリル化合物を含むことが好ましい。
この場合、ニトリル化合物の含有量は、水溶性有機溶剤の全量に対し、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0032】
溶液A中における水溶性有機溶剤は、溶液Aの全量に対し、例えば80質量%以上であり、好ましくは90質量%以上である。
【0033】
溶液Aは、水を含まないことが理想的であるが、特定包接化合物の形成性に影響しない程度であれば、少量の水を含んでもよい。
特定包接化合物の形成性の観点から、水の含有量は、溶液Aの全量に対し、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下である。
【0034】
溶液Aは、ジヨードメタン化合物を含む。
溶液A中におけるジヨードメタン化合物の含有量には特に制限はない。
溶液A中におけるジヨードメタン化合物の含有量は、溶液Aの全量に対し、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上である。
溶液A中におけるジヨードメタン化合物の含有量の上限は、溶液Aが、ジヨードメタン化合物の飽和溶液となる量であってもよい。また、溶液A中におけるジヨードメタン化合物の含有量の上限は、例えば、溶液Aの全量に対して10質量%であってもよい。
【0035】
-溶液B-
溶液Bは、シクロデキストリン誘導体と水とを含む。
溶液Bとしては、予め調製された溶液Bを入手して用いてもよいし、材料を入手して調製した溶液Bを用いてもよい。
溶液Bは、シクロデキストリン誘導体を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
【0036】
溶液B中におけるシクロデキストリン誘導体の含有量には特に制限はない。
溶液B中におけるシクロデキストリン誘導体の含有量は、溶液Bの全量に対し、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。
溶液B中におけるシクロデキストリン誘導体の含有量の上限は、溶液Bが、シクロデキストリン誘導体の飽和溶液となる量であってもよい。また、溶液B中におけるシクロデキストリン誘導体の含有量の上限は、例えば、溶液Bの全量に対して40質量%であってもよく、30質量%であってもよい。
【0037】
溶液B中における水の含有量には特に制限はない。
溶液B中における水の含有量は、例えば50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。
【0038】
溶液Bは、水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。
この場合の水溶性有機溶剤としては、前述の溶液Aにおける水溶性有機溶剤と同様のものが好適である。
【0039】
本態様は、溶液Aの全量と溶液Bの全量との混合を完了するまでの過程において、溶液Aの全量のうちの少なくとも一部に対し、溶液Bの全量のうちの少なくとも一部を添加することを含む態様である。
この態様によれば、本開示の製造方法による効果(即ち、特定包接化合物の形成性を向上させることによるジヨードメタン化合物の水溶性向上)がより効果的に奏される。より詳細には、上記態様によれば、ジヨードメタン化合物の水に対する溶解性が低いことに起因する、ジヨードメタン化合物の析出が抑制され、その結果、ジヨードメタン化合物とシクロデキストリン誘導体との接触機会をより確保し易くなり、特定包接化合物の形成性がより向上する。
【0040】
上記態様としては、例えば;
溶液Aの全量に対して溶液Bの全量を添加する態様(溶液Bを少量ずつゆっくりと添加する態様を含む。以下同じ。);
溶液Aの全量のうちの一部に対して溶液Bの全量を添加し、次いで溶液Aの残りを添加する態様;
溶液Aの全量のうちの一部に対して溶液Bの全量のうちの一部を添加し、次いで溶液Aの残りを添加し、次いで溶液Bの残りを添加する態様;
溶液Aの全量のうちの一部に対して溶液Bの全量のうちの一部を添加し、次いで溶液Aの残り及び溶液Bの残りを、複数回にわけて交互に添加する添加する態様;
等が挙げられる。
【0041】
上記態様として、好ましくは、溶液Aの全量のうちの50容量%以上に対し、溶液Bの全量のうちの少なくとも一部を添加することを含む態様である。
【0042】
混合工程で混合する溶液A及び溶液Bの全量中において、水に対する水溶性有機溶剤の使用容積比(以下、使用容積比〔水溶性有機溶剤/水〕)は、包接化合物の形成性をより向上させる観点から、好ましくは0.3以上であり、より好ましくは0.5以上であり、更に好ましくは1.0以上であり、更に好ましくは1.5以上である。
使用容積比〔水溶性有機溶剤/水〕の上限には特に制限はない。使用容積比〔水溶性有機溶剤/水〕の上限としては、例えば、5.0、2.0等が挙げられる。
【0043】
<水溶液Dを得る工程>
本開示の製造方法は、更に、溶液Cを得る工程の後に、溶液Cから水溶性有機溶剤を除去することにより、特定包接化合物を含む水溶液Dを得る工程を有することが好ましい。
この態様では、水及び特定包接化合物を含む水溶液Dが得られる。この態様では、ジヨードメタン化合物が水に溶解しにくい性質を利用して、シクロデキストリン誘導体中にジヨードメタン化合物がより包接され易くなると考えられる。
溶液Cからの水溶性有機溶剤の除去の具体的態様としては、
溶液Cを加熱して水溶性有機溶剤を蒸発させる態様、
エバポレーター等の装置を用い溶液Cが存在する系を減圧して水溶性有機溶剤を蒸発させる態様、
等が挙げられる。
本開示の製造方法が、水溶液Dを得る工程を有する場合、水溶性有機溶剤に含まれ得る、ニトリル化合物の沸点、アルコール化合物の沸点、ケトン化合物の沸点、及びエーテル化合物の沸点は、いずれも100℃未満であることが好ましい。これにより、溶液Cから水溶性有機溶剤を除去し、特定包接化合物を含む水溶液Dを得やすい。
水溶液Dを得る工程では、必要に応じ、溶液Cを濾過し、濾過された溶液Cから水溶性有機溶剤を除去して水溶液Dを得てもよい。
【0044】
(ジヨードメタン化合物の水溶液)
混合工程におけるジヨードメタン化合物の水溶液(以下、単に水溶液ともいう)は、ジヨードメタン化合物、シクロデキストリン誘導体及び水を含む。
上記水溶液は、特定包接化合物を含むため、ジヨードメタン化合物の水に対する溶解性が良好であり、優れた抗菌性を示す。
【0045】
(ジヨードメタン化合物)
本開示の水溶液は、ジヨードメタン化合物を含有する。
本開示の水溶液は、ジヨードメタン化合物を含有することで、抗菌性を示すことができる。
【0046】
本開示におけるジヨードメタン化合物としては、公知のジヨードメタン化合物を用いることができるが、良好な抗菌性を得る観点から、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。以下、一般式(1)で表されるヨード化合物を特定ヨード化合物と称することがある。
【0047】
【化5】
【0048】
一般式(1)において、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~7のアシル基、炭素数2~7のアルコキシカルボニル基、炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を示し、Rは、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、nは0又は1を示す。
また、L1は、カルボニル基又はスルホニル基を示す。
【0049】
で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐を有するアルキル基であっても環状構造を有するアルキル基であってもよく、直鎖アルキル基又は分岐を有するアルキル基であることが好ましい。
で表されるアルキル基の炭素数は、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましい。
で表される炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0050】
で表される炭素数1~7のアシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0051】
で表される炭素数2~7のアルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基としては、炭素数1~6のアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~3のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素数1~2のアルコキシ基であることが更に好ましい。
炭素数2~7のアルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基は、直鎖アルコキシ基であっても分岐を有するアルコキシ基であっても環状構造を有するアルコキシ基であってもよく、直鎖アルコキシ基又は分岐を有するアルコキシ基であることが好ましい。
炭素数2~7のアルコキシカルボニル基を構成するアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、シクロブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、2-メチルブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、1-エチルプロポキシ基、シクロペンチルオキシ基、n-へキシルオキシ基、4-メチルペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、2-メチルペンチルオキシ基、1-メチルペンチルオキシ基、3,3-ジメチルブトキシ基、2,2-ジメチルブトキシ基、1,1-ジメチルブトキシ基、1,2-ジメチルブトキシ基、1,3-ジメチルブトキシ基、2,3-ジメチルブトキシ基、2-エチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0052】
で表される炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~2のアルキル基であることが更に好ましい。
炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐を有するアルキル基であっても環状構造を有するアルキル基であってもよく、直鎖アルキル基又は分岐を有するアルキル基であることが好ましい。
炭素数2~7のアルキルアミノカルボニル基又は炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成するアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0053】
で表される炭素数3~13のジアルキルアミノカルボニル基を構成する2つのアルキル基は、同じであってもよく、異なっていてもよい。また、2つのアルキル基が互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0054】
としては、水素原子又は炭素数2~7のアルコキシカルボニル基であることが好ましく、水素原子又はエトキシカルボニル基であることがより好ましい。
【0055】
で表される炭素数1~6のアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐を有するアルキル基であっても環状構造を有するアルキル基であってもよく、直鎖アルキル基又は分岐を有するアルキル基であることが好ましい。
で表されるアルキル基の炭素数は、1~3であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。
で表される炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、2-メチルブチル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、4-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1-メチルペンチル基、3,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0056】
で表されるハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。
【0057】
の置換位置は特に限定されるものではない。Rの置換位置は、一般式(1)のベンゼン環におけるL1の結合した炭素を基準として、オルト位であってもメタ位であってもパラ位であってもよく、パラ位であることが好ましい。
【0058】
としては、メチル基、又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0059】
nは0又は1を示し、1が好ましい。
【0060】
L1は、カルボニル基又はスルホニル基を示す。上記の中でも、抗菌性の観点から、カルボニル基又はスルホニル基が好ましく、スルホニル基がより好ましい。
【0061】
本開示のジヨードメタン化合物としては、例えば、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(以下、DMTSともいう)、ジヨードメチル-o-トリルスルホン、ジヨードメチル-m-トリルスルホン、ジヨードメチル-p-クロロフェニルスルホン、ジヨードメチル-p-ブロモフェニルスルホン、ジヨードメチル-p-エチルフェニルスルホン、ジヨードメチル-p-プロピルフェニルスルホン、ジヨードメチル フェニルケトン、ジヨードメチル (4-メチルフェニル)ケトン、ジヨードメチル (4-クロロフェニル)ケトン、メチル 2,2-ジヨード-3-オキソ-3-フェニルプロピオネート等が挙げられる。上記の中でも、良好な抗菌性を得る観点から、ジヨードメチル-p-トリルスルホン、ジヨードメチル-o-トリルスルホン、ジヨードメチル-m-トリルスルホン、ジヨードメチル-p-クロロフェニルスルホンが好ましく、ジヨードメチル-p-トリルスルホンがより好ましい。
【0062】
本開示におけるジヨードメタン化合物は市販品を用いてもよく、市販品としては、例えば、ヨートルDP95(三井化学株式会社製)等が挙げられる。
【0063】
ジヨードメタン化合物の添加量は、水1mLに対して、10mg以上であることが好ましい。これによって、水溶液の抗菌性をより向上させることができる。
上記同様の観点から、ジヨードメタン化合物の添加量は、抗菌性の観点から、水1mLに対して、20mg以上であることがより好ましく、25mg/mL以上であることがさらに好ましい。
また、ジヨードメタン化合物の添加量は、水1mLに対して、80mg以下であることが好ましい。これによって、ジヨードメタン化合物を良好にシクロデキストリン誘導体に包接させることができるため、ジヨードメタン化合物の水溶性を向上させることができる。
上記同様の観点から、ジヨードメタン化合物の添加量は、水1mLに対して、60mg/mL以下であることがより好ましく、50mg/mLであることがさらに好ましく、40mg/mL以下であることが特に好ましい。
【0064】
(シクロデキストリン誘導体)
本開示の水溶液は、シクロデキストリン誘導体を含む。
なお、本開示においてシクロデキストリン誘導体とは、置換基を有するシクロデキストリンを指す。
シクロデキストリン誘導体としては、α-、β-及びγ-シクロデキストリン誘導体のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。
シクロデキストリン誘導体としては、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-γ-シクロデキストリン、メチル-α-シクロデキストリン等が挙げられる。
中でも、メチル-β-シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが好ましく、メチル-β-シクロデキストリンがより好ましい。
上記の中でも、包接化合物を形成するために用いるシクロデキストリン誘導体の使用量を低減させる観点から、シクロデキストリン誘導体がβ-シクロデキストリン誘導体であることが好ましい。
【0065】
本開示の水溶液は、β-シクロデキストリン誘導体を含有することが好ましい。
これによって、本開示におけるβ-シクロデキストリン誘導体及び上記ジヨードメタン化合物は、β-シクロデキストリン誘導体がジヨードメタン化合物を包接する包接化合物として存在することができるため、ジヨードメタン化合物の水溶性を向上させることができる。
【0066】
β-シクロデキストリン誘導体における置換基としては、アルキル基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられる。
上記アルキル基及びヒドロキシアルキル基における炭素数は1~10が好ましく、1~3がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0067】
本開示におけるβ-シクロデキストリン誘導体としては、メチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが挙げられる。
ジヨードメタン化合物の水溶性を向上させることで良好な抗菌性を有する水溶液を得る観点から、上記の中でも、メチル-β-シクロデキストリンがより好ましい。
【0068】
本開示の水溶液は、水及びβ-シクロデキストリン誘導体の全量に対するβ-シクロデキストリン誘導体の含有量が、10質量%~58質量%であることが好ましい。
水及びβ-シクロデキストリン誘導体の全量に対するβ-シクロデキストリン誘導体の含有量が10質量%以上であることで、β-シクロデキストリン誘導体が良好にジヨードメタン化合物を包接することができ、ジヨードメタン化合物の水溶性を向上させることができる。
上記の観点から、水及びβ-シクロデキストリン誘導体の全量に対するβ-シクロデキストリン誘導体の含有量が、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。
また、水及びβ-シクロデキストリン誘導体の全量に対するβ-シクロデキストリン誘導体の含有量が58質量%以下であることで、水溶液の粘度が低下するため、水溶液の攪拌効率を向上させることができる。また製造コストを低減させることができる。
上記の観点から、水及びβ-シクロデキストリン誘導体の全量に対するβ-シクロデキストリン誘導体の含有量が、45質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0069】
β-シクロデキストリン誘導体としては、市販品を用いてもよく、例えば、CAVASOL W7 M(メチル-β-シクロデキストリン、シクロケム社製)、CAVASOL W7 HP(ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、シクロケム社製)、化学修飾サイクロデキストリン メチル-β-CD(塩水港精糖社製)、化学修飾サイクロデキストリン HP-β-CD(塩水港精糖社製)、セルデックス HP-β-CD(日本食品化工社製)等を用いることができる。
【0070】
<水>
本開示の水溶液は、水を含む。
本開示における水は、イオン交換水等を用いることができる。
水溶液の全量に対する水の含有量としては、45質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましい。
水溶液中の水の含有量の上限としては特に制限はなく、水溶液の全量に対する水の含有量として、99質量%以下としてもよく85質量%以下としてもよい。
【0071】
本開示の水溶液中において、ジヨードメタン化合物に対するシクロデキストリン誘導体のモル比(以下、モル比〔シクロデキストリン誘導体/ジヨードメタン化合物〕)は、包接化合物の形成性をより向上させる観点から、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは2.4以上であり、さらに好ましくは3.0以上である。
また、モル比〔シクロデキストリン誘導体/ジヨードメタン化合物〕は、シクロデキストリン誘導体の使用量低減の観点から、好ましくは8.0以下であり、より好ましくは6.0以下であり、さらに好ましくは4.0以下である。
【0072】
本開示において、モル比〔シクロデキストリン誘導体(CD)/ジヨードメタン化合物(DM)〕は下記式により算出する。
モル比=(添加したCDの物質量A)/(添加したDMの物質量B)
A=(添加したCDの重量[g])/(CDの分子量)
B=(添加したDMの重量[g])/(DMの分子量)
【0073】
(着色防止剤の付与)
上記混合工程は、上記のジヨードメタン化合物と、シクロデキストリン誘導体と、水と、下記式1で表される化合物及び下記式2で表される化合物の少なくとも1つ(着色防止剤)と、を混合することが好ましい。
【0074】
【化6】
【0075】
式1中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基、アルキニル基又はアルケニル基を表す。
【0076】
【化7】
【0077】
式2中、A1及びA2は、それぞれ独立に、-O、-S、又は-OHを表す。但し、A1及びA2の内、少なくとも1つは-Oである。
式2中、Xは、スルホニル基、スルフィニル基又はジスルフィニル基を表し、Bは1価のアルカリ金属イオン又は2価のアルカリ土類金属イオンを表し、l及びnは1又は2を表し、mは1-又は2-を表す。
但し、A1及びA2の内、一方が-OHであり、他方が-O又は-Sであることにより、mが1-である場合、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは1である、又は、lは2でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である。
また、A1及びA2が、それぞれ独立に、-O又は-Sであることにより、mが2-である場合、lは1でありBは2価のアルカリ土類金属イオンでありnは1である、又は、lは1でありBは1価のアルカリ金属イオンでありnは2である。
【0078】
上記式1によって表される化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-iso-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチル-iso-ブチルケトン、メチル-n-ペンチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、メチルビニルケトン、好ましくはアセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン等が挙げられる。
上記の中でも、着色防止性の観点から、アセトンが好ましい。
【0079】
上記式2で表される化合物としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸水素マグネシウム、チオ硫酸マグネシウム、ハイドロサルファイトナトリウム、ハイドロサルファイトカリウム、ハイドロサルファイトマグネシウム等が挙げられる。
上記の中でも、着色防止性の観点から、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、亜硫酸マグネシウム、亜硫酸水素マグネシウム及びチオ硫酸マグネシウムが好ましく、チオ硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0080】
上記のように、混合工程における混合成分として、着色防止剤を混合することを前添加と称することがある。
【0081】
本開示の製造方法は、さらに、上記混合工程で得られた混合物に対し、上記着色防止剤を添加する添加工程を有することが好ましい。
本開示において、混合工程の後に、混合工程で得られた混合物に対して着色防止剤を添加することを後添加と称することがある。
【0082】
本開示の製造方法は、前添加又は後添加を行うことで、ジヨードメタン化合物の分解によって生じるヨウ素等に起因する水溶液の着色を良好に抑制することができ、製品の外観を良好に保つことができる。
【0083】
着色防止剤の付与は、上記前添加(即ち、混合工程中に着色防止剤を付与する)でもよく、上記後添加(即ち、混合工程の後に着色防止剤を付与する)でもよい。
【0084】
(着色防止剤)
本開示の水溶液は、着色防止剤として、上記ジヨードメタン化合物及びβ-シクロデキストリン誘導体に加えて、さらに、上記着色防止剤を含有することが好ましい。
これによって、本開示の水溶液は色味を良好に抑制することができる。
【0085】
上記の化合物を含有する場合に色味が抑制される理由は以下のように推測される。
本開示の水溶液が上記式1又は上記式2で表される化合物を含む場合には、水溶液中にわずかに存在する色味成分と反応することにより、水溶液の色味が抑制されると推測される。
上記の中でも、色味を抑制する観点から、本開示の水溶液は、アセトン及びチオ硫酸ナトリウムの少なくとも1種を含むことがより好ましく、アセトンを含むことがさらに好ましい。
【0086】
着色防止剤の含有量としては、色味抑制の観点から、ジヨードメタン化合物の全量に対して、上記式1で表される化合物の場合には1質量%~80質量%が好ましく、10質量%~70質量%がより好ましい。上記式2で表される化合物の場合には0.1質量%~40質量%が好ましく、0.3質量%~20質量%がより好ましい。
【0087】
<水溶液の用途>
ジヨードメタン化合物(例えば、ジヨードメチル-p-トリルスルホン(DMTS))は、抗菌・抗カビ剤の有効成分として使用され得るため、本開示の製造方法によって製造される水溶液は、水系環境において、抗菌又は抗カビ作用の少なくとも1つを有する抗菌剤として好適である。
【0088】
本開示の水溶液を抗菌剤として用いる場合、適用できる微生物としては、例えば、Klebsiella pneumonia(肺炎桿菌)、Bacillus subtilis(枯草菌)、Bacillus cereus(セレウス菌)、Clostridium botulinum(ボツリヌス菌)、Clostridium tetani(破傷風菌)、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、Streptococcus pneumoniae(肺炎レンサ球菌)、MRSA(多剤耐性黄色ブドウ球菌)等のグラム陽性菌、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Serratia marcescens(セラチア マルセッセンス菌)、Acinetobacter baumannii(多剤耐性アシネトバクター菌)、Escherichia coli(大腸菌)、egionella pneumophila(レジオネラ菌)、Methylobacterium(メチロバクテリウム属)等のグラム陰性菌が挙げられる。Aspegillus niger、Penicillium citrinum、Cladosporium cladosporioides等のカビ、Candida albicans、Saccharomyces cerevisiae等の酵母、Corynebacterium glutamicum、Mycobacterium bovis等の放線菌などが挙げられる。
【実施例
【0089】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示の発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0090】
<水溶液の調製>
(実施例1)
反応器(300mL)にシクロデキストリン誘導体(CD)であるM-βCD(メチル-β-シクロデキストリン、シクロケム社、商品名 CAVASOL W7 M、平均分子量:1306.49)50gと水100mLとを装入した後、ジヨードメタン化合物(DM)としてDMTS(ジヨードメチル-p-トリルスルホン、三井化学社、商品名 ヨートルDP95、平均分子量:422.02)を、モル比CD/DMが表1に記載の値となるように添加し、表1に示す温度及び時間にて攪拌して混合した後、0.3MPa下で加圧ろ過を行い、ジヨードメタン化合物の水溶液を調製した。
【0091】
上記M-βCDの平均分子量は、以下の方法により測定した値である。
メチル基の置換数が異なる複数のM-βCDの混合物についてH-NMR分析を行い、そのピーク面積から、βCDを構成するグルコース1つに存在するメチル基の置換数の平均値を算出した。上記で得られた置換数の平均値、無置換のβCDの分子量、及びβCDを構成するグルコースの数から、メチル基の置換数が異なる複数のM-βCDの混合物の平均分子量を算出し、得られた値を上記M-βCDの平均分子量とした。
【0092】
(実施例2~実施例10、比較例3)
DMの添加量をモル比CD/DMが表1に記載の値となるように変更し、混合時間及び混合温度を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0093】
(実施例11~実施例13)
DMの添加量をモル比CD/DMが表1に記載の値となるように変更し、混合時間及び混合温度を表1に記載の通りに変更し、着色防止剤を、表1に記載の種類及び添加時期にて、DMの全質量に対する質量比が表1に記載の値となるように添加した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0094】
(比較例1)
CDを添加せず、DMの添加量を水1mlに対して0.04gとし、混合時間及び混合温度を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0095】
(比較例2)
CDの添加量を水1mlに対して0.5gとし、DMの添加量を水1mlに対して0.07gとし、混合時間及び混合温度を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0096】
(比較例4)
CDを添加せず、DMの添加量を水1mlに対して0.064gとし、混合時間及び混合温度を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様の操作を行った。
【0097】
<ジヨードメタン化合物の濃度の測定>
各実施例及び比較例におけるジヨードメタン化合物の濃度(DM濃度)を、以下の方法により測定した。結果を表1に記載した。
水溶液中のジヨードメタン化合物の濃度を、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて下記の方法により求めた。
水溶液中のジヨードメタン化合物の濃度は、予め作成した絶対検量線に基づいて求めた。なお、上記絶対検量線は、水溶媒にDMTSを溶解させた溶液についてHPLC分析を行った場合における、溶液中のジヨードメタン化合物の濃度と、ピークのArea%と、の関係を示すグラフであり、以下の方法で作成した。
アセトニトリル:水=1:1である溶媒を用いて、濃度の異なるDMTS溶液を3種類用意し、HPLCを用いてDMTSに相当するピークのArea%を算出した。その後、DMTS濃度を縦軸、得られたArea%を横軸として絶対検量線を作成した。
HPLCの条件は、以下の通りとした。
-HPLCの条件-
・カラム: (株)ワイエムシィ製「YMC-Pack ODS-A」(150×6mm)
・移動相: アセトニトリル:HO(0.1質量%トリフルオロ酢酸)=5:5→10:0 Over 15min、retention 10min、流速0.5mL/min
・温度:40℃
・検出波長:230nm
なお、本開示において「ジヨードメタン化合物の濃度」は、水溶液1mLに溶解されているジヨードメタン化合物のmg数を意味する。
【0098】
<着色防止性>
各実施例及び比較例において得られた水溶液について、下記評価基準に従って着色防止性を評価した。
-評価基準-
A:水溶液の色味が視認できない。
B:水溶液の色味が視認できる。
【0099】
【表1】
【0100】
表1中、「-」は該当する成分が入っていない、又は、該当する値が存在しないことを意味する。
表1中、モル比(CD/DM)は添加したDMに対するCDのモル比(モル比〔シクロデキストリン誘導体(CD)/ジヨードメタン化合物(DM)〕)を意味する。
表1中、着色防止剤の添加時期についての詳細は以下の通りである。
前添加・・・混合工程中に着色防止剤を添加した。
【0101】
<DMとCDとのモル比の測定>
各実施例又は比較例において、添加したDMに対するCDのモル比(モル比〔シクロデキストリン誘導体(CD)/ジヨードメタン化合物(DM)〕)は既述の方法と同様の方法により行った。結果を表1に示した。
【0102】
(実施例3-1~実施例3-11)
以下の通りに上記実施例3で作製した水溶液と着色防止剤とを混合し、混合後の水溶液について着色防止性を評価した。
上記実施例3で作製した水溶液中のDMに対する質量比が表2に記載の値となる量の着色防止剤を、表2に記載の着色防止剤の種類及び添加時期にて、上記実施例3で作製した水溶液と混合した。上記混合の際、混合温度及び混合時間は表2に記載の通りとした。
なお、評価基準は上述と同様である。結果は表2に記載した。
【0103】
【表2】
【0104】
表2中、「-」は該当する成分が入っていない、又は、該当する値が存在しないことを意味する。
表2中、着色防止剤の添加時期についての詳細は以下の通りである。
後添加・・・混合工程の後に着色防止剤を添加した。
【0105】
表1に示すように実施例1~実施例13は、溶液中のDM濃度が比較例と比較して高く、DMの水溶性が良好であった。
中でも、撹拌温度が50℃以上である実施例3~実施例9は、DM濃度が高く、DMの水溶性がより良好であった。また、アセトンを前添加した実施例11~実施例13は着色防止性に優れていた。
一方、CDを含まない比較例1及び比較例4は、DM濃度が低く、DMの水溶性に劣っていた。また、撹拌温度が130℃を超える比較例2は、DMが分解したため、DM濃度が測定できなかった。
表2に示すように、着色防止剤を後添加した実施例3-1~実施例3-10は着色防止性に優れていた。