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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】新規フルオレン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 59/72 20060101AFI20240110BHJP
   C07C 69/712 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C07C59/72 CSP
C07C69/712 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021501999
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2020006175
(87)【国際公開番号】W WO2020171039
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019029267
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 大地
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-059074(JP,A)
【文献】特開2008-274271(JP,A)
【文献】特開2009-067681(JP,A)
【文献】特開2009-227603(JP,A)
【文献】特開2017-178918(JP,A)
【文献】特開2018-177887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 59/72
C07C 69/712
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフルオレン化合物。
【化1】
(式中、RおよびRは、各々独立して水素原子、メチル基、エチル基を示し、a、b、c、dは0を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規フルオレン化合物に関する。詳しくは、2,3-ベンゾフルオレン骨格を有する新規フルオレン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等のフルオレン骨格を有する化合物群は、耐熱性や光学特性等において優れた機能を発揮することから、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性合成樹脂原料、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂原料、酸化防止剤原料、感熱記録体原料、感光性レジスト原料などの用途で用いられている。中でも、下記化学式
【化1】
で表される9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンから製造される樹脂は、光学特性に優れるとして着目されている(例えば、特許文献1等)。
この9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンや、これに近年汎用されているヒドロキシエトキシ基を導入した化合物、例えば、9,9-ビス{4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-2,3-ベンゾフルオレンは、「ジオール成分」として、ポリカーボネート樹脂原料の他、ポリエステル樹脂やポリアリーレート樹脂などの樹脂原料として利用または注目されている。
これら化合物の例のように、樹脂原料として「ジオール成分」の開発は盛んに行われ、望む樹脂性能に応じた「ジオール成分」の提案は多くなされている。
一方、ポリエステル樹脂やポリアリーレート樹脂などの樹脂原料として、「ジオール成分」と「ジカルボン酸成分」の2成分が必要であるにも関わらず、「ジカルボン酸成分」の開発は遅れており、選択できる「ジカルボン酸成分」の種類は少ないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-036249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した事情を背景としてなされたものであって、樹脂原料の「ジカルボン酸成分」として汎用性が高く、高い屈折率を有し、さらに、有機溶媒に対する優れた溶解性をも有する2,3-ベンゾフルオレン骨格を有する新規なフルオレン化合物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上述の課題解決のために鋭意検討した結果、9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン等の2,3-ベンゾフルオレン骨格を有するフルオレン化合物が、新規化合物であり、その化学構造から樹脂原料の「ジカルボン酸成分」として汎用性が高いことはもとより、高屈折率を有すること、さらには、有機溶媒に対する優れた溶解性をも有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.下記一般式(1)で表されるフルオレン化合物。
【化2】
(式中、RおよびRは、各々独立して水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、RおよびRは、各々独立して炭素原子数1~6のアルキル基、フェニル基、RおよびRは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数2~6のアルケニル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、炭素原子数6~12のアリール基を示し、a、bおよびcは各々独立して0~4の整数、dは0~6の整数を示す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上記一般式(1)で表されるとおり、末端に2つのカルボン酸/カルボン酸エステルを有する化学構造を有する新規な「ジカルボン酸成分」として、新たな樹脂原料を提供することができる。
後述するとおり、本発明化合物は高屈折率を有する化合物であることから、樹脂原料の「ジカルボン酸成分」として使用することにより、高屈折率な樹脂を得ることができ、光学特性に優れた樹脂原料として期待できる。
特に、光学用途の樹脂原料として使用できる「ジカルボン酸成分」は、その種類が少ない状況を鑑みると、本発明の新規フルオレン化合物は、その光学特性、耐熱性、溶媒溶解性などの性能から、工業用途において非常に有用な新規化合物であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図2】実施例3で得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図3】実施例3で得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図4】実施例4で得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図5】実施例7で得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図6】実施例8で得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図7】実施例9で得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図8】実施例10で得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の新規フルオレンは下記一般式(1)で表される化合物である。
【化3】
(式中、RおよびRは、各々独立して水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、RおよびRは、各々独立して炭素原子数1~6のアルキル基、フェニル基、RおよびRは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数2~6のアルケニル基、炭素原子数1~6のアルコキシ基、炭素原子数6~12のアリール基を示し、a、bおよびcは各々独立して0~4の整数、dは0~6の整数を示す。)
【0010】
一般式(1)において、R~Rのいずれか1つ以上が炭素原子数1~6のアルキル基である場合、好ましいアルキル基としては、直鎖状または分岐鎖状の炭素原子数1~4のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。
、Rの1つまたは両方が炭素原子数2~6のアルケニル基である場合、好ましいアルケニル基としては、直鎖状または分岐鎖状の炭素原子数2~4のアルケニル基であり、具体的には、ビニル基、1-メチルエテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が挙げられる。
、Rの1つまたは両方が炭素原子数1~6のアルコキシ基である場合、好ましいアルコキシ基としては、直鎖状または分岐鎖状の炭素原子数1~4のアルコキシ基であり、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基が挙げられる。
、Rの1つまたは両方が炭素原子数6~12のアリール基である場合、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0011】
一般式(1)において、RおよびRは、各々独立して水素原子、炭素原子数1~6のアルキル基、アルカリ金属原子が好ましく、各々独立して水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、リチウム原子、カリウム原子、ナトリウム原子がより好ましく、各々独立して水素原子、メチル基、エチル基がさらに好ましい。中でも、RおよびRが共に水素原子であることが特に好ましい。
一般式(1)において、RおよびRは、各々独立して炭素原子数1~4のアルキル基、フェニル基が好ましく、各々独立してメチル基、フェニル基であることがより好ましい。aおよびbは各々独立して0、1、2、3が好ましく、各々独立して0、1がより好ましく、中でもa、b共に0であることが特に好ましい。また、RとRの置換位置は、2位、3位又は5位が好ましく、3位または/及び5位がより好ましい。
一般式(1)において、RおよびRは、各々独立してハロゲン原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数2~4のアルケニル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基が好ましい。cおよびdは各々独立して0、1が好ましく、中でもc、d共に0であることがより好ましい。
【0012】
上記一般式(1)で表されるフルオレン化合物の好ましい例として、下記化学式で表される9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンや、そのカリウム塩、ナトリウム塩、メチルエステル、エチルエステルが挙げられる。
【化4】
その他の好ましい化合物としては、
9,9-ビス[(4-カルボキシメトキシ-3-メチル)フェニル]-2,3-ベンゾフルオレンや、そのカリウム塩、ナトリウム塩、メチルエステル、エチルエステル
9,9-ビス[(4-カルボキシメトキシ-2-メチル)フェニル]-2,3-ベンゾフルオレンや、そのカリウム塩、ナトリウム塩、メチルエステル、エチルエステル
9,9-ビス[(4-カルボキシメトキシ-3、5-ジメチル)フェニル]-2,3-ベンゾフルオレンや、そのカリウム塩、ナトリウム塩、メチルエステル、エチルエステル
9,9-ビス[(4-カルボキシメトキシ-2,5-ジメチル)フェニル]-2,3-ベンゾフルオレンや、そのカリウム塩、ナトリウム塩、メチルエステル、エチルエステル
9,9-ビス[(4-カルボキシメトキシ-3-フェニル)フェニル]-2,3-ベンゾフルオレンや、そのカリウム塩、ナトリウム塩、メチルエステル、エチルエステル
9,9-ビス[(4-カルボキシメトキシ-2-フェニル)フェニル]-2,3-ベンゾフルオレンや、そのカリウム塩、ナトリウム塩、メチルエステル、エチルエステル
が挙げられる。
【0013】
<合成方法について>
本発明の上記一般式(1)で表されるフルオレン化合物の合成方法については、特に制限はなく、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン類とハロゲン化酢酸アルキル等を、アルカリ条件下で反応させるエーテル化反応により得られる。
本発明化合物である9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンを得るエーテル化反応の反応式を、下記に示す。
<エーテル化反応の反応式>
【化5】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン類は、公知の9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等のフルオレン骨格を有する化合物の製造方法を適用できるが、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンは、下記反応式に示すように、フェノールと2,3-ベンゾ-9-フルオレノンとを原料とし、これらを酸触媒の存在下に反応させる縮合反応により得ることができる。
<縮合反応の反応式>
【化6】
【0014】
<原料合成の1例について-縮合反応->
まずは、本発明化合物の原料合成の1例として、フェノールと2,3-ベンゾ-9-フルオレノンとの縮合反応による、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの合成方法について説明する。
2,3-ベンゾ-9-フルオレノンに対するフェノールの仕込みモル比は、理論値(2.0)以上であれば、特に限定されるものではないが、通常2~20倍モル量の範囲、好ましくは3~10倍モル量の範囲で用いられる。
使用する酸触媒は特に制限されず、公知の酸触媒を使用することができる。具体的な酸触媒としては、例えば、塩酸、塩化水素ガス、60~98%硫酸、85%リン酸等の無機酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、蟻酸、トリクロロ酢酸またはトリフルオロ酢酸等の有機酸、ヘテロポリ酸等の固体酸等を挙げることができる。好ましくは 塩化水素ガスである。このような酸触媒の使用量は反応条件によって好適な量は異なるが、例えば塩化水素ガスの場合は、反応系の空気を窒素ガス等の不活性ガスで置換した後、塩化水素ガスを吹き込み、反応容器内の気相中の塩化水素ガス濃度を75~100容量%とし、反応液中の塩化水素濃度を飽和濃度にするのがよい。35%塩酸の場合はフェノール100重量部に対して、5~70重量部の範囲、好ましくは、10~40重量部の範囲、より好ましくは20~30重量部の範囲で用いられる。
反応に際して、酸触媒と共に必要に応じて助触媒を用いてもよい。例えば、塩化水素ガスを触媒として用いる場合、助触媒としてチオール類を用いることによって、反応速度を加速させることができる。このようなチオール類としては、アルキルメルカプタン類やメルカプトカルボン酸類が挙げられ、好ましくは、炭素数1~12のアルキルメルカプタン類や炭素数1~12のメルカプトカルボン酸類であり、例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等やそれらのナトリウム塩等のようなアルカリ金属塩、チオ酢酸、β-メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。また、これらは単独または二種類以上の組み合わせで使用できる。助触媒としてのチオール類の使用量は、原料の2,3-ベンゾ-9-フルオレノンに対し通常1~30モル%の範囲、好ましくは2~10モル%の範囲で用いられる。
【0015】
反応に際して反応溶媒は使用しなくてもよいが、工業的生産時の操作性や反応速度の向上などの理由で使用してもよい。反応溶媒としては、反応温度において反応容器から留出せず、反応に不活性であれば特に制限はないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の低級脂肪族アルコール、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素類等の有機溶媒や水またはこれらの混合物が挙げられる。これらのうち、芳香族炭化水素が好ましく用いられる。
反応温度は、原料のフェノールや酸触媒の種類により異なるが、酸触媒として塩化水素ガスを使用する場合は、通常10~60℃、好ましくは25~50℃の範囲である。反応圧力は、通常、常圧下で行われるが、用いてもよい有機溶媒の沸点によっては、反応温度が前記範囲内になるように、加圧または減圧下で行ってもよい。
反応時間は、原料のフェノール、酸触媒の種類や、反応温度等の反応条件により異なるが、通常1~30時間程度で終了する。
反応の終点は、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィー分析にて確認することができる。未反応の2,3-ベンゾ-9-フルオレノンが消失し、目的物の増加が認められなくなった時点を反応の終点とするのが好ましい。
【0016】
<原料合成反応の後処理について>
反応の終了後に、公知の後処理方法を適用することができる。例えば、反応終了液に、酸触媒を中和するために、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液等のアルカリ水溶液を加えて、酸触媒を中和する。中和した反応混合液を静置し、必要に応じて水と分離する溶媒を加えて、水層を分離除去する。必要に応じて得られた油層に蒸留水を加え、撹拌して水洗した後、水層を分離除去する操作を1回乃至複数回繰り返し行い中和塩を除去し、得られた油層から余剰のフェノールを減圧蒸留により除去する。得られた残渣に、水と分離する芳香族炭化水素等の溶媒を加えて均一の溶液とし、冷却して析出した結晶を分離して粗結晶を得ることができる。
【0017】
<本発明化合物の合成例について-エーテル化反応->
次いで、本発明化合物の合成例として、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンから、9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンを得るエーテル化反応について説明する。
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンと反応させるハロゲン化酢酸アルキルとしては、例えば、クロロ酢酸メチル、クロロ酢酸エチル、クロロ酢酸n-プロピル、クロロ酢酸イソプロピル、クロロ酢酸n-ブチル、クロロ酢酸イソブチル、クロロ酢酸ターシャリーブチル、ブロモ酢酸メチル、ブロモ酢酸エチル、ブロモ酢酸n-プロピル、ブロモ酢酸イソプロピル、ブロモ酢酸n-ブチル、ブロモ酢酸イソブチル、ブロモ酢酸ターシャリーブチル等が挙げられる。中でも、クロロ酢酸メチルまたはクロロ酢酸エチルが好ましい。
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンに対するハロゲン化酢酸アルキルの仕込みモル比は、理論値(2.0)以上であれば、特に限定されるものではないが、通常2~20倍モル量の範囲、好ましくは2~10倍モル量の範囲、より好ましくは2~6倍モル量の範囲で用いられる。
反応は塩基存在下で行うが、使用する塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。中でも、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが好ましい。塩基の仕込みモル比は、ハロゲン化酢酸アルキルに対して、通常0.8~4倍モル量の範囲、好ましくは0.85~3倍モル量の範囲、より好ましくは0.9~2倍モル量の範囲である。
また、触媒を使用してもよく、例えば、臭化ナトリウムや臭化カリウム等の臭化アルカリ金属塩、ヨウ化ナトリウムやヨウ化カリウム等のヨウ化アルカリ金属塩、臭化アンモニウムやヨウ化アンモニウム等が挙げられる。触媒の使用量は、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンに対して、通常0.1~100重量%の範囲、好ましくは0.1~20重量%の範囲、より好ましくは0.1~10重量%の範囲である。
【0018】
反応に際して反応溶媒は使用しなくてもよいが、工業的生産時の操作性や反応速度の向上などの理由で使用することが好ましい。反応溶媒としては、反応温度において反応容器から留出せず、反応に不活性であれば特に制限はないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン、1、3-ジオキサン、ジエトキシエタン等のエーテル類、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、また、極性を調整するために適宜2種以上を併用してもよい。中でも、メチルイソブチルケトン、アセトニトリルが好ましい。
反応温度は、通常25~120℃、好ましくは40~110℃の範囲、より好ましくは50~100℃の範囲である。反応温度が高いと、生成したエステル化合物の加水分解等により収率が低下するし、反応温度が低いと反応速度が遅くなり好ましくない。反応圧力は、通常、常圧下で行われるが、使用する有機溶媒の沸点によっては、反応温度が前記範囲内になるように、加圧または減圧下で行ってもよい。
反応の終点は、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィー分析にて確認することができる。未反応の9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンが消失し、目的物の増加が認められなくなった時点を反応の終点とするのが好ましい。反応時間は、反応温度等の反応条件により異なるが、通常1~30時間程度で終了する。
【0019】
目的物が9,9-ビス(4-メトキシカルボニルメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン等のエステル化合物である場合には、エーテル化反応終了後、反応生成混合物から目的とするエステル化合物を精製、単離するのが好ましく、例えば常法に従い、反応終了後、中和、水洗、晶析、ろ過、蒸留、カラムクロマトグラフィーによる分離などの後処理操作を行うことで、得ることができる。さらに純度を高めるため、常法に従い蒸留や再結晶、カラムクロマトグラフィーによる精製を行ってもよい。
また、目的物が9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン等のカルボン酸塩である場合には、エーテル化反応終了後、中和、水洗等の反応後処理を行い、得られたエステル化合物を精製することなく、粗生成物のまま、定法に従いアルカリ加水分解することにより、カルボン酸塩を得ることができる。ここに、アルカリ加水分解に使用するアルカリ化合物は、特に、限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましく、通常、12~60重量%濃度の水溶液として用いられる。また、このようなアルカリ化合物は、9,9-ビス(4-メトキシカルボニルメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン等のエステル化合物1モルに対して、通常、2モル以上、好ましくは、2.1~10モルの範囲で用いられる。通常、加水分解反応は水を反応溶媒として用いられるが、必要に応じて、水と任意の割合で混和するアルコールやケトンのような有機溶媒や、また、このような有機溶媒と水との混合溶媒も用いられる。また、上記エーテル化反応に使用した、メチルイソブチルケトンやアセトニトリル等の反応溶媒を引き続き利用することも可能である。加水分解の反応温度は、通常、30~100℃、好ましくは、50~90℃の範囲の温度で行われ、このような反応条件の下では、通常、3~5時間程度で完了する。この加水分解反応により、9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンのアルカリ金属塩を得ることができる。
【0020】
目的物が9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン等のカルボン酸である場合には、上記加水分解反応生成物を、濃塩酸等により処理した後、水と混和しない有機溶媒、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭素原子数5以上の脂肪族炭化水素類、メチルイソブチルケトン等の炭素原子数5以上の脂肪族ケトン類等を用いて洗浄後、精製し単離することが好ましい。さらに純度を高めるため、常法に従い、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィーによる精製を行ってもよい。
【0021】
本発明の新規フルオレン化合物は、高い屈折率、高い耐熱性、広範な有機溶媒に対する高い溶解性などの優れた特性を有しており、樹脂の原料(モノマー)、誘導体の反応成分などに好適に用いることができる。そのため、本発明の新規フルオレン化合物若しくはその誘導体、又は新規フルオレン化合物を樹脂原料(モノマー)とする樹脂は、例えば、フィルム(例えば、光学フィルム、液晶用フィルム、有機EL(エレクトロルミネッセンス)用フィルム、EMIシールドフィルムなど)、レンズ(例えば、ピックアップレンズなど)、保護膜(例えば、電子機器、液晶部材用などの保護膜など)、電気・電子材料(キャリア輸送剤、発光体、有機感光体、有機感光体、感熱記録材料、ホログラム記録材料、フォトクロミック材料など)、電気・電子部品又は機器(例えば、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ 、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池、EMIシールドフィルム、有機EL素子、カラーフィルタなど)、機械部品又は機器(自動車、航空・宇宙材料、センサ、摺動部材など)などに好適に利用できる。特に、本発明の新規フルオレン化合物とする樹脂は、光学特性に優れているため、光学用途の成形体を構成するのに有用である。このような光学用成形体としては、光学フィルムなどが挙げられる。光学フィルムとしては、偏光フィルム(及びそれを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム)、位相差フィルム、配向膜(配向フィルム)、視野角拡大(補償)フィルム、拡散板(フィルム)、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム 、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性フィルム(ACF)、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、 ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層もしくは離型層などが挙げられる。とりわけ、前記フィルムは、機器のディスプレイに用いる光学フィルムとして有用である。このような前記光学フィルムを備えたディスプレイ用部材(又はディスプレイ)としては 、具体的には、パーソナル・コンピュータのモニタ、テレビジョン、携帯電話、カー・ナビゲーション、タッチパネルなどのFPD装置(例えば、LCD、PDPなど)などが挙げられる。
【実施例
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
分析方法は以下の通りである。
<分析方法>
1.示差走査熱量測定(DSC)
結晶体2~3mgをアルミパンに秤量し、示差走査熱量測定装置((株)島津製作所製:DSC-60)を用いて、酸化アルミニウムを対照として下記操作条件により測定した。
(操作条件)
昇温速度 :10℃/min
測定温度範囲:30~260℃
測定雰囲気 :開放、窒素50mL/min
2.示差熱・熱重量分析(DTG)
結晶体8~12mgをアルミパンに秤量し、示差熱・熱重量分析装置((株)島津製作所製:DTG-60A)を用いて、下記操作条件により測定した。
(操作条件)
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:30~300℃
測定雰囲気:開放、窒素50mL/min
3.反応終点の確認と純度測定
装置 :株式会社島津製作所製ProminenceUFLC(液体クロマト
グラフィー)
ポンプ :LC-20AD
カラムオーブン :CTO-20A
検出器 :SPD-20A
カラム :HALO C18 内径3mm、長さ75mm
オーブン温度 :50℃
流量 :0.7ml/min
移動相 :(A)0.1重量%リン酸水溶液、(B)アセトニト
リル
グラジエント条件:(A)体積%(分析開始からの時間)
<反応液分析>
70%(0min)→100%(12min)→100%(15min)
<結晶分析>
70%(0min)→100%(12min)→100%(15min)
試料注入量:5μl
検出波長 :254nm
4.屈折率
装置:京都電子工業株式会社製 屈折計RA-500N
測定する化合物について、任意の濃度のTHF溶液を3サンプル作成し、各溶液の屈折率を測定した。得られた値に対し濃度と屈折率の関係を導き、濃度100%時の値を外挿により算出し、この値を化合物の屈折率とした。
【0023】
<合成例>
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの合成
温度計、撹拌機、冷却管を備えた1リットル4つ口フラスコ内を窒素置換し、フェノール119g(1.2モル)を仕込み、塩化水素ガスを吹き込んでフラスコ内を塩化水素ガスにより置換した。そこに、15%メチルメルカプタンナトリウム塩水溶液13gを滴下し、次いで2,3-ベンゾ-9-フルオレノン145g(0.63モル)、フェノール119g(1.2モル)、トルエン58gの混合液を1時間かけて滴下し、反応温度40℃において3時間撹拌した。液体クロマトグラフィー分析により原料消失を確認し、反応終了とした。反応混合液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応液を中和し、トルエン60gを加えて静置後、水層を除去した。得られた油層に蒸留水を加えて撹拌し、静置後水層を除去する操作を2回繰り返して中和塩を除去し、余剰のフェノールを減圧蒸留により除去した。この蒸留残渣にトルエンを1009g加えて均一な溶液とし、冷却して結晶を析出させた。その後、25℃まで冷却して析出した結晶を濾別し、目的物である9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンを得た。
【0024】
<実施例1>
9,9-ビス(4-エトキシカルボニルメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの合成
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン40.0g(0.1モル)、アセトニトリル120g、炭酸カリウム31.7g、ヨウ化カリウム4.0gを4つ口フラスコに仕込み、70℃まで昇温し、同温で1時間撹拌した。次いでクロロ酢酸エチル34.3g(0.28モル)を反応液の温度を70~80℃に保ちながら滴下した。6時間撹拌後、水100gを加え70℃まで昇温した後、水層を除去した。その後常圧でアセトニトリルを留去し、エタノールを800g加え70℃まで昇温した後、25℃まで冷却して結晶を析出させた。結晶を濾別、乾燥し目的物である9,9-ビス(4-エトキシカルボニルメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンを42.5g取得した。得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図1に示す。
純度 99.2%(高速液体クロマトグラフィー)
プロトン核磁気共鳴スペクトル(400MHz、溶媒CDCl、標準TMS)
化学シフト(シグナル形状、プロトン数):1.26ppm(t, 6H)、4.23ppm(q, 4H)、4.54ppm(s, 4H)、6.73-6.78ppm(m, 4H)、7.14-7.19ppm(m, 4H)、7.28-7.33ppm(m, 1H)、7.36-7.47ppm(m, 4H)、7.75ppm(d, 2H)、7.88-7.92ppm(m,2H)、8.17(s, 1H).
図1に示す示差走査熱量測定(DSC)曲線から、96℃、176℃にピークトップを持つ結晶であることを確認した。屈折率は1.620であった。
【0025】
<実施例2>
9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン・ビスカリウム塩の合成
上記実施例1で得られた9,9-ビス(4-エトキシカルボニルメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン40.0gのアセトニトリル120g溶液を70~80℃に維持し、35%水酸化カリウム水溶液80.1gを滴下し、同温度で2時間撹拌した。反応液を25℃まで冷却して、得られた結晶を濾別、乾燥し9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン・ビスカリウム塩の結晶を56.5g取得した。
純度 99.6%(高速液体クロマトグラフィー)
プロトン核磁気共鳴スペクトル(400MHz、溶媒DO)
化学シフト(シグナル形状、プロトン数):4.37ppm(s, 4H)、6.75-6.83ppm(m, 4H)、7.04-7.13ppm(m, 4H)、7.25-7.47ppm(m, 5H)、7.63-7.73ppm(m, 2H)、7.83-7.95ppm(m, 2H)、8.12-8.23ppm(m,1H).
得られた結晶のFT-IRより、カルボン酸のカルボニル部位に見られる1700cm-1付近のピークが消失し、カルボン酸塩に見られる1600cm-1付近及び1400cm-1、のピークの存在を確認した。
【0026】
<実施例3>
9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの合成
(1)種晶の合成方法
上記実施例2で得られた9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン・ビスカリウム塩1.0gにメチルイソブチルケトン3.0g、濃塩酸1gを加え、80℃に昇温した後水層を除去した。得られた溶液にヘプタン6.0gを加え、冷却し析出物をろ過し種晶を取得した。
(2)種晶を利用した合成方法
上記実施例2で得られた9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン・ビスカリウム塩50.0g、メチルイソブチルケトン250g、濃塩酸25.0gを加え、80℃で30分間撹拌した。水層を除去し、得られた油層に水を加え撹拌して水層を除去する水洗操作を複数回行い、残存する塩酸分を除去した。得られた溶液にヘプタン100.0gを加え、75℃にて上記(1)により得られた種晶50mgを添加し、10℃/時間の冷却速度で25℃まで冷却しろ過した。次いで乾燥を行い9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの粉末を39.6g取得した。得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図2に、差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図3に示す。
収率 86.6%(実施例1~3の3工程通しての収率)
純度 99.8%(高速液体クロマトグラフィー)
プロトン核磁気共鳴スペクトル(400MHz、溶媒MeOH-d、標準TMS)
化学シフト(シグナル形状、プロトン数):4.51ppm(s, 4H)、6.71ppm(d, 4H)、7.07ppm(d, 4H)、7.22ppm(dt, 1H)、7.31-7.35ppm(m, 3H)、7.38ppm(dt, 1H)、7.65-7.69ppm(m, 2H)、7.86-7.90ppm(m, 2H)、8.18(s, 1H).
屈折率は1.658であった。
図2に示す示差走査熱量測定(DSC)曲線から、176℃、186℃にピークトップを持つ結晶であることを確認した。図3に示すDTG分析の結果から、融点における重量減少が存在することから、得られた結晶は2.0wt%のメチルイソブチルケトンを含有するアダクト晶であると推察される。
NMR分析の結果、カルボン酸のOHピークは観測されなかったものの、FT-IRの結果から、カルボニル基特有の1700cm-1付近のピーク、水酸基特有の3200cm-1付近のピークが観測された。これらのことから、得られた結晶は目的物であることを確認した。
また、目的物は、工業用途における種々の汎用溶媒、具体的には、例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶媒、メタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル系溶媒、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル系溶媒に対する溶解性に優れていることが確認された。その1例として、得られた9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンのメチルイソブチルケトンを含有するアダクト晶に関する溶媒に対する溶解性を、下記表1に示す。表1中の「〇」は、室温において10重量%溶液を容易に作成できることを示す。
【0027】
【表1】
【0028】
<実施例4>
9,9-ビス(4-メトキシカルボニルメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの合成
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン15.0g(0.037モル)、アセトニトリル45.0g、炭酸カリウム11.9g、ヨウ化カリウム1.5gを4つ口フラスコに仕込み、70℃まで昇温し、同温で1時間撹拌した。次いでクロロ酢酸メチル11.4g(0.11モル)を反応液の温度を70~80℃に保ちながら滴下した。6時間撹拌後、水300gを加え70℃まで昇温した後25℃まで冷却して結晶を析出させた。結晶を濾別、乾燥し目的物である9,9-ビス(4-メトキシカルボニルメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンを16.3g取得した。得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図4に示す。
純度 99.7%(高速液体クロマトグラフィー)
プロトン核磁気共鳴スペクトル(400MHz、溶媒CDCl、標準TMS)
化学シフト(シグナル形状、プロトン数):3.77ppm(s, 6H)、4.56ppm(s, 4H)、6.72-6.77ppm(m, 4H)、7.14-7.19ppm(m, 4H)、7.28-7.32ppm(m, 1H)、7.36-7.47ppm(m, 4H)、7.75ppm(d, 2H)、7.87-7.92ppm(m,2H)、8.17(s, 1H).
図4に示す示差走査熱量測定(DSC)曲線から、155℃にピークトップを持つ結晶であることを確認した。屈折率は1.621であった。
【0029】
<実施例5>
9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン・ビスナトリウム塩の合成
上記実施例1で得られた9,9-ビス(4-エトキシカルボニルメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン10.0gのアセトニトリル30g溶液を70~80℃に維持し、水5.0g、48%水酸化ナトリウム水溶液7.3gを滴下し、同温度で2時間撹拌した。反応液を25℃まで冷却して、得られた結晶を濾別、乾燥し9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン・ビスナトリウム塩の結晶を8.5g取得した。
純度 99.6%(高速液体クロマトグラフィー)
プロトン核磁気共鳴スペクトル(400MHz、溶媒DO)
化学シフト(シグナル形状、プロトン数):4.37ppm(s, 4H)、6.75-6.87ppm(m, 4H)、7.05-7.13ppm(m, 4H)、7.30-7.52ppm(m, 5H)、7.70-7.78ppm(m, 2H)、7.93-8.01ppm(m, 2H)、8.27ppm(s,1H).
得られた結晶のFT-IRより、カルボン酸のカルボニル部位に見られる1700cm-1付近のピークが消失し、カルボン酸塩に見られる1600cm-1付近及び1400cm-1、のピークの存在を確認した。
【0030】
<実施例6>
9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの合成(反応溶媒:MIBK)
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン400g(1.0モル)、メチルイソブチルケトン1500g、炭酸カリウム370g、ヨウ化カリウム12gを4つ口フラスコに仕込み、減圧下95℃でメチルイソブチルケトンを700g留去した。反応系内を窒素で常圧に戻し、次いでクロロ酢酸エチル405g(3.3モル)を反応液の温度を90~100℃に保ちながら滴下した。同温で18時間撹拌後、水1900gを加え80℃まで昇温した後、水層を除去した。反応液にメチルイソブチルケトンを2200g加え、次いで48%水酸化ナトリウム水溶液333gを反応液の温度を70~80℃に保ちながら滴下し、同温で5時間撹拌した。次いで減圧下、70~80℃でメチルイソブチルケトンを1200g留去させ、水1000g、濃塩酸520gを加え70~80℃で1時間撹拌した。
水層を除去し、得られた油層に水を加え撹拌して水層を除去する水洗操作を複数回行い、残存する塩酸分を除去した。得られた溶液から減圧下メチルイソブチルケトン750gを留去させ、残渣にヘプタン500gを加え、73℃にて種晶50mgを添加し10℃/時間の冷却速度で25℃まで冷却しろ過し、9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの粗結晶を749.6g取得した。得られた粗結晶710g、トルエン1420g、水710gを四つ口フラスコに仕込み、加熱還流下2時間撹拌した後、10℃/時間の冷却速度で25℃まで冷却しろ過、乾燥を行い、9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの結晶を432.6g取得した。純度は99.6%、収率は83.7%であった。
【0031】
上記実施例3においてアダクト晶が得られたことから、9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの結晶多形について、以下実施例7~10において検討した。
<実施例7>
上記実施例3で得られた9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン2.0g、トルエン8.0gを90℃で1時間撹拌し、25℃まで冷却し濾別することで結晶を取得した。得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図5に示す。
図5に示す結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線から、200℃に単一のピークトップを持つ結晶であることを確認し、実施例3で得られたメチルイソブチルケトンを含有するアダクト晶と異なり、融点での重量減少は見られなかったことから、単一結晶であると考えられる。
【0032】
<実施例8>
上記実施例3で得られた9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン2.0g、トルエン8.0g、水1.0gを加え加熱還流下1時間撹拌し25℃まで冷却し濾別することで結晶を取得した。得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図6に示す。
図6に示す示差熱・熱重量分析(DTG)曲線から、202℃に単一のピークトップを持つ結晶であることを確認し、実施例3で得られたメチルイソブチルケトンを含有するアダクト晶と異なり、融点での重量減少は見られなかったことから、単一結晶であると考えられる。
【0033】
<実施例9>
上記実施例3で得られた9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン2.0g、酢酸ブチル4.0gを90℃で1時間撹拌し、均一な溶液とした後ヘプタン4.0gを加え25℃まで冷却し濾別することで結晶を取得した。得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図7に示す。
図7に示す示差熱・熱重量分析(DTG)曲線から、198℃に単一のピークトップを持つ結晶であることを確認し、実施例3で得られたメチルイソブチルケトンを含有するアダクト晶と異なり、融点での重量減少は見られなかったことから、単一結晶であると考えられる。
【0034】
<実施例10>
上記実施例3で得られた9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレン2.0g、アセトニトリル8.0gを80℃で1時間撹拌し、均一な溶液とした後25℃まで冷却し濾別することで結晶を取得した。得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図8に示す。
図8に示す示差熱・熱重量分析(DTG)曲線から、94℃、145℃にピークトップを持つ結晶であることを確認した。また、94℃のピークトップにおいて、アダクト晶からアセトニトリルが放出されることも確認された。
【0035】
実施例7~9において得られた単一結晶についても同様に、工業用途における種々の汎用溶媒、具体的には、例えば、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶媒、メタノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル系溶媒、N-メチルピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル系溶媒に対する溶解性に優れていることが確認された。その1例として、得られた9,9-ビス(4-カルボキシメトキシフェニル)-2,3-ベンゾフルオレンの単一結晶に関する溶媒に対する溶解性を、下記表2に示す。表2中の「〇」は、室温において10重量%溶液を容易に作成できることを示す。
表1と表2の結果より、本発明の一般式(1)で表されるフルオレン化合物に関しては、単一結晶とアダクト晶における溶媒に対する溶解性には、差異が無いことが確認された。これは、本発明の一般式(1)で表されるフルオレン化合物自体の溶媒溶解性が大きく関与しているものと考える。
【0036】
【表2】
【0037】
フルオレン骨格を有する化合物群は、反応溶媒や精製に使用する溶媒との間でアダクト晶を形成することが知られている一方で、アダクト晶から溶媒を除去するためには高温と多大な時間を要するために、工業的規模で適用することは困難であるほか、溶媒とのアダクト晶を形成したフルオレン骨格を有する化合物は、エポキシ樹脂、ポリエステル等の製造原料やその他の用途において工業的に使用するには問題があることも知られている。さらに、アダクト晶中に含まれる有機溶媒等の化合物の引火点や発火点によっては、当該アダクト晶の輸送や保管時における防災上の懸念もある。これらを考慮すると、アダクト晶ではない単一結晶の一般式(1)で表されるフルオレン化合物を得る手法も、工業用途において非常に有用であると考える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8