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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】水性塗料組成物及び複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/00 20060101AFI20240110BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240110BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240110BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20240110BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240110BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240110BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240110BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20240110BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D7/63
C09D7/65
C09D175/04
C09D5/02
C09D7/61
B05D7/24 302T
B05D7/24 302S
B05D7/24 302V
B05D7/24 302P
B05D7/24 303A
B05D1/36 B
B05D7/24 302R
B05D1/36 Z
B05D5/06 101A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021511467
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2020012636
(87)【国際公開番号】W WO2020203397
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2019065414
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100214363
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】御所園 裕理
(72)【発明者】
【氏名】辻 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 智哉
(72)【発明者】
【氏名】中野 成人
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/121209(WO,A1)
【文献】特開2006-169396(JP,A)
【文献】特開2006-131695(JP,A)
【文献】特開昭59-022970(JP,A)
【文献】特開2011-131135(JP,A)
【文献】国際公開第2008/072489(WO,A1)
【文献】特開2003-225610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00,
101/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であって、
前記ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であり、
前記ポリオール(a2)が、下記式(1);
HO-(X-O-)n-H ・・・(1)
(式中、Xは炭素数3~4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、Xが炭素数4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が100以上5000以下となる値であり、Xが炭素数3の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が400以上5000以下となる値である。)
で示されるポリアルキレングリコール(a2-1)であり、
前記着色顔料(D)が光輝性顔料を含む、
ことを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
前記硬化剤(C)が、アミノ樹脂及び/又はブロックポリイソシアネート化合物であることを特徴とする請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であって、
前記ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)を含むポリカルボン酸成分と、下記式(1)
HO-(X-O-)n-H ・・・(1)
(式中、Xは炭素数3~4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、Xが炭素数4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が100以上5000以下となる値であり、Xが炭素数3の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が400以上5000以下となる値である。)
で示されるポリアルキレングリコール(a2-1)と3官能以上のポリオールを含むポリオール成分とをモノマー成分として含み、ポリカルボン酸成分とポリオール成分とのエステル化反応又はエステル交換反応によって製造された、数平均分子量が1,000~3,000のものであり、
前記アクリル樹脂(B)が、コア部とシェル部を有するコアシェル型アクリル樹脂粒子(B1)であって、前記コア部は、水酸基含有重合性不飽和モノマーを共重合成分として含むものであり、
前記硬化剤(C)が、アミノ樹脂と、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルを含むブロック剤を用いて得られる活性メチレン型ブロックポリイソシアネート化合物を含むものである、
ことを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項4】
前記アクリル樹脂粒子(B)が、コア部とシェル部を有するコアシェル型アクリル樹脂粒子(B1)であって、コア部とシェル部の比率が、モノマー成分総量を基準として、50/50~90/10の範囲内であり、かつ該コア部が、コア部のモノマー成分総量を基準として、重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマーを1~10質量%含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
前記着色顔料(D)が、光輝性顔料を含有することを特徴とする請求項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
さらに、ウレタン樹脂(E)を含有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
さらに、ポリエーテルポリオール(F)を含有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
被塗物上に請求項1~7のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装して着色塗膜を形成することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項9】
被塗物上に下記の工程(I)~(IV)、
工程(I):水性第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された硬化又は未硬化の第1着色塗膜上に、水性第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(III):前記工程(II)で形成された未硬化の第2着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、及び
工程(IV):前記工程(I)~(III)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、
前記水性第2着色塗料が、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であり、
前記ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であり、
前記ポリオール(a2)が、下記式(1);
HO-(X-O-)n-H ・・・(1)
(式中、Xは炭素数3~4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、Xが炭素数4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が100以上5000以下となる値であり、Xが炭素数3の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が400以上5000以下となる値である。)
で示されるポリアルキレングリコール(a2-1)であり、
前記着色顔料(D)が光輝性顔料を含む、
ことを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項10】
被塗物上に下記の工程(I)~(III)、
工程(I):水性着色塗料を塗装して着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された未硬化の着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、並びに
工程(III):前記工程(I)及び(II)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、
前記水性着色塗料が、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であり、
前記ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であり、
前記ポリオール(a2)が、下記式(1);
HO-(X-O-)n-H ・・・(1)
(式中、Xは炭素数3~4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、Xが炭素数4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が100以上5000以下となる値であり、Xが炭素数3の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が400以上5000以下となる値である。)
で示されるポリアルキレングリコール(a2-1)であり、
前記着色顔料(D)が光輝性顔料を含む、
ことを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項11】
被塗物上に下記の工程(I)~(V)、
工程(I):水性第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された硬化又は未硬化の第1着色塗膜上に、水性第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(III):前記工程(II)で形成された未硬化の第2着色塗膜上に、水性第3着色塗料を塗装して第3着色塗膜を形成する工程、
工程(IV):前記工程(III)で形成された未硬化の第3着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、及び
工程(V):前記工程(I)~(IV)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、
前記水性第1着色塗料、水性第2着色塗料、及び/又は水性第3着色塗料が、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であり、
前記ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であり、
前記ポリオール(a2)が、下記式(1);
HO-(X-O-)n-H ・・・(1)
(式中、Xは炭素数3~4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、Xが炭素数4の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が100以上5000以下となる値であり、Xが炭素数3の直鎖状又は分岐状の炭化水素基のとき、nは重量平均分子量が400以上5000以下となる値である。)
で示されるポリアルキレングリコール(a2-1)であり、
前記着色顔料(D)が光輝性顔料を含む、
ことを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか1項に記載の塗膜形成方法を用いる塗装物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂粒子、硬化剤、及び着色顔料を含有する水性塗料組成物、並びに複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体又は自動車部品等の優れた外観が要求される被塗物に対する塗装は、形成される塗膜の外観や生産効率等の観点から、一般に、塗料を微粒化して塗装する方法が用いられる。このような塗装方法としては、具体的には、例えば、スプレー塗装、回転霧化塗装等が挙げられる。
【0003】
塗料を微粒化して塗装する場合、使用される塗料は、一般に、スプレー時、回転霧化時等の塗料微粒化時には、その粘度が低く、より小さな塗料粒子が形成されることが、平滑性に優れた塗膜が形成されるため好ましい。また、一方で、塗料が被塗物に塗着した後は、塗料粘度が比較的高いことが、上層又は/及び下層に塗装される塗料との混層が起こりにくく、鮮映性に優れた塗膜が形成され、更に被塗物の垂直面で塗膜が垂れにくくなるため好ましい。また、上記塗料がアルミニウム顔料等の光輝性顔料を含有する光輝性ベース塗料の場合、該塗料が被塗物に塗着した後の塗料粘度が高いと、塗料中の光輝性顔料が動きにくく、配向が乱れにくくなるため、光輝性に優れた塗膜を形成することができる。なお、光輝性に優れた塗膜とは、一般に、角度を変えて塗膜を観察した際に、観察の角度による明度の変化が顕著であり、さらに、光輝性顔料が塗膜中に比較的均一に存在して、メタリックムラがほとんど見られない塗膜をいう。また、上記のように、観察の角度による明度の変化が顕著であることは、一般に、フリップフロップ性が高いといわれる。
【0004】
上記のような理由から、微粒化時のようにせん断速度が大きい時は粘度が低く、塗料静置時や塗着時のようにせん断速度が小さい時は粘度が高い塗料であることが、貯蔵性(顔料沈降性又は色分かれ性など)や優れた外観を有する塗膜を形成することができるため、好ましい。すなわち、せん断速度の増加と共に粘度が低下する塗料であることが好適である。
ところで、近年、プライマー塗料(中塗り塗料)の塗装→ベース塗料の塗装→クリヤー塗料の塗装→加熱硬化を順次行う3コート1ベーク方式、及びベース塗料の塗装→クリヤー塗料の塗装→加熱硬化を順次行う2コート1ベーク方式、さらに近年は4コート1ベークが検討されている(塗料を塗装後にプレヒート(予備加熱)工程を入れても良い)。
なかでも、有機溶剤の揮散による環境汚染を抑制する観点から、プライマー塗料及び/又はベース塗料として水性塗料を用いた3コート1ベーク方式及び2コート1ベーク方式が特に求められている。
【0005】
しかしながら、上記3コート1ベーク方式又は2コート1ベーク方式にした場合、水性ベース塗料とプライマー塗料、及び/又は水性ベース塗料とクリヤー塗料との層間で、混層による形成塗膜の平滑性、鮮映性及びフリップフロップ性の低下が生じる場合があり、課題とされていた。
【0006】
上記水性ベース塗料において、塗着後のせん断速度が低い時に粘度を上げ、混層を抑制せしめる手段としては、塗料中に会合型粘性調整剤を配合する方法が挙げられる。該会合型粘性調整剤は、一般に、1分子中に親水性部分と疎水性部分を有し、水性塗料中において、親水性部分が水溶液中での安定性に寄与し、疎水性部分が水性塗料中に配合している顔料やアクリル・エマルション粒子の表面に吸着したり、疎水性部分同士が会合したりすることにより、網状構造を形成し、効果的に増粘作用を示す粘性調整剤である。また、会合による増粘効果を上げるため、該アクリル・エマルション粒子においては、比較的疎水性のモノマーを含有する事が好ましい。
上記会合型粘性調整剤は、通常、疎水性相互作用によって網状構造を形成し、粘度を発現する。一方で、大きなせん断力が加わった場合は、疎水性相互作用及び網状構造が崩れ、粘度が低下する。このため、該会合型粘性調整剤を含有する水性塗料は、せん断速度の増加と共に粘度が低下する粘性特性を有する。
【0007】
上記水性ベース塗料は、一般に、疎水性の樹脂成分を水中に分散させるため、界面活性剤を含有する場合がある。また、水溶性樹脂、添加剤、又は顔料分散ペーストを含有する場合、含有する親水性有機溶媒が水性塗料に持ち込まれる場合がある。
【0008】
しかしながら、上記界面活性剤及び/又は親水性有機溶媒を含有する水性ベース塗料において、会合型粘性調整剤を使用する場合、会合型粘性調整剤による粘度が発現しにくくなり、形成される塗膜の平滑性、鮮映性及びフリップフロップ性が低下する場合があるため、課題とされていた。具体的には、該水性ベース塗料が被塗物に塗着した時の粘度が低い場合、上層及び/又は下層に塗装される塗料との間に混層が生じて、形成される塗膜の平滑性や鮮映性が低下したり、水性塗料が光輝性顔料を含有する場合に、塗料が塗着した後に塗料中の光輝性顔料が動き、光輝性顔料の配向が不規則になって、フリップフロップ性が低下したり、メタリックムラが発生したりする場合があった。一方で、水性塗料中の会合型粘性調整剤の含有量を増やすことにより、塗着した時の粘度を高くする場合は、せん断速度が大きい時の粘度も高くなり、塗料を微粒化した時の塗料粒子が大きくなるため、形成される塗膜の平滑性が劣る場合があった。
【0009】
特許文献1には、親水性ポリマーを疎水化修飾して得られる、及び/又は、疎水性ポリマーを親水化修飾して得られる、疎水性部分と親水性部分とを備える粘性制御剤は、水性分散体の粘度の濃度依存性を低減することができることが記載されている。さらに、該粘性制御剤を用いた水性塗料は、塗装条件、特に温湿度条件の変動にかかわらず、安定したフロー性を発揮し、安定的に良好な仕上がりの塗膜が得られることが記載されている。しかしながら、該粘性制御剤は、粘度の発現が不十分な場合があった。特に、該粘性制御剤を、界面活性剤及び/又は親水性有機溶媒を含有する塗料中で使用した場合、十分な粘度が得られず、形成される塗膜の鮮映性及びフリップフロップ性が低下したり、メタリックムラが発生したりする傾向があった。
【0010】
特許文献2には、特定の構造を有するウレタン系粘性調整剤が、増粘性とチクソトロピック性に優れた増粘、粘度調整剤となることが記載されている。なお、チクソトロピック性とは、上述の、せん断速度の増加と共に粘度が低下する粘性特性のことである。しかしながら、該ウレタン系粘性調整剤は、粘度の発現が不十分な場合があった。特に、該ウレタン系粘性調整剤を、界面活性剤及び/又は親水性有機溶媒を含有する塗料中で使用した場合、十分な粘度が得られず、形成される塗膜の鮮映性及びフリップフロップ性が低下したり、メタリックムラが発生したりする傾向があった。
【0011】
特許文献3には、基材上に、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を、順次ウエットオンウエットで形成する3コート1ベーク方式の塗膜形成方法において、中塗り塗膜を形成する中塗り塗料及びベース塗膜を形成するベース塗料が、アミド基含有アクリル樹脂及び架橋剤を含有するものであり、かつ中塗り塗料中に含まれる架橋剤が、脂肪族イソシアナート系の活性メチレンブロックイソシアナートからなる塗膜形成方法が記載されている。この架橋剤である該脂肪族イソシアナート系の活性メチレンブロックイソシアナートが、平均官能基数が3よりも大きいものである場合に、アミド基含有アクリル樹脂によって、粘性制御効果が発揮され、3コート1ベーク方式で塗装した場合における各塗膜層間の界面でのなじみや反転が制御されることが記載されている。更に、中塗り塗膜の硬化がベース塗膜及びクリヤー塗膜よりも先に開始し、充分なフロー性を確保することができ、電着塗膜の肌荒れに対する下地隠蔽性を優れたものとなるため、仕上がり外観に優れ、かつ、塗膜物性、特に耐チッピング性に優れた複層塗膜が得られることが記載されている。しかしながら、塗料中での活性メチレンブロックイソシアナートの貯蔵安定性が悪く、平滑性及び鮮映性の低下や硬化不足による付着性及び耐水性の低下が生じたりする場合があった。
【0012】
特許文献4には、基材上に第1水性塗料、第2水性塗料、及びクリヤー塗料を順次ウェットオンウェットで塗装して複層塗膜を形成するための第2水性塗料において、(a)多官能性ビニルモノマーを含むビニル重合性モノマーの共重合体で構成されるエマルション、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂、(c)ウレタンエマルション及び(d)架橋剤を含有する第2水性塗料が記載されている。この塗料は、エマルション粒子内の架橋構造により、ウェットオンウェットで塗装された場合でも、クリヤー塗料成分の下層塗膜への浸入が抑制されるため、上層塗膜との混層が制御される。その結果、低エネルギー化が可能で、外観及び耐水性に優れた複層塗膜が得られるとされている。また、第2水性塗料は、(b)アミド基含有水溶性アクリル樹脂、(c)ウレタンエマルション及び(d)架橋剤を含有することにより、貯蔵安定性にも優れることが記載されている。しかしながら、中塗り塗料と水性ベース塗料、及び/又は水性ベース塗料とクリヤー塗料との層間において、混層による形成塗膜の平滑性、鮮映性及びフリップフロップ性の低下が生じたり、加熱温度が低くなると、硬化不足による耐水性の低下が生じたりする場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2000-1662号公報
【文献】特開2002-69430号公報
【文献】特開2002-153806号公報
【文献】特開2007-297545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、粘度の発現性が高く、かつ、せん断速度の増加と共に粘度が低下する粘度特性を有する水性塗料組成物を提供すること、特に、平滑性、鮮映性、フリップフロップ性、付着性及び耐水性に優れた複層塗膜を形成することができる水性塗料組成物を提供すること、また、該水性塗料組成物を使用した複層塗膜形成方法及び該水性塗料組成物が塗装された塗装物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物において、該ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であることを特徴とする水性塗料組成物を2層以上の複層塗膜の少なくとも一層として塗装し、各層を同時に加熱硬化して複層塗膜を形成せしめる場合に、平滑性、鮮映性、フリップフロップ性、付着性及び耐水性に優れた複層塗膜を形成せしめることを見出した。
すなわち、本発明は、以下のポリエステル樹脂、アクリル樹脂粒子、硬化剤、及び着色顔料を含有する水性塗料組成物、該水性塗料組成物を使用した複層塗膜形成方法、並びに該水性塗料組成物が塗装された塗装物品の製造方法を提供するものである。
【0016】
項1.ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であって、該ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であることを特徴とする水性塗料組成物。
項2.前記ポリオール(a2)が、下記式(1)で示されるポリアルキレングリコールであることを特徴とする前記項1に記載の水性塗料組成物。
HO-(X-O-)n-H ・・・(1)
(式中、Xは炭素数が2以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、nは2以上の値である)
項3.前記アクリル樹脂粒子(B)が、コア部とシェル部を有するコアシェル型アクリル樹脂粒子(B1)であって、コア部とシェル部の比率が、モノマー成分総量を基準として、50/50~90/10の範囲内であり、かつ該コア部が、コア部のモノマー成分総量を基準として、重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマーを1~10質量%含有することを特徴とする前記項1又は2に記載の水性塗料組成物。
項4.前記硬化剤(C)が、アミノ樹脂及び/又はブロックポリイソシアネート化合物であることを特徴とする前記項1~3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項5.前記着色顔料(D)が、光輝性顔料を含有することを特徴とする前記項1~4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項6.さらに、ウレタン樹脂(E)を含有することを特徴とする前記項1~5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項7.さらに、ポリエーテルポリオール(F)を含有することを特徴とする前記項1~6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項8.被塗物上に前記項1~7のいずれか1項に記載の水性塗料組成物を塗装して着色塗膜を形成することを特徴とする塗膜形成方法。
項9.被塗物上に下記の工程(I)~(IV)、
工程(I):水性第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された硬化又は未硬化の第1着色塗膜上に、水性第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(III):前記工程(II)で形成された未硬化の第2着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、及び
工程(IV):前記工程(I)~(III)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、該水性第1着色塗料が、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であり、かつ該ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
項10.被塗物上に下記の工程(I)~(IV)、
工程(I):水性第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された硬化又は未硬化の第1着色塗膜上に、水性第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(III):前記工程(II)で形成された未硬化の第2着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、及び
工程(IV):前記工程(I)~(III)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、該水性第2着色塗料が、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であり、かつ該ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
項11.被塗物上に下記の工程(I)~(III)、
工程(I):水性着色塗料を塗装して着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された未硬化の着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、並びに
工程(III):前記工程(I)及び(II)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、該水性着色塗料が、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であり、かつ該ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
項12.被塗物上に下記の工程(I)~(V)、
工程(I):水性第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された硬化又は未硬化の第1着色塗膜上に、水性第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(III):前記工程(II)で形成された未硬化の第2着色塗膜上に、水性第3着色塗料を塗装して第3着色塗膜を形成する工程、
工程(IV):前記工程(III)で形成された未硬化の第3着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、及び
工程(V):前記工程(I)~(IV)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、該水性第1着色塗料、水性第2着色塗料、及び/又は水性第3着色塗料が、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する水性塗料組成物であり、かつ該ポリエステル樹脂(A)が、3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)とをモノマー成分として含有する樹脂であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
項13.前記項8~12のいずれか1項に記載の塗膜形成方法を用いる塗装物品の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水性塗料組成物は、粘度の発現性が高く、かつ、せん断速度の増加と共に粘度が低下する粘度特性を有する。特に、該水性塗料組成物を2~4層の複層塗膜の少なくとも一層として塗装し、各層を同時に加熱硬化して複層塗膜を形成せしめる場合に、平滑性、鮮映性、フリップフロップ性、付着性及び耐水性に優れた複層塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の水性塗料組成物及び複層塗膜形成方法について詳細に説明する。
なお、本明細書において、「樹脂がその原料となるモノマーXを含有する」とは、相反する内容を別途明記しない限り、上記樹脂が、上記モノマーXを含む原料モノマーの(共)重合体であることを意味する。また、本明細書において、(共)重合体とは重合体又は共重合体を意味する。
【0019】
水性塗料組成物
本発明の水性塗料組成物は、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有する。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)
本発明の水性塗料組成物で用いることができるポリエステル樹脂(A)は、3官能以上のポリカルボン酸(a1)を含むポリカルボン酸成分と、ポリオール(a2)とをモノマー成分とし、ポリカルボン酸成分とポリオール成分とのエステル化反応又はエステル交換反応によって製造することができる。
ポリエステル樹脂(A)の原料となるポリカルボン酸成分として、3官能以上のポリカルボン酸(a1)以外のポリカルボン酸成分(2官能のポリカルボン酸)を含有することができる。3官能以上のポリカルボン酸(a1)の含有量は、ポリカルボン酸成分の総量を基準として、50mol%以上が好ましく、70mol%以上がより好ましく、90mol%以上が更に好ましく、100mol%が特に好ましい。
【0021】
3官能以上のポリカルボン酸(a1)とポリオール(a2)の比率としては、(a1)と(a2)の総量を基準として、3官能以上のポリカルボン酸(a1)の含有量が、50mol%未満かつ1mol%以上が好ましく、35mol%未満かつ5mol%以上が好ましく、20mol%未満かつ10mol%以上が好ましい。
【0022】
上記3官能以上のポリカルボン酸(a1)としては、1分子中に3個以上のカルボキシル基を有する化合物であればいずれも好適に用いることができる。具体的には、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸などのポリカルボン酸;これらのポリカルボン酸の無水物;これらのポリカルボン酸のハロゲン化物;これらのポリカルボン酸の低級アルキルエステル化物などが挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上混合して使用することができる。
これらの中でも、トリカルボン酸化合物、そのハロゲン化物及びその低級アルキルエステル化物の1種以上が好ましく、トリメリット酸、トリメシン酸、これらの酸の無水物、これらの酸のハロゲン化物及びこれらの酸の低級アルキル(炭素数6以下のアルキル)エステル化物の1種以上がより好ましい。なかでも、経済的な観点(原材料単価)から、トリメリット酸、トリメリット酸無水物、トリメリット酸のハロゲン化物又はトリメリット酸の低級アルキルエステル化物の1種以上が最も好ましい。
【0023】
2官能のポリカルボン酸としては、具体的には、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、などのジカルボン酸;これらのジカルボン酸の無水物;これらのジカルボン酸のハロゲン化物;これらのジカルボン酸の低級アルキルエステル化物などが挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上混合して使用することができる。
2官能のポリカルボン酸としては、親水性の観点から、比較的高分子量(分子量200以上)の疎水化合物を用いないことが好ましく、特にダイマー酸を用いないことが好ましい。また、本発明のポリエステル樹脂(A)は、2官能のポリカルボン酸を実質的に含まないことが好ましい。
【0024】
また、上記ポリオール(a2)としては、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であれば好適に用いることができ、具体的には、例えば、エチレングリコ-ル、1,2-プロピレングリコ-ル、1,2-ブチレングリコ-ル、2,3-ブチレングリコ-ル、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ジヒドロキシシクロヘキサン、3-エトキシプロパン-1,2-ジオール、3-フェノキシプロパン-1,2-ジオールなどのα-グリコ-ル;ポリアルキレングリコール;ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-フェノキシプロパン-1,3-ジオール、2-メチル-2-フェニルプロパン-1,3-ジオール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2-エチル-1,3―オクタンジオール、1,3-ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4-ブタンジオール、1,4-ジヒドロキシシクロヘキサン、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-ジメチロ-ルシクロヘキサン、トリシクロデカンジメタノール、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピオネート(これは、ヒドロキシピバリン酸とネオペンチルグリコールとのエステル化物である)、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビス(4-ヒドロキシヘキシル)-2,2-プロパン、ビス(4-ヒドロキシヘキシル)メタン、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニット、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
また、ポリオール(a2)として、官能基を有するポリオール、例えば、ジヒドロキシカルボン酸を含むこともできる。本発明においては、得られるポリエステルの特性等の観点から、ジヒドロキシカルボン酸は用いないことが好ましい。
【0025】
なかでも、ポリエステル樹脂(A)の骨格中心に親水性を付与し、水性媒体中での安定性を高めるために、上記ポリオール(a2)が、下記式(1)で示されるポリアルキレングリコール(a2-1)を含有することが好ましい。
HO-(X-O-)n-H ・・・(1)
(式中、Xは炭素数が2以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、nは2以上の値である)
上記式のXとしては、親水性や耐水性などのバランスの観点から、通常、炭素数2以上の直鎖状又は分岐状の炭化水素基であり、好ましくは炭素数3~4の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数4の炭化水素基である。上記ポリアルキレングリコール(a2-1)の重量平均分子量としては、親水性や耐水性などのバランスの観点から、下限値を100以上、好ましくは200以上、より好ましくは250以上、さらに好ましくは300以上、よりさらに好ましくは400以上とすることが好ましく、また、上限値を5000以下、好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、さらに好ましくは1000以下、よりさらに好ましくは750以下とすることが好ましい。例えば、重量平均分子量の範囲は、100~5000、好ましくは200~3000、より好ましくは400~750とすることができる。
上記ポリアルキレングリコール(a2-1)の含有量としては、ポリオール成分の総量を基準として、99mol%以下かつ10mol%以上が好ましく、97mol%未満かつ30mol%以上がより好ましく、95mol%未満かつ60mol%以上が更に好ましい。
【0026】
また、樹脂の分岐性を高める観点から、少なくとも1種の、3官能以上のポリオールを含むことが好ましい。
上記3官能以上のポリオールの含有量としては、ポリオール成分の総量を基準として、50mol%以下かつ1mol%以上が好ましく、40mol%未満かつ3mol%以上がより好ましく、30mol%未満かつ5mol%以上が更に好ましい。
【0027】
前記ポリカルボン酸成分とポリオール成分のエステル化又はエステル交換反応は既知の方法により行うことができ、例えば、前記ポリカルボン酸成分とポリオール成分とを180~250℃程度の温度で重縮合させることによって得ることができる。
【0028】
また、上記ポリエステル樹脂は、該ポリエステル樹脂の調製中又はエステル化反応後に、脂肪酸、モノエポキシ化合物等で変性することができる。上記脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、麻実油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、魚油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、桐油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸などが挙げられ、上記モノエポキシ化合物としては、例えば、「カージュラE10P」(商品名、ジャパンエポキシレジン社製、合成高分岐脂肪酸のグリシジルエステル)などが挙げられる。
また、酸価を高め水性媒体中でのポリエステル樹脂(A)の貯蔵安定性を高める観点から、前述のポリカルボン酸成分とポリオール成分とを重縮合した樹脂に、さらにポリカルボン酸を付加することが好ましい。付加するポリカルボン酸としては、ポリカルボン酸成分に含まれるものを用いることができる。
【0029】
このようにして得られたポリエステル樹脂(A)は、得られる塗膜の平滑性の観点から、数平均分子量が500~10,000、好ましくは700~5,000、さらに好ましくは1,000~3,000の範囲内であることが好適である。また、硬化性の観点から、水酸基価が10~200mgKOH/g、好ましくは30~180mgKOH/g、さらに好ましくは45~165mgKOH/gの範囲内の範囲内であることが好適である。酸価が5~200mgKOH/g、好ましくは10~180mgKOH/g、さらに好ましくは15~165mgKOH/gの範囲内であることが好適である。
【0030】
上記ポリエステル樹脂(A)は、一定量以上の3官能以上のモノマーを用いることで樹脂を分岐させ多数の樹脂末端を作ることができる。また、樹脂内部に親水性で長鎖の構造を有することで親水溶媒中において樹脂が広がることができる。これらの作用により後述するアクリル樹脂粒子(B)と樹脂末端において疎水性相互作用が起こり、チクソトロピック性に優れた水性塗料組成物になり、平滑性、鮮映性及び/又はフリップフロップ性の良好な複層塗膜が得られる。
なお、ポリエステル樹脂(A)は分岐構造を有することを特徴とするため、ポリエステル樹脂の合成後にポリカルボン酸を付加する場合の3官能以上のポリカルボン酸(a1)は上記含有量の計算に入らないものとする。
【0031】
アクリル樹脂粒子(B)
本発明の水性塗料組成物に用いられるアクリル樹脂粒子(B)は、水性塗料の用途に用いられている水性媒体中で粒子状に分散されているアクリル樹脂であれば制限なく使用することができる。
アクリル樹脂の水分散方法、あるいはアクリル樹脂エマルションの製造方法に制限はないが、例えば、乳化剤の存在下で重合開始剤を使用して重合性不飽和モノマー成分を水性媒体中で乳化重合する方法、有機溶剤中での溶液重合により樹脂を製造してから乳化剤を用いて強制的に水中に分散する方法、有機溶剤中での溶液重合で親水基を有する樹脂を製造してから自己乳化により水中に分散する方法等を挙げることができる。
【0032】
本発明で用いることができるアクリル樹脂粒子(B)としては、コアシェル型アクリル樹脂粒子(B1)を含有することが好ましく、コア部を構成する共重合体(I)とシェル部を構成する共重合体(II)の割合が、モノマー成分総量を基準として、10/90~90/10程度の範囲内であることが好ましく、50/50~90/10の範囲内であることがより好ましい。
【0033】
アクリル樹脂粒子(B)を構成する重合性不飽和モノマー(b)
上記アクリル樹脂粒子(B)を構成する重合性不飽和モノマー(b)としては、以下に記載する(b1)~(b5)の重合性不飽和基を有する化合物を好適に使用することができる。
なお、本明細書において、重合性不飽和基とは、ラジカル重合しうる不飽和基を意味する。かかる重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
また、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタクリレート」、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸又はメタクリル酸」、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル又はメタクリロイル」、「(メタ)アクリルアミド」は「アクリルアミド又はメタクリルアミド」をそれぞれ意味する。
【0034】
炭素数4以上の直鎖状、分岐状又は環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b1)
炭素数4以上の直鎖状、分岐状又は環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマーは、水酸基含有重合性不飽和モノマー等の親水性基を有するモノマーは除外される。該モノマーの具体例としては、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のアルキル又はシクロアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレートなどのイソボルニル基を有する重合性不飽和化合物;アダマンチル(メタ)アクリレートなどのアダマンチル基を有する重合性不飽和化合物;ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香環含有重合性不飽和モノマー等が挙げられる。
【0035】
重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー(b2)
重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマーの具体例としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテレフタレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0036】
水酸基含有重合性不飽和モノマー(b3)
水酸基含有重合性不飽和モノマーの具体例としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物、該(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、アリルアルコ-ル、分子末端が水酸基であるポリオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b4)
カルボキシル基含有重合性不飽和モノマーの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β-カルボキシエチルアクリレート等が挙げられる。
【0038】
(b1)~(b4)以外の重合性不飽和モノマー(b5)
(b1)~(b4)以外の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の炭素数3以下のアルキル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物等のウレタン結合を含まない含窒素重合性不飽和モノマー;イソシアネート基含有重合性不飽和モノマーと水酸基含有化合物との反応生成物又は水酸基含有重合性不飽和モノマーとイソシアネート基含有化合物との反応生成物等のウレタン結合を有する重合性不飽和モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート;2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、アリルスルホン酸、4-スチレンスルホン酸等、これらスルホン酸のナトリウム塩及びアンモニウム塩等のスルホン酸基を有する重合性不飽和モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル基を有する重合性不飽和モノマー;パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;フルオロオレフィン等のフッ素化アルキル基を有する重合性不飽和モノマー;マレイミド基等の光重合性官能基を有する重合性不飽和モノマー;分子末端がアルコキシ基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらは特に限定されることはなく、アクリル樹脂粒子(B)を構成する重合性不飽和モノマーとして他の重合性不飽和モノマーと共重合できるものであれば好適に使用できる。
【0039】
コア部共重合体(I)
本発明の水性塗料組成物に用いられるアクリル樹脂粒子(B)を構成するコア部共重合体(I)は、架橋構造であることを特徴とする共重合体であることが好ましい。上記コア部共重合体(I)を架橋構造にせしめる手法としては、コア部を構成するモノマー中に重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー(b2)を含むモノマーを共重合せしめることで架橋せしめても良く、また、イソシアネート基含有重合性不飽和モノマーと水酸基含有重合性不飽和モノマー、又はグリシジル基含有重合性不飽和モノマーとカルボキシル基含有重合性不飽和モノマーなど、互いに反応する重合性不飽和モノマーを含むモノマー成分を共重合することで架橋せしめても良いが、重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー(b2)を用いて架橋せしめることがより好ましい。
【0040】
上記重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー(b2)は、コア部共重合体(I)に架橋構造を付与する機能を有し、前記重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー(b2)として例示した重合性不飽和モノマーの中から、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて好適に使用できるが、得られる塗料の粘性及び塗膜性能から、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートを用いるのが好ましい。
【0041】
コア部のモノマー成分総量を基準として、重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー(b2)をコア部に0.1~15質量部含有することが好ましく、1~10質量部含有することがより好ましく、1~5質量部含有することが特に好ましい。
上記コア部共重合体(I)の共重合成分としては、上記重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー(b2)以外に、上記炭素数4以上の炭化水素基を有する共重合性不飽和モノマー(b1)、水酸基含有重合性不飽和モノマー(b3)、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b4)及び(b1)~(b4)以外の重合性不飽和モノマー(b5)で例示した重合性不飽和モノマーの中から、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて好適に使用することができる。
【0042】
シェル部共重合体(II)
本発明の水性塗料組成物に用いられるアクリル樹脂粒子(B)を構成するシェル部共重合体(II)は、該共重合体の構成成分として、水酸基含有重合性不飽和モノマー(b3)及びカルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b4)を含有することが好ましい。
また、得られる塗膜の平滑性及び鮮映性の観点から、重合性不飽和基を1分子中に2個以上有する重合性不飽和モノマー(b2)は使用せず、該共重合体(II)を未架橋とすることが好ましい。
【0043】
上記水酸基含有重合性不飽和モノマー(b3)は、得られるアクリル樹脂粒子(A)に、硬化剤(C)と架橋反応する水酸基を導入せしめることによって塗膜の耐水性等を向上させると共に、該アクリル樹脂粒子の水性媒体中における安定性を向上せしめる機能を有する。前期水酸基含有重合性不飽和モノマー(b3)に例示した重合性不飽和モノマーの中から、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて好適に使用できるが、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートを用いるのが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを用いるのがより好ましい。
【0044】
また、上記カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b4)は、得られるアクリル樹脂粒子の水性媒体中における安定性を向上せしめる機能を有する。前記カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー(b4)に例示した重合性不飽和モノマーの中から、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて好適に使用できるが、(メタ)アクリル酸を用いることが好ましい。
【0045】
シェル部共重合体(II)用モノマーとして用いる重合性不飽和モノマーは、特に制限されるものではなく、シェル部共重合体(II)を構成する重合性不飽和モノマーとして他の重合性不飽和モノマーと共重合できるものであれば好適に用いることができる。例えば、前記(b1)~(b4)以外の重合性不飽和モノマー(b5)で例示した重合性不飽和モノマーの中から必要に応じて好適に用いることができる。これらのモノマーは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
アクリル樹脂粒子(B)の水酸基価は、アクリル樹脂粒子の水性媒体中における安定性及び得られる塗膜の耐水性に優れる観点から、5~200mgKOH/g程度であるのが好ましく、10~150mgKOH/g程度であるのがより好ましく、20~100mgKOH/g程度であるのが更に好ましい。
【0047】
アクリル樹脂粒子(B)の酸価は、アクリル樹脂の水性媒体中における安定性及び得られる塗膜の耐水性に優れる観点から、5~100mgKOH/g程度であるのが好ましく、10~80mgKOH/g程度であるのがより好ましく、15~50mgKOH/g程度であるのが更に好ましい。
また、本発明の水性塗料組成物に用いられるアクリル樹脂粒子(B)は、コア部及び/又はシェル部共重合体の構成成分として、前記炭素数4以上の直鎖状、分岐状又は環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b1)を含有することが好ましい。前記炭素数4以上の直鎖状、分岐状又は環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b1)として例示した重合性不飽和モノマーの中から、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて好適に使用できるが、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレンを用いるのが好ましい。
【0048】
上記炭素数4以上の直鎖状、分岐状又は環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b1)を含有することで、より低極性のベース塗膜が得られ、下層が未硬化の水性プライマー塗料組成物である場合、プライマー塗膜との混層が抑えられる。また、前述のポリエステル樹脂(A)との疎水性相互作用を発現することにより、チクソトロピック性に優れた水性塗料組成物になり、平滑性、鮮映性及びフリップフロップ性の良好な複層塗膜が得られる。
上記炭素数4以上の直鎖状、分岐状又は環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b1)の使用割合は、得られる複層塗膜の平滑性及び鮮映性の観点から、アクリル樹脂粒子(B)を構成するモノマーの合計質量を基準として、3~70質量部程度であるのが好ましく、15~65質量部程度であるのがより好ましい。
【0049】
コア部共重合体(I)のエマルションを調製する乳化重合は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、乳化剤の存在下で、重合開始剤を使用してモノマー混合物を乳化重合することにより、行うことができる。
上記乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤が好適である。該アニオン性乳化剤としては、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸などのナトリウム塩やアンモニウム塩が挙げられる。また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等が挙げられる。
【0050】
また、1分子中にアニオン性基とポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基等のポリオキシアルキレン基とを有するポリオキシアルキレン基含有アニオン性乳化剤;1分子中にアニオン性基とラジカル重合性不飽和基とを有する反応性アニオン性乳化剤を使用することもできる。これらの内、反応性アニオン性乳化剤を使用することが好ましい。
上記反応性アニオン性乳化剤としては、アリル基、メタリル基、(メタ)アクリロイル基、プロペニル基、ブテニル基等のラジカル重合性不飽和基を有するスルホン酸化合物のナトリウム塩、該スルホン酸化合物のアンモニウム塩等を挙げることができる。これらの内、ラジカル重合性不飽和基を有するスルホン酸化合物のアンモニウム塩が、得られる塗膜の耐水性に優れるため、好ましい。該スルホン酸化合物のアンモニウム塩の市販品としては、例えば、「ラテムルS-180A」(商品名、花王(株)製)等を挙げることができる。
【0051】
また、上記ラジカル重合性不飽和基を有するスルホン酸化合物のアンモニウム塩の中でも、ラジカル重合性不飽和基とポリオキシアルキレン基を有するスルホン酸化合物のアンモニウム塩がより好ましい。上記ラジカル重合性不飽和基とポリオキシアルキレン基を有するスルホン酸化合物のアンモニウム塩の市販品としては、例えば、「アクアロンKH-10」(商品名、第一工業製薬(株)製)、「SR-1025A」(商品名、ADEKA(株)製)等を挙げることができる。
上記乳化剤の使用量は、使用される全モノマーの合計質量を基準にして、0.1~15質量%程度が好ましく、0.5~10質量%程度がより好ましく、1~5質量%程度が更に好ましい。
【0052】
前記重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキシド、ステアロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルパーオキシアセテート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、アゾビス(2-メチルプロピオンニトリル)、アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、4、4’-アゾビス(4-シアノブタン酸)、ジメチルアゾビス(2-メチルプロピオネート)、アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)-プロピオンアミド]、アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]-プロピオンアミド}等のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。これらの重合開始剤は、一種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、上記重合開始剤に、必要に応じて、糖、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、鉄錯体等の還元剤を併用して、レドックス開始剤としてもよい。
【0053】
上記重合開始剤の使用量は、一般に、使用される全モノマーの合計質量を基準にして、0.1~5質量%程度が好ましく、0.2~3質量%程度がより好ましい。該重合開始剤の添加方法は、特に制限されるものではなく、その種類及び量などに応じて適宜選択することができる。例えば、予めモノマー混合物又は水性媒体に含ませてもよく、或いは重合時に一括して添加してもよく又は滴下してもよい。
【0054】
コアシェル型アクリル樹脂粒子(B)は、上記で得られるコア部共重合体(I)のエマルションに、シェル部の重合性不飽和モノマー混合物を添加し、さらに重合させてシェル部共重合体(II)を形成することによって、得ることができる。
上記シェル部共重合体(II)を形成するモノマー混合物は、必要に応じて、前記重合開始剤、連鎖移動剤、還元剤、乳化剤等の成分を適宜含有することができる。また、当該モノマー混合物は、そのまま滴下することもできるが、該モノマー混合物を水性媒体に分散して得られるモノマー乳化物として滴下することが望ましい。この場合におけるモノマー乳化物の粒子径は特に制限されるものではない。
シェル部共重合体(II)を形成するモノマー混合物の重合方法としては、例えば、該モノマー混合物又はその乳化物を、一括で又は徐々に滴下して、上記コア部共重合体(I)のエマルションに、添加し、撹拌しながら適当な温度に加熱する方法が挙げられる。
【0055】
かくして得られるアクリル樹脂粒子(B)は、コアシェル型の複層構造の水分散性で、一般に10~1,000nm程度、特に20~500nm程度の範囲内の平均粒子径を有することができる。
本明細書において、アクリル樹脂粒子(B)の平均粒子径は、サブミクロン粒度分布測定装置を用いて、常法により脱イオン水で希釈してから20℃で測定した値である。サブミクロン粒度分布測定装置としては、例えば、「COULTER N4型」(商品名、ベックマン・コールター社製)を用いることができる。
【0056】
アクリル樹脂粒子(B)の機械的安定性を向上させるために、該アクリル樹脂粒子が有するカルボキシル基等の酸基を中和剤により中和することが望ましい。該中和剤としては、酸基を中和できるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トリエチルアミン、アンモニア水などが挙げられる。これらの中和剤は、中和後の該アクリル樹脂粒子(B)の水分散液のpHが6.5~9.0程度となるような量で用いることが望ましい。
【0057】
アクリル樹脂粒子(B)は、コア部を架橋せしめたコア・シェル構造を有し、かつ疎水性の強い炭素数4以上の直鎖状、分岐状又は環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基を有する重合性不飽和モノマー(b1)を含有することが好ましい。該アクリル樹脂粒子(B)を含有する本発明の水性塗料組成物をウェットオンウェットで塗り重ねたとしても、疎水性の強い架橋粒子を含有することによって、上層及び/又は下層との混層が抑制される。
【0058】
また、上記アクリル樹脂粒子(B)は、疎水性が強いため、ポリエステル樹脂(A)や会合型粘性調整剤との疎水性相互作用により、粘度の発現性が高く、かつ、せん断速度の増加と共に粘度が低下する粘度特性を有する。したがって、塗装時の微粒化が良好で、かつ塗着時の粘度が高くなるため、混層が抑制され、光輝性顔料の配向及び塗膜の外観が良好となる。
これらの効果により、平滑性、鮮映性、フリップフロップ性及び/又は耐水性に優れた複層塗膜を形成することができる。
【0059】
硬化剤(C)
硬化剤(C)は、前記ポリエステル樹脂(A)及び/又はアクリル樹脂粒子(B)中の水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の架橋性官能基と反応して、本発明の水性塗料組成物を硬化し得る化合物である。該硬化剤(C)としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、エポキシ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物などが挙げられる。なかでも、得られる塗膜の耐水性及び貯蔵性の観点から、水酸基と反応し得るブロックポリイソシアネート化合物及び/又はアミノ樹脂が好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
ブロックポリイソシアネート化合物
上記ブロックポリイソシアネート化合物は、特に限定されず、通常のポリイソシアネート化合物及びブロック剤を用いて合成することができる。
上記ポリイソシアネート化合物は、下記のようなジイソシアネートを主原料として得られる。
【0061】
ジイソシアネートは、脂肪族及び/または脂環族ジイソシアネートである。脂肪族ジイソシアネートとしては、炭素数4~30のものが、脂環族ジイソシアネートとしては炭素数8~30のものが好ましく、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)-シクロヘキサン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等を挙げることが出来る。なかでも、耐候性及び/又は工業的入手の容易さから、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネートが好ましく、これらは単独で使用しても、併用しても良い。
【0062】
上記ポリイソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を2~20個程度有し、例えば、ビウレット結合、尿素結合、イソシアヌレート結合、ウレトジオン結合、ウレタン結合、アロファネート結合、オキサジアジントリオン結合等を形成することにより製造されたジイソシアネートの2~20量体のオリゴマーである。
上記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロックするために使用されるブロック剤は公知のものを使用することができ、例えば、活性メチレン系、フェノール系、アルコール系、メルカプタン系、酸アミド系、イミド系、アミン系、イミダゾール系、尿素系、カルバミン酸塩系、イミン系、オキシム系、亜硫酸塩系の化合物などを好適に使用することができる。
また、上記ブロックポリイソシアネート化合物は、水性塗料組成物の貯蔵安定性及び硬化性ならびに形成される複層塗膜の平滑性及び鮮映性の観点から、親水基を有するブロックポリイソシアネート化合物であることが好ましい。
【0063】
上記親水基を有するブロックポリイソシアネート化合物は、例えば、ノニオン性の親水基を有する活性水素含有化合物、アニオン性の親水基を有する活性水素含有化合物、カチオン性の親水基を有する活性水素含有化合物等の親水基を有する活性水素含有化合物を使用することで得ることができる。
上記親水基を有する活性水素含有化合物としては、ノニオン性の親水基を有する活性水素含有化合物が好ましく、なかでも、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル及びポリエチレングリコールがより好ましく、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルがさらに好ましい。
また、ブロックポリイソシアネート化合物としては、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート化合物を好適に使用する事ができる。
【0064】
アミノ樹脂
アミノ樹脂としては、アミノ成分とアルデヒド成分との反応によって得られる部分メチロール化アミノ樹脂又は完全メチロール化アミノ樹脂を使用することができる。アミノ成分としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等が挙げられる。アルデヒド成分としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0065】
また、上記メチロール化アミノ樹脂のメチロール基を、適当なアルコールによって、部分的に又は完全にエーテル化したものも使用することができる。エーテル化に用いられるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、2エチルブタノール、2-エチルヘキサノール等が挙げられる。
アミノ樹脂としては、メラミン樹脂が好ましい。特に、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をメチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をブチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をメチルアルコール及びブチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したメチル-ブチル混合エーテル化メラミン樹脂が好ましい。
【0066】
また、上記メラミン樹脂は、得られる塗膜の耐水性に優れる観点から、重量平均分子量が400~6,000であるのが好ましく、500~4,000であるのがより好ましく、600~3,000であるのがさらに好ましい。
メラミン樹脂としては市販品を使用できる。市販品の商品名としては、例えば、「サイメル202」、「サイメル203」、「サイメル238」、「サイメル251」、「サイメル303」、「サイメル323」、「サイメル324」、「サイメル325」、「サイメル327」、「サイメル350」、「サイメル385」、「サイメル1156」、「サイメル1158」、「サイメル1116」、「サイメル1130」(以上、日本サイテックインダストリーズ社製)、「ユーバン120」、「ユーバン20HS」、「ユーバン20SE60」、「ユーバン2021」、「ユーバン2028」、「ユーバン28-60」(以上、三井化学社製)等が挙げられる。
【0067】
着色顔料(D)
本発明の水性塗料組成物に用いられる着色顔料(D)としては、例えば、着色顔料、光輝性顔料等を挙げることができる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、少なくとも1種の光輝性顔料を有することが好ましい。
【0068】
上記光輝性顔料としては、例えば、アルミニウム(蒸着アルミニウムを含む)、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタンや酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタンや酸化鉄で被覆された雲母、ガラスフレーク、ホログラム顔料等を挙げることができる。なかでも、アルミニウム、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタンや酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタンや酸化鉄で被覆された雲母を用いることが好ましく、アルミニウムを用いることが特に好ましい。アルミニウム顔料には、ノンリーフィング型アルミニウムとリーフィング型アルミニウムがあるが、いずれも使用できる。上記光輝性顔料はそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0069】
水性塗料組成物が上記光輝性顔料を含有する場合、光輝性顔料の含有量は、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、及び硬化剤(C)を合計した樹脂固形分100質量部を基準として、通常1~50質量部、好ましくは2~30質量部、さらに好ましくは3~20質量部の範囲内であることが好適である。
上記着色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等が挙げられる。
【0070】
水性塗料組成物が上記着色顔料を含有する場合、着色顔料の含有量は、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、及び硬化剤(C)を合計した樹脂固形分100質量部を基準として、通常1~150質量部、好ましくは3~130質量部、さらに好ましくは5~110質量部の範囲内であることが好適である。
また、上記着色顔料以外に体質顔料を併用することができる。上記体質顔料としては、例えば、タルク、クレー、カオリン、バリタ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナホワイト等が挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0071】
本発明の水性塗料組成物が、上記体質顔料を含有する場合、着色顔料の含有量は、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、及び硬化剤(C)を合計した樹脂固形分100質量部を基準として、通常1~200質量部、好ましくは2~100質量部、さらに好ましくは3~50質量部の範囲内であることが好適である。
【0072】
水性塗料組成物の組成及び調製方法
本発明の水性塗料組成物において、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、及び硬化剤(C)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)を合計した樹脂固形分100質量部を基準として、以下に述べる範囲内の量で含有することができる。
ポリエステル樹脂(A):1~90質量部、好ましくは5~80質量部、さらに好ましくは10~70質量部、
アクリル樹脂粒子(B):1~90質量部、好ましくは5~80質量部、さらに好ましくは10~70質量部、
硬化剤(C):5~60質量部、好ましくは10~50質量部、さらに好ましくは20~40質量部、
なお、水性塗料組成物とは、有機溶剤型塗料組成物と対比される用語であって、一般に、水又は水を主成分とする媒体(水性媒体)に、被膜形成性樹脂、顔料等を分散及び/又は溶解させた塗料組成物を意味する。
【0073】
また、本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて親水性有機溶媒及び/又は疎水性有機溶媒を含有することができる。上記親水性有機溶媒としては、水に相溶するものであれば特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0074】
本発明の水性塗料組成物における水の含有量は、10~90質量%、好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは30~70質量%の範囲内であることが好適である。
本発明の水性塗料組成物の固形分濃度としては、一般に10~60質量%、好ましくは15~50質量%、さらに好ましくは20~40質量%の範囲内であることが好適である。
【0075】
本明細書において、塗料、樹脂等の「固形分」は110℃で1時間乾燥させた後に残存する不揮発性成分を意味する。例えば、塗料の固形分は、110℃で1時間乾燥させた後に残存する、塗料に含有される基体樹脂、架橋剤、顔料等の不揮発性成分を意味する。このため、塗料の固形分濃度は、アルミ箔カップ等の耐熱容器に塗料を量り取り、容器底面に該塗料を塗り広げた後、110℃で1時間乾燥させ、乾燥後に残存する塗料成分の質量を秤量して、乾燥前の塗料の全質量に対する乾燥後に残存する塗料成分の質量の割合を求めることにより、算出することができる。
【0076】
本発明の水性塗料組成物は、ポリエステル樹脂(A)、アクリル樹脂粒子(B)、硬化剤(C)、及び着色顔料(D)を含有するものであるが、さらに、ウレタン樹脂(E)及び/又はポリエーテルポリオール(F)を含有することが好ましい。
【0077】
上記ウレタン樹脂(E)としては、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させることにより得られることができる。上記ポリオール化合物は、例えば、ポリエステル樹脂(A)の説明で挙げたポリオール(a2)を好適に使用することができる。上記ポリイソシアネート化合物は、例えば、ブロックポリイソシアネート化合物の説明で挙げたポリイソシアネート化合物を好適に使用することができる。
本発明の水性塗料組成物が上記ウレタン樹脂(E)を含む場合、その含有量としては、樹脂固形分質量を基準にして1~40質量部、好ましくは5~20質量部の範囲内にあることが適している。
【0078】
上記ポリエーテルポリオール(F)としては、具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル等が挙げられ、単独で用いてもよく、または2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、ポリエーテルポリオール(F)は、前述の成分(A)~(E)を除く成分である。
本発明の水性塗料組成物においては、上記ポリエーテルポリオール(F)を含有することが特に好ましい。ポリエーテルポリオール(F)を含有することにより、仕上がり外観に優れた塗膜が得られる。
【0079】
上記ポリエーテルポリオール(F)としては数平均分子量が200~3000、特に300~1500の範囲内、特に400~750の範囲内、水酸基価が30~500mgKOH/g、特に60~300mgKOH/gの範囲内のものを使用することが好ましい。
ポリエーテルポリオール(F)の市販品としては、サンニックスPP-200、PP-400、PP-600、PP-1000、PP-2000、PP-3000、GP-600、GP-1000、GP-3000、GL-3000、FA-103、FA-703(以上、三洋化成工業社製)、エクセノールEL-1020、EL-2020、EL-3020、EL-510、EL-540、EL-3030、EL-5030、EL-823、EL-828、EL-830、EL-837、EL-840、EL-850、EL-851B(以上、旭硝子ウレタン社製)、プレミノールPML-3005、PML-3012、PML-4002、PML-5001、PML-7001(以上、旭硝子ウレタン社製)等が挙げられる。
本発明の水性塗料組成物が上記ポリエーテルポリオール(F)を含む場合、その含有量としては、仕上り性に優れた塗膜を得ることができる点から、樹脂固形分質量を基準にして0.01~20質量部、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~2質量部の範囲内にあることが適している。
【0080】
本発明の水性塗料組成物は、さらに必要に応じて、その他の塗料用樹脂及び添加剤を、それ自体既知の方法により、水性媒体中で、混合、分散することによって調製することができる。該塗料用樹脂としては、(A)、(B)、(C)、(E)及び(F)以外の水溶解性並びに/若しくは水分散性の樹脂、該塗料用添加剤としては、例えば、粘性調整剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤等が挙げられる。
【0081】
上記粘性調整剤としては、具体的には、例えば、脂肪酸アマイド、ポリアマイド、アクリルアマイド、長鎖ポリアミノアマイド、アミノアマイドおよびこれらの塩(例えばリン酸塩)等のポリアマイド系レオロジーコントロール剤;ポリエーテルポリオール系ウレタンプレポリマー、ウレタン変性ポリエーテル型粘性調整剤等のウレタン系レオロジーコントロール剤;高分子量ポリカルボン酸、高分子量不飽和酸ポリカルボン酸およびこれらの部分アミド化物等のポリカルボン酸系レオロジーコントロール剤;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系レオロジーコントロール剤;モンモリロナイト、ベントナイト、クレー等の無機層状化合物系レオロジーコントロール剤;疎水変性エトキシレートアミノプラスト等のアミノプラスト系レオロジーコントロール剤等を挙げることができ、1種のみを用いてもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0082】
本発明の塗膜形成方法
本発明の水性塗料組成物を用いた塗膜形成方法は、被塗物上に単層塗膜又は複層塗膜を形成せしめる下記方法I~Vの少なくとも1種を好適に用いることができる。また、下記方法I~Vの塗膜形成方法により塗装物品を得ることができる。
本発明においては、水性塗料組成物に含まれるポリエステル樹脂(A)のモノマー成分のポリカルボン酸成分に応じて、好適な塗膜形成方法を構成することができる。
モノマー成分のポリカルボン酸成分が、4官能以上のポリカルボン酸成分である場合、良好な複層塗膜を形成するためには、下記方法I、II及びVの塗膜形成方法とすることが好ましい。
また、モノマー成分のポリカルボン酸成分が、3官能のポリカルボン酸成分である場合、下記方法I~Vの塗膜形成方法のいずれであっても、良好な複層塗膜を形成することができる。
【0083】
<方法I>
被塗物上に下記の工程(I)~(II)、
工程(I):本発明の水性塗料組成物を塗装して着色塗膜を形成する工程、
工程(II):着色塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う塗膜形成方法。
【0084】
<方法II>
被塗物上に下記の工程(I)~(IV)、
工程(I):水性第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された硬化又は未硬化の第1着色塗膜上に、水性第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(III):前記工程(II)で形成された未硬化の第2着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、及び
工程(IV):前記工程(I)~(III)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、該水性第1着色塗料が本発明の水性塗料組成物である複層塗膜形成方法。
【0085】
<方法III>
被塗物上に下記の工程(I)~(IV)、
工程(I):水性第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された硬化又は未硬化の第1着色塗膜上に、水性第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(III):前記工程(II)で形成された未硬化の第2着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、及び
工程(IV):前記工程(I)~(III)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、該水性第2着色塗料が、本発明の水性塗料組成物である複層塗膜形成方法。
【0086】
<方法IV>
被塗物上に下記の工程(I)~(III)、
工程(I):水性着色塗料を塗装して着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された未硬化の着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、並びに
工程(III):前記工程(I)及び(II)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、該水性着色塗料が、本発明の水性塗料組成物である複層塗膜形成方法。
【0087】
<方法V>
被塗物上に下記の工程(I)~(V)、
工程(I):水性第1着色塗料を塗装して第1着色塗膜を形成する工程、
工程(II):前記工程(I)で形成された硬化又は未硬化の第1着色塗膜上に、水性第2着色塗料を塗装して第2着色塗膜を形成する工程、
工程(III):前記工程(II)で形成された未硬化の第2着色塗膜上に、水性第3着色塗料を塗装して第3着色塗膜を形成する工程、
工程(IV):前記工程(III)で形成された未硬化の第3着色塗膜上に、クリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成する工程、及び
工程(V):前記工程(I)~(IV)で形成された複層塗膜を焼き付け硬化する工程、
を行う複層塗膜形成方法であって、該水性第1着色塗料、水性第2着色塗料、及び/又は水性第3着色塗料が、本発明の水性塗料組成物である複層塗膜形成方法。
【0088】
被塗物
本発明の塗膜形成方法において、硬化又は未硬化の塗膜を有していても良い被塗物は、特に限定されるものではなく、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体の外板部;バンパー等の自動車部品;携帯電話、オーディオ機器等の家庭電気製品の外板部等を挙げることができる。これらのうち、自動車車体の外板部及び自動車部品が好ましい。
【0089】
これらの被塗物の材質としては、特に限定されるものではなく、例えば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅、ブリキ、ステンレス鋼、亜鉛メッキ鋼、亜鉛合金(Zn-Al、Zn-Ni、Zn-Fe等)メッキ鋼等の金属材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂類、各種のFRP等のプラスチック材料;ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料;木材;紙、布等の繊維材料等を挙げることができる。これらのうち、金属材料及びプラスチック材料が好ましい。
【0090】
上記被塗物は、上記金属材料やそれから成形された車体等の金属表面に、リン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化物処理等の表面処理が施されたものであってもよく、さらに、その上に硬化又は未硬化の塗膜が形成されているものであってもよい。
硬化又は未硬化の塗膜が形成された被塗物としては、基材に必要に応じて表面処理を施し、その上に塗膜が形成されたもの、例えば、電着塗料によって下塗り塗膜が形成された車体であってもよい。
被塗物は、上記プラスチック材料やそれから成形された自動車部品等のプラスチック表面に、必要に応じて、表面処理を行ったものであってもよい。また、プラスチック材料と金属材料とが組み合わさったものであってもよい。
【実施例
【0091】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに説明する。
各種樹脂の合成方法、塗料組成物の製造方法、塗膜形成方法、評価試験方法などは当該技術分野で従来公知の方法を用いているが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の技術思想と特許請求の範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能である。
各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0092】
ポリエステル樹脂の製造
製造例1
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器及び水分離器を備えた反応容器に、トリメシン酸126部、PTMG650(ポリテトラメチレンエーテルグリコール、重量平均分子量650)1365部、及びグリセリン37部を仕込み、160℃~230℃の間を3時間かけて昇温させた後、終点酸価が3mgKOH/gになるまで230℃で縮合反応させた。次いで、得られた縮合反応生成物にカルボキシル基を付加するために、さらに無水トリメリット酸77部を加え、170℃で30分間反応させた後、2-(ジメチルアミノ)エタノールを酸基に対して0.5当量添加し、さらに2-エチル-1-ヘキサノールで希釈し、固形分濃度70%であるポリエステル樹脂(a-1)溶液を得た。得られたポリエステル樹脂は、酸価が32mgKOH/g、水酸基価が117mgKOH/g、固形分濃度70%、数平均分子量が1200であった。
【0093】
製造例2~16
下記表1に示す配合とする以外、製造例1と同様にして合成し、ポリエステル樹脂(a-2)~(a-16)を得た。
【0094】
【表1】
【0095】
なお、上記表中の略号は、それぞれ下記の意味を有する。
PA:無水フタル酸、
16HD:1,6-ヘキサンジオール、
PEG600:ポリエチレングリコール(重量平均分子量600)、
PPG600:ポリプロピレングリコール(重量平均分子量600)、
PTMG250:ポリテトラメチレングリコール(重量平均分子量250)、
PTMG650:ポリテトラメチレングリコール(重量平均分子量650)、
PTMG800:ポリテトラメチレングリコール(重量平均分子800)、
PTMG2000:ポリテトラメチレングリコール(重量平均分子量2000)。
【0096】
アクリル樹脂粒子の製造
製造例17
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器、窒素導入管及び滴下装置を備えた反応容器に、脱イオン水120部及び「アデカリアソープSR-1025」(商品名、ADEKA社製、乳化剤、有効成分25%)0.8部を仕込み、窒素気流下で撹拌混合し、80℃に昇温させた。
次いで下記コア部用モノマー乳化物の全量のうちの5%量及び6%過硫酸アンモニウム水溶液2.5部を反応容器内に導入し80℃で15分間保持した。その後、コア部用モノマー乳化物の残部を3時間かけて、同温度に保持した反応容器内に滴下し、滴下終了後1時間熟成を行った。次に、下記シェル部用モノマー乳化物を1時間かけて滴下し、1時間熟成した後、5%2-(ジメチルアミノ)エタノール水溶液3.8部を反応容器に徐々に加えながら30℃まで冷却し、100メッシュのナイロンクロスで濾過しながら排出し、平均粒子径100nm、固形分30%のアクリル樹脂粒子分散液(b-1)を得た。得られたアクリル樹脂粒子は、酸価17.2mgKOH/g、水酸基価27.2mgKOH/gであった。
【0097】
コア部用モノマー乳化物:脱イオン水54部、「アデカリアソープSR-1025」3.1部、アリルメタクリレート1部、スチレン10部、n-ブチルアクリレート35部、メチルメタクリレート10部、エチルアクリレート20部及び2-ヒドロキシエチルメタクリレート1部を混合撹拌することにより、コア部用モノマー乳化物を得た。
【0098】
シェル部用モノマー乳化物:脱イオン水50部、「アデカリアソープSR-1025」1.8部、過硫酸アンモニウム0.04部、2-ヒドロキシエチルアクリレート5.3部、メタクリル酸2.6部、エチルアクリレート8部及びメチルメタクリレート7.1部を混合撹拌することにより、シェル部用モノマー乳化物を得た。
【0099】
製造例18~20
下記表2に示す配合とする以外、製造例17と同様にして合成し、アクリル樹脂粒子分散液(b-2)~(b-4)を得た。
下記表2に、アクリル樹脂粒子分散液(b-1)~(b-4)の原料組成(部)、固形分(%)、酸価(mgKOH/g)及び水酸基価(mgKOH/g)を示す。
【0100】
【表2】
【0101】
なお、上記表中の略号は、それぞれ下記の意味を有する。
AMA:アリルメタクリレート、
St:スチレン、
nBA:n-ブチルアクリレート、
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート、
MAAc:メタクリル酸、
MMA:メチルメタクリレート、
EA:エチルアクリレート。
【0102】
活性メチレン型ブロックポリイソシアネート化合物の製造
製造例21
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器、窒素導入管、滴下装置及び除去溶媒簡易トラップを備えた反応容器に、「スミジュールN-3300」360部、「ユニオックスM-550」(日油社製、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、平均分子量 約550)60部及び2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール0.2部を仕込み、よく混合して、窒素気流下で130℃で3時間加熱した。次いで、酢酸エチル110部及びマロン酸ジイソプロピル252部を仕込み、窒素気流下で撹拌しながら、ナトリウムメトキシドの28%メタノール溶液3部を加え、65℃で8時間撹拌した。得られた樹脂溶液中のイソシアネート量は0.12モル/Kgであった。これに4-メチルー2-ペンタノール683部を加え、系の温度を80~85℃に保ちながら減圧条件下で3時間かけて溶剤を留去し、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート化合物溶液1010部を得た。除去溶媒簡易トラップには、イソプロパノールが95部含まれていた。得られた活性メチレン型ブロックポリイソシアネート化合物溶液の固形分濃度は約60%であった。
【0103】
リン酸基含有分散樹脂
製造例22
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器、窒素導入管及び滴下装置を備えた反応容器にメトキシプロパノール27.5部、イソブタノール27.5部の混合溶剤を入れ、110℃に加熱し、スチレン25部、n-ブチルメタクリレート27.5部、「イソステアリルアクリレート」(商品名、大阪有機化学工業社製、分岐高級アルキルアクリレート)20部、4-ヒドロキシブチルアクリレート7.5部、リン酸基含有重合性不飽和モノマー(注1)15部、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート12.5部、イソブタノール10部、t-ブチルパーオキシオクタノエート4部からなる混合物121.5部を4時間かけて上記混合溶剤に加え、さらにt-ブチルパーオキシオクタノエート0.5部とイソプロパノール20部からなる混合物を1時間滴下した。その後、1時間撹拌熟成して固形分濃度50%のリン酸基含有分散樹脂溶液を得た。本樹脂のリン酸基による酸価は83mgKOH/g、水酸基価は29mgKOH/g、重量平均分子量は10,000であった。
(注1)リン酸基含有重合性不飽和モノマー:温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器、窒素導入管及び滴下装置を備えた反応容器にモノブチルリン酸57.5部、イソブタノール41部を入れ、90℃に昇温後、グリシジルメタクリレート42.5部を2時間かけて滴下した後、さらに1時間撹拌熟成した。その後、イソプロパノ-ル59部を加えて、固形分濃度50%のリン酸基含有重合性不飽和モノマー溶液を得た。得られたモノマーのリン酸基による酸価は285mgKOH/gであった。
【0104】
光輝性顔料分散液の製造
製造例23
製造例23撹拌混合容器内において、アルミニウム顔料ペースト「GX-180A」(商品名、旭化成メタルズ社製、金属含有量74%)19部、2-エチル-1-ヘキサノール34.8部、製造例22で得られたリン酸基含有分散樹脂溶液8部及び2-(ジメチルアミノ)エタノール0.2部を均一に混合して、光輝性顔料分散液を得た。
【0105】
水性塗料組成物
実施例1
製造例1で製造したポリエステル樹脂(a-1)溶液21.4部(固形分15部)、製造例17で得られたアクリル樹脂粒子分散液(b-1)100部(固形分30部)、メラミン樹脂「サイメル350」(商品名、三井サイテック社製、メチルエーテル化メラミン樹脂、重量平均分子量550、固形分100%)20部(固形分20部)、製造例21で得られた活性メチレン型ブロックポリイソシアネート化合物16.67部(固形分10部)、ウレタン樹脂「ユーコートUX-8100」(商品名、三洋化成工業社製、ウレタン樹脂、固形分35%)57.1部(固形分20部)、ポリエーテルポリオール「サンニックスPP-600」(商品名、三洋化成社製、ポリプロピレングリコール、分子量1000)1部(固形分1部)、製造例23で得た光輝性顔料分散液62部(樹脂固形分4部)を均一に混合し、更に、「プライマルASE-60」(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2-(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、固形分濃度48%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度60秒の水性塗料組成物(X-1)を得た。
【0106】
実施例2~26及び比較例1~4
塗料組成を下記表3のものとする以外は実施例1の水性塗料組成物(X-1)と同様にして水性塗料組成物(X-2)~(X-30)を得た。
【0107】
実施例27
製造例22で得られたリン酸基含有分散樹脂溶液20部(固形分10部)、「JR-806」(商品名、テイカ社製、ルチル型二酸化チタン)60部、「バリエースB-35」(商品名、堺化学工業社製、硫酸バリウム粉末、平均一次粒子径0.5μm)16部、「MICRO ACE S-3」(商品名、日本タルク社製、タルク粉末、平均一次粒子径4.8μm)3部及び脱イオン水46部を混合し、2-(ジメチルアミノ)エタノールでpH8.0に調整した後、ペイントシェーカーで30分間分散して顔料分散ペーストを得た。
次に、得られた顔料分散ペースト145部(樹脂固形分10部)、製造例17で得たアクリル樹脂粒子分散液(b-1)100部(固形分30部)、製造例1で得たポリエステル樹脂(a-1)溶液28.6部(固形分20部)、「ユーコートUX-8100」(商品名、三洋化成工業社製、ウレタンエマルション、固形分35%)28.6部(固形分10部)、製造例21で得た活性メチレン型ブロックポリイソシアネート化合物溶液33.3部(固形分15部)、メラミン樹脂「サイメル350」(商品名、三井サイテック社製、メチルエーテル化メラミン樹脂、重量平均分子量550、固形分100%)15部(固形分15部)、及び2-エチル-1-ヘキサノール10部を均一に混合した。
次いで、得られた混合物に、「UH-752」(商品名、ADEKA社製、ウレタン会合型増粘剤)、2-(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を添加し、pH8.0、固形分濃度48%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度30秒の水性塗料組成物(X-31)を得た。
【0108】
実施例28
製造例1で製造したポリエステル樹脂(a-1)溶液21.4部(固形分15部)、製造例17で得られたアクリル樹脂粒子分散液(b-1)100部(固形分30部)、メラミン樹脂「サイメル350」(商品名、三井サイテック社製、メチルエーテル化メラミン樹脂、重量平均分子量550、固形分100%)20部(固形分20部)、製造例21で得られた活性メチレン型ブロックポリイソシアネート化合物16.67部(固形分10部)、ウレタン樹脂「ユーコートUX-8100」(商品名、三洋化成工業社製、ウレタン樹脂、固形分35%)57.1部(固形分20部)、ポリエーテルポリオール「サンニックスPP-600」(商品名、三洋化成社製、ポリプロピレングリコール、分子量600)1部(固形分1部)、パール顔料分散液(注2)18部(樹脂固形分4部)を均一に混合し、更に、「プライマルASE-60」(商品名、ロームアンドハース社製、ポリアクリル酸系増粘剤)、2-(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を加えてpH8.0、固形分濃度48%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度60秒の水性塗料組成物(X-32)を得た。
(注2)パール顔料分散液:製造例22で得られたリン酸基含有分散樹脂8部(樹脂固形分4部)と酸化チタン被覆りん片状雲母顔料「イリオジン103R」(商品名、最大直径10~20μm、厚さ0.5~1μm)10部を均一に混合して、パール顔料分散液を得た。
【0109】
実施例29
製造例22で得られたリン酸基含有分散樹脂溶液20部(固形分10部)、「JR-806」(商品名、テイカ社製、ルチル型二酸化チタン)59部、「カーボンMA100」(商品名、三菱化学社製、カーボンブラック)1部、「バリエースB-35」(商品名、堺化学工業社製、硫酸バリウム粉末、平均一次粒子径0.5μm)16部、「MICRO ACE S-3」(商品名、日本タルク社製、タルク粉末、平均一次粒子径4.8μm)3部及び脱イオン水46部を混合し、2-(ジメチルアミノ)エタノールでpH8.0に調整した後、ペイントシェーカーで30分間分散して顔料分散ペーストを得た。
次に、得られた顔料分散ペースト145部(樹脂固形分10部)、製造例17で得たアクリル樹脂粒子分散液(b-1)100部(固形分30部)、製造例1で得たポリエステル樹脂(a-1)溶液28.6部(固形分20部)、「ユーコートUX-8100」(商品名、三洋化成工業社製、ウレタンエマルション、固形分35%)28.6部(固形分10部)、製造例21で得た活性メチレン型ブロックポリイソシアネート化合物溶液33.3部(固形分15部)、メラミン樹脂「サイメル350」(商品名、三井サイテック社製、メチルエーテル化メラミン樹脂、重量平均分子量550、固形分100%)15部(固形分15部)、及び2-エチル-1-ヘキサノール10部を均一に混合した。
次いで、得られた混合物に、「UH-752」(商品名、ADEKA社製、ウレタン会合型増粘剤)、2-(ジメチルアミノ)エタノール及び脱イオン水を添加し、pH8.0、固形分濃度48%、20℃におけるフォードカップNo.4による粘度30秒の水性塗料組成物(X-33)を得た。
【0110】
【表3】
【0111】
なお、上記表中の配合量は固形分の値である。
(注3)メラミン樹脂:「サイメル325」(商品名、三井サイテック社製、メチルエーテル化メラミン樹脂、重量平均分子量550、固形分100%)。
(注4)ウレタン樹脂:「ユーコートUX-8100」(商品名、三洋化成工業社製、ウレタン樹脂、固形分35%)。
(注5)ポリエーテルポリオール1:「サンニックスPP-600」(商品名、三洋化成社製、ポリプロピレングリコール、分子量600)。
(注6)ポリエーテルポリオール2:「サンニックスPP-2000」(商品名、三洋化成社製、ポリプロピレングリコール、分子量2000)。
【0112】
複層塗膜形成方法
(試験用被塗物の作製)
リン酸亜鉛化成処理を施した冷延鋼板に、エレクロンGT-10(商品名、関西ペイント社製、カチオン電着塗料)を乾燥膜厚20μmとなるように電着塗装し、170℃で30分間加熱して硬化させて試験用被塗物とした。
【0113】
実施例30
上記試験用被塗物上に、水性中塗り塗料「WP-522H」(商品名、関西ペイント社製、ポリエステル樹脂・アミノ樹脂系水性中塗り塗料)を用いて、回転霧化型の静電塗装機により、硬化膜厚30μmになるように静電塗装し、5分間放置した後、80℃で5分間プレヒートを行った。続いて、実施例1で得た水性塗料組成物(X-1)を用いて、回転霧化型の静電塗装機により、硬化膜厚15μmとなるように静電塗装し、未硬化の光輝性塗膜を形成した。3分間放置後、80℃で3分間プレヒートを行なった後、クリヤー塗料「マジクロンKINO-1210」(商品名、関西ペイント社製、酸/エポキシ硬化型アクリル樹脂系有機溶剤型上塗りクリヤー塗料)を、硬化膜厚が35μmとなるように静電塗装した。7分間放置した後、上記被塗物(試験用被塗物上に、未硬化の中塗り塗膜、光輝性塗膜、及びクリヤー塗膜)を140℃で30分間加熱して、同時に焼き付け、前記方法IIIの複層塗膜形成方法を用いた試験塗板(Y-1)を得た。
【0114】
実施例31~51、比較例5~8
塗料組成物を下記表4のものとする以外は実施例30の複層塗膜形成方法(前記方法III)と同様にして試験塗板(Y-2)~(Y-22)及び試験塗板(Y-27)~(Y-30)を得た。
【0115】
実施例52
上記試験用被塗物上に、中塗り塗料(商品名「TP-65」、関西ペイント社製、ポリエステル樹脂・アミノ樹脂系有機溶剤型塗料組成物)を硬化膜厚25μmになるように塗装し、5分間放置した後、80℃で5分間プレヒートを行い、140℃で30分間硬化させた。続いて、実施例23で得た水性塗料組成物(X-23)を用いて、回転霧化型の静電塗装機により、硬化膜厚15μmとなるように静電塗装し、未硬化の光輝性塗膜を形成した。3分間放置後、80℃で3分間プレヒートを行なった後、上記未硬化の光輝性塗膜を有する被塗物を、クリヤー塗料「マジクロンKINO-1210」(商品名、関西ペイント社製、酸/エポキシ硬化型アクリル樹脂系有機溶剤型上塗りクリヤー塗料)を、硬化膜厚が35μmとなるように静電塗装した。7分間放置した後、上記被塗物(試験用被塗物上に、硬化した中塗り塗膜、未硬化の光輝性塗膜、及び未硬化のクリヤー塗膜)を140℃で30分間加熱して、同時に焼き付け、前記方法IVの複層塗膜形成方法を用いた試験塗板(Y-23)を得た。
【0116】
実施例53
上記試験用被塗物上に、実施例29で得られた水性塗料組成物(X-33)を用いて、回転霧化型の静電塗装機により、硬化膜厚30μmになるように静電塗装し、5分間放置した後、80℃で5分間プレヒートを行った。続いて、実施例24で得た水性塗料組成物(X-24)を用いて、回転霧化型の静電塗装機により、硬化膜厚15μmとなるように静電塗装した。3分間放置後、80℃で3分間プレヒートを行なった後、クリヤー塗料「マジクロンKINO-1210」(商品名、関西ペイント社製、酸/エポキシ硬化型アクリル樹脂系有機溶剤型上塗りクリヤー塗料)を、硬化膜厚が35μmとなるように静電塗装した。7分間放置した後、上記被塗物(試験用被塗物上に、未硬化の中塗り塗膜、未硬化の光輝性塗膜、及び未硬化のクリヤー塗膜)を140℃で30分間加熱して、同時に焼き付け、前記方法IIの複層塗膜形成方法を用いた試験塗板(Y-24)を得た。
【0117】
実施例54
上記試験用被塗物上に、実施例29で得られた水性塗料組成物(X-33)を用いて、回転霧化型の静電塗装機により、硬化膜厚30μmになるように静電塗装し、5分間放置した後、80℃で5分間プレヒートを行った。続いて、実施例27で得られた水性塗料組成物(X-31)を用いて、回転霧化型の静電塗装機により、硬化膜厚30μmになるように静電塗装し、5分間放置した後、80℃で5分間プレヒートを行った。続いて、実施例28で得た水性塗料組成物(X-32)を用いて、回転霧化型の静電塗装機により、硬化膜厚15μmとなるように静電塗装した。3分間放置後、80℃で3分間プレヒートを行なった後、クリヤー塗料「マジクロンKINO-1210」(商品名、関西ペイント社製、酸/エポキシ硬化型アクリル樹脂系有機溶剤型上塗りクリヤー塗料)を、硬化膜厚が35μmとなるように静電塗装した。7分間放置した後、上記被塗物(試験用被塗物上に、未硬化の中塗り塗膜、未硬化の白色塗膜、未硬化のパール塗膜、及び未硬化のクリヤー塗膜)を140℃で30分間加熱して、同時に焼き付け、前記方法Vの複層塗膜形成方法を用いた試験塗板(Y-25)を得た。
【0118】
実施例55
上記試験用被塗物上に、実施例26で得た水性塗料組成物(X-26)を用いて、回転霧化型の静電塗装機により、硬化膜厚45μmとなるように静電塗装し、未硬化の光輝性塗膜を形成した。3分間放置後、80℃で3分間プレヒートを行なった後、上記未硬化の光輝性塗膜を有する被塗物を、クリヤー塗料「マジクロンKINO-1210」(商品名、関西ペイント社製、酸/エポキシ硬化型アクリル樹脂系有機溶剤型上塗りクリヤー塗料)を、硬化膜厚が35μmとなるように静電塗装した。7分間放置した後、上記被塗物(試験用被塗物上に、未硬化の光輝性塗膜、及び未硬化のクリヤー塗膜)を140℃で30分間加熱して、同時に焼き付け、前記方法IVの複層塗膜形成方法を用いた試験塗板(Y-26)を得た。
【0119】
【表4】

【0120】
評価試験
実施例30~55及び比較例5~8で得られた試験塗板(Y-1)~(Y-30)に関して、後述する方法で評価試験(平滑性・鮮映性・フリップフロップ性・耐水性)を行った。なお、本発明においては、平滑性、鮮映性、フリップフロップ性及び耐水性の全ての性能に優れていることが重要であり、いずれか1つに不合格「C」の評価がある場合は不合格である。評価結果を下記表4に併せて示す。また、実施例54の試験塗板(Y-25)に関しては、白色のパール色であるためフリップフロップ性の評価は行わなかった。
また、工程III以外の工程で得られた試験塗板の耐水性評価は行わなかった。
【0121】
<平滑性>
試験塗板を、「Wave Scan DOI」(商品名、BYK Gardner社製)により測定されるWcの値で評価した。なお、Wcは、値が小さいほど塗面の平滑性が高いことを意味する。評価としては、S~Bが合格で、Cが不合格である。
S:Wcの値が、7未満であり、平滑性が極めて優れる。
A:Wcの値が、7以上、かつ8.5未満であり、平滑性が優れる。
B:Wcの値が、8.5以上、かつ10未満であり、平滑性がやや劣る。
C:Wcの値が、10以上であり、平滑性が劣る。
【0122】
<鮮映性>
試験塗板を、「Wave Scan DOI」(商品名、BYK Gardner社製)により測定されるWaの値で評価した。なお、Waは、その値が小さいほど塗面の鮮映性が高いことを意味する。評価としては、S~Bが合格で、Cが不合格である。
S:Waの値が、8未満であり、鮮映性が極めて優れる。
A:Waの値が、8以上、かつ10未満であり、鮮映性が優れる。
B:Waの値が、10以上、かつ12未満であり、鮮映性がやや劣る。
C:Waの値が、12以上であり、鮮映性が劣る。
【0123】
<フリップフロップ性(FF性)>
試験塗板を、「多角度分光測色計MA-68」(商品名、X-Rite社製)により測定されるL値(明度)から導かれるFF値で評価した。なお、FF値は下記の式により求めた。
FF値=受光角15度のL値/受光角110度のL値
FF値が大きいほど、観察角度(受光角)によるL値(明度)の変化が大きく、フリップフロップ性に優れていることを示す。評価としては、S~Bが合格で、Cが不合格である。
S:FF値が、5.5以上であり、フリップフロップ性が極めて優れる。
A:FF値が、4.8以上、かつ5.5未満であり、フリップフロップ性が優れる。
B:FF値が、4以上、かつ4.8未満であり、フリップフロップ性がやや劣る。
C:FF値が、4未満であり、フリップフロップ性が劣る。
【0124】
<耐水性>
試験板を40℃の温水に240時間浸漬し、引き上げ、20℃で12時間乾燥した後、試験板の複層塗膜を素地に達するようにカッターで格子状に切り込み、大きさ2mm×2mmのゴバン目を100個作る。続いて、その表面に粘着セロハンテープを貼着し、20℃においてそのテープを急激に剥離した後のゴバン目塗膜の残存状態を調べた。評価としては、S~Bが合格で、Cが不合格である。
S:ゴバン目塗膜が100個残存し、カッターの切り込みの縁において塗膜の小さなフチカケが生じていない。
A:ゴバン目塗膜が100個残存するが、カッターの切り込みの縁において塗膜の小さなフチカケが生じている。
B:ゴバン目塗膜が90~99個残存する。
C:ゴバン目塗膜の残存数が89個以下である。