(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ゴム組成物、及びゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20240110BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240110BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240110BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240110BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/22
C08K3/04
C08K3/36
C08J3/20 B CEQ
(21)【出願番号】P 2019212720
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆太郎
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-106911(JP,A)
【文献】特開2016-030815(JP,A)
【文献】特開昭61-215638(JP,A)
【文献】特開2017-218583(JP,A)
【文献】特開平10-237229(JP,A)
【文献】特開2019-100814(JP,A)
【文献】特開2016-125844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/00
C08K 3/00-3/22
C08J 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、充填剤と、平均粒径の異なる複数の種の酸化亜鉛と、を含み、前記ジエン系ゴム中に
前記充填剤の凝集構造を有するゴム組成物であって、
前記充填剤は、シリカと、カーボンブラックと、を含み、
前記ゴム組成物を加硫させてなり亀裂を有するゴム材料を伸長させたときに、亀裂先端から前記ゴム材料の伸長方向と交差する方向に距離r離れた前記ゴム材料の部分に生じる力学的物理量と前記距離rとの関係を、aを係数とするr
aを含む回帰式を用いて、歪エネルギーを前記力学的物理量として回帰させることで定まる前記係数aに関して、前記距離rが
前記亀裂先端から0μmを超え200μm以内である場合に、-0.85<a<0を満た
し、
前記回帰式は、
E=E
0
×r
a
+E
c
で表され、
前記回帰式中、Eは、前記力学的物理量を示し、E
0
は、前記距離rが0である前記ゴム材料の部分に生じる前記力学的物理量を示し、E
c
は、前記距離rが前記亀裂先端から200μmを超える前記ゴム材料の部分に生じる前記力学的物理量を示す、ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記係数aに関して、-0.5<a<0を満たす、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム材料を第1のゴム材料というとき、
前記力学的物理量は、前記ゴム組成物を加硫してなる亀裂を有しない第2のゴム材料を伸長させてX線散乱測定を行うことで得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量と、伸長によって前記第2のゴム材料内に生じる力学的物理量との対応関係を用いて特定される、請求項1
又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
ジエン系ゴムと、充填剤と、平均粒径の異なる複数の種の酸化亜鉛と、を含み、前記ジエン系ゴム中に
前記充填剤の凝集構造を有するゴム組成物の製造方法であって、
前記充填剤は、シリカと、カーボンブラックと、を含み、
前記ゴム組成物を加硫させてなり亀裂を有するゴム材料を伸長させたときに、亀裂先端から前記ゴム材料の伸長方向と交差する方向に距離r離れた当該ゴム材料の部分に生じる力学的物理量と前記距離rとの関係を、aを係数とするr
aを含む回帰式を用いて、歪エネルギーを前記力学的物理量として回帰させることで定まる前記係数aに関して、前記距離rが
前記亀裂先端から0μmを超え200μm以内である場合に、-0.85<a<0を満たすよう設定された製造条件に従って前記ゴム組成物を製造
し、
前記回帰式は、
E=E
0
×r
a
+E
c
で表され、
前記回帰式中、Eは、前記力学的物理量を示し、E
0
は、前記距離rが0である前記ゴム材料の部分に生じる前記力学的物理量を示し、E
c
は、前記距離rが前記亀裂先端から200μmを超える前記ゴム材料の部分に生じる前記力学的物理量を示す、ことを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム中に充填剤の凝集構造を有するゴム組成物、及びゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェット路面でのタイヤの操縦安定性能(ウェット性能)を高めるために、シリカを配合したゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに用いることが知られている。このようなゴム組成物では、ウェット性能を大きく向上させるために、ゴム中のシリカの凝集を抑え、均一に分散させることが重要である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウェット性能に優れたタイヤに対し、さらに、耐クラック性の高さが要求される場合がある。しかし、タイヤのウェット性能を向上させることのできるゴム組成物の耐クラック性は必ずしも良好でない。
【0005】
本発明は、耐クラック性に優れたゴム組成物、及びゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ジエン系ゴムと、充填剤と、平均粒径の異なる複数の種の酸化亜鉛と、を含み、前記ジエン系ゴム中に前記充填剤の凝集構造を有するゴム組成物であって、
前記充填剤は、シリカと、カーボンブラックと、を含み、
前記ゴム組成物を加硫させてなり亀裂を有するゴム材料を伸長させたときに、亀裂先端から前記ゴム材料の伸長方向と交差する方向に距離r離れた前記ゴム材料の部分に生じる力学的物理量と前記距離rとの関係を、aを係数とするraを含む回帰式を用いて、歪エネルギーを前記力学的物理量として回帰させることで定まる前記係数aに関して、前記距離rが前記亀裂先端から0μmを超え200μm以内である場合に、-0.85<a<0を満たし、
前記回帰式は、
E=E
0
×r
a
+E
c
で表され、
前記回帰式中、Eは、前記力学的物理量を示し、E
0
は、前記距離rが0である前記ゴム材料の部分に生じる前記力学的物理量を示し、E
c
は、前記距離rが前記亀裂先端から200μmを超える前記ゴム材料の部分に生じる前記力学的物理量を示す、ことを特徴とする。
【0007】
前記係数aに関して、-0.5<a<0を満たすことが好ましい。
【0009】
前記ゴム材料を第1のゴム材料というとき、
前記力学的物理量は、前記ゴム組成物を加硫してなる亀裂を有しない第2のゴム材料を伸長させてX線散乱測定を行うことで得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量と、伸長によって前記第2のゴム材料内に生じる力学的物理量との対応関係を用いて特定されることが好ましい。
【0010】
本発明の別の一態様は、ジエン系ゴムと、充填剤と、平均粒径の異なる複数の種の酸化亜鉛と、を含み、前記ジエン系ゴム中に前記充填剤の凝集構造を有するゴム組成物の製造方法であって、
前記充填剤は、シリカと、カーボンブラックと、を含み、
前記ゴム組成物を加硫させてなり亀裂を有するゴム材料を伸長させたときに、亀裂先端から前記ゴム材料の伸長方向と交差する方向に距離r離れた当該ゴム材料の部分に生じる力学的物理量と前記距離rとの関係を、aを係数とするraを含む回帰式を用いて、歪エネルギーを前記力学的物理量として回帰させることで定まる前記係数aに関して、前記距離rが前記亀裂先端から0μmを超え200μm以内である場合に、-0.85<a<0を満たすよう設定された製造条件に従って前記ゴム組成物を製造し、
前記回帰式は、
E=E
0
×r
a
+E
c
で表され、
前記回帰式中、Eは、前記力学的物理量を示し、E
0
は、前記距離rが0である前記ゴム材料の部分に生じる前記力学的物理量を示し、E
c
は、前記距離rが前記亀裂先端から200μmを超える前記ゴム材料の部分に生じる前記力学的物理量を示す、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記態様によれば、耐クラック性に優れたゴム組成物、及びゴム組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態で行うX線散乱測定を説明する図である。
【
図2】X線散乱測定により得られる散乱像の一例を示す図である。
【
図3】X線散乱測定により得られる散乱強度曲線の一例を示す図である。
【
図4】力学的物理量に対する特徴量の分布の一例を示す図である。
【
図5】亀裂先端からの距離に対する力学的物理量の分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態のゴム組成物、及びゴム組成物の製造方法について説明する。
【0014】
(ゴム組成物の概略説明)
本実施形態のゴム組成物は、当該ゴム組成物を加硫させてなり亀裂を有するゴム材料を伸長させたときに、亀裂先端からゴム材料の伸長方向と交差する方向に距離r離れたゴム材料の部分に生じる力学的物理量と距離rとの関係を、aを係数とするraを含む回帰式を用いて、歪エネルギーを力学的物理量として回帰させることで定まる係数aに関して-0.85<a<0を満たす。
充填剤を含んだゴム組成物は、ゴム中に充填剤の凝集構造を有している場合がある。一般に、充填剤がゴム中に均一に分散されずに凝集していると、破壊の原因となりやすく、耐破壊性能等の機械的特性が低下するおそれがあるとされている。本発明者の検討によれば、ゴム中に充填剤の凝集構造が形成されていても、上記係数aが-0.85<a<0を満たすゴム組成物は、優れた耐クラック性を発揮できることが明らかにされた。このようなゴム組成物は、高い耐クラック性が要求されるゴム製品、例えば、タイヤ、ホース、ベルト、防舷材等に好適に用いることができる。
【0015】
(ゴム組成物の詳細説明)
ゴム組成物は、ゴムと、充填剤と、を含む。
ゴムは、例えば、ジエン系ゴムを含む。ジエン系ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)等が挙げられる。
【0016】
充填剤は、ゴム中に凝集構造を形成する物質を少なくとも含む。そのような物質として、シリカ等の白色充填剤が挙げられる。シリカは、ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに用いた場合に、ウェット性能を向上させられる点で好ましい。この点で、シリカの配合量は、ゴム100質量部あたり、好ましくは15質量部以上であり、より好ましくは20質量部以上である。一方、シリカが多すぎると、凝集構造のサイズが大きくなりやすく、凝集したシリカが破壊の起点となって、耐クラック性が悪化する場合がある。このため、シリカの配合量は、ゴム100質量部あたり、好ましくは150質量部以下である。
【0017】
充填剤は、白色充填剤のほか、カーボンブラック(CB)等の他の充填剤を含んでいてもよい。カーボンブラックは、破壊に対する強さを効率よく高め、ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに用いた場合に、耐摩耗性を向上させることができる点で好ましい。カーボンブラックの好ましい配合量は、ゴム100質量部あたり、好ましくは2~100質量部である。
【0018】
充填剤の配合量は、ゴム100質量部あたり、好ましくは30~170質量部である。
【0019】
ゴム組成物は、加硫されたゴム材料を得るため、さらに硫黄を含む。また、ゴム組成物は、加硫促進剤及び加硫促進助剤をさらに含むことが好ましい。
【0020】
また、ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに用いた場合に、ウェット性能を向上させつつ、破壊に対する強さを高めるために、ゴム組成物は、シランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリン剤の配合量は、シリカ量に対して好ましくは2質量部~15質量部である。また、充填剤がゴム中に均一に分散されるよう、ゴム組成物は、シリカ分散剤を含むことも好ましい。
【0021】
その他の添加剤として、ゴム組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で、老化防止剤、可塑剤、加工助剤等を備えていてもよい。
【0022】
上記係数aは、上述したように、ゴム材料の亀裂先端からの距離rが所定範囲内にある場合に、上記回帰式が示す変化具合raの係数である。この回帰式は、ゴム組成物を加硫させてなるゴム材料であって、亀裂を有するゴム材料(第1ゴム材料)を伸長させたときに、亀裂先端から第1のゴム材料の伸長方向と交差する方向に距離r離れた第1のゴム材料の部分に生じる力学的物理量と距離rとの関係を回帰させる式である。
力学的物理量とは、ゴム材料を伸長させたときにゴム材料内に生じる物理量を意味し、例えば、歪、応力、歪エネルギーが挙げられる。歪は、ゴム材料に加えた引張力を、伸長方向と直交するゴム材料の断面積で割ることで求められる。応力は、歪を、ゴム材料のヤング率で割ることで求められる。歪エネルギーは、歪と応力との積で表される。したがって、これら3つの物理量は、互いに換算できる関係にある。
【0023】
上記力学的物理量は、具体的に、ゴム組成物を加硫してなるゴム材料であって、亀裂を有しないゴム材料(第2のゴム材料)を伸長させてX線散乱測定を行うことで得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量と、伸長によって第2のゴム材料内に生じる力学的物理量との対応関係から特定される。特徴量とは、散乱光の強度分布を特徴づける量であり、例えば、下記説明するように、X線照射位置からの距離が所定範囲内にある区間での散乱強度曲線の変化具合である。以下、この係数aを求める方法について説明する。
【0024】
(係数aを求める方法)
係数aを求める方法は、
(1)上記対応関係を導き出すステップ(以降、導き出すステップという)、
(2)第1のゴム材料内に生じる上記力学的物理量を特定するステップ(以降、特定するステップという)、及び
(3)特定された力学的物理量の値を用いて係数aを求めるステップ(以降、係数aを求めるステップ)、を備える。
【0025】
(導き出すステップ)
導き出すステップでは、上述したように、第2のゴム材料を伸長させてX線散乱測定を行い、X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量と、第2のゴム材料の伸長によって第2のゴム材料内に生じる力学的物理量との対応関係を導き出す。
第2のゴム材料としては、伸長させた状態でX線散乱測定を行うことが可能な形態のものが用いられる。そのような好ましい形態として、一方向に延びるシート状のゴム材料が挙げられる。シート状のゴム材料の厚さは、例えば、0.5~1mmである。
導き出すステップでは、第2のゴム材料を伸長させた状態でX線散乱測定を行う。第2のゴム材料の伸長は、例えば、引張試験(JIS K6251:2010)に準じて行われる。X線散乱測定は、第2のゴム材料の伸長量を異ならせて複数回行うことが好ましい。これにより、各伸長量と対応する力学的物理量に対する散乱強度曲線の上記変化具合の分布が得られ、特徴量と力学的物理量との対応関係として、亀裂を有するゴム材料内に伸長によって生じた力学的物理量の値を特定するのに適切な対応関係が得られる。この場合、第2のゴム材料には、例えば、伸長方向の歪(伸び率)が5~200%となる範囲で、引張力を5%あるいは10%ずつ異ならせて加えられる。
【0026】
X線散乱測定は、ゴム中の充填剤の凝集構造に関する情報が得られやすい点で、好ましくは超小角X線散乱法(USAXS)を用いて行われる。USAXSの中でも、X線のビーム径が細い(例えば30μm以下)X線を用いるμ-USAXSと呼ばれる方法が好ましく用いられる。
【0027】
図1に、係数aを求める方法において行うX線散乱測定を説明する図を示す。
図1には、第1のゴム材料を用いたX線散乱測定が示されているが、
図1において、第1のゴム材料3を第2のゴム材料に置き換えることにより、導き出すステップで行うX線散乱測定を理解することができる。
図1に示す例では、X線1の照射方向が短冊状のゴム材料の主表面に対して垂直となるよう、ゴム材料は配置されている。ゴム材料の長手方向の両端は、例えば引張試験機により保持され、長手方向を伸長方向(
図1の上下方向)として伸長される。X線1の照射方向に沿ったゴムサンプルの後方(
図1の右方)には、検出器5が配置される。検出器5には、例えば、X線照射方向に対して垂直な平面(検出用平面)を備える二次元検出器が用いられる。
【0028】
μ-USAXSを用いてX線散乱測定を行う場合の測定条件は、例えば、X線の波長は、0.05~0.5nmであり、散乱角θに関して、2θ≦10°であり、第2のゴム材料と検出器5とのX線の照射方向に沿った距離は、5~15mである。
【0029】
X線散乱測定の結果得られた散乱光の強度分布を用いて、特徴量と力学的物理量との上記対応関係が導き出される。検出器5によって検出された散乱光の強度分布は、具体的には、
図2に示すような、散乱光の強度分布を平面上に示す散乱像によって表される。
図2は、X線散乱測定により得られる散乱像の一例を示す図である。散乱像の中心は、散乱光の強度分布の中心であり、第2のゴム材料のX線照射位置と対応する。散乱像の中心から見た方位方向は、第2のゴム材料のX線照射位置から見た第2のゴム材料の面内方向における方位方向と対応する。
図2において、散乱像の上下方向は、第2のゴム材料の伸長方向と対応する。第2のゴム材料を伸長させずにX線散乱測定を行った場合に得られる散乱像では、強度分布が同心円状に表れるが、第2のゴム材料を伸長させてX線散乱測定を行った場合に得られる散乱像では、強度分布は、第2のゴム材料中の充填剤の凝集構造の変化に起因して、
図2に示すように伸長方向と対応する方向(上下方向)に延び、伸長方向及び伸長方向と垂直な方向に対称な模様として表れる。なお、
図2に示す破線を間に挟んだV字状の実線は、伸長方向と対応する検出用平面内の方位方向を含む角度範囲(後述)を示す。
【0030】
特徴量は、散乱光の強度分布を特徴づける量である。特徴量は、ゴム材料におけるX線照射位置からの距離に対する散乱光の強度の分布を示す散乱強度曲線の変化具合であって、中心からの距離が所定範囲内にある区間での散乱強度曲線の変化具合であることが好ましい。特定の区間における散乱強度曲線の変化具合には、伸長によってゴム材料内に生じた歪等が精度よく反映される。また、特定の区間における散乱強度曲線の変化具合には、ゴム中の充填剤の凝集構造の状態が、精度よく反映される。このような区間での変化具合を特徴量として用いることで、当該特徴量と、ゴム中の充填剤の凝集構造に起因してゴム材料内に生じる力学的物理量との対応関係として、亀裂を有するゴム材料内に伸長によって生じた力学的物理量の値を特定するのに適切な対応関係を導き出すことができる。
図3に、X線散乱測定により得られる散乱強度曲線の一例を示す。
図3の散乱強度曲線は、散乱光の強度を縦軸とし、X線の波数q(nm
-1)で表したX線照射位置からの距離を横軸とする両対数グラフに表されている。
図3において、上記区間は、2本の破線の間の範囲で示される。なお、
図3には、種々の伸長量で伸長させた第2のゴム材料のX線散乱測定の結果得られた複数の散乱強度曲線が示されている。
【0031】
散乱強度曲線の変化具合は、具体的に、散乱強度曲線に対しフィッティングを行うことにより求められる。例えば、対象とする区間において最小二乗法により求めた傾きを、変化具合とすることができる。この場合、特徴量を簡易に定めることができる。なお、変化具合を取得する区間の範囲は、ゴムサンプルの伸長量によらず一定である。
【0032】
導き出すステップでは、このようにして求めた特徴量と、当該特徴量と対応する力学的物理量とを用いて、特徴量と力学的物理量との対応関係を導き出す。この対応関係は、具体的に、
図4に示すような、力学的物理量に対する特徴量の分布を用いて作成される。
図4に示す分布は、特徴量として、
図3に示した区間における散乱強度曲線の傾きを縦軸とし、力学的物理量として、伸長させた第2のゴム材料内に生じる応力(MPa)を横軸として示される。特徴量と力学的物理量との対応関係は、具体的に、このような分布に対し、フィッティングを行うことにより求められる。そのような対応関係として、
図4には、最小二乗法を用いて求めた回帰直線が示されている。この回帰直線は、特定するステップにおいて、力学的物理量の値を特定するための検量線として用いられる。特定するステップでは、このような対応関係を用いて、力学的物理量の値を精度良く特定することができる。
【0033】
(特定するステップ)
特定するステップでは、上述したように、第1のゴム材料を伸長させて、第1のゴム材料の伸長方向と交差する方向に亀裂先端から離れて位置する第1のゴム材料の測定対象部分のX線散乱測定を行い、当該X線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布を特徴づける特徴量の値から、上記対応関係を用いて、力学的物理量の値を特定することを行う。第1のゴム材料の伸長方向と交差する方向は、好ましくは、第1のゴム材料の伸長方向と直交する方向(亀裂の進展方向)である。
【0034】
第1のゴム材料は、表面に亀裂を有するゴム材料である。第1のゴム材料の形態は、亀裂を有する点を除いて、第2のゴム材料と同様であることが好ましい。第1のゴム材料が短冊状である場合の亀裂は、例えば、
図1に示すように、第1のゴム材料3の短手方向のいずれかの端部における長手方向の中央部に、短手方向に延びるよう設けられる。
【0035】
特定するステップでは、第1のゴム材料を伸長させながら伸長状態でX線散乱測定を行う。第1のゴム材料の伸長は、例えば、引裂き試験(JIS K6252-1:2015)に準じて行われる。この場合、第1のゴム材料には、亀裂が進展しない程度の引張力が加えられる。X線散乱測定が行われるときの第1のゴム材料の伸長方向の歪(伸び率)は、90~100%の範囲内の値であることが好ましく、例えば100%である。
【0036】
X線散乱測定は、導き出すステップで行うX線散乱測定と同じ要領、同じ測定条件で行うことが好ましい。本実施形態では、伸長によって、亀裂を有するゴム材料内に生じる力学的物理量(特に亀裂先端における応力集中)を知るために、特定するステップでは、上記測定対象部分を測定対象としてX線散乱測定を行う。この観点から、測定対象部分は亀裂先端付近に位置することが好ましく、具体的に、測定対象部分の亀裂先端からの位置は、亀裂先端から亀裂の進展方向(伸長方向と直交する方向)に沿って、0μmを超え200μm以内であることが好ましい。このような第1のゴム材料の位置に生じる力学的物理量は、第1のゴム材料を伸長させた引張力から算出した見かけの力学的物理量(例えば応力)の値よりも高い値を示すためである。
【0037】
特定するステップにおいてX線散乱測定の結果得られる散乱光の強度分布の特徴量は、導き出すステップで特徴量を求めたのと同じ要領で、求めることができる。
【0038】
特定するステップでは、測定対象部分として、亀裂先端からの距離が異なる複数の部分それぞれのX線散乱測定を行うことが好ましい。この結果得られる特徴量の値のそれぞれと対応する力学的物理量の値を特定することで、係数aを求めるステップにおいて、係数aを求めることができる。複数の測定対象部分は、亀裂先端から亀裂の進展方向に沿って位置する複数の部分であることが好ましい。測定対象部分の数は、特に制限されないが、例えば、上記指標として信頼性の高い指標を得る観点から、5以上であることが好ましい。また、このように複数の測定対象部分を測定対象とする場合に、一部の測定対象部分は、亀裂先端から亀裂の進展方向に沿って200μmを超える範囲に位置していてもよい。このような位置に生じる力学物理量をあわせて知ることで、亀裂先端付近に生じる力学的物理量の大きさの程度を理解することができる。なお、亀裂先端付近の狭い範囲内で複数の測定対象部分のX線散乱測定を行う観点から、X線散乱測定では、ビーム径の細いX線を用いることが好ましく、例えば0.1~20μmのビーム径のX線が用いられる。すなわち、μ-USAXSを用いてX線散乱測定を行うことが有効である。
【0039】
(係数aを求めるステップ)
以上のようにして特定された力学的物理量の値を用いて、係数aを求めるステップでは、係数aを求める。
【0040】
第2のゴム材料と第1のゴム材料は同じゴム組成物からなるため、一方のゴム材料を伸長させてX線散乱測定を行った結果得られる、散乱光の強度分布を特徴づける特徴量の値と同じ値を、伸長させた他方のゴム材料も示していれば、一方のゴム材料に生じる力学的物理量の値と同じ値の力学的物理量が、他方のゴム材料内にも生じていると考えることができる。このため、一方のゴム材料として、亀裂のない第2のゴム材料を用いて、上述したように、特徴量と力学的物理量との対応関係を作成しておけば、他方のゴム材料として、亀裂を有する第1のゴム材料を用い、得られた特徴量の値から、上記対応関係を用いて、第1のゴム材料内に生じた力学的物理量の値を特定できる。この力学的物理量の値は、亀裂先端に生じた力学的物理量(例えば亀裂先端における応力集中)の程度を反映したものであることから、例えば、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさを判断する指標に用いることができる。すなわち、特定した力学的物理量の値を、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさに関する情報(ゴム材料情報)として用いることができる。これにより、耐クラック性に優れたゴム材料の開発を効率よく行うことができる。
【0041】
亀裂先端からの距離に対する、上記特定した力学的物理量の値の分布から求めた力学的物理量の変化具合が係数aである。本発明者の検討によれば、このような係数aが、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさを判断する指標となりうることが明らかにされた。係数aは、特定するステップにおいて、上述したように第1のゴム材料の複数の測定対象部分のX線散乱測定を行って、測定対象部分ごとに力学的物理量の値を特定し、求めた力学的物理量の値を用いて下記式を得ることで求めることができる。下記式は、特定した力学的物理量の値と亀裂先端からの距離との関係を回帰させる回帰式である。
【0042】
E=E0×ra+Ec
式中、rは、亀裂先端からの距離を示す。
Eは、亀裂の進展方向に沿った亀裂先端からの距離がrの位置にある第1のゴム材料の部分に、第1のゴム材料の伸長によって生じる力学的物理量を示し、E0はrが0の位置にある第1のゴム材料の部分に生じる力学的物理量を示し、Ecはrが亀裂先端付近の外側にある第1のゴム材料の部分に生じる力学的物理量を示す。亀裂先端付近とは、亀裂先端からの距離が所定範囲内の領域を意味し、例えば、亀裂先端から0μmを超え200μm以内の領域を意味する。
aは、上記係数aであり、ゴム材料によって定まる定数である。
E0、Ec、aは、第1のゴム材料に関して上記のように特定した力学的物理量Eを距離rとともに上記回帰式を用いて回帰させることにより定まる。
【0043】
係数aの値(以降、a値ともいう)は、例えば、各測定対象部分での力学的物理量の値を示すプロットを用いて求めた回帰線の所定の区間(亀裂先端付近)での傾きに相当する。すなわち、a値は、上記した力学的物理量の変化具合である。
図5に、伸長によって第1のゴム材料内に生じた歪エネルギーの亀裂先端からの距離に対する分布の一例を示す。
図5には、歪エネルギーの対数を縦軸とし、亀裂先端からの距離の対数を横軸とするグラフが示される。
図5に示す屈曲した線は、上記式を表す回帰線である。この回帰線は、屈曲位置の両側の区間それぞれのプロットを用いて、最小二乗法により求められる。なお、歪エネルギーは、応力(MPa)×(歪(%)/100)として計算される。
【0044】
本発明者の検討によれば、a値の絶対値が小さいゴム材料は、耐クラック性に優れた強靭なゴム材料であることが明らかにされた。具体的には、上記回帰式において力学的物理量が歪エネルギーである場合のa値が-0.85<a<0、好ましくは-0.5<a<0を満たすゴム組成物は、ゴム材料の耐クラック性に優れることが明らかにされた。
また、このようなa値によって、亀裂を有するゴム材料を伸長させたときに亀裂先端に生じた力学的物理量の程度(例えば亀裂先端付近における応力分布)が可視化され、ゴム材料の亀裂の進展のしやすさを簡易に評価することができる。例えば、上記式において力学的物理量が歪エネルギーである場合のa値が、-0.85<a<0、好ましくは-0.5<a<0の範囲内にあるものを、亀裂が進展し難いゴム材料であると評価し、この範囲を外れるものを、亀裂が進展しやすいゴム材料であると評価することができる。
【0045】
上記導き出すステップ及び特定するステップにおいて、散乱強度曲線の変化具合を取得する上記区間の範囲は、凝集構造のサイズに応じて定められていることが好ましい。伸長によって亀裂先端に生じる力学的物理量の大きさは、ゴム中の充填剤の凝集構造の状態を1つの要因として変化すると考えられる。このため、ゴム中の充填剤の凝集構造の状態をよく反映した区間での散乱強度曲線の変化具合を用いることで、特徴量として、凝集構造のサイズを表した量を用いることができる。なお、凝集構造の状態とは、ゴム材料を伸長させたときに変化する凝集構造の大きさ、形のほか、引張力を受けて複数に分割された凝集構造の伸長方向に対する配向具合等が挙げられる。
【0046】
上記区間は、ゴム材料におけるX線照射位置から0.040~0.056nm
-1の波数の距離にある区間であることが好ましい。この区間は、
図3に示される。このような区間では、
図3に示すように、ゴム材料を伸長させたときのシリカの凝集構造の変化が散乱強度曲線に表れやすく(
図3の各散乱強度曲線において右上に膨らんだ部分(肩))、伸長量の相違による散乱強度曲線の変化具合の相違がはっきりとする。
【0047】
散乱強度曲線の変化具合には、上述した傾きのほか、散乱強度曲線に対し、所定の曲線を示す関数を用いてカーブフィッティングを行って得た変化具合を用いることも好ましい。関数には、例えば、充填剤の凝集構造のサイズを求めるために用いられる周知のものが用いられる。カーブフィッティングにより得られた変化具合は、具体的には、区間内での平均変化率である。このようなカーブフィッティングを行うことにより、特徴量として、凝集構造のサイズを表した量を用いることができる。
【0048】
散乱強度曲線が示す散乱光の強度には、X線散乱測定によって検出用平面上に検出された散乱光の強度分布において、強度分布の中心から見た検出用平面内の方位方向であって、第2のゴム材料及び第1のゴム材料の伸長方向と対応する方位方向を含む所定の角度範囲における散乱光の強度の平均値を用いることが好ましい。この角度範囲は、凝集構造のサイズに応じて設定されることが好ましい。伸長させたゴム材料のX線散乱測定を行って得られる散乱像では、上述したように、伸長方向と対応する方向に延びた模様が表れるため、すべての方位方向の強度の平均値を用いて散乱強度曲線を求めると、伸長方向付近に表れる強度の特徴が表れない。このため、散乱光の強度には、上記したように、伸長方向と対応する方位方向を含む所定の角度範囲での強度の平均値を用いることが好ましい。その際、その角度範囲を、充填剤の凝集構造の大きさに応じて定めた範囲とすることで、充填剤の凝集構造に起因してゴム材料内に生じた力学的物理量を精度良く反映した散乱強度曲線を得ることができる。一実施形態によれば、上記角度範囲は、伸長方向と対応する方位方向を基準とした当該方位方向の周方向両側の好ましくは45度以内、より好ましくは30度以内、特に好ましくは15度以内の角度範囲における散乱光の強度の平均値である。一方、散乱光の強度が周方向にばらつく場合があることを考慮し、上記角度範囲は、伸長方向と対応する方位方向より広い角度範囲であることが好ましく、1度以上であることがより好ましい。
【0049】
以上のゴム組成物によれば、耐クラック性に優れたゴム材料が得られる。係数aが上記範囲を満たすゴム組成物では、ゴム中の充填剤の凝集構造の状態(大きさ、形、配向具合等)が適度に不均一であるため、凝集構造の状態が均一である場合と比べ、亀裂が進展し難く、ゴム材料の耐クラック性が向上すると考えられる。
【0050】
一実施形態によれば、ゴム組成物は、平均粒径の異なる複数の種の酸化亜鉛を含むことが好ましい。これにより、耐クラック性をさらに向上させることができる。このような複数の種の酸化亜鉛を含むことで、ゴム中の架橋点の位置を適度に不均一にする効果が得られ、このことが耐クラック性の向上に寄与すると考えられる。
【0051】
一実施形態によれば、加硫後のJIS K6253に準拠したタイプAデュロメータ硬さが50以上であることが好ましい。ゴム材料の上記硬さが50以上であることは、耐クラック性の向上に寄与する。上記硬さは、55以上であることがより好ましく、一方で、90以下であることが好ましい。
【0052】
一実施形態によれば、係数a、及び、凝集構造をなすゴム100質量部あたりの充填剤の配合量F[質量部]に関して、-0.005<a/F<-0.01、を満たすことが好ましい。充填剤の量が多いと破壊に対する強さが高くなるため、a値の絶対値が大きくても、耐クラック性は良好であるが、充填剤の量が少ない場合、a値の絶対値が大きいと耐クラック性が悪化するおそれがある。このため、上記a/Fは、-0.01以下であることが好ましい。
【0053】
以上のゴム組成物は、下記説明するゴム組成物の製造方法によって製造することができる。
【0054】
(ゴム組成物の製造方法)
本実施形態のゴム組成物の製造方法は、ゴム中に充填剤の凝集構造を有するゴム組成物の製造方法である。本実施形態のゴム組成物の製造方法は、上記係数aが-0.85<a<0を満たすよう設定された製造条件に従ってゴム組成物を製造する。
【0055】
ゴム及び充填剤は、ゴム組成物に用いる上記説明したゴム及び充填剤と同様である。ゴム組成物の原料には、ゴム及び充填剤に加え、硫黄が含まれ、さらに、上記説明した加硫促進剤及び加硫促進助剤が含まれることが好ましく、上記その他の成分が含まれていてもよい。
【0056】
ゴム組成物は、ゴム及び充填剤を含むゴム組成物の原料を、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。原料の混合は、硫黄、加硫促進剤、及び加硫促進助剤を除くゴム組成物の原料の混合(一次混合)と、一次混合により混合した原料混合物に、さらに、硫黄、並びに任意に配合される加硫促進剤及び加硫促進助剤を加えた混合(二次混合)と、に分けて行うことが好ましい。
一次混合の混合時間は、例えば3~10分である。一次混合の混合温度は、例えば、140~170度である。なお、原料混合物は、上記混合温度において、混練機械から放出されることが好ましい。
【0057】
本実施形態の製造方法では、一次混合の後、充填剤をよりよく分散させるために、原料混合物を冷却した後に再度混練機械により行う練り(リミル)を行ってもよいが、本実施形態のゴム組成物の製造方法では、係数aが-0.85<a<0を満たしやすくなる観点から、リミルの時間は一次混合の混合時間より短い(例えば1~3分)ことが好ましく、リミルを行わないことがより好ましい。なお、リミルの温度は、例えば、120~150度である。
【0058】
一実施形態によれば、一次混合及びリミルのための混練機械の稼働に要する電力の合計は、原料に含まれる白色充填剤(例えばシリカ)の単位質量あたり、10kW以下であることが好ましく、5kW以下であることがより好ましい。混練機械として、例えばバンバリーミキサーを用いた場合に、このような電力の範囲は好ましい。このような範囲の電力で原料の混合を行うことにより、ゴム中の充填剤の凝集構造が適度に不均一なものとなりやすく、その結果、ゴム材料の係数aが-0.85<a<0を満たしやすくなる。
【0059】
係数aが上記範囲を満たすよう設定された製造条件とは、好ましくは、(1)リミルを一次混合よりも短い時間で行うあるいはリミルを行わないこと、及び(2)上記電力の合計を、白色充填剤の単位質量あたり10kW以下にすること、の少なくともいずれか1つである。このような製造条件に従ってゴム組成物を製造することにより、係数aが-0.85<a<0を満たしやすくなり、耐クラック性に優れたゴム組成物を得ることができる。
【0060】
(実験例)
下記表1に示した製造条件に従って種々のゴム組成物を作製し、上記実施形態の係数aを求める方法を行い、a値を求めた。また、これらのゴム組成物をトレッドゴムとして用いて空気入りタイヤを作製し、耐クラック性を調べた。
【0061】
表1に示したゴム組成物の原料は下記の通りとした。なお、表1中の原料の数値は、質量部数を示す。
・SBR:日本ゼオン社製 NIPOL 1502
・CB:キャボットジャパン社製 ショウブラックN339
・シリカ:ローディア社製 Zeosil 1165MP(CTAB比表面積:159m2/g)
・亜鉛華1:正同化学工業社製 酸化亜鉛
・亜鉛華2:東邦亜鉛社製 銀嶺 R
・亜鉛華3:LANXESS社製 ZINKOXYD AK RU RUMUSTTER
・シランカップリング剤:Evonik Degussa社製 Si69
・シリカ分散剤:信越化学工業社製 KBE-3083
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ-G
【0062】
ゴム組成物は、表1に示した原料のうち、硫黄、加硫促進剤を除く成分を、1.8Lの密閉型ミキサーで、表1に示した混合時間、放出温度で混練し放出したマスターバッチを常温まで冷却後、表1に示す有無に従ってリミルを行い、さらに、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混練することにより調製した。表1中、「混合時間」は、マスターバッチを得るための混練時間(一次混合の混合時間)を意味し、「放出温度」は、混練中のマスターバッチの温度を意味する。リミルは、マスターバッチを放出し、冷却した後、再度ミキサー内で練りのみを行うことにより行った。なお、リミルの練り時間、放出温度は、一次混合の混合時間、放出温度と同じとした。
【0063】
得られたゴム組成物それぞれを用いて、短冊状のゴムシート(縦50mm×横10mm×厚さ1mm)を一対ずつ作製し、各対の一方を第1のゴム材料とし、他方を第2のゴム材料として、上記実施形態の導き出すステップ及び特定するステップを行った。第2のゴム材料には、短手方向の一方の端部の長手方向の中心に、切込み装置の刃を用いて短手方向に延びる長さ1mmの亀裂を設けた。
【0064】
X線散乱測定は、ビーム径7μmのX線を用いてμ-USAXSを行った。散乱強度曲線を取得する際の散乱光の強度は、散乱像において伸長方向と対応する方向を基準とした周方向両側に5度の角度範囲での平均値とし、ゴムサンプルにおけるX線照射位置から0.040~0.056nm-1の波数の距離にある区間での散乱強度曲線の傾きを特徴量とした。
【0065】
導き出すステップでは、第2のゴム材料を、JIS K6251:2010に準じて、伸長方向の歪を5~200%の範囲で10%ずつ増やしながら引張試験を行い、各伸長量でX線散乱測定を行った。
【0066】
特定するステップでは、第1のゴム材料を、JIS K6252-1:2015に準じて、亀裂が進展しない程度の引張力で引裂き試験を行い、第1のゴム材料の伸長方向の歪(伸び率)が100%であるとき、亀裂先端から亀裂の進展方向に沿って200μm以内の範囲内の位置を含む計40箇所でX線散乱測定を行った。得られた結果から、測定箇所ごとに、対応関係を用いて歪エネルギーの値を特定し、グラフの直線部分の傾き(a値)を求めた。
【0067】
次に、得られたゴム組成物からなるトレッドゴムをトレッド部に配置した未加硫タイヤを作製し、未加硫タイヤ全体を加硫することにより、タイヤ(タイヤサイズ:265/50R20 111W)を作製した。
【0068】
耐クラック性の評価のために、作製したタイヤをドラム試験機に装着し、空気圧850kPa、荷重3.9kN、速度80km/時の条件にて100,000km走行させた後、トレッド部に発生したクラックの個数を調べた。発生したクラックのうちランダムに抽出した所定数のクラックに関して、最大長さが1mm以上のクラックの数が全体の50%未満だった場合を「A」、最大長さが1mm以上のクラックの数が全体の50%を超えていた場合を「B」と評価した。「A」だった場合を、耐クラック性に優れる、「B」だった場合を、耐クラック性が悪いと評価した。
【0069】
【0070】
表1より、a値が-0.85<a<0を満たす実施例1~6は、耐クラック性に優れ、a値がこの範囲を外れる比較例1~3は、耐クラック性が悪かいことがわかる。
【0071】
実施例2と実施例3の比較から、使用した亜鉛華の種類が多いことで、a値の絶対値が小さくなることがわかる。
【0072】
実施例1と実施例2を比較すると、使用した亜鉛華の種類が多くても、使用したシリカ分散剤の量が多いと、a値の絶対値が小さくなることがわかる。
実施例1と実施例4を比較すると、ゴムに対する硫黄及び加硫促進剤の相対的な量が多い実施例4では、ゴム中の架橋点の位置を不均一にする効果が不十分だったために、a値の絶対値が大きくなったと考えられる。
【0073】
以上、本発明のゴム組成物、及びゴム組成物の製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態及び実験例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0074】
1 X線
3 第1のゴム材料
5 検出器