(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】凝集酸化鉄粒子粉末
(51)【国際特許分類】
C01G 49/02 20060101AFI20240110BHJP
C01G 49/06 20060101ALI20240110BHJP
C01G 49/08 20060101ALI20240110BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C01G49/02 A
C01G49/06 A
C01G49/08
C09K3/14 520L
C09K3/14 520C
(21)【出願番号】P 2019180571
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000166443
【氏名又は名称】戸田工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三谷 佳史
(72)【発明者】
【氏名】植本 真次
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170532(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/175284(WO,A1)
【文献】特開2002-220582(JP,A)
【文献】特開平11-012492(JP,A)
【文献】特開平07-241404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00-40/08
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲーサイト、マグネタイト及びヘマタイトから構成される酸化鉄粒子粉末であって、ゲーサイトの含有量が20~90wt%であって、かさ密度が0.1~0.3g/ccであることを特徴とする凝集酸化鉄粒子粉末。
【請求項2】
平均粒子径が1μm~20μmである請求項1に記載の凝集酸化鉄粒子粉末。
【請求項3】
BET比表面積が10~50m
2/gである請求項1又は2に記載の凝集酸化鉄粒子粉末。
【請求項4】
細孔容積が0.8~2.00cc/gである請求項1~3のいずれかに記載の凝集酸化鉄粒子粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキパッドの摩擦調整材に用いる酸化鉄に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレーキパッドは繊維状基材、樹脂結合材、摩擦調整材などから構成されている。摩擦調整材としては種々提案されているが、その中の一つとして酸化鉄が知られている。
【0003】
また、ブレーキパッドは耐フェード性が優れていることが求められており、摩擦調整材である酸化鉄にもその機能が求められている。
【0004】
フェード現象は、ブレーキの高温化に伴ってディスクパッドの成分である樹脂成分が分解・ガス化し、ディスクローターとの界面にガス層が形成されることによってブレーキの効きが悪化する現象である。これを改善するにはブレーキパッドの気孔率を高めて摩擦材面からガスを逃しやすくすることが有効である。
【0005】
ブレーキパッドの気孔率を向上する方法として、原料混合粉を成型する際に成型圧力を低めにすることが考えられる。しかし、圧力を低くすると、ブレーキパッドの強度や耐摩耗性が低下し、特性が得られなくなるという問題がある。
【0006】
ブレーキパッドの特性を損なうことなく、気孔率を高めるためには使用する酸化鉄自体の気孔率を向上する必要がある。すなわち、少なくともかさ密度が低い酸化鉄が求められている。
【0007】
従来、酸化鉄を用いた摩擦材が知られている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-178538号公報
【文献】特開2009-298847号公報
【文献】特開2018-162423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ブレーキパッドの特性を損なうことなく気孔率を高めるために、使用する酸化鉄自体の特性を改善することが求められているが、未だ得られていない。
【0010】
特許文献1には、マグネタイトを含有してなる摩擦材組成物が記載されている。マグネタイトの摩擦係数の安定性及び摩擦係数の向上の点で、マグネタイトは多面体及び針状であることが好ましいと記載されている。しかしながら、特許文献1記載の多面体および針状のマグネタイトは、一次粒子の状態であり、高い細孔容積を有するとは言いがたい。
【0011】
特許文献2には、酸化鉄一次粒子と樹脂とを複合化してなる複合体粒子を含有する摩擦材が記載されている。しかしながら、複合体粒子は樹脂との混合物であるためブレーキパッドの気孔率を向上する効果は期待できるものの、酸化鉄複合粒子自体から樹脂のガスが発散され、フェード特性の低下を招いてしまうものと考えられる。
【0012】
特許文献3には、スプレードライ法によるブレーキ摩擦材用酸化鉄粉末が提案されている。しかしながら、記載の細孔容積は10mm3/g以上180mm3/g以下であり、ブレーキパッドの気孔率向上に寄与するものと考えられるが、十分な特性を得られないものと考えられる。
【0013】
そこで、本発明は、ブレーキパッドの気孔率を高めることが可能な、かさ密度が低い酸化鉄を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記技術的課題に鑑み検討を行った結果、ブレーキパッドの気孔率を高めることが可能な、かさ密度が低い酸化鉄を得ることができ、本発明に至った。
【0015】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0016】
即ち、本発明は、ゲーサイト、マグネタイト及びヘマタイトから構成される酸化鉄粒子粉末であって、ゲーサイトの含有量が20~90wt%であって、かさ密度が0.1~0.3g/ccであることを特徴とする凝集酸化鉄粒子粉末である(本発明1)。
【0017】
また、本発明は、平均粒子径が1μm~20μmである本発明1に記載の凝集酸化鉄粒子粉末である(本発明2)。
【0018】
また、本発明は、BET比表面積が10~50m2/gである本発明1又は2に記載の凝集酸化鉄粒子粉末である(本発明3)。
【0019】
また、本発明は、細孔容積が0.8~2.00cc/gである本発明1~3のいずれかに記載の凝集酸化鉄粒子粉末である(本発明4)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る凝集酸化鉄は、かさ密度が低いので、ブレーキパッドの特性を損なうことなく気孔率を高めることができるので、ブレーキパッド用摩擦材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1で得られた凝集酸化鉄粒子粉末の電子顕微鏡写真である。
【
図2】比較例1で得られた混合物の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次のとおりである。
【0023】
まず、本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末について述べる。
【0024】
本発明に係る凝集酸化鉄粉末は、ゲーサイト(α-FeOOH)、マグネタイト((FeO)x・Fe2O3、0<x≦1)、ヘマタイト(α-Fe2O3)の三種類の構成相からなる。
【0025】
本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末の粒子形状は、針状体と粒状体が凝集結着した形状である。粒状体とは、八面体、六面体、多面体、球状などである。本発明ではゲーサイトの針状粒子、およびマグネタイト、ヘマタイトの粒状粒子を含有した凝集構造をとっている。この凝集構造はゲーサイトの針状粒子が3次元的に絡み合った構造が基本骨格となっており、その基本骨格の中に粒状粒子のマグネタイト、ヘマタイトが入り込むことより、ゲーサイトの針状粒子間の空孔を押し広げる形状を形成させている。本構造を形成することにより、空孔が広がり、かさ密度が低く、大きな細孔容積を有することができる。
【0026】
ゲーサイトの針状粒子のみであると、細孔の広がりがなくなり、細孔容積が小さくなってしまう。また、粒状粒子のみであると、比表面積が低くなり、こちらも細孔容積が小さくなってしまう。
【0027】
また、ゲーサイトは加熱されることにより、組成変化することが知られている。加熱によりFe2O3へ変化する際に脱水を伴うが、その際に脱水による比表面積の増大を伴う。本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末においても、樹脂中への混練、ブレーキとして加熱環境の中へ粒子が供される。その際に、凝集酸化鉄粒子粉末は水を失い、一部Fe2O3構造をとるものと考えられ、比表面積の増大により気孔率(細孔容積)の増大に寄与するものと考えられる。さらに、高温加熱された際には凝集酸化鉄粒子粉末は一部体積の収縮が生じるものと思われる。体積の収縮によりブレーキパッド表面には微細な気孔が生じ、その気孔がガス拡散に寄与するものと考えられる。
【0028】
本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末は、組成的にはゲーサイトが20~90%である。ゲーサイトの含有量が20%未満であると、凝集粒子中の気孔が減少してしまい、ゲーサイトの含有量が90%を超えると針状構造が密となり、気孔が減少してしまう。好ましくはゲーサイトが23~88%、より好ましくはゲーサイトが25~85%である。
【0029】
また、本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末はマグネタイトの含有量が1~75%、ヘマタイトの含有量が5~40%の範囲であることが好ましい。より好ましくはマグネタイトの含有量が2~70%、ヘマタイトの含有量が6~38%、さらにより好ましくはマグネタイトの含有量が3~45%、ヘマタイトの含有量が7~35%である。これらの割合は重量%である。
【0030】
本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末は、針状体、粒状体が凝集結着した構造をしている。本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末を構成する粒子の大きさを測定することは難しいが、0.02~1.5μmであることが好ましく、より好ましくは0.05~1.0μmである。粒子の大きさが前記範囲にあることによって、高い細孔容積を確保することができる。
【0031】
本発明に係る凝集粒子酸化鉄粒子粉末の平均粒子径は1μm~20μmであることが好ましい。1μm未満であると樹脂への分散性が悪くなり、20μmを超えると、ブレーキの制動時に発生する熱により分解したディスクパッドの成分が、ディスクローター上へ移着する移着層の厚みに対して大きすぎるため、移着層を剥がしてしまい、ブレーキの磨耗量が増大してしまう恐れがある。より好ましい平均粒子径は2~15μmである。
【0032】
本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末はBET比表面積が10~50m2/gであることが好ましい。BET比表面積を前記範囲に制御することによって、摩擦材としてガス流通性に優れたものとなる。より好ましいBET比表面積は15~40m2/gである。
【0033】
本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末はかさ密度が0.10~0.30g/ccであることが好ましい。かさ密度を前記範囲に制御することによって、ブレーキパッドの気孔率を高めることが期待できる。より好ましいかさ密度は0.12~0.28g/ccであり、さらにより好ましくは0.13~0.27g/ccである。
【0034】
本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末は細孔容積が0.8~2.0g/ccであることが好ましい。細孔容積が0.8g/cc未満であると従来酸化鉄と同等以下となり、2.0cc/gを超える場合は凝集粒子の強度低下の点で好ましくない。より好ましい吸油量は0.9~1.8g/ccである。
【0035】
次に、本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末の製造法について述べる。
【0036】
本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末は、第一鉄塩水溶液とアルカリ水溶液とを反応器に加え、所定の温度、所定のpHを維持し、反応溶液に機械的な攪拌を行うとともに、酸化反応を行い、反応終了後、濾過、水洗、乾燥、粉砕を行って得ることができる。
【0037】
本発明の反応において、反応鉄濃度は0.4~2.0mol/Lである。0.4mol/L未満の場合には、目的の形状と粒子径のものを作製できない。2.0mol/lより大きい場合には高粘性となり工業的に製造が困難になる。
【0038】
本発明の反応に用いるFe2+水溶液としては、例えば、硫酸第一鉄や塩化第一鉄などの一般的な鉄化合物を用いることができる。またアルカリ溶液には、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。各々の原料は、経済性や反応効率などを考慮して選択すればよい。
【0039】
本発明の反応において、反応温度は80~100℃である。80℃未満である場合には、凝集構造を持たない酸化鉄が生成し、目的の形状と粒子径のものを作製できない。100℃を超える場合も目的の凝集酸化鉄粒子を得ることができるが、オートクレーブ等の装置を必要とするため工業的ではない。
【0040】
本発明の反応において、反応時のpHはpH3.0~5.0である。pH3.0未満である場合には、未反応の硫酸鉄が溶液中に残存してしまうため工業的に非効率となる。pH5.0を超える場合には、マグネタイトが主組成となってしまうため目的の組成、凝集構造のものを得ることができない。
【0041】
アルカリ水溶液の使用量は、第一鉄塩水溶液中のFe2+に対して1.0~3.0当量が好ましく、より好ましくは1.0~2.5当量の範囲である。1.0当量未満の場合には、未反応の第一鉄塩が存在し、目的のマグネタイト粒子を単一相として得ることができない。3.0当量を越える場合には、反応溶液が高粘性となり工業的に製造が困難になる。
【0042】
本発明において、酸化手段は酸素含有ガス(例えば空気)を液中に通気することにより行う。
【0043】
反応時に一般に知られているようにMn、Zn、Ni、Cu、Ti、Si、Al、Mg、Caから選ばれる1種又は2種以上の元素の塩を添加してもよい。添加量としては凝集酸化鉄粒子粉末に対して0~5.0重量%が好ましい。
【0044】
凝集酸化鉄粒子にMn、Zn、Ni、Cu、Ti、Si、Al、Mg、Caから選ばれる1種又は2種以上の元素を含む化合物で表面処理してもよい。添加量としては凝集酸化鉄粒子粉末に対して0~5.0重量%が好ましい。
【0045】
反応後は、常法に従って、水洗、乾燥、粉砕を行えばよい。
【0046】
本発明に係る凝集酸化鉄粒子粉末は、高い細孔容積を有するので、ブレーキパットの摩擦材のほか、触媒担体用、化粧品用、吸着材用などにも用いることができる。
【実施例】
【0047】
本発明の代表的な実施例は、次の通りである。なお、表1に製造方法、表2に諸特性を示す。
【0048】
試料の結晶相の含有量は「Bruker AXS K.K」(ブルカー・エイエックスエス(株)製)XRD装置と付属のTOPASソフトウェアを用いて測定した。
【0049】
試料の粒子形状は、「走査型電子顕微鏡S-4800」((株)日立ハイテクノロジーズ製)により観察した写真から判断した。凝集した酸化鉄粒子粉末の構成粒子形状について、構成する平面から針状、八面体、六面体、多面体又は球状などの形状を観察した写真から判断した。
【0050】
試料の比表面積は、「モノソーブMS-11」(カンタクロム(株)製)を用いて、BET法により測定した。
【0051】
試料の平均粒子径は、「LMS-2000e」((株)セイシン企業製)を用いて測定した。
【0052】
試料の細孔容積は、「ポアマスター60GT」(カンタクロム(株)製)を用いて、水銀圧入法により測定した。
【0053】
試料のかさ密度はJISK5101を参考に測定した。
【0054】
試料の粉体特性は「パウダテスタ」(ホソカワミクロン(株)製)を用いて測定した。
【0055】
実施例1
Fe
2+ 1.2mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液を15Lと18Nの水酸化ナトリウム水溶液0.2Lとを反応器に加え、90℃において加熱攪拌する。反応時には毎分20Lの空気を通気させると共に、18Nの水酸化ナトリウム水溶液1.8Lを少量ずつ滴下し、pH4.0に調整し反応を行った。反応終了時の、反応鉄濃度は1.06mol/lであった。反応終了後、濾過、水洗、乾燥、粉砕を行い凝集酸化鉄粒子粉末を得た。
得られた凝集酸化鉄粒子粉末は、
図1から明らかなように針状粒子と粒状粒子が凝集した構造を有していた。また、平均粒子径は4.1μm、BET比表面積は22.2m
2/gであった。
【0056】
実施例2~5、比較例1~2
凝集酸化鉄粒子粉末の製造条件を種々変化させた以外は、前記実施例1と同様にして凝集酸化鉄粒子粉末を得た。
【0057】
比較例3
Fe2+ 1.2mol/Lを含む硫酸第一鉄水溶液を15Lと18Nの水酸化ナトリウム水溶液2.5Lとを反応器に加え、95℃において加熱攪拌する。反応時には毎分20Lの空気を通気させて反応を行った。反応時のpHは10.8であった。また、反応終了時の、反応鉄濃度は1.06mol/lであった。反応終了後、濾過、水洗、乾燥、粉砕を行い酸化鉄粒子粉末を得た。
得られた酸化鉄粒子粉末は、八面体のマグネタイトであった。また、平均粒子径は0.6μm、BET比表面積は2.7m2/gであった。
【0058】
比較例4
実施例1により得られた凝集酸化鉄粒子粉末はゲーサイト、ヘマタイト、マグネタイトを含有する凝集粒子である。得られた粒子をSEM像により観察した際の酸化鉄のそれぞれの粒子径を計測した。
比較例4では、あらかじめ、前記実施例1で得られた凝集酸化鉄粒子粉末と同程度の大きさのゲーサイト、ヘマタイト、マグネタイトを用意し、実施例1で得られた凝集酸化鉄粒子粉末と同等の比率でゲーサイト、ヘマタイト、マグネタイトを混合した。得られた混合粉末の諸特性を表2に示す。
【0059】
表2に示す結果から明らかなように、本発明の実施例で得られた酸化鉄粒子粉末は、ゲーサイト、ヘマタイト、マグネタイトを含有した凝集構造を有しており、BET比表面積に対する粒子径が大きく、且つかさ密度、および全細孔容積が高い値を有しており、ブレーキパッドに使用した際に気孔率を高めることができ、摩擦材面からガスを逃しやすくすることが推察された。
【0060】
図2は比較例1で得られた混合物の電子顕微鏡写真である。電子顕微鏡写真より明らかなように、混合しただけでは粒子状に凝集した粉末は形成されていない。
【0061】
【0062】