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  • 特許-表面被覆切削工具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240110BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C16/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020021539
(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公開番号】P2021126719
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(72)【発明者】
【氏名】高山 新
(72)【発明者】
【氏名】近藤 翔太
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2013/157472(JP,A1)
【文献】特開平10-015707(JP,A)
【文献】特開2013-244548(JP,A)
【文献】特開2011-218543(JP,A)
【文献】特開2000-355777(JP,A)
【文献】再公表特許第2008/026700(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14,51/00;
B23C 5/16;
B23P 15/28;
C23C 14/00-14/58,16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具基体と該工具基体の表面に第1層とその上部の第2層を含む複数の層を有する表面被覆切削工具であって、
前記工具基体はCoを含むWC超硬合金であり、
前記第1層は、前記工具基体と接するTiN層であり、前記工具基体側にありTiN結晶粒子の平均粒径が30nm以下で、5.0~35.0原子%のCを含む下部層と、前記第2層側にありTiN結晶粒子の平均粒径が50nm以上である上部層を有しており、
前記第2層は硬質被覆層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
【請求項2】
前記下部層は0.07~0.75μmの平均層厚であり、前記上部層は0.03~0.25μmの平均膜厚であって、前記下部層と前記上部層の平均層厚比が(2.3~3.5):1であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
【請求項3】
前記第2層は、Alの酸化物層または窒化物層、あるいは、Tiの窒化物層、炭化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、または、炭窒化酸化物層の少なくとも一つであって、その合計平均層厚が1.0~20.0μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
【請求項4】
前記下部層は、前記TiN結晶粒子の粒界に、Wを3.0~15.0原子%、Coを3.0~15.0原子%含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ステンレス鋼の連続切削加工に用いても、硬質皮膜層(硬質被覆層)が優れた耐剥離性、耐チッピング性を有し、長期の使用にわたって優れた切削性能を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具ということがある)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被覆工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるインサート、被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、またインサートを着脱自在に取り付けてソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うインサート式エンドミルなどがある。
そして、工具基体と硬質皮膜層との界面に注目して、切削性能の改善を目的として種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、工具基体直上に低温蒸着処理をしたTiNまたはTiCNが被覆された第1層と、該第1層上にTiの炭化物、窒化物、炭窒化物、またはAlから構成される第2層とを有し、前記第1層により前記第2層への工具基体に含まれるW、Co等の拡散を抑制した被覆工具が記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、基材と該基材上に形成された被覆膜とを含み、前記被覆膜は、1または2以上の層を含み、前記層のうち前記基材と接する層は、TiN層であり、前記TiN層は、TiNとともにCを含み、前記Cは、前記TiN層の厚み方向に濃度分布を有しており、前記濃度分布は、前記Cの濃度が前記基材側から前記被覆膜の表面側にかけて減少する領域を含み、前記濃度分布において、前記Cの最大濃度と最小濃度の差は、10原子%以上である、被覆工具が記載されている。
【0005】
さらに、例えば、特許文献3には、WC基超硬合金基材の表面に、Co:0.01~1.0質量%およびW:0.01~25質量%を含有し、残部がTiCからなる平均層厚が0.2~3μmの下方下地層と、TiCNまたはTiNからなる平均層厚が0.2~3μmの上方下地層と、TiCからなる平均層厚が1~10μmの内層と、TiC、TiCNO、および、Alのうちの1層または2層以上の複層からなる平均層厚が0.5~10μmの外層で構成された硬質被覆層を2~20μmの平均層厚で被覆した被覆工具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2733809号公報
【文献】特許第6041160号公報
【文献】特開昭61-223180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された被覆工具は、ステンレス鋼の連続切削に用いたとき、第1層の成膜温度が低いため、第1層へのW、Coの拡散量が少なく、被覆層が付着強度不足により剥離してしまう。
また、特許文献2に記載した被覆工具は、TiN層へのW、Coの拡散量は多いものの、ステンレス鋼の連続切削に用いたときには、耐摩耗性が十分でなく、特許文献3に記載された被覆工具では、ステンレス鋼の連続切削に用いたとき、下方下地層として用いられるTiCN層は靭性が不足して硬質皮膜(硬質被覆層)の剥離が起こってしまうことがある。
【0008】
そこで、本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであって、ステンレス鋼の連続切削加工に供しても、優れた耐剥離性、耐チッピング性を示し、長期の使用にわたって優れた切削性能を発揮する切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく、ステンレス鋼の連続切削における硬質皮膜(硬質被覆層)の剥離やチッピングの発生について鋭意検討したところ、次のような知見を得た。
【0010】
(1)工具基体表面の炭素含有量を高めることにより、工具基体上の下部層としてのTiN層へCが拡散してTiN粒子が微細となり、該層中へ工具基体中のW、Coが拡散しやすくなって工具基体とTiN層との密着性が向上すること。
【0011】
(2)下部層のTiN層上にN:40.0~50.0容量%の反応ガス組成範囲で、上部層としてのTiN層を成膜すると、この上部層のTiN層は、N分圧が高いため粒成長が進んで、緻密な層となり、W、Coの拡散が抑制された層になっていること。
【0012】
本発明は、この知見に基づくものであって、次のとおりのものである。
「(1)工具基体と該工具基体の表面に第1層とその上部の第2層を含む複数の層を有する表面被覆切削工具であって、
前記工具基体はCoを含むWC超硬合金であり、
前記第1層は、前記工具基体と接するTiN層であり、前記工具基体側にありTiN結晶粒子の平均粒径が30nm以下で、5.0~35.0原子%のCを含む下部層と、前記第2層側にありTiN結晶粒子の平均粒径が50nm以上である上部層を有しており、
前記第2層は硬質被覆層である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記下部層は0.07~0.75μmの平均層厚であり、前記上部層は0.03~0.25μmの平均膜厚であって、前記下部層と前記上部層の平均層厚比が(2.3~3.5):1であることを特徴とする前記(1)の表面被覆切削工具。
(3)前記第2層は、Alの酸化物層または窒化物層、あるいは、Tiの窒化物層、炭化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、または、炭窒化酸化物層の少なくとも一つであって、その合計平均層厚が1.0~20.0μmであることを特徴とする前記(1)または(2)の表面被覆切削工具。
(4)前記下部層は、前記TiN結晶粒子の粒界に、Wを3.0~15.0原子%、Coを3.0~15.0原子%含むことを特徴とする前記(1)ないし(3)のいずれかの表面被覆切削工具。」
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面被覆切削工具は、ステンレス鋼の連続切削加工においても、優れた耐剥離性、および、耐チッピング性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の表面被覆切削工具における硬質皮膜層の縦断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の被覆工具について、より詳細に説明する。なお、本明細書、特許請求の範囲の記載において、数値範囲を「A~B」(A、Bは共に数値)を用いて表現する場合、その範囲は上限(B)および下限(A)の数値を含むものである。また、上限(B)および下限(A)は同じ単位である。
【0016】
本明細書において、Tiの窒化物(TiN)、炭化物、窒化物、炭酸化物、炭窒酸化物、および、炭窒化物、ならびに、Alの酸化物、および窒化物の組成は、必ずしも化学量論的範囲のものに限定されない。
【0017】
硬質皮膜の構造と組成:
硬質皮膜は、図1に模式的に示すように、工具基体から工具表面に向かって、第1層、第2層の少なくとも2層を有しており、第1層は上部層と下部層を有している。ただし、上部層と下部層の境界の図示は省略している。
以下、各層について説明する。
【0018】
1.第1層
第1層は、工具基体に接するTiN層であって、下部層と上部層を有している。第1層の平均層厚は0.10~1.00μmがより好ましい。その理由は、この範囲にあるとより一層確実にステンレス鋼の連続切削加工において、優れた耐剥離性と耐チッピング性を発揮することができるためである。
【0019】
(1)下部層
下部層は、第1層の工具基体側にあるTiN層であり、Cを5.0~35.0原子%含有し、TiN結晶粒子の平均粒径が30nm以下の層である。
Cを5.0~35.0原子%含有しているため、TiN結晶粒子の平均粒径が30nm以下の微粒となり、工具基体に由来するW、Coが拡散する経路が多くなって、TiN結晶粒子の粒界はW、Coに富み、下部層は工具基体に強固に密着する。
ここで、Cの含有範囲を前記範囲とする理由は、5.0原子%未満であるとTiN結晶粒の平均粒径を十分に小さくすることができず、一方、35.0原子%を超えるとCが過剰になって、TiN層の靱性が損なわれるためである。
【0020】
また、TiN結晶粒子の粒界に含まれるW、Coは、共に、3.0~15.0原子%であることがより好ましい。その理由は、この範囲にあると工具基体と第1層がより強固に密着するためである。
ここで、TiN粒子の粒界および粒内におけるCの含有量、および粒界のCo、Wの含有量は、粒界を、硬質被覆層の縦断面(工具基体に垂直な断面)を電界放出型電子顕微鏡で観察し、EsB検出器を用いた組成像により判断した後、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて観察し、エネルギー分散型X線分光法により測定する。
【0021】
さらに、TiN結晶粒子の平均粒径は30nm以下であるが、その下限は特に制約がない。ただし、後述する製造方法の一例では1.0nm程度が下限となる。
【0022】
くわえて、下部層の平均層厚は0.07~0.75μmであることがより好ましい。この範囲にあると、界面の密着力と膜の耐摩耗性をより確実に両立することができる。
【0023】
ここで、平均層厚は、例えば、集束イオンビーム装置(FIB:Focused Ion Beam system)、クロスセクションポリッシャー装置(CP:Cross section Polisher)等を用いて、硬質皮膜を任意の位置の縦断面(工具基体表面に垂直な面)で切断して観察用の試料を作製し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により複数箇所(例:5箇所)を観察して、単純平均することにより得ることができる。
そして、他の層の平均層厚も同様にして求めることができる。
【0024】
(2)上部層
上部層は第1層の第2層側にあるTiN層であり、TiNの平均粒径が50nm以上の層である。平均粒径を50nm以上とすることにより、W、Coが拡散する経路が少なくなり、第2層へのW、Coの拡散を防止することができ、上部層は拡散防止層の役割を果たすことできる。この役割をより確実に果たすためには、上部層のTiN結晶の粒界におけるW、Coの含有割合(測定方法は前述したとおり)は、それぞれ、1原子%以下となるようにすることよりが好ましい。
【0025】
TiNの平均粒径の上限は特に制約がないが、100nm以下であることがより好ましい。その理由は、100nm以下であると、耐摩耗性がより一層向上するからである。
【0026】
また、上部層の平均層厚は0.03~0.25μmであることがより好ましい。この範囲にあると、Wの拡散を抑制し、耐摩耗性が向上する。
さらに、下部層と上部層の平均層厚比が(2.3~3.5):1であれば、より確実に、優れた耐摩耗性、耐剥離性、および、耐チッピング性を発揮する。
【0027】
上部層と下部層は平均粒径によって識別することができる。上部層は平均粒径が50nm以上の層であり、下部層は平均粒径が30nm以下の層である。また上部層と下部層の境界は平均粒径30nm超え、50nm未満の箇所とする。また、前記境界は厚み0.1~10nmであることが好ましい。
【0028】
なお、平均粒径は以下のようにして求めたものである。
まず、前述したように、工具基体に垂直な断面(縦断面)の電界放出型電子顕微鏡で観察を行い、EsB検出器を用いた組成像によりTiN結晶粒の粒界を判別する。次に、工具基体表面から層厚方向に工具表面に向かって3nm間隔で、工具基体に平行な直線を何本も引く。各直線の長さ(Li)は、それぞれ、TiN結晶粒子の粒界を67個以上貫通する長さとし、Liを貫通する67個以上のTiN結晶粒子の粒界数で除したものを平均粒径とする。
すなわち、各直線における平均粒径Di=Li/(TiN結晶粒子の粒界数)である。
【0029】
ここで、各直線の長さを、TiN結晶粒子を67個以上貫通する長さとした理由は、67個以上であれば、平均粒径の値が収束することが実験事実から判明しているためである。上述の方法に従って、工具基体から3nmの間隔で平均粒径を求め、30nm以下の領域(工具基体から最遠の30nm以下の平均粒径を与える前記直線までの領域)を下部層、50nm以上の領域(工具基体から最近の50nm以上の平均粒径を与える前記直線から第1層の工具表面側までの領域)を上部層と定義する。そして、下部層、上部層のぞれぞれの平均粒径は、各直線が与える平均粒径Diの平均値であり、平均層厚は前記各領域の層厚方向の距離を観察視野内の5点で測定して求めたものとする。
【0030】
2.第2層
第2層は、表面被覆切削工具に耐溶着性、耐チッピング性を与えるために設けるものであって、公知の表面被覆工具に硬質被覆層として用いられるものであればよい。その中で、特に、Alの酸化物層または窒化物層、あるいは、Tiの窒化物層、炭化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、または、炭窒化酸化物層の少なくとも一つが好ましく、その合計平均層厚が1.0~20.0μmであることが好ましい。
ここで、合計平均層厚を1.0~20.0μmとする理由は、1.0μm未満では、第2層を設ける目的が十分に達成できず、20.0μmを超えると結晶粒が粗大化しやすくなり、耐チッピング性が低下するためである。
【0031】
3.工具基体
工具基体は、Coを含むWC超硬合金であれば、本発明の目的を達成することを阻害するものでない限り、いずれのものも使用できる。
【0032】
4.製造方法
本発明の被覆工具の第1層および第2層は、例えば、以下のようにして成膜することができる。
【0033】
第1層成膜工程
(1)成膜前の工程
反応ガス組成(容量%):N:40.0~60.0%、H:残
反応雰囲気温度:900~1100℃
反応雰囲気圧力:5.0~20.0kPa
反応時間:120分~180分
(2)下部層の成膜工程
反応ガス組成(容量%):TiCl:3.5~5.0%、N:15.0~35.0%、
:残
反応雰囲気温度:900~1100℃
反応雰囲気圧力:5.0~20.0kPa
(3)上部層の成膜工程
反応ガス組成(容量%):TiCl:3.5~5.0%、N:40.0~50.0%、
Ar:残
反応雰囲気温度:900~1100℃
反応雰囲気圧力:5.0~20.0kPa
【0034】
2.第2層の成膜工程
第2層の成膜工程は、表面被覆工具硬質被覆層として用いられる公知のものでよい。例えば、第2層として好ましいAlの酸化物層または窒化物層、あるいは、Tiの窒化物層、炭化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、または、炭窒化酸化物層の少なくとも一つを成膜するための公知の方法を適宜採用すればよい。
【実施例
【0035】
次に、実施例について説明する。
ここでは、本発明の被覆工具の具体例として、工具基体としてWC基超硬合金を用いたインサート切削工具に適用したものについて述べるが、工具基体は前述のとおりWCに限定されることはなく、また、工具としてドリル、エンドミル等に適用した場合も同様である。
【0036】
まず、原料粉末として、Co粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末、TiN粉末、および、WC粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてボールミルで72時間湿式混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形し、これらの圧粉成形体を焼結し、所定寸法となるように加工して、ISO規格CNMG120412のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A~Cを作製した。
【0037】
つぎに、この工具基体A~C上に、第1層、第2層を、それぞれ、表2、3に示す条件により成膜し、表4に示す本発明被覆工具1~9を得た。これら各層の成膜条件は、概ね次のとおりである。
【0038】
第1層成膜工程
(1)成膜前の工程
反応ガス組成(容量%):N:40.0~60.0%、H:残
反応雰囲気温度:900~1100℃
反応雰囲気圧力:5.0~20.0kPa
反応時間:120分~180分
(2)下部層の成膜工程
反応ガス組成(容量%):TiCl:3.5~5.0%、N:15.0~35.0%、
:残
反応雰囲気温度:900~1100℃
反応雰囲気圧力:5.0~20.0kPa
(3)上部層の成膜工程
反応ガス組成(容量%):TiCl:3.5~5.0%、N:40.0~50.0%、
Ar:残
反応雰囲気温度:900~1100℃
反応雰囲気圧力:5.0~20.0kPa
【0039】
2.第2層成膜工程
第2層の成膜工程(条件)は、表2に示したとおりである。
【0040】
また、比較の目的で、工具基体A~Cの表面に、表2、3に示される成膜条件により、表4に示された比較被覆工具1~9を製造した。
【0041】
また、本発明被覆工具1~9、比較被覆工具1~9の被覆層の縦断面を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)用いて観察し、観察視野内の5点で各層の層厚を測定して、各層の平均層厚とし、また、第1層の下部層および上部層の平均層厚と平均結晶粒径を求めた。結果を表4に示す。本発明被覆工具1~9は、上部層と下部層の境界がいずれも0.1~10nmであった。また、比較被覆工具は、いずれも、第1層の下部層および/または上部層を有しないものであった。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
続いて、本発明被覆工具1~9、比較被覆工具1~9について、以下の切削試験1~3を行った。結果を表5~7に示す。
【0047】
切削試験1(湿式切削)
被削材:SUS304鋼の丸棒(φ 100mm)
切削速度:200m/分
切込み:1.5mm
1回転当たりの送り:0.3mm
切削時間:15分
【0048】
切削試験2(湿式切削)
被削材:SUS316鋼の丸棒(φ 100mm)
切削速度:150m/分
切込み:2.0mm
1回転当たりの送り:0.2mm
切削時間:15分
【0049】
切削試験3(湿式切削)
被削材:SUS630鋼の六角材(φ 80mm)
切削速度:100m/分
切込み:2.0mm
1回転当たりの送り:0.15mm
切削時間:15分
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
【表7】
【0053】

表4~6の切削試験の結果から明らかなように、本発明被覆工具は、いずれの切削試験においても、高熱発生を伴うとともに、切刃部に対して大きな負荷がかかるステンレス鋼の連続切削に対して優れた耐剥離性、耐チッピング性を発揮している。これに対して、第1層に下部層、上部層の少なくともいずれかを有していない比較被覆工具は、短時間で寿命にいったっている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の表面被覆切削工具は、各種の鋼などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高熱発生を伴うとともに、切刃部に対して大きな負荷がかかるステンレス鋼の連続切削加工においても、優れた耐溶着性、および、耐チッピング性を発揮し、長期にわたって優れた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
図1