(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】エダラボンの経口又は胃内投与を含む処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4152 20060101AFI20240110BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240110BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240110BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240110BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240110BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240110BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A61K31/4152
A61K9/08
A61K47/04
A61K47/18
A61P25/00
A61P37/06
A61P9/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022111202
(22)【出願日】2022-07-11
(62)【分割の表示】P 2019559390の分割
【原出願日】2018-01-17
【審査請求日】2022-07-15
(32)【優先日】2017-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/067005
(32)【優先日】2017-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519255816
【氏名又は名称】ツリーウェイ ティーダブリュー001 ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Treeway TW001 B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】モーレナー, シツケ ハイク
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル ヘースト, ロナルド
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7107624(JP,B2)
【文献】国際公開第2005/075434(WO,A1)
【文献】特開2004-091441(JP,A)
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2016年,Vol.515,pp.490-500
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 9/00
A61K 47/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療処置において使用するための液体状医薬組成物であって、前記液体状医薬組成物が非複合体3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(エダラボン)の一相性水溶液であり、少なくとも75重量%の水と0.2~9mg/mLのエダラボンを含み、処置が30~300mgのエダラボンをもたらすための10~250mLの液体状医薬組成物の経口又は胃内投与を含む、液体状医薬組成物。
【請求項2】
50~200mgのエダラボンをもたらす量で投与される、請求項1に記載の液体状医薬組成物。
【請求項3】
1日あたり300mgを超えないエダラボンをもたらす量で投与される、請求項1又は2に記載の液体状医薬組成物。
【請求項4】
1日あたり体重1kgあたりで0.4~4mgのエダラボンをもたらす量で投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【請求項5】
0.3~1mg/mLのエダラボンを含有する希釈エダラボン溶液であり、前記希釈エダラボン溶液が40~250mLの量で投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【請求項6】
1~9mg/mLのエダラボンを含有する濃縮エダラボン溶液であり、前記濃縮エダラボン溶液が20~150mLの量で投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【請求項7】
少なくとも85重量%の水を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【請求項8】
1:2~2:1のモル比で重亜硫酸アルカリ金属塩とエダラボンを含有し、前記重亜硫酸アルカリ金属塩が重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、及びこれらの組合せから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【請求項9】
1:5~1:1の重量比でL-システインとエダラボンを含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【請求項10】
非イオン性界面活性剤を含有しない、請求項1~9のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物であって、
前記処置が、エダラボンを含む乾燥粒子状エダラボン製剤と水溶液の混合によって液体状医薬組成物を調製することを含む、液体状医薬組成物。
【請求項12】
乾燥粒子状エダラボン製剤がアルカリ化剤を含む、請求項11に記載の液体状医薬組成物。
【請求項13】
アルカリ化剤が、アルカリ金属の酸化物及び水酸化物、アルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、Al(OH)
3、Fe
2O
3、弱有機酸及び弱無機酸の塩、アルカリ性アミン、アルカリ性アミノ酸、並びにこれらの組合せから選択される、請求項12に記載の液体状医薬組成物。
【請求項14】
6.0~9.0の範囲内のpHを有する、請求項11~13のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【請求項15】
脳アミロイドアンギオパチー(CAA)、自己免疫疾患、
又は心筋梗
塞を処置するために使用される、請求項1~14のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【請求項16】
処置が少なくとも2週間の期間中少なくとも1日1回の液体状医薬組成物の経口又は胃内投与を含む、請求項1~
15のいずれか一項に記載の液体状医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療処置における3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(エダラボン)の使用に関するものであり、前記処置は、水とエダラボンを含む液体状医薬組成物の経口又は胃内投与を含む。
【背景技術】
【0002】
ALSは神経変性障害であり、ALSは脳内に位置する上位運動ニューロンと、脊髄及び脳幹内に位置する下位運動ニューロンの両方に影響を与える。上位運動ニューロン変性は筋肉痙縮を一般に引き起こし、一方下位運動ニューロン変性は筋肉衰弱、筋萎縮及び単収縮を引き起こす。
【0003】
ALSの初期症状には、典型的には手、腕、脚部又は足における筋肉衰弱があり、これらの身体部分において衰弱又は痙縮を引き起こす。この疾患は、発話又は咀嚼を制御する筋肉においても出現する可能性があり、その結果、咀嚼、発話、嚥下及び呼吸困難の原因となり得る。この疾患は進行すると、身体の他の部分に蔓延し進行性の筋肉衰弱及び麻痺をもたらす。ALS患者は全ての随意運動を開始し制御する能力を最終的に失い、神経筋疾患による呼吸不全によって呼吸が次第に困難になる。この疾患の初期症状と発症は各個人で異なる。
【0004】
感覚神経及び自律神経系は影響を受けずに存続し、聴覚、視覚、触角、嗅覚、及び味覚、並びに心拍、胃腸管、腸及び膀胱機能を制御する筋肉などの不随意筋は無傷で保たれる。認知機能も一般に無傷で保たれる。
【0005】
ALSを発症する大部分の人々は40才と70才の間の年齢であるが、この疾患はさらに若い年齢で現れる可能性もある。年齢と共に罹患率が増大することが分かっている。ALSは稀な疾患として分類されるが、ALSは最も一般的な運動ニューロン疾患である。100,000人の人々のうち約1人又は2人が毎年ALSを発症し、一方ALSの罹患率は100,000人の集団あたり約2症例であると推測され、集団の高齢化により数は増大する。
【0006】
最近まで、リルゾールはALSに関して承認済みの唯一の薬物であった。その効果は、グルタミン酸、ALSを有する人々において高レベルで存在することが分かっている神経伝達物質のシグナル伝達を低減するその能力にあると考えられる。この薬物は、ALSの症状及びこの疾患の進行に対して、限られた有益な影響を有することが分かっている。それは生存率を改善し得るが、ごくわずかな程度である。
【0007】
2017年5月に、米国食品医薬品局は、ルーゲーリッグ病と一般に呼ばれる、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する患者を処置するためのRadicava(商標)(エダラボン)を承認した。Radicava(商標)は、医療従事者によって与えられる静脈内注入剤である。Radicava(商標)は14日間の1日1回投与、次いで14日間の無薬物期間の初期処置サイクルで投与される。その後の処置サイクルは、14日間のうち10日投与、次いで14日間の無薬物期間からなる。ALSの処置に関するエダラボンの有効性は、日本で実施された6ヶ月の臨床試験において実証された。その臨床試験では、137人の関係者を無作為に分けてエダラボン又はプラシーボを与えた。第24週で、プラシーボを与えた個体と比較して、エダラボンを与えた個体は臨床アセスメントにおいて日常生活機能があまり低下しなかった。
【0008】
エダラボンは、急性脳虚血及び後続の脳梗塞後の神経回復を助長するために使用される、向知性の神経保護剤である。エダラボンは強力な抗酸化剤として作用し、フリーラジカルを強く除去し、酸化ストレス及び神経アポトーシスに対して保護する。
【0009】
ALS患者に処方される他の薬剤は、生活の質の改善、並びに筋肉痙攣及び痙直、便秘、疲労、過剰な唾液及び粘液分泌、疼痛、うつ病、及び睡眠障害などのALS症状の軽減を目的とする。
【0010】
欧州特許出願公開第1405637号は、ALSを含めた運動ニューロン疾患の処置におけるエダラボンの使用を記載する。
【0011】
欧州特許出願公開第1714960号は、処置期間中に1回又は複数回の無薬物期間を含むALSの処置におけるエダラボンの使用に関する。
【0012】
欧州特許出願公開第2754440号は、14日間の投与期間と14日間の無薬物期間の反復によって、又は初期14日間の投与期間と初期14日間の無薬物期間の設定、及び次いで14日間のうち10日間の投与期間と14日間の無薬物期間の反復によって作用物質を投与する、特定患者集団においてALSを処置するためのエダラボンの使用を記載する。
【0013】
国際公開第2012/019381号は、エダラボン対シクロデキストリン1:6~100の重量比でエダラボンとシクロデキストリンを含有する経口医薬組成物を記載する。その調製法は以下のステップを含む:
β-シクロデキストリン又はβ-シクロデキストリンを含有するシクロデキストリンの混合物と1~5倍重量の水を混合するステップ、
エダラボン又は有機溶媒に溶かしたその溶液をシクロデキストリン溶液に加えるステップ、
粉砕又は攪拌するステップ、及び
60℃より高くない温度で水を蒸発させ、減圧により乾燥させるステップ。
【0014】
エダラボンの経口バイオアベイラビリティーが低いことは従来技術において充分理解されており、改良型経口バイオアベイラビリティーを得たエダラボンの経口製剤を提供するための研究が実施されている。
【0015】
Rong等(Hydroxypropyl-Sulfobutyl-β-Cyclodextrin Improves the Oral Bioavailability of Edaravone by Modulating Drug Efflux Pump of Enterocytes、Journal of Pharmaceutical Sciences(2013年)、DOI10.1002/jps.23807、1~13頁)は、エダラボンのバイオアベイラビリティー及び腸管吸収に対するヒドロキシプロピル-スルホブチル-β-シクロデキストリンの影響を研究した試験を記載する。エダラボン-シクロデキストリンの包接錯体はエダラボンの水溶性を改善し、ラットにおけるエダラボンのバイオアベイラビリティーを高めたことが分かった。この論文の表2は、(0.5%CMC-Naで懸濁し)経口投与した「未処理」エダラボンの絶対バイオアベイラビリティー(Fabs)は、(静脈内投与したエダラボンの100%バイオアベイラビリティーと比較して)わずか5.23%であったことを示す。表2は、エダラボンの経口バイオアベイラビリティーは、エダラボンとシクロデキストリンの複合体形成により10倍を超えて改善され得ることをさらに示す。
【0016】
Parikh等(Development of a novel oral delivery system of edaravone for enhancing bioavailability、International Journal of Pharmaceutics515(2016年)490~500頁)は、エダラボンの経口送達システムの開発を論じている。筆者等は、溶解度及び安定性試験に基づいて最適化された、ラブラゾールと酸性水系の混合物で構成されるエダラボンの新規な経口送達システム(NODS)を記載する。このNODS送達システムは30mg/mLのエダラボンを含有していた。NODS送達システムのin vivo経口バイオアベイラビリティーは、当量の30mg/kgエダラボンを使用して成体ラットにおいて調べた。NODS送達システムの経口バイオアベイラビリティーは、30mg/mLのエダラボンと0.5%のカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有するエダラボン懸濁液のそれより5.7倍高かったことが分かった(表2参照)。
【0017】
Parikh等(Lipid-based nanosystem of edaravone:development、optimization、characterization and in vitro/in vivo evaluation、Drug Delivery24(1);(2017年)、962~978頁)は、脂質ベースナノシステム(LNS)を開発することにより、エダラボンの経口使用を可能にすることを目的とした試験を記載する。油、界面活性剤及び補助界面活性剤を含めたLNSの成分は、胃腸(GI)液中での溶解度を最大にし、そのグルクロン酸抱合を低減し、膜貫通浸透性を改善する、それらの能力に基づいて選択された。Capryol(商標)PGMC(油)、Cremophor(登録商標)RH40:ラブラゾール(登録商標):TPGS1000(1:0.8:0.2)(界面活性剤)及びトランスクトール(登録商標)P(補助界面活性剤)を含むマイクロ-エマルジョン型の液体LNS(L-LNS)を調製した。このマイクロ-エマルジョンは以下の特性、滴径(16.25nm)、分子量分散度(0.039)、透過率(99.85%)、及び自己乳化時間(32秒)を有していた。L-LNSの経口バイオアベイラビリティーは、30mg/mLのエダラボンと0.5%のカルボキシメチルセルロースナトリウムを含有するエダラボン懸濁液のそれより約11倍高かったことが分かった(表3参照)。
【0018】
国際公開第2012/019381号は、エダラボン対シクロデキストリン1:6~100の重量比でエダラボンとシクロデキストリンを含有する経口医薬組成物を記載する。その調製法は以下のステップを含む:
β-シクロデキストリン又はβ-シクロデキストリンを含有するシクロデキストリンの混合物と1~5倍重量の水を混合するステップ、
エダラボン又は有機溶媒に溶かしたその溶液をシクロデキストリン溶液に加えるステップ、
粉砕又は攪拌するステップ、及び
60℃より高くない温度で水を蒸発させ、減圧により乾燥させるステップ。
【0019】
CN101953832は、エダラボンと組合せてシクロデキストリンを含む経口医薬組成物を記載する。この中国特許出願の実施例は、シクロデキストリン-エダラボン複合体を含有する錠剤、カプセル剤及び顆粒剤を記載する。
【0020】
CN105816423は、エダラボンを含む様々な脂質ベースの薬物送達システムを記載する。この中国特許出願の実施例は、自己マイクロ乳化薬物送達システム(SMEDDS)を使用した、ラットへのエダラボンの経口投与(30mg/kg)を記載する。
【0021】
米国食品医薬品局は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する患者を処置するための静脈内注入エダラボン(Radicava(商標))を承認した。Radicava(商標)は、医療従事者により投与されるべきである。Radicava(商標)は14日間の1日1回投与、次いで14日間の無薬物期間の初期処置サイクルで投与される。その後の処置サイクルは、14日間のうち10日投与、次いで14日間の無薬物期間からなる。
【0022】
静脈内投与はあまり魅力的な投与経路ではない。それは医療実践者の存在を必要とし、したがって自己投与することができないからである。さらに、多くの患者は注射により薬物を施されるのを好まない。
【発明の概要】
【0023】
送達システムの様々な方法の中で、経口送達は依然として、活性医薬成分の最も魅力的で許容される投与経路である。高レベルの患者容認及び長期コンプライアンスをもたらし、したがって薬物の療法価値が増大するその利便性のため、経口経路が好ましい。大抵の場合、それは患者が医療実践者の手助けなしで薬物を自己投与するのを可能にする。
【0024】
したがって、経口経路によって投与することができるエダラボン剤形を提供することが望ましい。錠剤及びカプセル剤などの従来の経口剤形は、しかしながら、嚥下困難がある患者に問題を提起する。これは神経変性疾患に罹患した患者、例えばALS患者にはよくあることである。
【0025】
本発明者等は、エダラボンの水溶液が、これまで想定されていたものより、はるかに高い経口バイオアベイラビリティーを有することを予想外に発見した。Rong等による前述の論文が、経口投与した「未処理」エダラボンのわずか5.23%という絶対バイオアベイラビリティーを報告した一方で、本発明のエダラボン水溶液をヒト対象に経口投与すると、本発明者等は約80%という絶対バイオアベイラビリティーを観察した。実際、0.2~9mg/mLのエダラボンを含有する水溶液の経口バイオアベイラビリティーは非常に高く、30mg~300mgエダラボンを与える1日用量でこの水溶液を経口投与すると、有意義な医学的効果が得られる。
【0026】
本発明のエダラボン水溶液が、複合体型のエダラボンを使用せず、ミセル又は分散液相(ナノ-又はマイクロ-エマルジョン)の取り込みによりエダラボンの溶解度を高めずに、高い経口バイオアベイラビリティーを得ることは驚きである。
【0027】
したがって本発明は、医療処置におけるエダラボン水溶液の使用に関するものであり、前記処置は30~300mgのエダラボンをもたらすための10~250mLの非複合体エダラボンの一相性水溶液の経口又は胃内投与を含み、前記一相性水溶液は少なくとも75重量%の水と0.2~9mg/mLのエダラボンを含む。Radicava(商標)は、これらの経口又は胃内処置において希釈型又は非希釈型で使用することができるエダラボン水溶液の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
したがって本発明は、医療処置において使用するための液体状医薬組成物であって、前記液体状医薬組成物が非複合体3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オン(エダラボン)の一相性水溶液であり、少なくとも75重量%の水と0.2~9mg/mLのエダラボンを含み、処置が30~300mgのエダラボンをもたらすための10~250mLの液体状医薬組成物の経口又は胃内投与を含む、液体状医薬組成物に関する。
【0029】
本明細書で使用する用語「エダラボン」は、化学物質3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンを指す。
【0030】
本明細書で使用する用語「エダラボンの水溶液」は、エダラボンが水中に完全に溶解した均質な混合物を指す。
【0031】
前述の水溶液に関して本明細書で使用する用語「一相性」は、2種以上の異なる相は含有しない液体組成物を指す。したがって、本発明の液体状医薬組成物はエマルジョン(例えばマイクロ-エマルジョン、ナノ-エマルジョン又はミセル懸濁液/溶液)ではない。
【0032】
本明細書で使用する用語「非複合体エダラボン」は、β-シクロデキストリンなどの錯化剤との複合体の型で、液体状医薬組成物中にエダラボンが存在しないことを意味する。
【0033】
本明細書で使用する用語「処置」は、治療処置と緩和処置の両方を包含する。
【0034】
用語「胃内投与」は、鼻腔通路を介したチューブ(NGチューブ)又は腹部内チューブ(PEGチューブ)による胃への投与を指す。
【0035】
本発明の液体状医薬組成物は、好ましくは哺乳動物への処置、より好ましくはヒトへの処置に使用する。
【0036】
本発明による処置は、好ましくは少なくとも2週間の期間中に、より好ましくは少なくとも4週間の期間中に少なくとも1日1回、液体状医薬組成物を患者に経口又は胃内投与するステップを含む。
【0037】
液体状医薬組成物は、好ましくは50~200mgのエダラボンをもたらす量、より好ましくは80~160mgのエダラボンをもたらす量で経口又は胃内投与する。
【0038】
本発明は、1日あたり2種以上の用量の液体状医薬組成物を投与する処置も包含する。経口又は胃内投与するエダラボンの合計量は1日あたり300mgエダラボンを超えないことが好ましく、それは1日あたり200mgエダラボンを超えないことがより好ましく、それは1日あたり160mgエダラボンを超えないことが最も好ましい。
【0039】
幾つかの場合、患者の体重に対してエダラボン用量を調節することが賢明であり得る。典型的には、本発明の液体状医薬組成物は、1日あたり体重1kgあたりで0.4~4mgのエダラボンをもたらす量、より好ましくは1日あたり体重1kgあたりで0.8~3.7mgのエダラボンをもたらす量、最も好ましくは1日あたり体重1kgあたりで1~3.5mgのエダラボンをもたらす量投与する。
【0040】
本発明の好ましい一実施形態によれば、液体状医薬組成物を40~250mLの量、より好ましくは80~200mLの量、最も好ましくは100~150mLの量、希釈エダラボン溶液として投与する。典型的には、この希釈エダラボン溶液は、0.3~1mg/mLのエダラボン、より好ましくは0.4~0.8mg/mLのエダラボンを含有する。水溶液での濃縮エダラボン溶液の希釈によって、又は乾燥エダラボン製剤と水溶液の混合によって、経口又は胃内投与の直前に希釈エダラボン溶液を適切に調製することができる。
【0041】
別の好ましい実施形態では、液体状医薬組成物を20~150mLの量、より好ましくは30~100mLの量、濃縮エダラボン溶液の型で投与する。濃縮エダラボン溶液は、典型的には1~9mg/mLのエダラボン、より好ましくは1.1~7mg/mLのエダラボン、さらにより好ましくは1.15~4mg/mLのエダラボン、最も好ましくは1.2~2mg/mLのエダラボンを含有する。
【0042】
本発明の処置のさらに別の好ましい実施形態では、液体状医薬組成物の経口又は胃内投与の前に患者を少なくとも1時間断食させた。
【0043】
液体状医薬組成物の水分量は少なくとも85重量%であることが好ましい。
【0044】
エダラボンと水以外に、液体状医薬組成物は1つ又は複数のさらなる成分を含有することが好ましい。このような追加成分の例には、抗酸化剤、pHレギュレーター、防腐剤及び塩化ナトリウムがある。
【0045】
本発明の一実施形態によれば、調製済み(ready to use)液体状組成物として液体状医薬組成物が製造されている。好ましい一実施形態によれば、この調製済み液体状医薬組成物は1:2~2:1のモル比、より好ましくは2:3~3:2のモル比で重亜硫酸アルカリ金属塩とエダラボンを含有し、前記重亜硫酸アルカリ金属塩は重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、及びこれらの組合せから選択される。液体状医薬組成物において利用される重亜硫酸アルカリ金属塩は、重亜硫酸ナトリウムであることが最も好ましい。
【0046】
さらなる好ましい実施形態によれば、調製済み液体状組成物は1:5~1:1の重量比、より好ましくは1:4~1:2の重量比でL-システインとエダラボンを含有する。
【0047】
調製済み液体状組成物のpHは、典型的には3.0~9.0の範囲内、より好ましくは3.0~6.0の範囲内にある。調製済み液体状組成物が本明細書で前に記載した濃縮溶液である場合、pHは3.0~4.5の範囲内にあることが好ましい。調製済み液体状組成物が本明細書で前に記載した希釈溶液である場合、組成物のpHは3.5~6.0の範囲内にあることが好ましい。
【0048】
濃縮溶液の型である調製済み液体状組成物は、250~320mOsm/Lの範囲内の容量オスモル濃度を有することが好ましい。
【0049】
別の好ましい実施形態では、調製済み液体状組成物は非イオン性界面活性剤を含まない。調製済み液体状組成物は、界面活性剤を含有しないことがさらにより好ましい。
【0050】
調製済み液体状組成物は滅菌溶液であることが好ましい。
【0051】
本発明の別の実施形態では、エダラボンを含む乾燥粒子状エダラボン製剤と水溶液の混合によって経口又は胃内投与の前に、液体状医薬組成物を新たに調製する。
【0052】
本発明者等は、エダラボンが水中で溶解する割合は、アルカリ化剤の存在下で相当に増大することを予想外に発見した。したがって、エダラボン及びアルカリ化剤を含有する乾燥粒子状医薬組成物と水溶液の混合によって、経口又は胃内投与の前に液体状医薬組成物を調製することが好ましい。
【0053】
新たに調製される液体状組成物は、好ましくは0.3~9mg/mL、より好ましくは0.5~4mg/mL、及び最も好ましくは0.8~2mg/mLの水溶性アルカリ化剤を含有する。水溶性アルカリ化剤は、アルカリ金属の酸化物及び水酸化物、アルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、Al(OH)3、Fe2O3、弱有機酸及び弱無機酸の塩、アルカリ性アミン、アルカリ性アミノ酸、並びにこれらの組合せから選択されることが好ましい。
【0054】
アルカリ金属の酸化物及び水酸化物は、NaOH、KOH、LiOH、及びこれらの組合せから選択されることが好ましい。アルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物は、Ca(OH)2、CaO、Mg(OH)2MgO、及びこれらの組合せから選択されることが好ましい。弱有機酸及び弱無機酸の塩は、炭酸塩、重炭酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩(例えば乳酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、蟻酸塩及びシュウ酸塩)、リン酸塩、硫酸塩、及びこれらの組合せから選択されることが好ましい。アルカリ性アミンは、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチル-グルカミン、グルコサミン、エチレンジアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、アンモニア、及びこれらの組合せから選択されることが好ましい。アルカリ性アミノ酸は、アルギニン、ヒスチジン、リシン、及びこれらの組合せから選択されることが好ましい。本発明は、薬学的に許容される塩及び水和物の型である前述の水溶性アルカリ化剤の使用を包含する。
【0055】
特に好ましい実施形態によれば、水溶性アルカリ化剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ホスフェート(例えばNa3PO4)、及びこれらの組合せから選択される。
【0056】
新たに調製される液体状組成物は、好ましくは少なくとも6.0、より好ましくは少なくとも6.5、より好ましくは少なくとも6.8のpHを有する。新たに調製される液体状組成物のpHは典型的には9.0を超えず、より好ましくは8.8を超えず、及び最も好ましくは8.5を超えない。
【0057】
別の好ましい実施形態によれば、新たに調製される液体状組成物は、5~40mg/mL、より好ましくは6~25mg/mLのマンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、及びこれらの組合せから選択されるポリオールを含有する。
【0058】
新たに調製される液体状組成物は、好ましくは0.03~30mg/mL、より好ましくは0.05~20mg/mLの界面活性剤を含有する。
【0059】
特に好ましい実施形態によれば、新たに調製される液体状組成物は、少なくとも0.03mg/mL、より好ましくは少なくとも0.05mg/mLの非イオン性界面活性剤を含有する。非イオン性界面活性剤は、ポロキサマー、ポリソルベート及びこれらの組合せから選択されることが好ましい。ポロキサマーは、ポリオキシエチレンの2本の親水性鎖と隣接するポリオキシプロピレンの1本の中央疎水性鎖で構成される非イオン性トリブロックコポリマーである。
【0060】
好ましい一実施形態によれば、液体状医薬組成物は、3重量%未満、好ましくは1重量%未満のポリエチレングリコール(例えばPEG200-10,000)、プロピレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(例えばTranscutol HP、Transcuto lP)、ポリオキシルヒマシ油(例えばCremophor RH40、Cremophor EL)、ポリオキシルグリセリド(例えばラブラゾール)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えばTween20、Tween80)、水溶型のビタミンE(例えばTPGS1000)及びエタノールから選択される水溶性有機溶媒を含有する。
【0061】
液体状医薬組成物は、好ましくは5重量%を超えない、より好ましくは3重量%を超えない、さらにより好ましくは1重量%を超えない、エダラボン以外の有機物質を含有する。
【0062】
本発明の液体状医薬組成物を使用して、神経変性疾患、脳アミロイドアンギオパチー(CAA)、自己免疫疾患、心筋梗塞又は脳血管疾患を処置することが好ましい。本発明の液体状医薬組成物を使用して、神経変性疾患又は脳血管疾患を処置することがより好ましい。
【0063】
特に好ましい実施形態によれば、本発明の液体状医薬組成物を使用して、神経変性疾患、より好ましくは筋萎縮性側索硬化症(ALS)及びアルツハイマー病から選択される神経変性疾患を処置する。本発明の液体状医薬組成物を使用して、ALSを処置することが最も好ましい。
【0064】
特に好ましい実施形態によれば、本発明の疾患処置は緩和処置を含む。
【0065】
以下の非制限的実施例によって、本発明をさらに例証する。
【実施例】
【0066】
実施例1
60mgエダラボンの1回用量をもたらすためRadicut(登録商標)アンプル中に含有されたエダラボン溶液を経口と静脈内の両方でイヌに投与する試験を実施した。
【0067】
試験は一群の4匹のオスのビーグル犬において実施した。動物には、(各アンプルが溶液20mlあたり30mgのエダラボンを含有する)2つのRadicut(登録商標)アンプル中に含有されたエダラボン溶液を単回経口投与した。2日間の洗浄-除去期間後、2つのRadicut(登録商標)アンプルの静脈内注入を動物に施した(15分の注入時間)。
【0068】
血液試料を投与直前、及び投与後一定間隔で採取し、各試料の血漿中エダラボン濃度を測定した。これらの測定の平均結果は表1中に示す。相対バイオアベイラビリティーを示すパラメーターは表2中に表す。
【0069】
【0070】
【0071】
これらの結果は、経口投与したエダラボンは急激な吸収を示し、ピーク最大濃度に投与後約5分で達したことを実証し、静脈内注入と比較して優れた全身バイオアベイラビリティーを示す(Fabs=34%)。
【0072】
実施例2
単回投与、無作為化、2期のクロスオーバー試験を18人の健康な男性及び女性ヒト対象に実施した。
【0073】
対象には
表3中に示す乾燥製剤1.5グラムを含有する新たに調製した100mL溶液の型で140mgエダラボン(経口)
2つのRadicut(登録商標)アンプル(溶液20ml中30mgのエダラボン)を使用して60mgエダラボン(静脈内60分)を与えた。
【0074】
【0075】
血液試料を投与直前、及び投与後一定間隔で採取し、各試料の血漿中エダラボン濃度を測定した。これらの測定の平均結果は表4中に示す。相対バイオアベイラビリティーを示すパラメーターは表5中に表す。
【0076】
【0077】
【0078】
これらの結果は、経口投与したエダラボンは急激な吸収を示し、ピーク最大濃度に投与後約15分で達したことを実証し、静脈内注入と比較して優れた全身バイオアベイラビリティーを示す(Fabs=79%)。