(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】車両の下部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 21/02 20060101AFI20240110BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20240110BHJP
B62D 21/15 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B62D21/02 A
B60K1/04 Z ZHV
B62D21/15 C
(21)【出願番号】P 2023515476
(86)(22)【出願日】2022-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2022018181
(87)【国際公開番号】W WO2022224959
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2021070342
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 祐平
(72)【発明者】
【氏名】廣永 光希
(72)【発明者】
【氏名】中村 栄隆
(72)【発明者】
【氏名】小宮 僚
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷 貴信
(72)【発明者】
【氏名】窪田 陽考
(72)【発明者】
【氏名】内田 駿
(72)【発明者】
【氏名】石井 貞行
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-214237(JP,A)
【文献】特開2013-103635(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063393(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0078637(US,A1)
【文献】特開2001-10356(JP,A)
【文献】特開2018-161934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/02
B60K 1/04
B62D 21/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビンが車両下部の骨格をなすシャシフレーム上に支持された車両の下部構造であって、
前記シャシフレームは、車両前後方向に延在する一対のサイドメンバと、車幅方向に延在して前記一対のサイドメンバ同士を接続するクロスメンバとを有し、
前記クロスメンバは、車幅方向に延在する中央部と、前記中央部の車両幅方向の両端から上方に屈曲形成されて車幅方向外側斜め上方に延びる傾斜部とを有し、その両端部が前記サイドメンバに連結され、
前記キャビンは、前記サイドメンバより車幅方向両外側で車両前後方向に延設されて前記キャビンの下部骨格を形成するサイドシルを備え、
前記サイドシルと前記サイドメンバとは、車幅方向からみて車両上下方向において互いに重なるよう対向配置され、
前記サイドシルの下端は、前記サイドメンバの下端よりも上側に配置される
ことを特徴とする車両の下部構造。
【請求項2】
前記サイドメンバと前記サイドシルとの間に衝撃吸収部材が配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の下部構造。
【請求項3】
前記クロスメンバは、車両前後方向に複数並ぶように設けられ、
前記衝撃吸収部材は、隣り合う前記クロスメンバの間に配置される
ことを特徴とする
請求項2に記載の車両の下部構造。
【請求項4】
前記衝撃吸収部材は、車幅方向から見て前後のクロスメンバと一部が重複するよう配置される
ことを特徴とする
請求項3に記載の車両の下部構造。
【請求項5】
前記クロスメンバは、前記中央部と前記傾斜部とに亘る屈曲部に補強部材が設けられる
ことを特徴とする
請求項1~4の何れか1項に記載の車両の下部構造。
【請求項6】
前記車両は、走行用モータに電力を供給する駆動バッテリを備える電動車両であり、
前記駆動バッテリは、前記クロスメンバの前記中央部によって下方から支持され、前記キャビンのフロア下方の前記サイドメンバ間に配置され、
前記傾斜部は、前記駆動バッテリよりも車幅方向外側且つ前記サイドメンバよりも車幅方向内側の位置で上方に屈曲形成されている
ことを特徴とする
請求項1~4の何れか1項に記載の車両の下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪を駆動する走行用モータを有する電気自動車やハイブリッド車両のような電動車両においては、走行用モータに電力を供給する駆動バッテリは、車両の床下に搭載される構造が多く採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特許文献1の
図2、3に示されるように、左右のフロントサイドメンバを有するフレーム車において、駆動バッテリがフロアパネルの下方において、平面視で左右のフロントサイドメンバ間に配置され、左右のフロントサイドメンバに接続されて車幅方向に設置される複数のクロスメンバ(特許文献1の符号80)に支持される構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1では、側面衝突に伴い、車幅方向に衝突側と逆側へと移動するシャシフレーム(符号40で示されたフロントサイドメンバ)に対して、ボデー(符号50で示されたサイドシル)がその場に残る、所謂、シャシフレームの抜けが発生する場合がある
【0006】
このような抜けが発生し、ボデーがその場に残ると、ボデーへの衝突物の侵入量が大きくなり、それに伴うボデーの変形量も大きくなる。これにより、車室内空間を十分に確保することができず、乗員の安全性を担保することができなくなる可能性がある。また、ボデーとシャシフレームとの相対移動に伴い、燃料配管や燃料タンク、高電圧配線等が周辺部品と干渉し、損傷するおそれがある。
【0007】
そこで、上記課題に鑑み、本発明の少なくとも一つの実施形態は、キャビンが車両下部の骨格をなすシャシフレーム上に支持された車両において、側面衝突に伴うシャシフレームの抜けを防止することができる車両の下部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)前述した目的を達成するために発明されたものであり、本発明の少なくとも一つの実施形態は、キャビンが車両下部の骨格をなすシャシフレーム上に支持された車両の下部構造であって、前記シャシフレームは、車両前後方向に延在する一対のサイドメンバと、車幅方向に延在して前記一対のサイドメンバ同士を接続するクロスメンバとを有し、前記クロスメンバは、車幅方向に延在する中央部と、前記中央部の車両幅方向の両端から上方に屈曲形成されて車幅方向外側斜め上方に延びる傾斜部とを有し、その両端部が前記サイドメンバに連結されることを特徴とする。
【0009】
このような構成(1)によれば、側面衝突時、車両前後方向から見て、衝突側のボデー及びサイドメンバが車幅方向内側に侵入してくる。これにより、サイドメンバの下側に固定されたクロスメンバの傾斜部に同サイドメンバの車幅方向内側への倒れ込みの回転に伴うモーメントが負荷され、同傾斜部に下方向に凸となる折れ曲がりが生じる。
【0010】
このように、クロスメンバの形状を傾斜部によって下方にオフセットさせて、中央部と傾斜部との境の屈曲形成の部分において曲げ変形をさせやすい形状とすることで、クロスメンバの変形量を増やして側突時の衝突エネルギ吸収量を増加させることができる。
【0011】
さらに衝突が進行すると、衝突側であるクロスメンバの車幅方向一端側が下方に変位するとともに他端側が上方に変位し、他端側に固定されたサイドメンバが他端側のボデーに衝突する。これにより、他端側のホデーが他端側のサイドメンバを受け止めてボデーに対するシャシフレームの抜けを防止することができる。
【0012】
これにより、側面衝突に伴って、車幅方向に衝突側と逆側へと移動するシャシフレームに対して、ボデーがその場に残ることなく、ボデーをシャシフレームと共に衝突側と逆側へと移動させることができる。従って、ボデー側面への衝突物の侵入量を小さくすることができるため、ボデーの変形を抑えることができる。これにより、車室内空間を確保し、乗員を保護することができる。また、周辺部品との隙間を確保することができるため、燃料配管や燃料タンク、高電圧配線等の損傷を防止することができる。
【0013】
(2)幾つかの実施形態では、前記キャビンは、前記サイドメンバより車幅方向両外側で車両前後方向に延設されて前記キャビンの下部骨格を形成するサイドシルを備え、前記サイドシルと前記サイドメンバとは、車幅方向からみて車両上下方向において互いに重なるよう対向配置されることを特徴とする。
【0014】
このような構成(2)によれば、側面衝突時にサイドシルをサイドメンバに確実に衝突させることができる。従って、側面衝突時の衝突荷重を確実にサイドシルからサイドメンバに伝達することができるので、サイドメンバの下側に固定されたクロスメンバの傾斜部に下方向に凸となる折れ曲がりを確実に生じさせることができる。
【0015】
その結果、クロスメンバの変形量を増やしてサイドシル間で衝突のエネルギを効率的に吸収するとともに、クロスメンバの他端側の上方変位を増やして他端側のサイドシルが他端側のサイドメンバを受け止めてボデーに対するシャシフレームの抜けを確実に防止することができる。
【0016】
また、他端側の上方変化量が十分確保できない場合であっても、サイドシルとサイドメンバとは、車幅方向からみて車両上下方向において互いに重なるよう対向配置されるので、他端側のサイドシルが他端側のサイドメンバを受け止めことができるので、ボデーに対するシャシフレームの抜けを確実に防止することができる。
【0017】
(3)幾つかの実施形態では、前記サイドシルは、その下端が前記サイドメンバの高さ方向中央よりも上側に配置されることを特徴とする。
【0018】
このような構成(3)によれば、側面衝突時、車両前後方向から見て、サイドメンバを確実に車幅方向内側に倒れ込ませて、サイドメンバの下側に固定されたクロスメンバの傾斜部に車幅方向内側への回転モーメントを付加することができる。
【0019】
(4)幾つかの実施形態では、前記サイドメンバと前記サイドシルとの間に衝撃吸収部材が配置されることを特徴とする。
【0020】
このような構成(4)によれば、サイドシルからの衝撃をサイドメンバに衝撃吸収部材を介して負荷できる。また、衝撃吸収部材によって衝突エネルギを吸収できる。
【0021】
(5)幾つかの実施形態では、前記クロスメンバは、車両前後方向に複数並ぶように設けられ、前記衝撃吸収部材は、隣り合う前記クロスメンバの間に配置されることを特徴とする。
【0022】
このような構成(5)によれば、側面衝突に対して、サイドメンバはクロスメンバが接続されていないクロスメンバ間の部分は弱部を形成するが、衝撃吸収部材が隣り合うクロスメンバの間に配置されることによって、弱部の衝撃を緩和し弱部での折れを防止することができる。
【0023】
(6)幾つかの実施形態では、前記衝撃吸収部材は、車幅方向から見て前後のクロスメンバと一部が重複するよう配置されることを特徴とする。
【0024】
このような構成(6)によれば、隣り合う前後のクロスメンバへと側面衝突時の衝撃を分散して逃がすことができる。
【0025】
(7)幾つかの実施形態では、前記クロスメンバは、前記中央部と前記傾斜部とに亘る屈曲部に補強部材が設けられることを特徴とする。
【0026】
このような構成(7)によれば、補強部材が、中央部と傾斜部との間の屈曲部に設けられるので、補強部材によって屈曲部の折れ荷重を意図的に上げて、過剰な折れを抑制し、
効率的に衝突エネルギの吸収量を増加することができる。さらに、補強部材によって屈曲部の折れ荷重をコントロールできるので、補強部材を側突時のサイドメンバと駆動バッテリとの間のクリアランスコントロールの部材としても活用できる。
【0027】
(8)幾つかの実施形態では、前記車両は、走行用モータに電力を供給する駆動バッテリを備える電動車両であり、前記駆動バッテリは、前記クロスメンバの前記中央部によって下方から支持され、前記キャビンのフロア下方の前記サイドメンバ間に配置され、前記傾斜部は、前記駆動バッテリよりも車幅方向外側且つ前記サイドメンバよりも車幅方向内側の位置で上方に屈曲形成されていることを特徴とする。
【0028】
このような構成(8)によれば、クロスメンバの形状を傾斜部によって下方にオフセットさせて、中央部と傾斜部との境の屈曲形成の部分において曲げ変形をさせやすい形状とすることで、クロスメンバの変形量を増やして側突時の衝突エネルギ吸収量を増加させることができるので、中央部によって下方から支持される駆動バッテリへの衝突時の衝突エネルギ量を低減させて駆動バッテリの保護が図れる。
【0029】
また、衝突側であるクロスメンバの車幅方向一端側が下方に変位して駆動バッテリが落ち込むことにより、上方に変位したクロスメンバの他端側とボデーとの間に空間が形成されて駆動バッテリがボデーとクロスメンバとの間に挟まれて損傷することを防止できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、キャビンが車両下部の骨格をなすシャシフレーム上に支持された車両において、側面衝突に伴うシャシフレームの抜けを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態に係る車両の下部構造を示し、車両の下面斜視図を示す。
【
図3A】比較例の場合における側面衝突時のバッテリクロスメンバの変形モードを示す模式図であり、衝突前を示す。
【
図3B】比較例の場合における側面衝突時のバッテリクロスメンバの変形モードを示す模式図であり、衝突時を示す。
【
図4A】本実施形態の場合における側面衝突時のバッテリクロスメンバの変形モードを示す模式図であり、衝突前を示す。
【
図4B】本実施形態の場合における側面衝突時のバッテリクロスメンバの変形モードを示す模式図であり、衝突時を示す。
【
図5】側面衝突時の衝突荷重が隣り合うバッテリクロスメンバに分散される状態を示す下面視の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、実施形態として記載されている、または図面に示されている構成部品の相対的配置等は、本発明の範囲をこれらに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、説明中の上下前後左右の方向は、運転席から乗員が前方を見た方向で定義するものとする。図中において、「FR」は前方、「RH」右方、「LH」は左方、「UPR」は上方を示す。
【0033】
図1に本発明の一実施形態を示す。
図1は、電動車両(以下車両という)1の下部構造の全体斜視図を示し、車両1の下方から見た下面斜視図を示す。
【0034】
図1に示すように、車両1は、車輪3を駆動する走行用モータ4を備えるとともに、走行用モータ4に電力を供給する駆動バッテリ5を備えている。
図1は、走行用モータ4が後輪側に設置された図を示すが、走行用モータ4は前輪側に設けてよく、また、走行用モータ4を前輪側と後輪側に設置して車両1を4輪駆動車としてもよい。
【0035】
また、
図1、6に示すように、車両1は、乗員が乗車するキャビン7と、そのキャビン7より車両後方に開放式の荷台9と、を有する小型貨物自動車であり、所謂、ピックアップトラックの構造を有している。このキャビン7及び荷台9は、車両下部の骨格をなすシャシフレーム11上に支持されている。なお、キャビン7とは、ボデー構造のうち乗員の居住空間を形成している部分をいう。
【0036】
図1に示すように、シャシフレーム11は、車両前後方向に延在する左右一対のサイドメンバ13と、車幅方向に延在して左右一対のサイドメンバ13同士を接続するとともに駆動バッテリ5を支持する複数のバッテリクロスメンバ(クロスメンバ)15とを有している。
【0037】
さらに、シャシフレーム11は、駆動バッテリ5を支持するバッテリクロスメンバ15以外にシャシフレーム11全体の強度を確保するために、車両1の前後には複数のフロントクロスメンバ17及びリヤクロスメンバ19が、一対のサイドメンバ13間に車幅方向に架設されている。
【0038】
駆動バッテリ5は、キャビン7のフロアパネル21下方において、平面視で一対のサイドメンバ13間に配置される。さらに、駆動バッテリ5は、バッテリクロスメンバ15の上に固定される。駆動バッテリ5は、バッテリクロスメンバ15によって下方から支持されている。なお、駆動バッテリ5は、複数のバッテリが容器内に収納されさらに電装機器のインバータ23等が設置されてバッテリパックを形成している。本実施形態では、このバッテリパックの状態になったものを駆動バッテリ5という。
【0039】
図2に示すように、バッテリクロスメンバ15は、駆動バッテリ5が載置され下方から支持する中央部25と、駆動バッテリ5よりも車幅方向外側且つサイドメンバ13よりも車幅方向内側の位置で上方に屈曲形成される屈曲部27と、屈曲部27で屈曲形成されて中央部25の両端から車幅方向外側斜め上方に延びる傾斜部29と、を有する。傾斜部29の上方の平坦になった両端部が、それぞれのサイドメンバ13の下面に連結している。すなわち、バッテリクロスメンバ15は、車幅方向にストレート形状ではなく、車幅方向の中央部が下方にオフセットされた形状である。なお、バッテリクロスメンバ15は、車幅方向の左右それぞれの側において同様の傾斜構造を有している。
【0040】
また、バッテリクロスメンバ15は、
図1、5に示すように、駆動バッテリ5の下方を支持するように、駆動バッテリ5が設置される車両前後方向の範囲(
図5の範囲L)の全域において車両前後方向に複数本並んで、例えば5本、等間隔に配置されている。
【0041】
また、バッテリクロスメンバ15は、
図7に示すように、板金製によって閉断面構造に形成され、両端部分がサイドメンバ13の下面にボルト31で固定されている。
【0042】
このように、バッテリクロスメンバ15は車幅方向にストレート形状ではなく車幅方向の中央部が下方にオフセットされた形状であり、そのオフセット部分である底部に駆動バッテリ5が載置され、固定手段で固定される。従って、キャビン7のフロアパネル21下方であってサイドメンバ13間の限られたスペースへ、フロアパネル21の位置を上昇させることなく配置できる。
【0043】
また、
図2に示すように、キャビン7は、サイドメンバ13より車幅方向外側で車両前後方向に延設されてキャビン7の下部骨格を形成するサイドシル33を備えている。
【0044】
以上説明した一実施形態の車両の下部構造において、車両1の側面衝突時のバッテリクロスメンバ15の変形モードについて、
図3A、
図3B、
図4A、
図4Bを参照して説明する。側面衝突の例として電柱などのポール37の側面衝突の場合について説明する。なお、
図3A、
図3Bは、比較例としてバッテリクロスメンバ100がストレート構造の場合を示し、
図4A、
図4Bに、本実施形態のオフセット構造のバッテリクロスメンバ15の場合を示す。
【0045】
図3Aは、比較例の側面衝突前の状態を示す。
図3Aに示すように、駆動バッテリ5は、キャビン7のフロアパネル21の下方に配置されるように、サイドメンバ13の下部に略コ字状のブラケット110が接続される。そのブラケット110の下部に、ストレート状のバッテリクロスメンバ100の端部が取り付けられて左右のサイドメンバ13間に架設されている。そして、そのバッテリクロスメンバ100の上に駆動バッテリ5が固定されている。
【0046】
図3Bは、比較例の側面衝突時の状態を示す。
図3Bに示すように、バッテリクロスメンバ100は、ストレート構造であるためポール37の侵入に対して曲げ変形しにくくバッテリクロスメンバ100による衝突エネルギの吸収が不足し、ポール37が侵入してくると衝突側のサイドメンバ13は駆動バッテリ5に近づいていく(
図3Bの矢印E)。
【0047】
さらに、バッテリクロスメンバ100は、衝突側とは反対側の略コ字状のブラケット110を変形し、駆動バッテリ5は衝突側とは反対側のサイドメンバ13に近づいていく(
図3Bの矢印F)。このようにして、駆動バッテリ5とサイドメンバ13やキャビン7のフロアパネル21との間の距離が詰まり、駆動バッテリ5がこれらサイドメンバ13やフロアパネル21と衝突して駆動バッテリ5が損傷する可能性が増大し、駆動バッテリ5の保全が困難になる。
【0048】
また、バッテリクロスメンバ100は、衝突側とは反対側の略コ字状のブラケット110を変形し、反対側のサイドメンバ13を車幅方向外側へと変位させる。しかし、バッテリクロスメンバ100は、ストレート構造であるため、車幅方向外側への変位が主であり、上方へ変位させて、反対側のサイドメンバ13を反対側のサイドシル33に衝突させるような変位は得にくく、サイドメンバ13はサイドシル33に対して抜けが発生しやすい。
【0049】
図4Aは、側面衝突前の状態を示す。上記比較例に対して本実施形態では、
図4Aに示すように、バッテリクロスメンバ15は車幅方向にストレート形状ではなく車幅方向の中央部が下方にオフセットした形状であり、そのオフセットの底部に駆動バッテリ5が固定されている。
【0050】
図4Bは、本実施形態の側面衝突時の状態を示す。側面衝突時、ポール37が侵入してくると、ポール37に衝突された衝突側のサイドシル33及びサイドメンバ13が車幅方向内側に侵入してくる。
【0051】
このとき、サイドメンバ13の下側に固定されたバッテリクロスメンバ15は、傾斜部29によって下方にオフセットされている。従って、サイドメンバ13の車幅方向内側への侵入に対して中央部25と傾斜部29との境の屈曲部27において傾斜部29が車幅方向内側に倒れ込む曲げ変形が生じやすく、傾斜部29には車幅方向内側への倒れ込みに伴う回転モーメントが負荷され、傾斜部29に下方向に凸となる折れ曲がりが生じる。
【0052】
このように、バッテリクロスメンバ15の形状を傾斜部29によって下方にオフセットさせて、屈曲部27の部分において曲げ変形をさせやすい形状とすることで、バッテリクロスメンバ15の変形量を増やして側突時の衝突エネルギ吸収量を増加させることができる。従って、衝突側のサイドメンバ13やサイドシル33が駆動バッテリ5に衝突する衝突エネルギ量を低減させて駆動バッテリ5の保護が図れる。
【0053】
さらに衝突が進行すると、衝突側であるバッテリクロスメンバ15の車幅方向一端側が下方に変位するとともに他端側が上方に変位し、この上方に変位するバッテリクロスメンバ15の他端側に固定されたサイドメンバ13が他端側のキャビン7のサイドシル33に衝突する。これにより、他端側のサイドシル33が他端側のサイドメンバ13を受け止めて、他端側のサイドシル33がサイドメンバ13の抜けを防止することができる。
【0054】
このように、キャビン7のサイドシル33(ボデー)がサイドメンバ13(シャシフレーム)の抜けを防止することによって、衝突側からシャシフレームに入力された衝突エネルギを、衝突側だけでなく反対側のボデーの骨格部材に効率よく伝達でき、衝突エネルギをボデー全体で吸収することが可能になる。
【0055】
これにより、側面衝突に伴って、車幅方向に衝突側と反対側へと移動するシャシフレームに対して、ボデーがその場に残ることなく、ボデーをシャシフレームと共に衝突側と反対側へと移動させることができる。従って、ボデー側面への衝突物の侵入量を小さくすることができるため、ボデーの変形を抑えることができる。これにより、車室内空間を確保し、乗員を保護することができる。また、周辺部品との隙間を確保することができるため、燃料配管や燃料タンク、高電圧配線等の損傷を防止することができる。
【0056】
また、駆動バッテリ5は、バッテリクロスメンバ15の中央部25によって下方から支持され、キャビン7のフロア下方のサイドメンバ13間に配置され、傾斜部29は、駆動バッテリ5よりも車幅方向外側且つサイドメンバ13よりも車幅方向内側の位置で上方に屈曲形成されている。従って、衝突側であるバッテリクロスメンバ15の車幅方向一端側が下方に変位して駆動バッテリ5が落ち込むことにより、上方に変位したバッテリクロスメンバ15の他端側とキャビン7のサイドシル33及びフロアパネル21との間に距離(空間)が形成されて(
図4Bの空間S)、駆動バッテリ5がサイドシル33及びフロアパネル21とバッテリクロスメンバ15との間に挟まれて損傷することを防止できる。
【0057】
また、下方に変位したバッテリクロスメンバ15の一端側においては、駆動バッテリ5が下方に落ち込むことにより、比較例のように(
図3Bの矢印Eのように)衝突側のサイドメンバ13が車幅方向内側に向かって駆動バッテリ5に近づく場合より、駆動バッテリ5とサイドメンバ13と間に距離(
図4Bの矢印G)が確保され、駆動バッテリ5が損傷しにくくなる。
【0058】
幾つかの実施形態では、
図2に示すように、キャビンの下部骨格を形成するサイドシル33とサイドメンバ13とは、車幅方向から見て車両上下方向において互いに重なるように対向配置されている。
【0059】
従って、側面衝突時、ポール37が車両内側に侵入してくると、ポール37に衝突された衝突側のサイドシル33が衝突荷重を受け、その後に、衝突荷重をサイドシル33からサイドメンバ13に確実に伝達することができる。
【0060】
従って、サイドメンバ13の下側に固定されたバッテリクロスメンバ15の傾斜部29に下方向に凸となる折れ曲がりを確実に生じさせることができる。その結果、バッテリクロスメンバ15の変形量を増やしてサイドシル33間で衝突のエネルギを効率的に吸収するとともに、バッテリクロスメンバ15の他端側の上方変位を増やして他端側のサイドシル33が他端側のサイドメンバ13を受け止めてボデーに対するシャシフレーム11の抜けを確実に防止することができる。
【0061】
また、他端側の上方変化量が十分確保できない場合であっても、サイドシル33とサイドメンバ13とは、車幅方向からみて車両上下方向において互いに重なるよう対向配置されるので、他端側のサイドシル33が他端側のサイドメンバ13を受け止めてボデーに対するシャシフレームの抜けを確実に防止することができる。
【0062】
幾つかの実施形態では、
図2に示すように、サイドシル33は、そのサイドシル33の下端位置がサイドメンバ13の高さ方向中央位置Pよりも上側に配置される構成を備えている。
【0063】
このように、サイドシル33の下端が、サイドメンバ13の高さ方向中央位置Pよりも上側に配置されることによって、側面衝突時、車両前後方向から見て、サイドシル33に作用した衝突荷重がサイドメンバ13の上部に作用する。従って、サイドメンバ13を確実に車幅方向内側に倒れ込ませて、サイドメンバ13の下側に固定されたバッテリクロスメンバ15の傾斜部29に車幅方向内側への回転モーメントを付加することができる。
【0064】
幾つかの実施形態では、
図2に示すように、サイドメンバ13とサイドシル33との車幅方向の間には、側面衝突時にサイドメンバ13及びバッテリクロスメンバ15に作用する衝撃エネルギを吸収するクラッシュボックス(衝撃吸収部材)35が配置される構成を備えている。
【0065】
また、
図2に示すように、クラッシュボックス35は、内部が空間の箱型の部品であり板金部材によって形成され、サイドメンバ13の車幅方向の外側面に溶接されている。サイドシル33からの衝撃をサイドメンバ13にクラッシュボックス35を介して負荷できる。また、クラッシュボックス35によって衝突エネルギを吸収できる。
【0066】
さらに、
図1、5に示すように、このクラッシュボックス35は、車両前後方向において隣り合うバッテリクロスメンバ15の間に配置され、車幅方向から見て前後のバッテリクロスメンバ15と一部重複するように配置されている(
図5の重複部M)。
【0067】
側面衝突に対して、バッテリクロスメンバ15が接続されていないサイドメンバ13の部分は弱部を形成するが、クラッシュボックス35が、隣り合うバッテリクロスメンバ15の間に配置されるので、この弱部の衝撃を緩和し弱部でサイドメンバが損傷し折れるのを防止することができる。
【0068】
また、クラッシュボックス35が、車幅方向から見て前後のバッテリクロスメンバ15と一部重複するように配置されるので、
図5の矢印Hで示すように、隣り合う前後のバッテリクロスメンバ15へと側面衝突時の衝撃を分散して逃がすことができる。
【0069】
幾つかの実施形態では、
図2に示すように、バッテリクロスメンバ15の内部には、中央部25から傾斜部29に亘る屈曲部27の領域にエネルギ吸収部材(補強部材)39が設けられている。
【0070】
バッテリクロスメンバ15は、
図7に示すように、板金製の上側メンバ15aと下側メンバ15bとが接合されて閉断面構造に形成され、閉断面構造の内部に下方が開口したハット形断面形状のエネルギ吸収部材39が設置されている。
【0071】
下側メンバ15bの底面にエネルギ吸収部材39のハット形断面の開口端部のフランジが接合される。また、エネルギ吸収部材39は鋼材の板金製であり、板厚や長さを調整することによって屈曲部27の折れ荷重を調整できる。
【0072】
このような構成によれば、エネルギ吸収部材39が、バッテリクロスメンバ15の中央部25から傾斜部29に亘の屈曲部27に設けられるので、屈曲部27での折れ荷重を意図的に上げることができ、過剰な折れを抑制し、効率的に衝突エネルギの吸収量を増加することができる。
【0073】
さらに、エネルギ吸収部材39によって屈曲部27の折れ荷重をコントロールできるので、エネルギ吸収部材39を、側面衝突時のサイドメンバ13と駆動バッテリ5との間の距離(
図4Bの矢印G)をコントロールするクリアランスコントロール部材としても活用できる。
【0074】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0075】
なお、本出願は、2021年4月19日出願の日本特許出願(特願2021-70342)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、キャビンが車両下部の骨格をなすシャシフレーム上に支持された車両において、側面衝突に伴うシャシフレームの抜けを防止することができるので、車両の下部構造への利用に適している。
【符号の説明】
【0077】
1 電動車両(車両)
3 車輪
4 走行用モータ
5 駆動バッテリ
7 キャビン
9 荷台
11 シャシフレーム
13 サイドメンバ
15、100 バッテリクロスメンバ(クロスメンバ)
15a 上側メンバ
15b 下側メンバ
17 フロントクロスメンバ
19 リヤクロスメンバ
21 フロアパネル(フロア)
23 インバータ
25 中央部
27 屈曲部
29 傾斜部
31 ボルト
33 サイドシル
35 クラッシュボックス(衝撃吸収部材)
39 エネルギ吸収部材(補強部材)
L 駆動バッテリの設置範囲
H 衝突荷重の分散方向
P サイドメンバの高さ方向中央位置
M バッテリクロスメンバとクラッシュボックスとの重複部