(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ハロゲンランプ
(51)【国際特許分類】
H01K 1/08 20060101AFI20240110BHJP
H01K 1/14 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01K1/08
H01K1/14
(21)【出願番号】P 2020079944
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河村 忠和
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第3873635(JP,B2)
【文献】特開2016-065270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01K 1/08
H01K 1/14
H01K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管内部にコイル状のフィラメントからなる発光部を備えてなるハロゲンランプにおいて、
前記発光部は少なくとも2つに分割されており、当該分割された発光部は、短絡導体棒を介して通電可能に連結されていて、
前記短絡導体棒は、非発光部を形成しており、その長手方向の少なくとも一部に、結晶組織が再結晶化された再結晶化部を有していることを特徴とするハロゲンランプ。
【請求項2】
前記短絡導体棒は、その両端の固定部で前記発光部を構成するフィラメント内に挿入固定されていて、前記再結晶化部は、前記固定部を除いた領域に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のハロゲンランプ。
【請求項3】
前記短絡導体棒の径は、前記フィラメントの内径よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載のハロゲンランプ。
【請求項4】
前記短絡導体棒は、軸方向の中間位置に膨径部が形成されていることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のハロゲンランプ。
【請求項5】
前記短絡導体棒には、前記発光管内の位置を保持するサポータが設けられていることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載のハロゲンランプ。
【請求項6】
前記発光部は、複数の素線がコイル状に巻回されたフィラメントで構成されていることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載のハロゲンランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発光管内に発光部を形成するコイル状のフィラメントを有するハロゲンランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プリンタや複写機の画像形成装置には、記録媒体上にインクを加熱定着させる定着ユニットが搭載されており、この定着ユニット内部にはハロゲンランプが搭載されている。
特許第3873635(特許文献1)には、このハロゲンランプの代表的な構造が開示されている。この文献に示されたハロゲンランプでは、発光管内にコイル状のフィラメントからなる発光部と、非発光部とが形成されており、非発光部の電気抵抗を小さくして消費電力を抑える目的で、当該非発光部には短絡導体棒が取り付けられている。
【0003】
この短絡導体棒は、非発光部を構成し、非発光部の電気抵抗を小さくして消費電力を抑えるものであるが、よりエネルギーの使用効率を高める要請に答えることが難しかった。
他方、ランプ点灯直後の発光部(フィラメント)の立ち上がり時間を早めるためには、非発光部における熱エネルギーのロスをより効果的に抑えることが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、発光管内部にコイル状のフィラメントからなる発光部を備えてなるハロゲンランプにおいて、前記発光部が少なくとも2つに分割され、当該分割された発光部が、短絡導体棒を介して電気的に連結されているものであって、当該短絡導体棒に生じる熱ロスをより低減させることによって、発光部の立ち上がりを速くするとともに、当該発光部での熱エネルギーを高めることができるハロゲンランプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明のハロゲンランプでは、前記発光部は少なくとも2つに分割されており、当該分割された発光部は、短絡導体棒を介して通電可能に連結されていて、前記短絡導体棒は、非発光部を形成しており、その長手方向の少なくとも一部に、結晶組織が再結晶化された再結晶化部を有していることを特徴とする。
【0007】
また、前記短絡導体棒は、その両端の固定部で前記発光部を構成するフィラメント内に挿入固定されていて、前記再結晶化部は、前記固定部を除いた領域に形成されていることを特徴とする。
また、前記短絡導体棒の径は、前記フィラメントの内径よりも大きいことを特徴とする。
また、前記短絡導体棒は、軸方向の中間位置に膨径部が形成されていることを特徴とする。
また、前記短絡導体棒には、前記発光管内の位置を保持するサポータが設けられていることを特徴とする。
また、前記発光部は、複数の素線がコイル状に巻回されたフィラメントで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、発光管内の分割された非発光部を接続する短絡導体棒の少なくとも一部を再結晶化させる構造とすることで、当該短絡導体棒の電気抵抗値をより低下させ、短絡導体棒による電力ロスをより低減させて、発光部に十分な電気的エネルギーを供給することができるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のハロゲンランプの断面図(A)、部分拡大図(B)。
【
図2】短絡導体棒の断面組織図であって、再結晶化前の図(A)と再結晶化後の図(B)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明のハロゲンランプを定着加熱装置に用いた場合の構成例であって、
図1(A)は、一対をなすハロゲンランプ1、2の全体断面図であって、
図1(B)はその要部の部分拡大図である。
図1(A)には異なる形状の2種類のハロゲンランプ1、2が示されていて、第1のハロゲンランプ1においては、管状のガラス製発光管11内にコイル状のタングステン製のフィラメントからなる発光部12が設けられ、発光管11の両端部の封止部13内には金属箔14がピンチシールされていて、両端を密閉された発光管11内にはハロゲンが封入されている。
前記封止部13における金属箔14にはタングステン製の内部リード15の一端と外部リード16の一端とが接合されて電気的に接続されている。
そして、内部リード15は、その他端側が前記発光部(フィラメント)12に接続されている。
【0011】
ここにおいて、この第1のハロゲンランプ1では、フィラメントからなる発光部(フィラメント)12が第1の発光部(フィラメント)12aと第2の発光部12bとに2分割されている。
そして、これらの第1の発光部12aと第2の発光部12bの間には、タングステン製の短絡導体棒17が設けられていて、2つの発光部12a、12bを通電可能に接続している。この短絡導体棒17は非発光部となる。
図1(B)に示されるように、この短絡導体棒17はその両端部がそれぞれ第1のフィラメント12aおよび第2のフィラメント12bに挿入され、カシメや溶接などにより固定されている。
上記の構成において、短絡導体棒17の径は、発光部12を形成するフィラメントの素線径よりも大きなものとすることが望ましい。これは、短絡導体棒17の抵抗値を小さなものとして、これによる電力ロスをできるだけ小さなものとして、発光部12に十分な電気的エネルギーを供給するためである。
【0012】
また、発光領域との関連で、上記短絡導体棒17が長く形成されることがあり、この場合、
図1(A)に示すように、その短絡導体棒17に、発光管11内での位置を保持するサポータ18を設けてもよい。こうすることで、短絡導電棒17と発光部12との取り付け部に対する負荷を軽減するとともに、発光部12の変形を防止することができる。なお、サポータ18の数は短絡導体棒17の長さとの関係で適宜に選定すればよい。
こうして第1のハロゲンランプ1では2つの発光領域と、その中間の非発光領域とを有するランプが形成されている。
【0013】
一方、第2のハロゲンランプ2では、単一の発光部22を有する構造が示されていて、当該発光部22は、前記第1のハロゲンランプ1の短絡導体棒17により構成される非発光部の位置に対応している。
これにより、第1のハロゲンランプ1と第2のハロゲンランプ2とでは発光領域が異なるものが得られる。
【0014】
このような2種類のランプ1、2を用いることで、加熱対象物(紙媒体)のサイズに応じて加熱領域を可変にすることができるように構成されている。
例えば、第2のハロゲンランプ2のみを点灯することで、その発光部22が発光してA4用紙に対応し、第1のハロゲンランプ1と第2のハロゲンランプ2の両者を同時に点灯することで、第1のハロゲンランプ1の発光部12(12a、12b)と、第2のハロゲンランプ2の発光部22とが併せて発光して、A3用紙に対応するものである。
【0015】
しかして、前記第1のハロゲンランプ1におけるタングステン製の短絡導体棒17は、その結晶組織が再結晶化されている。再結晶化される領域は長さ方向の全領域であってもよいし、後述するように、長さ方向の一部であってもよい。
再結晶化された短絡導体棒17は、再結晶化前の状態に比べて、その電気抵抗値が小さなものとなり、当該短絡導体棒17での電力ロスを抑制して、発光部12に十分な電気的エネルギーを供給できるものである。
【0016】
上記のようなタングステン製の短絡導体棒17の結晶組織を再結晶化させる工程は、素材であるタングステン棒を窒素ガスなどの還元雰囲気中で通電加熱することにより行われる。
詳述すると、
(1)還元雰囲気中にタングステン素材(短絡導体棒素材)を配置する。
(2)素材の端部に、それぞれ通電用芯線を電気的に接続する。
(3)各通電用芯線の間に所定の高電圧を加えて素材を通電加熱する。
(4)この通電加熱を一定時間維持し、素材を再結晶温度まで加熱する。
以下その一具体例を示す。
通電用芯線間の離間距離:300mm
通電用芯線間の印加電圧:200V
通電加熱時間 :15秒
なお、素材(短絡導体棒)の一部領域を再結晶化させるには、再結晶化させたい領域の両端部に通電用芯線を配置し、この間に通電すればよい。
【0017】
こうして得られる再結晶化による結晶組織が
図2に示されている。
図2(A)(B)は、再結晶化前の素材断面写真(A)とその模式図(B)であり、
図2(C)(D)は、再結晶化後の素材断面写真(C)とその模式図(D)である。
図2(A)(B)に示すように再結晶化前の素材(タングステン棒)は繊維状組織構造であり、
図2(C)(D)に示すように再結晶化後の素材は粗大化組織構造となっている。
ここで、本発明でいう再結晶化後の粗大化組織とは、素材断面において、長手方向に垂直な検証線を引いたとき、当該検証線を横切る結晶粒の数が20個以下の状態まで組織が粗大化された状態とする。
【0018】
このように再結晶化処理を施した短絡導体棒の電気抵抗値を測定した。2つのサンプルA、Bについて同条件で上記再結晶化処理した後に、その電気抵抗値の変化を見た。その結果が表1に示される。
<表1>
表1から分かるように、いずれのサンプルにおいても再結晶化後では、再結晶化前に比べてその電気抵抗値が低下していることが確認された。このように再結晶化された短絡導体棒を採用することで、当該部位での電力ロスを抑制して、ランプの点灯特性を向上させることができる。
【0019】
図3には、長手方向において部分的に再結晶化された短絡導体棒17を用いた例が示されている。この実施例では、短絡導体棒17は、長手方向の一部、即ち中間部が再結晶化された再結晶化部17aと、その両端部において再結晶化されていない非再結晶化部17bとからなる。なお、
図3では図示されないが、短絡導体棒17の他端部も再結晶化されない非再結晶化部となる。
そして、両端の非再結晶化部17bが発光部(フィラメント)12内に挿入固定される。このとき、短絡導体棒17の外径D2は、フィラメント12の内径D1よりも若干大き目にしてあり、短絡導体棒17はフィラメント12の内径を押し広げる形でフィラメント12に挿入されるので、両者の固定がしっかりとしたものとなり、カシメや溶接などの固定作業が容易になる。
一般に、金属を再結晶化処理すると、その機械的強度が低下するが、短絡導体棒17の一部領域、すなわち、両端固定部を再結晶化しないままの構造とすることで当該非再結晶化部17bでは機械的強度を維持するので、発光部12との固定時に負荷がかかっても短絡導体棒17が破損することがない。
【0020】
ところで、同様の趣旨から、第1のハロゲンランプ1における内部リード15においても、少なくともその一部領域を再結晶化組織とすることができる。ここにおいても、内部リード15における金属箔14との接合部およびフィラメント12との固定部は非再結晶化組織のままとし、その他の領域を再結晶化組織とした構造とすることができ、金属箔14との接合部およびフィラメント12との固定部では機械的強度を保持しつつ、全体の通電抵抗値を下げる構造とすることができる。
【0021】
図4に他の実施例が示されていて、この実施例では、第1のハロゲンランプ1の短絡導体棒17に膨径部17cが形成されている。この膨径部17cは、両端のフィラメント12との固定部以外の軸方向の中間位置に形成され、こうすることで、短絡導体棒17全体の電気抵抗値を低下させることができる。この場合、少なくとも膨径部17cは再結晶化組織とされる。
また、この第1のハロゲンランプ1における内部リード15も、発光管11内での突出量によっては、中間位置に膨径部を形成してもよい。
なお、第2のハロゲンランプ2における内部リード25の軸方向の中間位置に膨径部25cを形成したものが示されている。
【0022】
図5に示された他の実施例においては、発光部12を形成するコイル状に巻回されたフィラメントが複数本の素線12x、12yからなるものである。
発光部12での発熱はその固定部を介して短絡導体棒17に伝熱されるが、この伝熱量が大きいと短絡導体棒17が加熱され、その再結晶化状態がより進む方向に変化させてしまう恐れがある。短絡導体棒17の最適な再結晶化は、電気抵抗値の減少と機械的強度の低下の兼ね合いで決定されるが、不所望な再結晶化はそのバランスを損ねることになる。
そこで、発光部(発熱部)12での必要以上の過熱を避けることから、この実施例のように、発光部12を複数本(2本)のフィラメント12x、12yにより構成したものである。同一光量の光照射をする場合、単一のフィラメントの熱容量に対して2本のフィラメントの総熱容量は下がり、発光部12の熱容量を下げることができるため、短絡導体棒17への伝熱量を低下させることができる。
これにより、短絡導体棒17が過熱され再結晶化が不所望に促進されてしまうことを防止できる。
【0023】
ところで、
図1の実施例では、2種類のランプ1、2を用いて、加熱対象物(紙媒体)のサイズに応じて加熱領域を可変にすることができるようにした場合を想定して、一方のランプ1に短絡導体棒17を設けるものを説明したが、このような構造のランプを単独で使用することもできる。
図6に、ランプ単独使用の実施例が示されている。このようなランプは、例えば、比較的加熱領域が短いはがきサイズの定着ユニットに使用されるランプに適用できる。
当該ランプ1は、加熱領域が短いために中央部の温度が高温となりやすく、全体として温度ムラが生じやすい。これを回避すべく発光部12(12a、12b)を分割してその中央部に短絡導電棒17を設けて非発光部を形成し、発光部12の両端部の熱量を高くすることで、加熱領域全域での温度を均一化するものである。このような形態においても、短絡導電棒17の長手方向の少なくとも一部に、結晶組織が再結晶化された再結晶化部を形成することにより、短絡導体棒による電力ロスをより低減させて、発光部に十分な電気的エネルギーを供給することができる。
また、上記はがきサイズの定着の事例に限らず、ランプと加熱対象物との離間距離に応じて、温度均一性を高める観点から、発光部の中間に短絡導電棒を設ける場合があり得る。
【0024】
以上説明したように、本発明におけるハロゲンランプでは、発光部が少なくとも2つに分割されており、当該分割された発光部が短絡導体棒を介して通電可能に連結されていて、前記短絡導体棒の長手方向の少なくとも一部が、結晶組織が再結晶化された再結晶化部を有していることにより、該短絡導体棒での電気抵抗値を低下させることができ、当該部位での電力ロスを低減させて、発光部に十分な電気的エネルギーを供給することができ、ランプ点灯直後の発光部(フィラメント)の立ち上がり時間が早くなるという効果を奏するものである。
また、短絡導体棒と発光部の固定部にあたる部位を再結晶化させない構造とすることで、短絡導体棒とフィラメントの固定時の負荷により短絡導体棒が破損することを防止できる。
【符号の説明】
【0025】
1 :(第1の)ハロゲンランプ
11 :発光管
12 :発光部(フィラメント)
12a:第1の発光部
12b:第2の発光部
13 :封止部
14 :金属箔
15 :内部リード
16 :外部リード
17 :短絡導体棒
17a:再結晶化部
17b:非再結晶化部
17c:膨径部
18 :サポータ
2 :(第2の)ハロゲンランプ
21 :発光管
22 :発光部(フィラメント)
23 :封止部
24 :金属箔
25 :内部リード
25c:膨径部
26 :外部リード
28 :サポータ