(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】共重合ポリエステルおよび水分散体
(51)【国際特許分類】
C08G 63/137 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C08G63/137
(21)【出願番号】P 2020532830
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2019049628
(87)【国際公開番号】W WO2020149082
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019005882
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】坂本 晃一
(72)【発明者】
【氏名】三上 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岩下 祐司
(72)【発明者】
【氏名】示野 勝也
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-286968(JP,A)
【文献】特表2008-501048(JP,A)
【文献】特開2010-070613(JP,A)
【文献】特開2015-147830(JP,A)
【文献】国際公開第2019/216093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 - 63/91
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を共重合成分とし、多価カルボン酸成分を100モル%としたとき脂環族多価カルボン酸成分が50モル%以上であり、酸価が170当量/10
6g~1000当量/10
6gである共重合ポリエステル
であって、前記脂環族多価カルボン酸成分として1,4-シクロヘキサンジカルボン酸およびテトラヒドロフタル酸無水物が併用されており、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸/テトラヒドロフタル酸無水物のモル比が90~50/10~50である共重合ポリエステル。
【請求項2】
ガラス転移温度が5℃以下である請求項
1に記載の共重合ポリエステル。
【請求項3】
数平均分子量が10000以下であることを特徴とする請求項
1または2に記載の共重合ポリエステル。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の共重合ポリエステルと水を含有する共重合ポリエステル水分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合ポリエステルおよび水分散体に関する。更に詳しくは、保存安定性と耐水密着性、加工性、耐候性、レベリング性に優れる共重合ポリエステルおよび水分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
共重合ポリエステルはコーティング剤、インキおよび接着剤等に用いられる樹脂組成物の原料として広く使用されており、一般に多価カルボン酸と多価アルコールから構成される。多価カルボン酸と多価アルコールの選択と組合せによる柔軟性や、分子量の高低を自由にコントロールできるため、コーティング剤用途や接着剤用途をはじめ、様々な用途で広く使用されている。
【0003】
その中でも樹脂中に脂環骨格を有する共重合ポリエステルは加工性や耐候性に優れ,戸外耐久性の塗料などに利用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特開平5-239196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら近年、塗料に用いる有機溶剤による環境汚染や作業環境の悪化が顕在化しており、各国で有機溶剤をほとんど含まない水性塗料の需要が高まっている。また、水性媒体中に疎水性のポリエステル樹脂を安定的に分散するためには樹脂骨格中に酸価を付与する必要があるが、酸価が高すぎる場合には、塗膜の耐水性が悪化するといった問題があった。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、水分散化した際に長期の安定性を発現する樹脂成分として有効な共重合ポリエステルを提供することであり、更には長期間の湿潤下への暴露を想定した条件での基材への耐水密着性と耐候性を有し、また、高分子量ポリエステルと同等の加工性(高屈曲性)を有し、さらにレベリング性に優れる塗膜を形成可能なポリエステル樹脂水分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0008】
多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を共重合成分とし、多価カルボン酸成分を100モル%としたとき脂環族多価カルボン酸成分が50モル%以上であり、酸価が170当量/106g ~1000当量/106gである共重合ポリエステル。
【0009】
脂環族多価カルボン酸成分が、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸またはテトラヒドロフタル酸無水物であることが好ましい。
【0010】
前記共重合ポリエステルのガラス転移温度は5℃以下であることが好ましい。
【0011】
前記共重合ポリエステルの数平均分子量は10000以下であることが好ましい。
【0012】
前記共重合ポリエステルを水に分散した共重合ポリエステル水分散体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の共重合ポリエステルを用いた水分散体は、耐候性、レベリング性、加工性(屈曲性)、耐水密着性に優れ、さらに良好な保存安定性を発揮する。このため、金属やプラスチック基材に塗布する水性塗料に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳述する。
【0015】
<共重合ポリエステル>
本発明の共重合ポリエステルを用いた水分散体(以下、単に水分散体ともいう。)は優れた耐候性、レベリング性、加工性耐水密着性、および保存安定性を発揮する。このため、コーティング後に屋外環境下に曝されるような水性塗料に好適であり、本発明の共重合ポリエステルを用いて製造された製品は高屈曲性、高耐水性を有する平滑な塗膜が得られる。
【0016】
本発明の共重合ポリエステルは、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分との重縮合物によって得ることのできる化学構造からなり、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とはそれぞれ1種または2種以上の選択された成分からなるものである。
【0017】
全多価カルボン酸成分100モル%のうち、脂環族多価カルボン酸成分が50モル%以上であり、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは80モル%以上であり、特に好ましくは90モル%以上であり、100モル%でも差し支えない。脂環族多価カルボン酸を多く使用することで共重合ポリエステルを用いて製造した水分散体のレベリング性に優れ、また塗膜の加工性ならびに耐候性が向上する傾向にある。ここで、酸価付与のために共重合ポリエステル重合後に酸無水物等を後添加(酸付加)すると、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分の合計量が200モル%を超えることがある。この場合は、酸無水物等を後添加(後付加)した成分を除いた組成の合計量を200モル%として計算するものとする。
【0018】
本発明の共重合ポリエステルを構成する脂環族多価カルボン酸としては、脂環族ジカルボン酸であることが好ましい。脂環族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物および水素添加ナフタレンジカルボン酸、並びにこれらの誘導体などを使用することができる。前記脂環族ジカルボン酸成分を単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。なかでも1,4-シクロヘキサンジカルボン酸またはテトラヒドロフタル酸無水物が好ましく、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸およびテトラヒドロフタル酸無水物を併用することがより好ましい。1,4-シクロヘキサンジカルボン酸とテトラヒドロフタル酸無水物を併用する場合は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸/テトラヒドロフタル酸無水物=90~50/10~50(モル比)であることが好ましく、より好ましくは80~60/20~40(モル比)である。
【0019】
本発明の共重合ポリエステルにおいて、脂環族多価カルボン酸成分以外の多価カルボン酸成分としては、芳香族多価カルボン酸または脂肪族多価カルボン酸であることが好ましく、芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸であることがより好ましい。共重合成分として芳香族多価カルボン酸成分または脂肪族多価カルボン酸成分以外の多価カルボン酸成分が含まれると水分散体の保存安定性が低下することがある。芳香族多価カルボン酸および脂肪族多価カルボン酸の合計量は、全多価カルボン酸成分100モル%のうち50モル%以下であり、好ましくは40モル%以下であり、より好ましくは30モル%以下であり、さらに好ましくは20モル%以下であり、特に好ましくは10モル%以下であり、0モル%であっても差し支えない。
【0020】
本発明の共重合ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、およびこれらの誘導体(テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル)などを使用することができる。なかでもテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、特に限定されず、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、およびこれら誘導体(アジピン酸ジメチル、セバシン酸ジメチル)などを使用することができる。なかでもアジピン酸が好ましい。
【0021】
本発明の共重合ポリエステルの酸価は170~1000当量/106gであることが必要である。共重合ポリエステルの樹脂酸価を170~1000当量/106gとすることによって水分散性、耐水密着性を高める効果が期待できる。さらに水分散体の安定性および耐水性が向上し、耐久性が要求される用途にも適応することができる。酸価は200当量/106g以上が好ましく、より好ましくは300当量/106g以上である。170当量/106g以上とすることで共重合ポリエステルの水分散体の安定性が良好となる。また、800当量/106g以下が好ましく、より好ましくは600当量/106g以下である。1000当量/106g以下とすることで耐水密着性が向上し、耐久性を要求される用途に好適となる。
【0022】
本発明の共重合ポリエステルを構成する多価アルコールとしては、特に限定されないが、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1、3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1、4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1、5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1-メチル-1,8-オクタンジオール、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-n-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジn-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジn-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、α-メチルグルコース、マンニトール、ソルビトール等のグリコール成分が使用でき、これらの内から、1種、または2種以上を使用できる。
【0023】
本発明の共重合ポリエステルには、3価以上の多価カルボン酸成分および/または3価以上の多価アルコール成分を共重合することが好ましい。3価以上の多価カルボン酸成分としては、例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)などの芳香族カルボン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸などの脂肪族カルボン酸などが挙げられ、これらを1種、又は2種以上の使用が可能である。3価以上の多価カルボン酸成分の共重合量は、全多価カルボン酸成分を100モル%としたときに、1モル%以上であることが好ましく、3モル%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは5モル%以上である。また、30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは20モル%以下であり、さらに好ましくは10モル%以下である。30モル%よりも多いと重合中にゲル化するおそれがある。3価以上の多価アルコール成分としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、α-メチルグルコース、マンニトール、ソルビトールが挙げられ、これらより1種、又は2種以上の使用が可能である。3価以上の多価アルコール成分の共重合量は、全多価アルコール成分を100モル%としたときに、10モル%以上であることが好ましく、より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは20モル%以上であり、特に好ましくは30モル%以上である。また、50モル%以下であることが好ましく、より好ましくは40モル%以下である。3価以上の多価カルボン酸成分および/または3価以上の多価アルコール成分の共重合量が前記の範囲内であると、共重合ポリエステルに適度に分岐を設けることができ、共重合ポリエステル水分散体の保存安定性や耐水密着性が良好となる。一方、多価アルコール成分の共重合量が50モル%より多いと重合中にゲル化するおそれがある。
【0024】
本発明の共重合ポリエステルのガラス転移温度は5℃以下であることが好ましく、より好ましくは0℃以下であり、さらに好ましくは-10℃以下であり、特に好ましくは-20℃以下である。ガラス転移温度を5℃以下の範囲にすることで、塗膜の良好なレベリング性と加工性を両立することができる。
【0025】
本発明の共重合ポリエステルの数平均分子量は10000以下であることが好ましく、6000以下であることがより好ましい。また、1000以上であることが好ましく、より好ましくは2000以上である。数平均分子量が前記範囲内であるとレベリング性が良好となる。
【0026】
本発明の共重合ポリエステルを製造する重合縮合反応の方法としては、例えば、1)多価カルボン酸と多価アルコールを公知の触媒存在下で加熱し、脱水エステル化工程を経て、脱多価アルコール・重縮合反応を行う方法、2)多価カルボン酸のアルコールエステル体と多価アルコールを公知の触媒存在下で加熱、エステル交換反応を経て、脱多価アルコール・重縮合反応を行う方法、3)解重合を行う方法などがある。前記1)2)の方法において、酸成分の一部またはすべてを酸無水物に置換しても良い。
【0027】
本発明の共重合ポリエステル(A)を製造する際には、従来公知の重合触媒、例えば、テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンオキシアセチルセトネートなどのチタン化合物、三酸化アンチモン、トリブトキシアンチモンなどのアンチモン化合物、酸化ゲルマニウム、テトラ-n-ブトキシゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、その他、マグネシウム、鉄、亜鉛、マンガン、コバルト、アルミニウムなどの酢酸塩などを使用することが出来る。これらの触媒は1種、または2種以上を併用することができる。
【0028】
本発明の共重合ポリエステルの酸価を上げる方法としては、例えば、(1)重縮合反応終了後に、3価以上の多価カルボン酸および/または3価以上の無水多価カルボン酸を添加し、反応させる方法(酸付加)や、(2)重縮合反応時に、熱、酸素、水などを作用させ、意図的に樹脂変質を行う、などの方法があり、これらを任意で行うことが出来る。前記酸付加方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、3,3,4,4-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3,4,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートなどが挙げられ、これらを1種、又は2種以上の使用が可能である。好ましくは無水トリメリット酸である。
なお、前記酸付加で用いる3価以上の多価カルボン酸成分および/または3価以上の無水多価カルボン酸成分は、多価カルボン酸成分を100モル%としたときの計算には含めない。
【0029】
<水分散体>
水分散体は、前記共重合ポリエステルおよび水を含有する組成物であり、好ましくは共重合ポリエステルを有機溶媒および水に分散した組成物である。有機溶剤としては親水性を有するものが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2-エチルヘキサノールなどのアルコール類、n-ブチルセロソルブ、t-ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等のグリコール類があげられる。また、水分散体としたときに分離しないものであれば、親水性の低いシクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン類なども使用することができ、溶解性、蒸発速度(乾燥性)などを考慮して任意に選択、配合される。なかでもエーテル類が好ましく、グリコールエーテル系がより好ましい。有機溶媒は共重合ポリエステル100質量部に対して20質量部以上であることが好ましく、有機溶媒が前記範囲内であると長期の保存安定性が良好となる。水分散体の固形分濃度としては、45質量部以下であることが好ましく、固形分濃度が前記範囲内であると作業性が良好となる。
【0030】
本発明の共重合ポリエステルは水への分散性を向上させるために、共重合ポリエステル中の酸成分を塩基成分で中和し、中和塩とすることが好ましい。使用できる塩基成分として特に限定されないが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属塩、アンモニア、モノエタノールアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジアザビシクロウンデセン等の有機アミン等から自由に選択できる。中和塩とすることによって保存安定性良好な水分散体として利用できる。塩基成分としては、共重合ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、より好ましくは1.5質量部以上であり、さらに好ましくは2質量部以上である。また、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは4質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以下である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本実施例および比較例において、単に部とあるのは質量部を示すこととする。
【0032】
(1)共重合ポリエステルの組成の測定
400MHzの1H-核磁気共鳴スペクトル装置(以下、NMRと略記することがある)を用い、共重合ポリエステルを構成する多価カルボン酸成分、多価アルコール成分のモル比定量を行った。溶媒には重クロロホルムを使用した。なお、酸後付加により共重合ポリエステルの酸価を上げた場合には、酸後付加に用いた酸成分以外の酸成分の合計を100モル%として、各成分のモル比を算出した。
【0033】
(2)共重合ポリエステルの数平均分子量の測定
試料(共重合ポリエステル)4mgを、4mLのテトラヒドロフランに溶解した後、孔径0.2μmのポリ四フッ化エチレン製メンブランフィルターでろ過した。これを試料溶液とし、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析を行った。装置はTOSOH HLC-8220、検出器は示差屈折率検出器、移動相はテトラヒドロフランを用い、流速1mL/分、カラム温度40℃で測定した。カラムは昭和電工製KF-802、804L、806Lを直列で用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用し、数平均分子量は標準ポリスチレン換算値とし、分子量1000未満に相当する部分を省いて算出した。
【0034】
(3)ガラス転移温度の測定
示差走査型熱量計(SII社、DSC-200)を用いて測定した。試料(共重合ポリエステル)5mgをアルミニウム抑え蓋型容器に入れ密封し、液体窒素を用いて-50℃まで冷却した。次いで150℃まで20℃/分の昇温速度にて昇温させ、昇温過程にて得られる吸熱曲線において、吸熱ピークが出る前(ガラス転移温度以下)のベースラインの延長線と、吸熱ピークに向かう接線(ピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの間での最大傾斜を示す接線)との交点の温度をもって、ガラス転移温度(Tg、単位:℃)とした。
【0035】
(4)酸価の測定
試料(共重合ポリエステル)0.2gを精秤しクロロホルム40mlに溶解した。次いで、0.01Nの水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定を行った。指示薬にはフェノールフタレインを用いた。試料に対して、水酸化カリウム当量を求め、測定値を試料106gあたりの当量に換算し、単位は当量/106gとした。
【0036】
(5)還元粘度ηsp/c(dl/g)の測定
試料(共重合ポリエステル)0.1±0.005gおよびフェノール/テトラクロロエタン(重量比6/4)の混合溶媒25ccに溶かし、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。
【0037】
以下、本発明の共重合ポリエステル、および比較例となる共重合ポリエステルの製造例を示す。
【0038】
共重合ポリエステル(a1)の製造例
攪拌機、コンデンサー、温度計を具備した反応容器に1,4-シクロヘキサンジカルボン酸453部、テトラヒドロフタル酸無水物174部、トリメチロールプロパン113部、1,6-ヘキサンジオール566部、触媒としてオルトチタン酸テトラブチルを全酸成分に対して0.03モル%仕込み、160℃から220℃まで4時間かけて昇温、脱水工程を経ながらエステル化反応を行った。次に重縮合反応工程は、系内を20分かけて5mmHgまで減圧し、さらに250℃まで昇温を進めた。次いで、0.3mmHg以下まで減圧し、60分間の重縮合反応を行った。その後、180℃まで冷却し、無水トリメリット酸30部を投入し、30分間反応させた。これを取り出した。得られた共重合ポリエステル(a1)はNMRによる組成分析の結果、モル比で1,4-シクロヘキサンジカルボン酸/テトラヒドロフタル酸無水物/トリメチロールプロパン/1,6-ヘキサンジオール=70/30/15/85[モル比]であった。また、数平均分子量は6000、ガラス転移温度は-20℃、酸価は396当量/106gであった。結果を表1に記載した。
【0039】
共重合ポリエステル(a2)~(a15)の製造例
共重合ポリエステル(a1)の製造例に準じ、原料の種類と配合比率を変更して、共重合ポリエステル(a2)~(a15)を合成した。結果を表1に記載した。
【0040】
水分散体(b1)の製造例
上記共重合ポリエステル(a1)500部をノルマルブチルセロソルブ188部に溶解し、ジメチルアミノエタノール13部を添加後、イオン交換水549部を添加して、水分散体(b1)を得た。結果を表1に記載した。
【0041】
水分散体(b2)~(b15)の製造例
水分散体(b1)の製造例に準じ、原料の種類と配合比率を変更して、本発明の水分散体(b2)~(b15)を製造した。結果を表1に記載した。
【0042】
【0043】
水分散体の評価(保存安定性)
ポリエステル水分散体(b1)~(b15)を5℃、および25℃下に3か月間静置し、各温度での溶液粘度の変化を確認した。粘度の上昇が小さいほど保存安定性は良好である。溶液粘度の測定は、ポリエステル水分散体をガラス容器に充填し、25℃下で、東機産業社製BL型粘度計で測定した。回転数は30rpmとした。
評価基準
溶液粘度の変化幅=|静置後の溶液粘度/静置前の溶液粘度|
○:溶液粘度の変化幅≦100%
△:溶液粘度の変化幅>100%
×:溶液が固化した。
【0044】
(レベリング性)
合成直後のポリエステル水分散体(b1)~(b15)を撹拌しながら加熱することで固形分濃度50質量%まで溶媒を蒸発させ、溶液粘度をBROOKFIELD社製コーンプレート型粘度計(HBDV-II+P CP)で測定した。固形分濃度50質量%での溶液粘度が低いほどレベリング性は良好である。
評価基準
○:500Pa・s以下
△:500Pa・sを超えて1000Pa・s以下
×:1000Pa・sを超える
【0045】
実施例1(水性塗料の調製)
酸化チタン(CR-93:石原産業製)100部、イオン交換水 179部、ガラスビーズ289部をガラス容器に入れ、しんとう機にて6時間分散し、顔料ペースト(X)を得た。次いで、水分散体(b1)100部、メラミン樹脂(サイメル(登録商標)327:オルネクス社)11部、顔料ペースト(X)140部、レベリング剤(BYK(登録商標)-381:BYK社)0.3部を容器に配合し、撹拌することで水性塗料(A1)を得た。
【0046】
実施例2~11、比較例1~4(水性塗料(A2)~(A15)の調製)
水性塗料(A1)と同様の方法にて、本発明の実施例または比較例である水性塗料(A2)~(A15)を得た。
【0047】
金属塗装板の評価
(試験片の作成)
0.5mm厚のボンデ(登録商標)鋼板に前記実施例及び比較例で得られた水性塗料を乾燥後の膜厚が12μmとなる様に塗装し、250℃で50秒間乾燥し、金属塗装板の試験片を得た。
【0048】
(加工性)
前記金属塗装板試験片を25℃下で塗膜面を外側に180°折り曲げ試験を行い、目視にて、塗膜の割れを確認した。例えば、2Tとは、金属板塗装板試験片と同じ厚さの金属板を2枚挟んで折り曲げた際に塗膜の割れが発生しないことである。数字が小さいほど屈曲性が良好である。
評価基準
○:1T以上
△:2~3T
×:4T以下
【0049】
(耐水密着性)
前記金属塗装板試験片の端部をテープで保護し、95℃温水中に24時間浸漬させた。浸漬後、取り出した金属塗装板試験片上の塗膜に、素地に達するように1mm間隔の碁盤目状にクロスカットを入れ、大きさ1mm×1mmの碁盤目を100個作った。その表面に粘着セロハンテープを貼着し、20℃においてそのテープを急激に剥離した後の碁盤目塗膜の残存数を調べた。
評価基準
◎:塗膜残存マス数80個以上
○:塗膜残存マス数30~79個
△:塗膜残存マス数78~39個
×:塗膜残存マス数38個以下
【0050】
(耐候性)
前記金属塗装板試験片をスーパーUVテスター(経時変化の加速試験)で48時間照射(測定条件:温度50℃、湿度50%の条件下で、UVランプ照射量100mW)した(48時間試験)。48時間試験前後の光沢保持率により耐候性の評価を行った。ここで光沢は、GLOSS METER(東京電飾社製)を用いて、60度での反射を測定した。
評価基準
◎:光沢保持率90%以上
○:光沢保持率70%以上90%未満
△:光沢保持率50%以上70%未満
×:光沢保持率50%未満
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の共重合ポリエステル、および水分散体は、保存安定性、耐水密着性、加工性、耐水性、耐候性、レベリング性に優れ、水性塗料用樹脂として有用である。