(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/50 20060101AFI20240110BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240110BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240110BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240110BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240110BHJP
C08G 59/32 20060101ALI20240110BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240110BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240110BHJP
C09J 163/00 20060101ALI20240110BHJP
C09J 9/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08G59/50
C08L63/00 C
C08K3/013
C08K3/22
C08K3/38
C08G59/32
C09J11/06
C09J11/04
C09J163/00
C09J9/00
(21)【出願番号】P 2020553078
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2019039445
(87)【国際公開番号】W WO2020080158
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2018195527
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 豪太
(72)【発明者】
【氏名】入江 達彦
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-196016(JP,A)
【文献】特開2011-225798(JP,A)
【文献】特開2018-048260(JP,A)
【文献】特開2011-153268(JP,A)
【文献】特開平02-110125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/50
C08L 63/00
C08K 3/013
C08K 3/22
C08K 3/38
C08G 59/32
C09J 11/06
C09J 11/04
C09J 163/00
C09J 9/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物(A)、アミン硬化剤(B)、および熱伝導性フィラー(C)を含有し、前記エポキシ化合物(A)が液状であり、前記アミン硬化剤(B)がベンゾオキサゾール骨格を含む
熱伝導性樹脂組成物であって、前記熱伝導性樹脂組成物が、前記エポキシ化合物(A)として、3官能以上のエポキシ化合物を前記エポキシ化合物(A)全体に対して10重量%以上含有すること、および前記アミン硬化剤(B)が、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’-p-フェニレンビス(5-アミノベンゾオキサゾール)、2,2’-p-フェニレンビス(6-アミノベンゾオキサゾール)、1-(5-アミノベンゾオキサゾロ)-4-(6-アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、および2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾールからなる群から選択されることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
熱伝導性フィラー(C)の含有量が樹脂組成物全体積に対し40体積%~75体積%であることを特徴とする
請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
25℃及び5rpmでの粘度が10Pa・s~300Pa・sであることを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
アミン硬化剤(B)が5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾールであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
熱伝導性フィラー(C)がアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、炭化ケイ素、カーボン、ダイヤモンド、銀、金、銅、ニッケルおよびアルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1~4のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
熱伝導性フィラー(C)が球状であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
エポキシ化合物(A)とアミン硬化剤(B)の質量比が(A)/(B)=90/10~60/40であることを特徴とする請求項1~
6のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項8】
沸点200℃以下の化合物を含まないことを特徴とする請求項1~
7のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を含むことを特徴とする熱伝導接着剤。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれかに記載の熱伝導性樹脂組成物を含むことを特徴とする電子部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性に優れる樹脂組成物、これを用いた熱伝導硬化物および電子部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部材の小型化及び高密度化により単位体積あたりの発熱密度が増大しており、各構成部材を接着する熱伝導接着剤の熱伝導率の向上が求められている。熱伝導接着剤の熱伝導率向上には、高熱伝導性のフィラーを充填する方法があげられる。例えば特許文献1では、高熱伝導性のフィラーを配合し、そのフィラーの粒径、形状を制御することにより硬化物の高熱伝導率化を達成している。
しかしながら、熱伝導率向上のためにエポキシ化合物のモノマーに熱伝導性フィラーを多量に混合すると、樹脂組成物の粘度が著しく増大するため、作業性の悪化や接着力の低下が問題となる。
【0003】
そのため、熱伝導性フィラーの高充填化による高熱伝導率化には限界があることから、マトリックスであるエポキシ樹脂自身の熱伝導性向上による硬化物の熱伝導率向上が求められている。
例えば、特許文献2ではビフェノール型エポキシ樹脂および種々のメソゲン骨格を含むエポキシ樹脂による熱伝導率の改善方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-174906号公報
【文献】特開平11-323162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の方法では、モノマーのエポキシ樹脂組成物自体の粘度が増大してしまうことから、熱伝導性フィラーを添加する場合には、溶剤を添加して低粘度化させる必要があった。そのため、接着剤としては取り扱い性が悪化するものとなっていた。また、硬化物の熱伝導率や接着力も十分な値とはいえず、さらなる向上が求められていた。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みて創案されたものであり、熱伝導性に優れる接着層を形成するための樹脂組成物、これを用いた熱伝導硬化物および電子部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
【0008】
エポキシ化合物(A)、アミン硬化剤(B)、および熱伝導性フィラー(C)を含有し、前記エポキシ化合物(A)が液状であり、前記アミン硬化剤(B)がベンゾオキサゾール骨格を含むことを特徴とする樹脂組成物。
【0009】
前記樹脂組成物は、25℃及び5rpmでの粘度が10Pa・s~300Pa・sであることが好ましい。
【0010】
熱伝導性フィラー(C)はアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、炭化ケイ素、カーボン、ダイヤモンド、銀、金、銅、ニッケルおよびアルミニウムからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。また、熱伝導性フィラー(C)が球状であることが好ましく、熱伝導性フィラー(C)の含有量は樹脂組成物全体積に対し40体積%~75体積%であることが好ましい。
【0011】
アミン硬化剤(B)が5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾールであることが好ましい。
【0012】
エポキシ化合物(A)として、3官能以上のエポキシ化合物をエポキシ化合物(A)全体に対して10重量%以上含有することが好ましい。
【0013】
エポキシ化合物(A)とアミン硬化剤(B)の質量比が(A)/(B)=90/10~60/40であることが好ましい。また、沸点200℃以下の化合物を含まないことが好ましい。
【0014】
前記の樹脂組成物を含むことを特徴とする熱伝導接着剤または電子部材。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂組成物は、接着性を維持しつつ、熱伝導率の高い硬化物を形成することが出来る。また、本発明の樹脂組成物を用いた電子部材も優れた熱伝導性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<エポキシ化合物(A)>
本発明で用いるエポキシ化合物(A)は、室温(25℃)で液状であることが必要である。10℃以下でも液状であることが好ましく、0℃以下でも液状であることがより好ましい。エポキシ化合物(A)が液状であることで、樹脂組成物の熱伝導性を向上させることができる。下限は特に限定されず、工業的には-20℃以上であれば十分である。
【0017】
エポキシ化合物(A)としては、室温(25℃)で液状のものであれば特に限定されず、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールAD、テトラメチルビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、テトラフルオロビスフェノールA等のビスフェノール類をグリシジル化したビスフェノール型エポキシ化合物;ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等の2価フェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物;1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、4,4-(1-(4-(1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル)フェニル)エチリデン)ビスフェノール等のトリスフェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物;1,1,2,2,-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等のテトラキスフェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物;フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ビスフェノールAノボラック、臭素化フェノールノボラック、臭素化ビスフェノールAノボラック等のノボラック類をグリシジル化したノボラック型エポキシ化合物;カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ベンゼントリオール等の多価フェノール類をグリシジル化したエポキシ化合物;グリセリンやポリエチレングリコール等の多価アルコールをグリシジル化した脂肪族エーテル型エポキシ化合物;p-オキシ安息香酸、β-オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸をグリシジル化したエーテルエステル型エポキシ化合物;フタル酸、テレフタル酸等のポリカルボン酸をグリシジル化したエステル型エポキシ化合物;4,4-ジアミノジフェニルメタン、メタキシリレンジアミン、アミノフェノール等のアミン化合物のグリシジル化物;トリグリシジルイソシアヌレート等のアミン型エポキシ化合物等のグリシジル型エポキシ化合物;3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環族エポキサイド等があげられる。これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。これらの中で、硬化物の接着性や耐熱性が優れることからビスフェノールAをグリシジル化したエポキシ化合物、ビスフェノールFをグリシジル化したエポキシ化合物、アミノフェノール型エポキシ化合物、メタキシリレンジアミン型エポキシ化合物またはフェノールノボラック型エポキシ化合物が好ましい。
【0018】
エポキシ化合物(A)の粘度は特に限定されないが、0.1Pa・s~20Pa・sの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5Pa・s~15Pa・sの範囲であり、さらに好ましくは1Pa・s~10Pa・sの範囲である。エポキシ化合物(A)の粘度が0.1Pa・s未満では、樹脂組成物硬化前にエポキシ樹脂がブリードアウトしてしまうおそれがあり、20Pa・sを上回ると樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難になるおそれがある。
【0019】
エポキシ化合物(A)全体を100質量%としたときに、1分子中に3官能(エポキシ基を3価有する)以上有する多官能エポキシ化合物を10質量%以上含有することが好ましい。より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上である。3官能以上の多官能エポキシ化合物を10質量%以上含有することで、架橋密度が向上し、熱伝導率をより高めることができる。3官能以上の多官能エポキシ化合物としては、メタキシリレンジアミン型エポキシ化合物や、アミノフェノール型エポキシ化合物が好ましい。これら多官能エポキシ化合物は単独で使用しても2種以上を併用しても良い。
【0020】
<アミン硬化剤(B)>
本発明で用いるアミン硬化剤(B)はベンゾオキサゾール骨格を含むことが必要である。アミン硬化剤(B)は、室温で液状のエポキシ化合物と反応しエポキシ樹脂硬化物を形成する。アミン硬化剤(B)がベンゾオキサゾール骨格を含む硬化剤であることにより、エポキシ樹脂の硬化物中にベンゾオキサゾール骨格が導入され、マトリックスとなるエポキシ樹脂の熱伝導率が著しく向上する。そのため樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が向上することになる。
【0021】
アミン硬化剤(B)の種類としては、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、5-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール、2,2’-p-フェニレンビス(5-アミノベンゾオキサゾール)、2,2’-p-フェニレンビス(6-アミノベンゾオキサゾール)、1-(5-アミノベンゾオキサゾロ)-4-(6-アミノベンゾオキサゾロ)ベンゼン、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(4,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,4’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:5,4-d’]ビスオキサゾール、2,6-(3,3’-ジアミノジフェニル)ベンゾ[1,2-d:4,5-d’]ビスオキサゾール等が挙げられる。これらを単独で、または2種以上を併用することができる。これらの中でも、硬化物の熱伝導率やアミン硬化剤(B)自体の製造の容易さから、5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾールまたは6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが好ましい。また、アミン硬化剤(B)はエポキシ等を付加させたアミンアダクトとした化合物も使用することができる。
【0022】
アミン硬化剤(B)の形状は特に限定されず、矩形状、多角形状、立方体状、楕円状、球状、針状、平板状、ひも状または鱗片状のいずれでもよい。好ましい形状は針状または矩形状である。前記好ましい形状を有することで、液状のエポキシ化合物(A)と反応し、エポキシ樹脂の硬化物を形成する際、熱伝導性フィラー(C)の粒子間に沿ってアミン硬化剤(B)が充填される。その後の硬化反応の際にエポキシ樹脂(A)が長径の方向に配向して硬化成長するため、熱伝導性フィラー(C)間の熱伝導パスが形成され、結果として硬化物全体の熱伝導率が高められると推測される。
【0023】
アミン硬化剤(B)のアスペクト比(アミン硬化剤(B)の短径に対する長径の長さの比)が1.3以上あることが好ましく、より好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは1.7以上であり、特に好ましくは2以上である。アスペクト比を1.3以上とすることで樹脂組成物の硬化物の熱伝導率を向上することができる。アスペクト比の上限は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、より好ましくは18以下であり、さらに好ましくは4未満であり、特に好ましくは3以下である。
【0024】
また、貯蔵安定性の観点から、アミン硬化剤(B)のアスペクト比(アミン硬化剤(B)の短径に対する長径の長さの比)が1.3以上あることが好ましく、より好ましくは1.5以上であり、さらに好ましくは1.7以上であり、特に好ましくは1.8以上である。アスペクト比の上限は特に限定されないが、15以下であることが好ましく、より好ましくは4未満であり、さらに好ましくは3以下であり、特に好ましくは2以下である。4未満であることで、熱伝導性フィラー(C)が球状である場合に相溶性が特に良好となり、粘度を作業性の良好な値に保つことが可能となるから、優れた貯蔵安定性を示す傾向がある。
【0025】
アミン硬化剤(B)の長径としては、50μm~1000μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは100μm~800μmであり、さらに好ましくは200μm~600μmである。長径が50μm未満であれば前述の熱伝導率向上の効果が十分でないことがあり、1000μmを超えれば塗工膜でアミンが面方向に配向してしまい、硬化物の厚み方向の熱伝導率が不充分になってしまうおそれがある。
【0026】
アミン硬化剤(B)の融点は、60℃以上400℃以下が好ましく、80℃以上380℃以下がより好ましく、100℃以上350℃以下がさらに好ましい。融点が低すぎる場合は、溶出しやすいため保存安定性が損なわれる虞があり、また高すぎる場合は、硬化する際に高温、長時間が必要になり、操作性が悪くなる。
【0027】
また、本発明ではベンゾオキサゾール骨格を含有する硬化剤(B)以外にも、一般に使用されている硬化剤を本発明の効果を損ねない範囲で併用しても良い。かかる硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等が例示される。具体的には、アミン系硬化剤としては、脂肪族ジアミン類、脂肪族ポリアミン類、芳香環を含む脂肪族ポリアミン類、脂環式または環状ポリアミン類、芳香族第一アミン類等が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、脂肪族酸無水物類、脂環式酸無水物類、芳香族酸無水物類、ハロゲン系酸無水物等類等が挙げられる。フェノール系硬化剤としては、トリスフェノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等が例示される。これらの硬化剤を用いる場合の含有量は、樹脂組成物全体を100質量%としたとき、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下である。多すぎると樹脂組成物全体に対するベンゾオキサゾール骨格を有する硬化剤の含有量が相対的に低下してしまい、樹脂組成物の熱伝導率が悪化するおそれがある。
【0028】
エポキシ化合物(A)とアミン硬化剤(B)の混合比については、通常、エポキシ化合物(A)のエポキシ基1当量に対し、アミン硬化剤(B)のアミン当量(アミン当量/エポキシ当量)として0.2~1.2当量の範囲であることが樹脂組成物の硬化性の観点から好ましい。より好ましくは0.4以上であり、さらに好ましくは0.6以上である。また、1.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.8以下である。
【0029】
エポキシ化合物(A)とアミン硬化剤(B)の質量比は、(A)/(B)=90/10~60/40であることが好ましく、より好ましくは85/15~65/35であり、さらに好ましくは80/20~70/30である。上記範囲内とすることで樹脂組成物の硬化物の優れた熱伝導性が発現する。
【0030】
<熱伝導性フィラー(C)>
熱伝導性フィラー(C)としては、熱伝導性を有するフィラーであれば限定されない。例えば、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、炭化ケイ素、カーボン、ダイヤモンド、銀、金、銅、ニッケル、アルミニウム等の導電性の無機充填剤を、単独で使用または2種以上を併用することができる。なかでも、電気絶縁性の無機充填剤を使用することが好ましい。電気絶縁性の無機充填剤を使用することで、例えば電子機器の内部に使用した場合における熱放散の促進と、部品間短絡防止とを両立することができる。具体的には、例えば、窒化アルミニウム、アルミナ、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛等が挙げられる。なかでも、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、またはアルミナが好ましい。
【0031】
熱伝導性フィラー(C)の形状としては、規則的な形状又は不規則な形状のいずれのものを使用することができる。前記形状としては、例えば多角形状、立方体状、楕円状、球状、針状、平板状、鱗片状またはこれらの混合物や凝集物が挙げられる。なかでも球状のものを使用することが好ましい。球状の熱伝導性フィラー(C)を使用することで、樹脂組成物の粘度が低くなり取り扱いが良好となる。熱伝導性フィラー(C)のアスペクト比としては1.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.3以下であり、さらに好ましくは1.1以下である。
【0032】
熱伝導性フィラー(C)の平均粒子径は特に限定されないが、1μm~100μmであることが好ましく、より好ましくは2μm~80μmであり、さらに好ましくは3μm~60μmであり、特に好ましくは5~50μmである。平均粒子径が1μm未満であると、樹脂組成物の粘度が高くなり作業性が悪化するといったことや、熱伝導率悪化のおそれがある。平均粒子径が100μmを超えると、樹脂組成物の塗布最小膜厚が増大することにより塗膜の熱抵抗悪化のおそれがある。
【0033】
熱伝導性フィラー(C)の添加量としては、樹脂組成物の全体積に対し40体積%~75体積%であることが好ましく、より好ましくは45体積%~70体積%であり、さらに好ましくは55体積%~65体積%である。熱伝導性フィラー(C)の添加量が40体積%未満では、熱伝導性フィラー(C)の充填量が低いことからフィラーの熱伝導率が発現されずに硬化物の熱伝導率が著しく低下するおそれがあり、75体積%を超えると樹脂組成物の粘度が高すぎることによる作業性の悪化や、接着力が悪化するおそれがある。
【0034】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、エポキシ化合物(A)、アミン硬化剤(B)、および熱伝導性フィラー(C)を含有し、前記エポキシ化合物(A)が液状であり、前記アミン硬化剤(B)がベンゾオキサゾール骨格を含む樹脂組成物である。
【0035】
樹脂組成物の粘度は、10Pa・s~300Pa・sであることが好ましく、より好ましくは15Pa・s~200Pa・sであり、さらに好ましくは20Pa・s~100Pa・sである。樹脂組成物の粘度が10Pa・s未満であると、樹脂組成物塗布時の作業性の悪化やブリードアウトのおそれがあり、300Pa・sを上回ると取り扱いが困難であったり、均一な硬化物の形成が出来ずに熱伝導率が悪化してしまうおそれがある。
【0036】
本発明では、必要により、熱伝導率、反応性、耐熱性、強靱性、貯蔵安定性等を低下させない程度のエポキシド反応性希釈剤を添加しても良い。反応性希釈剤の例としては、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキルジグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、アルキレングリコールジグリシジルエーテル、スチレンオキサイド、オクチレンオキサイド及びこれらの混合物等が挙げられる。反応性希釈剤の含有量は、樹脂組成物全体を100質量%としたときに、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0037】
本発明では、樹脂組成物の粘度調整のため、硬化温度より低い温度で揮発する有機溶剤を添加しても構わない。有機溶剤としては、沸点200℃以下のものが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、ソルベッソ(登録商標)類、アイソパー(登録商標)類、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、イソホロン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコールモノアセテート、ジメチルホルムアミド、γ-ブチルラクトン、n-メチルピロリドンなどが挙げられる。有機溶剤は溶剤揮発後の空隙形成による硬化物の接着性や熱伝導率悪化のおそれや、有機溶剤揮散による作業環境への悪影響のおそれがあることから、含まないことが好ましい。好ましくは樹脂組成物全体を100質量%としたときに、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、0質量%であっても差し支えない。
【0038】
この他、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤、ヒンダードフェノール系やリン系などの酸化防止剤、高級脂肪酸およびワックス等の離型剤、ハロゲン、リン化合物等の難燃性付与剤、消泡剤、着色剤等の添加剤も必要に応じ用いることができる。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、加熱することによりベンゾオキサゾール骨格を有するアミン硬化物とエポキシ化合物が反応し、エポキシ硬化樹脂として接着層を形成する。加熱する温度は、エポキシ化合物(A)およびアミン化合物(B)の種類にもよるが、通常80℃~250℃の範囲であり、好ましくは100℃~200℃の範囲であり、より好ましくは120℃~160℃の範囲である。また、反応(硬化)時間も適宜設定することができ、通常は0.1~6時間であり、好ましくは0.5~5時間であり、より好ましくは1~3時間程度である。
【実施例】
【0040】
以下に実施例にて本発明の樹脂組成物を具体的に示すが、本発明は、これらに限定されるものではない。実施例および比較例中に単に部とあるのは質量部を示す。
【0041】
(実施例1)
エポキシ化合物1を13質量部、エポキシ化合物2を3質量部、アミン1を5質量部、熱伝導性フィラー1を100質量部フラスコに入れ、十分に攪拌、混合することにより樹脂組成物1を作製した。得られた樹脂組成物1の熱硬化物の熱伝導性を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2~11、比較例1~3)
表1、表2に記載の各成分を各質量部配合し、実施例1と同様に十分に攪拌、混合することにより樹脂組成物2~14を作製した。得られた樹脂組成物2~14の熱硬化物の熱伝導性を測定した。結果を表1、2に示す。
【0043】
<熱硬化物の作製>
実施例および比較例で得られた樹脂組成物を150℃に設定した金型に投入し、150℃で2時間熱プレス成形することにより、熱硬化物の試験片を得た。
【0044】
<熱伝導率の測定>
実施例および比較例で得られた樹脂組成物の熱硬化物の試験片について、それぞれ25℃においての熱拡散率・比熱・密度を測定し、下式から熱伝導率を算出した。
(式):熱伝導率λ(W/mK)=α・Cp・d
α:熱拡散率(m2/s)、Cp:比熱(J/(kg・K)、d:密度(kg/m3)
熱拡散率αは、NETZSCH社製キセノンフラッシュアナライザーLFA467Hyperflashを用て、キセノンフラッシュ法により測定した。密度dはアルキメデス法により測定した。また、比熱Cpについては日立ハイテクサイエンス社製DSC7020を用いて、DSC法により測定した。
【0045】
<粘度の測定>
粘度については、実施例および比較例で得られた樹脂組成物0.4mlを、25℃の恒温水で温度制御した東機産業社製E型粘度計TV-25を用い、コーンロータ3°×R12で測定した。回転数5rpmでの値を測定値とした。
<接着強度の測定>
JIS-K6850(1990)に従い、せん断接着強度を測定した。25mm×100mm×1.6mmのアルミ片の片側12.5mmに対し樹脂組成物を塗布し、もう一枚同型のアルミ片を貼り合わせたうえ、150℃×2時間加熱し硬化させ試験片(アルミ片/樹脂組成物/アルミ片)を作製した。これを引張速度10mm/分で接着面に対し平行に引っ張り、破断した際の最大荷重を接着面積で割ることにより接着強度を求めた。
【0046】
【0047】
【0048】
なお、表中の原材料詳細は以下の通りである。
<エポキシ化合物(A)>
エポキシ化合物1:jER(登録商標)828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)、2官能エポキシ化合物、室温(25℃)で液状
エポキシ化合物2:iER(登録商標)630(アミノフェノール型エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)、3官能エポキシ化合物、室温(25℃)で液状
エポキシ化合物3:TETRAD(登録商標)-X(メタキシリレンジアミン型4官能エポキシ樹脂、三菱ガス化学社製)、室温(25℃)で液状
エポキシ化合物4:jER(登録商標)806(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)、2官能エポキシ化合物、室温(25℃)で液状
エポキシ化合物5:エポライト(登録商標)1600(1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、共栄社化学社製)、2官能エポキシ化合物、室温(25℃)で液状
<アミン硬化剤(B)>
アミン1:5-アミノ-2-(p-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール
アミン2:6-アミノ-2-(m-アミノフェニル)ベンゾオキサゾール
アミン3:ジシアンジアミド
アミン4:m-フェニレンジアミン
アミン5:4,4’-ジアミノジフェニルメタン
<熱伝導性フィラー(C)>
フィラー1:AS-400(丸み状アルミナ、平均粒径13μm、昭和電工社製)
フィラー2:CB-A50BC(球状アルミナ、平均粒径50μm、昭和電工社製)
フィラー3:AO-509(球状アルミナ、平均粒径10μm、アドマテックス社製)
フィラー4:AO-502(球状アルミナ、平均粒径0.7μm、アドマテックス社製)
フィラー5:SP-3(鱗片状窒化ホウ素、デンカ社製)
【0049】
表1、表2に記載の結果から分かるとおり、ベンゾオキサゾール骨格を有する硬化剤を含むアミン硬化剤を用いた実施例1~11の硬化物は、比較例1~3の硬化物と比較して優れた熱伝導率と接着強度の両方を発揮した。