(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】工事騒音監視装置
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01H3/00 A
(21)【出願番号】P 2019202336
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】小柳 慎一郎
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-186077(JP,A)
【文献】特開2012-047483(JP,A)
【文献】国際公開第2011/036815(WO,A1)
【文献】米国特許第05805457(US,A)
【文献】特開2016-020841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事現場の作業騒音を取得する取得手段と、
該取得手段で取得した
作業騒音から複数種類の音質を抽出して、それぞれ音質評価値を付与する音質分析手段と、
前記音質
評価値ごと
に重み付けを行い、重み付けられた音質評価値
の合計値による評価及び
作業騒音の大きさに基づく評価を報知する報知手段と、
を備えた工事騒音監視装置。
【請求項2】
取得した
作業騒音から抽出される音質は、
作業騒音の変動の強さを示す第一音質と、
作業騒音の鋭さを示す第二音質と、
作業騒音の粗さを示す第三音質と、純音ノイズ比を示す第四音質とを含む請求項1に記載の工事騒音監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事に伴う騒音を監視する工事騒音監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工事等の騒音を監視する騒音監視装置が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
また、騒音の各騒音物理量から各音質項目を求め、各音質項目に基づいて騒音を総合的に評価する装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-298568号公報
【文献】国際公開第2009/139052号公報
【文献】特開平6-186077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、音の総合評価と、その音の不快さとが必ずしも一致するものではなかった。
【0006】
本発明は、取得した音を音質毎に評価することが可能な工事騒音監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
態様1は、音を取得する取得手段と、該取得手段で取得した音から複数種類の音質を抽出して、それぞれ音質評価値を付与する音質分析手段と、前記音質ごとの音質評価値及び音の大きさに基づく評価を報知する報知手段と、を備えた工事騒音監視装置。
【0008】
すなわち、工事現場等で取得した音から音質を抽出して音の不快さに関連した音質評価値を付与することで、音質毎の音の不快さの評価が可能となる。
【0009】
これにより、不快さの高い音質から音の発生源の特定が可能となり、不快さの高い音質の低減対策が容易となる。
【0010】
態様2は、取得した音から抽出される音質は、音の変動の強さを示す第一音質と、音の鋭さを示す第二音質と、音の粗さを示す第三音質と、純音ノイズ比を示す第四音質とを含む態様1に記載の工事騒音監視装置。
【0011】
これにより、各音質の音質評価値から音の発生源の特定が可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本態様によれば、取得した音を音質毎に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る工事騒音監視装置を示すブロック図である。
【
図2】本実施形態に係る工事現場を示す模式図である。
【
図3】本実施形態に係る工事騒音監視装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】本実施形態に係る工事騒音監視装置で入力した音圧信号から各音質を抽出するイメージを示す図である。
【
図5】本実施形態で用いるフランクチュエーションストレングス(音の変動の強さ)の算出に用いる式を示した図である。
【
図6】本実施形態で用いるシャープネス(音の鋭さ)の算出に用いる式を示した図である。
【
図7】本実施形態で用いるラフネス(音の粗さ)の算出に用いる式を示した図である。
【
図8】本実施形態で用いるトーン・トゥ・ノイズレシオ(純音ノイズ比)の算出に用いる式を示した図である。
【
図9】本実施形態に係る工事騒音監視装置の報知部に示される表示の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係る工事騒音監視装置10を図面に従って説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る工事騒音監視装置10を示すブロック図であり、工事騒音監視装置10は、
図2に示すように、工事現場100に設置される。この工事騒音監視装置10は、
図1に示したように、制御部12を中心に構成されており、制御部12には、取得部14と、報知部16と、入力部18とが接続されている。
【0016】
制御部12は、一例としてパーソナルコンピュータで構成されており、制御部12は、例えば媒体読み書き装置を用いて記録媒体に書き込まれたプログラムを読み込んでメモリ20に記憶する。そして、制御部12は、メモリ20に記憶されたプログラムに従ってCPU22(Central Processing Unit)が動作することで、工事騒音監視装置10として機能する。
【0017】
メモリ20には、後述する各音質の音質評価値に重み付けを行う為の定数が各々の音質に対応して記憶されている。また、メモリ20には、後述する合計値の判定に用いる合計閾値が記憶されている。さらに、メモリ20には、後述する各音質の判定に用いる音質閾値が各々の音質に対応して記憶されている。各音質をどのように抽出するかは後述する。
【0018】
取得部14は、一例としてマイクロホン102を備え(
図2参照)、音を取得するとともに取得した音を電気信号である音圧信号として制御部12に出力する。
【0019】
報知部16は、一例として液晶ディスプレイで構成されており、制御部12からの出力に応じた表示を行う。なお、この報知部16は、スピーカやブザー等の出力部、他のディスプレイ等の表示部、又は発光ダイオード等の発光部で構成することができる。また、現場責任者や作業員が携帯するスマートフォンなどの携帯端末に対して制御部12からの出力を送信する送信部で構成してもよい。
【0020】
入力部18は、キーボード及びマウスで構成されており、ユーザにより入力された情報を制御部12へ出力する。
【0021】
入力部より入力する情報としては、一例として、
図2に示したように、工事現場100内で使用するバックホー104、ポンプ車106、トラック108、ブルドーザ110等の重機名が挙げられる。また、入力部より入力する情報としては、一例として、杭の打ち込み、ポンプ車106によるコンクリートの打設等の作業内容などが挙げられる。
【0022】
この工事騒音監視装置10は、工事現場100に設けられ工事現場100の作業騒音を監視する。
【0023】
具体的に説明すると、工事騒音監視装置10の制御部12を構成するパーソナルコンピュータは、工事現場100の現場事務所112に配置される。
【0024】
また、制御部12に接続された取得部14のマイクロホン102は、工事現場100に設置され作業現場で発生する騒音を取得する。取得部14のマイクロホン102の設置場所としては、敷地境界等の現場周囲が挙げられる。取得部14のマイクロホン102は、単数であっても複数であってもよい。
【0025】
報知部16を構成する液晶ディスプレイは、現場事務所112に設けられ、監視結果が表示される。また、報知部16を構成するディスプレイ等の表示部を作業現場に設け、現場責任者や作業員が監視結果を目視できるようにしてもよい。
【0026】
(フローチャート)
図3は、工事騒音監視装置10の動作を示すフローチャートであり、工事騒音監視装置10の制御部12が行う処理が示されている。
【0027】
すなわち、制御部12のCPU22がメモリ20に記憶されたプログラムに従って動作を開始すると、制御部12は、取得部14が取得した音を音圧信号として入力する(S1)。
【0028】
そして、
図4にも示すように、入力した音圧信号120を例えば音質122毎に分類するなどして、複数種類の音質を抽出して分析し(S2)、それぞれ音質122に対して音質評価値を付与する(S3)。なお、
図4は、入力した音圧信号から各音質を抽出するイメージを示す図である。
【0029】
入力した音圧信号から抽出して分析する音質は、音の変動の強さを示す第一音質30と、音の鋭さを示す第二音質32と、音の粗さを示す第三音質34と、純音ノイズ比を示す第四音質36とが挙げられる。
【0030】
なお、本実施形態では、入力した音圧信号から抽出する音質として、第一音質30、第二音質32、第三音質34、及び第四音質36を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。この抽出する音質は、工事現場で行われる作業内容に応じて、入力部18からの入力に基づいて、適宜選択・改変されるものとする。
【0031】
(第一音質)
第一音質30が示す音の変動強度は、音の振幅エンベロープの変動や周波数の変動によって生ずる。この第一音質30は、一例として、
図5に示すように、音の変動強度の尺度であるフランクチュエーションストレングスを計算する為の式を用い、入力した音圧信号より算出する。
【0032】
図5において、f
modは変調周波数、mは変調度、Lは音圧レベルを示す。また、変調周波数5Hz、変調度1で振幅変調された40dBの1KHz純音のフランクチュエーションストレングスを1vibとして定義する。
【0033】
これにより、取得部14で取得した音から第一音質30が抽出され分析されるとともに、第一音質30が数値化されることで、数値の大きさで示された音質評価値が付与される。
【0034】
(第二音質)
第二音質32が示す音の鋭さやかん高さは、音のエネルギーが集中するスペクトル上での場所と、その場所におけるエネルギーの大きさに依存する。この第二音質32は、一例として、
図6に示すように、シャープネスを計算する為の式を用い、入力した音圧信号より算出する。
【0035】
このシャープネスの計算式は、臨界帯域ごとのラウドネスに、高周波数になるほど値が大きくなる鋭さの感覚特性を反映した重みを掛け、全帯域にわたって積算した後、音全体のラウドネスで除してシャープネスの値を求める。
【0036】
図6において、N’(Z)は臨界帯域ごとのラウドネス、zは臨界帯域番号、cは定数、g(z)はシャープネスの重みを示す。この計算式の分子では、臨界帯域ごとのラウドネスにシャープネスの重みg(z)を掛けたものを、16kHzまでの可聴周波数帯域を重なり合わない24個の臨界帯域にわたって積算している。
【0037】
これにより、取得部14で取得した音から第二音質32が抽出され分析されるとともに、第二音質32が数値化されることで、数値の大きさで示された音質評価値が付与される。
【0038】
(第三音質)
第三音質34が示す音の粗さは、音の振幅エンベロープの変動や周波数の変動により生ずる。この第三音質34は、一例として、
図7に示すように、ラフネスを計算する為の式を用い、入力した音圧信号より算出する。
【0039】
図7において、f
modは変調周波数、f
cは搬送波周波数、mは変調度、Lは音圧レベル、Aは搬送周波数ごとに変調周波数と粗さの関係を表した係数を示す。また、変調周波数70Hz、変調度1で振幅変調された40dBの1kHz純音のラフネスを1asperと定義する。
【0040】
これにより、取得部14で取得した音から第三音質34が抽出され分析されるとともに、第三音質34が数値化されることで、数値の大きさで示された音質評価値が付与される。
【0041】
(第四音質)
第四音質36が示す純音ノイズ比は、周波数スペクトル上で突出したエネルギーをもつ狭帯域の音の強さを示す。
【0042】
この第四音質36は、一例として、
図8に示すように、トーン・トゥ・ノイズレシオを計算する為の式を用い、入力した音圧信号より算出する。
【0043】
図8において、L
tは狭帯域音の音圧レベル、L
nはそれ以外のノイズ成分の音圧レベルを示し、その差がトーン・トゥ・ノイズレシオとなる。
【0044】
これにより、取得部14で取得した音から第四音質36が抽出され分析されるとともに、第四音質36が数値化されることで、数値の大きさで示された音質評価値が付与される。
【0045】
そして、各音質30、32、34、36に付与された音質評価値ならびに音の大きさに、予めメモリに記憶された対応する定数を乗算して重み付けを行い、重み付けが行われた各音質評価値を合計して合計値を求める。そして、この合計値と予めメモリに記憶された合計閾値とを比較して閾値判定を行う(S4)。このステップS4で、合計値が合計閾値を超えていなければ、各ステップS1~S4を繰り返す一方、合計値が合計閾値を超えていた場合には、ステップS5へ移行する。
【0046】
ここで、合計閾値は、構成する音質の大きさが異なる複数の騒音サンプルを多数の被験者に聞かせ、多くの被験者が不快と感じた騒音サンプルより算出した合計値を合計閾値として定めた。また、合計閾値を定めるにあたっては、各種心理指標を参考として取り入れている。
【0047】
ステップS5では、各音質30、32、34、36に付与された音質評価値並びに音の大きさと、重み付けが行われた各音質評価値を合計した合計値とを報知部16に表示するとともに、音質30、32、34、36ごとの音質評価値に基づく評価を報知部16に表示して報知を行った後(S5)、終了する。また、評価結果が改善することを確認するため、上記のプロセスを新たに開始する。
【0048】
具体的に説明すると、第一音質30の音質評価値と、予めメモリに記憶された対応する第一音質閾値とを比較し、第一音質30の音質評価値が第一音質閾値を超えている場合、音の変動の強さが大きいと判断する。
【0049】
この場合、取得した音に例えば「ドコドコ」音が混在し、この「ドコドコ」音が不快と感じるレベルに達したと考えられる。このため、その対応案として「ドコドコ」音を発生し得るポンプ車の作動停車やポンプ車の移動を促す表示を報知部16で行う。
【0050】
図9は、報知部16に示された表示の一例であり、報知部16には、ポンプ車106の画像が示されるとともに、不快音を言葉で表現した「ドコドコ音」の不快音表示が示される。
【0051】
また、第二音質32の音質評価値と、予めメモリに記憶された対応する第二音質閾値とを比較し、第二音質32の音質評価値が第二音質閾値を超えている場合、音の鋭さが大きいと判断する。
【0052】
この場合、取得した音に例えば「キンキン」音が混在し、この「キンキン」音が不快と感じるレベルに達したと考えられる。このため、その対応案として「キンキン」音を発生し得る金属打撃や鉄板上の重機の走行停止を促す表示を報知部16で行う。
【0053】
さらに、第三音質34の音質評価値と、予めメモリに記憶された対応する第三音質閾値とを比較し、第三音質34の音質評価値が第三音質閾値を超えている場合、音の粗さがが粗いと判断する。
【0054】
この場合、取得した音に例えば「ガーガー」音が混在し、この「ガーガー」音が不快と感じるレベルに達したと考えられる。このため、その対応案として「ガーガー」音を発生し得るバックホーの停止や移動を促す表示を報知部16で行う。
【0055】
そして、第四音質36の音質評価値と、予めメモリに記憶された対応する第四音質閾値とを比較し、第四音質36の音質評価値が第四音質閾値を超えている場合、ノイズが大きいと判断する。
【0056】
この場合、取得した音に例えば「ブーン」音が混在し、この「ブーン」音が不快と感じるレベルに達したと考えられる。このため、その対応案として「ブーン」音を発生し得るトラックのエンジン停止や移動を促す表示を報知部16で行う。
【0057】
ここで、各音質閾値は、対象とした音質30、32、34、36の大きさが異なる複数の騒音サンプルを多数の被験者に聞かせ、多くの被験者が不快と感じた騒音サンプルに含まれる音質の大きさを各音質閾値として定めた。また、各音質閾値を定めるにあたっては、各種心理指標を参考として取り入れている。
【0058】
また、各音質30、32、34、36に対する各対応案は、具体的な対応案を示すための一例であり、騒音監視する工事現場の作業で用いられる重機等に応じて適切な対応案を表示するものとする。
【0059】
(作用・効果)
以上の構成に係る本実施形態の作用を説明する。
【0060】
工事現場等で取得した音から音質を抽出して音の不快さに関連した音質評価値を付与することで、音質毎の音の不快さを評価することが可能となる。これにより、取得した音を、音質毎に評価することが可能となる。
【0061】
ここで、従来から行われている騒音レベル(A特性音圧レベル)による騒音評価と実際に人が感じる不快感とは必ずしも一致せず、騒音レベル(A特性音圧レベル)が騒音基準を満足していても近隣住民から改善要望が出されることがある。
【0062】
しかし、本実施形態では、騒音レベルだけでは評価が難しい変動騒音の不快感を定量化して良否を判断することが可能となる。また、判断結果を現場責任者や作業員に警告することで作業内容の調整が可能となり、現場周辺環境への影響を低減することが可能となる。
【0063】
そして、不快さの高い音質から音の発生源の特定が可能となり、不快さの高い音質の低減対策が容易となる。
【0064】
したがって、騒音による不快感の適切な低減対策が可能となる。
【0065】
また、音の変動の強さを示す第一音質30と、音の鋭さを示す第二音質32と、音の粗さを示す第三音質34と、純音ノイズ比を示す第四音質36とを用いて、取得した音を評価することができる。
【0066】
これにより、各音質30、32、34、36の音質評価値から音の発生源の特定が可能となる。
【符号の説明】
【0067】
10 工事騒音監視装置
12 制御部
14 取得部
16 報知部
30 第一音質
32 第二音質
34 第三音質
36 第四音質