IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイソー株式会社の特許一覧

特許7415298電極用スラリー組成物、電極、及び蓄電デバイス
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電極用スラリー組成物、電極、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240110BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240110BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240110BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20240110BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240110BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20240110BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/04 A
H01M4/02 Z
H01M4/62 Z
H01G11/38
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019069013
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020167114
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】進藤 大明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 孝
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/122947(WO,A1)
【文献】特開2013-170203(JP,A)
【文献】特開2012-216347(JP,A)
【文献】国際公開第2017/168947(WO,A1)
【文献】特開2013-175701(JP,A)
【文献】特開2017-117822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/00-10/0587
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と重量平均分子量が250万以下であるエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体(ただし、架橋体を除く)を有し、活物質100質量部に対してエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体0.01~1質量部を含有する電極用スラリー組成物。
【請求項2】
エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体が下記一般式(2)由来の構成単位と、下記一般式(1)由来の構成単位及び/又は下記一般式(3)由来の構成単位を含有するポリエーテル重合体である請求項1に記載の電極用スラリー組成物。
式(1):
【化1】
[式中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CHO(CR)である。R、R、Rは水素原子または-CHO(CHCHO)であり、nおよびRはR、R、Rの間で異なっていてもよい。Rは炭素数1~12のアルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、nは0~12の整数である。]
式(2):
【化2】
式(3)
【化3】
[式中、Rはエチレン性不飽和基を有する基である。]
【請求項3】
エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体が式(1)由来の構成単位を1~50モル%と、式(2)由来の構成単位を30~98.5モル%と、式(3)由来の構成単位を0.5~15モル%を含有するポリエーテル重合体である請求項2に記載の電極用スラリー組成物。
【請求項4】
溶媒として水を用いる請求項1~3いずれかに記載の電極用スラリー組成物。
【請求項5】
更に、導電助剤、及びバインダーを含有する請求項1~4いずれかに記載の電極用スラリー組成物。
【請求項6】
請求項1~5いずれかに記載の電極用スラリー組成物を用いて作製される電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池などの二次電池、電気化学キャパシタなどといった蓄電デバイスにおける電極に用いられる電極用スラリー組成物、該電極用スラリー組成物を用いて作製される電極、並びに該電極を備える蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタといった蓄電デバイスは、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器に用いられている。最近では環境保護への意識の高まりや関連法の整備により、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池としての応用も進んできている。
【0003】
また、これらの応用が進むと同時に、蓄電デバイスに高性能化が求められており、電極等の部材の改良が進められている。このような蓄電デバイスに使用される電極は、通常、活物質と、導電助剤、バインダー、溶媒からなる電極用スラリーを集電体上に塗布、乾燥して得られる。
【0004】
そこで、近年では、バインダーの改良が試みられている。バインダーを改良することにより、活物質同士の結着性、活物質と導電助剤との結着性、及び活物質と集電体との結着性を向上させ、電気的特性(例えば、サイクル特性、低温での出力特性、低抵抗化)を向上させたりすることが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、電極材料に合わせた増粘剤も検討されており、増粘剤によっては電極用スラリーの顕著な増粘を抑えられるため、塗工性が良好となり、電極の強度が向上され、その結果、電池の特性低下を抑え、高容量を有し、電池寿命が長くなる等の効果も期待することができる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/180103号
【文献】特開2016-31837
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
蓄電デバイスにおいては、とりわけ、非水電解液を用いた蓄電デバイスではガス発生が寿命劣化に大きく影響するため、水分混入、電解液の耐電圧性、初期エージングを厳密に管理しないといけないことが課題となっている。本発明は、蓄電デバイスの電極に用いた際に、電極における結着性を維持しつつ、デバイス劣化に影響する充放電時のガス発生を低減することができる電極用スラリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を電極用スラリー組成物として有し、活物質100質量部に対してエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体0.01~3質量部を含有することにより、蓄電デバイスの充放電時に発生するガスの低減効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関する。
【0010】
項1 活物質とエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を有し、活物質100質量部に対してエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体0.01~3質量部を含有する電極用スラリー組成物。
項2 エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体が下記一般式(2)由来の構成単位と、下記一般式(1)由来の構成単位及び/又は下記一般式(3)由来の構成単位を含有するポリエーテル重合体である項1に記載の電極用スラリー組成物。
式(1):
【化1】
[式中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CHO(CR)である。R、R、Rは水素原子または-CHO(CHCHO)であり、nおよびRはR、R、Rの間で異なっていてもよい。Rは炭素数1~12のアルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、nは0~12の整数である。]
式(2):
【化2】
式(3)
【化3】
[式中、Rはエチレン性不飽和基を有する基である。]
項3 エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体が式(1)由来の構成単位を1~50モル%と、式(2)由来の構成単位を30~98.5モル%と、式(3)由来の構成単位を0.5~15モル%を含有するポリエーテル重合体である項2に記載の電極用スラリー組成物。
項4 溶媒として水を用いる項1~3いずれかに記載の電極用スラリー組成物。
項5 更に、導電助剤、及びバインダーを含有する項1~4いずれかに記載の電極用スラリー組成物。
項6 項1~5いずれかに記載の電極用スラリー組成物を用いて作製される電極。
項7 項6に記載の電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充放電時に発生するガスの低減効果を有する電極、並びに該電極を備える蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、蓄電デバイスとは、二次電池(リチウムイオン二次電池及びニッケル水素二次電池等)、電気化学キャパシタを包含するものである。
【0013】
<1.電極用スラリー組成物>
本発明の電極用スラリー組成物は、活物質とエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体を有し、活物質100質量部に対してエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体0.01~3質量部を含有する。
【0014】
ポリエーテル重合体
エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体としては、下記一般式(1)由来の構成単位を0~50モル%と、下記式(2)由来の構成単位を30~100モル%と、下記式(3)由来の構成単位を0~20モル%を含有するポリエーテル重合体であることが好ましい。なお、構成単位は繰り返し単位と記載することもできる。
式(1):
【化4】
[式中、Rは炭素数1~12のアルキル基、または-CHO(CR)である。R、R、Rは水素原子または-CHO(CHCHO)であり、nおよびRはR、R、Rの間で異なっていてもよい。Rは炭素数1~12のアルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、nは0~12の整数である。]
式(2):
【化5】
式(3)
【化6】
[式中、Rはエチレン性不飽和基を有する基である。]
【0015】
ここで一般式(1)由来の構成単位及び一般式(3)由来の構成単位は、それぞれ2種以上の異なるモノマーから誘導されるものであってもよい。
【0016】
式(1)の化合物は市販品からの入手、またはエピハロヒドリンとアルコールからの一般的なエーテル合成法等により容易に合成が可能である。また、アリール基としては、フェニル基が挙げられる。
市販品から入手可能な化合物としては、例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、t-ブチルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシヘプタン、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシへキサン、グリシジルフェニルエーテル、1,2-エポキシペンタン、グリシジルイソプロピルエーテルなどが使用できる。これら市販品のなかでは、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、グリシジルイソプロピルエーテルが好ましく、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテルが特に好ましい。
合成によって得られる式(1)で表される単量体では、Rは-CHO(CR)が好ましく、R、R、Rの少なくとも一つが-CHO(CHCHO)であることが好ましい。Rは炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。nは0~6が好ましく、0~4がより好ましい。
【0017】
式(2)の化合物は基礎化学品であり、市販品を容易に入手可能である。
【0018】
式(3)の化合物において、Rはエチレン性不飽和基を含む置換基であり、炭素数としては2~6であることが好ましい。エチレン性不飽和基含有のモノマー成分としては、アリルグリシジルエーテル、4-ビニルシクロヘキシルグリシジルエーテル、α-テルピニルグリシジルエーテル、シクロヘキセニルメチルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルフェニルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-1-ペンテン、4,5-エポキシ-2-ペンテン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカンジエン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5-シクロオクテン、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、ソルビン酸グリシジル、ケイ皮酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、グリシジル-4-ヘキセノエートが用いられる。好ましくは、アリルグリシジルエーテル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルである。
【0019】
ポリエーテル重合体としては、一般式(1)由来の構成単位、一般式(2)由来の構成単位、及び一般式(3)由来の構成単位のモル比率が、(1)0~50モル%、(2)30~100モル%、及び(3)0~20モル%であることが好ましく、(1)0~40モル%、(2)45~100モル%、及び(3)0~15モル%であることがより好ましく、(1)0~30モル%、(2)65~100モル%、及び(3)0~10モル%であることがさらに好ましい。
【0020】
ポリエーテル重合体としては、一般式(2)由来の構成単位と、一般式(1)由来の構成単位、一般式(3)由来の構成単位のいずれかを有することが好ましく、一般式(1)由来の構成単位、一般式(2)由来の構成単位、一般式(3)由来の構成単位を全て有することが特に好ましい。
【0021】
ポリエーテル重合体としては、一般式(1)由来の構成単位と一般式(2)由来の構成単位を有する場合には、一般式(1)由来の構成単位のモル比率は1モル%以上有することが好ましく、3モル%以上有することがより好ましく、5モル%以上有することが特に好ましく、50モル%以下有することが好ましく、40モル%以下有することがより好ましく、30モル%以下有することが特に好ましい。一般式(2)由来の構成単位のモル比率は30モル%以上有することが好ましく、45モル%以上有することがより好ましく、50モル%以上有することがさらに好ましく、65モル%以上有することが特に好ましく、99モル%以下有することが好ましく、97モル%以下有することがより好ましく、95モル%以下有することが特に好ましい。
【0022】
ポリエーテル重合体としては、一般式(2)由来の構成単位と一般式(3)由来の構成単位を有する場合には、一般式(2)由来の構成単位のモル比率は30モル%以上有することが好ましく、45モル%以上有することがより好ましく、65モル%以上有することが特に好ましく、80モル%以上有することが最も好ましく、99モル%以下有することが好ましく、97モル%以下有することがより好ましく、95モル%以下有することが特に好ましい。一般式(3)由来の構成単位のモル比率は0.5モル%以上有することが好ましく、1モル%以上有することがより好ましく、1.5モル%以上有することが特に好ましく、20モル%以下有することであってもよいが、15モル%以下有することが好ましく、12モル%以下有することがより好ましく、10モル%以下有することが特に好ましい。
【0023】
ポリエーテル重合体としては、一般式(1)由来の構成単位と一般式(2)由来の構成単位と一般式(3)由来の構成単位を有する場合には、一般式(1)由来の構成単位のモル比率は1モル%以上有することが好ましく、3モル%以上有することがより好ましく、5モル%以上有することが特に好ましく、50モル%以下有することが好ましく、40モル%以下有することがより好ましく、30モル%以下有することが特に好ましい。一般式(2)由来の構成単位のモル比率は30モル%以上有することが好ましく、45モル%以上有することがより好ましく、65モル%以上有することが特に好ましく、98.5モル%以下有することが好ましく、96モル%以下有することがより好ましく、93.5モル%以下有することが特に好ましい。一般式(3)由来の構成単位のモル比率は0.5モル%以上有することが好ましく、1モル%以上有することがより好ましく、1.5モル%以上有することが特に好ましく、15モル%以下有することが好ましく、12モル%以下有することがより好ましく、10モル%以下有することが特に好ましい。
【0024】
ポリエーテル重合体の重合組成のモル比率は、H-NMRにより各ユニットの積分値を求め、その算出結果から組成を決定することができる。
【0025】
ポリエーテル重合体は、ブロック重合体、ランダム重合体何れの重合タイプでも良い。ランダム重合体がよりポリエチレンオキシドの結晶性を低下させる効果が大きいので好ましい。
【0026】
ポリエーテル重合体の重量平均分子量に関しては、重量平均分子量の下限が10万以上であることが好ましく、15万以上であることがより好ましく、20万以上であることが更に好ましく、重量平均分子量の上限は250万以下であることが好ましく、230万以下であることがより好ましく、210万以下がさらに好ましく、200万以下が尚さらに好ましい。ポリエーテル重合体の分子量測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を算出した。尚、溶媒にはDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)を用いる。
【0027】
ポリエーテル重合体の合成は次のようにして行える。開環重合触媒として有機アルミニウムを主体とする触媒系、有機亜鉛を主体とする触媒系、有機錫-リン酸エステル縮合物触媒系などの配位アニオン開始剤、または対イオンにKを含むカリウムアルコキシド、ジフェニルメチルカリウム、水酸化カリウムなどのアニオン開始剤を用いて、各モノマーを溶媒の存在下又は不存在下、反応温度10~120℃、撹拌下で反応させることによってポリエーテル重合体が得られる。
【0028】
本発明の電極用スラリー組成物においては、エチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体の含有量は、活物質100質量部に対してエチレンオキシド由来の構成単位を有するポリエーテル重合体0.01~3質量部を含有し、下限は0.01質量以上であり、0.015質量以上であることが好ましく、0.02質量以上であることが特に好ましく、上限は3質量以下であり、2質量以下であることが好ましく、1質量以下であることが特に好ましい。この範囲とすることにより、電極における結着性を維持しつつ、充放電時のガス発生を低減することができる。充放電時に発生するガスの低減の点においては、0.1質量以上であってもよい。
【0029】
活物質
活物質としては、電極用スラリー組成物を正極に用いる場合には、正極活物質を用い、負極に用いる場合には、負極活物質を用いる。尚、活物質(正極活物質、負極活物質)は蓄電デバイスに適したものを用いることができ、特に限定されることはない。
【0030】
蓄電デバイスとして、リチウムイオン電池に用いる正極活物質は、AMO2、AM24、A2MO3、AMBO4のいずれかの組成からなるアルカリ金属含有複合酸化物である。Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい。BはP、Siまたはその混合物からなる。なお正極活物質は粉末が好ましく、その粒子径には、好ましくは50ミクロン以下、より好ましくは20ミクロン以下のものを用いる。これらの活物質は、3V(vs. Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
【0031】
リチウムイオン電池に用いる正極活物質の好ましい具体例としては、LixCoO2, LixNiO2, LixMnO2, LixCrO2, LixFeO2, LixCoaMn1-aO2, LixCoaNi1-aO2, LixCoaCr1-aO2, LixCoaFe1-aO2, LixCoaTi1-aO2, LixMnaNi1-aO2, LixMnaCr1-aO2, LixMnaFe1-aO2, LixMnaTi1-aO2, LixNiaCr1-aO2, LixNiaFe1-aO2, LixNiaTi1-aO2, LixCraFe1-aO2, LixCraTi1-aO2, LixFeaTi1-aO2, LixCobMncNi1-b-cO2, LixNiaCobAlcO2, LixCrbMncNi1-b-cO2, LixFebMncNi1-b-cO2, LixTibMncNi1-b-cO2, LixMn2O4, LixMndCo2-dO4, LixMndNi2-dO4, LixMndCr2-dO4, LixMndFe2-dO4, LixMndTi2-dO4, LiyMnO3, LiyMneCo1-eO3, LiyMneNi1-eO3, LiyMneFe1-eO3, LiyMneTi1-eO3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixCofMn1-fPO4, LixCofNi1-fPO4, LixCofFe1-fPO4, LixMnfNi1-fPO4, LixMnfFe1-fPO4, LixNifFe1-fPO4,LiyCoSiO4, LiyMnSiO4, LiyNiSiO4, LiyFeSiO4, LiyCogMn1-gSiO4, LiyCogNi1-gSiO4, LiyCogFe1-gSiO4, LiyMngNi1-gSiO4, LiyMngFe1-gSiO4, LiyNigFe1-gSiO4, LiyCoPhSi1-hO4, LiyMnPhSi1-hO4, LiyNiPhSi1-hO4, LiyFePhSi1-hO4, LiyCogMn1-gPhSi1-hO4, LiyCogNi1-gPhSi1-hO4, LiyCogFe1-gPhSi1-hO4, LiyMngNi1-gPhSi1-hO4, LiyMngFe1-gPhSi1-hO4, LiyNigFe1-gPhSi1-hO4などのリチウム含有複合酸化物をあげることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99, g=0.01~0.99, h=0.01~0.99である。)
【0032】
また、リチウムイオン電池に用いる前記の好ましい正極活物質のうち、より好ましい正極活物質としては、具体的には、LixCoO2, LixNiO2, LixMnO2, LixCrO2, LixCoaNi1-aO2, LixMnaNi1-aO2, LixCobMncNi1-b-cO2, LixNiaCobAlcO2, LixMn2O4, LiyMnO3, LiyMneFe1-eO3, LiyMneTi1-eO3, LixCoPO4, LixMnPO4, LixNiPO4, LixFePO4, LixMnfFe1-fPO4を挙げることができる。(ここで、x=0.01~1.2, y=0.01~2.2, a=0.01~0.99, b=0.01~0.98, c=0.01~0.98但し、b+c=0.02~0.99, d=1.49~1.99, e=0.01~0.99, f=0.01~0.99である。なお、上記のx, yの値は充放電によって増減する。)
【0033】
蓄電デバイスとして、リチウムイオン電池に用いる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な構造(多孔質構造)を有する炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等)か、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、シリコン系化合物、チタン系化合物等の金属からなる粉末である。粒子径は10nm以上100μm以下が好ましく、更に好ましくは20nm以上20μm以下である。また、金属と炭素材料との混合活物質として用いてもよい。なお負極活物質にはその気孔率が、70%程度のものを用いるのが望ましい。
【0034】
蓄電デバイスとして、電気二重層キャパシタに用いる活物質としては正極活物質・負極活物質ともに、活性炭を例示することができる。一般的には、活性炭とは賦活化された炭化物を指し、市販の活性炭を用いてもよく、公知の製法に従って製造された活性炭を用いてもよい。活性炭の製造法としては、木材、ヤシ殻、パルプ廃液、石炭、重質油、フェノール樹脂等の原料を炭化し、得られた炭化物を賦活化することにより得られる。
【0035】
賦活化は、公知の賦活法であればよく、ガス賦活法または薬品賦活法等により行うことができる。ガス賦活法では、炭化物を、加熱下で、水蒸気、炭酸ガス、酸素などのガスと接触させることにより、賦活化させる。薬品賦活法では、炭化物を、公知の賦活薬品と接触させた状態で加熱することにより賦活化させる。賦活薬品としては、例えば、塩化亜鉛、燐酸、および/またはアルカリ化合物(水酸化ナトリウムなどの金属水酸化物など)などが挙げられる。水蒸気で賦活化した活性炭(本願においては水蒸気賦活性炭と記載する)、および/またはアルカリで賦活化した活性炭(本願においてはアルカリ賦活活性炭と記載する)を用いることが好ましい。
【0036】
電極用スラリー組成物の活物質の含有量としては、特に制限されず、溶媒以外の固形分(以下、単に「固形分」ということがある。)において、例えば99.9~50質量%程度、より好ましくは99.5~70質量%程度、さらに好ましくは99~85質量%程度が挙げられる。活物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
電極用スラリー組成物に用いられる溶媒としては、水・有機溶媒を用いることができるが、水を用いることが特に好ましい。
【0038】
水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水、及び超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水、及び超純水である。
【0039】
有機溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類を例示することができる
【0040】
電極用スラリー組成物に用いられる溶媒の量は、溶媒以外の固形分(以下、単に「固形分」ということがある。)の配合量が10~90質量%の範囲内となるように含有することが好ましく、20~85質量%の範囲内となるように含有することがより好ましく、20~80質量%の範囲内となるように含有することが特に好ましい。
【0041】
電極用スラリー組成物においては、導電助剤、バインダー、増粘剤を含有してもよい。
【0042】
導電助剤を用いる場合には、公知の導電助剤を用いることができ、黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの炭素繊維、または金属粉末等が挙げられる。これら導電助剤は1種または2種以上用いてもよい。
【0043】
導電助剤を用いる場合には、導電助剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下が挙げられる。導電助剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、2質量部以上を例示することができる。
【0044】
バインダーを用いる場合には、公知のバインダーを用いることができ、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系重合体、あるいはスチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴムなどのゴム、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、ポリイミド前駆体および/またはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、国際公開番号WO2013/180103で公開された重合体、国際公開番号WO2019/17479で公開された重合体等が挙げられる。これらは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0045】
バインダーを用いる場合には、バインダーの含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下が挙げられる。なお、バインダーが含まれる場合、バインダーの含有量の下限値としては、通常、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0046】
本発明の電極材料は、必要に応じて増粘剤を含有させても良い。増粘剤の種類は、特に限定されないが、好ましくは、セルロース系化合物のナトリウム塩、アンモニウム塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸およびその塩等である。
【0047】
セルロース系化合物のナトリウム塩もしくはアンモニウム塩としては、セルロース系高分子を各種誘導基により置換されたアルキルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩などが挙げられる。具体例としては、メチルセルロース、メチルエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩等が挙げられる。カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩が特に好ましい。これらの増粘剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0048】
増粘剤を用いる場合には、増粘剤の含有量は特に制限されないが、活物質100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下が挙げられる。なお、増粘剤が含まれる場合、増粘剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0049】
電極用スラリー組成物の調製方法としては特に限定されず、活物質、ポリエーテル重合体、導電助剤、バインダー、溶媒等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。
【0050】
<2.電極>
本発明の電極は、前述の「1.電極用スラリー組成物」を用いて作製される。具体的には、電極用スラリー組成物をドクターブレード法やアプリケーター法、シルクスクリーン法などにより集電体(金属電極基板)表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
【0051】
例えばドクターブレード法では、電極用スラリー組成物を金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は電極用スラリー組成物塗布後、余分な有機溶剤及び水を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材が製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤等を除去してもよい。
【0052】
本発明の電極については、公知の集電体を用いることができる。具体的には、正極としては、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属が使用される。負極としては、銅、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン、アルミニウム等の金属が使用される。
【0053】
<3.蓄電デバイス>
本発明の蓄電デバイスは、前述の「2.電極」の欄で説明した正極と、負極と、電解液とを備えることを特徴としている。すなわち、本発明の蓄電デバイスに用いられる電極は、本発明の電極用スラリー組成物が用いられて作製されている。本発明の電極の詳細については、前述の通りである。尚、本発明の蓄電デバイスについては、正極と、負極の少なくとも一方に、本発明の電極用スラリー組成物が用いられた電極を使用していればよく、本発明の電極用スラリー組成物が用いられていない電極については、公知の電極を用いることができる。
【0054】
電解液としては、特に制限されず、公知の電解液を用いることができる。電解液の具体例としては、電解質と溶媒とを含む溶液が挙げられ、非水電解液であることが好ましい。電解質及び溶媒は、それぞれ、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
電解質としては、リチウム塩化合物を例示することができ、具体的には、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN[CF3SC(C25SO23]2などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
リチウム塩化合物以外の電解質としては、テトラエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルモノメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェート等が挙げられる。
【0057】
電解液に用いる溶媒としては、有機溶剤、又は常温溶融塩を例示することができる。
【0058】
有機溶剤としては、非プロトン性有機溶剤を挙げることができ、具体的にはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、γ-ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、アニソール、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ジエチルエーテルなどの直鎖エーテルを使用することができ、2種類以上混合して使用してもよい。
【0059】
常温溶融塩はイオン液体とも呼ばれており、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される「塩」であり、特に液体化合物をイオン液体という。
【0060】
本発明での常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電池が一般的に作動すると想定される温度範囲をいう。電池が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては80℃程度であり、下限は-40℃程度、場合によっては-20℃程度である。
【0061】
常温溶融塩のカチオン種としては、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムイオンが好ましい。
【0062】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
また、アルキルピリジニウムイオンとしては、N-メチルピリジウムイオン、N-エチルピリジニウムイオン、N-プロピルピリジニウムイオン、N-ブチルピリジニウムイオン、1-エチル-2メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
イミダゾリウムイオンとしては、1,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3-トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
常温溶融塩のアニオン種としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6 -、PF6 -などの無機酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8-テトラシアノ-p-キノジメタンイオンなどの有機酸イオンなどが例示される。
【0066】
なお、常温溶融塩は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
電解液には必要に応じて種々の添加剤を使用することができる。添加剤としては、難燃剤、不燃剤、正極表面処理剤、負極表面処理剤、過充電防止剤などが挙げられる。難燃剤、不燃剤としては、臭素化エポキシ化合物、ホスファゼン化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛等が例示できる。正極表面処理剤としては、炭素や金属酸化物(MgОやZrO2等)の無機化合物やオルト-ターフェニル等の有機化合物等が例示できる。負極表面処理剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示できる。過充電防止剤としては、ビフェニルや1-(p-トリル)アダマンタン等が例示できる。
【0068】
本発明の蓄電デバイスの製造方法は、特に限定されず、正極、負極、電解液、必要に応じて、セパレータなどを用いて、公知の方法にて製造される。例えば、コイン型の場合、正極、必要に応じてセパレータ、負極を外装缶に挿入する。これに電解液を入れ含浸する。その後、封口体とタブ溶接などで接合して、封口体を封入し、カシメることで蓄電デバイスが得られる。蓄電デバイスの形状は限定されないが、例としてはコイン型、円筒型、シート型などが挙げられる。
【0069】
セパレータは、正極と負極が直接接触して蓄電池内でショートすることを防止するものであり、公知の材料を用いることができる。セパレータとしては、具体的には、セルロース系多孔膜、ポリオレフィンなどの多孔質高分子フィルム、紙等が挙げられる。多孔質高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムが、電解液による影響が少ないため、好ましい。
【実施例
【0070】
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
本実施例では、電極を作製し、電極の評価として電極の結着性試験を以下の実験にて行った。
【0072】
[作製した電極の物性評価]
作製した電極の物性評価としては、結着性試験を行った。評価結果を表3にまとめて示した。
【0073】
<結着性試験>
(屈曲試験方法)
屈曲試験はマンドレル屈曲試験にて行った。具体的には電極を幅3cm×長さ8cmに切り、長さ方向の中央(4cm部分)の基材側(電極表面が外側を向くように)に直径4mmのステンレス棒を支えにして180°折り曲げたときの折り曲げ部分の塗膜の状態を観察した。この方法で5回測定を行い、5回とも電極表面のひび割れまたは剥離や集電体からの剥がれが全く生じていない場合を○、1回でも1箇所以上のひび割れまたは剥がれが生じた場合を×と評価した。評価結果を表3にまとめて示した。
【0074】
[作製した電池の特性評価]
実施例および比較例で製造する電気二重層キャパシタ用電極を用いて積層型ラミネートセルの電気二重層キャパシタを作製する。この電気二重層キャパシタの特性として、ガス発生量について、アルキメデス法を用いて評価した。評価結果を表3にまとめて示した。
<ガス発生量の測定>
(測定装置)
充放電評価装置:TOSCAT-3100(東洋システム株式会社)
(測定方法)
作製した積層型ラミネートセルを、25℃下、10Cで定電流充電を行い、2.7Vまで充電した後に、0.5Cの定電圧充電を実施した。充電後、電池を10分間休止させた。
次いで10Cの定電流放電を実施し、1.5Vまで放電させた。上記の操作を1サイクルとし、充放電操作を2サイクル実施した。
上記の操作終了後、70℃下にて2.7Vまで充電した後に、1.0Cの低電圧充電を40時間実施した。
上記の操作終了後、積層型ラミネートセルのガス発生量をアルキメデス法にて測定した。評価結果を表3にまとめて示した。
【0075】
[バインダーの合成例]
[実施合成例1]
ビーカーに、アクリル酸n-ブチル820.98mmol、メタクリル酸ベンジル427.82mmol、アクリル酸38.50mmol、メタクリル酸91.70mmol、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製:ブレンマーPE-90)42.78mmol、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)4.28mmol、乳化剤としてドデシル硫酸ナトリウム2.00g、イオン交換水300g及び重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.24gを入れ、超音波ホモジナイザーを用いて、十分攪拌し乳液とした。攪拌機付き反応容器を窒素雰囲気下、55℃に加温し2時間かけて乳液を添加した。乳液の添加後、更に1時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを2.3から7.8に調整し、エマルジョン溶液であるバインダー組成物A(重合転化率99%以上、固形分濃度40.3wt%、凝集量:0.05質量%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.118μmであった。重合体におけるモル比率(mol%)を表1に示す。
【表1】
【0076】
<平均粒子径の測定>
重合したバインダーの平均粒子径は以下の条件で測定した。
(測定装置)
動的光散乱を用いた粒度分布測定装置:ゼータサイザーナノ(スペクトリス株式会社)
(測定条件)
1.合成したエマルジョン溶液50μLをサンプリングする。
2.サンプリングしたエマルジョン溶液にイオン交換水700μLを3回添加して希釈する。
3.希釈液から液を2100μL抜き取る。
4.残った50μLのサンプルに700μLイオン交換水を添加・希釈して測定する。
【0077】
<凝集物の測定>
重合したバインダーの凝集物は以下のようにして測定した。
重合したエマルジョン溶液を150メッシュステンレス金網(関西金網株式会社製)で用いてろ過を行い、攪拌翼およびビーカーに付着している凝集物を掻き取る。その後、回収した凝集物をイオン交換水で洗浄し、24時間乾燥させ凝集物の質量を測定する。測定した凝集物量をエマルジョン収量で割り、凝集物量(質量%)とする。
【0078】
[ポリエーテル共重合用触媒の製造例]
撹拌機、温度計及び蒸留装置を備えた3つ口フラスコにトリブチル錫クロライド10g及びトリブチルホスフェート35gを入れ、窒素気流下に撹拌しながら250℃で20分間加熱して留出物を留去させ残留物として固体状の縮合物質を得た。以下の重合例で重合触媒として用いた。
【0079】
ポリエーテル共重合体のモノマー換算組成はH NMRスペクトルにより求めた。
ポリエーテル共重合体の分子量測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を算出した。GPC測定は(株)島津製作所製RID-6A、昭和電工(株)製ショウデックスKD-807、KD-806、KD-806MおよびKD-803カラム、および溶媒にDMFを用いて60℃で行った。
【0080】
[実施合成例2]
内容量3Lのガラス製4つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに重合触媒として触媒の合成例で示した縮合物質1gと水分10ppm以下に調整したグリシジルエーテル化合物(a):
【化7】
100g、アリルグリシジルエーテル50g、及び溶媒としてn-ヘキサン1000gを仕込み、化合物(a)の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、エチレンオキシド150gを逐次添加した。このときの重合温度は20℃とし、10時間反応を行った。重合反応はメタノールを1mL加え反応を停止した。デカンテーションによりポリマーを取り出した後、常圧下40℃で24時間、更に減圧下45℃で10時間乾燥してポリエーテルBを280g得た。得られたポリエーテルBの重量平均分子量およびモノマー換算組成分析結果を表2に示す。得られたポリエーテルBをイオン交換水へ溶かし、ポリエーテルB水溶液とした(水溶液濃度:15wt%)。
【0081】
【表2】
【0082】
<電極用スラリー組成物、及び電極の作製例>
[電極用スラリー組成物の実施作製例1]
活物質として活性炭89質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック5質量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2質量部、バインダー組成物の実施合成例1で得られたバインダー組成物Aの固形分として3.8質量部、実施合成例2で得られたポリエーテルB水溶液の固形分として0.2質量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が28質量%となるように水を加えてプラネタリーミキサーを用いて十分に混合して電極用スラリー組成物の実施作製例1を得た。
【0083】
[電極の実施作製例1]
得られた電極用スラリー組成物の実施作製例1を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのベーカー式アプリケーターを用いて塗布し、150℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ81μmの電極を作製した。結着性試験の評価結果を表3の実施例1に示す。
【0084】
[電極用スラリー組成物の実施作製例2]
活物質として活性炭89質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック5質量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2質量部、バインダー組成物の実施合成例1で得られたバインダー組成物Aの固形分として3.96質量部、実施合成例2で得られたポリエーテルB水溶液の固形分として0.04質量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が26質量%となるように水を加えてプラネタリーミキサーを用いて十分に混合して電極用スラリー組成物の実施作製例2を得た。
【0085】
[電極の実施作製例2]
得られた電極用スラリー組成物の実施作製例2を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのベーカー式アプリケーターを用いて塗布し、150℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ71μmの電極を作製した。結着性試験の評価結果を表3の実施例2に示す。
【0086】
[電極用スラリー組成物の比較作製例1]
活物質として活性炭89質量部に、導電助剤としてアセチレンブラック5質量部、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2質量部、バインダー組成物の実施合成例1で得られたバインダー組成物Aの固形分として4質量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が28質量%となるように水を加えてプラネタリーミキサーを用いて十分に混合して電極用スラリー組成物の比較作製例1を得た。
【0087】
[電極の比較作製例1]
得られた電極用スラリー組成物の比較作製例1を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのベーカー式アプリケーターを用いて塗布し、150℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ81μmの電極シートを作製した。結着性試験の評価結果を表3の比較例1に示す。
【0088】
<電池の製造例>
[積層型ラミネートセルの実施製造例1]
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、電極の実施作製例1で得た電極を正極シート、セパレータとして厚み100μmのセルロース系多孔膜を1枚、更に実施作製例1で得た電極を負極シートとして用い、正極シートと負極シートとをセパレータを介して圧着し、積層体を形成させアルミラミネートへ収容した。その後、電解液として1.4mol/Lテトラエチルメチルアンモニウム-テトラフルオロボレート/プロピレンカーボネート溶液(キシダ化学社製)を注入し電気二重層キャパシタを製造した。ガス発生量の評価結果を表3の実施例1に示す。
【0089】
[積層型ラミネートセルの実施製造例2]
電極の実施作製例2で得た正極シート・負極シートを用いた以外は、積層型ラミネートセルの実施製造例1と同様にして電気二重層キャパシタを作製した。ガス発生量の評価結果を表3の実施例2に示す。
【0090】
[積層型ラミネートセルの比較製造例1]
電極の比較作製例1で得た正極シート・負極シートを用いた以外は、積層型ラミネートセルの実施製造例1と同様にして電気二重層キャパシタを作製した。ガス発生量の評価結果を表3の比較例1に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3の実施例1、2から示されるように、比較例1と比較して、本発明の電極用スラリー組成物である実施例1~2を用いることにより、電極における良好な結着性を維持しつつ、蓄電デバイスに用いた際の充放電時のガス発生量を低減することができた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の電極用スラリー組成物は良好なガス発生低減特性を有するため、蓄電デバイスに用いた際には、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池等おいて、有用に用いられる。