(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】眼用レンズ用組成物
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20240110BHJP
C08F 230/02 20060101ALI20240110BHJP
C08F 230/06 20060101ALI20240110BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20240110BHJP
A61L 12/14 20060101ALI20240110BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20240110BHJP
A01N 57/12 20060101ALI20240110BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20240110BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G02C7/04
C08F230/02
C08F230/06
C08F220/10
A61L12/14 104
A61L12/14
A01N61/00 D
A01N57/12 F
A01N25/34 Z
A01P1/00
(21)【出願番号】P 2020075066
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】川崎 寛子
(72)【発明者】
【氏名】五反田 龍矢
(72)【発明者】
【氏名】松田 将
(72)【発明者】
【氏名】岩切 規郎
【審査官】川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/150260(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
C08F 230/02
C08F 230/06
C08F 220/10
A61L 12/14
A01N 61/00
A01N 57/12
A01N 25/34
A01P 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2a)、(2b)及び(2c)を構成単位として含み、各構成単位のモル比率na:nb:ncが100:2~50:0~40であり、重量平均分子量が1,000~10,000,000である共重合体(P)を表面に有する下記一般式(1a)を構成単位として含む眼用レンズ。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
5はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R
4は置換基無し、または-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-C(O)NH-若しくは-S-で示される基を表し、R
6は炭素数3から18の炭化水素基である。]
【請求項2】
前記眼用レンズはコンタクトレンズである、請求項1に記載の眼用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面親水性、持続的な潤滑性、及び細菌付着抑制効果に優れる眼用レンズを得るための眼用レンズ用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズの開発は、ガラスレンズから始まり、硬質のプラスチック製、含水性プラスチック製と進められ、近年では広く一般に用いられる医療機器となった。
また、コンタクトレンズの便利さゆえにコンタクトレンズの装用時間は長時間化している。若年のコンタクトレンズ装用者における1日の平均装用時間は約14時間になるとの報告もある。1日当たりの平均装用時間が長時間になるにつれて、コンタクトレンズの良好な装用感は失われることが多い。よって、良好な装用感が持続するコンタクトレンズは、依然として市場から求められている。
【0003】
コンタクトレンズは、基本的に、表面の濡れ性や潤滑性の優れるものが装用感に優れるため、これまでにコンタクトレンズの表面を改質して親水化や、潤滑性を付与させる方法が報告されている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、特許文献1の方法では、コンタクトレンズ表面を親水化しただけであるために、親水性の基がすぐに樹脂の中に隠れてしまい親水性効果が消失してしまう。また、特許文献2では、ポリマー層をコンタクトレンズ表面にコーティングすることによって、親水性と潤滑性に富むコンタクトレンズの製造方法が開示されている。しかし、この手法では製造工程が煩雑となるため、コスト面においてコンタクトレンズ使用者の負担が増える恐れがある。
【0004】
さらに、コンタクトレンズが広く一般に用いられるようになったことに伴い、コンタクトレンズを原因とする感染症も増加している。近年は、使い捨てコンタクトレンズが主流となっており、使用者の中には使い捨てコンタクトレンズを使用していれば感染症を発症しないと考えている人も多い。しかし実際には、使い捨てコンタクトレンズを使用していたにも関わらず、感染症を発症した患者の存在も報告されている(非特許文献1)。感染症を予防するためには、コンタクトレンズの正しい使用方法はもちろんのこと、コンタクトレンズへの細菌の付着を抑制することも重要である。しかし、コンタクトレンズに付着した細菌を取り除くための洗浄液に関する開発は広く行われているものの、コンタクトレンズへの細菌付着を抑制する技術については十分に検討されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開1981-095932号広報
【文献】特開2018-022174号広報
【非特許文献】
【0006】
【文献】井上幸次,コンタクトレンズ関連角膜感染症の現状と問題点,日本コンタクトレンズ学会誌,58(1),2-11,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、表面親水性、持続的な潤滑性及び細菌付着抑制効果に優れた眼用レンズを得るための眼用レンズ用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の構成単位を有する眼用レンズに対し、該構成単位と相互作用する官能基すなわちフェニルボロン酸基とホスホリルコリン基を有する共重合体を用いることで、上記課題を解決できるとの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明では式(1a)で表される構成単位を含む眼用レンズ(S)を、式(2a)、(2b)、および(2c)を構成単位とする共重合体(P)とを含有する組成物で処理することにより、持続的な潤滑性、親水性、及び細菌付着抑制能に優れた眼用レンズが提供される。
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【化4】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
5はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R
4は置換基無し、または-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-C(O)NH-若しくは-S-で示される基を表し、R
6は炭素数3から18の炭化水素基である。]
【0013】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.下記一般式(1a)を構成単位として含む眼用レンズ(S)を処理するための組成物であって、
下記式(2a)、(2b)及び(2c)を構成単位として含み、各構成単位のモル比率n
a:n
b:n
cが100:2~50:0~40であり、重量平均分子量が1,000~10,000,000である共重合体(P)0.001~5.0wt/v%を含む眼用レンズ用組成物。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
5はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R
4は置換基無し、または-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-C(O)NH-若しくは-S-で示される基を表し、R
6は炭素数3から18の炭化水素基である。]
2.前項1に記載の組成物で処理された、下記一般式(1a)を構成単位として含む眼用レンズ。
【化9】
3.コンタクトレンズである、前項2に記載の眼用レンズ。
【発明の効果】
【0014】
本発明の眼用レンズ用組成物は、表面親水性、持続的な潤滑性及び細菌付着抑制効果に優れた眼用レンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の眼用レンズ用組成物は、下記に記載の式(2a)、(2b)及び(2c)を構成単位として含む又はからなり、各構成単位のモル比率na:nb:ncが100:2~50:0~40であり、重量平均分子量が1,000~10,000,000である共重合体(P)0.001~5.0wt/v%を含む。
【0016】
<眼用レンズ(S)>
本発明の眼用レンズ(S)は、下記の式(1a)を有する。
【0017】
【0018】
前記式(1a)を有する眼用レンズ(S)は、少なくとも下記一般式(1a’)で表されるグルコナミド基含有単量体を含む共重合組成物を共重合することにより得ることができる。
【0019】
【化11】
[式(1a’)中、R
1は水素原子またはメチル基である。]
【0020】
式(1a’)の化合物は、公知の方法で製造することができる。例えば、文献「Xiang-LinMeng et al.,Langmuir2012,28(38),13616-13623;JulianSchneider.et al.,Journal of the American Chemical Society 2012,134(4),2407-2413」に示される方法、すなわち、アミノエチルメタクリレート塩酸塩とグルコノ-1,5-ラクタンをトリエチルアミンなどの三級塩基存在下で反応させる方法が挙げられる。
【0021】
本発明の眼用レンズ(S)において、グルコナミド基含有単量体の含有割合は、共重合体組成物中、通常1~20wt%であり、好ましくは5~15wt%である。グルコナミド基含有単量体の含有割合が1wt%未満であると、所望の効果が得られない恐れがある。なお、本発明において、「単量体成分」は分子内に1つ以上の重合性不飽和基を有する成分を意味する。
本発明の眼用レンズ(S)を製造するための共重合体組成物は、得られる眼用レンズ(S)の形状安定化をより向上させるために、分子内に2つ以上の重合性不飽和基を有する架橋成分を含むことが好ましい。
【0022】
架橋成分の具体例としては、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(アルキレンの炭素数2~6)、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(アルキレンの炭素数2~4)、ジビニルスルホン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、アリルメタクリレート、(2-アリルオキシ)エチルメタクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、及びテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。架橋成分は、これら架橋剤のいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0023】
前記架橋成分を本発明の眼用レンズ(S)を製造するための共重合体組成物に含有させる場合の割合は、該共重合体組成物中、通常0.1~10wt%が適当である。0.1wt%未満では、形状安定性や機械的強度改善効果が得られない恐れがあり、また、10wt%を超えると、眼用レンズ(S)の柔軟性が低下する恐れがある。
本発明の眼用レンズ(S)を製造するための共重合体組成物、上記成分に加え、重合性紫外線吸収剤、重合性色素(着色剤)等の添加剤を含有していてもよい。重合性紫外線吸収剤や重合性色素も、「単量体」に包含される。該共重合体組成物中、重合性紫外線吸収剤及び重合性色素の各々の含有割合は好ましくは5wt%以下であり、より好ましくは0.02~3wt%である。5質量%を超えると、機械的強度や安全性が低下する場合がある。
本発明の眼用レンズ(S)を製造するための共重合体組成物は、式(1a’)の他に共重合が可能な他の単量体との混合物であってもよい。共重合が可能な単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、フッ素含有(メタ)アクリレート、シリコン含有(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリル酸エステル、メチルビニルエーテル等の各種ビニルエーテル、N-ビニルピロリドン、アクリルアミド、N,N‘-ジメチルアクリルアミド、(メタ)アクリル酸、アクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルスルホン酸ナトリウム、スチレン、クロロスチレン、イタコン酸、イタコン酸エステル、フマル酸、フマル酸エステル、マレイン酸、マレイン酸エステル等の各種重合性単量体が挙げられる。これらのうち、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、メチル(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドンが特に好ましい。共重合が可能な単量体は、これら各種重合性単量体の1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0024】
本発明の眼用レンズ(S)を製造するための共重合体組成物において、その他単量体の含有割合は、該共重合体組成物中、通常98wt%以下、好ましくは95wt%以下である。本明細書において、「(メタ)アクリレート」及び「(メタ)アクリルエステル」は、各々アクリレート及び/又はメタクリレート、アクリルエステル及び/又はメタクリルエステルを意味するものとする。
【0025】
本発明の眼用レンズ(S)を製造するための共重合体組成物は、溶媒を含有してもよい。溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられるが、式(1a’)の溶解性の点から、水、又はエタノールが好ましく、更には水が好ましい。その使用量は該共重合体組成物中、通常50wt%以下、好ましくは45wt%以下である。50wt%を超えると、形状安定性が得られない恐れがある。
本発明の眼用レンズ(S)を製造するための共重合組成物は、例えば、各成分を任意の順又は一括して撹拌(混合)装置に投入し、10℃~50℃の温度で、均一になるまで撹拌(混合)することにより製造できる。
【0026】
本発明の眼用レンズ(S)は、上記共重合組成物の重合より製造される。以下、本発明の眼用レンズ(S)の製造方法について説明する。以下に示す製造方法は眼用レンズ(S)を得る方法の一実施形態にすぎず、本発明の眼用レンズ(S)は当該製造方法によって得られるものに限定されない。
【0027】
本発明の眼用レンズ(S)は、共重合組成物をモールド(金型)に充填して重合反応を行うことにより、製造できる。該モールドとしては、ポリプロピレン等からなる疎水性表面を有するモールドが好ましい。重合反応を行う際には、重合開始剤を共重合組成物に添加することが好ましい。この場合、熱重合や光重合等によって重合を効率的に行うことができる。
【0028】
[重合開始剤]
重合開始剤は、特に限定されず、公知の重合開始剤を用いることができるが、本発明の眼用レンズ(S)を製造するための共重合組成物を共重合させる際、重合途中の温度変化による各単量体成分の共重合性の変化が容易である点で、熱重合開始剤が好ましい。
熱重合開始剤の例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル 2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジハイドレート、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-{1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などのアゾ系重合開始剤、及びベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシヘキサノエート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤等が挙げられる。
重合開始剤として、上記のいずれか1種類を配合しても、2種類以上を配合してもよい。安全性と入手性の点でアゾ系重合開始剤が好ましく、反応性の面から、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が特に好ましい。
【0029】
本発明の眼用レンズ(S)を製造するための共重合組成物が、重合開始剤を含有する場合、その含有量は、該共重合体組成物中、0.01~3wt%が好ましく、0.02~1wt%がより好ましい。0.01wt%未満の場合、共重合組成物の重合性が不十分で、重合開始剤を配合する利点が得られないおそれがある。3wt%を超えると、重合により得られる重合体を洗浄して眼用レンズ(S)を製造するときに、重合開始剤の反応分解物の抽出除去が不十分になるおそれがある。
【0030】
重合は、使用する重合開始剤の分解温度に合わせて45~140℃で反応させる。重合温度の維持時間(重合時間)は、1時間以上であり、10時間以下であることが好ましい。1時間未満では重合反応が完了しないおそれがある。10時間を超えると、重合工程が長くなりすぎ、生産性が低下するので好ましくない。
重合終了後、60℃以下まで冷却し、製造された重合体をモールドから取り出す。
重合反応は大気中で行ってもよいが、単量体の重合率を向上させる目的で窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。不活性ガス雰囲気中で重合する場合、重合系内の圧力は1kgf/cm2以下とするのが好ましい。
重合後、モールドの変形により、眼用レンズ(S)を乾燥状態で取り出すことができる。また、眼用レンズ(S)をモールドと共に溶媒(例えば、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、これらの混合物等)中に浸漬し、眼用レンズ(S)のみを膨潤させ、自然にモールドから脱離させてもよい。溶媒を使用せず、眼用レンズ(S)を乾燥状態で取り出すことが好ましい。
上記重合反応の後、眼用レンズ(S)は、未反応の単量体成分(未反応物)、各成分の残渣、副生成物との混合物の状態で存在してよい。このような混合物をそのまま水和処理に供することも可能であるが、水和処理の前に眼用レンズ(S)を溶媒で洗浄することが好ましい。
【0031】
洗浄に用いる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、これらの混合物等が挙げられる。洗浄は、例えば、10℃~40℃の温度で、眼用レンズ(S)を水又はアルコール溶媒に10分間~5時間浸漬して実施できる。また、アルコール洗浄後、アルコール濃度20~50質量%の含水アルコールに10分間~5時間浸漬して洗浄し、更に水で洗浄してもよい。水としては、純水、イオン交換水等が好ましい。
洗浄した眼用レンズ(S)は、生理食塩水に浸漬し、所定の含水率となるように水和させることが好ましい。生理食塩水は、ホウ酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等であってよい。
【0032】
<共重合体(P)>
本発明の眼用レンズ(S)を処理するための組成物は、共重合体(P)を含有し、共重合体(P)は、下記の式(2a)~(2c)で表される3つの構成単位を有し、各構成単位のモル比率(構成比)na:nb:ncが100:2~50:0~40又は100:2~50:0.01~40である。
【0033】
【0034】
【0035】
【化14】
[式中、R
1、R
2、R
3およびR
5はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R
4は置換基無し、または-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-C(O)NH-若しくは-S-で示される基を表し、R
6は炭素数3から18の炭化水素基である。]
【0036】
[一般式(2a)で表される構成単位]
本発明で用いられる共重合体(P)は、下記一般式(2a)で表される構成単位、すなわち、ホスホリルコリン構造を有する構成単位(以下、「PC構成単位」ともいう。)を有する。共重合体(P)がPC構成単位を有することにより、共重合体(P)は潤滑性、表面親水性及び細菌付着抑制効果をコンタクトレンズに付与することが可能となる。
【0037】
【化15】
[一般式(2a)中、R
2は水素原子又はメチル基を示す。]
【0038】
前記PC構成単位を有する共重合体(P)は、例えば、下記一般式(2a’)で表されるホスホリルコリン基含有単量体(以下、「PC単量体」ともいう)を共重合することにより得ることができる。
【0039】
【化16】
[一般式(2a’)中のR
2は、一般式(2a)中のR
2と同義である。]
【0040】
PC単量体は、入手容易性の観点から、好ましくは2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル-2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートであり、更に好ましくは下記式(2a’’)で表される2-(メタクリロイルオキシ)エチル-2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート(以下、「2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン」ともいう)である。
【0041】
【0042】
[一般式(2b)で表される構成単位]
本発明で用いられる共重合体(P)は、下記一般式(2b)で表される構成単位、すなわちフェニルボロン酸基を有する構成単位を有する。共重合体(P)がフェニルボロン酸基を有することにより、共重合体(P)の眼用レンズ(S)への持続的な密着を付与することが可能となる。
【0043】
【化18】
[一般式(2b)中、R
3は水素原子またはメチル基であり、R
4は置換基無し又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-C(O)NH-若しくは-S-で示される基である。]
【0044】
前記フェニルボロン酸基を有する共重合体(P)は、例えば、下記一般式(2b’)で表されるフェニルボロン酸基含有単量体を共重合することにより得ることができる。
【0045】
【0046】
フェニルボロン酸基含有単量体は、好ましくは、p-ビニルフェニルボロン酸、m-ビニルフェニルボロン酸、p-(メタ)アクリロイルオキシルフェニルボロン酸、m-(メタ)アクリロイルオキシフェニルボロン酸、p-(メタ)アクリルアミドフェニルボロン酸、p-ビニルオキシフェニルボロン酸、m-ビニルオキシフェニルボロン酸、ビニルウレタンフェニルボロン酸であり、更に好ましくは下記式(2b”)で表される、p-ビニルフェニルボロン酸が好ましい。
【0047】
【0048】
共重合体(P)中のフェニルボロン酸基含有構成単位(フェニルボロン酸基含有単量体)の割合については、共重合体(P)中のPC構成単位(PC単量体)のモル数naを100としたときのフェニルボロン酸基含有構成単位(フェニルボロン酸基含有単量体)のモル数nbについて、nb/na=2~50/100であり、好ましくは5~30/100であり、更に好ましくは7~20/100である。nbが大きすぎる場合には水溶液を製造する際に必要となる無菌ろ過が困難となるおそれがあり、小さすぎる場合には眼用レンズ(S)への密着性が高められず、目的とした効果が得られない可能性がある。
【0049】
[一般式(2c)で表される構成単位]
本発明で用いられる共重合体(P)は、下記一般式(2c)で表される構成単位(以下、「疎水性構成単位」ともいう)を有することが好ましい。共重合体(P)が疎水性構成単位を有することにより共重合体へ親油性を付与することができ、共重合体(P)の眼用レンズ(S)表面への密着性を高め、眼用レンズ(S)への効果を発現することができる。
【0050】
【化21】
[一般式(2c)中、R
5は水素原子又はメチル基であり、R
6は炭素数3~18の炭化水素基である。]
【0051】
一般式(2c)中のR5は水素原子又はメチル基のいずれでもよいが、好ましくはメチル基である。R6は炭素数3~18の炭化水素基であり、直鎖状であっても分岐鎖状のいずれでもよいが直鎖状であることが好ましい。
【0052】
炭素数3~18の直鎖状の炭化水素基としては、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、各種ドデシル基、各種トリデシル基、各種テトラデシル基、各種ペンタデシル基、各種ヘキサデシル基、各種ヘプタデシル基、及び各種オクタデシル基が挙げられる。
なお、「各種」とは、n-、sec-、tert-、iso-を含む各種異性体を意味する。
【0053】
R6はこれらの中でも、眼用レンズ(S)への密着性の観点から、好ましくは炭素数4~12の炭化水素基である、より好ましくは炭素数4~8の炭化水素基であり、具体的には、好ましくはn-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、t-ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、及びイソオクチル基である。
【0054】
また、共重合体(P)の親水性及び親油性バランスを考慮すると、好ましくはn-ブチル基、n-ドデシル基、及びn-オクタデシルであり、より好ましくはn-ブチル基である。
【0055】
疎水性構成単位は、下記式(2c’)で表される疎水性単量体を共重合することにより得ることができる。
【0056】
【化22】
[一般式(2c’)中の、R
5及びR
6は、それぞれ一般式(2c)中のそれらと同義である。]
【0057】
一般式(2c’)で表される疎水性単量体の具体例としては、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート〔すなわち、ラウリル(メタ)アクリレート〕、及びn-オクタデシル(メタ)アクリレート〔すなわち、ステアリル(メタ)アクリレート〕等の直鎖アルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0058】
一般式(2c’)で表される疎水性単量体は、これらの中でも、眼用レンズSへの密着性を向上させる観点から、好ましくはn-ブチル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、及びn-オクタデシル(メタ)アクリレートであり、より好ましくはn-ブチル(メタ)アクリレートである。
【0059】
共重合体(P)中の疎水性構成単位(疎水性単量体)の割合については、共重合体(P)中のPC構成単位(PC単量体)のモル数naを100としたときの疎水性構成単位(疎水性単量体)モル数ncについて、nc/na=0~40/100又は0.01~40/100である。ncが大きすぎる場合には、共重合体(P)の親水性が低下することで水溶液への溶解性が低下するおそれがある。
【0060】
前述の通り、本発明に用いる共重合体(P)は構成単位(2c)を有することにより、共重合体(P)の眼用レンズ(S)に対する密着性が向上する。
【0061】
本発明に用いる共重合体(P)における各構成単位の好ましい組み合わせは、例えば、構成単位(2a)として2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに由来する構成単位、構成単位(2b)としてp-ビニルフェニルボロン酸、構成単位(2c)としてブチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位による3元共重合体である。
【0062】
共重合体(P)における各構成単位を前記組合せとすると、眼用レンズ(S)への密着性を向上させることができる。
【0063】
本発明において用いる共重合体(P)は、PC構成単位、及びフェニルボロン酸基を有する単量体を少なくとも有していればよく、例えば、複数種のPC構成単位を含んでいてもよい。また、同様に、その他構成単位を含んでいてもよい。
【0064】
[その他の構成単位]
共重合体(P)は、本発明の効果を損なわない範囲において、前記PC構成単位、フェニルボロン酸基を有する単量体以外のその他の構成単位を含んでいてもよい。
前記その他の構成単位を導く単量体は、例えば、前記以外の直鎖又は分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレート、環状アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート、スチレン系単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、親水性の水酸基含有(メタ)アクリレート、酸基含有単量体、窒素含有基含有単量体、アミノ基含有単量体、及びカチオン性基含有単量体から選ばれる重合性単量体が挙げられる。
【0065】
直鎖又は分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、及びエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0066】
環状アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0067】
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0068】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、及びクロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0069】
ビニルエーテル単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル、及びブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0070】
ビニルエステル単量体としては、例えば、酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0071】
親水性の水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0072】
酸基含有単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、及びスチレンスルホン酸(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸等が挙げられる。
【0073】
窒素含有基含有単量体としては、例えば、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0074】
アミノ基含有単量体としては、例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、及びN,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0075】
カチオン性基含有単量体としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0076】
共重合体(P)がその他の構成単位を含有する場合、共重合体(P)中のその他の構成単位(その他の構成単位を導く単量体)の割合については、共重合体(P)中のPC構成単位(PC単量体)のモル数naを100としたときのその他の構成単位(その他の構成単位を導く単量体)のモル数nxについて、好ましくはnx/na=0~50/100である。
【0077】
<眼用レンズ用組成物に含有する共重合体(P)の製造方法>
本発明の眼用レンズ用組成物に含有する共重合体(P)は、眼用レンズ用組成物に含有する共重合体(P)を製造するための共重合体組成物をラジカル重合開始剤の存在下、窒素、二酸化炭素、アルゴン、及びヘリウム等の不活性ガス雰囲気下においてラジカル重合することにより得ることができる。
ラジカル重合方法は、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法により行うことができる。ラジカル重合方法は、精製等の観点から溶液重合が好ましい。共重合体(P)の精製は、再沈殿法、透析法、限外濾過法等の公知の精製方法により行うことができる。
【0078】
[ラジカル重合開始剤]
ラジカル重合開始剤は、特に限定されず、公知の重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系ラジカル重合開始剤、有機過酸化物、及び過硫酸化物等を挙げることができる。
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2-アゾビス(2-ジアミノプロピル)二塩酸塩、2,2-アゾビス(2-(5-メチルー2-イミダゾリンー2-イル)プロパン二塩酸塩、4,4-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2-アゾビスイソブチルアミド二水和物,2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル),及び2,2-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)が挙げられる
有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルペルオキシネオデカネート、過硫酸ベンゾイル、ジイソプロピルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシー2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシデカネート、及びコハクサンペルオキシド(=サクシニルペルオキシド)等が挙げられる。
過硫酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
重合開始剤として、上記のいずれか1種類を配合しても、2種類以上を配合してもよい。
重合開始剤の使用量は、共重合体組成物中、通常0.001~10wt%が好ましく、0.02~1wt%がより好ましい。より更に好ましくは0.03~1.0wt%である。
【0079】
共重合体(P)の合成は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒としては、各単量体組成物を溶解し、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はなく、例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、直鎖又は環状のエ-テル系溶媒、及び含窒素系溶媒を挙げることができる。
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノール等が挙げられる。
ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びジエチルケトン等が挙げられる。
エステル系溶媒としては、例えば、酢酸エチル等が挙げられる。
直鎖又は環状のエ-テル系溶媒としては、例えば、エチルセルソルブ、及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。
含窒素系溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン、及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。
これらの溶媒の中でも、水及びアルコールの混合溶媒が好ましい。
【0080】
〔共重合体(P)の重量平均分子量〕
共重合体(P)の重量平均分子量は1,000~10,000,000であり、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは50,000以上、より更に好ましくは200,000以上であり、そして、好ましくは4,000,000以下、より好ましくは3,000,000以下、更に好ましくは2,500,000以下、より更に好ましくは2,000,000以下、より更に好ましくは1,500,000以下、より更に好ましくは1,000,000以下である。
重量平均分子量が1,000未満であると親油性が低下し、共重合体(P)の眼用レンズ(S)表面への吸着力が十分でなく、潤滑性、親水性及び細菌付着抑制効果を見込めないおそれがある。重量平均分子量が10,000,000を超える場合は、粘度が増大して取扱いが困難となるおそれがある。なお、共重合体(P)の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による値をいう。
【0081】
<眼用レンズ(S)を処理するための眼用レンズ用組成物>
本発明の眼用レンズ(S)を処理するための眼用レンズ用組成物は、共重合体(P)を水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコールまたはこれらの混合溶液に、0.01~5.0w/v%となるように溶解させることにより得ることができる。共重合体(P)の濃度が0.01w/v%未満では目的とする効果を十分に得られない恐れがあり、5.0w/v%を超えると組成物製造する際に行う無菌ろ過が困難となるおそれがある。
【0082】
本発明の眼用レンズ(S)を処理するための眼用レンズ用組成物は、共重合体(P)以外にも必要に応じて、ビタミン類、アミノ酸類、糖類、粘稠化剤、清涼化剤、無機塩類、有機酸の塩、酸、塩基、酸化防止剤、安定化剤、防腐剤等を配合することができる。
【0083】
ビタミン類としては、例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸ナトリウム、パントテン酸カルシウム等を挙げられる。
【0084】
アミノ酸類としては、例えば、アスパラギン酸またはその塩、アミノエチルスルホン酸などが挙げられる。
【0085】
糖類としては、例えば、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース等が挙げられる。
【0086】
粘稠化剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロール、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。
【0087】
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフル等が挙げられる。
【0088】
無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
【0089】
有機酸の塩としては、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0090】
酸としては、例えば、リン酸、クエン酸、硫酸、酢酸、塩酸、ホウ酸などが挙げられる。
【0091】
塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ホウ砂、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、モノエタノールアミン等が挙げられる。
【0092】
酸化防止剤としては、例えば、酢酸トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0093】
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、グリシン等が挙げられる。
【0094】
防腐剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩、ソルビン酸カリウム、塩酸ポリヘキサニド等が挙げられる。
【0095】
本発明において、眼用レンズとは、ヒト又を含む哺乳類その他の動物の眼に適用するレンズであれば特に限定されないが、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を含み、特にコンタクトレンズとして好適に使用し得る。
眼用レンズ(S)をコンタクトレンズとし、共重合体(P)をコンタクトレンズ用溶液に用いることにより、良好な装用感をコンタクトレンズ装用者に付与することができる。さらに、コンタクトレンズへの細菌の付着を抑制することができる。
【0096】
本発明のコンタクトレンズ用溶液の具体的な製品形態としては、次のようなものを例示することができる。具体的には、コンタクトレンズ用出荷液、コンタクトレンズ用ケア用品、コンタクトレンズ用保存液、コンタクトレンズ用洗浄液、コンタクトレンズ用洗浄保存液などが挙げられる。なお、本明細書において、コンタクトレンズ用出荷液とは、コンタクトレンズ製品の出荷時にコンタクトレンズを浸漬する溶液のことである。
【0097】
<眼用レンズ(S)の共重合体(P)を含有する組成物での処理工程>
本発明の眼用レンズ(S)を処理する工程では、特別な作業をする必要はなく、本発明の眼用レンズ(S)を、共重合体(P)を含む組成物(眼用レンズ用組成物)に接触することで完了する。また、眼用レンズ(S)を、共重合体(P)を含む組成物(眼用レンズ用組成物)に浸漬することでより効率的に接触させることが可能となる。
浸漬により接触させる場合、接触条件については特に制限はないが、温度については好ましくは3℃~180℃、更に好ましくは10℃~150℃である。本発明の眼用レンズ(S)を処理する工程においては、オートクレーブ処理を含む一般的な加熱滅菌処理を含んでもよい。また、接触時間は、30秒以上であればよく、好ましくは60秒以上である。
【実施例】
【0098】
以下、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0099】
<眼用レンズ(S)の合成>
[化合物(1a)の合成]
4つ口フラスコ内で、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩(シグマアルドリッチ製)23.86gをメタノール260mLに溶解し、30分間窒素ガスの吹込みを行った。この後、D-(+)-グルコノ-1,5-ラクタン(富士フィルム和光純薬製)25.40gとトリエチルアミン(東京化成工業製)19.8mLを4つ口フラスコへ入れ、15時間反応を行った。重合反応後、減圧乾燥によりメタノールを除去した。得られた粉末を2-プロパノールで2回洗浄し、減圧乾燥を行い、粉末を得た。収量は24.89g(収率66.4%)であった。これを化合物(1A)とした。1NMR(D2O)の測定結果を以下に示す。
1NMR(D2O):6.0ppm(s,1H,=CH
2),5.5ppm(s,1H,=CH
2),4.1-4.2ppm(m,3H),3.9ppm(s,1H),3.3-3.7ppm(m,6H),1.7ppm(s,3H,CH3)
【合成例1】
【0100】
化合物(1a)0.5g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)4.45g、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)0.05g、水1.1g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.025gを混合し、均一溶解させた。厚さ約1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとしてポリプロピレン板で挟んで作製したセル、又は厚さ約0.2mmのポリプロピレンシートをスペーサーとしてポリプロピレン板で挟んで作製したセルに、それぞれ混合物を流し込み、窒素置換したオーブン内で100℃、2時間加熱することにより重合体を得た。得られた重合体を生理食塩水へ浸漬し、膨潤させ、透明な眼用レンズ様含水性材料(S-1)(以下、含水性材料)(S-1)を得た。なお、厚さ約1mmのスペーサーを使用して得られた含水性材料を厚膜とし、厚さ約0.2mmのスペーサーを使用して得られた含水性材料を薄膜とした。
【合成例2~3】
【0101】
下記の表1に示す種類及び量の成分を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って、眼用レンズ(S-2)および(S-3)をそれぞれ合成した。
【0102】
【表1】
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート(三菱ケミカル製)
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート(富士フィルム和光純薬製)
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル(富士フィルム和光純薬製)
【0103】
<(S)ではない眼用レンズ>
比較例に用いた眼用レンズ((S)ではない眼用レンズ)は、下記の表2に示す種類及び量の成分を使用した以外は、合成例1と同様の手順に従って、眼用レンズ(S’-1)、(S’-2)をそれぞれ合成した。
【0104】
【表2】
MMG:モノメタクリル酸グリセロール(富士フィルム和光純薬製)
<共重合体(P)の合成>
【合成例4】
【0105】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)44.53g、ブチルメタクリレート(BMA)2.68g、及びp-ビニルフェニルボロン酸(p-VPBA)2.79gを4つ口フラスコへ入れ、水75.0g及びエタノール75.0gで溶解させ、30分間窒素ガスの吹込みを行った。この後、重合開始剤t-ブチルペルオキシネオデカネートであるパーブチル(日本登録商標)ND(PB-ND)0.196gを加えて40℃、4時間重合反応を行い、その後、70℃まで加温してさらに3時間重合反応を行った。重合反応後、重合液を3リットルのアセトンの中にかき混ぜながら滴下し、析出した沈殿をろ過し、真空乾燥を行い、粉末を得た。収量は35.6gであった。これを共重合体(P-1)とした。共重合体(P-1)のGPC測定に基づく重量平均分子量は200,000であった。
【合成例5~8】
【0106】
下記の表3に示す種類及び量の成分、及び重合温度と重合時間以外は、合成例4と同様の手順に従って、共重合体(P-2)~(P-5)をそれぞれ合成した。
【0107】
【表3】
MPC:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(日油製)
BMA:ブチルメタクリレート(三菱ケミカル)
p-VPBA:パラービニルフェニルボロン酸(東京化成工業製)
m-BPBA:メタ―ビニルフェニルボロン酸(Fluorochem Ltd.製)
PB-ND:t-ブチルペルオキシネオデカネート(日油製)
【0108】
<(P)ではない重合体>
比較例に用いた重合体((P)ではない重合体)は、以下の通りである。
ホモポリマー(A):2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単独重合体(重量平均分子量200,000)
ホモポリマー(B):市販のブチルメタクリレート単独重合体(シグマアルドリッチジャパン製ポリ(ブチルメタクリレート)(製品名)、分子量800,000)
ホモポリマー(C):p-ビニルフェニルボロン酸単独重合体(重量平均分子量200,000)
【0109】
[Dulbecco’s PBSの調製]
ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(シグマアルドリッチ製、D1408、10倍濃縮品、配合組成:塩化カリウム;2.0g/L、リン酸二水素カリウム;2.0g/L、塩化ナトリウム;80.0g/L、リン酸水素二ナトリウム;(無水)11/5g/L、精製水;残部)を50mL量り、これに精製水450mLを加えて合計500mLとしてオートクレーブ滅菌(121℃、20分間)を行い、以下の細菌付着量評価に用いた。
【0110】
[ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地の調製]
Soybean-Casein Digest Broth DAIGO(富士フィルム和光純薬製、配合組成:カゼイン製ペプトン;17.0g/30g、大豆製ペプトン;3.0g/30g、リン酸一水素カリウム;2.5g/30g、ブドウ糖;2.5g/30g、塩化ナトリウム;5g/30g)を30g量り、これに精製水1Lを加えて溶解した後、オートクレーブ滅菌(121℃、20分間)を行い、以下の細菌付着量評価に用いた。
【0111】
[生理食塩液の調製]
文献(ISO 18369-3:2006,OphthalmicOptics-Contact Lenses Part3:Measurement Methods.)を参考に、生理食塩液を調製した。塩化ナトリウム8.3g、リン酸水素ナトリウム十二水和物5.993g、リン酸二水素ナトリウム二水和物0.528gを量り、水に溶かして1000mLとして、ろ過して生理食塩液とした。
【0112】
[摩擦係数評価手順]
本発明の実施例1-1の潤滑性評価手順を以下の通り設定した。
眼用レンズ(S-1)の厚膜を2×8cmの短冊状に切り取った。
これを実施例1-1の溶液に浸漬し、121℃、20分の条件でオートクレーブ滅菌を行った。
室温まで冷却した後、下記条件にて表面摩擦係数を測定した。
測定装置測定条件
装置名:摩擦管テスター(商品名KES-SE、カトーテック製)
感度:H、プローブ速度1mm/秒、荷重:25g
測定後、生理食塩液に浸漬し、表面摩擦系を連続して4回測定した。
なお、評価の際には実施例1-1の溶液の代わりに生理食塩液に浸漬した眼用レンズ(S-1)の表面摩擦係数を測定し、これを基準として下記式を用いて表面摩擦係数率を算出した。
表面摩擦係数率=X(1-1)/X(B)
X(1-1):実施例1-1の表面摩擦係数(μ)
X(B):生理食塩液で処理した場合の表面摩擦係数(μ)
その他実施例及び比較例についても、上記手順に従って評価を行った。
摩擦係数評価手順の評価方法は、以下の通りである。なお、生理食塩液中1回目及び4回目の値を用いて評価した。
優れている:0.35未満
良い:0.35以上0.7未満
悪い:0.7以上
【0113】
[表面親水性評価手順]
本発明の実施例1-1の表面親水性評価手順を以下の通り設定した。
眼用レンズ(S-1)の薄膜を直径1.4mmとなるようにパンチを用いてくり抜いた。
これを実施例1-1の溶液に浸漬し、121℃、20分の条件でオートクレーブ滅菌を行った。
眼用レンズ(S-1)を取り出し、表面の水膜が切れるまでの時間をストップウォッチで計測した。この時間を「表面親水性」として測定した。
その他実施例及び比較例についても、上記手順に従って評価を行った。
表面親水性評価手順の評価方法は、以下の通りである。
優れている:15秒以上
良い:10秒以上15秒未満
悪い:10秒未満
【0114】
[細菌付着量評価手順]
本発明の実施例1-1の細菌付着評価手順を以下の通り設定した。
眼用レンズ(S-1)の薄膜を直径1.4mmとなるようにパンチを用いてくり抜いた。
これを実施例1-1の溶液に浸漬し、121℃、20分の条件でオートクレーブ滅菌を行った。
眼用レンズ(S-1)をクリーンベンチ内で取り出し、軽く水気を除いた後、24ウェルプレートに移した。
Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌、NBRC13275)をソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地にて終夜培養し、遠心分離操作によってソイビーン・カゼイン・ダイジェスト培地を取り除き、Dulbecco’s PBSをOD660(波長660nmにおける吸光度)が0.1となるように加えて懸濁した。
この懸濁液を含水性材料(S-1)に2mL添加して5分静置した。
含水性材料(S-1)を取り出し、滅菌済Dulbecco’s PBS2mLで洗浄した。この操作を計3回行った。その後、軽く水気を取り除き、新しい24ウェルプレートに移しいれた。
これに滅菌済Dulbecco’s PBS0.4mLと、ATP抽出液(ルシフェール250プラスATP測定キット付属、キッコーマンバイオケミファ製)0.4mLを添加し、シェイカーで軽く攪拌した後5分間静置した。
この液を96ウェルプレートに100μL移し、ATP発光試薬(ルシフェール250プラスATP測定キット付属)50μLを添加した。
シェイカーで軽く攪拌し、発光強度を測定した。
なお、評価の際は実施例1-1の溶液の代わりに生理食塩液に浸漬した眼用レンズ(S-1)の細菌付着量を測定し、これを陰性対照とした。実施例1-1及び陰性対照における発光強度と、下記式を用いて、細菌付着抑制率を算出した。
細菌付着抑制率(%)=(AB-A1-1)/(AB)×100
A1-1:実施例1-1の発光強度
AB:陰性対照の発光強度
その他実施例及び比較例についても、上記手順に従って評価を行った。
細菌付着量評価手順の評価方法は、以下の通りである。
優れている:55%以上
良い:30%以上55%未満
悪い:30%未満
【0115】
[実施例1-1]
0.1gの共重合体(P-1)、及び99.9gの生理食塩水(生理食塩液)を混合し、均一溶解して実施例1-1の眼用レンズ用組成物を得た。各成分の含有割合を表4に示す。さらに、実施例1-1の表面摩擦係数率評価結果、表面親水性評価結果、及び細菌付着抑制率評価結果を表4に示す。
【0116】
[実施例1-2~1-7]
表4に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1-1と同様の手順に従って製造し、それぞれ実施例1-2~実施例1-7とした。これら実施例1-2~実施例1-7の表面摩擦係数率評価結果、表面親水性評価結果、及び細菌付着抑制率評価結果を表4に示す。
【0117】
【0118】
[比較例1-1~1-5]
表5に示す種類及び量の成分を使用した以外は、実施例1-1と同様の手順に従って製造し、それぞれ比較例1-1~比較例1-5とした。これら比較例1-1~比較例1-5の表面摩擦係数率評価結果、表面親水性評価結果、及び細菌付着抑制率評価結果を表5に示す。
【0119】
【0120】
表4及び表5から明らかなように、実施例1~7においては、PC単量体、フェニルボロン酸基含有単量体及び疎水性単量体を所定の割合で重合して得られた共重合体(P)を所定の割合で含有する眼用レンズ用組成物により、一般式(1a)を構成単位として含む眼用レンズ(S)を処理したことにより、眼用レンズ(S)の表面親水性、持続的な潤滑性及び細菌付着抑制効果が優れている又は良いであった。
一方、比較例1-1~1-3においては、共重合体(P)ではないホモポリマーを含有する眼用レンズ用組成物により、眼用レンズ(S)を処理したことにより、眼用レンズ(S)の表面親水性、潤滑性及び細菌付着抑制効果が悪いであった。
比較例1-4~1-5においては、共重合体(P)を含有する眼用レンズ用組成物により、一般式(1a)を構成単位として含まない眼用レンズを処理したことにより、(S)ではない眼用レンズの表面親水性、潤滑性及び細菌付着抑制効果が悪いであった。
以上の結果より、本発明の眼用レンズ用組成物は、一般式(1a)を構成単位として含む眼用レンズに、表面親水性、潤滑性及び細菌付着抑制効果を付与できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0121】
表面親水性、潤滑性及び細菌付着抑制効果に優れた眼用レンズを得るための眼用レンズ用組成物を提供することができる。