(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】インスタント食品包装用蓋材およびこれを用いた包装体
(51)【国際特許分類】
B65D 77/20 20060101AFI20240110BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240110BHJP
B65D 81/34 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B65D77/20 N
B65D65/40 D
B65D81/34 U
(21)【出願番号】P 2018119038
(22)【出願日】2018-06-22
【審査請求日】2021-05-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋田 智之
【審査官】植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-193756(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021211(WO,A1)
【文献】特開2017-210541(JP,A)
【文献】特開2015-020298(JP,A)
【文献】特開2006-257134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 67/00-79/02
B65D 65/00-65/46
B65D 81/34
B65D 39/00-55/16
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙層とポリエステルフィルム層の各層を少なくとも1層有し、
該紙層及び該ポリエステルフィルム層は外縁部以外のカット加工部位を有さず、以下の(1)~(5)を満たすことを特徴とするインスタント食品包装用蓋材。
(1)80℃温湯中に10秒間浸漬した後の最大収縮方向における収縮率が7%以下
(2)ポリエステルフィルム層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が2N/15mm以上25N/15mm以下
(3)20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度が90度以下である
(4)蓋材の外縁に開封用タブを有する
(5)ポリエステルフィルム層の引張破壊強度が、長手方向及び幅方向においていずれも80MPa以上である
【請求項2】
金属層を含まないことを特徴とする、請求項1に記載のインスタント食品包装用蓋材。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルム層として、シール層と基材層の少なくとも2層を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のインスタント食品包装用蓋材。
【請求項4】
容器本体部と蓋材部を有し、該蓋材部が請求項1~3のいずれかに記載の蓋材を有することを特徴とする、インスタント食品包装体。
【請求項5】
電子レンジでの加熱に用いられることを特徴とする、請求項2に記載のインスタント食品包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスタント食品包装用蓋材に関する。特に、包装体を構成する容器本体にヒートシール可能であり、かつ折り畳み保持性に優れる蓋材、ならびに該蓋材を用いたインスタント食品包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
インスタント食品等の容器において、特に熱湯を加えて所定時間経過した後に食する状態とするカップ麺やカップライス等のインスタント食品を収納する容器(包装体)として、プラスチック製容器本体又はプラスチックと紙をラミネートした容器本体と蓋材からなるものが広く使用されている。
この場合において、内容物が容器本体に充填された後に、容器本体のフランジ部に蓋材を接着することが多い。蓋材を容器本体に接着することによって包装体が完成し、内容物の保護、漏洩防止といった機能が備わる。蓋材を容器に接着する方法として、簡便さや衛生性の観点から、ヒートシールによる方法が一般的である。
そして、インスタント食品を食する場合は、蓋材を開封して容器本体から一部剥離させて熱湯を注ぎ、蓋材を再度封して所定時間経過させて調理することが必要となる。この際に、蓋材を剥離させた状態で熱湯を注ぐために剥離した状態での形態をそのまま保持する必要があると共に、熱湯を注いだ後に蓋材を折り曲げた状態で封をした形態をそのまま保持する必要がある。また、上記のように熱湯を使用して調理して食するので容器本体としては断熱性も必要とされるため、一般的に発泡ポリスチレン系樹脂製容器本体や、紙製容器本体が広く使用され、必要によりさらにポリエチレン樹脂や紙をコーティングする場合もある。
このような形態を保持する性能を蓋材に付与するために、アルミ箔を蓋材の構成部材として使用することが広く行われている。アルミ箔は、優れた形態保持性能を有している。例えば特許文献1には、PET(ポリエチレンテレフタレート)層/紙層/PE(ポリエチレン)層/アルミ箔層/シーラント層の積層構成を有する蓋材が開示されている。しかしながら、アルミ箔を有する積層材料は、廃棄における問題を有する。積層材料よりアルミ箔と他のプラスチック材料を分離することは困難であり、分別回収することができず、また、焼却しても金属であるアルミ箔は残ってしまう問題がある。さらに、アルミ箔を有する積層材料を使用すると、容器本体と接着させるためのシーラント層あるいは接着剤層をさらに設けなければならない。加えて、蓋材の構成部材としてアルミ箔等の金属を有すると、電子レンジで加熱すると金属中に電流が発生して放電現象が起きて発火する等の危険性があるために、電子レンジで加熱することが不可能である問題がある。
また、特許文献2には、ポリエステル系樹脂又はポリカーボネート系樹脂からなる容器にヒートシールできる蓋材が提案されている。特許文献2に開示された蓋材は、シール層に隣接する中間層や接着剤層をもたせる設計となっており、容器から剥離するときにこれらの層を切断することでイージーピール性をもたせている。すなわち、剥離後にシール層が容器へ残る設計(いわゆる糊残り)となっており、外観不良が問題となるばかりでなく、インスタント食品に使用する熱湯による温度上昇によりシール層が軟化して、インスタント食品を食する際に食品や箸等に粘着して不具合を起す問題があるので、熱湯を使用するインスタント食品の容器には使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-149488公報
【文献】特開2001-328221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。すなわち本発明は、熱湯を使用するインスタント食品包装体に使用が可能で、良好なヒートシール性能を有すると共に、アルミ箔等の金属を使用せずとも良好な折り畳み保持性を有し、かつ、容器から剥離しても糊残りの少ない蓋材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の構成よりなる。
1.紙層とポリエステルフィルム層の各層を少なくとも1層有し、以下の(1)~(4)を満たすことを特徴とするインスタント食品包装用蓋材。
(1)80℃における熱収縮率が幅方向、長手方向ともに-7%以上7%以下
(2)ポリエステルフィルム層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が2N/15mm以上20N/15mm以下
(3)20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度が90度以下である
(4)蓋材の外縁に開封用タブを有する
2.金属層を含まないことを特徴とする、1.に記載のインスタント食品包装用蓋材。
3.前記ポリエステルフィルム層として、シール層と基材層の少なくとも2層を有することを特徴とする、1.又は2.に記載のインスタント食品包装用蓋材。
4.容器本体部と蓋材部を有し、該蓋材部が1.~3.のいずれかに記載の蓋材を有することを特徴とする、インスタント食品包装体。
5.電子レンジでの加熱に用いられることを特徴とする、4.に記載のインスタント食品包装体。
【発明の効果】
【0006】
本発明のインスタント食品包装用蓋材は、熱湯を使用するインスタント食品包装体に使用が可能で、良好なヒートシール性能を有すると共に、アルミ箔等の金属を使用せずとも良好な折り畳み保持性を有し、かつ、容器から剥離しても糊残りの少ない蓋材を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明のインスタント食品包装用蓋材の一例を示す図
【
図2】実施例1のシール層(フィルムNo.1)と基材層(フィルムNo.8)における示差走査熱量測定(DSC)から得られたヒートフローを示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、紙層とポリエステルフィルム層の各層を少なくとも1層有し、以下の(1)~(4)を満たすことを特徴とするインスタント食品包装用蓋材である。
(1)80℃温湯中に10秒間浸漬した後の最大収縮方向における収縮率が7%以下
(2)ポリエステルフィルム層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が2N/15mm以上25N/15mm以下
(3)20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度が90度以下である
(4)蓋材の外縁に開封用タブを有する
【0009】
・ 蓋材の積層構成
本発明の蓋材は、紙層とポリエステルフィルム層の各層を少なくとも1層有している必要がある。紙層は折り畳み保持性に優れる材料であり、洋紙、和紙等の素材からなり、上質紙やコート紙、アート紙、クラフト紙等が使用可能であり、紙再生材料を含んでいてもよい。紙層は表面に、商品名の表示や意匠性の付与を目的とした印刷層やコート層を含んでいてもよい。紙層は秤量40g/m2以上、500g/m2以下であることが好ましいく、より好ましくは50g/m2以上、4500g/m2以下である。
紙層とポリエステルフィルム層をラミネートする方法としては、ドライラミネート等の公知の方法を用いることができる。ドライラミネートの場合、市販のドライラミネーション用接着剤を用いることができる。代表例としては、DIC社製ディックドライ(登録商標)LX-703VL、DIC社製KR-90、三井化学社製タケネート(登録商標)A-4、三井化学社製タケラック(登録商標)A-905などがある。
【0010】
ポリエステルフィルム層は単層構成、あるいは2層以上の積層構成のいずれでもよいが、耐熱性を有する層とヒートシール性を有する層の2層構成であることが好ましい。単層構成とする場合はヒートシール性を有する層の1層のみとなる。
ポリエステルフィルム層を2層以上積層させるには、製膜ライン中で共押し法によってそれぞれの層を積層させる方法のほか、ドライラミネートや押出ラミネート等の公知の方法を採用することができる。ドライラミネートの場合、市販のドライラミネーション用接着剤を用いることができる。接着剤としては、DIC社製ディックドライ(登録商標)LX-703VL、DIC社製KR-90、三井化学社製タケネート(登録商標)A-4、三井化学社製タケラック(登録商標)A-905などがある。
【0011】
ポリエステルフィルム層において、ヒートシール性層と耐熱性層以外の層を複数層重ねてもよく、例えばシール層と耐熱層との間に他の層を設けてもよい。他の層としては、ヒートシール性層、耐熱性層とは異なる組成物からなる層であってもよいが、ポリエステル素材とのリサイクルを考慮すると、ポリエステル系素材からなることが好ましい。好ましい層構成は、ヒートシール性層と耐熱性層からなる2種2層である。
【0012】
ポリエステルフィルム層の好ましい厚みの範囲は、6μm以上200μm以下である。厚みが6μm未満の場合、ポリエステルフィルム層が薄すぎるために取り扱いが困難となってしまう(ハンドリング性が悪くなる)。一方、ポリエステルフィルム層が200μmを越えるとコストが増えるだけでなく、最大熱収縮力が高くなってしまうため好ましくない。また、ポリエステルフィルム層を2層以上の構成とする場合は、ヒートシール性層の厚みは3μm以上100μm以下であることが好ましい。ヒートシール性層の厚みが3μm未満だと、後述するヒートシール強度が2N/15mm未満となってしまい、ヒートシール強度が不足するため好ましくない。一方、ヒートシール性層の厚みが100μmを超えるとシール強度が25N/15mmを超えてヒートシール強度が高くなりすぎる場合があり、好ましくない。
【0013】
本発明の蓋材は、蓋材の外縁に開封用タブを有することを特徴とするものである。開封用タブを利用して容器より蓋材を容易に開封することができる。また、開封した容器内に熱湯を注いだ後に再度蓋を閉じて開封用タブを折り曲げて容器にかけて封止した状態とすることができる。開封用タブは1箇所設ければよいが、2箇所以上の複数の開封用タブを有していてもよい。
【0014】
本発明の蓋材は、アルミニウム等の金属層を含まないことが好ましい。前述のようにアルミ箔等の金属層は、蓋材を廃棄する際にプラスチック材料との分離が困難で、廃棄する際に問題を生じると共に、電子レンジで加熱すると危険性を有するために電子レンジで加熱することが不可能である問題がある。本発明の蓋材は、金属層を含まない構成とすることで電子レンジにより加熱できる構成とすることが好ましい。
【0015】
・ 蓋材の特性
2.1.80℃温湯中に10秒間浸漬した後の最大収縮方向における収縮率
本発明の蓋材は、80℃温湯中に10秒間浸漬した後の最大収縮方向における収縮率が7%以下である必要がある。該収縮率が高すぎると、容器と蓋材をヒートシールする際、ヒートシールからの熱によって収縮力が発生して蓋材の収縮により容器が変形してしまうために好ましくない。80℃温湯中に10秒間浸漬した後の最大収縮方向における収縮率は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下であり、特に好ましくは0%である。
【0016】
2.2.ポリエステルフィルム層同士のヒートシール強度
本発明の蓋材を構成するポリエステルフィルム層は、ポリエステルフィルム層同士を160℃、0.2MPa、2秒間でヒートシールしたときのヒートシール強度が2N/15mm以上25N/15mm以下である必要がある。ヒートシールしたときのヒートシール強度が2N/15mm以上25N/15mm以下でなければならない。ヒートシール強度が2N/15mm未満であると、蓋材が容器から容易に剥がれてしまい、内容物の漏洩等が起きるため好ましくない。一方、ヒートシール強度が25N/15mmを上回ると、蓋材を容器から剥がしにくくなるため好ましくない。ヒートシール強度の好ましい範囲は、4N/15mm以上22N/15mm以下であり、より好ましい範囲は6N/15mm以上20N/15mm以下である。
【0017】
2.3.20℃の環境下で24時間保管した後の折畳み保持角度
本発明の蓋材は、後述する方法で測定される20℃の環境下で24時間保管した後の折りたたみ保持角度が90度以下である必要がある。カップ麺等のインスタント食品に用いられる本発明の蓋材は、容器内のインスタント食品に熱湯等を注ぐ作業を容易にするために蓋を開封部のタブの部分から容器より開封した状態で保持する機能が必要とされると共に、再度蓋を閉じて開封用のタブを折り曲げて容器にかけて封止した状態として、その状態を少なくとも数分間保持する機能が必要とされる。あるいは、開封した容器内に水を注いで再度蓋を閉じ、電子レンジで加熱する様式で使用する際も同様の機能が必要とされる。蓋材の折りたたみ保持角度が90度を超えると、蓋を容器から開封した状態を保持する機能を付与することができず、また、再度蓋を閉じてタブを折り曲げて容器にかけて封止した状態を保持する機能を保持することができなくなる。好ましい折たたみ保持角度の上限は70度であり、上限が60度であればより好ましく、さらに好ましくは55度以下であり、特に好ましくは50度以下である。また、折りたたみ保持角度は小さければ小さいほど好ましいが、本発明のカバーできる範囲は10度が下限であり、折りたたみ保持角度が15度以上であっても、実用上は好ましいものといえる。
【0018】
2.4.引張破壊強度
本発明の蓋材を構成するポリエステルフィルム層は、長手方向と幅方向の引張破壊強度が80MPa以上300MPa以下であることが好ましい。長手方向と幅方向の引張破壊強度が80MPa未満であると、蓋材を印刷加工する際の張力によって破断が生じたり、容器に接着させてから剥がす際に破れが生じたりするため好ましくない。長手方向と幅方向の引張破壊強度は90MPa以上であるとより好ましく、100MPa以上であると特に好ましい。長手方向と幅方向の引張破壊強度は高ければ高いほど破れに強くなって好ましいが、現在の技術水準では300MPaが上限である。なお、ここで長手方向とはポリエステルフィルム層を製膜する際の製膜する方向をさし、機械方向(MD方向、縦方向)と同義である。また、幅方向とは長手方向を直交する方向をさし、TD方向(横方向)と同義である。
【0019】
・ ポリエステルフィルム層を構成するポリエステル原料の種類
本発明の蓋材のポリエステルフィルム層を構成する原料として用いるポリエステルについて、以下説明する。前述のように、ポリエステルフィルム層は単層構成、あるいは2層以上の積層構成のいずれでもよい。単層構成の場合の層はヒートシール性を有する層であり、以下、「シール層」と記載する場合がある。2層構成の場合の層は、前記シール層を有すると共に、他の1層を有する。この層を、以下、「耐熱性層」と称する場合がある。本発明において好ましい様態はシール層及び耐熱性層からなる2種2層構成である。以下、2種2層構成を例に挙げて好ましい様態を説明する。
【0020】
本発明のポリエステルフィルム層は、シール層と耐熱性層のいずれもエチレンテレフタレートユニットを主たる構成成分とすることが好ましい。ここで、主たる構成成分とするとは、全構成成分中の50モル%以上となることをさす。エチレンテレフタレートユニットは、ポリエステルの構成ユニット100モル%中、52モル%以上が好ましく、54モル%以上がより好ましい。蓋材を構成するポリエステルフィルム層のシール層と耐熱性層の原料種はいずれもポリエステル系であるが、それぞれの層で担う機能が異なるため、好ましい組成が異なる。以下、シール層と耐熱性層それぞれの好ましい組成について記述する。
【0021】
3.1.シール層の組成
シール層に用いるポリエステルには、エチレンテレフタレートユニット以外の成分として、非晶成分となりうる1種以上のモノマー成分(以下、単に非晶成分と記載する)を含むことが好ましい。これは、非晶成分が存在することによってシール層の結晶性と融点を下げ、ヒートシール強度を向上させることができるためである。非晶成分となりうるジカルボン酸成分のモノマーとしては、例えばイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。また、非晶成分となりうるジオール成分のモノマーとしては、例えばネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、2,2-ジエチル1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-イソプロピル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることができる。これらのなかでも、イソフタル酸、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールのいずれか1種以上を用いることでシール層の融解エンタルピーΔHmと融点を下げてヒートシール強度を2N/15mm以上としやすくなる。ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのいずれか1種以上を用いることがより好ましく、ネオペンチルグリコールを用いることが特に好ましい。
シール層に含まれる非晶成分は、後述の製膜工程において無延伸とするか、一軸または二軸延伸とするかによって好ましい非晶成分量が異なる。無延伸の場合、延伸による結晶化が少ないため、非晶成分量は0モル%であっても必要なヒートシール強度を達成することができる。一方、一軸または二軸延伸する場合、非晶成分量が多いほど延伸による結晶化が少なくなる。一軸または二軸延伸の場合、好ましい非晶成分量は10モル%以上30モル%以下である。非晶成分量が10モル%未満であると、必要なヒートシール強度を達成することが困難となる場合がある。非晶成分量が30モル%を超えるとシール層の耐熱性が極端に低下するため、ヒートシールするときにシール部の周囲がブロッキング(加熱用部材からの熱伝導によって、意図した範囲よりも広い範囲でシールされてしまう現象)してしまい、適切なヒートシールが困難となる場合がある。一軸または二軸延伸の場合のより好ましい非晶成分量は12モル%以上28モル%以下であり、さらに好ましくは14モル%以上26モル%以下である。
【0022】
本発明に用いるポリエステルにおいては、エチレンテレフタレートや非晶成分以外の成分を含んでいてもよい。ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、オルトフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、および脂環式ジカルボン酸等を挙げることができる。ただし、3価以上の多価カルボン酸(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびこれらの無水物等)はポリエステル中に含有させないことが好ましい。
また、ポリエステルを構成するエチレングリコール以外のジオール成分としては、1,4-ブタンジオール等の長鎖ジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等を挙げることができる。ただし、ポリエステルには炭素数8個以上のジオール(例えば、オクタンジオール等)、または3価以上の多価アルコール(例えば、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ジグリセリンなど)を含有させないことが好ましい。
上記に挙げたエチレンテレフタレートや非晶成分以外の成分の中でも、1,4-ブタンジオールを用いることにより、ポリエステル系シーラントの結晶性と融点を下げてヒートシール強度を2N/15mm以上としやすくなるためより好ましい。
【0023】
シール層に含まれる1,4-ブタンジオール成分量は、後述の製膜工程において無延伸とするか、一軸または二軸延伸とするかによって好ましい範囲が異なる。無延伸の場合、延伸による結晶化が少ないため、非晶成分量は0モル%であっても必要なヒートシール強度を達成することができる。一方、一軸または二軸延伸する場合、非晶成分量が多いほど延伸による結晶化が少なくなる。一軸または二軸延伸の場合、好ましい1,4-ブタンジオール成分量は5モル%以上30モル%以下である。1,4-ブタンジオール成分量が5モル%未満であると、必要なヒートシール強度を達成することが困難となる。1,4-ブタンジオール成分量が30モル%を超えるとシール層の耐熱性が極端に低下するため、ヒートシールするときにシール部の周囲がブロッキング(加熱用部材からの熱伝導によって、意図した範囲よりも広い範囲でシールされてしまう現象)してしまい、適切なヒートシールが困難となる。一軸または二軸延伸の場合の好ましい1,4-ブタンジオール成分量は7モル%以上28モル%以下であり、さらに好ましくは9モル%以上26モル%以下である。
【0024】
シール層は、示差走査熱量測定(DSC)の融解ピークから算出される融解エンタルピーΔHが1000J/mol以上5000J/mol未満、かつ融点が160℃以上200℃未満であることが好ましい。フィルムの融解エンタルピーΔHと融点は示差走査熱量計(DSC)により得られる値である。融解エンタルピーΔHはフィルムの結晶性(製膜時の配向、及び昇温中の冷結晶化によって生成する結晶量)の目安となる値、融点は加熱によってフィルムが溶融する温度である。一般的に、フィルムの融解エンタルピーΔHと融点はフィルムの融けやすさの指標と考えられている。融解エンタルピーΔHと融点が低いほど加熱によって融けやすくなるため、ヒートシール強度が向上すると考えられる。
融解エンタルピーΔHが5000J/mol以上、ならびに融点が200℃以上であると、ヒートシー強度が2N/15mm以下となってしまうため好ましくない。一方、融解エンタルピーΔHと融点は低ければ低いほどヒートシール強度が向上して好ましいが、現在の技術水準では、ΔHは5000J/mol、融点は160℃が下限である。より好ましい融解エンタルピーΔHの範囲は1500J/mol以上4500J/mol未満、さらに好ましい範囲は2000J/mol以上4000J/mol未満である。また、より好ましい融点の範囲は165℃以上195℃未満、さらに好ましい範囲は170℃以上190℃未満である。
【0025】
3.2.耐熱性層の組成
本発明の蓋材のポリエステルフィルム層を構成する耐熱性層に用いるポリエステルは、結晶性と融点を上げて耐熱性を高く保つため、上記に挙げた非晶成分量を低く抑えることが好ましい。結晶性と融点は、原料組成や後述の延伸、熱固定も含めた複数の製膜条件によって決まる。非晶成分の存在は、結晶性と融点を低下させるため、耐熱性の観点からは好ましくないが、結晶性の指標としての融解エンタルピーΔHが下記のように8000mol/J・Kを下回らない限りは含んでいても良い。基材層に含まれる非晶成分量は、0モル%以上6モル%以下であることが好ましい。
耐熱性層は、融解エンタルピーΔHが8000J/mol以上12000J/mol・K以下、かつ融点が240℃以上280℃以下であることが好ましい。本発明の蓋材のポリエステルフィルム層は、シール層は熱によって容易に融解して容器と接着する必要がある一方、耐熱性層にはヒートシールしても融解しない特性を有することが好ましい。上述の通り、融解エンタルピーΔHと融点はフィルムの融けやすさを示しており、いずれも値が大きいほど融けにくいことを意味する。好ましい融解エンタルピーΔHの範囲は、8500J/mol以上11500J/mol以下、さらに好ましい範囲は、9000J/mol以上11000J/mol以下である。また、好ましい融点の範囲は245℃以上275℃以下、さらに好ましい範囲は250℃以上270℃以下である。
【0026】
3.3.シール層、耐熱性に共通する事項
本発明のシール層、基材層に用いるポリエステルの中には、必要に応じて各種の添加剤、例えば、ワックス類、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、減粘剤、熱安定剤、着色用顔料、着色防止剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。また、フィルムのすべり性を良好にする滑剤としての微粒子を、少なくともシール層、耐熱性層どちらか一方の表層に添加することが好ましい。微粒子としては、任意のものを選択することができる。例えば、無機系微粒子としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウムなどをあげることができ、有機系微粒子としては、アクリル系樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子などを挙げることができる。微粒子の平均粒径は、コールターカウンタにて測定したときに0.05μm以上3.0μm以下の範囲内で必要に応じて適宜選択することができる。微粒子の好ましい配合量は、100ppm以上800ppm以下である。微粒子の配合量が100ppm未満であると、必要なすべり性を確保することが困難となる。一方、微粒子の配合量が800ppmを超えると、透明性が悪化してしまうため好ましくない。
本発明のシール層と基材層の中に粒子を配合する方法として、例えば、ポリエステル系樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応開始前の段階でエチレングリコールなどに分散させたスラリーとして添加し、重縮合反応を進めるのが好ましい。また、ベント付き混練押出し機を用いてエチレングリコールや水、そのほかの溶媒に分散させた粒子のスラリーとポリエステル系樹脂原料とをブレンドする方法や、乾燥させた粒子とポリエステル系樹脂原料とを混練押出し機を用いてブレンドする方法なども挙げられる。
また、本発明のシール層と耐熱性層には、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、防曇剤以外のコーティング処理や火炎処理などを施した層を設けることも可能であり、本発明の要件を逸しない範囲で任意に設けることができる。
【0027】
4.ポリエステルフィルム層の製膜条件
4.1.溶融押し出し
本発明の蓋材を構成するシール層、耐熱性層は、上記3.「ポリエステルフィルム層を構成するポリエステル原料の種類」で記載したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、それを以下に示す所定の方法により得ることができる。シール層および耐熱性層は無延伸、一軸延伸、二軸延伸のどの延伸方式を採用しても構わないが、強度の観点からは二軸延伸により得られたフィルムが好ましい。ただし、蓋材は基材層を用いて耐熱性や強度を発現させるため、シール層はヒートシール強度を高めるために無延伸フィルムを用いることもできる。シール層と耐熱性層は、未延伸フィルムを形成するときに積層させ、それを後工程の延伸、熱固定を一緒に経てもよい。この場合、それぞれの原料樹脂を別々の押出機によって溶融押し出しして、フィードブロックでそれぞれの溶融樹脂を合流させることによって積層した未延伸フィルムを形成することができる。また、上述のように、シール層と耐熱性層は別々の延伸方式をとることもできるため、それぞれのフィルムは別々に製膜した後、上記「1.蓋材の積層構成」で説明した内容で積層させることもできる。シール層と耐熱性層は好ましい融解エンタルピーΔHと融点の範囲が異なるため、それぞれ別々のフィルムを製膜した後に積層させることが好ましい。なお、ポリエステルはジカルボン酸成分とジオール成分の種類と量を選定して重縮合させることで得ることができる。また、チップ状のポリエステルを2種以上混合した原料も使用することもできる。
【0028】
原料樹脂を溶融押し出しするとき、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後、押出機を利用して200~300℃の温度で溶融して積層フィルムとして押し出す。押し出しはTダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
その後、押し出しで溶融されたフィルムを急冷することにより、未延伸のフィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金から回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。耐熱性層となるフィルムは、縦(長手)方向、横(幅)方向のいずれか少なくとも一方向に延伸されていることが好ましい。すなわち、一軸延伸フィルムあるいは二軸延伸フィルムであることが好ましい。以下では、最初に横延伸、次に縦延伸を実施する横延伸-縦延伸による逐次二軸延伸法について説明するが、順番を逆にする縦延伸-横延伸であっても、主配向方向が変わるだけなので構わない。また同時二軸延伸法でも構わない。
【0029】
4.2.横延伸
溶融押出後に急冷して得られた未延伸のフィルムをテンター(第1テンター)内でフィルムの幅方向の両端際をクリップによって把持した状態で横方向へ延伸する。横延伸の条件は、65℃~100℃で3倍~5倍程度の倍率とすることが好ましい。延伸温度が65℃よりも低いと横延伸によるフィルムの配向結晶化が促進されるため、横延伸だけでなく後工程の縦延伸でも破断しやすくなる虞がある。一方、横延伸温度が100℃よりも高いと、幅方向の厚みムラが18%を超える虞がある。横延伸に先立って、予備加熱を行うのが好ましく、予備加熱はフィルム表面温度が60℃~100℃になるまで行うとよい。横延伸倍率は3倍よりも低いと、幅方向の厚みムラが18%を超えやすくなってしまう。一方、横延伸倍率が5倍よりも高いと、幅方向の厚みムラは低減できて好ましいが、フィルムを構成する分子が幅方向へ極端に配向しすぎてしまい、次工程の縦延伸へ入る際にパスラインのテンションで破断する、または縦延伸中に延伸応力が増加しすぎてしまい破断するおそれがある。
【0030】
横延伸の後は、積極的な加熱操作を実行しない中間ゾーンにフィルムを通過させることが好ましい。第1テンターの横延伸ゾーンと中間熱処理ゾーンで温度差がある場合、中間熱処理ゾーンの熱(熱風そのものや輻射熱)が横延伸工程に流れ込み、横延伸ゾーンの温度が不安定になりフィルム品質が安定しなくなることがある。したがって、横延伸後で中間熱処理前のフィルムは、所定時間をかけて中間ゾーンを通過させた後に、中間熱処理ゾーンへと供給するのが好ましい。この中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、横延伸ゾーンや中間熱処理ゾーンからの熱風を遮断すると、安定した品質のフィルムが得られる。中間ゾーンの通過時間は、1秒~5秒程度で充分である。1秒より短いと、中間ゾーンの長さが不充分となって、熱風の遮断効果が不足する。また、中間ゾーンの通過時間は長い方が好ましいが、あまりに長いと設備が大きくなってしまうので、5秒程度で充分である。
【0031】
4.3.縦延伸
続いて縦延伸を行う。縦延伸工程では、まず、横一軸延伸フィルムを複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へと導入する。縦延伸に当たっては、予熱ロールでフィルム温度が65℃~110℃になるまで予備加熱することが好ましい。フィルム温度が65℃より低いと、縦方向に延伸し難くなる傾向がある(すなわち、破断が生じやすくなる)。一方110℃より高いとロールにフィルムが粘着しやすくなり、連続生産においてロール汚れの発生が早期に生じる虞がある。
フィルム温度が前記範囲になったら、縦延伸を行う。縦延伸はロールの速度差によって行う。延伸倍率は1.5倍~5倍とするのが好ましい。またこのとき、延伸に使用するロールが低速・高速の2つである一段延伸だけでなく、低速・中速・高速の3つである二段延伸、低速・中低速・中高速・高速の4つである3段延伸と延伸段数を増加させることもできる。縦延伸の後は、一旦フィルムを冷却することが好ましく、表面温度が20℃~40℃の冷却ロールで冷却することが好ましい。
【0032】
4.4.熱処理
次に、縦延伸および冷却後のフィルムを第2テンターへと導入して熱処理を行う。熱処理温度は、90℃~230℃が好ましい。熱処理温度が90℃より低いとフィルムの収縮率が高くなるため好ましくない。一方、熱処理温度は高ければ高いほどフィルムの収縮率を低減できて好ましいが、230℃より高いと、フィルムのヘイズが高くなり、蓋材としたときの透明性が低下するため好ましくない。さらに、最終熱処理温度が230℃より高い場合には、フィルムがテンター内に接触すると粘着して滞留してしまうおそれがある。
最終熱処理後は、フィルム両端部を裁断除去しながら巻き取れば、ポリエステル系のフィルムロールが得られる。
【0033】
5.インスタント食品包装体
本発明のインスタント食品包装体は容器本体部と蓋材部を有し、容器本体部内にインスタント食品を内蔵すると共に、該蓋材部は前述のように紙層とポリエステル層の各層を少なくとも1層有するものである。該インスタント食品は、熱湯により食することが可能となる麺類、米飯類、汁物食品、及び飲料等をさす。熱湯を使用する場合は、開封用タブの部分より容器本体から蓋材を開封したあと、容器内のインスタント食品に熱湯を注ぎ、再度蓋を閉じて開封用のタブを折り曲げて容器にかけて封止した状態として数分間保持した後、蓋材を剥がしてインスタント食品を食することができる。
本発明のインスタント食品容器包装体は、前述のように蓋材に金属層を含まない構成とすると共に、容器本体部にも金属層を含有しない構成とすることにより、電子レンジでの加熱にも用いられることが好適な様態である。電子レンジで加熱する際は、開封用タブの部分より容器本体から蓋材を開封したあと、容器内のインスタント食品に水を注ぎ、再度蓋を閉じて開封用のタブを折り曲げて容器にかけて封止した状態として電子レンジで加熱した後、蓋材を剥がしてインスタント食品を食することができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例および比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
蓋材の評価方法は以下の通りである。
【0035】
<蓋材の評価方法>
[80℃温湯中に10秒間浸漬した後の最大収縮方向における収縮率]
蓋材を8cm×8cmの正方形に裁断し、寸法測定用の直径6cmの円形のマークを記入した。次いで80±0.5℃の温水中に無負荷状態で10秒間浸漬して収縮させた後、25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬し、水中から出した。その後、蓋材の前記円形のマークの寸法を測定し、下式1に従って最大収縮方向における収縮率を求めた。なお、測定は2回行いその平均値を求めた。
収縮率={(収縮前の長さ-収縮後の長さ)/収縮前の長さ}}×100(%) 式1
【0036】
[融解エンタルピーΔH、融点]
蓋材に含まれるシール層、基材層は、示差走査熱量計(DSC、セイコー電子工業株式会社製DSC220)を用いて、それぞれ別々に融解エンタルピーΔHと融点を評価した。具体的には、サンプルをアルミニウムパンに10mg秤量し、20℃から300℃まで10℃/分で昇温を行い、あらわれる吸熱ピークの極小値を示す温度を融点とし、吸熱ピークとベースラインで囲まれる面積(融解ピーク面積)が示す熱量の絶対値(ΔHm)を融解エンタルピーΔHとした。100℃付近に冷結晶化の発熱ピークがあらわれる場合は、発熱ピークとベースラインで囲まれる面積(冷結晶化ピーク面積)が示す熱量の絶対値(ΔHc)を用いて、以下の式2によってΔHを算出した。
ΔH[J/mol]=ΔHm[J/mol]-ΔHc[J/mol] 式2
吸熱ピークは、60~90℃の温度帯と、160~280℃の温度帯の2つが現れる場合があるが、この場合はより高温側のもの融解ピークとして選択した。
蓋材からシール層と基材層の各サンプルを別々に得る際、ラミネートフィルムの場合、フィルムにノッチを入れて手で引き裂き、引き裂いた部分の層間剥がれ(切欠)をピンセットで剥がした。剥がしたヒートシール層は、切欠から1cm以上離れた部分をサンプリングした。
【0037】
[ヒートシール強度]
JIS Z1707に準拠して蓋材のヒートシール強度を測定した。具体的な手順を簡単に示す。ヒートシーラーにより、蓋材のシール層同士を熱シールした。シール条件は、上バー温度160℃、下バー温度30℃、圧力0.2MPa、時間2秒とした。接着サンプルは、シール幅が15mmとなるように切り出した。剥離強度は、万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて引張速度200mm/分で測定した。剥離強度は、15mmあたりの強度(N/15mm)で示す。
【0038】
[折りたたみ保持角度]
28℃50%RH環境の恒温室で蓋材を24時間放置した。その後直ちに、各蓋材を20℃65%RH環境で10cm×10cmの正方形に裁断し、4つ折にした(5cm×5cmの正方形)。蓋材を折りたたむ際は、紙層が外面側となるようにして、最初の2つ折りで出来た長方形の短辺が長手方向になるようにした。その後、大きさが10cm×15cmで厚みが2mmであるガラス2枚に4つ折りの蓋材を挟み、5kgのおもりをガラスの上に置いて10秒間プレスした。4つ折りのフィルムからおもりを外した後、最後にできた折目を基点として蓋材が開いた角度を
図3のようにして測定した。なお、フィルムが完全に折畳まれた状態は0度、フィルムが完全に開いた角度は180度である。
【0039】
[引張破壊強度]
JIS K7113に準拠し、測定方向が140mm、測定方向と直交する方向が20mmの短冊状のポリエステルフィルム層のサンプルを作製した。万能引張試験機「DSS-100」(島津製作所製)を用いて、試験片の両端をチャックで片側20mmずつ把持(チャック間距離100mm)して、雰囲気温度23℃、引張速度200mm/minの条件にて引張試験を行い、引張破壊時の強度(応力)を引張破壊強さ(MPa)とした。
【0040】
[容器の変形評価]
蓋材から13cm×13cmのサイズのサンプルを切り出し、発泡ポリスチレン製の容器(上部開口部が直径10cmの円周状となっているカップ麺の容器)の開口部にアイロン(東芝ライフスタイル株式会社製 東芝裁縫こて TA-A20)でヒートシールすることで評価した。このとき、蓋材のシール層が開口部のフランジ部分と接触するようにした。加熱条件は、アイロンの目盛りを「高」とし、加熱時間は5秒とした。容器と蓋材をヒートシールした後の、蓋材の収縮による容器の変形度合いを評価した。容器の変形量は、変形の最も大きい部分を採用した。判定基準は以下の通りである。
判定○ 容器開口部の変形量が1cm未満
判定× 容器開口部の変形量が1cm以上
【0041】
[ヒートシール剥離後の糊残り]
上記の評価項目[容器の変形評価]にて容器変形を評価した後のサンプルについて、糊残りを評価した。糊残りは、容器のヒートシールした部分に残ったシール層を目視で判定した。判定基準は以下の通りである。
判定○ シール層の付着面積がヒートシール全部分の半分以下
判定× シール層の付着面積がヒートシール全部分の半分よりも多い
【0042】
<ポリエステル原料の調製>
[合成例1]
撹拌機、温度計および部分環流式冷却器を備えたステンレススチール製オートクレーブに、ジカルボン酸成分としてジメチルテレフタレート100モル%と、多価アルコール成分としてエチレングリコール100モル%とを、エチレングリコールがモル比でジメチルテレフタレートの2.2倍になるように仕込み、エステル交換触媒として酢酸亜鉛を0.05モル%(酸成分に対して)用いて、生成するメタノールを系外へ留去しながらエステル交換反応を行った。その後、重縮合触媒として三酸化アンチモン0.225モル%(酸成分に対して)を添加し、280℃で26.7Paの減圧条件下、重縮合反応を行い、固有粘度0.75dl/gのポリエステル(A)を得た。このポリエステル(A)は、ポリエチレンテレフタレートである。
[合成例2]
合成例1と同様の手順でモノマーを変更したポリエステル(B)~(F)を得た。各ポリエステルの組成を表1に示す。表1において、TPAはテレフタル酸、IPAはイソフタル酸、EGはエチレングリコール、BDは1,4-ブタンジオール、NPGはネオペンチルグリコール、CHDMは1,4-シクロヘキサンジメタノール、DEGはジエチレングリコールである。なお、ポリエステル(F)の製造の際には、滑剤としてSiO2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して7,000ppmの割合で添加した。各ポリエステルは、適宜チップ状にした。各ポリエステルの固有粘度は、それぞれ、B:0.74、C:0.73、D:0.73dl/g,E:0.80dl/g,F:0.75dl/gであった。
【0043】
【0044】
以下に各フィルムの製膜方法について記載する。
(ポリエステルフィルムNo.1の製膜)
ポリエステルAとポリエステルCとポリエステルEとポリエステルFを質量比5:66:24:5で混合し、二軸スクリュー押出機に投入して270℃で溶融させたTダイから押し出した後、表面温度30℃に設定したチルロール上で冷却することによって未延伸の単層フィルムを得た。
未延伸の単層フィルムを、横延伸ゾーン、中間ゾーン、中間熱処理ゾーンを連続的に設けたテンター(第1テンター)に導いた。なお、中間ゾーンにおいては、フィルムを通過させていない状態で短冊状の紙片を垂らしたときに、その紙片がほぼ完全に鉛直方向に垂れ下がるように、延伸ゾーンからの熱風および熱処理ゾーンからの熱風が遮断されている。
そして、テンターに導かれた未延伸フィルムを横延伸ゾーンで78℃、3.8倍の条件で横延伸し、中間ゾーンを通過させた後に(通過時間=約1.2秒)、中間熱処理ゾーンへ導き、97℃の温度で8秒間に亘って熱処理しながら、テンターのクリップ幅を縮めてリラックスを6%実施することによって横一軸延伸フィルムを得た。
【0045】
さらに、その横延伸したフィルムを、低速・高速ロールを含むロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が70℃になるまで予備加熱した後、低速、高速ロール上で延伸倍率が2.8倍となるよう延伸した。しかる後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
そして、テンター(第2テンター)へ導き、第2テンター内で93℃の雰囲気下で10秒間に亘って熱処理、かつ17%横方向(フィルム幅方向)にリラックスした後に冷却し、両縁部を裁断除去しながら連続的に巻き取ることによって、厚みが約12μmのポリエステル系フィルムロールを得た。
【0046】
(ポリエステルフィルムNo.2~8の製膜)
原料の配合比率、樹脂の押出条件、横延伸、中間熱処理、縦延伸、最終熱処理条件を種々変更したポリエステル系フィルムを製膜し、評価した。各実施例の製造条件と特性を表2に示す。
上述したポリエステルフィルムNo.1~8の平均厚み、融解エンタルピーΔH、融点を測定し、その結果を製造方法と一緒に表2にまとめた。
【0047】
【0048】
[実施例1]
フィルムNo.1とフィルムNo.8をドライラミネーション用接着剤(三井化学社製タケラック(登録商標)A-950)を用いて乾燥後の接着剤層が1.5μmとなるように積層した接着剤層を介して積層し、2層のポリエステルフィルム層を有するポリエステルフィルム積層体を作製した。該積層体のポリエステルフィルム層の合計厚みは24μmであった。次いで、秤量85g/m
2の洋紙(アート紙)と該積層体を、該ポリエステルフィルム積層体のフィルムNo.8側の面より、ドライラミネーション用接着剤(三井化学社製タケラック(登録商標)A-950)を用いて乾燥後の接着剤層厚さが1.5μmとなるように積層した接着剤層を介して積層して蓋材用積層体とした。該蓋材用積層体を
図1の形状にカットして蓋材を作成した。得られた蓋材の物性を測定した結果を表3に示す。
【0049】
[実施例2~5]
実施例2~5は、実施例1で用いたポリエステルフィルムを変更し、実施例1と同じ方法で種々の蓋材を作製し、その物性を評価した。得られた蓋材の物性を表3に示す。
【0050】
[比較例1]
フィルムNo.6とフィルムNo.8をドライラミネーション用接着剤(三井化学社製タケラック(登録商標)A-950)を用いて乾燥後の接着剤層厚さが1μmとなるように積層した接着剤層を介して積層することによって、2層のポリエステルフィルム層を有するポリエステルフィルム積層体を作製した。蓋材のポリエステルフィルム層の合計厚みは24μmであった。得られた蓋材の物性を測定した結果を表3に示す。
【0051】
[比較例2~4]
比較例2~4は、実施例1で用いたフィルムを変更し、実施例1と同じ方法で種々の蓋材を作製し、その物性を評価した。得られた蓋材の物性を表3に示す。
【0052】
【0053】
[フィルムの評価結果]
実施例1から5までの蓋材はいずれも表3に掲載した物性に優れており、良好な評価結果が得られた。
一方、比較例1~4は以下の理由により、いずれも蓋材としては好ましくない結果となった。
比較例1は、ヒートシール強度が25N/15mmを超えていた。
比較例2はヒートシール強度がゼロとなり、容器とシールできなかった。
比較例3は蓋材の最大熱収縮率が高いため、シール後に容器の変形が大きくなり、外観不良を起こした。
比較例4は折り畳み保持角度が大きくなり90度を超えており、折り畳み保持性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の蓋材は、熱湯を使用するインスタント食品包装体に使用が可能で、良好なヒートシール性能を有すると共に、アルミ箔等の金属を使用せずとも良好な折り畳み保持性を有し、かつ、容器から剥離しても糊残りの少ない蓋材として好適に用いることができる。