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  • 特許-シームレス缶体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】シームレス缶体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/28 20060101AFI20240110BHJP
   B21D 37/01 20060101ALI20240110BHJP
   B21D 37/18 20060101ALI20240110BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B21D22/28 L
B21D22/28 H
B21D22/28 K
B21D37/01
B21D37/18
B21D51/26 X
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018204823
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020069500
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城石 亮蔵
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚也
(72)【発明者】
【氏名】島村 真広
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 拓甫
(72)【発明者】
【氏名】小川 智裕
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-169162(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033791(WO,A1)
【文献】特開平11-267769(JP,A)
【文献】特開平11-277160(JP,A)
【文献】特開平10-137861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/28
B21D 37/01
B21D 37/18
B21D 51/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが5~30μmのダイヤモンド膜が加工表面に形成されたダイ部またはパンチ部のうちの一方と、ダイヤモンド膜とは異なり且つダイヤモンド膜より硬度が低い表面処理膜が形成された前記ダイ部または前記パンチ部のうちのもう一方、を含む成形加工部材を用い、クーラントが介在した状態で前記成形加工部材の加工表面で金属材をプレス加工する工程を含むことを特徴とするシームレス缶体の製造方法。
【請求項2】
前記表面処理膜は前記ダイヤモンド膜より膜厚が薄い、請求項1に記載のシームレス缶体の製造方法。
【請求項3】
前記表面処理膜がダイヤモンドライクカーボン膜であり、
前記表面処理膜の厚みが0.1~10μmである、請求項1又は2に記載のシームレス缶体の製造方法。
【請求項4】
前記クーラントに含有される油分が4体積%以下である請求項1~3のいずれかに記載のシームレス缶体の製造方法。
【請求項5】
前記プレス加工は前記金属材のしごき加工を含み、
前記しごき加工におけるしごき率が30%以上となるように前記金属材をしごいて缶胴部を形成する請求項1~4のいずれかに記載のシームレス缶体の製造方法。
【請求項6】
前記しごき加工に用いる前記成形加工部材の表面粗さがRa=0.12μm以下である請求項5に記載のシームレス缶体の製造方法。
【請求項7】
前記しごき加工に用いる前記成形加工部材の表面粗さがRa=0.08μm以下である請求項5に記載のシームレス缶体の製造方法。
【請求項8】
前記プレス加工する工程を経た後の金属材を洗浄する洗浄工程において排出された排水を処理する排水処理工程をさらに含み、前記排水処理工程において、前記排水の化学的酸素要求量(COD)が200ppm未満である、請求項1~7のいずれか記載のシームレス缶体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレス缶体の製造方法に関し、より具体的には例えばアルミニウム製の缶を成形するのに好適なクーラントを介したシームレス缶体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス加工は工業製品を安価で大量に生産する製造方法として用いられている。かようなプレス加工は種々の被加工材を加工するのに適しており、被加工材の一例として例えば、鋼、銅やアルミニウムなどの金属材の他、チタン、マグネシウムなどが例示できる。
【0003】
上記した工業製品の一例としては、例えば缶材が例示できる。例えば特許文献1に例示する2ピース缶の缶体(いわゆるシームレス缶体)は、上記したごときプレス加工用金型を用いて絞りしごき加工によって缶胴部などが成形される。シームレス缶体を製造するためのプレス加工を行うプレス加工用金型は、パンチ部とダイ部とを備え、これらの間が適正なクリアランスにより離間された状態で被加工材がプレス成形される。
【0004】
近年、プレス加工においてパンチ部及びダイ部は過酷な環境下に置かれることから、例えば特許文献2~5に示すように金型の加工表面にダイヤモンド膜やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜などの炭素膜を被覆して、金型の耐久性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6012804号公報
【文献】特開平10-137861号公報
【文献】特開平11-277160号公報
【文献】特開2013-163187号公報
【文献】国際公開WO2017/033791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおりプレス加工用金型は厳しい加工環境に置かれることから、例えばダイ部などの加工表面を種々の表面処理膜で被覆することが行われている。このような表面処理膜としては、高い滑り特性を持ち、且つプレス時の被加工材による凝着を抑制し得るダイヤモンド膜やDLC膜などの炭素膜で加工表面が被覆されることが望ましい。
【0007】
上述したような高い滑り特性を持つダイヤモンド膜等を加工表面に形成した金型を使用してプレス加工を行った場合、いわゆるドライプレス加工を行うことができるというメリットもある。ドライプレス加工とは、プレス加工時の潤滑剤を用いずにドライ環境で行うプレス加工である。ドライプレス加工により、製缶後の潤滑剤の洗浄や、洗浄後の排水処理等の工程を省略することができ、コストや環境への負荷を軽減することができるため注目を集めていた。
【0008】
しかしながら、ドライプレス加工においては、改善すべき点もかねてより存在した。改善すべき点としては、例えば以下(a)~(c)のような点が挙げられていた。
(a)ドライプレス時において被加工材の粉(例えばアルミ粉)が発生し、金型に噛み込まれ、成形後の缶体に傷付きが発生する可能性が生じていた。
(b)ドライプレス時において、金型と被加工材との間で高温(局所的には300℃以上)に成らざるを得ないので、例えばしごき加工等の厳しい加工(強加工)を行う際の加工度合い(例えば限界しごき率)を高くすることが困難であった。
(c)上記(a)、(b)と同様の理由で、被加工材の金型への凝着・堆積や、缶胴の破断等の不具合を起こさずに長期間にわたり安定して製缶できる、いわゆる成形安定性を向上させることが困難であった。
【0009】
一方で従来、例えばアルミニウム材を用いてシームレス缶体を製造する場合には、油分等の潤滑剤や冷却剤(クーラント)を使用してウェット環境で成形を行うことが一般的であった。この場合、製缶加工後に、缶体に付着した潤滑剤等を洗浄剤や薬剤で脱脂する洗浄工程(ウォッシャ工程)が不可欠である。
しかしながら、この洗浄工程においては多量の水が必要とされるため、限りある水資源を有効活用することが謳われる昨今においては、工程の見直しの必要があった。
さらに、洗浄工程において排出される排水中には種々の化学物質が含まれているため、排水処理に必要とされる手間とコストを削減する必要性が指摘されていた。
【0010】
本発明者らは上記に例示した課題に鑑みて鋭意検討を繰り返した。その結果、特定の条件下でクーラントを使用してプレス加工を行った場合には、上記したドライプレス加工以上のメリットが得られることを見出した。
すなわち、高い滑り特性を持つダイヤモンド膜等を加工表面に形成した金型を使用しつつ、クーラント中の油分を特定の含有量としてプレス加工をした場合には、しごき加工等の厳しい加工を行っても、従来の量の潤滑剤を使用して製造したプレス加工品と同等以上の加工度合い(例えば限界しごき率)を得ることができた。
また、上記した洗浄工程や排水処理工程における課題についても解決できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態におけるシームレス缶体の製造方法は、(1)ダイヤモンド膜が加工表面に形成された成形加工部材を用い、クーラントが介在した状態で前記成形加工部材の加工表面で金属材をプレス加工する工程を含むことを特徴とする。
上記(1)のシームレス缶体の製造方法においては、(2)前記クーラントに含有される油分が4体積%以下であることが好ましい。
上記(1)又は(2)のシームレス缶体の製造方法においては、(3)前記成形加工部材が、ダイ部を少なくとも含むことが好ましい。
また上記した(1)~(3)のいずれかに記載のシームレス缶体の製造方法においては、(4)前記プレス加工は前記金属材のしごき加工を含み、前記しごき加工におけるしごき率が10%以上となるように前記金属材をしごいて缶胴部を形成することが好ましい。
また上記した(1)~(4)のいずれかに記載のシームレス缶体の製造方法においては、(5)前記しごき加工に用いる前記成形加工部材の表面粗さがRa=0.12μm以下であることが好ましい。
また上記した(1)~(4)のいずれかに記載のシームレス缶体の製造方法においては、(6)前記しごき加工に用いる前記成形加工部材の表面粗さがRa=0.08μm以下であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のシームレス缶体の製造方法によれば、ダイヤモンド膜が加工表面に形成された成形加工部材(例えばパンチ部及びダイ部)を用いてしごき加工等のプレス加工する工程を含むため、金型の高い加工耐久性が実現可能である。
そして、クーラントを介在させた状態でしごき加工等のプレス加工を行うため、しごき時に発生する被加工材の粉(金属粉)を洗い流す効果により、金型に金属粉を噛み込んで成形後の缶の外観への傷付きを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は本発明のシームレス缶体の製造方法におけるプレス加工工程を示す模式図であり、(b)は実施例1における模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明のシームレス缶体の製造方法について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示してその内容について説明するものであり、本発明を意図的に限定するものではない。
【0015】
<成形加工部材>
図1に示すように、本実施形態のシームレス缶体の製造方法においては、ダイヤモンド膜が加工表面に形成された成形加工部材を用いて前記成形加工部材Dの加工表面で金属材10をプレス加工する工程を含む。
【0016】
本実施形態をより具体的に説明すると、図1(a)、(b)に示すように、ダイヤモンド膜20が加工表面に形成されたダイ部Dと、ダイヤモンド膜とは異なる表面処理膜30が加工表面に形成されたしごきパンチ部Pを用い、クーラントCが介在した状態で、ダイ部D及びパンチ部Pの加工表面で金属材10をしごき加工する工程を含む。
【0017】
ここで、本実施形態においては図1に示したように、製缶加工の中でも特にしごき加工を例として本発明を説明するものである。
しかしながら本発明のシームレス缶体の製造方法は、しごき加工に限定されず、公知の製缶加工、例えば絞り加工、ドーミング加工、ネッキング加工、トリミング加工等の工程においても適用可能であることは言うまでもない。
また、製缶加工以外の公知の金属プレス加工、例えばせん断加工、曲げ加工等においても適宜適用可能である。
【0018】
本実施形態において成形加工部材とは、ダイ部D及びパンチ部Pを含む。しかしながら本発明における成形加工部材とはこれらに限定されるものではなく、金属プレス加工に用いられる公知の成形加工部材、例えばドローパッド、ブランクパンチ、カッター、ブランクホルダー(しわ抑え)、プラグ等においても適宜適用可能である。
【0019】
本実施形態において、ダイヤモンド膜20は、図1(b)に示されるようにダイ部Dの加工表面に形成されている。しかしながら、本発明はこの形態に限定されるものではなく、ダイ部D及びパンチ部Pの両方の加工表面にダイヤモンド膜20が形成されていてもよい。
また、パンチ部Pの加工表面にダイヤモンド膜20が形成され、ダイ部Dの加工表面にダイヤモンド膜とは異なる表面処理膜30が形成されていてもよい。
すなわち本実施形態においては、プレス加工時の金型において、雄型と雌型の少なくとも一方の加工表面にダイヤモンド膜20が形成されていればよい。
【0020】
本実施形態において、成形加工部材の加工表面におけるダイヤモンド膜20の形成方法としては、公知の成膜方法を適用することができる。例えば、熱フィラメントCVD法・マイクロ波プラズマCVD・高周波プラズマCVD・熱プラズマCVD等のCVD(Chemical Vapor Deposition)法の他、公知のPVD(Physical Vapor Deposition)法を適用することが可能である。
【0021】
ダイヤモンド膜20の厚みとしては、5μm~30μmであることが好ましい。厚みが5μm未満の場合には得られたダイヤモンド膜にクラックが入りやすく剥離しやすくなるため、好ましくない。一方で、厚みが30μmを超える場合にはダイヤモンド膜の内部応力が高まり剥離しやすくなるため、好ましくない。
【0022】
ダイヤモンド膜はラマン分光スペクトル分析において1333±10cm-1に存在する最大のピークの強度をI、1500±100cm-1に存在する最大のピークの強度をIとしたとき、強度比I/Iが0.6を超えるのが好ましく、さらに1.1未満であることが特に好ましい。ラマン強度比I/Iが0.6以下の場合は、ダイヤモンド膜中のグラファイトの含有率が高くなり、ダイヤモンド本来の性能が得られない。一方で、ラマン強度比I/Iが1.1以上である場合は耐衝撃性が劣るため、好ましくない。
【0023】
一方で、本実施形態において、プレス加工時の金型のうちの雄型と雌型の少なくとも一方の加工表面に形成される可能性のある、ダイヤモンド膜とは異なる表面処理膜30としては、例えば公知のダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜等の炭素膜や、TiC膜、TiCN膜等を挙げることができる。
【0024】
これらのダイヤモンドライクカーボン膜の形成方法に特に制限はなく、例えばガスを原料として使用してチャンバー内で当該ガスを分解して成膜する化学蒸着(CVD)法や、固体カーボンを原料として使用して炭素を蒸発させて成膜する物理蒸着(PVD)法など公知の形成方法を適用できる。また、TiC膜、TiCN膜等についても、公知の成膜方法を適用することができる。
【0025】
上記した表面処理膜30の厚みとしては、上記した公知の手法に基づいて形成される膜における合理的な範囲の厚みを適用できる。表面処理膜30の厚みとしては具体的には例えば、0.1μm~10μm程度が好ましい。
換言すれば、本実施形態における表面処理膜30の厚みは、ダイヤモンド膜20の厚みよりも薄くなるように設定されている。
【0026】
なお上記の場合において、表面処理膜30の硬度は、ダイヤモンド膜20の硬度よりも低いことが好ましい。例えば、本実施形態において、ダイヤモンド膜20の硬度は、ビッカース硬さHV20において10000~12000であることが、金型の耐久性の観点からは好ましい。一方で、表面処理膜30の硬度は、ダイヤモンド膜20の硬度と比較して相対的に低いことが好ましく、例えばビッカース硬さHV30において1000~8000であることが好ましい。これは以下の理由によるものである。
【0027】
すなわち、ダイヤモンド膜20はその性質上、容易に研磨できないため、寸法の調整が非常に困難であり、金型間における寸法管理が難しくコスト増等の要因となってしまう。
【0028】
近年、製缶におけるしごき加工でも±数μmの寸法管理が求められる。このような状況において、図1に示すように、成形加工部材における一方の工具(例えばダイ部)の加工表面にダイヤモンド膜20を形成し、他方の工具(例えばパンチ部)の加工表面にダイヤモンド膜とは異なる表面処理膜30を形成することにより、以下の様なメリットがある。
まず、寸法管理の際には、表面処理膜30はダイヤモンド膜20に比べ膜厚が薄いため、狙いの寸法からのズレが小さく、もし狙いの範囲からズレてしまった場合でもより硬度の低い表面処理膜30を研磨することにより寸法調整が容易となるメリットがある。
また、何らかの事情で雄型と雌型とが衝突した場合において、より硬度の低い型が衝撃を吸収するために、金型の破損被害を最小限に抑えることが可能となる等のメリットもある。
【0029】
本実施形態においてダイヤモンド膜20の表面粗さRa(JIS B-0601-1994)は、0.12μm以下であることが、金型に高い滑り特性を付与できる観点から好ましい。さらに、Raを0.08μm以下とした場合、しごき加工のような厳しい加工(強加工)においても、被加工物(例えば缶体)の外観を鏡面或いは鏡面に近い平滑面とすることができ、より好ましい。
この場合、プレス加工時におけるダイヤモンド膜20と被加工材との間の摩擦係数μは0.1よりも低いことが好ましい。
【0030】
本実施形態において、ダイヤモンド膜20や表面処理膜30が形成される成形加工部材の素材としては、金型に用いられる公知の素材を適用することが可能である。
例えば、タングステンカーバイド(WC)とコバルトなどの金属バインダーとの混合物を焼結して得られるいわゆる超硬合金や、炭化チタン(TiC)などの金属炭化物や炭窒化チタン(TiCN)などのチタン化合物とニッケルやコバルトなどの金属バインダーとの混合物を焼結して得られるサーメット、あるいは炭化ケイ素(SiC)や窒化ケイ素(Si3N4)、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)といった硬質セラミックスなどを挙げることができる。
【0031】
<クーラント>
次に、本実施形態において用いられるクーラントについて説明する。
本実施形態において用いられるクーラントとしては、その成分中に油分を含有しているものが好ましく挙げられるが、油分を含まないクーラントであってもよく、例えば純水などの水をクーラントとして使用してもよい。
【0032】
本実施形態におけるクーラントにおいて、上記した油分としては、一般的な水溶性金属加工油剤組成物に含まれる油分が挙げられる。この油分としては、天然油分であってもよいし、合成油分であってもよい。
天然油分としては例えば、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系等の鉱物油が挙げられる。また、脂肪酸グリセライドも天然油分として挙げることができる。
合成油分としては例えば、ポリオレフィン等の炭化水素系、脂肪酸エステル等のエステル系、ポリアルキレングリコール等のエーテル系、パーフルオロカーボン等の含フッ素系、リン酸エステル等の含リン系、ケイ酸エステル等の含ケイ素系、等を挙げることができる。
上記に挙げた油分としては、単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0033】
なお、上記した水溶性金属加工油剤としては、例えば、JIS K 2241に規定されるA1種(エマルション型)、A2種(ソリュブル型)、A3種(ソリューション型)、の水溶性金属加工油剤等を挙げることができる。
また、JIS規格においては規定されていないが、いわゆるシンセティックタイプ(鉱物油を含まず、化学合成された油分を含む金属加工油剤)と呼ばれる水溶性金属加工油剤を挙げることもできる。
【0034】
本実施形態において、上記油分のクーラント中における濃度としては、4.0体積%以下であることが好ましい。この場合、本実施形態において油分を含んだクーラントを使用する場合には、まず4.0体積%以上の含有量の油分を含む原液を調製して、これを使用時まで保管し、使用する際にこの原液を水等の溶媒で希釈して油分の濃度が4.0体積%以下であるクーラントを調製してもよい。
すなわち、油分のクーラント中における濃度は、使用状態において4.0体積%以下であればよい。
【0035】
また、クーラント中における油分以外の成分としては、一般的な水溶性金属加工油剤組成物に含まれる成分、例えば、水、界面活性剤、さび止め剤、極圧添加剤、カップリング剤、非鉄金属防食剤、防腐剤、消泡剤、キレート剤、着色料、香料、等を適宜含んでいてもよい。
【0036】
このように本実施形態の製造方法においては、クーラント中の油分を比較的低濃度としても、製缶時の成形不良等を抑制することができ、結果的に成形安定性を向上させることが可能である。
【0037】
また本実施形態においては上述のようにクーラント中の油分が従来と比較して低濃度であるため、製缶後の油分の洗浄工程において、環境負荷の低い薬剤や水での洗浄が可能となり、環境への負荷を軽減することが可能となる。また、洗浄後の排水処理が容易となったことにより、排水をリサイクルして循環させる場合、リサイクル率を向上させることが可能となり、コストや環境への負荷を軽減することが可能となる。
【0038】
<金属材10(被加工材)>
本実施形態における被加工材としての金属材は、プレス加工に供される限り特に制限はなく、例えばアルミニウム、銅、鉄、鋼、チタン、さらに純金属だけでなくそれらの合金など公知の種々の金属材が適用できる。このうち缶体を成形する場合には上記した金属材のうちアルミニウム合金が特に好適である。
本実施形態における金属材10の厚みとしては、特に制限はなく、缶体製造時における通常の厚みを適用することができる。例えばアルミニウム板を用いて製缶加工をする場合の金属材10の厚みの一例として、元板厚(原板の厚み)が0.1mm~0.5mmである。
【0039】
<しごき率>
本実施形態のシームレス缶体の製造方法においては、しごき率(板厚減少率)が10%以上となるように前記金属材をしごいて缶胴部を形成するしごき加工の工程を含むことが好ましい。なお、しごき加工の工程は複数回含まれていてもよく、各回のしごき率を変化させてもよい。例えば、初期のしごき工程のしごき率を10%以上とし、最終のしごき工程のしごき率を30%以上としてもよい。
なお本実施形態におけるしごき率は、しごき加工前の板厚t、加工後の板厚(缶底から60mm部分)をtとしたとき、下記式で表される。
しごき率(%)=100×(t-t)/t
【0040】
すなわち、本実施形態のシームレス缶体の製造方法によれば、しごき率が30%以上となる厳しい加工であっても、製缶時の成形不良を抑制することが可能となり、結果的に成形安定性を向上させることが可能となる。
【0041】
以上、本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
(A)クーラントを介在した状態でしごき加工等のプレス加工を行うため、しごき加工時の潤滑性の向上により、限界しごき率を向上させることが可能である。
【0042】
(B)クーラントを介在した状態でしごき加工等のプレス加工を行うため、被加工材の金型への凝着・堆積や、缶胴部の肉厚のバラツキ、缶胴の破断等の不具合を抑制して成形安定性を向上させることができる。
【0043】
(C)ダイヤモンド膜が加工表面に形成された成形加工部材(例えばパンチ部及びダイ部)を用いて、クーラントを介在した状態でしごき加工等のプレス加工を行うため、金型の高い加工耐久性が実現可能であり、且つ、しごき加工時の潤滑性の向上により、缶の成形安定性を向上させることが可能である。
【0044】
(D)プレス加工時に用いるクーラント中の油分を従来よりも減少させることができるため、製缶後の油分の洗浄工程において、環境負荷の低い薬剤や水での洗浄が可能となり、環境への負荷を軽減することが可能となる。
また、クーラントの使用量も減少させることができ、さらにそれにより廃液の量も減少させることができるため、コストや環境への負荷を軽減することが可能となる。
加えて、廃液の量を減少させることにより、廃液の処理におけるファクターである、pH、生物化学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、浮遊物質・懸濁物質(SS)、ノルマルヘキサン、フッ素、等が与える影響を軽減することが可能となる。
【0045】
(E)また、洗浄後の排水処理が容易となったことにより、排水をリサイクルして循環させる場合、リサイクル率を向上させることが可能となり、コストや環境への負荷を軽減することが可能となる。
【実施例
【0046】
以下、実施例及び比較例により本発明の内容をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
以下に示す方法により、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
まず、アルミニウム合金板(JIS H 4000 3104材、0.28mm)を用意した。次いで、上記アルミニウム合金板の両面に、絞り加工時のカッピング油として、公知のカッピング油を所定量塗布した。
【0048】
次いで、上記アルミニウム合金板を絞り成形機で、直径160mmの円盤状に打ち抜いた後、直ちに直径90mmのカップ体となるように絞り成形を行った。
得られたカップ体をボディーメーカ(缶体製造機)に搬送し、直径66mmの形状になるように再絞り成形を行った後、クーラントを用いて、直径66mm、高さ130mmの形状となるようにしごき加工を行った。
【0049】
この際のしごきダイとしては、その表面に平均厚さ約10μmのダイヤモンド膜が形成されたものを使用した。ダイヤモンド膜の表面粗さRaの値は、Ra=0.08μmとした。また、使用したしごきパンチとしては、その表面に厚さ0.5μmのダイヤモンドライクカーボン膜が形成されたものを使用した。
【0050】
しごき加工の際のしごき率は表1に示すとおりとした。しごき加工中に使用したクーラントは、油分として合成エステルを使用した。クーラント中における油分の含有量は表1のとおりとした。クーラント中には、公知の界面活性剤、さび止め剤、極圧添加剤、防腐剤を添加した。
【0051】
(実施例2)
しごき加工時に使用したクーラント中における油分の含有量を変化させた他は、上記実施例1と同様にして、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
【0052】
(実施例3)
しごき加工時のしごき率を変化させた他は、上記実施例1と同様にして、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
【0053】
(実施例4)
しごき加工に使用したしごきダイのダイヤモンド膜の表面粗さRaの値をRa=0.12μmとした他は、上記実施例1と同様にして、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
【0054】
(比較例1)
しごき加工時に使用したクーラント中における油分の含有量を変化させた他は、上記実施例1と同様にして、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
【0055】
(比較例2)
しごき加工時にクーラントを使用せずドライプレス加工とした以外は、上記実施例1と同様にして、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
【0056】
(比較例3)
しごき率を変化させた以外は上記比較例2と同様にして、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
【0057】
(比較例4)
しごき加工に使用したしごきダイのダイヤモンド膜の表面粗さRaの値をRa=0.20μmとした他は、上記実施例1と同様にして、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
【0058】
[評価]
上記方法により得られたDI缶について、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[しごき加工性]
(i)しごき加工時における破断の有無、(ii)得られたDI缶の開口部におけるブリードスルー(黒すじ)、(iii)缶胴部外面の傷、の3項目について目視で観察した。上記4項目のいずれにも問題がなく缶表面が鏡面であるものを◎、いずれにも問題がなく優れているものを○、いずれかに問題は発生するが実用に耐えられるものを△、いずれかに問題があり実用に耐えられないものを×とした。
【0060】
[洗浄性]
得られたDI缶に対し、洗浄液を用いてスプレー洗浄し水洗した後のDI缶表面の水はじきの有無を目視で観察して判定した。なお、水はじきが発生した場合、クーラント中の油分がDI缶表面に残存しており、後工程に影響すると言われている。そのため、水はじきが発生しなかったものを○、水はじきが発生したものを×として評価した。また、洗浄液としては、DI缶の脱脂工程で一般的に用いられる硫酸系の脱脂剤を用いた。また、脱脂の温度を従来の70℃より低い50℃とした。
【0061】
[排水処理性]
上記洗浄液を用いてDI缶に対しスプレー洗浄し水洗した後の排水をビーカーに収容して、公知の方法により化学的酸素要求量(COD)を測定した。CODが200ppm未満であれば○(排水処理性が良い)、200ppm以上であれば×(排水処理性が悪い)と判断した。結果を表1に示した。
【0062】
【表1】
【0063】
本発明のシームレス缶体の製造方法によれば、しごき加工性、洗浄性、排水処理性の全てを兼ね備えていることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、加工性や成形安定性を維持しつつ環境に配慮する金属プレス加工の分野において、好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
D ダイ部
P パンチ部
C クーラント
10 金属材
20 ダイヤモンド膜
30 表面処理膜
図1