(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】音声出力ユニット、サウンドマスキング設備
(51)【国際特許分類】
H04R 1/34 20060101AFI20240110BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20240110BHJP
G10K 11/175 20060101ALI20240110BHJP
H04R 1/32 20060101ALI20240110BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240110BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20240110BHJP
E04F 15/024 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H04R1/34 310
H04R1/02 102Z
G10K11/175
H04R1/32 310Z
H04R3/00 310
E04B1/82 A
E04F15/024
(21)【出願番号】P 2019026121
(22)【出願日】2019-02-16
【審査請求日】2022-01-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(72)【発明者】
【氏名】松崎 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】岩切 幸伸
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05561717(US,A)
【文献】特開2012-104965(JP,A)
【文献】米国特許第03108653(US,A)
【文献】米国特許第04356881(US,A)
【文献】特開2012-159740(JP,A)
【文献】特開2010-031501(JP,A)
【文献】特開平02-244900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00 - 1/40
G10K 11/175-11/178
H04R 3/00 - 3/14
E04B 1/82
E04F 15/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物の床スラブから浮上させて床パネルが敷設された二重床における床スラブと床パネルとの間の床下空間に設置され、水平方向または鉛直方向から傾倒した斜め方向に向けて
ピンクノイズ、ブラウンノイズ、ホワイトノイズその他の中音域及び高音域を含む帯域に亘って周波数スペクトルを持つサウンドマスキング用の音声を出力することにより、床下空間内でサウンドマスキング用の音声を伝播させた上で
床パネル自体を透過してまたは床パネルの継目その他の隙間を通じて床パネルの上方の床上空間に
前記サウンドマスキング用の音声を到達させる音声出力ユニットであって、
前記
サウンドマスキング用の音声を出力するスピーカとして
、上下寸法が幅寸法よりも小さい薄型のもの
、かつ平面視において複数の方向に音声を出力するものを備えている音声出力ユニット。
【請求項2】
床下空間内で水平方向または略水平方向に向けて音声を出力する請求項
1記載の音声出力ユニット。
【請求項3】
平面視において相反する二方向に音声を出力する請求項
1または2記載の音声出力ユニット。
【請求項4】
建築構造物の床スラブから浮上させて敷設される床パネルと、請求項
1、2または3記載の音声出力ユニットとを具備するサウンドマスキング設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィスやその他の空間の音環境を改善し、または所望の音場を作出するための音声出力ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
オフィス等のフロアを複数の室または区域に区画することはしばしば行われている。そのような場合において、隣接する室または区域間で物音や話し声が漏れ伝わると、それがうるさく感じられたり、プライバシーまたは情報セキュリティの防護に差し障ったりする。この問題を緩和ないし解消するために、マスキング効果を応用したサウンドマスキング設備が考案されている。
【0003】
下記特許文献1には、フロアの天井または天井裏に設置したスピーカからピンクノイズやホワイトノイズ等のマスキング音を放音し、隣室の物音や話し声をマスキングするシステムが開示されている。だが、重量のあるスピーカを天井に直接固定しなければならず、施工に手間がかかる。
【0004】
しかも、近時では、インターネット等の電気通信回線を介して複数の遠隔地を結び、双方向に音声及び画像を送受信してテレビ会議(ビデオ会議)を行うことが増えてきている。テレビ会議に使用する集音マイクは、天板付家具即ちデーブルまたはデスク等の天板上に載置することが通常である。フロアの天井からマスキング音を放射するシステムでは、そのマスキング音がマイクに入力されてテレビ会議の相手方に届いてしまい、本来相手方によく聞こえて欲しい此方の音声が聞き取りにくくなる不都合が生じる。
【0005】
上述の問題を解消し得るものが、下記特許文献2及び3に開示されているサウンドマスキング設備である。特許文献2に開示されているサウンドマスキング設備は、デスクの天板下に懸吊支持される幕板にスピーカを設置したデスク型のものである。スピーカから放音されるマスキング音は、デスクの下肢空間を伝搬してユーザの耳に届けられる一方、天板に遮られることから、天板上に載置された集音マイクには直接入力はされない。
【0006】
このデスク型サウンドマスキング設備は優れて有用であるが、マスキング音が直立する幕板の面の向く水平方向に向かい、マスキング音の指向性がやや強い。加えて、マスキング音が直接音としてユーザの耳に聞こえ、ユーザがその音の発生源であるスピーカの存在に気づくことがある。
【0007】
特許文献3に開示されているサウンドマスキング設備では、二重床(または、床上げ、OAフロア、フリーアクセスフロア)の床パネルの下方の床下空間において、スピーカの振動板を弾性を有する緩衝体を介して建築構造物の床スラブに支持させてなる。スピーカから放音されるマスキング音は、床パネル自体を透過し、または床パネルの隙間を通じて床パネルの上方の床上空間に到達し、ユーザの耳に届けられる。
【0008】
この床下型サウンドマスキング設備では、マスキング音が水平姿勢をとる振動板から鉛直上方に向かうことから、床上空間においてマスキング音が拡がる音場の範囲が比較的狭い範囲に限定される(勿論、その方がよい場合もある)。また、振動板を載置している緩衝体がダンパとして作用し、ユーザの耳に聞こえる音が小さくなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-233672号公報
【文献】特許第6045268号公報
【文献】特許第5877295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、天板付家具の天板上に載置された集音マイクにサウンドマスキング用の音声が直接入力されることを回避しつつ、ユーザが所在する空間にサウンドマスキング用の音声を拡散させてより自然な音場を作出することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、建築構造物の床スラブから浮上させて床パネルが敷設された二重床における床スラブと床パネルとの間の床下空間に設置され、水平方向または鉛直方向から傾倒した斜め方向に向けてピンクノイズ、ブラウンノイズ、ホワイトノイズその他の中音域及び高音域を含む帯域に亘って周波数スペクトルを持つサウンドマスキング用の音声を出力することにより、床下空間内でサウンドマスキング用の音声を伝播させた上で床パネル自体を透過してまたは床パネルの継目その他の隙間を通じて床パネルの上方の床上空間に前記サウンドマスキング用の音声を到達させる音声出力ユニットであって、前記サウンドマスキング用の音声を出力するスピーカとして、上下寸法が幅寸法よりも小さい薄型のもの、かつ平面視において複数の方向に音声を出力するものを備えている音声出力ユニットを構成した。
【0013】
その上で、平面視において複数の方向に音声を出力する音声出力ユニットを構成すれば、室内の広範な領域に音声を送り届けられる。
【0014】
平面視において相反する二方向に音声を出力するものとすれば、少数のスピーカにより広範囲に亘る音場を形成することが可能となる。
【0015】
本発明に係る音声出力ユニットは、サウンドマスキング用の音声を出力するサウンドマスキング設備として用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、天板付家具の天板上に載置された集音マイクにサウンドマスキング用の音声が直接入力されることを回避しながら、ユーザが所在する空間にサウンドマスキング用の音声を拡散させてより自然な音場を作出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態の音声出力ユニットを示す斜視図。
【
図2】同実施形態の音声出力ユニットの蓋体を取り外した状態を示す斜視図。
【
図3】同実施形態の音声出力ユニットを示す平面図。
【
図4】同実施形態の音声出力ユニットを床下空間に設置した状態を示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1ないし
図4に、本実施形態の音声出力ユニット1を示す。本音声出力ユニット1は、オフィス等に配設される二重床における床下空間、即ち建築構造物の本来の床である床スラブ4と床スラブ4から浮上した高さ位置にある床パネル5との間の空間に設置して使用するものである。
【0019】
図1及び
図2に示すように、本音声出力ユニット1は、筐体2内に複数基のスピーカ3を収容してなる。筐体2は、その内部にスピーカ3及びアンプその他の電気回路等を収めるベースフレーム21と、ベースフレーム21の内部を遮蔽する蓋体22とを要素とする。ベースフレーム21は、スピーカ3及びアンプ等を支持する底壁211と、底壁211の前縁部及び後縁部より起立する前後壁212とを有する。蓋体22は、鉛直方向に沿って底壁211と対向する頂壁221と、頂壁221の左右の側縁部より垂下する側壁222とを有する。ベースフレーム21及び蓋体22はそれぞれ、例えば板金材をプレス加工する等して作製する。ベースフレーム21に蓋体22を組み付けることにより、ベースフレーム21の内部を囲繞し隠蔽する筐体2が完成する。
【0020】
スピーカ3は、例えば振動体であるボイスコイルの振動を振動板に伝達し空気を震えさせる既知のダイナミックスピーカ3である。スピーカ3は、本実施形態では二基存在し、その各々が筐体2の左右の側壁222にそれぞれ面している。
図1ないし
図3に示しているように、これら二基のスピーカ3の主軸(正面軸または中心軸)Aは、相反する左右両側方を向いている。並びに、
図4に示しているように、二基のスピーカ3の主軸Aは、水平または略水平となっている。スピーカ3の指向性の主軸Aの方向は、スピーカ3から最も強い音波の成分(音圧または音量)が放射される方向を意味する。つまり、両スピーカ3は、左右両側方に向けて、水平または略水平に音声Sを放音する。なお、筐体2の側壁222には予め多数の貫通孔223を穿ってあり、側壁222はスピーカ3から放たれる音声Sを通過させるグリルとなっている。
【0021】
スピーカ3は、例えばサウンドマスキング用の音声Sを出力する。マスキング音Sは、他人の会話や、作業に伴って発生する物音、各種機器の作動音等をマスキングする効果のある音である。好適なマスキング音Sとして、可聴域にてパワーが周波数に反比例する傾向を有したピンクノイズ、パワーが周波数の二乗に反比例する傾向を有したブラウンノイズ、パワーが周波数によらず略均一なホワイトノイズ等を挙げることができる。尤も、音声Sとして、鳥の囀りのような自然音若しくは環境音、またはバックグラウンドミュージック等をスピーカ3から出力してもよい。マスキング音Sとなるノイズに、自然音、環境音またはバックグラウンドミュージックを重畳しても構わない。
【0022】
既に述べた通り、本音声出力ユニット1は、床パネル5の下方の床下空間に設置する。床下空間の上下寸法は、通常は10cmないし20cm、最大でも40cmないし50cm程度である。そのような狭小な床下空間に配置する都合上、音声出力ユニット1の上下寸法を可能な限り薄くする必要がある。このため、スピーカ3として、上下寸法が幅寸法よりも小さい楕円形または角丸長方形をなす薄型のものを採用している。
【0023】
本音声出力ユニット1のスピーカ3には、当該スピーカ3を介して出力する音声Sを再生するための図示しない音響再生装置、例えばオーディオ機器やパーソナルコンピュータ等を接続する。
【0024】
図3及び
図4に示しているように、スピーカ3から左右両側方に向けて放たれる音声Sは、指向性の主軸Aから遠ざかるように前後及び上下に拡がる。
図4に示すように、その音声Sは、狭小な床下空間内を伝播する過程で、床スラブ4及び床パネル5に当たって反射することを繰り返す。そして、床パネル5自体を透過して、または床パネル5の継目その他の隙間を通じて、床パネル5の上方の床上空間に到達し、床上空間に所在するユーザの耳に届けられる。床下空間から床上空間に伝わる音声Sは、回折を伴って広範な領域に拡散し、広い音場を形成する。音声Sは、本音声出力ユニット1の直上の位置にも伝搬する。
【0025】
本実施形態では、建築構造物の床スラブ4から浮上させて床パネル5が敷設された二重床における床スラブ4と床パネル5との間の床下空間に設置され、水平方向または鉛直方向から傾倒した斜め方向に向けて音声Sを出力することにより、床下空間内で音声Sを伝播させた上で床パネル5の上方の床上空間に音声Sを到達させる音声出力ユニット1を構成した。
【0026】
本実施形態によれば、
図4に示しているように、天板付家具6の天板61上に載置された集音マイクに音声が直接入力されることを回避しながら、ユーザが所在する床上空間に音声Sを拡散させてより自然な音場を作出するサウンドマスキング設備を実現することができる。音声Sを放音するスピーカ3の主軸Aは、床上空間に所在するユーザを指向していない。しかも、ユーザの耳に聞こえる音声Sは、床スラブ4及び床パネル5に当たって反射し、床パネル5を通過した間接音であり、スピーカ3からユーザの耳に直に届く直接音ではない。従って、音声Sの発生源であるスピーカ3の存在が明らかになりにくい。
【0027】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、音声出力ユニット1が備えるスピーカ3の指向性の主軸Aは、常に水平方向または略水平方向を向いているとは限らない。スピーカの主軸が、水平方向でなく、鉛直方向から傾倒した斜め方向を向いていても構わない。この場合において、スピーカの主軸は、鉛直よりも水平に近い方向を向いている(主軸と水平面とのなす角が45°以下である)ことが好ましい。
【0028】
音声出力ユニット1のスピーカ3が音声Sを出力する方向は、平面視において相反する二方向に限定されない。例えば、
図5に示すように、各スピーカ3の主軸Aを平面視において交差または直交する二方向に向けるように設定し、それら二方向に音声Sを放音するように構成してもよい。このものは、室または区域の隅角部に設置して使用することができる。
【0029】
音声出力ユニット1が備えるスピーカ3の数も、二基には限定されない。例えば、
図6に示すように、スピーカ3を四基備え、前後左右の四方に音声Sを放音するように構成してもよい。
【0030】
図7に示すように、一基のスピーカ3の正面に正対するように貫通孔71を穿った反射体7を付設し、同スピーカ3が放音する音声Sの一部を貫通孔71を通じて正方向に伝播させ、残余を反射体7により反射させて逆方向に伝播させることにより、平面視において相反する二方向に音声Sを出力する音声出力ユニット1を具現することもできる。
【0031】
あるいは、
図8に示すように、一基のスピーカ3の正面に、その指向性の主軸Aに対して直交せず斜めに交わるように反射体7を付設し、同スピーカ3が放音する音声Sの一部を貫通孔71を通じて正方向に伝播させ、残余を反射体7により反射させて正方向と交差または直交する別方向に伝播させることにより、平面視において複数の方向に音声Sを出力する音声出力ユニット1を具現することも考えられる。
【0032】
スピーカ3の正面にルーバを付設し、スピーカ3が放音する音声Sの伝搬する方向の指向性を高め、またはルーバの羽根の角度を可変として音声Sの伝搬する方向を任意に調節できるようにしてもよい。
【0033】
その他、各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、オフィス等の空間に音場、特にサウンドマスキング用の音場を構築するために利用できる。
【符号の説明】
【0035】
1…音声出力ユニット
3…スピーカ
4…床スラブ
5…床パネル
S…音声