IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士ゼロックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-発光素子、および発光素子の製造方法 図1
  • 特許-発光素子、および発光素子の製造方法 図2
  • 特許-発光素子、および発光素子の製造方法 図3
  • 特許-発光素子、および発光素子の製造方法 図4
  • 特許-発光素子、および発光素子の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】発光素子、および発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/026 20060101AFI20240110BHJP
   H01S 5/183 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01S5/026 616
H01S5/183
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019079037
(22)【出願日】2019-04-18
(65)【公開番号】P2020178027
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-02-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「超高速光リンクのための超高速面発光レーザの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 崇
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-049180(JP,A)
【文献】特開2018-010913(JP,A)
【文献】特開2015-032801(JP,A)
【文献】特開2000-261094(JP,A)
【文献】米国特許第06570905(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0262765(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電領域、および該導電領域を囲んで設けられた第1の長さの第1の非導電領域と第1の長さより短い第2の長さの第2の非導電領域を含む非導電領域を共有するとともに、予め定められた方向にこの順で配置された共振器構造を有する第1の柱状体、結合部、および共振器構造を有する第2の柱状体を含み、
前記第1の長さ及び前記第2の長さは、平面視における前記第1の柱状体及び前記第2の柱状体の、前記予め定められた方向に沿った前記導電領域を含む断面における長さであり、
前記第1の柱状体で発振した光は、前記第2の柱状体で反射し、前記第1の柱状体から出力されるものであって、
前記第2の非導電領域と、前記導電領域とは異なる非酸化層との界面を示す境界は、前記第1の柱状体の全体、及び前記第2の柱状体の一部に形成される、
発光素子。
【請求項2】
前記共振器構造は、基板上にこの順に形成された第1の多層膜反射鏡、活性領域、および第2の多層膜反射鏡を備え、
前記活性領域が前記導電領域の一部を形成し、前記第1の多層膜反射鏡および前記第2の多層膜反射鏡の少なくとも一方の複数の層に設けられた酸化層が前記非導電領域を形成する
請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記第2の非導電領域は複数の酸化層で形成されている
請求項に記載の発光素子。
【請求項4】
第1の多層膜反射鏡、活性領域、および第2の多層膜反射鏡がこの順で積層された多層膜構造体が形成された基板を準備する工程と、
予め定められた方向にこの順で配置された共振器構造を有する第1の柱状体、結合部、および共振器構造を有する第2の柱状体を前記多層膜構造体に形成する工程と、
前記多層膜構造体に含まれる複数の層の側面を酸化して、第1の長さの第1の非導電領域と、前記第1の長さより短い第2の長さの第2の非導電領域を含む非導電領域を形成する工程と、
前記第2の柱状体における前記予め定められた方向を平面視した際の前記第2の非導電領域の一部を削除する工程と、を含み、
前記第1の柱状体で発振した光は、前記第2の柱状体で反射し、前記第1の柱状体から出力されるものであって、
前記第1の長さ及び前記第2の長さは、平面視における前記第1の柱状体及び前記第2の柱状体の、前記予め定められた方向に沿った導電領域を含む断面における長さであり
前記第2の非導電領域と、前記導電領域とは異なる非酸化層との界面を示す境界は、前記第1の柱状体の全体、及び前記第2の柱状体の一部に形成される、
発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、および発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、同一の半導体基板上に、単一横モード直線偏光を基板垂直方向に発する面発光レーザと、基板に水平に光を導波する導波路とを有し、面発光レーザと導波路の光軸が交差していることを特徴とする光機能素子が開示されている。
【0003】
特許文献2には、第1ミラーと、第1ミラーの上方に形成された活性層と、活性層の上方に形成された第2ミラーと、活性層の上方または下方に形成された電流狭窄層と、を含み、第2ミラーは、光の出射方向と垂直な面内に配列された複数の凹部を有し、凹部に周囲を囲まれた光閉じこめ領域は、平面視において電流狭窄層に囲まれた領域の内側に形成されている、面発光型半導体レーザが開示されている。
【0004】
特許文献3には、基板上に形成され、基板と垂直方向にレーザ光を発する発光部と、基板上に形成され、発光部で発せられた光の一部を基板と水平方向に伝播させる光伝播部と、光伝播部で伝播された光の光量を調整する光量調整手段とを備え、光伝播部は、発光部領域の等価屈折率よりも等価屈折率が小さい低等価屈折率領域と、低等価屈折率領域と光量調整手段との間に配された低等価屈折率領域よりも等価屈折率が高い高等価屈折率領域とを含む、面発光型半導体レーザが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-274640号公報
【文献】特開2007-189033号公報
【文献】特開2012-049180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、帯域特性の劣化が抑制された発光素子、および発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る発光素子は、導電領域、および該導電領域を囲んで設けられた第1の長さの第1の非導電領域と第1の長さより短い第2の長さの第2の非導電領域を含む非導電領域を共有するとともに、予め定められた方向にこの順で配置された共振器構造を有する第1の柱状体、結合部、および共振器構造を有する第2の柱状体を含み、前記第2の柱状体における前記予め定められた方向と交差する方向の前記第2の非導電領域の一部の長さが他の前記第2の非導電領域の長さより短いものである。
【0008】
第2態様に係る発光素子は、第1態様に係る発光素子において、前記予め定められた方向と交差する方向の一部に前記第2の非導電領域が配置されていないものである。
【0009】
第3態様に係る発光素子は、第1態様または第2態様に係る発光素子において、前記共振器構造は、基板上にこの順に形成された第1の多層膜反射鏡、活性領域、および第2の多層膜反射鏡を備え、前記活性領域が前記導電領域の一部を形成し、前記第1の多層膜反射鏡および前記第2の多層膜反射鏡の少なくとも一方の複数の層に設けられた酸化層が前記非導電領域を形成するものである。
【0010】
第4態様に係る発光素子は、第3態様に係る発光素子において、前記第2の非導電領域は複数の酸化層で形成されているものである。
【0011】
第5態様に係る発光素子の製造方法は、第1の多層膜反射鏡、活性領域、および第2の多層膜反射鏡がこの順で積層された多層膜構造体が形成された基板を準備する工程と、予め定められた方向にこの順で配置された共振器構造を有する第1の柱状体、結合部、および共振器構造を有する第2の柱状体を前記多層膜構造体に形成する工程と、前記多層膜構造体に含まれる複数の層の側面を酸化して、第1の長さの第1の非導電領域と、前記第1の長さより短い第2の長さの第2の非導電領域を含む非導電領域を形成する工程と、前記第2の柱状体における前記予め定められた方向と交差する方向の前記第2の非導電領域の一部を削除する工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0012】
第1、および第5態様によれば、帯域特性の劣化が抑制された発光素子、および発光素子の製造方法を提供することができる、という効果を奏する。
【0013】
第2態様によれば、予め定められた方向と交差する方向の一部に第2の非導電領域を配置させる場合と比較して、より確実に帯域特性の劣化が抑制される、という効果を奏する。
【0014】
第3態様によれば、結合共振器構造の面発光型発光素子において帯域特性の劣化が抑制される、という効果を奏する。
【0015】
第4態様によれば、より高速化が図られた結合共振器構造の面発光型発光素子において帯域特性の劣化が抑制される、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態に係る発光素子の構成の一例を示す(a)は断面図、(b)は平面図である。
図2】実施の形態に係る発光素子の動作を説明する断面図である。
図3】実施の形態に係る発光素子の製造方法を示す断面図の一部である。
図4】実施の形態に係る発光素子の製造方法を示す断面図の一部である。
図5】(a)は比較例に係る発光素子の構成を示す断面図、(b)は制御部メサの第2酸化領域の切削位置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。以下の実施の形態では、本発明に係る発光素子として、駆動部(発光部)を構成するメサと、制御部(帰還部)を構成するメサとが結合部で結合された構成の結合共振器構造を有する面発光型半導体レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)を例示して説明する。
【0018】
図1を参照して、本実施の形態に係る発光素子10の構成の一例について説明する。図1(a)は本実施の形態に係る発光素子10の断面図であり、図1(b)は発光素子10の平面図である。図1(a)に示す断面図は、図1(b)に示す平面図においてA-A’線で切断した断面図である。
【0019】
図1(a)に示すように、発光素子10は、半絶縁性のGaAs(ガリウムヒ素)の基板12上に形成されたn型GaAsのコンタクト層14、下部DBR(Distributed Bragg Reflector)16、活性領域24、第1酸化領域32a、第2酸化領域32b、非酸化領域32c、上部DBR26、p側電極36、n側電極30、および電流阻止領域60を含んで構成されている。第1酸化領域32a、および非酸化領域32cによって電流狭窄層32が形成されている。なお、図1では、発光素子10を被覆する絶縁膜、p側電極36とp側電極パッドとの間の配線、あるいはn側電極30とn側電極パッドとの間の配線等を省略して描いている。ここで、第1酸化領域32aおよび第2酸化領域32bは本発明に係る「非導電領域」の一例であり、非酸化領域32cは本発明に係る「導電領域」の一例である。また、図1(a)に示すように、本実施の形態では、一例として第2酸化領域32bの長さが第1酸化領域32aの長さより短くされている。
【0020】
なお、本実施の形態では第2酸化領域32bが複数本(図1(a)の例では3本)である形態を例示して説明するが、これに限られず例えば4本以上でも1本あるいは2本でもよい。また、本実施の形態では複数の第2酸化領域32bの各々の長さが等しい形態を例示して説明するが、これに限られず各々の長さが異なっていてもよい。例えば、複数の第2酸化領域32bの各々の長さが、活性領域24から遠ざかるほど短くなるように構成してもよい。
【0021】
図1(b)に示すように、発光素子10は2つのメサ(柱状体。ポストともいう)、すなわち各々略矩形形状で、駆動部62を構成するメサM1と、制御部64を構成するメサM2を備えている。また、発光素子10は、メサM1とメサM2とが接続される部分に結合部40を有している。本実施の形態に係る結合部40は、メサM1とメサM2とが接続されることによって形成された半導体層のくびれ部分に設けられている。メサM1およびメサM2の各々は、コンタクト層14上に共通に形成された下部DBR16、活性領域24、電流狭窄層32、上部DBR26を含んでいる。
【0022】
一方、メサM1とメサM2との間、すなわち結合部40には、上部DBR26内に形成された電流阻止領域60が配置されている。本実施の形態に係る電流阻止領域60は、メサM1、M2の上面から電流狭窄層32にかけて(すなわち、活性領域24に至らない深さまで)、一例としてH+(プロトン)イオンを注入して形成された高抵抗領域であり、駆動部62のメサM1と制御部64のメサM2とを電気的に分離する領域である。なお、電流阻止領域60は、駆動部62と制御部64との間の分離を確実にするための構成で、該分離の許容度によっては電流阻止領域60を用いなくともよい。また、不純物を導入する代わりに溝を形成してもよい。以上の構成を有する駆動部62(メサM1)、制御部64(メサM2)、および結合部40を含んで本実施の形態に係る結合共振器構造型の発光素子10が構成されている。
【0023】
次に、図2(a)を参照して発光素子10の作用について説明する。駆動部62はVCSEL型の発光部であり、基本的に下部DBR16と上部DBR26との間の垂直共振(Z軸の方向の共振)によって発光し、出力光Loを出力する。なお、駆動部62を発光させる際には、電源の正極をp側電極36に、負極をn側電極30に接続して-Z方向に駆動電流を流す。
【0024】
ここで、垂直共振によって発生した光(以下、「発振光Lv」という場合がある)の一部は、図2(a)に示す+X方向(基板12に平行な方向)に沁み出し、駆動部62から結合部40を介して制御部64に伝播する(以下、この光を「伝播光」という場合がある)。該伝播光は、下部DBR16と上部DBR26との間で反射を繰り返しながら伝搬するいわゆるスローライト光である。一方、図1(a)に示すように、発光素子10では、第1酸化領域32aはメサM1、M2の双方に形成されている。しかしながら、第2酸化領域32bはメサM1には形成されているが、メサM2には形成されていない部分がある。つまり、図1(b)に示すように、第1酸化領域32aの先端と非酸化領域32cとの界面である境界18はメサM1およびM2の全体に亘って形成されている。一方、第2酸化領域32bと非酸化層との界面である境界20はメサM1の全体およびメサM2の一部に形成されている。すなわち、メサM2には第2酸化領域32bが形成されていない領域がある。換言すれば、伝播光の伝播方向(つまり、+X方向)に交差するメサM2の界面は、第2酸化領域32bが形成されていない端面Sとなっている。
【0025】
その結果、駆動部62から制御部64に伝播した伝播光は、メサM2の端面Sで反射し(以下、端面Sで反射した光を「反射光Lr」という場合がある)、駆動部62に戻る。駆動部62に戻った反射光Lrは発振光Lvに重畳され、駆動部62の変調特性を改善する(変調帯域を拡大する)。以上が、結合共振器構造を有する発光素子10の動作原理である。
【0026】
次に、再び図1を参照し、発光素子10の構成についてより詳細に説明する。本実施の形態に係る基板12には、一例として半絶縁性のGaAs基板を用いている。半絶縁性のGaAs基板とは、不純物がドーピングされていないGaAs基板である。半絶縁性のGaAs基板は抵抗率が非常に高く、そのシート抵抗値は数MΩ程度の値を示す。
【0027】
基板12上に形成されたコンタクト層14は、一例としてSiがドープされたGaAs層によって形成されている。コンタクト層14の一端はn型の下部DBR16に接続され、他端はn側電極30に接続されている。すなわち、コンタクト層14は、下部DBR16とn側電極30との間に介在し、メサM1、M2で構成される半導体層に一定の電位を付与する機能を有する。なお、コンタクト層14は、サーマルクリーニング後、基板表面の結晶性を良好にするために設けられるバッファ層を兼ねてもよい。
【0028】
コンタクト層14上に形成されたn型の下部DBR16は、発光素子10の発振波長をλ、媒質(半導体層)の屈折率をnとした場合に、膜厚がそれぞれ0.25λ/nとされかつ屈折率の互いに異なる2つの半導体層を交互に繰り返し積層して構成される多層膜反射鏡である。具体的には、下部DBR16は、Al0.90Ga0.1Asによるn型の低屈折率層と、Al0.15Ga0.85Asによるn型の高屈折率層と、を交互に繰り返し積層することにより構成されている。なお、本実施の形態に係る発光素子10では、発振波長λを、一例として約850nmとしている。
【0029】
本実施の形態に係る活性領域24は、例えば、下部スペーサ層、量子井戸活性層、および上部スペーサ層を含んで構成されてもよい(図示省略)。本実施の形態に係る量子井戸活性層は、例えば、4層のAl0.3Ga0.7Asからなる障壁層と、その間に設けられた3層のGaAsからなる量子井戸層と、で構成されてもよい。なお、下部スペーサ層、上部スペーサ層は、各々量子井戸活性層と下部DBR16との間、量子井戸活性層と上部DBR26との間に配置されることにより、共振器の長さを調整する機能とともに、キャリアを閉じ込めるためのクラッド層としての機能も有している。発光素子10では、メサM1がVCSELを構成しているので、メサM1における活性領域24が発光層として機能している。
【0030】
活性領域24上に設けられたp型の電流狭窄層32は、p側電極36からn側電極30に向かって流れる電流を、非酸化領域32cによって絞る機能を有している。上述したように、図1(b)に示す境界18は、非酸化領域32cと第1酸化領域32aとの間の界面を表わしている。図1(b)に示すように、境界18で区画された本実施の形態に係る非酸化領域32cは、結合部40でくびれた形状をなしている。なお、第2酸化領域32bは、後述するように発光素子10の帯域を改善する一手段として設けられている。
【0031】
電流狭窄層32上に形成された上部DBR26は、膜厚がそれぞれ0.25λ/nとされかつ屈折率の互いに異なる2つの半導体層を交互に繰り返し積層して構成される多層膜反射鏡である。具体的には、上部DBR26は、Al0.90Ga0.1Asによるp型の低屈折率層と、Al0.15Ga0.85Asによるp型の高屈折率層と、を交互に繰り返し積層することにより構成されている。
【0032】
上部DBR26上には、光の出射面を保護する出射面保護膜38が設けられている(図4(e)参照)。出射面保護膜38は、一例としてシリコン窒化膜を着膜して形成される。
【0033】
ここで、図5を参照して、発光素子10ではメサM2側に第2酸化領域32bを配置しない領域を設ける理由について説明する。
【0034】
ところで、一般的なVCSEL(メサが単一のVCSEL)においては、高速化のための一方法として、メサ内の寄生容量を低減する方法がある。また、メサ内の寄生容量を低減する方法として多層酸化層を形成する方法がある。多層酸化層を形成して寄生容量が低減するのは、P電極とN電極との間の等価的な距離が長くなるからである。一方、駆動用メサと制御用メサを有する結合共振器構造のVCSELでは、上述したように、スローライト光の伝播方向と交差する制御用メサの端面がスローライト光の反射面となっている。
【0035】
図5(a)は、一般的なVCSELと同様にして結合共振器構造のVCSELに多層酸化層である第2酸化領域32b、32b’を導入した比較例に係る発光素子100を示している。図5(b)は発光素子100の平面図を、図5(a)は図5(b)におけるB-B’線に沿った断面図を各々示している。図5(a)に示すように、発光素子100はメサM1およびM2’を備え、メサM2’にも第2酸化領域32b’が形成されている。メサM2’に第2酸化領域32b’を形成すると、第2酸化領域32b’が形成されていないメサM2の端面Sと比較して第2酸化領域32bの部分での屈折率が低下する。その結果、図5(a)に散乱光Lsとして示すように伝播光は散乱し、駆動部であるメサM1に戻らない反射光が増加する。このため、反射光による帯域改善効果が制限される。
【0036】
そこで本発明では、スローライト光の伝播方向と交差する方向の第2酸化領域32b’(スローライト光の反射面に位置する第2酸化領域32b’)を製造工程におけるエッチング等で削除することにした。ただし、電流狭窄層(電流狭窄層32)を構成する酸化層(第1酸化領域32a)は残す。図5(b)に示すC-C’線は、メサM2’の削除する位置を示している。図5(b)に示す例では、メサM2’の辺H1、H2に沿った部分の境界20まで第2酸化領域32b’を削除している。ただし、メサM2’の平面視での削除範囲はこれに限られず、反射光Lrの発生範囲等に応じて、より狭い範囲でも、より広い範囲でもよい。さらに、第2酸化領域32b’はすべて削除する必要もなく、散乱光Lsの程度等に応じて残留させてもよい。
【0037】
次に、図3および図4を参照して、本実施の形態に係る発光素子10の製造方法について説明する。本実施の形態では、1枚のウエハ上に複数の発光素子10が形成されるが、以下ではそのうちの1つの発光素子10について図示し説明する。
【0038】
図3(a)に示すように、まず、半絶縁性GaAsの基板12上に、n型のコンタクト層14、n型の下部DBR16、活性領域24、およびp型の上部DBR26がこの順でエピタキシャル成長されたウエハを準備する。
【0039】
その際、n型のコンタクト層14は、一例として、キャリア濃度を約2×1018cm-3とし、膜厚を2μm程度として形成する。また、n型の下部DBR16は、一例として、各々の膜厚が媒質内波長λ/nの1/4とされた、Al0.15Ga0.85As層とAl0.9Ga0.1As層とを交互に37.5周期積層して形成される。Al0.3Ga0.7As層のキャリア濃度およびAl0.9Ga0.1As層のキャリア濃度は、各々約2×1018cm-3とされ、下部DBR16の総膜厚は約4μmとされる。また、n型キャリアとしては、一例として、Si(シリコン)を用いる。
【0040】
活性領域24は、一例として、ノンドープのAl0.6Ga0.4As層による下部スぺーサ層と、ノンドープの量子井戸活性層と、ノンドープのAl0.6Ga0.4As層による上部スぺーサ層とで形成される。量子井戸活性層は、例えば、Al0.3Ga0.7Asによる4層の障壁層、および各障壁層の間に設けられたGaAsによる3層の量子井戸層で構成される。Al0.3Ga0.7Asによる障壁層の膜厚は各々約8nmとされ、GaAsによる量子井戸層の膜厚は各々約8nmとされ、活性領域24全体の膜厚は媒質内波長λ/nとされる。
【0041】
p型の上部DBR26は、一例として、各々の膜厚が媒質内波長λ/nの1/4とされた、Al0.15Ga0.85As層とAl0.9Ga0.1As層とを交互に25周期積層して形成される。この際、Al0.15Ga0.85As層のキャリア濃度およびAl0.9Ga0.1As層のキャリア濃度は、各々約4×1018cm-3とされ、上部DBR26の総膜厚は約3μmとされる。また、p型キャリアとしては、一例として、C(カーボン)を用いる。さらに、上部DBR26の層内には、後述の工程において第1酸化領域32a、第2酸化領域32bを形成するための層(図示省略。上部DBR26の各層とは組成が異なる)が含まれる。また、上部DBR26の最上層はp側電極36とオーミック性接触を形成するためのコンタクト層(図示省略)とされている。
【0042】
次に、フォトリソグラフィによりマスクを形成した後、上部DBR26にプロトンH+等をイオン注入し、図3(b)に示すように電流阻止領域60を形成する。
【0043】
次に、上部DBR26上に出射面保護膜となる材料を成膜した後、該材料を例えばフォトリソグラフィによるマスクを用いてドライエッチングし、図3(c)に示すように、出射面保護膜38を形成する。出射面保護膜38の材料としては、一例として、シリコン窒化膜を用いる。
【0044】
次に、上部DBR26の最上層であるコンタクト層(図示省略)上に電極材料を成膜した後、該材料を例えばフォトリソグラフィによるマスクを用いてドライエッチングし、図3(d)に示すように、p側電極配線42(図4(e)参照)に接続するp側電極36を形成する。p側電極36は、一例として、Ti/Auの積層膜を用いて形成される。
【0045】
次に、フォトリソグラフィおよびエッチングによりウエハ面上にマスクを形成し、該マスクを用いて例えばドライエッチングを行い、図3(e)に示すようにメサM3を形成する。メサM3の平面視での形状は、図5(b)に示すメサM1およびM2’に相当する形状である。
【0046】
次に、ウエハに酸化処理を施してメサM3を側面から酸化し、図3(f)に示すように、メサM3内に第1酸化領域32a、第2酸化領域32bおよび32b’を形成する。その際、第1酸化領域32aの層の酸化されていない領域が非酸化領域32cとなり、第1酸化領域32aおよび非酸化領域32cが電流狭窄層32を形成する。非酸化領域32cは、図3(f)に示すようにメサM1からM2’にかけて連続して形成される。なお、本実施の形態では第2酸化領域32bのX軸方向の長さを第1酸化領域32aのX軸方向の長さよりも短くするために、第2酸化領域32bを形成する層と、第1酸化領域32aを形成する層とで組成を異ならせている。より具体的には、両者で例えばAl(アルミニウム)の組成比を異ならせている。
【0047】
次に、フォトリソグラフィおよびエッチングによりウエハ面上にマスクを形成し、該マスクを用いて例えばドライエッチングを行い、図4(a)に示すようにメサM1、M2を形成する。すなわち、下部DBR16および活性領域24の一部をエッチングしてコンタクト層14の一部を露出させ、さらに上部DBR26の一部をエッチングして第2酸化領域32b’を削除する。第2酸化領域32b’が削除されたメサM2の端面Sが駆動部62から伝播する伝播光の反射面となる。本エッチングによりメサM2’に相当する形状はメサM2に相当する形状となる。なお、本エッチングに際しては、必ずしも第2酸化領域32b’の全部を削除する必要はなく、反射光Lrの強度等を勘案して一部を残留させてもよい。さらに、本例では、下部DBR16および活性領域24の削除位置と、上部DBR26の削除位置とを異ならせる(メサM2に段差を設ける)形態を例示して説明するが、両削除位置は同じ位置としてもよい(図1(a)参照)。また、本例ではメサM2にp側電極36を形成する形態を例示して説明するが、これに限られずメサM2側にはp側電極36形成しなくともよい(図1(a)参照)。
【0048】
次に、フォトリソグラフィおよびエッチングによりウエハ面上にマスクを形成し、該マスクを用いてコンタクト層14を例えばドライエッチングし、図4(b)に示すように素子分離を行う。本実施の形態において「素子分離」とは、隣接する発光素子10との間でコンタクト層14を分離することをいう。
【0049】
次に、コンタクト層14上に電極材料を成膜した後、該材料を例えばフォトリソグラフィによるマスクを用いてドライエッチングし、図4(c)に示すように、n側電極配線44(図4(e)参照)に接続するn側電極30を形成する。n側電極30は、一例として、AuGe/Ni/Auの積層膜を用いて形成される。
【0050】
次に、図4(d)に示すように、ウエハの出射面保膜38、p側電極36、n側電極30を除く領域にシリコン窒化膜による絶縁膜34を成膜する。本実施の形態に係る絶縁膜34は、一例として、シリコン窒化膜(SiN膜)で形成されている。なお、絶縁膜34の材料はシリコン窒化膜に限らず、例えば、シリコン酸化膜(SiO膜)、あるいはシリコン酸窒化膜(SiON膜)等であってもよい。
【0051】
次に、ウエハ面上に電極材料を成膜した後、該電極材料を例えばフォトリソグラフィによるマスクを用いてドライエッチングし、図4(e)に示すように、p側電極36に接続されたp側電極配線42、n側電極30に接続されたn側電極配線44を形成する。p側電極配線42はp側電極パッド(図示省略)に接続され、n側電極配線44はn側電極パッド(図示省略)に接続される。p側電極配線42、n側電極配線44は、一例として、Ti/Auの積層膜を用いて形成する。
【0052】
次に、ウエハ上の図示しないダイシング領域においてダイシングし、発光素子10を分離して個片化する。以上の工程により、本実施の形態に係る発光素子10が製造される。
【0053】
なお、上記実施の形態では、発光素子10が備える2つのメサM1とM2の形状として略矩形形状を例示して説明したが、これに限られず、例えば楕円形状、三角形状等他の様々な形態としてもよい。また、メサM1とM2が同じ形状である必要もない。
【0054】
また、上記実施の形態では、多層酸化層(第2酸化領域32b)を上部DBR26に形成する形態を例示して説明したが、これに限られず下部DBR16に形成してもよい。
【0055】
また、上記各実施の形態では単一の発光素子の形態を例示して説明したが、これに限られず、上記各実施の形態に係る発光素子を単一の基板上に複数形成した発光素子アレイの形態としてもよい。
【0056】
また、上記実施の形態では、半絶縁性のGaAs基板を用いたGaAs系の発光素子を例示して説明したが、これに限られず、GaN(窒化ガリウム)による基板、あるいはInP(リン化インジウム)による基板を用いた形態としてもよい。
【0057】
また、上記実施の形態では、基板にn型のコンタクト層を形成する形態を例示して説明したが、これに限られず、基板にp型のコンタクト層を形成する形態としてもよい。その場合には、上記の説明において、n型とp型を逆に読み替えればよい。
【符号の説明】
【0058】
10、100 発光素子
12 基板
14 コンタクト層
16 下部DBR
18 境界
20 境界
24 活性領域
26 上部DBR
30 n側電極
32 電流狭窄層
32a 第1酸化領域
32b、32b’ 第2酸化領域
32c 非酸化領域
34 絶縁膜
36 p側電極
38 出射面保護膜
40 結合部
42 p側電極配線
44 n側電極配線
60 電流阻止領域
62 駆動部
64 制御部
H1、H2 辺
Lr 反射光
Lo 出力光
Ls 散乱光
Lv 発振光
S 端面
M1、M2、M2’、M3 メサ
図1
図2
図3
図4
図5