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  • 特許-金属磁性複合材料の熱硬化体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】金属磁性複合材料の熱硬化体
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20240110BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F27/255
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019109455
(22)【出願日】2019-06-12
(65)【公開番号】P2020202325
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】川原井 貢
(72)【発明者】
【氏名】高橋 元己
(72)【発明者】
【氏名】梶山 知宏
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-107807(JP,A)
【文献】特開2017-011042(JP,A)
【文献】特開2002-305108(JP,A)
【文献】特開2008-218724(JP,A)
【文献】特開2016-171115(JP,A)
【文献】特開2014-120743(JP,A)
【文献】特開2015-175047(JP,A)
【文献】特開平11-238613(JP,A)
【文献】特開2007-227426(JP,A)
【文献】特開2012-230948(JP,A)
【文献】特開2008-147405(JP,A)
【文献】特開2008-109080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 27/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と、金属磁性材料が粉末化された金属磁性粉末と、非磁性無機材料が粉末化された非磁性無機粉末と、を含有する金属磁性複合材料の熱硬化体であって、
前記熱硬化体の全体積に対する前記熱硬化性樹脂の体積占有率が11.0vol%以上であり、
前記熱硬化体の全体積に対する前記金属磁性粉末の体積占有率が79.0vol%以上であり、
前記熱硬化体の全体積に対する空孔の体積占有率が8.0vol%未満であり、
前記熱硬化性樹脂の体積に対する前記非磁性無機粉末の体積の比率が5.0vol%以上28.6vol%以下であり、
前記非磁性無機粉末の平均粒子径(D50)が前記金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の5.0%以下である、
金属磁性複合材料の熱硬化体。
【請求項2】
前記非磁性無機粉末が、表面が疎水化処理された疎水化非磁性無機粉末である、請求項1に記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
【請求項3】
前記非磁性無機粉末が球状シリカ粉末である、請求項1または2に記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
【請求項4】
前記球状シリカ粉末が、ゾルゲル法または溶融法により調製されたものである、請求項3に記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ系樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
【請求項6】
前記金属磁性粉末が、表面が絶縁処理された絶縁化金属磁性粉末である、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
【請求項7】
コイルと、磁性コア材とを備えるコイル部品であって、
前記磁性コア材の少なくとも一部が請求項1~6のいずれか1項に記載の金属磁性複合材料の熱硬化体により構成されている、コイル部品。
【請求項8】
材料の合計体積に対する体積占有率が12.1vol%以上である熱硬化性樹脂と、
金属磁性材料を粉末化した金属磁性粉末と、
前記熱硬化性樹脂の体積に対する体積の比率が5.0vol%以上28.6vol%以下であり、且つ、平均粒子径(D50)が前記金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の5.0%以下である、非磁性無機材料を粉末化した非磁性無機粉末と、
溶剤と、を混合して金属磁性複合材料を得る材料調製工程と、
前記金属磁性複合材料を、全体積に対する空孔の体積占有率が8.0vol%未満となるまで圧縮成形して金属磁性複合材料の成形体を得る圧縮成形工程と、
前記成形体を熱硬化して、全体積に対する前記金属磁性粉末の体積占有率が79.0vol%以上である金属磁性複合材料の熱硬化体を得る熱硬化工程と、を備える、
金属磁性複合材料の熱硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属磁性複合材料の熱硬化体、その製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等に用いられるコイル部品は種々の形態が知られているが、金属磁性粉末をバインダ樹脂に分散した金属磁性複合材料により構成された磁性コア材と、コイルあるいはコイル組立体とを一体成形したコイル部品が多く使用されている。例えば、特許文献1には、軟磁性粉末とバインダーを含む混和物により構成される粉末磁性体内に巻線コイルが封じ込められて加圧成形されたインダクタンス部品(コイル部品)が記載されている。また、特許文献2には、磁性粉末とバインダー樹脂とを含み、さらに全体積に対して8体積%以上の体積占有率の空孔を含むコアと、このコアに埋設されるコイルとを有する磁性素子(コイル部品)が記載されている。
【0003】
このようなコイル部品は、高い重畳特性や低い直流抵抗(DCR)が求められる。そのため、コイル部品における磁性コア材は、含有する金属磁性粉末の体積占有率を高くすることが要求される。これにより比透磁率が上がり、同じL値(インダクタンス)を得るためのコイルの必要な巻数が少なくなり、低いDCRが得られるからである。
【0004】
一方で、このようなコイル部品は、MSLテスト(Moisture Sensitivity Level Test(吸湿耐性水準テスト))をクリアすることも求められる。つまり、コイル部品を高温高湿環境において吸湿させた後、リフロー炉に通したときに、特性変化(インダクタンス変化率など)や外観の異常(割れや破損など)が無いことが要求される(MSLレベル1)。このMSLテストは、高温高湿環境でコイル部品内部に吸湿された水分が蒸発気化した際に、その部品に悪影響が生じないことを確認するテストである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-319020号公報
【文献】特開2016-171115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、金属磁性複合材料の硬化体(成形体)により構成された磁性コア材は、一定量の空気を含んでいる。したがって、このような磁性コア材を備えるコイル部品には空気の隙間(空孔)が多く存在し、この空孔は水蒸気を通すことが可能である。そして、このような空孔を多く含むコイル部品は、MSLテストに対しては、内部に吸湿された水分がリフロー炉内で蒸発気化した際、水蒸気は空孔から瞬時に外部に放出されるため、内圧が高まりにくく、コイル部品が損傷を受けにくい。
しかしながら、空孔が多いコイル部品は環境の湿度を吸湿しやすく、その結果、内部に錆が発生してしまう場合がある。
【0007】
よって、コイル部品における磁性コア材中の空孔の体積占有率を低くすることにより内部に錆を発生し難くし、また、これによって金属磁性粉末の体積占有率を高くすることができるため、コイル部品の特性向上も実現できるが、一方でMSLテストでは、このような空孔の体積占有率が低いコイル部品は気化した水蒸気により内圧が高まり、その内圧に耐えきれずに割れや微小クラックが生じてしまう。
したがって、従来のコイル部品では、MSLテストをクリアするために、金属磁性複合材料の硬化体により構成される磁性コア材における空孔の体積占有率を低くすることができないという課題がある。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、空孔の体積占有率が低く且つ強度がより高い金属磁性複合材料の熱硬化体、およびこの金属磁性複合材料の熱硬化体により構成された磁性コア材を含むコイル部品等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、金属磁性複合材料の熱硬化体における熱硬化性樹脂の体積占有率および空孔の体積占有率、非磁性無機粉末と熱硬化性樹脂との体積の比率、ならびに金属磁性粉末と非磁性無機粉末との平均粒子径(D50)の比率を所定の範囲内とすることにより、金属磁性複合材料の熱硬化体の強度をより向上することができ、この結果、空孔の体積占有率が低く且つMSLテストをクリア可能な磁性コア材やコイル部品を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、熱硬化性樹脂と、金属磁性材料が粉末化された金属磁性粉末と、非磁性無機材料が粉末化された非磁性無機粉末とを含有する金属磁性複合材料の熱硬化体であって、この熱硬化体の全体積に対する熱硬化性樹脂の体積占有率が11.0vol%以上であり、この熱硬化体の全体積に対する空孔の体積占有率が10.0vol%以下であり、熱硬化性樹脂の体積に対する非磁性無機粉末の体積の比率が5.0vol%以上200.0vol%未満であり、非磁性無機粉末の平均粒子径(D50)が前記金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の1/10以下である、金属磁性複合材料の熱硬化体である。
【0011】
また、本発明の一態様は、コイルと、磁性コア材とを備えるコイル部品であって、磁性コア材の少なくとも一部が上記金属磁性複合材料の熱硬化体により構成されている、コイル部品である。
【0012】
さらに、本発明は、材料の合計体積に対する体積占有率が12.1vol%以上である熱硬化性樹脂と、金属磁性材料を粉末化した金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂の体積に対する体積の比率が5.0vol%以上200.0vol%未満であり且つ平均粒子径(D50)が金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の1/10以下である非磁性無機材料を粉末化した非磁性無機粉末と、溶剤と、を混合して金属磁性複合材料を得る材料調製工程と、この金属磁性複合材料を全体積に対する空孔の体積占有率が10.0vol%以下となるまで圧縮成形して金属磁性複合材料の成形体を得る圧縮成形工程と、この成形体を熱硬化して金属磁性複合材料の熱硬化体を得る熱硬化工程と、を備える、金属磁性複合材料の熱硬化体の製造方法も包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空孔の体積占有率が低く且つ強度がより高い、MSLテストにも耐えうる金属磁性複合材料の熱硬化体、ならびに、この金属磁性複合材料の熱硬化体により構成された磁性コア材を含むコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るコイル部品の製造工程の一例を示す図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
はじめに、本発明に係る金属磁性複合材料の熱硬化体の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体は、少なくとも、熱硬化性樹脂と、金属磁性粉末と、非磁性無機粉末とを含む。なお、本発明の効果に影響を与えない範囲内において、上記以外の材料(例えば分散剤や可塑剤、有機金属石鹸など)が含まれる実施形態も除外されない。
以下、各材料について詳細に説明する。
【0017】
<熱硬化性樹脂>
まず、熱硬化性樹脂について説明する。
本実施形態における熱硬化性樹脂は、官能基を持つプレポリマーを主成分(含有率90wt%以上)とする反応性の樹脂組成物であり、加熱により軟化および流動し、次第に三次元網目構造を形成する架橋反応を起こして硬化する樹脂組成物である。そして、この熱硬化性樹脂としては、バインダ樹脂としての役割を果たし且つ加熱により硬化するものであれば特に限定されず、例えば、熱硬化型の、エポキシ系樹脂(ビスフェノール型、ナフタレン型など)、シリコン系樹脂(メチルフェニルシリコン樹脂など)、フェノール系樹脂(ノボラック型、レゾール型など)、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。特に、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂およびフェノール系樹脂のいずれかであるのが好ましく、熱耐性などの観点からエポキシ系樹脂であるのがより好ましい。なお、エポキシ系樹脂であれば、どの種類を用いても同様の効果が発揮される。また、この熱硬化性樹脂は、固体粉末または造粒されたものでもよく、あるいは液体のものでもよい。
【0018】
なお、金属磁性複合材料を調製するにあたり、熱硬化性樹脂を樹脂溶液とするために、熱硬化性樹脂に溶剤を混合しても良い。この溶剤は、製造工程などにおいて乾燥等により除去されるものであるが、後述する熱硬化体における空孔の体積占有率を低くし易くするために、溶剤の使用量は少ない方が好ましい(例えば、溶剤を除く金属磁性複合材料に用いる材料の合計体積に対する溶剤の体積の比率が5.0vol%未満、さらには0.5vol%以上2.0vol%以下など)。溶剤としては、金属磁性複合材料の材料調製工程やその後の圧縮成形工程、熱硬化工程などにおいて乾燥等により除去可能なものであるのが好ましく、アルコール、トルエン、クロロホルム、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒が好適例として示される。
【0019】
<金属磁性粉末>
次に、金属磁性粉末について説明する。
本実施形態における金属磁性粉末は、金属磁性材料が粉末化されたものであり、鉄を主成分とする磁性粉末であれば特に限定されず、例えば、鉄を主成分として含み、副成分として、クロム(Cr)、シリコン(Si)、ニッケル(Ni)、アルミ(Al)、コバルト(Co)、カーボン(C)などを添加したものを用いることができる。また、アモルファス金属粉末や純鉄粉を用いても良い。具体的には、Fe-Ni系(パーマロイ)、Fe-Si系(ケイ素鋼)、Fe-Al系、Fe-Co系(パーメンジュール)、Fe-Si-Cr系、Fe-Al-Cr系、Fe-Si-Al系(センダスト)などの合金粉末や、アモルファス金属のような非結晶性金属粉末、カルボニル鉄粉などの結晶性鉄粉などが挙げられる。
【0020】
この金属磁性粉末における主成分である鉄の含有率は、90wt%以上であることが好ましく、92wt%以上であることがより好ましい。また、98wt%以下であることが好ましく、97wt%以下であることがより好ましい。
そして、この金属磁性粉末は、上記のような副成分の少なくとも1つを含み、残部が鉄および不可避的不純物であることが好ましい。
【0021】
なお、この金属磁性粉末は、Crの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、3wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。
Crは大気中の酸素と結合して、化学的に安定な酸化物(例えば、Cr等)を容易に生成する。このため、Crを含む金属磁性複合材料の熱硬化体は、耐食性に特に優れたものとなる。さらにCrの酸化物は比抵抗が大きいため、金属磁性複合材料で構成された粒子の表面付近にCrの酸化物層が形成されることにより、粒子間をより確実に絶縁することができる。
したがって、Crの含有率を上記範囲内とすることにより、耐食性に優れるとともに、渦電流損失のより小さいコイル部品等を製造可能な金属磁性複合材料が得られる。
【0022】
同様の理由により、この金属磁性粉末は、Niの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、3wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。そして、同様に、この金属磁性粉末は、Alの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、3wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。
【0023】
また、この金属磁性粉末は、Siの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、3wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。
Siは金属磁性複合材料を用いて得られるコイル部品の透磁率を高め得る成分である。また、金属磁性粉末がSiを含むと比抵抗が高くなるため、粒子間渦電流損失を抑制し得る成分でもある。したがって、Siの含有率を上記範囲内とすることにより、透磁率を高めつつ、渦電流損失のより小さいコイル部品等を製造可能な金属磁性複合材料が得られる。
【0024】
さらに、この金属磁性粉末は、上記のような主成分および副成分の他に、この副成分より含有率の小さい成分として、B(ホウ素)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Mn(マンガン)、Cu(銅)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ta(タンタル)等のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。その場合、これらの成分の含有率の総和は、1wt%以下とするのが好ましい。
また、この金属磁性粉末は、製造過程で不可避的に混入するP(リン)、S(硫黄)等の成分を含んでいてもよい。その場合、これらの成分の含有率の総和は、1wt%以下とするのが好ましい。
【0025】
そして、この金属磁性粉末は、平均粒子径(D50)が5μm以上30μm以下であるのが好ましく、7μm以上25μm以下であるのがより好ましく、8μm以上20μm以下であるのがさらに好ましい。また、粒子形状は球状(略球状)であるのが好ましい。
ここで、本発明において「平均粒子径(D50)」とは、レーザ回折・散乱法(マイクロトラック法)による粒子径分布測定装置を用いて求めた体積基準粒度分布における積算値50%での粉子径(メディアン径)を意味する。粒子が凝集している場合には、その凝集体の粒子径を意味する。後述する非磁性無機粉末の平均粒子径(D50)も同様である。なお、平均粒子径(D50)の具体的な測定機器としては、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布)LA-960(HORIBA製作所社製)を挙げることができる。
【0026】
また、この金属磁性粉末は、水アトマイズ法やガスアトマイズ法により製造されたものを用いるのが好適である。
ここで、「水アトマイズ法」とは、溶湯(溶融金属)を、高速で噴射した水(アトマイズ水)に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。この水アトマイズ法で製造された金属磁性粉末は、その製造過程で表面が酸化し、酸化鉄を含む酸化物層が自然に形成される。
また、「ガスアトマイズ法」とは、溶湯の流れに周囲から不活性ガスや空気などのジェット気流を吹き付けて溶湯の流れを粉化し、擬固させて金属粉末とする方法である。
この水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により製造された金属磁性粉末は、その形状が球形に近くなるため、得られる金属磁性複合材料を用いて熱硬化体やコイル部品を製造する際に、その充填率を高めることができる。その結果、より高密度・高磁束密度のものが得られる。
【0027】
なお、粒子内渦電流損失を抑制するため、この金属磁性粉末は、その表面に絶縁コートなどの絶縁処理がされた絶縁化金属磁性粉末としてもよい。絶縁コートとしては、シリカコートやアルミナコートなどのパウダーコーティングを好適に用いることができる。
【0028】
<非磁性無機粉末>
次に、非磁性無機粉末について説明する。
本実施形態における非磁性無機粉末は、非磁性、つまり比透磁率が1に近い(1を含む)無機材料が粉末化されたものである。例えば、シリカ粉末、炭酸カルシウム粉末、アルミナ(酸化アルミニウム)粉末、チタン酸バリウム粉末などを非磁性無機粉末として用いることができ、これらの球状(略球状)粒子粉末を用いるのが好ましく、球状シリカ粉末(球状シリカ粒子)を用いるのが特に好ましい。
なお、熱硬化性樹脂との混合をよりし易くするため、非磁性無機粉末の表面に疎水化処理を施してもよい。これにより、非磁性無機粉末が熱硬化樹脂中に均質に分散しやすく、結果として、得られる熱硬化体の強度をより高めることができる。疎水化処理としては、シリコンオイルによるコーティングや、シランカップリング剤等による表面官能基(例えば水酸基)の疎水性基への置換処理(カップリング処理)などを挙げることができる。
【0029】
そして、この非磁性無機粉末は、より強度の高い金属磁性複合材料の熱硬化体を得るために、その平均粒子径(D50)が上記金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の1/10以下(10%以下)である必要があり、これは8.0%以下であることが好ましく、6.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがより好ましい。さらに、その下限は、0.1%以上であることが好ましく、0.4%以上であることがより好ましい。
この非磁性無機粉末の具体的な平均粒子径(D50)は、併用する金属磁性粉末の平均粒子径(D50)により変わるため一概には言えないが、例えば、0.01μm以上3.0μm以下、さらには0.05μm以上2.0μm以下、さらには0.1μm以上1.0μm以下などが示される。
また、この非磁性無機粉末は、実質的に凝集していない粒子群であることが好ましい。ここで、本発明において「実質的に凝集していない粒子群」とは、粒子群を構成する粒子のうち凝集している粒子の割合が0.1wt%以下であることを意味する。
【0030】
非磁性無機粉末として球状シリカ粉末を用いる場合、ゾルゲル法または溶融法により調製された球状シリカ粉末を用いるのが好適である。このような球状シリカ粉末は金属磁性複合材料に配合したときに粒子が凝集しにくい(一次粒子が独立しやすい)ことから、得られる金属磁性複合材料の熱硬化体の強度およびMSLテスト耐性がより優れたものとなるためである。
ここで、球状シリカ粉末の調製法である「ソルゲル法」とは、金属アルコキシドの重縮合によりシリカ多孔質体(シリカゲル)を得て、これを乾燥および粉末化する方法であり、「溶融法」とは、天然鉱物や合成シリカを火炎などの高温で溶融し、純度の高い球状シリカ粉末を得る方法である。
【0031】
<金属磁性複合材料の熱硬化体>
次に、上記した熱硬化性樹脂、金属磁性粉末および非磁性無機粉末を含む金属磁性複合材料が圧縮成形され熱硬化された、本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体について説明する。
【0032】
本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体は、全体積に対する熱硬化性樹脂の体積占有率が11.0vol%以上であり、残留する空気等により形成された空孔の体積占有率が10.0vol%以下である必要がある。
なお、この熱硬化性樹脂の体積占有率は、12.0vol%以上であることが好ましく、13.0vol%以上35.0%以下であることがより好ましく、15.0vol%以上33.0%以下であることがさらに好ましい。また、この空孔の体積占有率は、8.0vol%未満であることが好ましく、6.0vol%以下であることがより好ましく、5.0vol%以下であることがさらに好ましい。
本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体は、空孔の体積占有率をこのように低くすることによって、結果として、熱硬化体の全体積における金属磁性粉末の体積占有率を高めることができ、例えばこの金属磁性粉末の体積占有率を50.0vol%超、さらには55.0vol%以上、さらには60.0vol%以上とすることもできる。そして、このような熱硬化体を磁性コア材として用いることによって、比透磁率が高いコイル部品を得ることができる。
【0033】
ここで、圧縮成形および熱硬化前の金属磁性複合材料においては、乾燥等により除去される成分(溶剤など)および空気を除く金属磁性複合材料に用いる材料の合計体積に占める熱硬化性樹脂の体積占有率は、圧縮成形および熱硬化後の熱硬化体の全体積に対する体積占有率が11.0vol%以上となるような範囲とすれば良いが、例えば12.1vol%以上、好ましくは13.0vol%とすることができる。
【0034】
また、本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体は、前述した熱硬化性樹脂の体積占有率が上記範囲内であり、且つ、熱硬化性樹脂の体積に対する所定の平均粒子径(D50)である非磁性無機粉末の体積の比率(熱硬化性樹脂の体積を分母、非磁性無機粉末の体積を分子としたときの体積比)を5.0vol%以上200.0vol%未満とする必要がある。
なお、この体積比は、10.0vol%以上180.0vol%以下であることが好ましく、15.0vol%以上100.0vol%以下であることがより好ましく、20.0vol%以上80.0vol%以下であることがさらに好ましい。
このような本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体は、熱硬化性樹脂の体積占有率および熱硬化性樹脂と所定の平均粒子径(D50)である非磁性無機粉末との体積比を上記範囲内とすることによってその強度がより高まり、空孔の体積占有率が低くてもMSLテストに耐えうる強度を有する熱硬化体を得ることができる。
【0035】
<コイル部品>
次に、本発明に係る金属磁性複合材料の熱硬化体を含む磁性コア材を備えるコイル部品の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態におけるコイル部品は、コイルと、少なくとも一部が上記した金属磁性複合材料の熱硬化体により構成された磁性コア材とを備える。
【0036】
ここで、コイルは、丸線や平線などのワイヤが巻回されたものであり、このワイヤの形状や本数、巻回数(ターン数)などは特段限定されるものではない。また、このワイヤは表面が絶縁被覆されたものであっても良い。
また、磁性コア材は、上記コイルの磁心(コイルの中芯部に備わるインナーコア材)や上記コイルを包埋する磁性外装体(コイルが包埋されたアウターコア材)となるものであり、本実施形態に係るコイル部品においては、この磁性コア材の少なくとも一部、例えば磁心または磁性外装体のいずれかあるいは両方が上記した金属磁性複合材料の熱硬化体により構成されている。なお、本実施形態に係るコイル部品は、磁性コア材としてコイルを包埋する磁性外装体を含み、少なくともこの磁性外装体が上記した金属磁性複合材料の熱硬化体により構成されているのが、コイル部品内部の錆発生抑制という観点から好ましい。しかしながら、磁性外装体を含まず、コイルと上記した金属磁性複合材料の熱硬化体により構成された磁心とを備えるコイル部品としても良い。あるいは、コイル部品に備わる全ての磁性コア材(磁心および磁性外装体)が上記した金属磁性複合材料の熱硬化体により構成されていても良い。
【0037】
このような本実施形態に係るコイル部品は、高い重畳特性および低い直流抵抗を有することが可能であり、コイル(チョークコイルを含む)、インダクタ、ノイズフィルタ、リアクトル、モータ、発電機、トランス、アンテナなどとして好適に用いられる。
【0038】
<金属磁性複合材料の熱硬化体の製造方法>
次に、本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体の製造方法について説明する。
本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体(例えば、内部にコイルを埋め込んでいない非埋め込みタイプの磁性コア材など)の製造方法は特に限定されるものではないが、以下に好ましい実施態様を説明する。
【0039】
本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体の製造方法は、少なくとも、材料調製工程、圧縮成形工程および熱硬化工程を含む。これらの工程は、例えば下記のようにして行うことができる。
【0040】
[材料調製工程]
上記した熱硬化性樹脂、金属磁性粉末、および、この金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の1/10以下の平均粒子径(D50)である非磁性無機粉末を用意する。次に、熱硬化性樹脂(必要であれば溶剤を添加した樹脂溶液)に、金属磁性粉末および非磁性無機粉末をミキサー等を用いて混合分散し、必要であれば乾燥して、粒状またはペースト状(例えば、粘度が30Pa・s以上3000Pa・s以下程度)の金属磁性複合材料を調製する。ここで、必要に応じて分散剤や可塑剤などを適宜配合してから混合分散を行っても良い。また、これらの混合比率は、金属磁性複合材料に用いる材料の合計体積に占める熱硬化性樹脂の体積占有率が12.1vol%以上であり、熱硬化性樹脂の体積に対する非磁性無機粉末の体積の比率が5.0vol%以上200.0vol%未満であるようにする。
なお、金属磁性粉末、非磁性無機粉末、熱硬化樹脂および溶剤の添加の順番は特に限定されない。そして、上記の混合は、混錬造粒であってもよい。また、造粒により粒状の金属磁性材料を得る場合、混合した後、分級を施してもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。また、溶剤を用いる場合には、混合後に乾燥を行って溶剤含有率をほぼ0wt%とすることが好ましい。
【0041】
[圧縮成形工程]
プレス機械の金型開口から上記材料調製工程において得られた金属磁性複合材料をインジェクターなどによって金型内に充填する。この金型の形状や大きさは特に限定されない。また、金属磁性複合材料を金型内に投入する際に、金型内部で金属磁性複合材料が十分に充填されない箇所を生じにくくするために、振動を加えながら投入を行っても良い。
次に、金型の上下両方またはどちらか一方から、可動のパンチ(プレスヘッド)により金型内の金属磁性複合材料に対して、例えば常圧条件において1[ton/cm]以上10[ton/cm]以下の圧力をかけて、全体積に対する空孔の体積占有率が10.0vol%以下、好ましくは8.0vol%未満、より好ましくは6.0vol%以下、さらに好ましくは5.0vol%以下となるように圧縮成形する。なお、この圧縮成形は、全体積に対する空孔の体積占有率を低くし易くするために、減圧条件(例えば10kPa以下)において同様に1[ton/cm]以上10[ton/cm]以下の圧力により成形しても良い。また、金属磁性複合材料がペースト状である場合には、減圧条件において2[kg/cm]以上300[kg/cm]以下の圧力をかけて成形しても良い。これにより金属磁性複合材料の成形体を得る。
【0042】
なお、上記圧縮成形工程では、金型の加熱等により、熱硬化性樹脂を熱硬化温度未満かつ軟化温度以上に加熱して軟化させた状態で、2[kg/cm]以上300[kg/cm]以下の圧力により圧縮成形(ホットプレス)しても良い。
また、金型ではなく、凹型のトレーに金属磁性複合材料を投入し、ゴム製の先端部を有する金属製の加圧パーツを上記トレーに載せ、上記トレーと加圧パーツとを一緒に水または油が貯留された液層に浸漬し、更に加圧パーツに加重を負荷して金属磁性複合材料を加圧する液圧成形により圧縮成形を行っても良い。
【0043】
[熱硬化工程]
金型から上記成形体を取り出し、熱硬化性樹脂の熱硬化温度以上の温度により金属磁性複合材料の成形体を熱硬化させる。熱硬化時間も特に限定されず、例えば0.1時間以上5時間以下であって良く、さらには0.2時間以上1時間以下であって良い。その後、得られた金属磁性複合材料の熱硬化体は、更に必要に応じて、表面の研磨やコーティングなどの工程を選択的に施す。
【0044】
このようにして、本実施形態では、製造時において空気を極力排除することにより空孔の体積占有率が低い金属磁性複合材料の熱硬化体を得ることができるが、このことにより金属磁性複合材料の熱硬化体のガス(特に水蒸気)透過率は大幅に低下する。ガス透過率の低下は、MSLテストにおいて水蒸気の発生による内圧の上昇をもたらすが、本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体は、上記設計のため強度が非常に高く、この内圧に充分に耐えることができ、その結果、割れやクラックの発生、特性の劣化がおきにくいものである。
これは、金属磁性粉末の粒子間を埋める非磁性無機粉末と樹脂硬化物の強度がより高いため、熱硬化体の凝集破壊に対する強度がより向上し、気化した蒸気を瞬時に外部に放出されなくても、MSLテストにおいて、割れやクラックの発生が抑制されると推定できる。
【0045】
<コイル部品の製造方法>
本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体により構成される磁性コア材を含むコイル部品を製造する場合には、これも限定されるものではないが、前述した本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体の製造方法の変形例として、例えば図1に示すような方法により製造することができる。
具体的には、まず丸線等のワイヤからなる巻線の空芯コイルを用意する。この空芯コイルは、絶縁被覆されたワイヤが巻回された巻回部11と、この巻回部11から引き出された巻線の両端部12とにより構成されている(図1の(a))。次に、この空芯コイルをプレス機械の金型21内に置き、金型21の開口からコイルの巻回部11(巻回されたワイヤのループ内側およびループどうしの隙間も含む)を埋設するように、前述した材料調製工程により調製した金属磁性複合材料22を充填する。ただし、巻線の両端部12は金属磁性複合材料22から露出させる(図1の(b))。そして、前述した圧縮成形工程と同様の条件によって空孔の体積占有率が所定の範囲内となるように上側パンチにより圧縮成形し、金属磁性複合材料22とコイルを一体化する(図1の(c))。その後、金型から成形体を取り出し、熱硬化性樹脂の熱硬化温度以上の温度による熱硬化工程を行って、金属磁性複合材料22が略直方体状に成形および熱硬化された磁性コア材32(磁性外装体および磁心)にコイルが包埋され、巻線の両端部12は外部に露出しているコイル部品を得る(図1の(d))。
【0046】
なお、空芯コイルの代わりにコイルと磁心となる磁性コア材とからなるコイル組立体を用意し、これを用いて上記と同様の方法によりコイル部品を製造しても良い。この場合、磁性外装体(アウターコア材)は本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体により構成されるが、磁心(インナーコア材)は本実施形態に係る金属磁性複合材料とは異なる材料の成形体(例えばフェライトコアなど)により構成されるコイル部品としても良い。
【0047】
以上、本実施形態に係る金属磁性複合材料の熱硬化体、この熱硬化体を含む磁性コア材を備えるコイル部品、およびこれらの製造方法を説明したが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の実施態様も含む。
また、上記の各実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、適宜に組み合わせることができる。
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形等が可能である。
【実施例
【0049】
<試験I>
材料として、熱硬化型であり、常温で固体状であるビスフェノール型の一液型エポキシ樹脂と、ゾルゲル法により調製され且つ表面が疎水化処理された球状シリカ粉末(平均粒子径(D50):0.1um)と、Fe-Si-Cr系の合金粉末である金属磁性粉末(平均粒子径(D50):10um)とを用意した。ここで、上記平均粒子径(D50)は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布)LA-960(HORIBA製作所社製)を用いて測定したものである(後述する試験II~Vにおいても同様である)。
そして、上記エポキシ樹脂に溶剤(メチルエチルケトン)を混合して樹脂溶液とし、この樹脂溶液に、上記球状シリカ粉末を所定の体積比となるように充分に混合分散し、さらに上記金属磁性粉末を所定の体積比となるように混合分散した(サンプル5~9)。なお、サンプル1~4およびコントロール(Ct)は球状シリカ粉末を配合せずに調製した。そして、混合撹拌しながら溶剤を乾燥することにより粒状の配合物を得た(サンプル1~9およびコントロール)。これらを金属磁性複合材料とした。
【0050】
次に、絶縁被覆銅線を20ターン巻線した空芯コイルを準備した。このコイルを金型内に設置し、上記サンプル1~9の各金属磁性複合材料をそれぞれ必要な量投入して、上パンチで金型を塞いだ。そして、この金型により10[ton/cm]の圧力を上限として設定した狙い密度になるように圧縮成形し、その後金型から成形体を取り出した。取り出した成形体は150℃-2時間の条件により熱処理し、エポキシ樹脂の熱硬化を行った。そして、得られたコイルを包埋している金属磁性複合材料の熱硬化体(サンプル1~9のコイル部品)におけるコイルの導線端に電極を接続した。
これとは別に、上記サンプル1~9およびコントロールの金属磁性複合材料だけをそれぞれ金型に充填し、同様に圧縮成形および熱硬化した、長さ15mm、幅5mm、厚さ0.5mmの板状磁性コア材(サンプル1~9およびコントロール)も作製した。
なお、サンプル1~9およびコントロールの金属磁性複合材料の熱硬化体における、全体積に対する金属磁性粉末、エポキシ樹脂、球状シリカ粉末および空孔の各体積占有率、球状シリカ粉末とエポキシ樹脂との体積比、および圧縮成形の狙い密度について、下記表1に示した。ここで、上記各体積占有率は、上記各材料の重量および比重(金属磁性粉末の比重は7.61g/cm、エポキシ樹脂の比重は1.17g/cm、球状シリカ粉末の比重は2.2g/cm)と、金属磁性複合材料の熱硬化体の重量および体積とから算出されたものである。
【0051】
そして、このサンプル1~9およびコントロールの板状磁性コア材について強度の測定を実施し、サンプル1~9のコイル部品についてMSLテストを実施した。
具体的には、強度の測定は、板状磁性コア材を支点間7mmでオートグラフを用いて三点曲げ試験を行い、材料の破壊強度(曲げ強度)を測定した。
また、コイル部品のMSLテストは、JIS61760-4(2016)に則り、MSLレベル1対応の以下の方法により行った。まず125±5℃で24時間以上乾燥(水分除去)した後に、温度85℃-湿度85%RHで168時間加湿(吸水)して、一定時間内に、ピーク温度260度(非鉛半田対応)のリフロー炉に必要回数通過させて温度負荷を行った。そして、特性検査として、LCRメーター(Agilent社製 E4980A LCR Meter)でインダクタンス(L値)を確認し、規格内にあるかどうかを評価した。また、外観検査として、倍率40倍の光学顕微鏡で外観を検査し、クラック・剥離・膨張等の有無を評価した。
【0052】
この試験結果も下記表1に示した。なお、曲げ強度結果は、コントロールの曲げ強度を1.00としたときの曲げ強度比として示した。また、MSLテスト結果は、外観評価(クラック等の発生率)が0であり特性評価(インダクタンス変化率)が-5%以内のものを○、軽微なクラック等が発生しているがインダクタンス変化率が-5%以内のものを△、クラック等が発生しインダクタンス変化率が-5%以内に収まらないものを×として評価した。
【0053】
【表1】
【0054】
これらの試験結果から、疎水化球状シリカ粉末を含む金属磁性複合材料とすることによって、空孔の体積占有率が10.0vol%以下であっても、曲げ強度が高く且つMSLテストに耐えうる金属磁性複合材料の熱硬化体(磁性コア材、コイル部品)を得られることが明らかとなった。
【0055】
<試験II>
材料として、熱硬化型であり、常温で固体状であるビスフェノール型の一液型エポキシ樹脂と、ゾルゲル法により調製され且つ表面が疎水化処理された球状シリカ粉末(平均粒子径(D50):0.1um)と、Fe-Si-Cr系の合金粉末である金属磁性粉末(平均粒子径(D50):10um)とを用意した。
そして、上記エポキシ樹脂に溶剤(メチルエチルケトン)を混合して樹脂溶液とし、この樹脂溶液に、上記球状シリカ粉末を所定の体積比となるように充分に混合分散し、さらに上記金属磁性粉末を所定の体積比となるように混合分散した。そして、混合撹拌しながら溶剤を乾燥することにより粒状の配合物を得た(サンプル10~42)。これらを金属磁性複合材料とした。
【0056】
次に、上記各金属磁性複合材料を用いて、試験Iと同様の方法によりコイル部品および板状磁性コア材(サンプル10~42)を作製した。
なお、サンプル10~42の金属磁性複合材料の熱硬化体における、全体積に対する金属磁性粉末、エポキシ樹脂、球状シリカ粉末および空孔の各体積占有率、球状シリカ粉末とエポキシ樹脂との体積比、および圧縮成形の狙い密度について、下記表2に示した(上記各材料の比重は試験Iと同じ)。
【0057】
そして、このサンプル10~42について、試験Iと同様の方法により曲げ強度の測定およびMSLテストを実施した。この試験結果も下記表2に示した。
【0058】
【表2】
【0059】
これらの試験結果から、金属磁性複合材料の熱硬化体の全体積に対する体積占有率としてエポキシ樹脂を11.0vol%以上とし、且つ、エポキシ樹脂の体積に対して、金属磁性粉末の1/10の平均粒子径(D50)である疎水化球状シリカ粉末の体積比を5.3vol%以上200.0vol%未満とすることにより、空孔の体積占有率が3.0vol%であっても、曲げ強度が高く且つMSLテストに耐えうる金属磁性複合材料の熱硬化体(磁性コア材、コイル部品)を得られることが明らかとなった。
【0060】
<試験III>
材料として、熱硬化型であり、常温で固体状であるビスフェノール型の一液型エポキシ樹脂と、ゾルゲル法または合成溶融法により調製され且つ表面が疎水化処理された、平均粒子径(D50)が異なる複数の球状シリカ粉末と、Fe-Si-Cr系の合金粉末である平均粒子径(D50)が異なる複数の金属磁性粉末とを用意した。
そして、上記エポキシ樹脂に溶剤(メチルエチルケトン)を混合して樹脂溶液とし、この樹脂溶液に、上記球状シリカ粉末を所定の体積比となるように充分に混合分散し、さらに上記金属磁性粉末を所定の体積比となるように混合分散した。そして、混合撹拌しながら溶剤を乾燥することにより粒状の配合物を得た(サンプル43~62)。これらを金属磁性複合材料とした。
【0061】
次に、上記各金属磁性複合材料を用いて、試験Iと同様の方法によりコイル部品および板状磁性コア材(サンプル43~62)を作製した。
なお、サンプル43~62の金属磁性複合材料の熱硬化体における、金属磁性粉末および球状シリカ粉末の平均粒子径(D50)、金属磁性粉末の平均粒子径(D50)に対する球状シリカ粉末の平均粒子径(D50)の比(平均粒子径比)、全体積に対する金属磁性粉末、エポキシ樹脂、球状シリカ粉末および空孔の各体積占有率、球状シリカ粉末とエポキシ樹脂との体積比、および圧縮成形の狙い密度について、下記表3に示した(上記各材料の比重は試験Iと同じ)。
【0062】
そして、このサンプル43~62について、試験Iと同様の方法により曲げ強度の測定およびMSLテストを実施した。この試験結果も下記表3に示した。
【0063】
【表3】
【0064】
これらの試験結果から、金属磁性複合材料において、エポキシ樹脂の体積に対して50.0vol%の体積比で含まれる疎水化球状シリカ粉末の平均粒子径(D50)を、金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の1/10以下とすることによって、空孔の体積占有率が3.0vol%であっても、曲げ強度が高く且つMSLテストに耐えうる金属磁性複合材料の熱硬化体(磁性コア材、コイル部品)を得られることが明らかとなった。
【0065】
<試験IV>
材料として、熱硬化型であり、常温で液状であるビスフェノール型の一液型エポキシ樹脂と、ゾルゲル法により調製され且つ表面が疎水化処理された球状シリカ粉末(平均粒子径(D50):0.1um)と、Fe-Si-Cr系の合金粉末である金属磁性粉末(平均粒子径(D50):10um)とを用意した。
そして、上記エポキシ樹脂に上記球状シリカ粉末を所定の体積比となるように混合分散し、さらに上記金属磁性粉末を所定の体積比となるように混合分散した。そして、混合撹拌することによってペースト状の配合物を得た(サンプル63~67)。これらを金属磁性複合材料とした。
【0066】
次に、絶縁被覆銅線を20ターン巻線した空芯コイルを準備した。このコイルを金型内に設置し、上記金属磁性複合材料をそれぞれ必要な量投入して、上パンチで金型を塞いだ。そして、金型全体を10kPaまで減圧し、減圧のまま、更に200[kg/cm]の圧力で圧縮成形し、その後大気圧に戻して、金型から成形体を取り出した。そして、取り出した成形体を150℃-2時間で熱処理し、エポキシ樹脂の熱硬化を行った。そして、得られたコイルを包埋している金属磁性複合材料の熱硬化体(サンプル63~67のコイル部品)におけるコイルの導線端に電極を接続した。
これとは別に、上記各金属磁性複合材料だけをそれぞれ金型に充填し、同様に圧縮成形および熱硬化した、長さ15mm、幅5mm、厚さ0.5mmの板状磁性コア材(サンプル63~67)も作製した。
なお、サンプル63~67の金属磁性複合材料の熱硬化体における、全体積に対する金属磁性粉末、エポキシ樹脂、球状シリカ粉末および空孔の各体積占有率、球状シリカ粉末とエポキシ樹脂との体積比、および圧縮成形の狙い密度について、下記表4に示した(上記各材料の比重は試験Iと同じ)。
【0067】
そして、このサンプル63~67について、試験Iと同様の方法により曲げ強度の測定およびMSLテストを実施した。この試験結果も下記表4に示した。
【0068】
【表4】
【0069】
これらの試験結果から、金属磁性複合材料の熱硬化体の全体積に対する体積占有率としてエポキシ樹脂を20.0vol%以上とし、且つ、エポキシ樹脂の体積に対して、金属磁性粉末の1/10の平均粒子径(D50)である疎水化球状シリカ粉末の体積比を5.3vol%以上200.0vol%未満とすることにより、空孔の体積占有率が3.0vol%であっても、曲げ強度が高く且つMSLテストに耐えうる金属磁性複合材料の熱硬化体(磁性コア材、コイル部品)を得られることが明らかとなった。
【0070】
<試験V>
材料として、熱硬化型であり、常温で液状であるビスフェノール型の一液型エポキシ樹脂と、ゾルゲル法、火炎溶融法(合成シリカ粉末、天然鉱物シリカ粉末)、煙霧法のいずれかにより調製された球状シリカ粉末(ゾルゲル法は表面の疎水化処理無しの1種類、他は表面の疎水化処理有りまたは無しの2種類、平均粒子径(D50):0.1um)と、Fe-Si-Cr系の合金粉末である金属磁性粉末(平均粒子径(D50):10um)とを用意した。
そして、上記エポキシ樹脂に上記球状シリカ粉末を所定の体積比となるように混合分散し、さらに上記金属磁性粉末を所定の体積比となるように混合分散した。そして、混合撹拌することによってペースト状の配合物を得た(サンプル68~74)。これらを金属磁性複合材料とした。
【0071】
そして、上記各金属磁性複合材料を用いて、試験IVと同様の方法によりコイル部品および板状磁性コア材(サンプル68~74)を作製した。なお、ゾルゲル法により調製され、表面の疎水化処理された球状シリカ粉末を含むサンプルとして、試験Iのサンプル8のコイル部品および板状磁性コア材も用意した。
なお、サンプル68~74およびサンプル8の金属磁性複合材料の熱硬化体における、使用した球状シリカ粉末の調製法および疎水化処理の有無、全体積に対する金属磁性粉末、エポキシ樹脂、球状シリカ粉末および空孔の各体積占有率、球状シリカ粉末とエポキシ樹脂との体積比、および圧縮成形の狙い密度について、下記表5に示した(上記各材料の比重は試験Iと同じ)。
【0072】
そして、このサンプル68~74について、試験Iと同様の方法により曲げ強度の測定およびMSLテストを実施した。この試験結果および比較サンプルである試験Iのサンプル8の試験結果も下記表5に示した。
【0073】
【表5】
【0074】
これらの試験結果から、金属磁性複合材料に配合する球状シリカ粉末をゾルゲル法あるいは火炎溶融法により調製されたものとすることによって、空孔の体積占有率が3.0vol%であっても、曲げ強度が高く且つMSLテストに耐えうる熱硬化体を得ることができることが示された。また、この球状シリカ粉末の表面を疎水化処理することにより、より曲げ強度の高い金属磁性複合材料の熱硬化体(磁性コア材、コイル部品)を得られることが明らかとなった。
【0075】
以上より、エポキシ樹脂と、Fe-Si-Cr系合金粉末と、球状シリカ粉末とを含有し、熱硬化体の全体積に対するエポキシ樹脂の体積占有率を11.0vol%以上とし、空孔の体積占有率を10vol%以下とし、エポキシ樹脂の体積に対する球状シリカ粉末の体積の比率を5.3vol%以上200.0vol%未満とし、球状シリカ粉末の平均粒子径(D50)をFe-Si-Cr系合金粉末の平均粒子径(D50)の1/10以下とした金属磁性複合材料の熱硬化体とすることにより、空孔の体積占有率が低く、曲げ強度が非常に高く(曲げ強度比が1.90以上であり)且つMSLレベル1をクリアする磁性コア材やコイル部品を得られることが示された。
【0076】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)熱硬化性樹脂と、金属磁性材料が粉末化された金属磁性粉末と、非磁性無機材料が粉末化された非磁性無機粉末とを含有する金属磁性複合材料の熱硬化体であって、前記熱硬化体の全体積に対する前記熱硬化性樹脂の体積占有率が11.0vol%以上であり、前記熱硬化体の全体積に対する空孔の体積占有率が10.0vol%以下であり、前記熱硬化性樹脂の体積に対する前記非磁性無機粉末の体積の比率が5.0vol%以上200.0vol%未満であり、前記非磁性無機粉末の平均粒子径(D50)が前記金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の1/10以下である、金属磁性複合材料の熱硬化体。
(2)前記非磁性無機粉末が、表面が疎水化処理された疎水化非磁性無機粉末である、(1)に記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
(3)前記非磁性無機粉末が球状シリカ粉末である、(1)または(2)に記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
(4)前記球状シリカ粉末が、ゾルゲル法または溶融法により調製されたものである、(3)に記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
(5)前記熱硬化性樹脂がエポキシ系樹脂である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
(6)前記金属磁性粉末が、表面が絶縁処理された絶縁化金属磁性粉末である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の金属磁性複合材料の熱硬化体。
(7)コイルと、磁性コア材とを備えるコイル部品であって、前記磁性コア材の少なくとも一部が(1)~(6)のいずれか1つに記載の金属磁性複合材料の熱硬化体により構成されている、コイル部品。
(8)材料の合計体積に対する体積占有率が12.1vol%以上である熱硬化性樹脂と、金属磁性材料を粉末化した金属磁性粉末と、前記熱硬化性樹脂の体積に対する体積の比率が5.0vol%以上200.0vol%未満であり、且つ、平均粒子径(D50)が前記金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の1/10以下である、非磁性無機材料を粉末化した非磁性無機粉末と、溶剤と、を混合して金属磁性複合材料を得る材料調製工程と、前記金属磁性複合材料を、全体積に対する空孔の体積占有率が10.0vol%以下となるまで圧縮成形して金属磁性複合材料の成形体を得る圧縮成形工程と、前記成形体を熱硬化して金属磁性複合材料の熱硬化体を得る熱硬化工程と、を備える、金属磁性複合材料の熱硬化体の製造方法。
【符号の説明】
【0077】
11 コイルの巻回部
12 コイルの両端部
21 金型
22 金属磁性複合材料
32 磁性コア材(金属磁性複合材料の熱硬化体であるアウターコア材およびインナーコア材)
図1