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特許7415359硬化性組成物、接着構造体及び封止構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】硬化性組成物、接着構造体及び封止構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240110BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240110BHJP
   H01L 23/28 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08L101/00
C09J201/00
H01L23/28 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019141351
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021024890
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克彦
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/150727(WO,A1)
【文献】特開2003-346943(JP,A)
【文献】特開2001-219487(JP,A)
【文献】国際公開第2008/129749(WO,A1)
【文献】特開2008-080192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 18/00-18/87
C08G 59/00-59/72
C09J 9/00-201/10
C09J 1/00-5/10
C08F 6/00-246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の第一剤(2)と、
前記第一剤中に分散したマイクロカプセル(3)と、を有し、
前記マイクロカプセルは、
被膜(31)と、
前記被膜中に封入された液状の第二剤(32)と、を有し、
前記被膜は、前記第二剤に接触する第一層と、前記第一層上に積層された第二層と、を有しており、
前記第一層がゼラチンから構成されており、
前記第二層がアクリル樹脂、アミド樹脂及びメラミン樹脂のうち1種または2種以上の樹脂から構成されており、
前記マイクロカプセルの平均直径は0.1mm以上1.0mm以下であり、
前記マイクロカプセルの強度は15N以下であり、
前記第一剤と前記第二剤とが接触することによって硬化可能に構成されている、硬化性組成物(1)。
【請求項2】
前記被膜の質量は、前記マイクロカプセルの質量の30質量%以下である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記第二剤の粘度は200Pa・s以下である、請求項1または2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
第一被着体(41、411)と、
第二被着体(42、421)と、
前記第一被着体と前記第二被着体との間に介在し、両者を接着する接着材(43)と、を有し、
前記接着材は、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性組成物の硬化物(C)からなる、接着構造体(4)。
【請求項5】
被封止物(51、511)と、
前記被封止物を収容するケース(52)と、
前記ケース内に充填された注型材(53)と、を有し、
前記注型材は、請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化性組成物の硬化物(C)からなる、封止構造体(5)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、接着構造体及び封止構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性組成物は、例えば、電子機器の構成部品を接着するための接着材や、電子機器のケース内に配置された電子部品を被覆する注型材等の種々の用途に使用されている。この種の硬化性組成物としては、すべての成分が予め混合されている、いわゆる一液硬化型の硬化性組成物が知られている。
【0003】
近年、電子機器等の製造に要する時間を短縮して生産性を高めるため、硬化性組成物の硬化時間をより短縮することが望まれている。しかし、一液硬化型の硬化性組成物において硬化時間、つまり、硬化性組成物を塗布または注型した後、硬化反応が完了するまでの所要時間を短縮しようとすると、保存安定性が低下し、保管中に硬化しやすくなるおそれがある。それ故、一液硬化型の硬化性組成物においては、保存安定性の低下を抑制する観点から、硬化時間の短縮には限界がある。
【0004】
一方、ねじの緩み止め剤の分野において、1液硬化型の硬化性組成物における硬化剤等を被膜内に封入することにより、保存安定性を確保しつつ硬化時間を短縮する技術が提案されている。例えば特許文献1には、コアと、前記コアを被覆するシェルとを有するマイクロカプセル型硬化剤(a)、及びエポキシ樹脂(b)を含むエポキシ樹脂用硬化性組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-52051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のエポキシ樹脂用硬化性組成物は、マイクロカプセル型硬化剤から内包物であるコアを放出させるために、ねじを締め付ける際の軸力等の、比較的大きな外力を加える必要がある。そのため、特許文献1のエポキシ樹脂用硬化性組成物を電子機器等の組み立て作業に使用すると、組み立て作業中に、硬化性組成物に大きな外力を加えてマイクロカプセル型硬化剤からコアを放出させる必要があり、作業性の悪化を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、組み立て作業における作業性に優れた硬化性組成物、この硬化性組成物を用いた接着構造体及び封止構造体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、液状の第一剤(2)と、
前記第一剤中に分散したマイクロカプセル(3)と、を有し、
前記マイクロカプセルは、
被膜(31)と、
前記被膜中に封入された液状の第二剤(32)と、を有し、
前記被膜は、前記第二剤に接触する第一層と、前記第一層上に積層された第二層と、を有しており、
前記第一層がゼラチンから構成されており、
前記第二層がアクリル樹脂、アミド樹脂及びメラミン樹脂のうち1種または2種以上の樹脂から構成されており、
前記マイクロカプセルの平均直径は0.1mm以上1.0mm以下であり、
前記マイクロカプセルの強度は15N以下であり、
前記第一剤と前記第二剤とが接触することによって硬化可能に構成されている、硬化性組成物(1)にある。
【0009】
本発明の他の態様は、第一被着体(41、411)と、
第二被着体(42、421)と、
前記第一被着体と前記第二被着体との間に介在し、両者を接着する接着材(43)と、を有し、
前記接着材は、前記の態様の硬化性組成物の硬化物(C)からなる、接着構造体(4)にある。
【0010】
本発明のさらに他の態様は、被封止物(51、511)と、
前記被封止物を収容するケース(52)と、
前記ケース内に充填された注型材(53)と、を有し、
前記注型材は、請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化性組成物の硬化物(C)からなる、封止構造体(5)にある。
【発明の効果】
【0011】
前記硬化性組成物における第二剤は、マイクロカプセルの被膜に封入されている。また、マイクロカプセルの強度は前記特定の範囲内である。そのため、前記硬化性組成物は、例えば、被着体同士を張り合わせる際の押圧力や、塗布装置等のノズルから吐出する際のせん断力等の、接着構造体や封止構造体の組み立て作業において生じる外力によって、マイクロカプセルから第二剤を容易に放出することができる。それ故、前記硬化性組成物は、組み立て作業における作業性を向上させることができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、組み立て作業における作業性に優れた硬化性組成物、この硬化性組成物を用いた接着構造体及び封止構造体を提供することができる。なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態1における硬化性組成物を模式的に示した説明図である。
図2図2は、実施形態2における接着構造体の要部を模式的に示した断面図である。
図3図3は、実施形態3における封止構造体の要部を模式的に示した断面図である。
図4図4は、実験例における、接着試験の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
前記硬化性組成物に係る実施形態について、図1を参照して説明する。図1に示すように、硬化性組成物1は、液状の第一剤2と、第一剤2中に分散したマイクロカプセル3と、を有している。マイクロカプセル3は、被膜31と、被膜31中に封入された液状の第二剤32と、を有している。マイクロカプセル3の強度は15N以下である。また、硬化性組成物1は、第一剤2と第二剤32とが接触することによって硬化可能に構成されている。
【0015】
硬化性組成物1においては、マイクロカプセル3の強度を15N以下とすることにより、被着体同士を張り合わせる作業や、塗布装置等のノズルから硬化性組成物1を吐出する作業等においてマイクロカプセル3から第二剤32を容易に放出させることができる。これにより、硬化反応を進行させ、硬化性組成物1を硬化させることができる。
【0016】
なお、硬化性組成物1中には、前述した作用効果を損なわない範囲であれば、強度が15Nよりも高いマイクロカプセル3が含まれていてもよい。マイクロカプセル3から第二剤32を容易に放出させるという作用効果をより確実に奏する観点からは、硬化性組成物1中に含まれるマイクロカプセル3の強度の最大値が15N以下であることが好ましい。すなわち、硬化性組成物1中に、強度が15Nよりも高いマイクロカプセル3が含まれていないことが好ましい。
【0017】
硬化性組成物1中に含まれるマイクロカプセル3の強度は、以下の方法により測定することができる。まず、硬化性組成物1から第一剤2から第二剤32が封入されたマイクロカプセル3を取り出す。より具体的には、硬化性組成物1を顕微鏡等で観察しながらピンセット等を用いてマイクロカプセル3を採取すればよい。次に、テクスチャーアナライザ等の装置を用い、マイクロカプセル3を圧縮する。この圧縮試験によって得られる荷重変位曲線、つまり、プローブの変位を横軸に表し、プローブに加わる荷重を縦軸に表した曲線における最大荷重をマイクロカプセル3の強度とする。
【0018】
マイクロカプセル3の平均直径は0.1mm以上1.0mm以下である。この場合には、被着体同士を張り合わせる作業や、塗布装置等のノズルから吐出する作業等において、マイクロカプセル3により確実に外力を加えることができる。その結果、マイクロカプセル3から第二剤32をより容易に放出させることができる。
【0019】
マイクロカプセル3の平均直径は、以下の方法により算出することができる。すなわち、顕微鏡等を用いて硬化性組成物1を観察し、視野内に存在するマイクロカプセル3の直径を測定する。そして、得られたマイクロカプセル3の直径の算術平均を、マイクロカプセル3の平均直径とする。直径を測定するマイクロカプセル3の数は特に限定されることはないが、マイクロカプセル3の数を多くするほど、より正確な平均直径を算出することができる。かかる観点からは、20個以上のマイクロカプセル3の直径を測定し、これらの算術平均をマイクロカプセル3の平均直径とすることが好ましい。
【0020】
硬化性組成物1中に含まれるマイクロカプセル3の量は、第一剤2及び第二剤32の組成に応じて適宜設定することができる。例えば、マイクロカプセル3の量は、硬化性組成物1全体の質量、つまり、第一剤2と、マイクロカプセル3との合計の質量の50質量%以下であってもよい。この場合には、第一剤2と第二剤32との混合比をより容易に適正な範囲に調整することができる。
【0021】
また、マイクロカプセル3の量は、硬化性組成物1全体の質量の5質量%以上50質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。この場合には、第二剤32の分布の偏りをより低減し、第一剤2と第二剤32とをより均一に混合することができる。その結果、硬化物の物性のバラつきをより低減することができる。
【0022】
マイクロカプセル3は、被膜31と、被膜31に封入された第二剤32と、を有している
【0023】
膜31は、第二剤32と接触する第一層と、第一層上に積層された第二層との2層以上の層を有している。この場合、各層を構成する物質は、同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。このような2層以上の層を有する被膜31によれば、被膜31全体の厚みのバラつきやピンホールなどの欠陥の発生をより効果的に抑制することができる。そのため、マイクロカプセル3から第二剤32が意図せず放出することをより効果的に抑制し、硬化性組成物1の保存安定性をより高めることができる。
【0024】
被膜31の質量は、マイクロカプセル3の質量の30質量%以下であることが好ましい。この場合には、マイクロカプセル3中の第二剤32の割合をより多くし、第一剤2と第二剤32との比率をより容易に適正な範囲に調整することができる。
【0025】
また、被膜31の質量は、マイクロカプセル3の質量の3質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。この場合には、被膜31全体の厚みのバラつきやピンホールなどの欠陥の発生をより効果的に抑制することができる。その結果、マイクロカプセル3から第二剤32が意図せず放出されることをより効果的に抑制し、硬化性組成物1の保存安定性をより高めることができる。
【0026】
被膜31の材質は、マイクロカプセル3を作製することができる材質であれば、特に限定されることはない。被膜31は、例えば、ゼラチン、アクリル樹脂、アミド樹脂及びメラミン樹脂のうち1種または2種以上から構成されていてもよい。
【0027】
硬化性組成物1は、マイクロカプセル3から第二剤32を放出し、第一剤2と第二剤32とを接触させることによって硬化反応を進行させることができるように構成されている。硬化反応に関与する成分は、硬化物の種類に応じて異なっている。それ故、第一剤2中に含まれる成分及び第二剤32中に含まれる成分は、硬化物の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0028】
例えば、硬化性組成物1が、主剤と硬化剤、または主剤と反応開始剤等の、2種の成分が硬化反応に関与する硬化物を形成することができるように構成されている場合、第一剤2及び第二剤32のうちいずれか一方に主剤を配合し、他方に硬化剤または反応開始剤を配合すればよい。
【0029】
この種の硬化物としては、アクリル樹脂を例示することができる。
【0030】
硬化性組成物1がアクリル樹脂を形成可能に構成されている場合、主剤としては、(メタ)アクリレートモノマー及び(メタ)アクリレートオリゴマー等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
また、反応開始剤としては、ヒドロシリル基を有する化合物、酸無水基を有する化合物、チオール基を有する化合物、アミド基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物、イミダゾール基を有する化合物、シラノール基を有する化合物、金属キレート化合物、カルボジイミド、アジリジン及びアルコキシシラノール等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
硬化性組成物1が、主剤と硬化剤と触媒、または、主剤と硬化剤と硬化促進剤等の、3種の成分が硬化反応に関与する硬化物を形成することができるように構成されている場合、これら3成分のうち2種以上の成分が、第一剤2及び第二剤32のうちいずれか一方のみに配合されていればよい。すなわち、例えば、硬化性組成物1は、3成分のうち1種または2種が第一剤2に含まれており、3成分のうち第一剤2に含まれない成分が第二剤32に含まれた構成とすることができる。また、硬化性組成物1は、3成分のうち2種が第一剤2に含まれており、第二剤32に、第一剤2に含まれていない成分と、第一剤2に含まれる2種の成分のうちいずれか一方の成分とが含まれた構成とすることができる。
【0033】
この種の硬化物としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びシリコーン樹脂等を例示することができる。
【0034】
硬化性組成物1がウレタン樹脂を形成可能に構成されている場合、主剤としては、ポリオール等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、硬化剤としては、ジイソシアネート、トリイソシアネート及びポリイソシアネート等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、触媒としては、金属キレート化合物及び金属アルコキシド等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
硬化性組成物1がエポキシ樹脂を形成可能に構成されている場合、主剤としては、エポキシモノマー及びエポキシプレポリマー等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、チオール系硬化剤、ジシアンジアミド、ポリアミド系硬化剤等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、硬化促進剤としては、イミダゾール系硬化促進剤等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
硬化性組成物1がシリコーン樹脂を形成可能に構成されている場合、主剤としては、ビニル基含有オルガノポリシロキサン等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、硬化剤としては、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、つまり、Si-H基を有するオルガノポリシロキサン等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、触媒としては、白金触媒等を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前述した各成分のうち、主剤は第一剤2に含まれていることが好ましく、反応開始剤、硬化剤、硬化促進剤及び触媒は、第二剤32に含まれていることが好ましい。主剤は、通常、硬化剤等に比べて化学的に安定であり、大気中の水分や酸素等との反応が起こりにくい。そのため、大気と接触し得る第一剤2中に主剤を配合し、これ以外の成分を第二剤32に配合することにより、硬化性組成物1の保存安定性をより高めることができる。
【0038】
また、硬化性組成物は、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、消泡剤、レベリング剤、着色料、充填材等の、硬化反応に関与しない成分を含んでいてもよい。これらの硬化反応に関与しない成分は、第一剤に含まれていてもよいし、第二剤に含まれていてもよい。また、硬化反応に関与しない成分を、第一剤及び第二剤の両方に配合することもできる。
【0039】
硬化性組成物1において、第二剤32の粘度は200Pa・s以下であることが好ましく、200Pa・s以下であることがより好ましく、10Pa・s以下であることがさらに好ましい。この場合には、マイクロカプセル3から放出された第二剤32が第一剤2とより混合されやすくなる。その結果、硬化物の物性のバラつきをより低減することができる。
【0040】
硬化性組成物1における第一剤2の粘度は、第二剤32の粘度の1/10倍以上10倍以下であることが好ましい。この場合には、マイクロカプセル3から放出された第二剤32が第一剤2とより混合されやすくなる。その結果、硬化物の物性のバラつきをより低減することができる。同様の観点から、第一剤2の粘度は、第二剤32の粘度の1/3倍以上3倍以下であることがより好ましく、0.5倍以上1.5倍以下であることがさらに好ましい。なお、前述した第一剤2及び第二剤32の粘度は23℃における値である。また、第一剤2及び第二剤32の粘度は、例えば、B型粘度計等を用いて測定することができる。
【0041】
硬化性組成物1の第二剤32は、前述したようにマイクロカプセル3の被膜31に封入されている。また、マイクロカプセル3の強度は前記特定の範囲内である。そのため、硬化性組成物1は、例えば、被着体同士を張り合わせる際の押圧力や、塗布装置等のノズルから吐出する際のせん断力等の、電子機器の組み立て作業において生じる外力によって、マイクロカプセル3から第二剤32を容易に放出することができる。それ故、硬化性組成物1は、組み立て作業における作業性を向上させることができる。
【0042】
また、硬化性組成物1は、第二剤32が放出されるまでの間は第一剤2と第二剤32とが被膜31によって隔てられているため、硬化反応の進行を防止することができる。そして、マイクロカプセル3から第二剤32を放出することによって初めて第一剤2と第二剤32とを接触させ、硬化反応を開始させることができる。それ故、硬化性組成物1は、保存安定性を確保しつつ、硬化時間を容易に短縮することができる。従って、前記硬化性組成物1を用いることにより、組み立て作業における生産性を向上させる効果も期待することができる。
【0043】
(実施形態2)
本実施形態では、実施形態1の硬化性組成物1を用いて作製された接着構造体4を説明する。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0044】
本実施形態の接着構造体4は、図2に示すように、第一被着体41と、第二被着体42と、第一被着体41と第二被着体42との間に介在し、両者を接着する接着材43と、を有している。そして、接着材43は、硬化性組成物1の硬化物Cより構成されている。
【0045】
接着構造体4における第一被着体41及び第二被着体42は、特に限定されることはない。例えば、第一被着体41としての電子部品44と、第二被着体42としてのケースとを接着材43を介して接着することにより、接着構造体4としての電子機器を構成することができる。電子部品44としては、例えば、回路基板やセンサ素子、半導体素子等を使用することができる。
【0046】
本形態の接着構造体4は、図2に示すように、第一被着体41としてのケース本体411と、第二被着体42としての蓋体421とを有している。ケース本体411は、有底箱状を呈しており、開口412の端縁から外方に向かって延出したフランジ部413を有している。蓋体421は、フランジ部413及びケースの開口412を覆うように配置されている。そして、フランジ部413と蓋体421との間には、フランジ部413の全周に亘って配置された接着材43が介在している。このように構成された接着構造体4の内部に電子部品44を配置することにより、電子機器を構成することができる。
【0047】
本実施形態の接着構造体4は、例えば以下のようにして作製することができる。まず、ケース内に電子部品44を配置した後、ディスペンサー等を用いてフランジ部413の全周に亘って硬化性組成物1を塗布する。
【0048】
この際、第二剤32がマイクロカプセル3の被膜31内に封入された状態が維持されるようにして硬化性組成物1を塗布してもよい。硬化性組成物1に含まれるマイクロカプセル3の強度は15N以下である。そのため、蓋体421をケース本体411上に載置する作業において、蓋体421を手作業でケース本体411に押し付ける程度の荷重を加えることにより、マイクロカプセル3から第二剤32を容易に放出させることができる。それ故、この場合には、蓋体421をケース本体411上に載置する作業と同時に第一剤2と第二剤32とを接触させ、硬化反応を開始させることができる。その後、必要に応じて加熱などの処理を行い、硬化性組成物1を完全に硬化させることにより、接着構造体4を得ることができる。
【0049】
また、図には示さないが、硬化性組成物1を塗布する際のノズルの圧力を高める、あるいは吐出速度を高めるなどの方法により、硬化性組成物1中のマイクロカプセル3にせん断力を加え、マイクロカプセル3から第二剤32を放出させてもよい。この場合、硬化性組成物1の吐出と同時に第一剤2と第二剤32とを接触させ、フランジ部413上で硬化性組成物1の硬化反応を開始させることができる。そのため、硬化性組成物1を塗布した後、硬化反応が完了する前に蓋体421をケース本体411上に載置することにより、接着構造体4を得ることができる。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、接着構造体4の組み立て作業における作業性を向上させることができる。
【0051】
(実施形態3)
本実施形態では、実施形態1の硬化性組成物1を用いて作製された封止構造体5を説明する。本形態の封止構造体5は、図3に示すように、被封止物51と、被封止物51を収容するケース52と、ケース52内に充填された注型材53と、を有している。そして、注型材53は、硬化性組成物1の硬化物Cから構成されている。
【0052】
封止構造体5における被封止物51は、特に限定されることはない。例えば、被封止物51は、センサや回路基板などの電子部品であってもよい。これらの電子部品をケース52内に配置した後、ケース52内に注型材53を充填することにより、電子機器を構成することができる。
【0053】
例えば、本実施形態の封止構造体5におけるケース52は、図4に示すように有底箱状を呈しており、その一面が開口している。被封止物51としての電子部品511は、ケース52内に収容されている。また、ケース52内には注型材53が充填されており、電子部品511の全面が注型材53により被覆されている。なお、図には示さないが、電子部品511は、注型材53の外部に突出し、電子機器の周辺機器と電気的に接続するための配線や端子等を有していてもよい。
【0054】
本実施形態の封止構造体5は、例えば以下のようにして作製することができる。まず、ケース52内に電子部品511を収容した後、ケース52内に硬化性組成物1を注入する。この際、硬化性組成物1を塗布する際のノズルの圧力を高める、あるいは吐出速度を高めるなどの方法により、硬化性組成物1中のマイクロカプセル3に外力を加え、マイクロカプセル3から第二剤32を放出させることができる。その後、電子部品511の全面が硬化性組成物1により被覆された後、硬化性組成物1の注入を停止する。そして、必要に応じて加熱などの処理を行い、硬化性組成物1を完全に硬化させることにより封止構造体5を得ることができる。
【0055】
(実験例)
本例では、種々の構成を有する硬化性組成物1を作製し、接着特性の評価を行った。本例において作成した硬化性組成物1(試験剤T1~試験剤T5)の構成を以下に説明する。
【0056】
・試験剤T1
試験剤T1は、シリコーン樹脂を形成可能に構成された硬化性組成物1である。試験剤T1の第一剤2には、主剤としてのビニル基含有オルガノポリシロキサンと、硬化剤としての多官能オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、シランカップリング剤と、充填材とが含まれている。第一剤2の23℃における粘度は40Pa・sである。
【0057】
第一剤2中には、ゼラチンからなる被膜31と、被膜31中に封入された第二剤32とを備えたマイクロカプセル3が分散している。マイクロカプセル3の直径は0.2mm以上0.5mm以下の範囲内である。試験剤T1の質量、つまり、第一剤2とマイクロカプセル3との合計質量に対するマイクロカプセル3の含有量の比率は10質量%である。また、マイクロカプセル3の質量に対する被膜31の質量の比率は8質量%である。
【0058】
第二剤32には、白金触媒と主剤としてのビニル基含有オルガノポリシロキサンとが含まれている。第二剤32の23℃における粘度は40Pa・sである。
【0059】
テクスチャーアナライザを用いて試験剤T1から採取したマイクロカプセル3の強度を測定したところ、マイクロカプセル3の強度の平均値は0.35Nであった。
【0060】
・試験剤T2
試験剤T2は、シリコーン樹脂を形成可能に構成された硬化性組成物1である。試験剤T2の第一剤2及び第二剤32は、それぞれ、試験剤T1の第一剤2及び第二剤32と同一である。
【0061】
第一剤2中には、ゼラチンからなる被膜31と、被膜31中に封入された第二剤32とを備えたマイクロカプセル3が分散している。マイクロカプセル3の直径は0.2mm以上0.5mm以下の範囲内である。試験剤T2の質量に対するマイクロカプセル3の含有量の比率は10質量%である。また、マイクロカプセル3の質量に対する被膜31の質量の比率は13質量%である。
【0062】
テクスチャーアナライザを用いて試験剤T2から採取したマイクロカプセル3の強度を測定したところ、マイクロカプセル3の強度の平均値は0.51Nであった。
【0063】
・試験剤T3
試験剤T3は、シリコーン樹脂を形成可能に構成された硬化性組成物1である。試験剤T3の第一剤2及び第二剤32は、それぞれ、試験剤T1の第一剤2及び第二剤32と同一である。
【0064】
第一剤2中には、被膜31と、被膜31中に封入された第二剤32とを備えたマイクロカプセル3が分散している。マイクロカプセル3の直径は0.2mm以上0.5mm以下の範囲内である。試験剤T3の質量に対するマイクロカプセル3の含有量の比率は10質量%である。
【0065】
試験剤T3におけるマイクロカプセル3の被膜31は、ゼラチンからなり第二剤32に接触する第一層と、アクリル樹脂からなり第一層上に積層された第二層とを有している。マイクロカプセル3の質量に対する被膜31の質量の比率は15質量%である。また、被膜31におけるゼラチンとアクリル樹脂との質量比は、ゼラチン:アクリル樹脂=2:1である。
【0066】
テクスチャーアナライザを用いて試験剤T3から採取したマイクロカプセル3の強度を測定したところ、マイクロカプセル3の強度の平均値は0.93Nであった。
【0067】
・試験剤T4
試験剤T4は、シリコーン樹脂を形成可能に構成された硬化性組成物1である。試験剤T4の第一剤2には、主剤としてのビニル基含有オルガノポリシロキサンと、硬化剤としての多官能オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、シランカップリング剤と、充填材とが含まれている。第一剤2の23℃における粘度は1Pa・sである。
【0068】
第一剤2中には、アクリル樹脂からなる被膜31と、被膜31中に封入された第二剤32とを備えたマイクロカプセル3が分散している。マイクロカプセル3の直径は0.2mm以上0.5mm以下の範囲内である。試験剤T4の質量に対するマイクロカプセル3の含有量の比率は10質量%である。また、マイクロカプセル3の質量に対する被膜31の質量の比率は30質量%である。
【0069】
第二剤32には、白金触媒と主剤としてのビニル基含有オルガノポリシロキサンとが含まれている。第二剤32の23℃における粘度は1Pa・sである。
【0070】
テクスチャーアナライザを用いて試験剤T4から採取したマイクロカプセル3の強度を測定したところ、マイクロカプセル3の強度の平均値は10Nであった。
【0071】
・試験剤T5
試験剤T5は、シリコーン樹脂を形成可能に構成された硬化性組成物1である。試験剤T5の第一剤2には、主剤としてのビニル基含有オルガノポリシロキサンと、硬化剤としての多官能オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、シランカップリング剤と、充填材とが含まれている。第一剤2の23℃における粘度は200Pa・sである。
【0072】
第一剤2中には、メラミン樹脂からなる被膜31と、被膜31中に封入された第二剤32とを備えたマイクロカプセル3が分散している。マイクロカプセル3の直径は0.125mm以下である。試験剤T5の質量に対するマイクロカプセル3の含有量の比率は10質量%である。また、マイクロカプセル3の質量に対する被膜31の質量の比率は70質量%である。
【0073】
第二剤32には、白金触媒と主剤としてのビニル基含有オルガノポリシロキサンとが含まれている。第二剤32の23℃における粘度は200Pa・sである。
【0074】
テクスチャーアナライザを用いて試験剤T5から採取したマイクロカプセル3の強度を測定したところ、マイクロカプセル3の強度は100N以上であった。
【0075】
以上の試験剤T1~試験剤T5を用い、JIS K6850:1999の規定に準じた方法により引張せん断接着強さ試験を行った。具体的には、まず、被着材として、幅25mm、長さ100mmの一般用冷間圧延鋼板(つまり、SPCC)を準備した。2枚の被着材のうち一方の被着材の長手方向の端部に試験剤を塗布した。次いで、他方の被着材の長手方向の端部を試験剤に重ね合わせた。重ね合わせ部の面積は、幅25mm、長さ10mmとした。
【0076】
その後、重ね合わせ部を被着材の積層方向に押圧したまま、室温環境下で1日間静置して試験片を作製した。この際、重ね合わせ部に加える荷重は100Nとした。そして、被着材同士の重ね合わせ部に100Nの荷重を加えた時点から、被着材同士が試験剤を介して接着されるまでの経過時間を測定した。その結果を表1及び図4に示す。なお、図4の縦軸は試験剤を介して接着されるまでの経過時間(時間)の常用対数であり、横軸はマイクロカプセル3の強度の常用対数である。試験剤T5については、1日経過した時点で試験剤が硬化しなかったため、図4への記載を割愛した。
【0077】
また、試験剤T1~試験剤T4については、重ね合わせ部に100Nの荷重を加えた時点から1日経過した後、引張せん断接着試験を行った。試験剤T1~試験剤T4の引張せん断接着強さは、表1に示した通りである。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示したように、試験剤T1~試験剤T4は、マイクロカプセル3の強度が前記特定の範囲内であるため、100N程度の荷重によってマイクロカプセル3から第二剤32を放出させ、被着体同士を接着することができた。
【0080】
これに対し、試験剤T5は、マイクロカプセル3の強度が前記特定の範囲よりも高いため、100N程度の荷重ではマイクロカプセル3から第二剤32を放出させることができなかった。
【0081】
以上の結果から、第一剤2と、第一剤2中に分散したマイクロカプセル3と、を有する硬化性組成物1において、第二剤32が封入されたマイクロカプセル3の強度を前記特定の範囲内とすることにより、組み立て作業における作業性に優れた硬化性組成物1が得られることが理解できる。
【0082】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1 硬化性組成物
2 第一剤
3 マイクロカプセル
31 被膜
32 第二剤
図1
図2
図3
図4