(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】誘導炉
(51)【国際特許分類】
F27B 14/06 20060101AFI20240110BHJP
F27D 11/06 20060101ALI20240110BHJP
H05B 6/24 20060101ALI20240110BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F27B14/06
F27D11/06 A
H05B6/24
H05B6/36 F
(21)【出願番号】P 2019142468
(22)【出願日】2019-08-01
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増井 秀好
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-092566(JP,A)
【文献】実開昭62-29098(JP,U)
【文献】特開昭62-252091(JP,A)
【文献】特開平04-021509(JP,A)
【文献】特開2008-256233(JP,A)
【文献】特開2000-241080(JP,A)
【文献】実開昭52-103444(JP,U)
【文献】実公昭55-012398(JP,Y2)
【文献】特開昭48-036213(JP,A)
【文献】特開平07-260362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 14/00-14/20
F27D 11/00-11/12
H05B 6/24
H05B 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱材を収納するるつぼと、
前記るつぼの外周に巻回され、絶縁被覆を有するコイルと、
前記コイルの外周面を覆う導電層と、
前記導電層を介して前記コイルを外周側から保持する継鉄と、
を備え、
前記導電層および前記継鉄は接地されて
おり、
前記導電層は導電性樹脂または導電性接着剤であり、前記コイルの絶縁被覆と密着していることを特徴とする誘導炉。
【請求項2】
被加熱材を収納するるつぼと、
前記るつぼの外周に巻回され、絶縁被覆を有するコイルと、
前記コイルの外周面を覆う導電層と、
前記導電層を介して前記コイルを外周側から保持する継鉄と、
を備え、
前記導電層および前記継鉄は接地されて
おり、
前記導電層と前記コイルとの間には絶縁シートが設けられていることを特徴とする誘導炉。
【請求項3】
前記導電層と前記継鉄の間に導電性の緩衝材を備え、
前記導電層は、前記緩衝材および前記継鉄を介して接地されていることを特徴とする請求項1
または2に記載の誘導炉。
【請求項4】
前記コイルの導線は断面が角型であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の誘導炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、るつぼで被加熱材を加熱する誘導炉に関する。
【背景技術】
【0002】
るつぼの外周にコイルが巻回された誘導炉が知られている。コイルには高周波で高電圧の交流が印加されて電磁誘導を発生させ、るつぼに収容された被加熱材の内部に渦電流を生じさせ効率良く熔解させることができる。被加熱材は例えば金属溶融である。るつぼは金属溶融以外への熱伝導を抑制している。コイルは絶縁被覆や絶縁板などの絶縁物で絶縁されている。
【0003】
このような誘導炉としては、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。特許文献1に記載の誘導炉は、真空容器中で使用される小型のものである。一方、大型の誘導炉の場合にはコイルを外周側から保持するために継鉄が用いられる。継鉄は接地されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
誘導炉は一層の大容量化および高効率化が望まれている。高効率化を実現するためには、コイルの印加電圧を上昇させてその分電流を低下させればコイルの発熱を抑制させることができて好適である。
【0006】
コイルに印加できる電圧はコイルの絶縁物の性能と厚みとによってほぼ決まる。しかしながら従来の構成では、良質の絶縁物を相当に厚く形成しても、絶縁物の端部や継鉄の端部に電界集中が発生している。このため、コイルの印加電圧が過大であると継鉄とコイルとの間で部分放電が発生して絶縁物が劣化し全路破壊が発生する懸念がある。本願発明者の実験によれば10kV以上の電圧をコイルに印加するとこのような放電が発生する可能性がある。したがって、従来の誘導炉ではコイル印加電圧が概ね5kV程度に制限されており、一層の高圧化が望まれている。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、コイルに対する印加電圧を一層上昇させることのできる誘導炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる誘導炉は、被加熱材を収納するるつぼと、前記るつぼの外周に巻回され、絶縁被覆を有するコイルと、前記コイルの外周面を覆う導電層と、前記導電層を介して前記コイルを外周側から保持する継鉄と、を備え、前記導電層および前記継鉄は接地されていることを特徴とする。
【0009】
前記導電層は導電性樹脂または導電性接着剤であり、前記コイルの絶縁被覆と密着していてもよい。
【0010】
前記導電層と前記コイルとの間には絶縁シートが設けられていてもよい。
【0011】
前記導電層と前記継鉄の間に導電性の緩衝材を備え、前記導電層は、前記緩衝材および前記継鉄を介して接地されていてもよい。
【0012】
前記コイルの導線は断面が角型であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる誘導炉は、コイルの絶縁被覆に加わる電界を均一化させて部分放電の発生を抑制することができる。これによりコイルに対する印加電圧を一層上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施の形態にかかる誘導炉を示す側面模式断面図である。
【
図3】
図3は、コイルおよびその周辺部の一部拡大断面図である。
【
図4】
図4は、誘導炉における継鉄の周辺で発生する電界強度の解析結果を示す図であり、(a)は比較例1にかかる誘導炉における電界強度の解析結果を示す図であり、(b)は比較例2にかかる誘導炉における電界強度の解析結果を示す図であり、(c)は実施形態と類似の誘導炉における電界の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明にかかる誘導炉の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態である誘導炉10を示す側面模式断面図であり、
図2は、誘導炉10の模式平面図である。
【0017】
図1および
図2に示すように、誘導炉10は、被加熱材12を収納するるつぼ14と、るつぼ14の外周に巻回された誘導加熱用のコイル16と、コイル16の外周を覆う導電層18と、導電層18の外周を覆う緩衝材20と、導電層18および緩衝材20を介してコイル16を外周側から保持する継鉄22とを備える。るつぼ14、コイル16、導電層18、緩衝材20および継鉄22は下部キャスタブル24の上に設置されている。誘導炉10は全体が導電性の筐体26で覆われており、該筐体26はアース線28で接地されている。継鉄22は筐体26と接しており、該筐体26を介して接地されている。また、後述するように、導電層18は緩衝材20および継鉄22を介して接地されている。筐体26は破線で示している。
【0018】
誘導炉10は大型であり、コイル16を保持するために継鉄22が設けられている。ただし、誘導炉10の構造を小型のものに適用してもよい。誘導炉10は全体を傾斜させることにより、るつぼ14内の被加熱材12の取出しが可能である。誘導炉10は空気中に設置される。誘導炉10は、交番磁界中に溶解される被加熱材12を収容し、電磁誘導によって被加熱材に渦電流を流して誘導加熱し熔解し金属溶湯を得る。
【0019】
導電層18はコイル16の下端部から上端部まで外側の全周を覆う。導電層18は、例えばカーボンなどを含む導電性樹脂または導電性接着剤であり、コイル16の導線30(
図3参照)とほぼ隙間なく密着している。また、導電性樹脂として導電性シリコーンゴムなどの軟質導電性樹脂を使用することでコイル16の動き(始動時の振動など)に追従することができる。導電層18はコイル16の外側に設けられており、内側には設けられていない。コイル16の内側では放電がほとんど発生しないためである。
【0020】
導電層18によれば、コイル16の絶縁被覆30b(
図3参照)に加わる電界を均一化し、部分放電の発生を抑制することができる。これにより、誘導炉10の高耐圧化・高寿命化を実現することができる。
【0021】
緩衝材20はコイル16から継鉄22に伝わる振動を吸収および緩和する。緩衝材20はカーボンなどを含んで導電性を有している。緩衝材20は、導電層18と継鉄22の間に設けられていて導電層18と継鉄22とを導通する。したがって、導電層18は緩衝材20および継鉄22を介して接地される。
【0022】
継鉄22は、略角柱形状であって緩衝材20の周りに複数設けられる。継鉄22はるつぼ14の膨張力に対してコイル16を側方から支える機能を有する。継鉄22は筐体26に溶接されており導通がある。
【0023】
図3は、コイル16およびその周辺部の一部拡大断面図である。
図3に示すように、コイル16は、るつぼ14の外周を導線30が螺旋状に巻回して形成されている。導線30は、導体部30aと、該導体部30aの外側を覆う絶縁被覆30bとを有する。導体部30aの内部には冷媒路30cが形成されている。導線30は断面が角型(平角型、真四角型を含む)であって、隣接するターン同士の面が接するように密に巻回されている。したがって、導線30の隣接するターン同士の隙間がほとんどないため導体部30aの占める面積割合が大きく、抵抗が小さくなり発熱が少ない。また、その分電流値を大きくすることができるため、所定出力あたりのサイズを小型化することができる。さらに、分布容量が減少しコイル16全体の浮遊容量が小さくなるという利点がある。
【0024】
さらにまた、導線30が角型であることにより、コイル16の内周面および外周面がほとんど凹凸のない滑らかな曲面となる。特に、外周面に凹凸がほとんどないことにより、電界集中を抑制し、継鉄22との間で放電が発生することを抑制できる。
【0025】
図3に示すように、導電層18はコイル16の絶縁被覆30bと密着しており、汚損防止および電界集中を抑制することができる。また、導電層18は導電性樹脂または導電性接着剤であることから絶縁被覆と密着させることが容易であり、また鉄板と較べて軽量である。
【0026】
また、緩衝材20は内周面が導電層18に接し、外周面が継鉄22に接している。したがって、導電層18は緩衝材20および継鉄22を介して接地されており、導電層18の専用の接地手段が不要である。ただし、導電層18は緩衝材20および継鉄22とは別に接地されていてもよい。
【0027】
図4は、誘導炉における継鉄22の周辺で発生する電界強度の解析結果を示す図であり、(a)は比較例1にかかる誘導炉500Aにおける電界強度の解析結果を示す図であり、(b)は比較例2にかかる誘導炉500Bにおける電界強度の解析結果を示す図であり、(c)は誘導炉10Aにおける電界の解析結果を示す図である。誘導炉10Aは上記の実施形態にかかる誘導炉10と類似の構成である。
図4における濃淡地の部分は電界強度を示し、濃淡地が濃い箇所ほど電界強度が強く、薄い箇所ほど電界強度が弱い。コイル16に高周波・高電圧の交流を印加し、継鉄22は接地されている条件とし、コンピュータにより解析した。
【0028】
図4(a)に示すように、誘導炉500Aは継鉄22とコイル16との間に円弧状の絶縁シート32を設けたものである。従来、継鉄22の周方向端部22aは電界が集中しやすいと考えられている箇所である。
【0029】
絶縁シート32はコイル16の外周に沿って継鉄22との間に設けられている。絶縁シート32は継鉄22よりも周方向にやや長くなっている。コイル16は表面に防塵ガラステープが設けられている条件とした。絶縁シート32はマイカシートの条件にした。この誘導炉500Aにおいては、周方向端部22aの箇所はコイル16に対して絶縁シート32によって遮られている。しかしながら解析の結果からは、絶縁シート32の周方向端部32aとコイル16との隙間部分には強い電界集中が生じており、継鉄22の周方向端部22aの周辺にもやや高い電界集中が生じていることが分かる。このような強い電界が生じている箇所では放電が発生する懸念がある。
【0030】
図4(b)に示すように、誘導炉500Bはコイル16の全外周を絶縁シート32で覆ったものである。絶縁シート32の材質および厚みは誘導炉500Aの場合と同様である。解析の結果、誘導炉500Bの場合、誘導炉500Aと同様の2か所に電界集中が生じていることが分かる。この場合も放電が発生する可能性がある。
【0031】
図4(c)に示すように、誘導炉10Aは導電層18aを有する。導電層18aは上記の導電層18に対応する。ここでは、解析の都合により導電層18aは鉄板とし、該導電層18aが継鉄22と接触することでコイル16の全周を覆う形となっている。また、コイル16の変形を吸収するために該コイル16との間に隙間を設けている。さらに、比較例にかかる誘導炉500Bと同じ条件とするために導電層18aとコイル16との間には絶縁シート32を設けている。解析の結果、誘導炉10Aでは電界集中は認められず、放電が発生する可能性は極めて低いことが分かる。また、この解析の結果から上記の誘導炉10においても放電が発生する可能性は極めて低いと考えることができる。
【0032】
上述したように、本実施の形態にかかる誘導炉10,10Aでは、コイル16の絶縁被覆30bに加わる電界を均一化させて部分放電の発生を抑制することができる。これによりコイル16に対する印加電圧を一層上昇させ、誘導炉10のエネルギー効率を一層上昇させることができる。本願発明者の解析によれば、誘導炉10、10Aは、例えば15kVでの使用が可能である。
【0033】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
10,10A 誘導炉
12 被加熱材
14 るつぼ
16 コイル
18,18a 導電層
20 緩衝材
22 継鉄
24 下部キャスタブル
26 筐体
28 アース線
30 導線
30a 導体部
30b 絶縁被覆
32 絶縁シート