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特許7415380タイヤ側装置およびそれを含む路面状態判別装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】タイヤ側装置およびそれを含む路面状態判別装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/06 20120101AFI20240110BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B60W40/06
B60C19/00 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019161332
(22)【出願日】2019-09-04
(65)【公開番号】P2021037884
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋一朗
(72)【発明者】
【氏名】関澤 高俊
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221578(WO,A1)
【文献】特開2018-184101(JP,A)
【文献】特開2019-070626(JP,A)
【文献】特開2019-081530(JP,A)
【文献】特開2019-089532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
G08G 1/00 - 99/00
B60C 1/00 - 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えられるタイヤ(3)に取り付けられ、前記車両の走行路面の路面状態を判別するタイヤ装置に用いられるタイヤ側装置であって、
前記タイヤの振動の大きさに応じた検出信号を出力する振動検出部(10)と、
前記タイヤの1回転中における前記検出信号の特徴量を抽出する特徴量抽出部(11a)を有する制御部(11)と、
前記特徴量抽出部で抽出された特徴量を含む路面データを送信する送信部(12)と、を有し、
前記制御部は、
前記特徴量抽出部で抽出された過去の前記特徴量を過去特徴量として保存する特徴量保存部(11b)と、
前記特徴量抽出部で前記タイヤの今回の回転時に抽出された前記特徴量を今回特徴量として、該今回特徴量と前記特徴量保存部に保存された前記過去特徴量とに基づいて、路面状態の変化の有無を判定すると共に、該路面状態の変化が有ると前記送信部より前記今回特徴量を含む前記路面データの送信を行わせる変化判定部(11c)と、
前記車両の車速を推定する車速推定部(11d)と、
前記変化判定部により前記路面状態の変化の有無を判定して前記変化判定部にて前記路面状態が変化したことが判定されたときに前記送信部より前記路面データの送信を行わせるか、前記変化判定部により前記路面状態の変化の有無を判定することなく前記路面データの送信を行わせるかの切り替えを、前記車速推定部で推定された車速に基づいて行うアルゴリズム切替部(11e)と、を備え
前記アルゴリズム切替部は、判定閾値を記憶しており、前記車速が前記判定閾値以下のときには、前記変化判定部により前記路面状態の変化の有無を判定することなく前記路面データの送信を行わせ、前記車速が前記判定閾値を超えているときには、前記変化判定部により前記路面状態の変化の有無を判定して、前記変化判定部にて前記路面状態が変化したことが判定されたときに、前記送信部より前記路面データの送信を行わせ
さらに、前記アルゴリズム切替部は、前記判定閾値として、前記タイヤの1回転毎に前記変化判定部による前記路面状態の変化の有無を判定するときの必要電力と、変化判定部により前記路面状態の変化の有無を判定することなく前記路面データの送信を行わせるときの必要電力とが等しくなる車速を記憶しているタイヤ側装置。
【請求項2】
前記変化判定部は、前記今回特徴量と前記過去特徴量との類似度を演算し、該類似度に基づいて前記路面状態が変化したことを判定する請求項に記載のタイヤ側装置。
【請求項3】
前記特徴量抽出部が抽出する前記特徴量は、前記検出信号の時間軸波形の特徴ベクトルにて表される請求項に記載のタイヤ側装置。
【請求項4】
前記制御部を第1制御部とする請求項1ないしのいずれか1つに記載のタイヤ側装置と、
前記送信部から送信された前記今回特徴量を含む前記路面データを受信する受信部(21)と、前記受信部で受信した前記路面データに基づいて前記路面状態を判別する第2制御部(25)と、を有する車体側システム(2)と、を有し、
前記第2制御部は、前記路面状態の種類ごとに前記特徴量のサポートベクタを保存したサポートベクタ保存部(25a)と、前記路面データに含まれる前記今回特徴量と前記サポートベクタ保存部に保存された前記サポートベクタとに基づいて前記路面状態の判別を行う状態判別部(25b)と、を備えている路面状態判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ側装置にてタイヤが受ける振動を検出すると共に、振動データに基づいて路面状態を示す路面データを作成して車体側システムに伝え、その路面データに基づいて路面状態を判別する路面状態判別装置とそれに用いられるタイヤ側装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、タイヤトレッドの裏面に加速度取得部を有するタイヤ側装置を備え、加速度取得部でタイヤに加えられる振動を取得すると共に、その振動の取得結果を車体側システムに伝えることで路面状態の推定を行うタイヤ装置が提案されている。このタイヤ装置では、加速度取得部で取得したタイヤの振動波形に基づいて路面状態に関するデータを作成し、各車輪それぞれのデータを車体側の受信機などに伝えることで、路面状態の推定を行っている。そして、タイヤ側装置の省電力を実現すべく、路面状態の変化を判定し、路面状態が変化したタイミングにタイヤ側装置から車体側システムにタイヤに加えられる振動の取得結果が伝えられるようにしている。つまり、路面状態判別を行いたいと考えられる路面状態が変化したタイミングにのみデータ伝達が行われるようにすることで、通信を最小限に抑え、省電力化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-184101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、通信電力の省電力化が進み、データ伝達を単に路面状態が変化したタイミングにのみに限定しただけでは、十分な省電力化が行えない場合があることが確認された。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、より省電力化を実現することができる路面状態判別装置およびそれに用いられるタイヤ側装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、タイヤの振動の大きさに応じた検出信号を出力する振動検出部(10)と、タイヤの1回転中における検出信号の特徴量を抽出する特徴量抽出部(11a)を有する制御部(11)と、特徴量抽出部で抽出された特徴量を含む路面データを送信する送信部(12)と、を有している。そして、制御部は、特徴量抽出部で抽出された過去の特徴量を過去特徴量として保存する特徴量保存部(11b)と、特徴量抽出部でタイヤの今回の回転時に抽出された特徴量を今回特徴量として、該今回特徴量と特徴量保存部に保存された過去特徴量とに基づいて、路面状態の変化の有無を判定すると共に、該路面状態の変化が有ると送信部より今回特徴量を含む路面データの送信を行わせる変化判定部(11c)と、車両の車速を推定する車速推定部(11d)と、変化判定部により路面状態の変化の有無を判定して変化判定部にて路面状態が変化したことが判定されたときに送信部より路面データの送信を行わせるか、変化判定部により路面状態の変化の有無を判定することなく路面データの送信を行わせるかの切り替えを、車速推定部で推定された車速に基づいて行うアルゴリズム切替部(11e)と、を備えている。アルゴリズム切替部は、判定閾値を記憶しており、車速が判定閾値以下のときには、変化判定部により路面状態の変化の有無を判定することなく路面データの送信を行わせ、車速が判定閾値を超えているときには、変化判定部により路面状態の変化の有無を判定して、変化判定部にて路面状態が変化したことが判定されたときに、送信部より路面データの送信を行わせる。さらに、アルゴリズム切替部は、判定閾値として、タイヤの1回転毎に変化判定部による路面状態の変化の有無を判定するときの必要電力と、変化判定部により路面状態の変化の有無を判定することなく路面データの送信を行わせるときの必要電力とが等しくなる車速を記憶している。
【0007】
このように、車速に基づき、変化判定部にて路面状態が変化したことが判定されたときに、送信部より路面データの送信を行わせるか、変化判定部により路面状態の変化の有無を判定することなく路面データの送信を行わせるかを切り替えるようにしている。このため、変化判定部にて路面状態が変化したことが判定されたときに路面データの送信が行われるようにすれば、通信頻度を低下させることが可能となり、タイヤ内の制御部の省電力化を実現できる。また、路面状態の変化の有無を判定しないようにして、タイヤが1回転または複数回転する毎に路面データを送信するようにすれば、路面データを高頻度で車体側システムに伝えつつ、路面状態の変化時のみに路面データの送信を行う場合よりも省電力化できる。よって、より省電力化を実現することが可能となる。
【0008】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態にかかるタイヤ側装置が適用されたタイヤ装置の車両搭載状態でのブロック構成を示した図である。
図2】タイヤ側装置および車体側システムの詳細を示したブロック図である。
図3】タイヤ側装置が取り付けられたタイヤの断面模式図である。
図4】路面状態の変化時にのみ路面データを送信した場合と、路面状態の変化の有無の判定を行わずにタイヤが1回転する毎に路面データを送信した場合の必要電力を調べた結果を示す図である。
図5】タイヤ回転時における加速度取得部の出力電圧波形図である。
図6】加速度取得部の検出信号を所定の時間幅Tの時間窓毎に区画した様子を示す図である。
図7】タイヤの今回の回転時の時間軸波形と1回転前のときの時間軸波形それぞれを所定の時間幅Tの時間窓で分割した各区画での行列式Xi(r)、Xi(r-1)と距離Kyzとの関係を示した図である。
図8】タイヤ側装置の制御部が実行するデータ送信処理のフローチャートである。
図9】車体側システムの制御部が実行する路面状態判別処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0011】
(第1実施形態)
本実施形態にかかる路面状態判別機能を有するタイヤ装置について説明する。本実施形態にかかるタイヤ装置は、車両の各車輪に備えられるタイヤの接地面に加わる振動に基づいて走行中の路面状態を判別すると共に、路面状態に基づいて車両の危険性の報知や車両運動制御などを行うものである。タイヤ装置のうち路面状態判別機能を実現する部分が路面状態判別装置に相当する。
【0012】
図1および図2に示すようにタイヤ装置100は、車輪側に設けられたタイヤ側装置1と、車体側に備えられた各部を含む車体側システム2とを有する構成とされている。車体側システム2としては、受信機21、ブレーキ制御用の電子制御装置(以下、ブレーキECUという)22、報知装置23などが備えられている。
【0013】
本実施形態のタイヤ装置100は、タイヤ側装置1よりタイヤ3が走行中の路面状態に応じたデータ(以下、路面データという)を送信すると共に、受信機21で路面データを受信して路面状態の判別を行う。また、タイヤ装置100は、受信機21での路面状態の判別結果を報知装置23に伝え、報知装置23より路面状態の判別結果を報知させる。これにより、例えばドライ路やウェット路もしくは凍結路であることなど、路面状態をドライバに伝えることが可能となり、滑り易い路面である場合にはドライバに警告することも可能となる。また、タイヤ装置100は、車両運動制御を行うブレーキECU22などに路面状態を伝えることで、危険を回避するための車両運動制御が行われるようにする。例えば、凍結時には、ドライ路の場合と比較してブレーキ操作量に対して発生させられる制動力が弱められるようにすることで、路面μが低いときに対応じた車両運動制御となるようにする。具体的には、タイヤ側装置1および受信機21は、以下のように構成されている。
【0014】
タイヤ側装置1は、図2に示すように、加速度取得部10、制御部11およびデータ通信部12を備えた構成とされ、図3に示されるように、タイヤ3のトレッド31の裏面側に設けられる。
【0015】
加速度取得部10は、タイヤ3に加わる振動を検出するための振動検出部を構成するものである。例えば、加速度取得部10は、加速度センサによって構成される。加速度取得部10が加速度センサとされる場合、加速度取得部10は、タイヤ3が回転する際にタイヤ側装置1が描く円軌道に対して接する方向、つまり図3中の矢印Xで示すタイヤ接線方向の振動に応じた検出信号として、加速度の検出信号を出力する。より詳しくは、加速度取得部10は、矢印Xで示す二方向のうちの一方向を正、反対方向を負とする出力電圧などを検出信号として発生させる。例えば、加速度取得部10は、タイヤ3が1回転するよりも短い周期に設定される所定のサンプリング周期ごとに加速度検出を行い、それを検出信号として出力している。なお、加速度取得部10の検出信号は、出力電圧もしくは出力電流として表されるが、ここでは出力電圧として表される場合を例に挙げる。
【0016】
制御部11は、第1制御部に相当し、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って上記した処理を行う部分である。そして、制御部11は、それらの処理を行う機能部として特徴量抽出部11a、特徴量保存部11b、変化判定部11c、車速推定部11d、アルゴリズム切替部11eを備えた構成とされている。
【0017】
特徴量抽出部11aは、加速度取得部10が出力する検出信号をタイヤ接線方向の振動データを表す検出信号として用いて、この検出信号を処理することで、タイヤ振動の特徴量を抽出する。本実施形態の場合、タイヤ3の加速度(以下、タイヤGという)の検出信号を信号処理することで、タイヤGの特徴量を抽出する。また、特徴量抽出部11aは、変化判定部11cを介して、抽出した特徴量を含むデータを路面データとしてデータ通信部12に伝える。なお、ここでいう特徴量の詳細については後で説明する。
【0018】
特徴量保存部11bは、タイヤ3の1回転前に特徴量抽出部11aで抽出された特徴量(以下、前回特徴量という)を保存している。タイヤ3が1回転したことについては後述する手法によって確認できることから、タイヤ3が1回転するごとに、1回転分の特徴量を保存している。なお、タイヤ3の1回転分の特徴量については、タイヤ3が1回転するごとにデータ更新するようにしても良いし、複数回転分をストックしておき、タイヤ3が1回転するごとに最も古いデータを消去するようにしても良い。ただし、タイヤ3内での制御部11の省メモリ化の観点からは、ストックするデータ量を少なくすることが好ましいため、タイヤ3が1回転するごとにデータ更新するのが好ましい。
【0019】
変化判定部11cは、路面状態の変化の有無を判定したり、路面データをデータ通信部に伝えたりする部分である。具体的には、変化判定部11cでは、路面状態の変化の有無を判定する場合と判定しない場合とにアルゴリズムの切り替えが行えるようになっており、アルゴリズム切替部11eからその切り替えの指示信号が伝えられることで、アルゴリズムの切り替えを行う。
【0020】
変化判定部11cは、指示信号が路面状態の変化の有無を判定する場合を示す「判定指示信号」であれば、変化判定部11cは路面状態の変化の有無を判定する。路面状態の変化の有無については、変化判定部11cは、タイヤ3の今回の回転時に特徴量抽出部11aが抽出した特徴量(以下、今回特徴量という)と、特徴量保存部11bに保存されているタイヤ3の前回特徴量とに基づいて判定している。この判定の詳細については後述する。そして、路面状態の変化が有ったと判定すると、路面データをデータ通信部12に伝える。また、路面状態の変化が無かったと判定すると、路面データをデータ通信部12に伝えないようにする。
【0021】
また、変化判定部11cは、指示信号が路面状態の変化の有無を判定しない場合を示す「非判定指示信号」であれば、変化判定部11cは路面状態の変化の有無を判定することなく、路面データをデータ通信部12に伝える。この場合、特徴量抽出部11aから路面データが伝えられるたびに、変化判定部11cからデータ通信部12に路面データが伝えられることになるが、路面状態の変化の有無の判定による電力消費は無くなる。
【0022】
車速推定部11dは、タイヤ装置100が実装された車両における車速を推定する。ここでは、車速推定部11dは、加速度取得部10の検出信号に基づいて車速を推定している。例えば、加速度取得部10の検出信号は、タイヤ3が1回転する際に後述する図5に示される出力電圧波形を示す。このため、この加速度取得部10の出力電圧波形の変化をタイヤ3の1回転分として、その変化を示すのに掛かった時間がタイヤ3の1回転分の時間となることから、タイヤ3の1周の長さとタイヤ3の1回転分の時間とから車速を推定できる。
【0023】
アルゴリズム切替部11eは、車速推定部11dでの車速の推定結果に基づいて、変化判定部11cでの路面状態の変化の有無を判定する場合としない場合との切り替えを行う。すなわち、タイヤ側装置1ではタイヤ3が1回転する毎に路面データを得ることができるが、タイヤ3が1回転する毎に路面データを出力していると、データ送信に掛かる電力消費量が多くなる。そして、路面データが車体側システム2で主に必要になるのは路面状態が変化したときであるため、変化判定部11cにおいて路面状態の変化があったと判定されたときに、路面データを車体側システム2に伝えればよい。
【0024】
しかしながら、路面状態の変化の有無を判定するのにも電力消費が発生し、路面状態の変化の有無を判定するよりも、タイヤ側装置1から車体側システム2に路面データを送信した方が電力消費量を少なくできることもある。
【0025】
例えば、路面状態の変化の有無を判定するには、タイヤ3が1回転する期間中、もしくはそのうちの必要な一部の期間中、路面状態の変化の有無を判定するためのプログラムを起動し続けることになる。このため、タイヤ1回転中における路面状態の変化を行うためのプログラムの起動期間が長いほど、タイヤ3が1回転する際に路面状態の変化を判定するのに掛かる電力消費量が多くなる。その場合、タイヤ3が1回転する毎にタイヤ側装置1から車体側システム2に対して路面データを送信するのに掛かる電力消費量よりも、タイヤ3が1回転する際に路面状態の変化を判定するのに掛かる電力消費量の方が多くなり得る。
【0026】
このような場合には、路面状態の変化の有無を判定することを優先せずに、タイヤ3が1回転する毎に路面データを送信する方が消費電力の低減につながる。したがって、アルゴリズム切替部11eには、路面状態の変化の有無を判定する場合の方が判定しない場合よりも電力消費量が少なくなる判定閾値を記憶してあり、その判定閾値より大きいか否かに基づいて、アルゴリズムの切り替え指示が出されるようになっている。
【0027】
路面状態の変化の有無を判定しつつ、路面状態の変化時にのみ路面データを送信した場合(以下、ケース1という)と、路面状態の変化の有無の判定を行わずにタイヤ3が1回転する毎に路面データを送信した場合(以下、ケース2という)の必要電力を調べた。具体的には、100mごとに路面状態を変化させた路面において、車速を変化させてシミュレーションを行った。図4は、その結果を示した図である。
【0028】
このシミュレーションモデルでは、車速が60km/hのときにケース1とケース2の必要電力が等しくなり、60km/h未満だとケース2の方がケース1よりも必要電力が小さく、それを超えると、ケース1の方がケース2よりも必要電力が小さかった。このシミュレーションからも、上述した通りであることが判る。このため、このシミュレーションモデルの場合には、例えば車速が60km/hを判定閾値に設定する。そして、車速が判定閾値以下であれば、路面状態の変化の有無の判定を行わずに、タイヤ3が1回転する毎に路面データを送信するアルゴリズムとし、車速が判定閾値を超えると、路面状態の変化時にのみ路面データを送信するアルゴリズムとすれば良い。このような切替えを行った場合、図中に実線で示したように小さな必要電力に抑えることが可能となる。
【0029】
なお、車速が60km/h近傍においては、ケース1とケース2との必要電力の差は小さい。このため、判定閾値については、ケース1とケース2の消費電力が等しくなる60km/hに必ずしも設定する必要はなく、その前後のいずれかの車速に設定すれば良い。また、ケース1とケース2との必要電力が等しくなる車速については、車種等の諸々の条件によって異なっていることから、例えば車種ごとで実験的に求めておき、その近傍の車速を判定閾値としてアルゴリズム切替部11eに記憶させておけばよい。
【0030】
データ通信部12は、送信部を構成する部分であり、例えば、変化判定部11cから路面データが伝えられると、そのタイミングで今回特徴量を含む路面データの送信を行う。データ通信部12からのデータ送信のタイミングについては、アルゴリズム切替部11eからの指示信号に基づいて決定される。すなわち、車速が判定閾値以下の場合にはタイヤ3が1回転する毎に路面データを送信し、車速が判定閾値を超えると、路面状態の変化時にのみ路面データを送信するようになっている。
【0031】
一方、受信機21は、図2に示すように、データ通信部24と制御部25とを有した構成とされている。
【0032】
データ通信部24は、受信部を構成する部分であり、タイヤ側装置1のデータ通信部12より送信された今回特徴量を含む路面データを受信し、制御部25に伝える役割を果たす。
【0033】
制御部25は、第2制御部に相当し、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムに従って各種処理を行っている。そして、制御部25は、各種処理を行う機能部としてサポートベクタ保存部25aと状態判別部25bとを備えている。
【0034】
サポートベクタ保存部25aは、路面の種類ごとにサポートベクタを記憶して保存している。サポートベクタは、手本となる特徴量のことであり、例えばサポートベクタマシンを用いた学習によって得ている。タイヤ側装置1を備えた車両を実験的に路面の種類別に走行させ、そのときに特徴量抽出部11aで抽出した特徴量を所定のタイヤ回転数分学習し、その中から典型的な特徴量を所定数分抽出したものがサポートベクタとされる。例えば、路面の種類別に、100万回転分の特徴量を学習し、その中から100回転分の典型的な特徴量を抽出したものをサポートベクタとしている。
【0035】
状態判別部25bは、データ通信部24が受信したタイヤ側装置1より送られてきた今回特徴量と、サポートベクタ保存部25aに保存された路面の種類別のサポートベクタとを比較することで、路面状態を判別する。例えば、今回特徴量を路面の種類別のサポートベクタと対比して、今回特徴量が最も近いサポートベクタの路面を現在の走行路面と判別している。
【0036】
また、制御部25は、このようにして路面状態を判別すると、判別した路面状態を報知装置23に伝え、必要に応じて報知装置23より路面状態をドライバに伝える。これにより、ドライバは路面状態に対応した運転を心掛けるようになり、車両の危険性を回避することが可能となる。例えば、報知装置23を通じて判別された路面状態を常に表示するようにしても良いし、判別された路面状態がウェット路や凍結路等のように運転をより慎重に行う必要があるときにのみ路面状態を表示してドライバに警告するようにしても良い。また、受信機21からブレーキECU22などの車両運動制御を実行するためのECUに対して路面状態を伝えており、伝えられた路面状態に基づいて車両運動制御が実行されるようにしている。
【0037】
なお、ブレーキECU22は、様々なブレーキ制御を行う制動制御装置を構成するものである。具体的には、ブレーキECU22は、ブレーキ液圧制御用のアクチュエータを駆動することでホイールシリンダ圧を増減して制動力を制御する。また、ブレーキECU22は、各車輪の制動力を独立して制御することもできる。このブレーキECU22により、受信機21から路面状態が伝えられると、それに基づいて車両運動制御として制動力の制御を行っている。例えば、ブレーキECU22は、伝えられた路面状態が凍結路であることを示していた場合、ドライ路面と比較して、ドライバによるブレーキ操作量に対して発生させる制動力を弱めるようにする。これにより、車輪スリップを抑制でき、車両の危険性を回避することが可能となる。
【0038】
また、報知装置23は、例えばメータ表示器などで構成され、ドライバに対して路面状態を報知する際に用いられる。報知装置23をメータ表示器で構成する場合、ドライバが車両の運転中に視認可能な場所に配置され、例えば車両におけるインストルメントパネル内に設置される。メータ表示器は、受信機21から路面状態が伝えられると、その路面状態が把握できる態様で表示を行うことで、視覚的にドライバに対して路面状態を報知することができる。
【0039】
なお、報知装置23をブザーや音声案内装置などで構成することもできる。その場合、報知装置23は、ブザー音や音声案内によって、聴覚的にドライバに対して路面状態を報知することができる。また、視覚的な報知を行う報知装置23としてメータ表示器を例に挙げたが、ヘッドアップディスプレイなどの情報表示を行う表示器によって報知装置23を構成しても良い。
【0040】
以上のようにして、本実施形態にかかるタイヤ装置100が構成されている。なお、車体側システム2を構成する各部は、例えばCAN(Controller Area Networkの略)通信などによる車内LAN(Local Area Networkの略)を通じて接続されている。このため、車内LANを通じて各部が互いに情報伝達できるようになっている。
【0041】
次に、上記した特徴量抽出部11aで抽出する特徴量や、変化判定部11cによる路面状態の変化の判定の詳細について説明する。
【0042】
まず、特徴量抽出部11aで抽出する特徴量について説明する。ここでいう特徴量とは、加速度取得部10が取得したタイヤ3に加わる振動の特徴を示す量であり、例えば特徴ベクトルとして表される。
【0043】
タイヤ回転時における加速度取得部10の検出信号の出力電圧波形は、例えば図5に示す波形となる。この図に示されるように、タイヤ3の回転に伴ってトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地し始めた接地開始時に、加速度取得部10の出力電圧が極大値をとる。以下、この加速度取得部10の出力電圧が極大値をとる接地開始時のピーク値を第1ピーク値という。さらに、図5に示されるように、タイヤ3の回転に伴ってトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地していた状態から接地しなくなる接地終了時に、加速度取得部10の出力電圧が極小値をとる。以下、この加速度取得部10の出力電圧が極小値をとる接地終了時のピーク値を第2ピーク値という。
【0044】
加速度取得部10の出力電圧が上記のようなタイミングでピーク値をとるのは、以下の理由による。すなわち、タイヤ3の回転に伴ってトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地する際、加速度取得部10の近傍においてタイヤ3のうちそれまで略円筒面であった部分が押圧されて平面状に変形する。このときの衝撃を受けることで、加速度取得部10の出力電圧が第1ピーク値をとる。また、タイヤ3の回転に伴ってトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地面から離れる際には、加速度取得部10の近傍においてタイヤ3は押圧が解放されて平面状から略円筒状に戻る。このタイヤ3の形状が元に戻るときの衝撃を受けることで、加速度取得部10の出力電圧が第2ピーク値をとる。このようにして、加速度取得部10の出力電圧が接地開始時と接地終了時でそれぞれ第1、第2ピーク値をとるのである。また、タイヤ3が押圧される際の衝撃の方向と、押圧から開放される際の衝撃の方向は逆方向であるため、出力電圧の符号も逆方向となる。
【0045】
ここで、タイヤトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が路面に接地した瞬間を「踏み込み領域」、路面から離れる瞬間を「蹴り出し領域」とする。「踏み込み領域」には、第1ピーク値となるタイミングが含まれ、「蹴り出し領域」には、第2ピーク値となるタイミングが含まれる。また、踏み込み領域の前を「踏み込み前領域」、踏み込み領域から蹴り出し領域までの領域、つまりタイヤトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地中の領域を「蹴り出し前領域」、蹴り出し領域後を「蹴り出し後領域」とする。このように、タイヤトレッド31のうち加速度取得部10の配置箇所と対応する部分が接地する期間およびその前後を5つの領域に区画することができる。なお、図5中では、検出信号のうちの「踏み込み前領域」、「踏み込み領域」、「蹴り出し前領域」、「蹴り出し領域」、「蹴り出し後領域」を順に5つの領域R1~R5として示してある。
【0046】
路面状態に応じて、区画した各領域でタイヤ3に生じる振動が変動し、加速度取得部10の検出信号が変化することから、各領域での加速度取得部10の検出信号を周波数解析することで、車両の走行路面における路面状態を検出する。例えば、圧雪路のような滑り易い路面状態では蹴り出し時の剪断力が低下するため、蹴り出し領域R4や蹴り出し後領域R5において、1kHz~4kHz帯域から選択される帯域値が小さくなる。このように、路面状態に応じて加速度取得部10の検出信号の各周波数成分が変化することから、検出信号の周波数解析に基づいて路面状態を判定することが可能になる。
【0047】
このため、特徴量抽出部11aは、連続した時間軸波形となっているタイヤ3の1回転分の加速度取得部10の検出信号を、図6に示すように所定の時間幅Tの時間窓毎に複数の区画に分割し、各区画で周波数解析を行うことで特徴量を抽出している。具体的には、各区画で周波数解析を行うことで、各周波数帯域でのパワースペクトル値、つまり特定周波数帯域の振動レベルを求め、このパワースペクトル値を特徴量としている。
【0048】
なお、時間幅Tの時間窓で分割された区画の数は車速に応じて、より詳しくはタイヤ3の回転速度に応じて変動する値である。以下の説明では、タイヤ1回転分の区画数をn(ただし、nは自然数)としている。
【0049】
例えば、各区画それぞれの検出信号を複数の特定周波数帯域のフィルタ、例えば0~1kHz、1~2kHz、2~3kHz、3~4kHz、4~5kHzの5つのバンドパスフィルタに通して得られたパワースペクトル値を特徴量としている。この特徴量は、特徴ベクトルと呼ばれるもので、ある区画i(ただし、iは1≦i≦nの自然数)の特徴ベクトルXiは、各特定周波数帯域のパワースペクトル値をaikで示すと、これを要素とする行列として、次式のように表される。
【0050】
【数1】
なお、パワースペクトル値aikにおけるkは、特定周波数帯域の数、つまりバンドパスフィルタの数であり、上記のように0~5kHzの帯域を5つに分ける場合、k=1~5となる。そして、全区画1~nの特徴ベクトルX1~Xnを総括して示した行列式Xは、次式となる。
【0051】
【数2】
この行列式Xがタイヤ1回転分の特徴量を表した式となる。特徴量抽出部11aでは、この行列式Xで表される特徴量を加速度取得部10の検出信号を周波数解析することによって抽出している。
【0052】
続いて、変化判定部11cによる路面状態の変化の判定について説明する。この判定は、特徴量抽出部11aが抽出した今回特徴量と、特徴量保存部11bに保存された前回特徴量とを用いて類似度を算出することにより行われる。
【0053】
上記したように特徴量を表す行列式Xについて、今回特徴量の行列式をX(r)、前回特徴量の行列式をX(r-1)とし、それぞれの行列式の各要素となるパワースペクトル値aikをa(r)ik,a(r-1)ikで表すとする。その場合、今回特徴量の行列式X(r)と前回特徴量の行列式X(r-1)は、それぞれ次のように表される。
【0054】
【数3】
【0055】
【数4】
類似度は、2つの行列式で示される特徴量同士の似ている度合いを示しており、類似度が高いほどより似ていることを意味している。本実施形態の場合、変化判定部11cは、カーネル法を用いて類似度を求め、その類似度に基づいて路面状態の変化の判定を行う。ここでは、タイヤ3の今回の回転時の行列式X(r)と1回転前の行列式をX(r-1)の内積、換言すれば特徴空間内において所定の時間幅Tの時間窓毎で分割した区画同士の特徴ベクトルXiが示す座標間の距離を算出し、それを類似度として用いている。
【0056】
例えば、図7に示すように、加速度取得部10の検出信号の時間軸波形について、タイヤ3の今回の回転時の時間軸波形と1回転前のときの時間軸波形それぞれを所定の時間幅Tの時間窓で各区画に分割する。図示例の場合、各時間軸波形を5つの区画に分割しているため、n=5となり、iは、1≦i≦5で表される。ここで、図中に示したように、今回の回転時の各区画の特徴ベクトルXiをXi(r)、1回転前のときの各区画の特徴ベクトルをXi(r-1)とする。その場合、各区画の特徴ベクトルXiが示す座標間の距離Kyzについては、今回の回転時の各区画の特徴ベクトルXi(r)を含む横の升と1回転前のときの各区画の特徴ベクトルXi(r-1)を含む縦の升とが交差する升のように示される。なお、距離Kyzについて、yはXi(r-1)におけるiを書き換えたものであり、zはXi(r)におけるiを書き換えたものである。また、車速については、今回の回転時と1回転前とで大きな変化はないため、基本的には各回転時の区画数は等しくなる。
【0057】
本実施形態の場合、5つの特定周波数帯域に分けて特徴ベクトルを取得している。このため、時間軸と合わせた6次元空間において各区画の特徴ベクトルXiが表されることとなり、区画同士の特徴ベクトルがXi示す座標間の距離は、6次元空間における座標間の距離となる。ただし、各区画の特徴ベクトルが示す座標間の距離については、特徴量同士が似ているほど小さく、似ていないほど大きくなることから、当該距離が小さいほど類似度が高く、距離が大きいほど類似度が低いことを示している。
【0058】
例えば、時分割によって区画1~nとされている場合、区画1同士の特徴ベクトルが示す座標間の距離Kyzについては、次式で示される。
【0059】
【数5】
このようにして、時分割による区画同士の特徴ベクトルが示す座標間の距離Kyzを全区画について求め、全区画分の距離Kyzの総和Ktotalを演算し、この総和Ktotalが類似度に対応する値として用いている。そして、総和Ktotalを所定の閾値Thと比較し、総和Ktotalが閾値Thよりも大きければ、類似度が低く、路面状態の変化が有ったと判定し、総和Ktotalが閾値Thよりも小さければ、類似度が高く、路面状態の変化は無かったと判定する。
【0060】
なお、ここでは類似度に対応する値として各区画の特徴ベクトルが示す2つの座標間の距離Kyzの総和Ktotalを用いているが、類似度を示すパラメータとして他のものを用いることもできる。例えば、類似度を示すパラメータとして、総和Ktotalを区画数で割って求めた距離Kyzの平均値である平均距離Kaveを用いることができる。また、様々なカーネル関数を用いて類似度を求めることもできるし、特徴ベクトルのすべてを用いるのではなく、その中から類似度の低いパスを除いて類似度の演算を行うようにしても良い。
【0061】
続いて、本実施形態にかかるタイヤ装置100の作動について、図8を参照して説明する。
【0062】
各車輪のタイヤ側装置1では、制御部11にて、図8に示すデータ送信処理を実行している。この処理は、所定の制御周期ごとに実行される。
【0063】
まず、ステップS100では、加速度取得部10の検出信号の入力処理を行う。この処理は、続くステップS110において、タイヤ3が1回転するまでの期間継続される。そして、加速度取得部10の検出信号をタイヤ1回転分入力すると、その後のステップS120に進み、入力したタイヤ1回転分の加速度取得部10の検出信号の時間軸波形の特徴量を抽出する。以上のステップS100~S120の処理は、特徴量抽出部11aによって行われる。
【0064】
なお、タイヤ3が1回転したことについては、加速度取得部10の検出信号の時間軸波形に基づいて判定している。すなわち、検出信号は図5に示した時間軸波形を描くことから、検出信号の第1ピーク値や第2ピーク値を確認することでタイヤ3の1回転を把握することができる。また、タイヤ3の1回転に掛かる時間から、車速を求めることもできる。
【0065】
また、路面状態が検出信号の時間軸波形の変化として特に現れるのが、「踏み込み領域」、「蹴り出し前領域」、「蹴り出し領域」を含めたその前後の期間である。このため、この期間中のデータが入力されていれば良く、必ずしもタイヤ1回転中における加速度取得部10の検出信号すべてのデータを入力していなくても良い。例えば、「踏み込み前領域」や「蹴り出し後領域」については、「踏み込み領域」の近傍や「蹴り出し領域」の近傍のデータがあれば良い。このため、加速度取得部10の検出信号のうちの振動レベルが閾値よりも小さくなる領域については、「踏み込み前領域」や「蹴り出し後領域」の中でも路面状態の影響を受け難い期間として、検出信号の入力を行わないようにしても良い。
【0066】
また、ステップS120で行う特徴量の抽出については、上述した通りの手法によって行っている。
【0067】
この後、ステップS130に進み、車速が判定閾値を超えているか否かを判定する。ここで肯定判定されれば、路面状態の変化の有無を判定して路面状態の変化時にのみ路面データを送信させるべく、ステップS140に進んで「判定指示信号」を出力する。また、ここで否定判定されれば、路面状態の変化の有無を判定せずにタイヤ3が1回転する毎に路面データを送信させるべく、ステップS150に進んで「非判定指示信号」を出力する。なお、これらステップS130~S150の処理は、アルゴリズム切替部11eによって行われる。
【0068】
そして、ステップS140で「判定指示信号」が出されると、ステップS160に進み、今回特徴量と前回特徴量とに基づいて、上述した手法によって類似度を求め、例えば類似度を閾値Thと比較することで、路面状態の変化が有ったか否かを判定する。この処理は、変化判定部11cによって実行されるもので、特徴量抽出部11aで抽出した今回特徴量と、後述するステップS180において特徴量保存部11bに保存された前回特徴量とに基づいて実行される。
【0069】
そして、ステップS160で肯定判定されると、ステップS170においてデータ送信を実行すべく、変化判定部11cより今回特徴量を含む路面データをデータ通信部12に伝える。これにより、データ通信部12より、今回特徴量を含む路面データが送信される。このように、路面状態の変化が有った時にのみデータ通信部12から今回特徴量を含む路面データが送信されるようにしてあり、路面状態の変化が無かったときにはデータ送信が行われないようにしている。このため、通信頻度を低下させることが可能となり、タイヤ3内の制御部11の省電力化を実現することが可能となる。
【0070】
一方、ステップS150で「非判定指示信号」が出されたときにも、ステップS170に進み、データ送信を実行すべく、変化判定部11cより今回特徴量を含む路面データをデータ通信部12に伝える。この場合には、路面状態の変化の有無を判定することなく、タイヤ3が1回転する毎に路面データが送信されることになる。
【0071】
最後に、ステップS180に進み、今回特徴量を前回特徴量として特徴量保存部11bに保存して、処理を終了する。
【0072】
一方、受信機21では、制御部25にて、図9に示す路面状態判別処理を行う。この処理は、所定の制御周期ごとに実行される。
【0073】
まず、ステップS200では、データ受信処理が行われる。この処理は、データ通信部24が路面データを受信したときに、その路面データを制御部25が取り込むことによって行われる。データ通信部24がデータ受信を行っていないときには、制御部25は何も路面データを取り込むことなく本処理を終えることになる。
【0074】
この後、ステップS210に進み、データ受信が有ったか否かを判定し、受信していた場合にはステップS220に進み、受信していなければ受信するまでステップS200、S210の処理が繰り返される。
【0075】
そして、ステップS220に進み、路面状態の判別を行う。路面状態の判別については、受信した路面データに含まれる今回特徴量と、サポートベクタ保存部25aに保存された路面の種類別のサポートベクタとを比較することで、路面状態を判別する。例えば、今回特徴量と路面の種類別の全サポートベクタとの類似度を求め、最も類似度が高かったサポートベクタの路面を現在の走行路面と判別している。このときの類似度の演算については、図8のステップS160において今回特徴量と前回特徴量との類似度の演算と同じ手法を用いれば良い。
【0076】
以上説明したようにして、本実施形態にかかるタイヤ装置100により、車両の走行路面の路面状態を判別することができる。このような路面状態の判別を行うに際し、車速が判定閾値を超えている場合には、タイヤ側装置1からの今回特徴量を含む路面データの送信が路面状態の変化タイミングのみとなるようにしている。このため、通信頻度を低下させることが可能となり、タイヤ3内の制御部11の省電力化を実現することが可能となる。また、車速が判定閾値以下のときには、路面状態の変化の有無を判定しないようにし、タイヤ3が1回転する毎に路面データを送信するようにしている。これにより、車速が判定閾値以下の場合には、路面データを高頻度で車体側システム2に伝えつつ、路面状態の変化時のみに路面データの送信を行う場合よりも省電力化を実現することが可能となる。
【0077】
また、タイヤ装置100は、タイヤ側装置1の制御部11にサポートベクタを保存するためのサポートベクタ保存部を備えないで済むため、タイヤ3内の制御部11の省メモリ化を図ることもできる。
【0078】
さらに、タイヤ側装置1の制御部11による類似度計算のデータ処理については、今回特徴量と前回特徴量とに対してのみ行えば良く、今回特徴量と全サポートベクタとの類似度計算については車体側システム2で行えば良い。このため、更にタイヤ3内の制御部11でのメモリの消費量を抑えることが可能となり、省メモリ化を実現することが可能となる。
【0079】
よって、タイヤ3内の制御部11の省メモリおよび省電力を実現できるタイヤ側装置1およびそれを含むタイヤ装置100とすることが可能となる。
【0080】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0081】
例えば、特徴量保存部11bでは、タイヤ3の過去の回転時における特徴量として、1回転前の特徴量を保存するようにしたが、必ずしも1回転前の特徴量のみである必要はない。すなわち、特徴量保存部11bにタイヤ3の過去の回転時の特徴量(以下、過去特徴量という)として前回特徴量を保存するのに限らず、複数回転前の特徴量を過去特徴量として保存したり、複数回転分の過去特徴量の平均値を保存したりしても良い。そして、前回特徴量との類似度の計算については、過去特徴量のうちの前回特徴量を用いたり、前回特徴量を含めた過去複数分の平均値を用いたりしても良い。ただし、省メモリの観点からは、できるだけ少ない数の特徴量を保存させるだけにする方が好ましい。
【0082】
また、上記実施形態では、振動検出部を加速度取得部10によって構成する場合を例示したが、他の振動検出を行うことができる素子、例えば圧電素子などによって振動検出部を構成することもできる。
【0083】
また、路面状態の変化が有ったときに、タイヤ側装置1から今回特徴量を含む路面データを送信するようにしているが、前回特徴量についても路面データに含めるようにしても良い。その場合、車体側システム2において、前回特徴量をサポートベクタと比較することで、変化前の路面状態についても判別できる。したがって、変化前後の路面状態の両方を判別し、より的確に路面状態の変化を認識することが可能となる。
【0084】
また、上記実施形態では、車体側システム2に備えられる受信機21の制御部25によって今回特徴量とサポートベクタとの類似度を求め、路面状態の判別を行うようにしている。しかしながら、これも一例を示したに過ぎず、他のECU、例えばブレーキECU22の制御部によって類似度を求めたり、路面状態の判別を行うようにしても良い。
【0085】
さらに、上記実施形態では、車速が判定閾値以下のときには、タイヤ3が1回転する毎に路面データを送信するようにしたが、これも一例を挙げたに過ぎない。つまり、車速が判定閾値以下の場合には、路面状態の変化の有無を判定することが消費電力の増加原因になっているのであり、この判定を行わないようにして路面データを送信するのであれば、送信間隔については任意に設定できる。例えば、タイヤ3が複数回転する毎に1回もしくは複数回、路面データを送信するようにしても良い。
【0086】
また、上記実施形態では、車速推定部11dは、加速度取得部10の検出信号に基づいて車速を推定している。しかしながら、これも一例を示したに過ぎず、車体側システム2からもタイヤ側装置1にデータ送信が行える双方向通信を可能とし、車体側システム2から車速に関するデータを送信させ、そのデータに基づいて車速推定部11dで車速を推定することもできる。
【0087】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0088】
11 制御部
11a 特徴量抽出部
11b 特徴量保存部
11c 変化判定部
11d 車速推定部
11e アルゴリズム切替部
21 受信機
25 制御部
25a サポートベクタ保存部
25b 状態判別部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9