IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-塗装代替フィルム 図1
  • 特許-塗装代替フィルム 図2
  • 特許-塗装代替フィルム 図3
  • 特許-塗装代替フィルム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】塗装代替フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/027 20190101AFI20240110BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B32B7/027
B32B27/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019165962
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021041633
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池谷 大樹
(72)【発明者】
【氏名】矢野 真司
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-056621(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078369(WO,A1)
【文献】特開2011-011543(JP,A)
【文献】特開2002-219776(JP,A)
【文献】再公表特許第2012/147880(JP,A1)
【文献】再公表特許第2011/021720(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルム、着色層および熱硬化未完のハードコート層を、この順で有する塗装代替フィルムであって、
熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一層が、ガラス転移温度が115℃以上である耐熱樹脂層であり、
耐熱樹脂層に用いる樹脂がポリエチレンナフタレートである、
塗装代替フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂フィルムに用いる樹脂がポリエチレンナフタレートである請求項1に記載の塗装代替フィルム。
【請求項3】
熱可塑性樹脂フィルムが、耐熱樹脂層の着色層と接しない側の表面にガラス転移温度が120℃未満の接着性樹脂を用いてなる接着層を有する請求項1または2に記載の塗装代替フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両の外板などの部品を塗装する代わりにフィルムで被覆し、意匠性と防錆性を両立する塗装代替フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の外装部品等(例えば、フェンダ、バンパ、ボンネット、ホイールキャップ等の樹脂成形品)の意匠性を向上させるために、スプレー塗装を用いることが一般的に行われていた。しかし、近年、このようなスプレー塗装を含む塗装工程においては、塗装と乾燥を繰り返して行うために大きな設備とスペースを要し、生産性が低下するため、塗装工程を合理化すること等を目的として、前記外装部品に加飾フィルム(以下、塗装代替フィルムという)を貼合して、製品の外観を向上させる方法が検討されている。
【0003】
この種の従来技術による塗装代替フィルム1は、例えば図4に示すように、クリア層19、着色層12および接着層14を順次積層して構成されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
ここで、クリア層19は、例えばポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン系樹脂、PVDF(ポリフッ化ビニルデン)又はこれらの混合物による透明性の高い樹脂材料を用いて形成され、着色層12の保護、艶出し等の機能を有する。また、着色層12は、前記クリア層19とほぼ同様の樹脂材料中にメタリック顔料を配合して形成され、これにより着色層12は、スプレー塗装に近いメタリック色の外観を与えている。さらに、接着層14は、塗装代替フィルム1を自動車の外装部品等の表面に接着するものである。
【0005】
そして、この塗装代替フィルム1を前記外装部品等に接着するときには、予め塗装代替フィルム1を赤外線ランプ照射等により加温した後、この塗装代替フィルム1をインモールド成形、真空成形等により外装部品の表面形状に合わせて成形し、接着層14によって外装部品の表面に貼合する。
【0006】
しかし、これら従来の技術では自動車等の外装部品のような複雑な形状のものに対して、接着剤を必要とするため被着物の部材によっては接着性が乏しくなり、どのような部材にも優れた接着力を発現する接着剤の選定は実質的に不可能である。その解決手段として、特許文献3に示されているように、車両の外装部品として用いる金属部材の製造方法として、熱可塑性樹脂フィルム、着色層および半硬化ハードコート層をこの順で有する塗装代替フィルムならびにハードコート層の表面に貼りあわされる保護フィルムとからなる積層体と、鋼板とを用い、前記塗装代替フィルムと加熱された鋼板とを熱圧着させてプレス成型するとともに半硬化ハードコート層を硬化させる製造方法が、提供されている。しかしながら、特許文献3等に記載されている金属部材に塗装代替フィルムを貼合せた外装部品は、鋭利な機械的刺激が加わることにより塗装代替フィルム自体にクラックが入ると、そこを起点に金属部材に錆びが発生し、更にその錆びが周辺部まで拡大しまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭63-123469号公報
【文献】特開平9-183136号公報
【文献】国際公開第2019/078369号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、鋭利な機械的刺激が加わることにより塗装代替フィルムに自体にクラックが入っても、そこを起点に金属部材に錆びが発生しづらく、更に錆びが周辺部まで拡大しづらい高度な防錆性を有する、塗装代替フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂フィルム、着色層およびハードコート層を、この順で有する塗装代替フィルムにおいて、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一層をガラス転移温度が115℃以上である耐熱樹脂層とすることで、驚くべきことに、塗装代替フィルム自体にクラックが入っても、そこを起点に金属部材に錆びが発生しづらく、更にその錆びが周辺部まで拡大しづらい高い防錆性を高度に発現させることができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の要件により達成される。
1.熱可塑性樹脂フィルム、着色層およびハードコート層を、この順で有する塗装代替フィルムであって、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一層がガラス転移温度が115℃以上である耐熱樹脂層であることを特徴とする塗装代替フィルム。
2.耐熱樹脂層に用いる樹脂がポリエチレンナフタレートである上記1に記載の塗装代替フィルム。
3.熱可塑性樹脂フィルムに用いる樹脂がポリエチレンナフタレートである上記1または2に記載の塗装代替フィルム。
4.熱可塑性樹脂フィルムが、耐熱樹脂層の着色層と接しない側の表面にガラス転移温度が120℃未満の接着性樹脂を用いてなる接着層と有する上記1~3のいずれかに記載の塗装代替フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明の塗装代替フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一層をガラス転移温度が115℃以上である耐熱樹脂層とすることで、金属に貼合せた後に鋭利な機械刺激が加わることにより塗装代替フィルム自体にクラックが入ったとしても、そこを起点に金属部材に錆びが発生しづらく、更に錆びが周辺部まで拡大しづらい高度な防錆性を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の塗装代替フィルムの拡大断面図の一例
図2】本発明の他の塗装代替フィルムの拡大断面図
図3】本発明の他の塗装代替フィルムの拡大断面図
図4】従来の製造方法で用いる塗装代替フィルムの部分拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の塗装代替フィルムについて以下でそれぞれを構成する各成分、調整方法について、順次具体的に説明する。
【0014】
<熱可塑性樹脂フィルム>
本発明の塗装代替フィルムにおける熱可塑性樹脂フィルムは、少なくとも一層がガラス転移温度115℃以上である耐熱樹脂層である必要があり、該条件を満たせば、単層フィルムでも複層フィルムであってもよい。
耐熱樹脂層のガラス転移温度が115℃以上であることによって、鋭利な機械刺激によって塗装代替フィルムにクラックが入り、腐食性の物質に基材の金属が暴露されても錆びの発生と拡大を抑制し、高度な防錆性を発現する。
【0015】
耐熱樹脂層に用いる樹脂組成物のガラス転移温度(Tgと略称)の下限は、115℃以上であり、118℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。他方、Tgの上限は、155℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることが、さらに好ましい。
そのメカニズムは明らかではないが、Tgが、下限以上では、耐熱樹脂層におけるフィルム中の分子が動きづらく、塗装代替フィルム自体にクラックが入り、基材の金属が腐食性の強い酸などに長時間暴露された際にも、腐食性の酸性物質がフィルム中を浸透しづらく金属部の錆びの拡大をさせ難いためと推定される。他方、Tgが上限以下では耐熱樹脂層の成形性が良好となり好ましい。
【0016】
Tgは、上記樹脂組成物の未延伸フィルムを20℃/minの昇温速度で室温から未延伸フィルムの融点プラス35℃の温度まで昇温し、該温度で3分間溶融保持した後取出し直ちに氷の上に移して急冷し、そして再び20℃/minの昇温速度で昇温する方法で求めた。ガラス転移温度の読み取り位置は、示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と,階段部分曲線の勾配が最大になるような点から引いた接線との交点の温度とする。
【0017】
上記耐熱樹脂層の樹脂成分は、上記のガラス転移点の要件を満たしていれば、特に制限されないが、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリエステル樹脂を好ましい樹脂として挙げることができる。これらの中でも厚み斑を抑えた均一な製膜ができる点でポリエステル樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂のなかでも、防錆性の点でポリエチレンナフタレートが好ましい。ポリエチレンナフタレートは、ホモポリエステルでも共重合ポリエステルでも良い。共重合成分は、酸成分でもジオール成分でも好ましく用いることができる。酸成分としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の如き主たる酸成分以外のイソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等である芳香族ジカルボン酸やアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、コハク酸等の如き脂肪族ジカルボン酸および、p-オキシ安息香酸、p-オキシエトキシ安息香酸等のオキシカルボン酸が好ましく、ジオール成分としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,6-ヘキサンジオールの如き脂肪族ジオール、1,4-ヘキサメチレンジメタノールの如き脂環族ジオールが好ましく用いることができる。これらは単独または2種以上を使用することができる。これらの中、酸成分として、テレフタル酸がより好ましい。本発明の塗装代替フィルムに用いる耐熱樹脂層は、フィルムの質量を基準として、少なくとも50重量%が上記で列挙した樹脂群から選ばれた樹脂であることが好ましい。
【0018】
ポリエチレンナフタレートの中でも、防錆性の点で、ポリエチレン-2,6-ナフタレート樹脂が好ましく、該樹脂について製造方法の詳細を後述する。
【0019】
上記耐熱樹脂層に用いる樹脂組成物の固有粘度は、ポリエチレンナフタレートから成る場合は、好ましくは0.45~0.70であり、より好ましくは、0.50~0.60である。固有粘度が、下限以上ではフィルムの機械的強度に優れるため好ましい。また、上限以下では成形加工性に優れるため好ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂フィルムは、製膜のしやすさの点では、単層フィルムであることが好ましく、なかでもポリエチレンナフタレートフィルムの単層フィルムであることが防錆性のためより好ましく、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムの単層フィルムであることがフィルム強度向上および防錆性のためさらに好ましい。
【0021】
一方、熱可塑性樹脂フィルムは、金属基材に貼合わせしやすくする点では、耐熱樹脂層と耐熱樹脂層よりもガラス転移温度の低い層(以下、低Tg樹脂層と略称)との複層フィルムであることが好ましく、なかでもポリエチレンナフタレートとポリエチレンテレフタレートの複層フィルムであることが層間密着性のためより好ましく、二軸延伸ポリエチレンナフタレートと二軸延伸ポリエチレンテレフタレートの複層フィルムであることがフィルム強度向上および層間密着性のためさらに好ましい。複層フィルムは、共押出機で2層または3層フィルム製膜することで製造することが好ましい。ここで、金属基材を貼合せる面は、耐熱樹脂層よりもガラス転移温度の低い、低Tg樹脂層であることが好ましい。金属基材との貼合せ面が低Tg樹脂層であっても、鋭利な機械刺激によって塗装代替フィルムにクラックが入り、腐食性の物質に基材の金属が暴露された際に錆びの発生と拡大を抑制し、高度な防錆性を発現するメカニズムは明らかではないが、暴露箇所での腐食物質の鋼板面水平方向の拡散を耐熱樹脂、特にポリエチレンナフタレートが抑制しているためと推定される。
【0022】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、10~250μmであることが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、金属基材とのラミネート時に、鋼板の加熱温度によってフィルムの金属とは反対面側まで瞬時に加熱されたりすることを防ぐため、上記下限より厚いことが好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、製膜時の生産性の悪化や成形加工時に必要な応力を過度に大きくしないため、上限以下であることが好ましい。好ましい熱可塑性樹脂フィルムの厚みの下限は、12μm、より好ましくは20μm、特に好ましくは25μmであり、上限は188μm、より好ましくは125μm、特に好ましくは100μmである。
【0023】
また、耐熱樹脂層の厚みは、5~250μmであることが防錆性のため好ましい。好ましい耐熱樹脂層の下限の厚みは5μm、より好ましくは10μm、更に好ましくは20μmであり、好ましい耐熱樹脂層の上限の厚みは、188μm、より好ましくは175μm、更に好ましくは100μmである。
【0024】
さらに、本発明の塗装代替フィルムにおける熱可塑性樹脂フィルムは、表面改質を行う目的で耐熱樹脂層の着色層と接しない側の表面にガラス転移温度が120℃未満の接着性樹脂を用いてなる接着層を設けることもできる。
【0025】
(ポリエチレン-2,6-ナフタレート樹脂の製造方法)
上記耐熱樹脂層に用いるポリエチレン-2,6-ナフタレート樹脂の製造方法は、例えば芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させてポリエステルの前駆体を合成する第一反応と、該前駆体を重縮合反応させる第二反応とからなり、それ自体公知の方法を採用できる。
【0026】
上記耐熱樹脂層に用いるポリエチレン-2,6-ナフタレート樹脂の具体的な原料として用いられるポリエチレン-2,6-ナフタレートは、その繰り返し単位がエチレン-2,6-ナフタレートから構成されているものであり、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸またはその誘導体と、エチレングリコールとを、触媒の存在下で適当な反応条件下でエステル化、重合化せしめることによって製造できる。
【0027】
好ましい第一反応の条件については、常圧下で行ってもよいが、0.05MPa~0.5MPaの加圧下で行うことが反応速度をより速めやすいことから好ましい。また、第一反応の温度は、210℃~270℃の範囲で行うことが好ましい。反応圧力を上記範囲内とすることで反応の進行を進みやすくしつつ、ジアルキレングリコールに代表される副生物の発生を抑制できる。このとき、アルキレングリコール成分は、第一反応を行う反応系に存在する酸成分に対し1.1~6モル倍用いることが、反応速度及び樹脂の物性維持の点から好ましい。より好ましくは2~5モル倍、さらに好ましくは3~5モル倍である。
【0028】
また、第一反応の反応速度をより早くするには、それ自体公知の触媒を用いることが好ましく、たとえばLi,Na,K,Mg,Ca,Mn、Co、Tiなどの金属成分を有する金属化合物が好ましく挙げられ、これらの中でも加圧下で行う場合は、反応の進みやすさの点からMnやTi化合物が好ましい。特にTi化合物は、さらに重縮合反応触媒としても使用でき、かつ触媒残渣の析出も少ないことから好ましい。本発明で用いるチタン化合物としては、触媒残渣の析出による不溶性粗大異物の発生を抑制する観点からポリエステル中に可溶な有機チタン化合物が好ましい。特に好ましいチタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラフェノキシド、トリメリット酸チタンなどが例示できる。
【0029】
また、添加する触媒量は、第一反応中に存在する全酸成分のモル数を基準として、金属元素換算で、10~150ミリモル%の範囲が好ましく、20~100ミリモル%の範囲がより好ましく、特に30~70ミリモル%の範囲が反応速度を促進しつつ、触媒起因の粗大不溶性異物の生成を抑制でき、さらに得られる共重合芳香族ポリエステルの耐熱性を高度に維持できることからさらに好ましい。なお、チタン化合物を添加する場合の添加時期は、第一反応のエステル化反応開始時から存在するように添加し、前述のとおり、引き続き重縮合反応触媒として使用することが好ましい。もちろん、重縮合反応速度をコントロールする目的で2回以上に分けて添加してもよい。
【0030】
つぎに、第一反応で得られた前駆体を重縮合反応させる第二反応について説明する。
上記耐熱樹脂層における樹脂は、高度の熱安定性を付与させる目的で、第二反応における重縮合反応の開始以前に、反応系にリン化合物からなる熱安定剤を添加することが好ましい。具体的なリン化合物としては、化合物中にリン元素を有するものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、リン酸アンモニウム、トリエチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテートなどが好ましく挙げることができ、これらのリン化合物は二種以上を併用してもよい。なお、リン化合物の添加時期は、第一反応が実質的に終了してから第二反応である重縮合反応初期の間に行うことが好ましく、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0031】
上記耐熱樹脂層におけるポリエステル樹脂を製造する際、重縮合反応の温度は270℃~300℃の範囲で行うのが好ましく、重縮合反応中の圧力は50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。重縮合反応中の圧力が上限より高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合芳香族ポリエステルを得ることが困難になる。重縮合触媒としては、それ自体公知のTi,Al,Sb,Geなどの金属化合物を好適に使用でき、それらの中でもエステル化反応やエステル交換反応時に添加されたチタン化合物を引き続き使用することが触媒残渣による不溶性粗大異物の発生を抑制できることから好ましい。
【0032】
<着色層>
本発明の塗装代替フィルムにおける着色層は、バインダー樹脂および顔料もしくは染料を含有することが好ましい。バインダー樹脂を使用しない場合、成形時の伸度によって容易に着色層にクラックが生じてしまう結果、美観が損なわれる。また顔料もしくは染料を用いることで、美麗に優れた外観が形成できる。使用される顔料もしくは染料には、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー、アルミニウム、真鍮、二酸化チタン、真珠光沢顔料からなる群より選ばれる1種であることが好ましい。調色のために、その他顔料や、添加剤を使用することは、本発明を損なわない限り、好ましい態様である。着色層の形成方法は特に制限されないが、コーティングによって積層する方法が簡便で好ましい。着色層と熱可塑性樹脂フィルムの密着性は、熱可塑性樹脂フィルムの種類や、着色層に使用するバインダー樹脂によって、適宜調整できる。その際、熱可塑性樹脂フィルムに、コーティングにより表面処理を行い、密着性を補助するような表面改質層をつけることが好ましい。当然、熱可塑性樹脂フィルム自体で接着力を確保できるのであれば、何らの問題はない。
【0033】
本発明の塗装代替フィルムにおける表面改質層は、前述の通り、厚みが1μmを超えないことが好ましい。表面改質層は、厚ければ厚いほど、生産性や、耐久性の確保の点で劣る。表面改質層は、熱可塑性樹脂フィルムのフィルム製膜中にコーティングを行うインラインコーティングによって付与されても良いし、熱可塑性樹脂フィルムを製膜後一旦ロール状に巻きとり、その後、再度繰り出しを行ってオフラインコーティングを行っても良い。
【0034】
本発明の塗装代替フィルムにおける表面改質層には、着色層と熱可塑性樹脂フィルムの間の接着力が確保できるものが使用されるが、バインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂からなる群より選ばれる樹脂を少なくとも1種類用いることが好ましい。接着力の調整のため、各樹脂に共重合を施したり、互いに異なる樹脂をブレンドして接着力を向上させたりすることは好適に利用できる。
【0035】
また、美麗な意匠を発現させるために、着色層を複層化することも良く、例えば、顔料から成る着色層の上に、バインダー樹脂に光輝材顔料を含有した着色層を光輝材層として設けることで2層着色層とすることも好ましく、また視認側からの反射特性を考慮して、着色層の最も熱可塑性樹脂フィルムに近い側にアルミニウム顔料からなる着色反射層、有色顔料層、クリア塗膜の光輝材顔料層という3層着色層とすることも好ましい。必要とする意匠性を付与する上で、着色層を単層として、もしくは複層として使用することは、本発明の目的をなんら否定するものではない。
【0036】
<ハードコート層>
本発明の塗装代替フィルムにおけるハードコート層に用いる樹脂は、熱硬化樹脂であることが好ましい。特に、耐候性、耐傷つき性、透明性のため、アクリル系樹脂が使用されることが好ましい。
【0037】
本発明におけるハードコート樹脂は、前述の着色層に塗工によって積層することが好ましく挙げられ、その手法は、公知のコーティング手法で良い。
【0038】
ハードコート層の厚みは、乾燥後の膜厚で5~50μmになるようにすることが好ましい。ハードコート層の厚みが上記下限以上であることで、樹脂材料が少なく経済性には優れているが、内側の着色層や熱可塑性樹脂フィルム、また、部材となった後の傷や薬品に対する保護性能を高度に維持することができる。一方で、上記厚みが上限以下であることで、ハードコート塗膜としての光沢の発現や保護性能という点で優れているものの、樹脂を必要以上使用することで経済性に優れない。好ましいハードコート層の厚みは、下限が10μm、より好ましくは15μmで、他方上限は40μmであり、より好ましくは35μmである。
【0039】
さらに、本発明の塗装代替フィルムにおけるハードコート層は、単層で構成しても良いし、複層で構成しても良い。例えば、2度同じ樹脂を複層でコーティングする際に、乾燥条件を異なるようにすることで硬化度合を調整することができ、結果、後述する保護フィルムとの密着性を確保しやすくなったり、保護フィルムからの転写を抑制したりすることができる。また、上述の範囲内で、複層化することで、光沢のある表面を発現させることもできる。
【0040】
本発明における塗装代替フィルムは、熱可塑性樹脂フィルム、着色層、ハードコート層をこの順で有し、必要に応じて表面改質層、防汚層、光輝材層など他の機能層を有していても良い。同様に、熱可塑性樹脂や、ハードコート層を必要に応じて、複層化することも可能である。
【0041】
[熱圧着]
鋼板は通常ロール状に巻きとられており、塗装代替フィルムもロール状で製品とすることができるため、それらを用いればロールtоロールでのラミネートが可能である。例えば、鋼板を加熱して、供給した塗装代替フィルムの熱可塑性樹脂フィルム側を熱圧着することで、鋼板にフィルムを貼り合わせすればよい。この時、熱可塑性樹脂フィルム内で、溶融および冷却固化を終了させるため、塗装代替フィルムを貼り合わせる際のラミネートロールは塗装代替フィルムを溶かさない程度に低温にしておくことが好ましい。つまり塗装代替フィルムを介して、鋼板側は加熱状態、ハードコート層側は冷却状態となることで、熱可塑性樹脂フィルム内で溶融と冷却固化を完了させることが可能となり、溶融樹脂内で界面混合が行われ、強固な接着力を有することが可能となる。
【0042】
また、さらに接着力を強固にするために、鋼板側もしくは熱可塑性樹脂フィルム側に表面改質層を付与することも好ましい態様である。
【0043】
熱圧着に用いられる鋼鈑は、車両の外装に使用されるものであればよい。一般に、成形性が良く、厚みが0.3~0.6mm程度の鋼材が使用されるため、そうしたグレードを使用することが好ましい。また、車両の外装に用いられる鋼材は、防錆状の処理として、亜鉛合金めっきを施されていること好ましい態様である。
【0044】
[プレス成型]
上記の熱圧着によって鋼板と積層体が一体化されたラミネート鋼板は、プレス成型される。プレス成型としては、先述の通り冷間プレスが好ましい。上述のラミネート鋼板で冷間プレス成形を行う際、鋼板の端部を高圧でホールドする張り出し成形であっても、低圧でホールドし、鋼板が成形によって吸い込まれていく成形であっても、上述のように熱可塑性樹脂フィルムを熱融着させることで金属部材の被覆が可能となる。
【実施例
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何等限定を受けるものではない。
(1)樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)
未延伸フィルムを20℃/minの昇温速度で室温から未延伸フィルムの融点より35℃高い温度まで昇温し、該温度で3分間溶融保持した後取出し直ちに氷の上に移して急冷し、そして再び20℃/minの昇温速度で昇温する方法で求めた。Tgの読み取り位置は、示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と,階段部分曲線の勾配が最大になるような点から引いた接線との交点の温度とする。
【0046】
[実施例1]
塗装代替フィルムを作成するため、まず熱可塑性樹脂フィルムを作成した。熱可塑性樹脂フィルムは、ジカルボン酸成分として2,6-ナフタレンジカルボン酸とグリコール成分としてエチレングリコールからなるポリエチレン-2,6-ナフタレート樹脂を用いた。該ポリエチレン-2,6-ナフタレート樹脂を180℃で5時間乾燥後、押出機に供給し、ダイからシート状に溶融押出した。シート状に押し出した後、冷却ロールでガラス化した後、130℃で縦延伸を行った後、130℃で横延伸を行い、面倍11倍の熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻きとった。
【0047】
得られた熱可塑性樹脂フィルムを巻出し、まず着色層をコンマコーターで塗工した。着色層にはバインダー成分にアクリルウレタン系樹脂、顔料にチタン粒子を20%含有し、不揮発成分が35%の溶剤塗料を用いた。厚み20μmになるように塗工を行い、90℃の乾燥炉で乾燥後巻き取りした。
【0048】
着色層を塗工した原反を再度繰り出し、続いて、ハードコート層を形成するため、後述のハードコート用塗料(HC-1)をコンマコーターにより不揮発成分で30%のHC-1を、15μm(硬化後の厚み)で塗工したのち、90℃の乾燥炉に設定して十分に乾燥を行い、巻き取り前に、ポリエチレンテレフタレート樹脂から成る二軸延伸フィルムを保護フィルムとして用い、ラミネートをして、ロール状に巻きとり、塗装代替フィルムを得た。
【0049】
得られた塗装代替フィルムを用いて後述する防錆性の評価A,Bを行ったところ、表1に示すとおり、優れた性能を有するものであった。
【0050】
<ハードコート用塗料(HC-1)>
冷却管、撹拌装置、温度計、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン(MIBK)を150部仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら昇温した。フラスコ内の温度が74℃になったらこの温度を合成温度として維持し、メタクリル酸メチル3部、メタクリル酸n-ブチル82.54部、アクリル酸-4-ヒドロキシブチル12.85部、メタクリル酸0.61部、ファンクリルFA-711MM(日立化成社製、メタクリル酸-ペンタメチルピペリジニル)を1部、アゾビスイソブチロニトリル0.1部を混合したモノマー溶液を2時間掛けて滴下した。モノマー滴下終了1時間後から1時間毎に、アゾビスイソブチロニトリルを0.02部ずつ加えて反応を続け、溶液中の未反応モノマーが1%以下になるまで反応を続けた。未反応モノマーが1%以下になったら冷却して反応を終了し、固形分約40%のアクリル系共重合体溶液を得た。このアクリル系共重合体溶液に、ポリイソシアネート化合物としてデュラネート「P301-75E」(旭化成ケミカルズ社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリイソシアネート体、以下、硬化剤1という)59.9質量部(固形質量)を加え、さらに固形分が30%となるようにメチルイソブチルケトン(MIBK)を加えて撹拌し、ハードコート用塗料(HC-1)を得た。
【0051】
[実施例2]
実施例1記載の塗装代替フィルムの熱可塑性樹脂フィルムをポリエチレン-2,6-ナフタレート樹脂と、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸と、グリコール成分としてエチレングリコールからなる共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いてなる2層積層フィルムとした以外は、実施例1と同様の方法で塗装代替フィルムを得た。ここで、2層積層フィルムは、ポリエチレン-2,6-ナフタレート樹脂を180℃で5時間、共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を160℃で4時間乾燥後、別々の押出機に供給し、フィードブロックを用いて2層に積層し、ダイからシート状に溶融押出した。
【0052】
得られた塗装代替フィルムを用いて後述する防錆性の評価A,Bを行ったところ、表1に示すとおり、優れた性能を有するものであった。
【0053】
[比較例1]
実施例1記載の塗装代替フィルムの熱可塑性樹脂フィルムをジカルボン酸成分としてテレフタル酸とグリコール成分としてエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート樹脂に変更した以外は、実施例1と同様の方法で塗装代替フィルムを得た。ここで、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、160℃で4時間乾燥後、押出機に供給し、ダイからシート状に溶融押出した。シート状に押し出した後、冷却ロールでガラス化した後、90℃で縦延伸を行った後、100℃で横延伸を行い、面倍11倍の熱可塑性樹脂フィルムをロール状に巻きとった。
【0054】
得られた塗装代替フィルムを用いて後述する防錆性の評価A,Bを行ったところ、表1に示すとおり、防錆性が悪化した。
【0055】
[比較例2]
実施例1記載の塗装代替フィルムの熱可塑性フィルムを、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で塗装代替フィルムを得た。
【0056】
得られた塗装代替フィルムを用いて後述する防錆性の評価A,Bを行ったところ、表1に示すとおり、防錆性が悪化した。
【0057】
[防錆性の評価A]
実施例1、2および比較例1、2で得られた塗装代替フィルムを、めっき鋼板JAC270F45/45にラミネートを行い、ラミネート鋼板を作成した。具体的には、塗装代替フィルムをアンワインド(巻出し)し、鋼板を290℃に加熱して導き、ラミネートロールを常温にして、0.3MPaの圧力でフィルムと熱圧着によりラミネートをおこなった。ラミネートされたラミネート鋼鈑は、冷却水で急冷し、ラミネート鋼板を得た。
【0058】
得られたラミネート鋼板における塗装代替フィルムには、カッターナイフの刃先で鋼板の下地に達するように交差する2本の対角線(スクラッチマーク)を引いた。該ラミネート鋼板に対し、5w/v%の中性塩化ナトリウム溶液(食塩水)のミストを噴霧させ、同雰囲気中35℃でラミネート鋼板を96時間保持し、以下の基準で目視評価した。
〇:全10個のうち、いずれもスクラッチマークの部分のみ鋼板が錆びるものの、明瞭な拡大はない
△:全10個のうち、いずれかでスクラッチマークの部分の鋼板錆びに明瞭な拡大がみられる
×:全10個のうち、いずれかでスクラッチマークの部分に加え、それ以外の部分でも錆びが発生し、かつフィルムの剥離が発生
【0059】
[防錆性の評価B]
防錆性の評価Aと同様の方法で得られたラミネート鋼板における塗装代替フィルムに、カッターナイフの刃先で鋼板の下地に達するように交差する2本の対角線(スクラッチマーク)を塗装代替フィルムに引いき、該ラミネート鋼板をレトルト釜に入れ、3%酢酸+2%食塩水を満注し、125℃の加圧水蒸気で90分間レトルト処理を施した。ラミネート鋼板を取り出して、その状態を目視確認した。
〇:全10個のうち、いずれもスクラッチマークの部分のみ鋼板が錆びるものの、明瞭な拡大はない
△:全10個のうち、いずれかでスクラッチマークの部分の鋼板錆びに明瞭な拡大がみられる
×:全10個のうち、いずれかでスクラッチマークの部分に加え、それ以外の部分でも錆びが発生し、かつフィルムの剥離が発生
【0060】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の塗装代替フィルムは、鋼板に貼り合わせて成形加工した後に、鋭利な機械刺激によってフィルムにクラックが入っても、加飾外観を維持することに優れることから金属に貼合せた後に鋭利な機械刺激が加わることにより塗装代替フィルム自体にクラックが入ったとしても、そこを起点に金属部材に錆びが発生しづらく、更に錆びが周辺部まで拡大しづらい高度な防錆性を具備するため、自動車の外装部品等の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 塗装代替フィルム
11 熱可塑性樹脂フィルム
11A 耐熱樹脂層
11B 低TG樹脂層
11C 接着層
12 着色層
13 ハードコート層
14 クリア層
図1
図2
図3
図4