(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/49 20070101AFI20240110BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240110BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/48 M
(21)【出願番号】P 2019170751
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田重田 稔久
(72)【発明者】
【氏名】丸山 宏二
(72)【発明者】
【氏名】ラクスマン マハルジャン
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/193606(WO,A1)
【文献】特開2012-010542(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002319(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/211624(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/077983(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の交流出力端子をそれぞれ有し、前記一対の交流出力端子を介して直列に接続される複数のセル変換器を備え、
前記複数のセル変換器は、それぞれ、
コンデンサと、前記コンデンサと前記一対の交流出力端子との間に接続される電力変換回路と、前記一対の交流出力端子の間に接続される半導体スイッチと、前記複数のセル変換器のうち自身のセル変換器の故障が検出された場合に前記半導体スイッチをオンにする駆動回路とを有し、
前記故障が検出された場合、前記一対の出力端子に流れる電流は、前記半導体スイッチを経由し、
前記駆動回路が前記半導体スイッチをオンにすると、前記半導体スイッチを壊す電流を前記半導体スイッチに流して、前記半導体スイッチのオン状態を維持させる、電力変換装置。
【請求項2】
前記半導体スイッチは、圧接型のスイッチである、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記半導体スイッチの最大電流は、前記電力変換回路を構成するスイッチング素子の最大電流よりも低い、請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記複数のセル変換器は、それぞれ、前記コンデンサからの電力に基づいて前記駆動回路に給電する給電回路を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記複数のセル変換器のそれぞれを監視する制御部を備え、
前記駆動回路は、前記故障が前記制御部により検出された場合、前記半導体スイッチをオンにする、請求項1から4のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記電力変換回路は、複数のスイッチング素子を有するフルブリッジ回路である、請求項1から5のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大容量・高圧用途に適した次世代トランスレス電力変換器として、モジュラーマルチレベルコンバータ(MMC)がある。MMCは、例えば、無効電力補償装置(STATCOM)や直流送電システム(HVDC)に適用可能である。MMCの回路方式として、例えば特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MMCは、直列に接続される複数のセル変換器(コンバータセル又はインバータセルとも称する)を備える電力変換装置である。しかしながら、直接に接続される複数のセル変換器のうち一つでも故障すると、電力変換装置の運転を継続することが難しい。
【0005】
本開示は、セル変換器の故障時に運転を継続可能な電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
一対の交流出力端子をそれぞれ有し、前記一対の交流出力端子を介して直列に接続される複数のセル変換器を備え、
前記複数のセル変換器は、それぞれ、
コンデンサと、前記コンデンサと前記一対の交流出力端子との間に接続される電力変換回路と、前記一対の交流出力端子の間に接続される半導体スイッチと、前記複数のセル変換器のうち自身のセル変換器の故障が検出された場合に前記半導体スイッチをオンにする駆動回路とを有する、電力変換装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、セル変換器の故障時に運転を継続可能な電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態における電力変換装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施形態を図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、一実施形態における電力変換装置の構成例を示す図であり、MMCの回路構成の一例を示す。
図1に示す電力変換装置101は、U相アーム部102、V相アーム部103、W相アーム部104、リアクトル105(105a,105b,105c)及び制御部106を備える。
【0011】
U相アーム部102は、一対の交流出力端子a,bを介して直列にカスケード接続される複数のセル変換器102a,102b,102cを有する。V相アーム部103は、一対の交流出力端子a,bを介して直列にカスケード接続される複数のセル変換器103a,103b,103cを有する。W相アーム部104は、一対の交流出力端子a,bを介して直列にカスケード接続される複数のセル変換器104a,104b,104cを有する。セル変換器の直列接続数は、3以外の数でもよい。
【0012】
複数のセル変換器102a,102b,102c,103a,103b,103c,104a,104b,104cは、それぞれ、一対の交流出力端子a,bをそれぞれ有し、一対の交流出力端子a,bを介して直列に接続される。複数のセル変換器は、それぞれ、自身の第1の交流出力端子aが、自身に隣接する一方のセル変換器の第2の交流出力端子bに接続され、自身の第2の交流出力端子bが、自身に隣接する他方のセル変換器の第1の交流出力端子aに接続される。
【0013】
U相アーム部102、V相アーム部103、W相アーム部104は、リアクトル105a,105b,105cを介してデルタ結線されており、系統200に連系している。系統200への連系は、図示しない変圧器を介してもよい。デルタ結線は、デルタ結線内に循環電流が流れるので、制御部106は、この循環電流を複数のセル変換器102a,102b,102c,103a,103b,103c,104a,104b,104cによって制御することにより、逆相無効電流を調整できる。なお、
図1は、デルタ結線を例示するが、U相アーム部102、V相アーム部103、W相アーム部104は、スター結線されてもよい。
【0014】
複数のセル変換器102a,102b,102c,103a,103b,103c,104a,104b,104cは、それぞれ、少なくとも一つのスイッチング素子を有する電力変換回路と、その電力変換回路を動作させる駆動回路部とを有する。スイッチング素子は、例えば、トランジスタと、そのトランジスタに逆並列に接続されるダイオードとを有する。トランジスタの具体例として、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などが挙げられる。
【0015】
電力変換装置101は、各セル変換器が互いに異なる位相で電圧波形を出力することで、スイッチング素子の耐圧以上の電圧を有し、且つ、高調波が低減されたマルチレベル電圧波形を出力できる。そのため、電力変換装置101は、例えば、特別高圧系統に直接連系する無効電力補償装置や直流送電システムなどに適用可能である。
【0016】
複数のセル変換器102a,102b,102c,103a,103b,103c,104a,104b,104cは、互いに同一の構成を有する。
【0017】
図2は、セル変換器の第1の構成例を示す図である。
図2に示すセル変換器111は、複数のセル変換器102a,102b,102c,103a,103b,103c,104a,104b,104cのそれぞれの第1の構成例である。セル変換器111は、コンデンサ5における直流電力を交流電力に変換して一対の交流出力端子a,bに出力でき、一対の交流出力端子a,bから入力される交流電力を直流電力に変換してコンデンサ5に供給できる。
【0018】
セル変換器111は、一対の交流出力端子a,b、コンデンサ5、電力変換回路28、GDU(Gate Drive Unit)6~9,12、半導体スイッチ11及び給電回路10を備える。
【0019】
電力変換回路28は、コンデンサ5と一対の交流出力端子a,bとの間に接続され、直流と交流との間で双方向に電力を変換するインバータ回路である。電力変換回路28は、コンデンサ5に並列に接続されている。
図2には、複数のスイッチング素子1~4を有するフルブリッジ回路が例示されている。フルブリッジ回路は、スイッチング素子1,2が直列に接続される回路と、スイッチング素子3,4が直列に接続される回路とが並列に接続された構成を有する。電力変換回路28は、フルブリッジ回路に限られず、例えば、ハーフブリッジ回路でもよい。上アームのスイッチング素子1と下アームのスイッチング素子2との間の接続点に、第1の交流出力端子aが接続され、上アームのスイッチング素子3と下アームのスイッチング素子4との間の接続点に、第2の交流出力端子bが接続される。
【0020】
図2に例示するスイッチング素子1~4は、ダイオードが逆並列に接続されたIGBTであるが、MOSFETやサイリスタ等のスイッチング機能を有するスイッチング素子でもよい。
【0021】
スイッチング素子と逆並列ダイオードとのうち少なくとも一方は、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)やGa2O3(酸化ガリウム)やダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ半導体を含む素子であることが好ましい。ワイドバンドギャップ半導体をスイッチング素子に適用することにより、スイッチング素子の損失低減の効果が高まる。なお、スイッチング素子は、Si(シリコン)などの半導体を含む素子でもよい。同様に、ワイドバンドギャップ半導体を含む素子をダイオードに適用することにより、ダイオードの損失低減の効果が高まる。なお、ダイオードは、Si(シリコン)などの半導体を含む素子でもよい。
【0022】
GDU6~9は、制御部106(
図1参照)からの制御信号に従って、複数のスイッチング素子1~4のうち対応するスイッチング素子のゲート-エミッタ間に電圧を印加することで、当該対応するスイッチング素子をオンまたはオフにするゲート駆動部である。
【0023】
給電回路10は、コンデンサ5からの電力に基づいて、スイッチング素子1~4及び半導体スイッチ11を駆動するGDU6~9,12に給電する自己給電回路である。
【0024】
一対の交流出力端子a,bの間には、セル変換器111を短絡してバイパスする半導体スイッチ11が接続される。GDU12は、直列に接続される複数のセル変換器のうち自身のセル変換器111の故障が検出された場合に半導体スイッチ11をオンにする駆動回路である。当該故障が検出された場合に半導体スイッチ11がオンになることで、
図1のように直列に接続される複数のセル変換器のうち任意のセル変換器が故障しても、電力変換装置101の運転を継続できる。当該故障が検出された場合、一対の交流出力端子a,bに流れる電流は、半導体スイッチ11を経由するので、故障したセル変換器111の電力変換回路28に電流が流れることを防止できる。
【0025】
例えば、制御部106は、複数のセル変換器のそれぞれを監視する。GDU12は、自身のセル変換器111の故障が制御部106により検出された場合、制御部106からの指令信号に従って半導体スイッチ11をオンにする。制御部106は、例えば、スイッチング素子1~4のそれぞれに異常な印加電圧が検出された場合、あるいは、コンデンサ5に異常な印加電圧が検出された場合、半導体スイッチ11をオンにする。
【0026】
図3,4は、バイパス用の半導体スイッチ11の構成例を示す。
図3のように、2つのサイリスタ13,14を逆並列に接続する構成や、
図4のように2つのIGBT15,16を逆直列に接続する構成がある。一対の交流出力端子a,b間のバイパスをオフするときは、各素子をオフにし、バイパスをオンするときは、各素子をオンすることで、バイパス機能を実現できる。半導体スイッチ11の構成は、これらに限られない。
【0027】
また、半導体スイッチ11の故障モードは、例えば、短絡故障であることが好ましい。GDU12が半導体スイッチ11をオンにすると、半導体スイッチ11を壊す電流を半導体スイッチ11に流して、半導体スイッチ11のオン状態を維持させる。これにより、GDU12の動作電源がセル変換器111の故障により喪失しても、故障したセル変換器111をバイパスして、電力変換装置101の動作を継続できる。つまり、半導体スイッチ11を常時オンさせる信号を継続的に供給できなくても、バイパス状態を維持できる。
【0028】
故障モードが短絡故障となる半導体スイッチ11として、例えば、プレスパック素子が挙げられる。
【0029】
例えば、コンデンサ5からGDU12へ給電する場合、セル変換器の故障によってコンデンサ5への電力供給が途絶え、コンデンサ5のエネルギーがほとんどなくなる。その結果、コンデンサ5のエネルギーを利用して半導体スイッチ11のオン状態を維持する形態では、バイパス用の半導体スイッチ11のオン状態を維持できなくなる。そこで、バイパス用の半導体スイッチ11に、半導体スイッチ11が許容する最大電流Ipを超える電流を流して、半導体スイッチ11を壊し、オン状態を維持する。半導体スイッチ11が許容する最大電流Ipは、例えば、電力変換回路28を構成するスイッチング素子1~4が許容する最大電流Iqよりも低い。最大電流Ipよりも大きく且つ最大電流Iq以下の電流が電力変換回路28に流れているときに、半導体スイッチ11をオフからオンにして、半導体スイッチ11に最大電流Ipを超える電流を流すことで容易に壊すことができる。また、半導体スイッチ11に流れる電流を制御することによって、過大な電流が半導体スイッチ11に流れることを防止できる。半導体スイッチ又はスイッチング素子が許容する最大電流とは、例えば、破壊又は劣化を抑制する上で許容できる電流を表し、定格電流でもよいし、定格電流とは別に設定される電流でもよい。
【0030】
このように、セル変換器のバイパス手段として圧接型の半導体スイッチを用いて、そのスイッチに最大電流を超える電流を流し、そのスイッチを壊して短絡する構成を採用することで、そのスイッチを壊した後は、GDU12へ常時供給する必要がなくなる。これにより、セル変換器が故障したときでも、バイパス状態を維持することができる。
【0031】
図5は、給電回路10の構成例を示す図である。給電回路10は、抵抗10a,10bと、ダイオード10cと、容量素子10dとを有する。容量素子10dは、半導体スイッチ11のオンに必要な電力を維持できる程度の容量を有し、コンデンサ5からの電力で充電される。セル変換器が故障して、コンデンサ5の電圧が零になっても、容量素子10dに電荷(エネルギー)が残っているので、その残ったエネルギーを利用して、GDU12は半導体スイッチ11をオンにできる。
【0032】
なお、各GDUへの給電方式は、
図2に示す給電回路10に限られない。
図6に示すセル変換器112は、各GDUのそれぞれに対して設けられた給電回路21~25を備える。給電回路21~24は、それぞれ、対応するスイッチング素子1~4の素子端から電力供給を受ける。給電回路25は、半導体スイッチ11の素子端(一対の交流出力端子a,b)から電力供給を受ける。
図7に示すセル変換器113は、一対の交流出力端子a,bに接続されるトランス27を介して供給される電力に基づいて、各GDUに給電する給電回路26を有する。給電回路21~26は、例えば、
図5に示す回路構成を有する。
【0033】
以上、電力変換装置を実施形態により説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。他の実施形態の一部又は全部との組み合わせや置換などの種々の変形及び改良が、本発明の範囲内で可能である。
【符号の説明】
【0034】
1~4 スイッチング素子
5 コンデンサ
6~9,12 GDU
10,21~26 給電回路
11 半導体スイッチ
13,14 サイリスタ
27 トランス
28 電力変換回路
101 電力変換装置
102 U相アーム部
103 V相アーム部
104 W相アーム部
105 リアクトル
102a,102b,102c セル変換器
103a,103b,103c セル変換器
104a,104b,104c セル変換器
106 制御部
111,112,113 セル変換器
200 系統