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  • 特許-薄膜、及び薄膜転写シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】薄膜、及び薄膜転写シート
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/02 20060101AFI20240110BHJP
   A61K 8/85 20060101ALI20240110BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240110BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240110BHJP
   A45D 44/22 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
A61K8/02
A61K8/85
A61Q19/00
B32B9/00 Z
A45D44/22 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019181970
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021054776
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】森島 菜摘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 優一郎
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/058066(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/173198(WO,A1)
【文献】特開2014-140978(JP,A)
【文献】木村 穣、ほか,有効成分の体内動態を制御する機能性化粧品への生体適合性超薄膜の適用性評価,東海大学先進生命科学研究所紀要,2017年03月,第1巻,54-57頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
B32B 1/00-43/00
A45D 44/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性材料からなり、0.001g/m以上5g/m以下の単位面積当たり平均質量を有する薄膜であって、
該薄膜を通過する水分蒸散量に関する閉塞率が、5%以上54%以下であり、
該薄膜の表面に存在する凹凸又はなみうちの面積比率を表す傷率が、2%以上30%以下であることを特徴とする薄膜。
【請求項2】
生体適合性材料からなり、0.6g/m以上5g/m以下の単位面積当たり平均質量を有する薄膜であって、
該薄膜を通過する水分蒸散量に関する閉塞率が、5%以上54%以下であり、
該薄膜の表面に存在する凹凸又はなみうちの面積比率を表す傷率が、2%以上30%以下であることを特徴とする薄膜。
【請求項3】
前記薄膜が多層膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜。
【請求項4】
前記薄膜は、機能性物質を含有する層を含むことを特徴とする請求項に記載の薄膜。
【請求項5】
前記機能性物質は、エモリエント剤またはヒューメクタント剤、もしくはその両方を含有することを特徴とする請求項に記載の薄膜。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の薄膜と、前記薄膜を支持する支持体と、を備えたことを特徴とする薄膜転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保湿効果を有する薄膜、及び薄膜転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体器官の表面に対する接着性や柔軟性等の特性に着目して、薄膜を、皮膚や臓器の表面に貼り付けて利用することが試みられている。例えば、薄膜が創傷の被覆材として利用可能であることが報告されている(非特許文献1参照)。
【0003】
一方、薄膜単独では、取り扱いが悪いため、薄膜転写シートが提案されている。薄膜転写シートとは、薄膜と、薄膜を支持する基材からなる支持体とを備えるシートであり、薄膜を被転写体に転写するために用いられる(特許文献1参照)。
具体的には、支持体上の薄膜の表面を、被転写体における薄膜の貼付箇所に押し付けた後、薄膜から支持体を剥離することによって、薄膜を被転写体に転写する。(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-19116号公報
【文献】特開2015-16612号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】T.Fujie et al.,Adv.Funct.Mater.,2009年,19巻,2560-2568頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
皮膚は身体の最表面を覆い、外部環境から生体を守り恒常性を維持するための重要な臓器である。しかし同時に、物理的刺激、化学的刺激、内部影響など、様々な障害因子に対峙してしまうことや、加齢や内臓疾患による対応力、耐久性の低下により、恒常性の異常を生じやすい。恒常性の異常が慢性化してしまうと、角層の減少や、皮脂量の増減が生じ、痒みや赤みが伴うことや、角層が剥がれ痛みが生じる可能性がある。
そのため、皮膚の構造及び、機能を保つための保湿が重要である。したがって、薄膜を皮膚に貼付する場合においても、皮膚の構造や機能を保つために、保湿できることが重要となる。
【0007】
そこで、本発明は、皮膚の水分蒸散量を過剰妨害せずに直接皮膚へ貼付できる、保湿性を有する薄膜転写シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する薄膜は、0.001g/m以上5g/m以下の単位面積当たり平均質量を有する薄膜であって、該薄膜を通過する水分蒸散量に関する閉塞率が、5%以上60%以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本薄膜は、前記薄膜の表面に存在する凹凸又はなみうちの面積比率を表す傷率が、0.05%以上30%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本薄膜は、生体適合性材料からなることを特徴とする。
【0011】
また、本薄膜は多層膜でもよく、多層膜内に機能性物質を含有する機能層を有していてもよい。機能層にはたとえば、エモリエント剤またはヒューメクタント剤、もしくはその両方を含有する保湿機能を有する層を含むことを特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決する薄膜転写シートは、前記記載の薄膜と、前記薄膜を支持する支持体と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成によれば、薄膜が貼り付けられた部分にて、皮膚からの水分蒸散量が、健康な皮膚を有する場合に生じる、正常水分蒸散量に抑えられる。これにより、良好な保湿性が得られる。したがって、美容用途における薄膜の有用性が高められる。
【0014】
また上記構成において、薄膜の閉塞率は、皮膚からの水分蒸散量及び、皮膚呼吸を過剰に妨害しない。したがって、薄膜と皮膚間に蒸れが発生しないため、蒸れによる赤みや痒みを生じない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の転写シートの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のある実施形態に係る薄膜転写シートについて、図面を参照しつつ説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識を基に設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた形態も、本発明の範囲に含まれる。また、各図面は、理解を容易にするため適宜誇張して表現している場合がある。
【0017】
また、本発明における、正常水分蒸散量及び、良好な角層水分量とは、健康であり、肌荒れの可能性が低い前腕内側部における水分蒸散量及び、角層水分量と同等な数値を意味する。
本発明の薄膜による閉塞率調整により、水分蒸散量から示される皮膚バリア性を正常に近づけ、角層水分量を維持もしくは向上させる効果を有する。その結果として本発明の薄膜は、正常皮膚状態を維持し、しかも薄膜であるため、既存化粧品と比較してベタつきや衣服等への布移りが生じない皮膚保湿作用を有する商材となる。
【0018】
なお、本発明における閉塞率とは、薄膜における物質の透過性の低さを示すパラメータである。具体的には、閉塞率は、薄膜が配置された箇所での、ヒトの体温と等しい温度を有する水分の蒸散量を、薄膜が配置されない場合の水分蒸散量に対して抑える割合である。
その計算式は、下式(1)
閉塞率=(初期値-サンプル値)/初期値 × 100(%) ・・・式(1)
で表される。
【0019】
[薄膜転写シートの基本構成]
図1に示すように、本発明の実施形態に係る薄膜転写シート1は、薄膜2と、薄膜2を支持する機能を有する支持体3と、を備える。薄膜転写シート1において、薄膜2が有する2つの面のうち一方の面である第1面2aは支持体3の第1面3aに密着している。つまり、薄膜転写シート1は、薄膜2の第1面2aと支持体3の第1面3aとを密着させて積層した積層体として構成されている。
【0020】
薄膜2が有する2つの面のうち他方の面である第2面2bは外気に露出されている。薄膜2の第2面2bは、薄膜転写シート1の使用時において被転写体に接触させる面である。また、支持体3が有する2つの面のうち、第1面3aの反対側の面であって外気に露出されている第2面3bは、薄膜転写シート1の使用時における薄膜転写シート1の移動、転写等にあたり、使用者が手で触れる面である。
【0021】
本実施形態に係る薄膜転写シート1の用途の一例としては、スキンケアやメイクアップ、創傷の治癒等を目的とした生体への薄膜2の転写等が想定される。
【0022】
[薄膜転写シートの各層の特性]
ここで、本実施形態による薄膜転写シート1を構成する各層の詳細な構成について説明する。
【0023】
(薄膜)
薄膜2は、被転写体に対する接着性を発現する程度の薄さを有する。ただし、ここで例えば薄膜2の質量を0.001g/m未満とするのは技術的に困難であり、加えて、例えば上記用途における膜強度が不十分である。また、薄膜2の質量が5g/mを超過すると、被転写体との密着性が低下するとともに、被転写体において、蒸れの発生、外観や装着感に違和感を生じる。
【0024】
したがって、本実施形態による薄膜転写シート1において、薄膜2の単位面積当たり質量は、0.001g/m以上5g/m以下が好ましい。
薄膜2の質量が上述の範囲内(以下、適正範囲内という)であれば、製造における技術的な課題及び、使用感に問題なく、接着層を用いずとも、薄膜2自体を被転写体の表面に転写して貼り付けることができる。
なお、上述の適正範囲における薄膜2の単位面積当たり質量とは、複数の測定点で測定された重さを算出した薄膜2の膜厚の平均値に膜密度を掛けた値である。
【0025】
また、薄膜2は、単一の薄膜から構成された層であってもよいし、複数の薄膜から構成された層であってもよい。例えば、肌などの被転写体に接触する層に、保湿成分であるエモリエント剤またはヒューメクタント剤、もしくはその双方を含有させた薄膜層を積層することや、エモリエント剤またはヒューメクタント剤、もしくはその双方を含有している層を挟み込むように積層することが可能である。
【0026】
保湿成分は特に限定しないが、閉塞機能を有するエモリエント剤には、例えば、ワセリン、スクワラン、流動パラフィン、オリーブ油、トリカプリル/カプリン酸グリセリル、ホホバ油、シア油、トリエチルヘキサノイン、シリコンオイルなどが挙げられる。保水機能を有するヒューメクタント剤には、例えば、グリセリン、1-3-ブチレングリコール、1-2プロパンジオール、ヒアルロン酸などが挙げられる。
【0027】
また、薄膜2は、被転写体において所定の機能を発揮する物質である機能性物質を含有していてもよい。被転写体が皮膚である場合、機能性物質は、例えば保湿クリームや美容液等のスキンケアに用いられる化粧料あるいは化粧料成分、色素、薬剤、タンパク質、および、酵素等である。薄膜2は、機能性物質を1種類のみ含有していてもよいし、2種類以上を含有していてもよい。また、機能性物質を含有する層を積層していてもよい。
なお、化粧料の含有により薄膜のベトつきや衣服等への布移りが生じないよう、濃度を限定するか、化粧料が含有していない薄膜を積層することが好ましい。
【0028】
ここで、薄膜2が被転写体に対する接着性を発現する程度の薄さを有することを、質量に代えて薄膜2の膜厚で表すと、例えば、薄膜2の単位面積あたりの質量が0.001g
/mであるとき、薄膜2は1nmの膜厚となる。また、薄膜2の単位面積あたりの質量が5g/mであるとき、薄膜2は5μmの膜厚となる。当該質量は、薄膜2の第1面2aにて1mの面積を有する部分あたりの薄膜2の質量である。薄膜2の単位あたりの質量が上述の適正範囲内であれば、粘着層を用いずとも、薄膜2を被転写体の表面に貼り付けることができる。
【0029】
薄膜2を構成する材料は、上述の適正範囲の厚さ、又は質量の薄膜2を構成可能な材料であればよく、さらに薄膜転写シート1の用途から、毒性、皮膚刺激性、皮膚感作性の低い生体適合性材料が好ましい。
具体的には、薄膜2の生体適合性材料として、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンのようなポリエステル及びそれらの共重合体、さらには、化粧品の皮膜形成剤として使用される樹脂、例えば、アクリル樹脂やシリコーン及びそれらの共重合樹脂、酢酸セルロースや酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロースなどのセルロース誘導体、医療機器での使用実績の多い樹脂であるポリカーボネイト、シクロオレフィンコポリマー、スチレン・ブタジエン系エラストマー、ポリイミドが使用可能である。
さらには、タンパク質であるラミニン、フィブロネクチン、インテグリン、テネイシン、アルブミン、ケラチン、コラーゲン、ゼラチン、多糖類であるキチン、キトサン、ヒアルロン酸、グルコマンナン、プルラン、デキストラン、サクランなどが使用できる。
タンパク質や多糖類は水により膨潤、溶解及び、分解を生じるものが多いが、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーとを混合または積層化することでイオンコンプレックスを形成でき、耐水性の向上が可能である。
【0030】
薄膜2は、これらの材料のうち単体で形成してもよいし、複数を混合して形成してもよい。また、薄膜2の材料における分子量の制限は特になく、薄膜2は、上述の材料のうち所定の平均分子量を有する1種類または複数種類の材料から構成されていてもよい。
【0031】
成膜方法としては、成膜用基材の表面に、薄膜を形成する。本実施形態において薄膜転写シートとして使用される薄膜の材料としては、前述した材料が用いられる。成膜用基材としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、水溶性樹脂等から構成された樹脂シートが用いられる。
【0032】
詳細には、溶媒により溶かされた薄膜の材料で形成された塗液が、成膜用基材の表面に塗布され、その塗液が乾燥されることによって、薄膜が形成される。上記塗液の溶媒としては、薄膜の材料の特性に応じて、非極性溶媒、プロトン性極性溶媒あるいは非プロトン性極性溶媒が用いられる。非極性溶媒としては、ベンゼン及び、ヘキサンが挙げられる。プロトン性極性溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、及び、酢酸等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、エチルメチルケトン、アセトン、及び、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0033】
上記塗液の塗布方法は、薄膜の厚さに塗膜を形成可能な方法であれば特に限定されない。塗布方法としては、例えば、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、スピンコート法、スプレーコート法、ワイヤーバーコート法、ダイコート法を適宜選択して用いる。
【0034】
上述のように成膜用基材の表面に薄膜2を積層した後、薄膜2の上に支持体3を積層し、その後に成膜用基材を剥離することによって、本発明に係る薄膜転写シート1を得ることができる。
【0035】
(支持体)
支持体3には、特に制限はないが、樹脂基材もしくは、多孔質基材を用いることが好ま
しい。より好ましい多孔質基材は、内部に微小な多数の間隔を有する基材であり、液体を透過させることができる。
支持体3として用いることのできる多孔質基材としては、例えば、不織布、紙、編物、織物等の繊維材料から形成されるシート、メッシュ状のように間隔を含む構造を有する樹脂シート等が挙げられる。
これらの多孔質基材のなかでも、水分を速やかに吸収して拡散できることから、支持体3には不織布が好適に用いられる。不織布を構成する繊維は、例えば、綿、麻、羊毛、パルプ等の天然繊維、ポリエステルやポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維である。上記の繊維のなかでも、天然繊維、特に綿及び、パルプが好適に用いられる。不織布は、1種類の繊維から構成されていてもよいし、2種類以上の繊維から構成されていてもよい。
【0036】
支持体3として用いる不織布の製造方法は特に限定されず、例えば、湿式もしくは、乾式で作製したウェブに対して、スパンレース法、スパンボンド法、ニードルパンチ法、メルトブロー法、エアレイ法、フラッシュ紡糸法、及び、樹脂接着法等によって製造された不織布を適宜選択して用いることができる。
なお、支持体3は、多孔質基材に限らず、内部に間隔を有さない樹脂シートや金属箔等の基材から構成されていてもよい。
【0037】
[薄膜転写シートの特性]
薄膜転写シートにおける保湿効果を有するための、薄膜の閉塞率の好適な範囲について述べる。
【0038】
現在まで、保湿美容を行う製品は、化粧水、乳液、クリーム等の、ヒューメクタント剤及び、ワセリン、オイル等の、エモリエント剤を含有するものが多かった。しかし、含有量を増加させると機能は向上するが、ベタつきや、衣服等への布移りが発生することや、それによる再塗布の作業が課題である。
【0039】
また、皮膚の保湿性を保つために、閉塞性が必要となるが、布移り防止のために、保湿美容剤上に閉塞性の高いポリ塩化ビニリデン及び、ポリエチレンフィルムを貼付すると、皮膚からの水分の蒸散を過剰に防止してしまうため、皮膚とポリ塩化ビニリデン及び、ポリエチレンフィルム間で蒸れが発生してしまう。さらに、皮膚からの水分蒸散量の過剰防止による蒸れによって、皮膚に赤みや痒みが発生してしまう。したがって、皮膚を正常に保つためには、適切な保湿が必要となる。
【0040】
皮膚の保湿を目的とする場合、薄膜の閉塞率が5%以上60%以下であることが好ましい。このような閉塞率を満たす場合、皮膚からの水分蒸散量を過剰に妨害することなく、皮膚を保湿することが可能である。このような薄膜であれば、ベタつきや衣服等への布移りが発生せず、蒸れによって皮膚に赤みや痒みが発生することもない。
【0041】
上記閉塞率は、目的の閉塞率に調整することが可能である。閉塞率は、薄膜2の材料もしくは、分子量の変更、薄膜2の厚みの変更、薄膜2に添加する添加剤の有無、薄膜2に対してのエンボス加工及び、薄膜2を塗工する基材の表面粗さの変更などにより生じる薄膜2の傷率の変動により、調整可能である。前記閉塞率の調整は、1つまたは2つ以上の手法を組み合わせでもよい。
【0042】
本発明において、上記閉塞率は、傷率の変更によって調整を行っている。
薄膜2の傷とは、正常な状態では平坦であるはずの薄膜2表面に生じた微細ななみうち(波打ち)や、それを含む窪み部などの凹凸全般を示す。薄膜の傷は、主に薄膜2の材料、製造時の加工、基材及び、支持体との接触、搬送工程により生じる。また、傷率とはこのような傷の面積比率を表すが、具体的な測定方法については後述する。
傷率の調整は、具体的には、例えば成膜用基材の表面粗さの調整により行うことができる。
【0043】
上記理由により、薄膜は複数の窪み部を有している。複数の窪み部は、有底部及び貫通部との双方を含む場合もあり、有底部及び貫通部のいずれか一方のみから構成されている場合もある。
【0044】
(閉塞率の測定方法)
本実施形態において、閉塞率は下記の(1)~(5)に示す手順で行う方法によって測定される。この場合の閉塞率とは、薄膜による、水分蒸散量に関する閉塞性を表すものであり、その値は前述の式(1)により算出される。
【0045】
(1)37℃に加熱、保温したウォーターバスの温水をタイトボックス (サンプラテック製) 内に循環させる。タイトボックスにガラスサンプル瓶を入れ、ガラスサンプル瓶に、ガラスサンプル瓶の開口から垂直方向に4cm離れる位置まで、37℃の温水を入れる。
【0046】
(2)上記(1)におけるガラスサンプル瓶の開口に、直径10mmの穴をあけたプラスチック板を置き、上記穴に、PTFEメンブレンフィルター (メルクミリポア社製、孔径:10μm、直径:25mm、白色無地) を被せて、5分間、放置する。
【0047】
(3)経皮水分蒸散量測定器(ASCH JAPAN社製:VAPO SCAN AS-VT100RS) を用い、プローブを直径10mmに合わせて、上記(2)の操作後のプラスチック板の穴の位置での水分蒸散量を、メンブレンフィルター上にて側手し、測定した値を初期値とする。即ち、この場合の初期値とは、薄膜がない場合の水分蒸散量に相当する。
【0048】
(4)上記(2)におけるメンブレンフィルター上に、薄膜がメンブレンフィルターに接するように、転写シートを乗せて指で転写シートを押さえてメンブレンフィルターの転写シートを貼り付ける。そして、薄膜から支持基材を剥がし、5分放置する。
【0049】
(5)上記経皮水分蒸散量計測器を用い、上記(3)と同様に、上記(4)の操作後のプラスチック板の穴の位置での水分蒸散量を、薄膜にて測定し、測定した値をサンプル値とする。そして閉塞率を、前記式(1)により算出する。
【0050】
以上、本実施形態による薄膜転写シートにおける閉塞率の測定方法を説明した。
上述のように、閉塞率は調整することが可能である。本発明における閉塞率は傷率の変動により調整を行っており、薄膜への傷によって、皮膚の水分蒸散量を過剰に妨害することなく、適度な閉塞を保つことが可能である。
また、薄膜への傷率は、調整できる手法が多く、細かく数値差を得られるため、閉塞率変動に有効である。このように、適度な閉塞率を担保する傷率調整薄膜により、皮膚に対して適度な保湿効果を与え、蒸れにくいという機能を有する薄膜を取得できる。
【0051】
傷率が大きいと薄膜の水分蒸散量が増加し、上記閉塞率の式によればサンプル値が大きくなるため、閉塞率は低下することがわかる。
したがって閉塞率は、傷の面積比率と相関を有する。すなわち、傷の面積比率が増加すると、閉塞率は低下する。
傷の面積比率が30%以下であると、5%以上の閉塞率が得られやすく、すなわち、薄膜の貼り付けられた部分にて良好な保湿性が得られる。また、傷の面積比率が20%以下であると、10%以上の閉塞率が得られやすく、すなわち保湿性がより高められる。
閉塞性が極端に高くなることを抑えるため、すなわち、蒸れを抑えるためには、傷の面積比率が0.05%以上であることが好ましい。窪み部の面積比率は上記傷率測定において算出される。
【0052】
このように、薄膜転写シートの凹凸などを示す傷率が30%以下であれば、閉塞率が保たれ、被転写体から蒸散する水分を抑えられ、薄膜が貼り付けられた部分にて、良好な保湿性が得られる。保湿性をより高めるためには、傷率は0.05%以上であることが好ましい。
【0053】
薄膜の傷率は下記の方法によって測定される。
【0054】
(傷率の測定方法)
本実施形態において、傷率は下記の(1)~(7)に示す手順で行う方法によって測定される。また、本実施例における傷率とは、薄膜表面の凹凸が観察面積あたりどのくらいの量、存在しているかを示す。
【0055】
(1)厚紙台紙に両面テープ(ニチバン社製 : ナイスタックスポンジ両面テープ スポンジタイプ、NW-P15)を貼付し、ハサミ等を用いて15mm×20mmの長方形サンプル台紙を作製する。
【0056】
(2)型抜き等の方法によって、円形状に上記サンプル台紙に穴を開ける。
【0057】
(3)上記サンプル台紙に貼付された両面テープの保護フィルムを剥がし、薄膜転写シートの薄膜が粘着面に接触するように貼付する。
【0058】
(4)薄膜転写シートの支持体を剥離し、サンプル台紙上に薄膜シート単独膜を形成する。
【0059】
(5)単独膜化した上記薄膜シートに対して、ローアングルダイレクト照明(イマック製:IDR-LA100/68DW-3)を用いて、2mm×2mmサイズの反射画像を取得する。
【0060】
(6)上記サンプル台紙上薄膜単独膜を無作為の箇所から10個作製し、画像撮影を行う。
【0061】
(7)画像処理として、大津の判別分析法を用いて2値化処理を実施した画像に基づき、平坦部と凹凸部を切り分け、画像面積あたりの凹凸部面積から傷率を算出した。この時、傷の大きさ及び、形状は特定しない。
【0062】
本実施形態の薄膜転写シートにおいて、傷率は30%以下である。
【0063】
薄膜の表面凹凸を示す傷率が30%以下であることにより、薄膜であっても閉塞性を保つことができる。
【0064】
上記傷率を有する薄膜であり、かつ、閉塞率は5%以上を担保している場合、皮膚等の被転写体に貼付した薄膜により、皮膚からの水分蒸散量を過剰に妨害せず、正常皮膚の水分蒸散量に抑えられる。これにより、皮膚内の水分が適正値に保たれる。また、薄膜転写シートの閉塞率は、皮膚呼吸を妨害しない。したがって、蒸れによる赤みや痒みを生じない。
【0065】
[薄膜転写シートの製造方法]
次に、薄膜転写シートの製造方法の一例を説明する。製造は前述の手法で行っている。なお、本実施形態による薄膜転写シートは、上述したように傷率が30%以下であればよく、薄膜転写シートは下記の製造方法とは異なる方法によって製造されてもよい。
【0066】
[薄膜転写シートの転写方法]
次に、薄膜転写シートの使用方法、すなわち、薄膜転写シートを用いた薄膜の被転写体への転写方法の一例を説明する。以下では、支持体として多孔質基材を用い、支持体を湿潤させて薄膜を被転写体に転写する方法について説明する。
【0067】
まず、被転写体における薄膜の転写対象部位に、供給液を供給する。被転写体は例えば、ヒトの皮膚である。供給液は、支持体を湿潤可能な液体であればよく、具体的には、水を含む液体、あるいは、マッサージオイル等の油類であればよい。被転写体がヒト皮膚である場合、供給液として、例えば、水や化粧水等の化粧料を用いることができる。
【0068】
続いて、使用者は、転写対象部位において、薄膜2の第2面2bが転写対象部位に接するように薄膜転写シート1を配置し、支持体3の第2面3bの上から、支持体3と薄膜2とを押圧する。これにより、転写対象部位に供給された供給液を、薄膜2を介して支持体3にまで浸透させる。この押圧時に支持体3および薄膜2にかかる加重は、10g/cm以上900g/cm以下であることが好ましい。また、被転写体がヒト皮膚である場合には、肌に与えるダメージが軽減されることから、上記加重は10g/cm以上20g/cm以下であることが好ましい。この程度の大きさの加重であっても、本実施形態による薄膜転写シート1の薄膜2を被転写体に十分に貼り付けることができる。
【0069】
次いで、使用者は、薄膜2から支持体3を剥離する。湿潤によって、多孔質基材である支持体3が膨張することや、支持体3と薄膜2との間まで供給液が侵入すること等に起因して、支持体3は薄膜2から剥がれ易くなっている。
【0070】
なお、上記転写方法においては、被転写体に薄膜2を配置する前に、被転写体に供給液を供給する方法を例示したが、供給液は、被転写体に薄膜2を配置した後に、薄膜2及び支持体3に対して供給されてもよい。要は、被転写体上に配置された薄膜2及び支持体3が湿潤されればよい。
【0071】
また、薄膜2及び支持体3を湿潤させずに、支持体3を薄膜2から剥離して、薄膜2を被転写体に転写してもよい。この場合、支持体3は多孔質基材でなくてもよい。
【実施例
【0072】
以下、上述した薄膜転写シート1について、具体的な実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0073】
(実施例1~9の転写薄膜転写シートの製造)
<実施例1~4>
ポリ-DL-乳酸(武蔵野化学研究所社製)を、固形分が6%となるように酢酸ブチルに溶解することにより、薄膜2の形成のための塗液としてポリ乳酸溶液を生成した。塗液に用いたポリ-DL-乳酸の平均分子量は、10万を選択した。その後、成膜用基材としてのPETシートに、ワイヤーバーを用いて上記塗液を塗布し、塗膜を形成した。この時、成膜用基材のPETシートの表面粗さRaは0.03μmのものを選択した。塗膜をオーブンで加熱して乾燥・固化させることにより、薄膜2を形成した。薄膜2は、乾燥後の厚さが600nmとなるように形成した。乾燥時の加熱温度は120℃、加熱時間は2分を選択した。
【0074】
続いて、薄膜2の第1面2aに、支持体3として不織布(フタムラ化学社製)を積層し、成膜用基材を剥離して、薄膜2を成膜用基材から支持体3の第1面3aに転写した。支持体3に用いた不織布は、主成分がパルプを原料とするセルロースであり、目付けが20g/mであった。
【0075】
支持体3に薄膜2を転写して形成された薄膜転写シート1を、φ60mmの大きさにハサミを用いて切断し、4つのサンプルに分け、これらのサンプルにおいて、それぞれ薄膜の傷率を調整して、実施例1~4の薄膜転写シート1を得た。
【0076】
<実施例5~8>
(実施例5~8の転写薄膜転写シートの製造)
成膜基材として用いたPETにおいて、表面粗さRaを0.36μmとして薄膜の傷率を調整した以外は実施例1~4と同様にして、実施例5~8の薄膜転写シートを得た。
【0077】
<実施例9>
成膜基材として用いたPETにおいて、表面粗さRaを0.43μmとして薄膜の傷率を調整した以外は実施例1~4と同様にして、実施例9の薄膜転写シートを得た。
【0078】
(比較例1の転写薄膜転写シートの製造)
<比較例1>
成膜基材として用いたPETにおいて、表面粗さRaを0.62μmとして薄膜の傷率を調整した以外は実施例1~4と同様にして、比較例1の薄膜転写シートを得た。
【0079】
(保湿性の測定方法)
本実施形態において、保湿性は下記の (1)~(4)に示す手順で行う方法によって測定された。
【0080】
(1)被験者の前腕を試験箇所とし、水を用いて試験箇所を洗浄した後、水を拭い取り、15分間、放置した。
【0081】
(2)試験箇所を皮膚特性評価装置(インテグラル社製:conurage-khazaka Corneometer CM825)を用いて測定した。これを初期角層水分量とする。
【0082】
(3)試験箇所に200μLの水を供給した。測定箇所のうち、薄膜の試験片を貼付しない箇所については、水を十分に与えた後、水をふき取った。試験箇所のうち、薄膜の試験片を貼付する箇所には、直径が30mmの円形状に切り抜いた薄膜の試験片を貼り付けた。
【0083】
(4)上記(3)の操作後、1時間経過後に、試験片を剥がした。そして、上記皮膚特性評価装置を用いて、試験片の貼付箇所と試験片の未貼付箇所との各々の角層水分量を測定した。測定した角層水分量の各々を上記初期角層水分量と比較し、初期角層水分量からの角層水分量の増加を求めた。
【0084】
実施例1~9及び、比較例1について、成膜基材の表面粗さを調整することによって、傷率及び、閉塞率を表に示す値に調整した。
【0085】
また、表に示す各実施例、比較例の傷率、閉塞率及び、肌保湿に関しては、上記実施形態に記載の各測定方法に従って計測した。
【0086】
<薄膜転写シートにおける保湿性評価>
各実施例及び、比較例における薄膜転写シートについて、上記の傷率測定方法および閉塞率測定方法に基づく傷率評価と閉塞率評価、さらに、下記の評価方法による肌保湿性能評価を実施した。
【0087】
(肌保湿性能評価)
上記測定方法を用いて肌保湿性測定を行った。初期角層水分量と比較し、サンプル貼付1時間後の角層水分量が増加した場合を「○」、変化なしの場合を「△」、低下した場合を「×」とした。なお、本例では評価結果が「△」以上であれば合格とした。
【0088】
<評価結果>
表1において、各実施例及び、比較例の薄膜転写シートの傷率に対する評価結果を示した。表1では、傷率に対する評価結果を「傷率」と表記している。なお、表1において、測定値は小数第1位を四捨五入して示している。これは、閉塞率も同様である。
【0089】
【表1】
【0090】
表1が示すように、閉塞率が5%以上である実施例1~9では、薄膜貼付箇所にて、薄膜の未貼付箇所よりも、角層水分量の増加量が多くなっているか、または変化がなく、薄膜の貼付によって保湿性が維持もしくは、高められていることが確認された。
【0091】
また、傷の面積比率が30%以下である実施例1~9でも同様に、薄膜の貼付箇所にて、薄膜未貼付箇所よりも、角層水分量の増加量が多くなっているか、または変化がなく、薄膜の貼付によって保湿性が維持もしくは、高められていることが確認された。
【0092】
これに対し、閉塞率が5%を大きく下回り、かつ、傷の面積比率が30%を大きく超える比較例1では、薄膜の貼付箇所にて、薄膜の未貼付箇所よりも、角層水分量の増加量が少なくなっており、保湿性が悪いことが確認された。
【0093】
以上、実施形態及び、実施例にて説明したように、薄膜及び、薄膜転写シートによれば、以下に列挙する利点を得ることができる。
【0094】
(1)薄膜の水分蒸散量に関する閉塞率が5%以上60%以下であることにより、薄膜によって良好な保湿性が得られる。したがって、美容用途における薄膜の有用性が高められる。
【0095】
(2)さらに、傷の面積比率を示す傷率が0.05%以上30%以下であることにより、薄膜によって良好な保湿性が得られる。したがって、美容用途における薄膜の有用性が高められる。
【0096】
(3)上記(1)または(2)を満たす薄膜を支持体に積層して成る薄膜転写シートにより、人肌等に転写可能で良好な保湿性を有する薄膜転写シートが得られる。
【符号の説明】
【0097】
1 薄膜転写シート
2 薄膜
2a 薄膜の第1面、2b 薄膜の第2面
3 支持体
3a 支持体の第1面、3b 支持体の第2面
図1