(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ゴルフクラブのフィッティング装置
(51)【国際特許分類】
A63B 69/36 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
A63B69/36 541S
A63B69/36 541W
(21)【出願番号】P 2019183458
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 佑斗
【審査官】柳 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-021329(JP,A)
【文献】特開2017-170105(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0354660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 53/00、60/00、
69/00、71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得する取得部と、
前記計測データに基づいて、前記スイング動作時の前記テストクラブに含まれるヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す1又は複数の第1指標を算出する算出部と、
前記1又は複数の第1指標に応じて、前記ゴルファーに適したゴルフクラブのバランスを選択する選択部と
を備え
、
前記1又は複数の第1指標は、前記スイング動作中の第1タイミングから第2タイミングまでの、前記テストクラブに含まれるシャフトに略平行な軸周りの角速度の変化量の大きさを含む、
フィッティング装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記計測データに含まれる、前記テストクラブのシャフトに略平行な軸周りの角速度データに基づいて、前記第1指標を算出する、
請求項1に記載のフィッティング装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記計測データに含まれる、前記テストクラブのトゥ-ヒール方向に略平行な軸周りの角速度データに基づいて、前記第1指標を算出する、
請求項1又は2に記載のフィッティング装置。
【請求項4】
前記角速度データは、前記計測機器に含まれる、前記テストクラブに取り付けられた角速度センサにより計測されたデータである、
請求項2又は3に記載のフィッティング装置。
【請求項5】
前記算出部は、前記計測データに基づいて、前記1又は複数の第1指標とは異なる、前記スイング動作の特徴を表す1又は複数の予備指標を算出し、
前記選択部は、前記1又は複数の第1指標に加え、前記1又は複数の予備指標に応じて、前記バランスを選択する、
請求項1から4のいずれかに記載のフィッティング装置。
【請求項6】
前記1又は複数の予備指標には、前記スイング動作時に前記ゴルファーの腕が出力するパワーを示す指標、前記スイング動作時に前記テストクラブに入力されるパワーを示す指標、前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮されるエネルギーを示す指標、及び、前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮されるトルクを示す指標の少なくとも1つが含まれる、
請求項5に記載のフィッティング装置。
【請求項7】
前記算出部は、前記計測データに基づいて、前記1又は複数の第1指標とは異なる、前記スイング動作の特徴を表す1又は複数の第2指標を算出し、
前記選択部は、前記1又は複数の第2指標に応じて、前記ゴルファーに適したシャフトの剛性を選択する、
請求項1から
4のいずれかに記載のフィッティング装置。
【請求項8】
前記算出部は、前記計測データに基づいて、前記1又は複数の第1指標とは異なり、かつ前記1又は複数の予備指標とも異なる前記スイング動作の特徴を表す1又は複数の第2指標を算出し、
前記選択部は、前記1又は複数の第2指標に応じて、前記ゴルファーに適したシャフトの剛性を選択する、
請求項5又は6に記載のフィッティング装置。
【請求項9】
ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得することと、
前記計測データに基づいて、前記スイング動作時の前記テストクラブに含まれるヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す1又は複数の第1指標を算出することと、
前記1又は複数の第1指標に応じて、前記ゴルファーに適したゴルフクラブのバランスを選択することと
をコンピュータに実行させ
、
前記1又は複数の第1指標は、前記スイング動作中の第1タイミングから第2タイミングまでの、前記テストクラブに含まれるシャフトに略平行な軸周りの角速度の変化量の大きさを含む、
フィッティングプログラム。
【請求項10】
計測機器を用いて、ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測した計測データを取得することと、
コンピュータを用いて、前記計測データに基づいて、前記スイング動作時の前記テストクラブに含まれるヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す1又は複数の第1指標を算出することと、
前記コンピュータを用いて、前記1又は複数の第1指標に応じて
、前記ゴルファーに適したゴルフクラブのバランスを
選択することと
を含
み、
前記1又は複数の第1指標は、前記スイング動作中の第1タイミングから第2タイミングまでの、前記テストクラブに含まれるシャフトに略平行な軸周りの角速度の変化量の大きさを含む、
フィッティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルファーに適したゴルフクラブを選択するためのフィッティング装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴルファーにテストクラブを試打させてその動作を計測機器により計測し、このときの計測データに基づいて、当該ゴルファーに適したゴルフクラブを選択する様々なフィッティング方法が提案されている。特許文献1には、計測データに基づいて、ゴルファーに適したゴルフクラブの重量や、慣性モーメント、シャフトの剛性等の指標を算出し、これらの指標に合致するゴルフクラブをゴルファーに推奨するフィッティング方法が開示されている。以上のようなフィッティング方法によれば、個々人に適した仕様のゴルフクラブを提供することが可能になり、飛距離の増大や左右ブレの減少等、ショットの改善が見込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ゴルフクラブの仕様の1つに、「バランス」という項目がある。これは、スイングウェイトとも呼ばれ、ゴルフクラブを振ったときのヘッドの重量感を表す指標であり、振り心地に影響する。一般に、バランスは、「D0」のように、A~Eのアルファベットと、0~9の数字との組み合わせにより表され、AからEの順番でより「重い」ことを意味し、また、数字が大きくなるほどより「重い」ことを意味する。バランスが「重い」とは、ゴルフクラブの重心がヘッド側により近く、ゴルフクラブを振り回したときにヘッドの抵抗を感じ易く、従って、より振り回しにくいことを意味し得る。反対に、バランスが「軽い」とは、ゴルフクラブの重心がグリップ側により近く、ゴルフクラブを振り回したときにヘッドの抵抗を感じにくく、従って、より振り回し易いことを意味し得る。
【0005】
以上のようなバランスに関し、軽い方が適しているゴルファーもいれば、重い方が適しているゴルファーもおり、人それぞれである。よって、個々人に適したバランスのゴルフクラブを提供することができれば、さらなるショットの改善が見込まれる。しかし、これまで、ゴルファーに適したバランスを特定する方法は提案されておらず、この点、真にゴルファーに適したゴルフクラブを選択することは必ずしも出来ていなかった。
【0006】
本発明は、ゴルファーに適したバランスのゴルフクラブを選択することを可能にするフィッティング装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1観点に係るフィッティング装置は、ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得する取得部と、前記計測データに基づいて、前記スイング動作時の前記テストクラブに含まれるヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す1又は複数の第1指標を算出する算出部と、前記1又は複数の第1指標に応じて、前記ゴルファーに適したゴルフクラブのバランスを選択する選択部とを備える。
【0008】
第2観点に係るフィッティング装置は、第1観点に係るフィッティング装置であって、前記算出部は、前記計測データに含まれる、前記テストクラブのシャフトに略平行な軸周りの角速度データに基づいて、前記第1指標を算出する。
【0009】
第3観点に係るフィッティング装置は、第1観点又は第2観点に係るフィッティング装置であって、前記算出部は、前記計測データに含まれる、前記テストクラブのトゥ-ヒール方向に略平行な軸周りの角速度データに基づいて、前記第1指標を算出する。
【0010】
第4観点に係るフィッティング装置は、第2観点又は第3観点に記載のフィッティング装置であって、前記角速度データは、前記計測機器に含まれる、前記テストクラブに取り付けられた角速度センサにより計測されたデータである。
【0011】
第5観点に係るフィッティング装置は、第1観点から第4観点のいずれかに記載のフィッティング装置であって、前記算出部は、前記計測データに基づいて、前記1又は複数の第1指標とは異なる、前記スイング動作の特徴を表す1又は複数の予備指標を算出する。前記選択部は、前記1又は複数の第1指標に加え、前記1又は複数の予備指標に応じて、前記バランスを選択する。
【0012】
第6観点に係るフィッティング装置は、第5観点に係るフィッティング装置であって、前記算出部は、前記1又は複数の予備指標には、前記スイング動作時に前記ゴルファーの腕が出力するパワーを示す指標、前記スイング動作時に前記テストクラブに入力されるパワーを示す指標、前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮されるエネルギーを示す指標、及び、前記スイング動作時に前記ゴルファーにより発揮されるトルクを示す指標の少なくとも1つが含まれる。
【0013】
第7観点に係るフィッティング装置は、第1観点から第6観点のいずれかに係るフィッティング装置であって、前記算出部は、前記計測データに基づいて、前記1又は複数の第1指標とは異なる、前記スイング動作の特徴を表す1又は複数の第2指標を算出する。前記選択部は、前記1又は複数の第2指標に応じて、前記ゴルファーに適したシャフトの剛性を選択する。
【0014】
第8観点に係るフィッティングプログラムは、以下のことをコンピュータに実行させる。
・ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測機器により計測した計測データを取得すること
・前記計測データに基づいて、前記スイング動作時の前記テストクラブに含まれるヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す1又は複数の第1指標を算出すること
・前記1又は複数の第1指標に応じて、前記ゴルファーに適したゴルフクラブのバランスを選択すること
【0015】
第9観点に係るフィッティング方法は、以下のことを含む。
・計測機器を用いて、ゴルファーによるテストクラブのスイング動作を計測した計測データを取得すること
・コンピュータを用いて、前記計測データに基づいて、前記スイング動作時の前記テストクラブに含まれるヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す1又は複数の第1指標を算出すること
・前記1又は複数の第1指標に応じて定まる、前記ゴルファーに適したゴルフクラブのバランスを前記ゴルファーに推奨すること
【発明の効果】
【0016】
本発明者らが得た知見によると、ゴルファーによるスイング動作時のゴルフクラブに含まれるヘッドのフェース面の開き具合の変化量は、当該ゴルファーに適したゴルフクラブのバランスに影響する。この点、以上の観点によれば、このようなフェース面の開き具合の変化量に応じて、ゴルファーに適したゴルフクラブのバランスが選択される。よって、ゴルファーに適したバランスのゴルフクラブを選択することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態に係るフィッティング装置を備えるフィッティングシステムを示す図。
【
図2】第1実施形態に係るフィッティングシステムの機能ブロック図。
【
図3】インターナショナル・フレックス・コード(IFC)を説明する図。
【
図4】第1実施形態に係るフィッティング処理の流れを示すフローチャート。
【
図6A】第1実施形態に係るヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す指標を説明する図。
【
図6B】第1実施形態に係るヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す別の指標を説明する図。
【
図7】多数のゴルファーが実際にゴルフクラブを試打したときの、第1実施形態に係るヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す2つの指標と、最適バランスとの関係をまとめたグラフ。
【
図8】第2実施形態に係るフィッティング処理の流れを示すフローチャート。
【
図9】予備指標を算出するためのモデルを説明する図。
【
図10】多数のゴルファーが実際にゴルフクラブを試打したときの、第2実施形態に係るヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す指標及び腕出力パワーと、最適バランスとの関係をまとめたグラフ。
【
図11】第3実施形態に係るフィッティング装置を備えるフィッティングシステムを示す図。
【
図12】第3実施形態に係るフィッティングシステムの機能ブロック図。
【
図13】第3実施形態に係るヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す指標を説明する図。
【
図14】多数のゴルファーが実際にゴルフクラブを試打したときの、第3実施形態に係るヘッドのフェース面の開き具合の変化量を表す指標と、最適バランスとの関係をまとめた表。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の幾つかの実施形態に係るゴルフクラブのフィッティング装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0019】
<1.第1実施形態>
<1-1.フィッティングシステムの概略構成>
図1及び
図2に、本実施形態に係るフィッティング装置2を備えるフィッティングシステム100の全体構成を示す。フィッティング装置2は、ゴルファーGがテスト用のゴルフクラブ(以下、テストクラブという)4をスイングする様子を計測した計測データに基づいて、当該ゴルファーGに適したゴルフクラブを選択するのを支援するための装置である。テストクラブ4は、一般的なゴルフクラブであり、シャフト40と、シャフト40の一端に設けられたヘッド41と、シャフト40の他端に設けられたグリップ42とを含む。スイング動作の計測を行う計測機器は、本実施形態では、慣性センサユニット1である。フィッティング装置2は、この慣性センサユニット1とともに、フィッティングシステム100を構成する。
【0020】
以下、慣性センサユニット1及びフィッティング装置2の構成について説明した後、フィッティング処理の流れについて説明する。
【0021】
<1-2.各部の構成>
<1-2-1.慣性センサユニットの構成>
慣性センサユニット1は、
図1に示す通り、テストクラブ4のグリップ42におけるヘッド41と反対側の端部に取り付けられており、グリップ42の挙動を計測する。慣性センサユニット1は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されている。慣性センサユニット1は、テストクラブ4に対して着脱自在に構成することができる。
【0022】
図2に示すように、慣性センサユニット1には、加速度センサ11、角速度センサ12及び地磁気センサ13が搭載されている。また、慣性センサユニット1には、これらのセンサ11~13から出力される計測データを外部のフィッティング装置2に送信するための通信装置10も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置10は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式にフィッティング装置2に接続するようにしてもよい。
【0023】
加速度センサ11、角速度センサ12及び地磁気センサ13はそれぞれ、これらのセンサ11~13の取付位置を原点とするxyz局所座標系における加速度、角速度及び地磁気を計測する。より具体的には、加速度センサ11は、x軸、y軸及びz軸方向の加速度ax,ay,azを計測する。角速度センサ12は、x軸、y軸及びz軸周りの角速度ωx,ωy,ωzを計測する。地磁気センサ13は、x軸、y軸及びz軸方向の地磁気mx,my,mzを計測する。これらの計測データは、所定のサンプリング周期Δtでの時系列データとして収集され、通信装置10を介してフィッティング装置2に送信される。xyz局所座標系は、3軸直交座標系であり、z軸は、シャフト40に略平行に配向される。x軸は、ヘッド41のトゥ-ヒール方向にできる限り平行になるように配向され、y軸は、ヘッド41のフェース面の法線方向にできる限り平行になるように配向される。
【0024】
<1-2-2.フィッティング装置の構成>
フィッティング装置2は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン等として実現される。
図2に示す通り、フィッティング装置2は、本実施形態に係るフィッティングプログラム3を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。フィッティングプログラム3は、コンピュータで読み取り可能なCD-ROM等の記録媒体20から、或いは通信部25に接続されるローカルエリアネットワーク(LAN)やインターネット等の通信ネットワークを介して、フィッティング装置2に取得される。フィッティングプログラム3は、慣性センサユニット1から送信されてくる計測データに基づいてスイング動作を解析し、ゴルファーGに適したゴルフクラブを選択するのを支援する情報を出力するためのソフトウェアである。フィッティングプログラム3は、フィッティング装置2に後述する動作を実行させる。
【0025】
フィッティング装置2は、表示部21、入力部22、記憶部23、制御部24及び通信部25を備える。これらの部21~25は、バス線26を介して接続されており、相互に通信可能である。本実施形態では、表示部21は、液晶ディスプレイ等で構成され、後述する情報をユーザに対し表示する。なお、ここでいうユーザとは、ゴルファーG自身やそのインストラクター、ゴルフクラブの販売員等の、フィッティングの結果を必要とする者の総称である。入力部22は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、フィッティング装置2に対するユーザからの操作を受け付ける。通信部25は、フィッティング装置2と外部装置との通信を可能にする通信インターフェースであり、慣性センサユニット1から計測データを受信する。
【0026】
記憶部23は、ハードディスク等の不揮発性の記憶装置により構成される。記憶部23内には、フィッティングプログラム3が格納されている他、慣性センサユニット1から送信されてくる計測データが保存される。また、記憶部23内には、クラブデータベース(DB)27、ヘッドデータベース(DB)28、シャフトデータベース(DB)29及びグリップデータベース(DB)30が格納されている。クラブDB27には、多数のゴルフクラブの各種仕様(全体重量、ヘッドの重量、ヘッドの体積、シャフトの重量、シャフトの長さ、シャフトの各種剛性、ロフト角、バランス等)を示す情報が、ゴルフクラブの種類を特定する情報に関連付けて格納されている。同様に、ヘッドDB28には、多数のヘッドの各種仕様(重量、体積、ロフト角等)を示す情報が、ヘッドの種類を特定する情報に関連付けて格納されており、シャフトDB29には、多数のシャフトの各種仕様(重量、長さ、各種剛性等)を示す情報が、シャフトの種類を特定する情報に関連付けて格納されており、グリップDB30には、多数のグリップの各種仕様(重量、硬さ等)を示す情報が、グリップの種類を特定する情報に関連付けて格納されている。
【0027】
制御部24は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部24は、記憶部23内のフィッティングプログラム3を読み出して実行することにより、仮想的に取得部24A、算出部24B、選択部24C及び表示制御部24Dとして動作する。各部24A~24Dの動作の詳細については、後述する。
【0028】
<1-3.フィッティング処理>
続いて、フィッティングシステム100により実行されるフィッティング処理について説明する。まず、同処理の概略を述べると、ゴルファーGがテストクラブ4を試打したときの様子を計測した計測データが取得され、当該計測データに基づいて、ゴルファーGに適したゴルフクラブの仕様(以下、最適仕様ということがある)が決定される。そして、最適仕様の条件に合致するゴルフクラブが、ゴルファーGに適したゴルフクラブ(以下、最適クラブということがある)として選択され、ゴルファーGに推奨される。これにより、ゴルファーGに対し、ゴルファーGのスイング動作の特徴に合致した最適仕様の最適クラブを提供することが可能になる。ひいては、ショットの飛距離を増大させたり、左右ブレを減少させたりする等、ゴルファーGのショットを改善することができる。
【0029】
本実施形態では、最適仕様の1つの項目として、ゴルファーGに適したバランス(以下、最適バランスということがある)が決定される。バランスとは、スイングウェイトとも呼ばれ、ゴルフクラブを振ったときのヘッドの重量感を表す指標であり、振り心地に影響する。一般に、バランスは、A~Eのアルファベットと、0~9の数字との組み合わせにより表され、「A0」が一番軽く、「E9」が一番重い。バランスが「重い」とは、ゴルフクラブの重心がヘッド側により近く、ゴルフクラブを振り回したときにヘッドの抵抗を感じ易く、従って、より振り回しにくいことを意味し得る。反対に、バランスが「軽い」とは、ゴルフクラブの重心がグリップ側により近く、ゴルフクラブを振り回したときにヘッドの抵抗を感じにくく、従って、より振り回し易いことを意味し得る。本実施形態では、以上のようなバランスを考慮して、ゴルファーGのスイング動作の特徴に合致したゴルフクラブが選択される。
【0030】
また、本実施形態では、最適仕様の別の1つの項目として、ゴルファーGに適したシャフトの剛性(以下、最適剛性ということがある)が決定される。本実施形態でいうシャフトの剛性は、シャフトの複数の位置における曲げ剛性の分布(以下、EI分布ということがある)として評価される。本実施形態に係るEI分布は、定量的に数値を用いて表現され、より具体的には、インターナショナル・フレックス・コード(IFC)を用いて表現される。ここで、このIFCについて説明する。なお、IFCは、本出願人により広く提案されているシャフトの特性を示す公知の指標であり、例えば、特許文献1をはじめとして、既に様々な文献で詳しく説明されている。従って、ここで改めて説明する必要は必ずしもないが、参考のため、ここでも簡単に説明を行う。
【0031】
IFCは、
図3に示すとおり、シャフトの延びる方向に沿った4つの位置H1~H4におけるシャフトの曲げ剛性をそれぞれ0~9の1桁の数値で表し、この4つの数値をシャフトの延びる方向に沿って配列したコードである。より具体的には、シャフトのバット端からチップ端に向かってこの順に概ね一定間隔で、4つの測定点H1~H4が定義される。例えば、シャフトのチップ端から36インチの箇所を測定点H1とし、26インチの箇所を測定点H2とし、16インチの箇所を測定点H3とし、6インチの箇所を測定点H4とすることができる。そして、これらの4つの測定点H1~H4のそれぞれにおける曲げ剛性の値(以下、EI値ということがある)J
1~J
4が計測される。
【0032】
次に、以上の4つの測定点H1~H4におけるEI値J1~J4を、それぞれ10段階のランク値K1~K4に変換する。具体的には、ランク値K1~K4は、それぞれの測定点H1~H4用に用意された変換規則に従って、EI値J1~J4から算出することができる。そして、このようにして測定点H1~H4にそれぞれ付与された4つのランク値K1~K4を、よりバット側に対応する値がより左に、よりチップ側に対応する値がより右にくるように配列する。こうして得られた4桁のコードが、IFCである。IFCでは、各桁の数値が大きい程、対応する位置での剛性が高いことを意味する。本実施形態では、以上のようなIFCを考慮して、ゴルファーGのスイング動作の特徴に合致したシャフトを有するゴルフクラブが選択される。
【0033】
本実施形態に係るフィッティング処理は、より詳細には、
図4の通りに進行する。まず、ステップS1では、計測データが収集される。より具体的には、ゴルファーGが、慣性センサユニット1が取り付けられたテストクラブ4をスイングし、ボールを打撃する。このとき、慣性センサユニット1は、少なくともアドレスからフィニッシュまでの間の加速度a
x,a
y,a
z、角速度ω
x,ω
y,ω
z及び地磁気m
x,m
y,m
zの時系列データを計測する。この時系列データは、ゴルファーGによるテストクラブ4のスイング動作を計測した計測データとして、通信装置10を介してフィッティング装置2に送信される。一方、フィッティング装置2側では、取得部24Aが通信部25を介してこの計測データを取得し、記憶部23内に格納する。
【0034】
続くステップS2では、算出部24Bが、記憶部23内に格納された計測データに基づいて、ゴルファーGのスイング動作の特徴を表す指標であって、最適剛性を選択するための所定の指標B1を算出する。本実施形態では、このような指標B1として、第1~第4特徴量F1~F4が算出される。第1~第4特徴量F1~F4は、それぞれゴルファーGに適したEI値J1~J4である最適EI値JS1~JS4、ひいてはゴルファーGに適したランク値K1~K4である最適ランク値KS1~KS4を選択するための指標である。なお、上述したことから明らかであるが、最適ランク値KS1~KS4を左から右に並べた数字列が、本実施形態の最適剛性、すなわち、ゴルファーGに適したIFC(以下、最適IFCということがある)である。そのため、本実施形態では、第1~第4特徴量F1~F4として、それぞれ最適EI値JS1~JS4と相関を有する以下のような特徴量が算出される。ただし、最適剛性を選択するための指標B1の例は、これに限定されない。
【0035】
第1特徴量F1は、トップ付近のコック方向の角速度ωyの傾きであり、例えばトップから50ms前の角速度ωyと、トップから50ms後の角速度ωyとの和で表すことができる。
【0036】
第2特徴量F2は、トップから、角速度ωyが最大となる時点までの当該角速度ωyの平均値である。第2特徴量F2は、まず、トップからインパクトまでの間で角速度ωyが最大となる時点を求め、トップからこの時点までの角速度ωyの累積値を、トップからこの時点までの時間で除することにより算出される。
【0037】
第3特徴量F3は、角速度ωyが最大となる時点からインパクトまでの当該角速度ωyの平均値である。第3特徴量F3は、角速度ωyが最大となる時点からインパクトまでの角速度ωyの累積値を、角速度ωyが最大となる時点からインパクトまでの時間で除することにより算出される。
【0038】
第4特徴量F4は、トップからインパクトまでの角速度ωyの平均値であり、トップからインパクトまでの角速度ωyの累積値を、トップからインパクトまでの時間で除することにより算出される。
【0039】
ところで、スイング動作中、ゴルフクラブのシャフトには、その先端に比較的重量が大きいヘッドが存在するため、その慣性により曲げが生じる。この曲げは、スイングの全過程において、シャフトの同一箇所に生じるのではなく、
図5に示されるように、トップからインパクトに向けてシャフトの手元側から先端側に伝わる。換言すれば、トップからインパクトに向けてスイングが進行するにしたがい、シャフトにおける曲げの位置が当該シャフトの手元側から先端側に移動する。
【0040】
より具体的には、アドレスからテイクバックを行い、トップに至った時点(
図5において(1)で示される時点)では、シャフトの手元付近に曲げが生じる。ついで、切り返しを行い、ダウンスイング初期(
図5において(2)で示される時点)に至ると、曲げはシャフトの先端側にやや移動する。さらに、ゴルファー7の腕が水平になる時点(
図5において(3)で示される時点)では、曲げはシャフト中央よりも先端側に移動する。そして、インパクト直前(
図5において(4)で示される時点)では、曲げはシャフトの先端付近まで移動する。
【0041】
従って、第1~第4特徴量F1~F4は、それぞれスイング動作中のトップ付近からインパクト付近までの間の第1~第4区間における計測データに基づいて算出することができる。また、ここでの第1~第3区間は、この順に時間経過に沿った区間であり、互いに一部重複する又は重複することのない区間となっている。
【0042】
続くステップS3では、選択部24Cが、ステップS2で算出された指標B1(第1~第4特徴量F1~F4)に応じて、最適剛性(最適IFC)を選択する。本実施形態では、このとき、第1~第4特徴量F1~F4と、最適EI値JS1~JS4との相関関係を表す以下の近似式に基づいて、最適EI値JS1~JS4が算出される。
JS1=a1・F1+b1
JS2=a2・F2+b2
JS3=a3・F3+b3
JS4=a4・F4+b4
【0043】
上式中、a1~a4及びb1~b4は、実験により得られた多数のデータセットに基づく回帰分析により予め定められ、記憶部23内に予め記憶されている定数である。なお、a1~a4及びb1~b4の導出方法は、例えば、特許文献1や特開2013-226375号公報等に開示されているため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0044】
選択部24Cは、ステップS2で算出された第1~第4特徴量F1~F4を以上の近似式に代入することにより、最適EI値JS1~JS4を算出する。続いて、選択部24Cは、予め定められている所定の変換規則に従って、最適EI値JS1~JS4をそれぞれ最適ランク値KS1~KS4に変換する。そして、最適ランク値KS1~KS4を結合することにより、最適IFCが決定される。
【0045】
続くステップS4では、算出部24Bが、記憶部23内に格納された計測データに基づいて、ゴルファーGのスイング動作の特徴を表す指標であって、最適バランスを選択するための所定の指標C
1を算出する。指標C
1は、スイング動作時のヘッド41のフェース面41aの開き具合の変化量を表す指標であり、本実施形態では、以下の通り定義される2つの指標C
11及びC
12を含む。
【数1】
【数2】
【0046】
ここで、ω
z_
impとは、インパクトのタイミングでの角速度ω
zであり、ω
z_
topとは、トップのタイミングでの角速度ω
zである。また、C
12に含まれる積分は、トップのタイミングからインパクトのタイミングまでの積分を表す。
図6A及び
図6Bは、実際に計測されたω
z及びω
xのグラフを用いて、指標C
11及びC
12を説明した図である。指標C
11及びC
12は、その定義の通り、計測データに含まれる角速度ω
x及びω
zのデータに基づいて算出することができる。
【0047】
ステップS4において以上のような指標C1が算出されるのは、スイング動作時のフェース面41aの開き具合の変化量が、最適バランスに影響するという知見に基づく。本発明者らは、この知見を以下の実験を通して得た。
【0048】
まず、本発明者らは、23人の被験者に、バランスの異なる2本のゴルフクラブを試打させた。2本のゴルフクラブのうち、1本は、バランスが「D5」のゴルフクラブ(以下、通常クラブということがある)であり、もう1本は、これよりもバランスの軽い、バランスが「D2」のゴルフクラブ(以下、軽バランスクラブということがある)であった。通常クラブと軽バランスクラブとでは、ヘッド及びシャフトは共通しており、通常クラブのグリップをより重いグリップに変更することにより、軽バランスクラブを用意した。
【0049】
また、本発明者らは、23人の被験者各人が通常クラブを試打したときの指標C
11及びC
12を、上述したのと同様の計測機器及び計測方法により算出した。また、23人の被験者各人について、以上の2本のゴルフクラブのうち、ショットの結果がより良かったクラブを特定した。ショットの結果の良否は、飛距離及び方向性(左右ブレ)を観察し、総合的に評価した。
図7は、この結果をまとめたグラフである。同グラフに示される実験結果からは、指標C
11が小さいゴルファーには、通常クラブがより適しており、指標C
11が大きいゴルファーには、軽バランスクラブがより適しているという傾向が確認された。また、指標C
12が小さいゴルファーには、軽バランスクラブがより適しており、指標C
12が大きいゴルファーには、通常クラブがより適しているという傾向が確認された。ただし、指標C
11及びC
12は、いずれもスイング動作時のフェース面41aの開き具合の変化量を表すが、ω
xよりもω
zの方が、フェース面41aの開き具合に対しより支配的である。その結果、指標C
11の方が、指標C
12よりも、以上の傾向が強く現れる結果となった。
【0050】
以上の結果、
図7に示すように、指標C
11及びC
12を軸とする平面は、直線状の境界線L1により、通常クラブが合う領域と、軽バランスクラブが合う領域とに分けられることが分かった。なお、
図7では、以上の傾向から外れた結果を丸印で囲んでいる。この実験結果によれば、23名中21名において、すなわち、91%以上の確率で、以上の傾向が現れた。よって、指標C
11及びC
12に定義されるような、スイング動作時のフェース面41aの開き具合の変化量が分かれば、最適バランスを決定可能であることが分かった。
【0051】
以上の知見に基づき、続くステップS5では、選択部24Cは、指標C
11及びC
12の大きさに応じて、最適バランスを選択する。より具体的には、選択部24Cは、ステップS4で算出された指標C
11及びC
12の値を、両指標C
11及びC
12を軸とする平面内にプロットし、プロットされた点が、同平面内で予め定められている境界線(
図7のL1参照)により分けられるいずれの領域に属するかを判断する。そして、プロットされた点が属する領域に予め対応付けられているバランスを、最適バランスとして選択する。なお、
図7の例では、境界線は1本であるが、ここでの境界線は、1本又は複数本設定することができ、最適バランスは、2つ又は3つ以上のバランスの中から選択される。
【0052】
続くステップS6では、選択部24Cは、ステップS3及びステップS5で選択された最適仕様を有するゴルフクラブを、最適クラブとして選択する。すなわち、ステップS3で選択された最適剛性のシャフトを備え、かつ、ステップS5で選択された最適バランスを有するゴルフクラブが、最適クラブとして選択される。より具体的には、選択部24Cは、クラブDB27内を検索して、最適剛性及び最適バランスの条件に合致するゴルフクラブを抽出し、これを最適クラブとして特定する。或いは、選択部24Cは、ヘッドDB28、シャフトDB29及びグリップDB30内から抽出される適当なヘッド、シャフト及びグリップを組み合わせて、最適剛性及び最適バランスの条件に合致するゴルフクラブを作成し、これを最適クラブとして特定してもよい。このとき、ユーザから入力部22を介して、ゴルフクラブに関するユーザの希望を示す情報の入力を受け付け、当該希望に合致するような最適クラブを作成してもよい。例えば、ゴルファーGは、自身が気に入ったヘッドの種類を指定することができる。このとき、選択部24Cは、ヘッドDB28内から当該指定された種類のヘッドの各種仕様を示す情報を抽出し、当該ヘッドにシャフトDB29及びグリップDB30内から適当なシャフト及びグリップを選択して組み合わせることにより、当該ヘッドを有し、かつ、ステップS3で選択された最適剛性のシャフトを備え、かつ、ステップS5で選択された最適バランスを有するゴルフクラブを作成することができる。
【0053】
続くステップS7では、表示制御部24Dは、ステップS6で選択された最適クラブを特定する情報を、ステップS3及びS5でそれぞれ選択された最適剛性の情報及び最適バランスの情報とともに、表示部21上に表示させる。ゴルフクラブの販売員やインストラクター等は、ゴルファーGとともに表示部21上でこのような情報を確認し、ゴルファーGに対し、最適剛性のシャフトを備え、かつ、最適バランスを有するゴルフクラブを推奨する。以上により、フィッティング処理が終了する。
【0054】
<2.第2実施形態>
次に、
図8を参照しつつ、第2実施形態に係るフィッティング処理について説明する。第1実施形態及び第2実施形態の主な相違点は、最適バランスを選択するための指標が異なる点にある。以下では、第1実施形態との共通点についての説明は省略し、両実施形態の相違点を中心に、第2実施形態について説明する。
【0055】
より具体的には、第2実施形態では、最適バランスを選択するための指標として、上述した指標C
1に加え、ゴルファーGのスイング動作の別の特徴を表す予備指標が算出される(ステップS41)。予備指標は、最適バランスを選択するために予備的に考慮される指標である。第2実施形態では、指標C
1と予備指標との組み合わせに応じて、最適バランスが決定される(ステップS5)。本実施形態の予備指標は、スイング動作時にゴルファーGの腕が出力するパワー(以下、腕出力パワーという)P
1である。腕出力パワーP
1は、特許文献1等でも詳しく説明されている公知の指標であり、下式の通り定義することができる。
【数3】
【0056】
ここで、T
g1は、ゴルファーの腕の重心周りのトルクを意味し、T
g2は、ゴルフクラブの重心周りのトルクを意味し、ω
1は、ゴルファーGの腕の角速度を意味する。腕出力パワーP
1は、
図9に示すような、腕及びゴルフクラブをリンクとし、肩及びグリップを節点とする振り子モデルを用いて解析することができる。なお、これに限定されないが、本実施形態に係る予備指標は、トップの時刻から腕出力パワーP
1が最大値をとる時刻までの区間で腕出力パワーP
1を積分し、この積分値を積分区間で除することにより算出される、スイング動作中の平均的な腕出力パワーP
1(以下、P
1_
AVEということがある)として算出される。
【0057】
図10は、
図7と同じ実験で取得された計測データから、腕出力パワーP
1_
AVEを算出し、この腕出力パワーP
1_
AVEと指標C
11とを、両者を軸とする平面内にプロットした結果を示す。同図からは、指標C
11及び腕出力パワーP
1_
AVEを用いた場合にも、
図7の場合と同様の高確率で、通常クラブが合うゴルファーと軽バランスクラブが合うゴルファーとを層別できることが確認された。よって、スイング動作時のヘッド41のフェース面41aの開き具合の変化量を表す指標C
1に、腕出力パワーP
1を組み合わせることにより、最適バランスを精度よく決定可能であることが分かった。
【0058】
以上の知見に基づき、第2実施形態に係るフィッティング処理は、
図8に示す通りに進行する。ステップS1~ステップS3は、第1実施形態と同様である。ステップS4も、第1実施形態と概ね同様であるが、指標C
12の算出は省略され、指標C
11のみが算出される。その後のステップS41では、選択部24Cは、記憶部23内に格納された計測データに基づいて、予備指標である腕出力パワーP
1_
AVEを算出する。
【0059】
続くステップS5では、選択部24Cは、フェース面41aの開き具合の変化量を表す指標C
1及び予備指標の大きさに応じて、最適バランスを選択する。より具体的には、選択部24Cは、ステップS4及びS41でそれぞれ算出された指標C
11及びP
1_
AVEの値を、両指標C
11及びP
1_
AVEを軸とする平面内にプロットし、プロットされた点が、同平面内で予め定められている境界線(
図10のL1参照)により分けられるいずれの領域に属するかを判断する。そして、プロットされた点が属する領域に予め対応付けられているバランスを、最適バランスとして選択する。なお、
図10の例では、境界線は1本であるが、ここでの境界線は、1本又は複数本設定することができ、最適バランスは、2つ又は3つ以上のバランスの中から選択される。最適バランスが選択された後のステップS6及びS7は、第1実施形態と同様である。
【0060】
<3.第3実施形態>
図11及び
図12に、第3実施形態に係るフィッティング装置102を有するフィッティングシステム200の全体構成を示す。第1及び第2実施形態と第3実施形態との主な相違点は、最適バランスを選択するための指標が異なる点にある。また、このような指標を算出するための計測データを計測する計測機器の構成も異なる。以下では、第1及び第2実施形態との共通点についての説明は省略し、これらの実施形態の相違点を中心に、第3実施形態について説明する。
【0061】
スイング動作の計測を行う計測機器は、第3実施形態では、カメラシステム5である。カメラシステム5は、ゴルフ用品の販売店やゴルフスクール等の専門の場所において、ゴルファーGが試打を行う打席に導入されており、打席に立つゴルファーGのスイング動作を計測する。
図11及び
図12に示す通り、カメラシステム5は、複数台のカメラ51及び52と、複数台のストロボ53、53、54及び54とを備えており、ストロボ式の撮影を行う。カメラ51は、インパクト前後のヘッド41及びボール60の様子を上方から撮影できるように、ゴルファーGの正面側において、支持台57に固定されており、アドレス時のボール60の斜め上方に配置されている。ストロボ53及び53も、支持台57に固定されており、カメラ51の下方に配置されている。また、カメラ52は、カメラ51とは異なる位置からインパクト前後のヘッド41及びボール60の様子を撮影できるように、ゴルファーGの正面側において、アドレス時のボール60の前方に配置されている。ストロボ54及び54は、カメラ52の左右に配置されている。なお、ヘッド41及びゴルフボール60には、カメラ51及び52により撮影された画像データからヘッド41及びボール60の挙動を抽出し易いように、適宜、点状、線状等の形状のマーカーが付されている。
【0062】
また、カメラシステム5は、投光器55A及び55Bと、受光器56A及び56Bとを備えており、投光器55A及び受光器56Aが1つのタイミングセンサを構成し、投光器55B及び受光器56Bがもう1つのタイミングセンサを構成している。これらのタイミングセンサにより生成されるタイミング信号は、ストロボ53、53、54及び54の発光及びそれに続くカメラ51及び52の撮影のタイミングを決定するのに使用される。
【0063】
さらに、カメラシステム5は、以上の装置51~56Bの動作を制御するための制御装置50も備えている。制御装置50は、CPU、ROM及びRAM等を有しており、以上の装置51~56Bの他、フィッティング装置102の通信部25にも接続されている。
【0064】
投光器55A及び55Bは、ゴルファーGの正面側の地面付近において、カメラ51の下方に配置されている。一方、受光器56A及び56Bは、ゴルファーGの足のつま先付近に配置されている。投光器55A及び受光器56Aは、ゴルファーGの背から腹に向かう方向に概ね平行な直線上に配置されており、互いに対向している(
図11参照)。投光器55B及び受光器56Bについても同様である。投光器55A及び55Bは、ゴルファーGによるスイング動作中、常時、それぞれ受光器56A及び56Bに向けて光を照射しており、受光器56A及び56Bがこれを受光する。しかし、テストクラブ4が投光器55A及び55Bと受光器56A及び56Bとの間を通過するタイミングでは、投光器55A及び55Bからの光がテストクラブ4により遮られるため、受光器56A及び56Bはこれを受光することができない。受光器56A及び56Bはこのタイミングを検出し、これを受けてタイミング信号を生成する。制御装置50は、タイミング信号が生成された時刻を基準とする所定のタイミングで、ストロボ53、53、54及び54に発光を命令するとともに、カメラ51及び52に撮影を命令する。カメラ51及び52により撮影された画像データの形式の計測データは、制御装置50に送信され、制御装置50からさらにフィッティング装置102に送信される。
【0065】
次に、第3実施形態に係る最適バランスを選択するための指標について説明する。上述した通り、本発明者らが得た知見によると、スイング動作時のフェース面41aの開き具合の変化量は、最適バランスに影響する。よって、第3実施形態では、最適バランスを選択するための指標として、フェース角の変化量を表す指標C
13が算出される。指標C
13も、第1及び第2実施形態に係る指標C
11及びC
12と同様に、スイング動作時のフェース面41aの開き具合の変化量を表す指標C
1である。本実施形態では、
図13に示すように、アドレス時のボール60から所定の距離だけ離れた第1位置でのフェース角FA
1と、第1位置よりもボール60に近づいたが、依然としてボール60から所定の距離だけ離れている第2位置でのフェース角FA
2とが算出され、指標C
13は、これらの差FA
1-FA
2として算出される。第1位置及び第2位置は、いずれも、テストクラブ4がインパクト直前に通過する位置である。
【0066】
本実施形態では、指標C
13は、カメラシステム5により撮影された画像データである計測データを画像処理することにより算出される。
図13に示すように、本実施形態では、フェース角を捉え易いように、ヘッド41のクラウン部に、フェース面41aに沿うように帯状のマーカーM1が貼付されている。マーカーM1は、ストロボ53及び54からの光を効率的に反射する素材で形成されている。従って、カメラ51及び52により撮影された画像上においては、マーカーM1の領域、言い換えると、ヘッド41の平面視においてフェース面41aに沿った帯状の領域が鮮明に写り込む。算出部24Bは、記憶部23内に格納されているインパクト直前のストロボ53及び54の発光のタイミングでの2枚の画像(第1位置及び第2位置での画像)上のマーカーM1の像を抽出する。そして、これらのマーカーM1の像に基づいて、フェース角FA
1及びFA
2を算出し、指標C
13=FA
1-FA
2を算出する。
【0067】
本発明者らは、27人の被験者に、上述した通常クラブ及び軽バランスクラブの2本のゴルフクラブを試打させる実験を行った。そして、27人の被験者各人が、通常クラブを試打したときの指標C
13を、上述したのと同様の計測機器及び計測方法により算出した。また、27人の被験者各人について、以上の2本のゴルフクラブのうち、ショットの結果がより良かったクラブを特定した。ショットの結果の良否は、第1実施形態と同様に行った。
図14は、この結果をまとめた表である。同表に示される実験結果からは、指標C
13が小さいゴルファーには、通常クラブがより適しており、同指標C
13が大きいゴルファーには、軽バランスクラブがより適しているという傾向が確認された。なお、
図14では、指標C
13の大小を判断する閾値を6degとした上で、以上の傾向から外れた結果に背景色を付している。この実験結果によれば、27名中24名において、すなわち、88%以上の確率で、以上の傾向が現れた。よって、フェース面の開き具合の変化量を表す指標C
13が分かれば、最適バランスを決定可能であることが分かった。
【0068】
第3実施形態に係るフィッティング処理は、第1実施形態と同様に、
図4に示す通りに進行する。ただし、以上の知見に基づき、ステップS4では、算出部24Bは、記憶部23内に格納された計測データに基づいて、フェース面41aの開き具合の変化量を表す指標C
1として、指標C
11及びC
12ではなく、指標C
13を算出する。
【0069】
続くステップS5では、選択部24Cは、指標C13の大きさに応じて、最適バランスを選択する。より具体的には、選択部24Cは、指標C13が大きいほど、軽い最適バランスを選択する。このとき、選択部24Cは、指標C13を、予め定められている1の閾値、或いは段階的に定められている複数の閾値と比較し、指標C13が、閾値を境界とするいずれの範囲に属するかを判断し、より大きな範囲に属するほど、より軽い最適バランスを選択する。最適バランスが選択された後のステップS6及びS7は、第1実施形態と同様である。
【0070】
<4.変形例>
以上、本発明の幾つかの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0071】
<4-1>
上記実施形態では、スイング動作を計測する計測機器として、慣性センサユニット1又はカメラシステム5が用いられた。しかしながら、計測機器の構成はこれに限らず、適宜変更することができる。例えば、三次元モーションキャプチャーシステムや距離画像センサー等を用いてもよいし、ここで例示された又はその他の計測機器の中から複数種類の計測機器を選択し、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0072】
<4-2>
上記実施形態では、ステップS7において、最適クラブを特定する情報、最適バランスの情報及び最適剛性の情報の全てが表示部21上に表示されたが、これらの一部のみが表示されてもよい。例えば、最適バランス及び最適剛性の情報のみが表示される場合には、これを視たゴルフクラブの販売員やインストラクター等が、最適バランス及び最適剛性に合致するゴルフクラブをカタログなどから探し、ゴルファーGに推奨してもよい。なお、ステップ7において、最適クラブを特定する情報を表示しない場合には、ステップS6は省略することができる。また、ステップS6に加え、ステップS3及びS5の少なくとも一方を省略することもできる。この場合、ステップS7で指標B1、C1、予備指標を適宜表示することにより、これらの指標と最適仕様との関係を表す予め用意された情報を参考にしつつ、省略されたステップを人が行うこともできる。
【0073】
また、選択部24Cが、最適剛性を有するシャフトを備える特定のゴルフクラブを、最適バランスを達成するようにカスタマイズするカスタマイズ方法を導出し、表示制御部24Dが、これを表示部21上に表示させてもよい。例えば、最適剛性を有するシャフトを特定する情報を表示させつつ、最適バランスを達成するために、同シャフトを備える特定のゴルフクラブのグリップやヘッド等に取り付けるべきウェイトの重量を算出し、これをカスタマイズ方法として表示させてもよい。
【0074】
<4-3>
上述したスイング動作時のフェース面41aの開き具合の変化量を表す指標C
1は、例示であり、適宜変更を加えることができる。例えば、指標C
11に代えて、以下の指標C
11’を用いることもできるし、指標C
12に代えて、以下の指標C
12’を用いることもできる。また、C
12及びC
11’の積分区間の始点及び終点をトップ及びインパクト以外のタイミングに設定することもできるし、C
11及びC
12’の差分がとられる角速度のタイミングをトップ及びインパクト以外のタイミングに設定することもできる。
【数4】
【数5】
【0075】
また、第1実施形態において、C11及びC11’のようなωzに関する指標と、C12及びC12’のようなωxに関する指標とを組み合わせる必要はなく、ωz又はωxの一方に関する指標のみ応じて、最適バランスを選択してもよい。ただし、この場合、第2実施形態のように、フェース面41aの開き具合の変化量に対しより支配的なωzに関する指標を用いることが望ましい。
【0076】
以上、指標C13も含め、様々な指標C1を説明したが、これらの1つ又は複数の組み合わせに応じて、最適バランスを決定することができる。
【0077】
<4-4>
上記実施形態では、最適バランスを選択するために指標C1と組み合わせて用いられる予備指標として、腕出力パワーP1を例示したが、その他の指標を用いることもできる。例えば、腕出力パワーP1の他、指標C1に、以下のような予備指標を組み合わせた場合にも、最適バランスを決定可能である。
・スイング動作時にテストクラブ4に入力されるパワー(以下、クラブ入力パワーという)P2
・スイング動作時にゴルファーGにより発揮されるエネルギー(以下、発揮エネルギーという)E1
・スイング動作時にゴルファーGにより発揮されるトルク(以下、発揮トルクという)T
【0078】
クラブ入力パワーP
2は、特許文献1等でも詳しく説明されている公知の指標であり、下式の通り定義することができる。
【数6】
【0079】
ここで、R
2は、グリップに発生する拘束力であり、v
gは、グリップの速度ベクトルである。クラブ入力パワーP
2も、
図9に示すような、腕及びゴルフクラブをリンクとし、肩及びグリップを節点とする振り子モデルを用いて解析することができる。なお、これに限定されないが、予備指標としてのクラブ入力パワーP
2は、スイング動作中の平均的なクラブ入力パワーP
2として算出することができ、例えば、トップの時刻からクラブ入力パワーP
2が最大値をとる時刻までの区間でクラブ入力パワーP
2を積分し、この積分値を積分区間で除することにより算出することができる。
【0080】
発揮エネルギーE
1も、特許文献1等に詳しく説明されている公知の指標であり、例えば、ゴルファーGの腕で発揮される仕事量、又はゴルファーGの腕で単位時間当たりに平均的に発揮される平均仕事量として定義することができる。腕の仕事量は、例えば、以下に示すような腕の仕事率E
1’を所定の期間(例えば、トップの時刻から、トップ以降で腕の仕事率E
1'が正から負へ転じる時刻まで)で積分した積分値として算出することができ、腕の平均仕事量は、このような積分値を積分区間の長さで除した値として算出することができる。
【数7】
【0081】
発揮トルクTも、特許文献1等に詳しく説明されている公知の指標であり、例えば、ゴルファーGの肩回りのトルクを所定の期間(例えば、トップからインパクトまで)で積分した積分値として定義することもできるし、或いは、この積分値を積分区間の長さで除した値、すなわち、単位時間当たりに平均的に発揮される肩回りの平均トルクとして定義することができる。
【0082】
以上、様々な予備指標を説明したが、上述した1又は複数の任意の指標C1に、これらの予備指標の1つ又は複数を適宜組み合わせることにより、最適バランスを決定することができる。
【0083】
<4-5>
上記実施形態では、シャフトの剛性として、曲げ剛性が評価されたが、これに代えて、ねじれ剛性を評価してもよい。ねじれ剛性の値(以下、GJ値ということがある)も、シャフトの延びる方向に沿った複数の位置において評価することができる。すなわち、シャフトの延びる方向に沿った複数の位置におけるねじれ剛性の分布を、シャフトの剛性としてもよい。この場合、最適剛性(すなわち、ゴルファーGに適したGJ値である最適GJ値)を選択するための所定の指標B1としては、最適GJ値との相関が認められる任意の指標を用いることができる。このような指標としては、例えば、特開2014-212862号公報に記載されているような、以下の指標を用いることができる。
【0084】
(1)グリップ角速度ωyが最大となるときからインパクトまでの単位時間あたりのグリップ角速度ωxの変化量の大きさ
(2)トップ付近でのグリップ角速度ωzの変化量
(3)トップからダウンスイング途中であってグリップ角速度ωyが最大となるときまでのグリップ角速度ωzの変化量の大きさ
【0085】
本変形例でも、指標B1と最適GJ値との関係を表す近似式を予め実験により算出し、記憶部23内に格納しておくことにより、計測データに基づく指標B1から、最適GJ値を決定することができる。
【0086】
また、最適剛性として、ゴルファーGに適したシャフトの複数の位置における剛性分布ではなく、ゴルファーGに適したシャフトのフレックス、調子又はトルクを決定するようにしてもよい。なお、フレックスとは、シャフト全体での硬さ(曲げ剛性)を評価する指標であり、トルクとは、シャフト全体でのねじれ剛性を評価する指標である。ゴルファーGに適したフレックス(最適フレックス)の導出方法は、特に限定されないが、例えば、上述した最適EI値から算出可能である。例えば、特定の位置での最適EI値を最適フレックスとすることもできるし、複数の位置での最適EI値の平均値を最適フレックスとすることもできる。ゴルファーGに適したトルク(最適トルク)についても同様に、最適GJ値から適宜算出することができるし、ゴルファーに適した調子(最適調子)についても同様に、最適EI値及び最適GJ値から適宜算出することができる。
【符号の説明】
【0087】
100,200 フィッティングシステム
1 慣性センサユニット(計測機器)
2,102 フィッティング装置
24A 取得部
24B 算出部
24C 選択部
24D 表示制御部
3 フィッティングプログラム
4 テストクラブ
40 シャフト
41 ヘッド
42 グリップ
5 カメラシステム(計測機器)
G ゴルファー