(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】バルブ制御装置および推定装置
(51)【国際特許分類】
G05D 16/20 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G05D16/20 Z
(21)【出願番号】P 2019187170
(22)【出願日】2019-10-10
【審査請求日】2022-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-106718(JP,A)
【文献】特開2019-070924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 16/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空バルブが装着されたチャンバの圧力計測値と前記チャンバの圧力目標値とに基づいて弁体開度を制御し、前記チャンバの調圧を行うバルブ制御装置において、
前記チャンバへのガス導入時に前記弁体開度を一定に固定する開度設定部と、
前記弁体開度が一定に固定されている状態において、異なる時刻である第1時刻及び第2時刻における、圧力計測値、及び、圧力計測値の時間的な圧力変化率に基づいて
算出する量と、前記第1時刻及び前記第2時刻における前記圧力計測値の差分量との比に基づいて、前記真空バルブの排気情報を推定する推定部と、を備え、
前記排気情報に基づいて前記弁体開度を制御し、前記チャンバの調圧制御を行うバルブ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブ制御装置において、
前記排気情報に基づいて、前記圧力計測値に対する所定時間経過後の圧力予測値を算出する予測圧演算部をさらに備え、
前記圧力予測値が上限閾値を越えると前記弁体開度を増加させる、あるいは前記圧力予測値が下限閾値を越えると前記弁体開度を減少させる、バルブ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のバルブ制御装置において、
前記排気情報は前記チャンバに導入されているガスのガス種情報を含み、
前記推定部は、基準ガスに関する基準排気速度と
前記比とに基づいて前記ガス種情報を推定する、バルブ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のバルブ制御装置において、
前記排気情報は、前記チャンバへ導入されるガスの流量およびガス種の少なくとも一方に関する情報を含み、
推定した前記排気情報が基準流量および基準ガス種と一致するか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を出力する出力部と、を備えるバルブ制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載のバルブ制御装置において、
前記推定部が、前記弁体開度が一定に固定されている状態において、異なる時刻である前記第1時刻及び前記第2時刻における、前記圧力計測値の差分
量と、
前記第1時刻および前記第2時刻における前記圧力計測値の時間的な圧力変化率の差分
量との比に基づいて、前記真空バルブの排気情報を推定する、バルブ制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載のバルブ制御装置において、
前記チャンバの容積をVとし、前記第1時刻における圧力計測値をPr1とし、前記第2時刻における圧力計測値をPr2とし、前記第1時刻における圧力計測値の時間的な圧力変化率をdPr1/dtとし、前記第2時刻における圧力計測値の時間的な圧力変化率をdPr2/dtとすると、
前記推定部が、数式 Se0=-V×(dPr2/dt-dPr1/dt) /(Pr2-Pr1)に基づいて、実効排気速度Se0を推定する、バルブ制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載のバルブ制御装置において、
前記チャンバの容積をVとし、前記第1時刻における圧力計測値をPr1とし、前記第2時刻における圧力計測値をPr2とし、前記第1時刻における圧力計測値の時間的な圧力変化率をdPr1/dtとし、前記第2時刻における圧力計測値の時間的な圧力変化率をdPr2/dtとすると、
前記推定部が、数式 Qin0=V×(Pr2×dPr1/dt-Pr1×dPr2/dt)/(Pr2-Pr1)に基づいて、流量Qin0を推定する、バルブ制御装置。
【請求項8】
チャンバに装着された真空バルブの排気情報を推定する推定装置であって、
前記真空バルブの弁体開度が一定状態において、異なる時刻である第1時刻及び第2時刻における、圧力計測値、及び、圧力計測値の時間的な圧力変化率に基づいて
算出する量と、前記第1時刻及び前記第2時刻における前記圧力計測値の差分量との比に基づいて、バルブ排気速度、前記チャンバに導入されているガスの流量および前記ガスのガス種情報の少なくとも一つを前記排気情報として推定する、推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ制御装置および推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライエッチング等の半導体プロセスにおいて、チャンバへ導入されるプロセスガスは、ガス種、流量Qinなどの条件が予め定められ、その条件になるように流量制御器で調節される。チャンバ圧力Prは重要なプロセス条件の1つであり、予め定められた所定の圧力値になるようにバルブの弁体開度位置を制御することで、チャンバ圧力Prが所定圧力値に保たれる。そのようなバルブとしては、特許文献1に記載のバルブのように弁体をモータで駆動制御する、自動圧力調整バルブ(APCバルブとも呼ばれる)が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のバルブでは、予め記憶している実効排気速度データに基づいて調圧動作が行われる。しかしながら、実際に流されるガス種は予め記憶しているデータのガス種と同じとは限らず、ガス種が異なる場合には調圧制御の精度が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様によるバルブ制御装置は、真空バルブが装着されたチャンバの圧力計測値と前記チャンバの圧力目標値とに基づいて弁体開度を制御し、前記チャンバの調圧を行うバルブ制御装置において、前記チャンバへのガス導入時に前記弁体開度を一定に固定する開度設定部と、前記弁体開度が一定に固定されているときの前記圧力計測値の変化情報に基づいて、前記真空バルブの排気情報を推定する推定部と、を備え、前記排気情報に基づいて前記弁体開度を制御し、前記チャンバの調圧制御を行う。
本発明の第2の態様による推定装置は、チャンバに装着された真空バルブの排気情報を推定する推定装置であって、前記真空バルブの弁体開度が一定のときの前記チャンバの圧力計測値の変化情報に基づいて、バルブ排気速度、前記チャンバに導入されているガスの流量および前記ガスのガス種情報の少なくとも一つを前記排気情報として推定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、調圧制御の精度向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、真空処理装置に装着された真空バルブの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、真空バルブ1の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、オープン制御における調圧ロジックを説明する図である。
【
図4】
図4は、オープン制御による状態(θr、Pr)の推移を示す図である。
【
図5】
図5は、開度推移グラフおよび圧力推移グラフを示す図である。
【
図6】
図6は、ガス種と実効排気速度との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、ガス種が異なる場合の圧力推移を示す図である。
【
図8】
図8は、実際に流れているガスの実効排気速度に対して記憶されている実効排気速度の値がずれている場合の軌跡を示す図である。
【
図9】
図9は、信頼性が十分に確保されている場合の実効排気速度比の算出例を示す図である。
【
図10】
図10は、信頼性が不十分な場合の実効排気速度比の算出例を示す図である。
【
図11】
図11は、実効排気速度比の調圧制御への適用例を示す図であり、実際に流れているガスの実効排気速度が記憶されている実効排気速度よりも小さい場合を示す。
【
図12】
図12は、実効排気速度比の調圧制御への適用例を示す図であり、実際に流れているガスの実効排気速度が記憶されている実効排気速度よりも大きい場合を示す。
【
図13】
図13は、校正モードにおける一連の処理を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、校正処理時における開度計測値θr(ラインL31)と、圧力計測値Pr(ラインL32)とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、真空処理装置に装着された真空バルブ1の概略構成を示すブロック図である。真空バルブ1は調圧用のバルブであって、弁体12が設けられたバルブ本体1aと、弁体12の開閉駆動を制御するバルブ制御装置1bとを備えている。バルブ本体1aは真空処理装置の真空チャンバ3に装着され、バルブ本体1aの排気側には真空ポンプ4が装着されている。真空チャンバ3には、流量コントローラ32を介してプロセスガス等のガスが導入される。流量コントローラ32は真空チャンバ3に導入されるガスの流量Qinを制御する装置であり、真空処理装置のメインコントローラMCにより制御される。真空チャンバ3内の圧力(チャンバ圧力)は真空計31によって計測され、その圧力計測値Prはバルブ制御装置1bに入力される。
【0009】
バルブ本体1aには、弁体12を開閉駆動するモータ13が設けられている。弁体12は、モータ13により開閉駆動される。モータ13には、弁体12の開閉角度を検出するためのエンコーダ130が設けられている。エンコーダ130の検出信号は、弁体12の開度信号θr(以下では、開度計測値θrと称することにする)としてバルブ制御装置1bに入力される。
【0010】
バルブ本体1aを制御するバルブ制御装置1bは、調圧制御部21およびモータ駆動部22を備えている。バルブ制御装置1bには、上述した圧力計測値Prおよび開度計測値θrに加えて、上述した真空処理装置のメインコントローラMCから真空チャンバ3の圧力目標値Psが入力される。モータ駆動部22はモータ駆動用のインバータ回路とそれを制御するモータ制御部と備え、エンコーダ130からの開度計測値θrが入力される。調圧制御部21には、真空計31で計測されたチャンバ圧力Prが入力されると共に、上述した真空処理装置のメインコントローラMCから真空チャンバ3の圧力目標値Psが入力される。一方、調圧制御部21からメインコントローラMCへは、後述する判定結果Dが送信される。
【0011】
バルブ制御装置1bは、例えば、CPU,メモリ(ROM,RAM)および周辺回路等を有するマイコン等の演算処理装置を備え、ROMに記憶されているソフトウェアプログラムにより、調圧制御部21およびモータ駆動部22のモータ制御部の機能を実現する。また、マイコンに代えて、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のデジタル演算器とその周辺回路により構成しても良い。
【0012】
図2は、真空バルブ1の機能ブロック図である。調圧制御部21は、演算部210、フィードフォワード制御器220、フィードバック制御器230および記憶部240を備えている。記憶部240には、調圧制御に必要なパラメータ(例えば、後述する実効排気速度Se等に関するデータ)が記憶される。エンコーダ130で検出された開度計測値θrは、モータ駆動部22および演算部210に入力される。
【0013】
本実施の形態においても、上述した特許文献1の発明と同様に、圧力目標値近傍までオープン制御による粗調整を行い、さらにクローズ制御に切り替えて圧力目標値まで微調整にて追い込む。調圧制御部21において、演算部210およびフィードフォワード制御器220がオープン制御部に相当し、偏差ε(=Pr-Ps)を生成する減算器229およびフィードバック制御器230がクローズ制御部に相当する。
【0014】
演算部210には、圧力計測値Pr、圧力目標値Psおよび開度計測値θrが入力される。演算部210は、圧力計測値Pr、圧力目標値Psおよび開度計測値θrに基づいて、目標開度推定値θse、予測圧Pp、およびバルブ本体1aの排気情報(詳細は後述する)を演算する。一般に、弁体開度を一定の値に固定しても、チャンバ圧力がその弁体開度に対応する圧力平衡値に到達するまでにはある程度の時間を要する。そして、予測圧Ppは、圧力計測値Prが計測された時点からΔt秒経過後(例えば、t=0.4秒のように制御サイクルよりも長い時間)の圧力推定値である。予測圧Ppの求め方については後述する。
【0015】
フィードフォワード制御器220は、目標開度推定値θseに基づいて開度設定θ1を出力する。また、フィードバック制御器230は、偏差ε=Pr-Psに基づいて開度設定θ2を出力する。出力された開度設定θ1と開度設定θ2とは加算器225で加算され、その加算結果が開度設定θsetとしてモータ駆動部22に入力される。モータ駆動部22は、開度設定θsetとエンコーダ130から入力された開度計測値θrとに基づいてモータ13を駆動する。
【0016】
オープン制御によって最終的に開度計測値θrが目標開度推定値θseになると、
図2のフィードフォワード制御器220から出力される開度設定θ1はその値に固定されたまま、オープン制御からクローズ制御へと切り替わる。クローズ制御へと切り替わると
図2の減算器229には圧力目標値Psが入力され、フィードバック制御器230は偏差ε=Pr-Psに基づいて開度設定θ2を出力する。通常、フィードバック制御器230は、比例ゲイン、積分ゲイン(所謂PIゲイン)で構成される。モータ駆動部22は、開度設定θset=θ1(固定)+θ2に基づいて開度を制御する。開度計測値θrは、弁体12が高速で動いていない限りθr=θ1+θ2となる。
【0017】
なお、クローズ制御開始までは、減算器229には圧力目標値Psの代わりに圧力計測値Prが入力されるように構成されている。そのため、オープン制御の際には圧力偏差ε=0がフィードバック制御器230に入力されることになり、開度設定θ2=0がフィードバック制御器230から出力される。
【0018】
(予測圧Ppの求め方)
予測圧Ppの求め方としては、一例として、特開2018-106718号公報の段落0024等に記載のような方法がある。ここでは、その要点のみを説明する。真空チャンバ3の圧力計測値Prに関して、次式(1)で表される排気の式が成立している。
V×(dPr/dt)+Se×Pr=Qin …(1)
式(1)において、Vは真空チャンバ3を含むチャンバ容積、Seは真空バルブ1のコンダクタンスを含む排気系の実効排気速度、Qinは真空チャンバ3に導入されるガスの流量である。実効排気速度Seの情報は、真空バルブ1の開度θと実効排気速度Seとの相関関係Se(θ)として与えられる。
【0019】
調圧制御においては、式(1)に基づいて推定される実効排気速度Seが用いられる。また、予測圧の算出には、上述した排気の式(1)が用いられる。式(1)の一般解は次式(2)のように表される。
【数1】
…(2)
【0020】
現在を基点としたt秒後の予測圧Ppを式(2)により算出する方法として、例えば、下記に示すような離散化関係式(3),(4)を用いる。式(3),(4)を用いて、現在を基点とするt秒先までのΔt刻みの漸化式を求めて、t秒先の予測圧Ppを求める。例えば、k=1~99とし、t秒先を0.4秒とすると、Δt=4msecとなる。
P(Δt先)=Cp(現在)×P(現在)
+Cq(現在)×{Qin(現在)+A×Δt} …(3)
P((k+1)×Δt)=Cp(k)×P(k×Δt)
+Cq(k)×{Qin(現在)+A×k×Δt} …(4)
ただし、
Cp(k)=exp{(-Se(k×Δt)/V)×Δt}
Cq(k)=(1/V)×{1/(-Se(k×Δt)/V)}×(Cp(k)-1)
式(3)、(4)を用いてt秒先の予測圧Ppを算出するためには、現在からt秒後までの流量推定値と、現在からt秒後までの実効排気速度Seが必要である。例えば、式(4)では{Qin(現在)+A×k×Δt}が現在からk×Δt秒後の流量推定値を表しており、ここでは、流量がA×k×Δtのように変化する場合を仮定し、Aは定数である。
【0021】
予測圧Ppを用いた判定は、
図3に示す調圧ロジックに従って行われる。
図3に示す座標系は、状態(θr、Pr)を座標点とするθr-Pr座標系であり、原点は状態(θse、Ps)を表す。θse、Psは、上述した目標開度推定値、圧力目標値である。このようなθr-Pr座標系において、状態(θr、Pr)が第1~4象限のいずれにあるか、および、予測圧Ppと圧力目標値Psとの大小関係に基づいて、弁体12の開度θを開方向および閉方向のいずれに制御するかを決定する。
【0022】
開度変更前の状態(θr、Pr)が第2象限および第4象限にある場合には、開度θを目標開度推定値θseの方向に調整する。その結果、圧力計測値Prが圧力目標値Psの方向に変化する。すなわち、第2象限の場合は圧力が減少し、第4象限の場合には圧力が上昇する。制御開始の起点は第2または第4象限のいずれかであり、起点の圧力Psttから圧力が上昇するアップケースの場合は第4象限、起点の圧力Psttから圧力が降下するダウンケースの場合は第2象限となる。
【0023】
一方、開度変更前の状態(θr、Pr)が第1象限および第3象限にある場合には、予測圧Ppと圧力目標値Psとの大小関係に応じて開度調整の方向を設定する。第1象限では、Pp>Psのように予測圧Ppが圧力目標値Psよりも大きい場合には、開度を大きくしてチャンバ圧力を下げる方向(右向きの矢印で示す方向)に開度調整を行うか、あるいは円50で示すように開度値をそのまま維持する。逆に、Pp≦Psである場合には、開度を小さくしてチャンバ圧力を上げる方向(左向きの矢印で示す方向)に開度調整を行う。第3象限では、Pp>Psの場合には開度を大きくしてチャンバ圧力を下げる方向(右向きの矢印で示す方向)に開度調整を行う。逆に、Pp≦Psである場合には、開度を小さくしてチャンバ圧力を上げる方向(左向きの矢印で示す方向)に開度調整を行うか、あるいは円50で示すように開度値をそのまま維持する。
【0024】
(オープン制御の制御例)
図4、5を参照して、オープン制御における状態(θr、Pr)の変化について説明する。
図4は、制御開始の起点の状態(θstt、Pstt)が点B1のように第4象限にある場合の、オープン制御による状態(θr、Pr)の推移の一例を示したものである。なお、点B2における状態を(θse0、Pra)と表し、点B3における状態を(θse0、Prb)と表す。
図5の上側のグラフは圧力計測値Pr(実線)と予測圧Pp(破線)との関係を示す圧力推移グラフであり、縦軸は圧力P、横軸は時間tである。
図5の下側のグラフは開度計測値θrの時間変化を示す開度推移グラフであり、縦軸は開度θ、横軸は時間tである。
【0025】
図5の開度推移グラフに示すように、オープン制御により開度が点B1の開度θsttから点B2の開度θse0へ変更されると、圧力計測値は点B1におけるPsttから上昇を開始する。開度変更後、開度は一時的にθ=θse0に固定される。
図5の圧力推移グラフは開度θがθse0(時刻t0)に変更され、その後、θ=θse0の状態を継続した場合のt=t0以後の圧力推移を示したものである。開度をθsttからθse0に変更すると、圧力計測値PrはラインL1AのようにPsttから上昇を開始する。
【0026】
さらに十分な時間が経過すると、圧力計測値Prは、開度θse0における圧力平衡値(平衡状態の圧力値)Pe(θse0) に収束する。なお、開度θse0は、圧力目標値Psに対応する目標開度θsよりも小さく設定されており、ラインL1Aが収束する圧力平衡値Pe(θse0)は圧力目標値Psよりも高い。
【0027】
このように、
図5の圧力推移グラフにおけるラインL1Aは、t=t0に開度をθse0に固定した後の圧力計測値Prの推移を示したものである。ラインL1Bは、ラインL1Aに対する予測圧Ppを示したものである。予測圧Ppは圧力計測値Prを計測した時点からΔt秒(例えば、0.4秒)経過後の圧力予測値であり、Δt秒後の圧力計測値Prを正確に予測していると仮定した場合には、ラインL1BはラインL1Aを-Δtだけずらしたものになっている。ラインL1Aが圧力平衡値Pe(θse0)に収束すると、予測圧PpのラインL1BもPe(θse0) に収束する。
【0028】
図4の点B2(θse0、Pra)は、開度をθse0に固定した直後のP=Praに上昇した時点を示している。
図5の圧力推移グラフにおける予測圧PpのラインL1Bを見ると、t=taにおける予測圧PpaはPpa≦Psであり、
図3のロジックに従って、弁体12の開度は点B2の位置の開度に維持される。なお、
図3の第3象限においては、Pp≦Psの場合には開度を小さくする方向(左向きの矢印で示す方向)に開度調整を行うか、あるいは開度値をそのまま維持することになるが、θse0<θsに設定されているので開度θse0を開度制御の下限値として扱い、「開度値をそのまま維持する」をPp≦Psの場合のロジックとして採用する。
【0029】
θ=θse0が維持され、圧力計測値Prがさらに上昇すると状態(θr、Pr)を示す軌跡は点B2から上方に移動し、Pr=Prbとなるt=tbにおいて点B3に達する。ラインL1Aの上昇に伴って予測圧PpのラインL1Bも上昇し、圧力計測値Prが点B3の圧力力計測値Prbに達すると、予測圧PpがPp>Psとなり。その結果、
図3のロジックに従って値が大きくなる方向へ開度θが変更され、状態(θr、Pr)の軌跡は点B3から目標開度推定値θseの近傍の点B4へ移動する。
【0030】
上述したように、予測圧Ppは、記憶部240に記憶されている排気特性データに基づいて算出される。この排気特性データは、予め記憶部240に記憶されているアルゴンガス等の標準ガスに関するバルブコンダクタンスデータや、
図1のようにユーザの真空装置に真空バルブ1を装着した状態で校正用ガスを流して取得された実効排気速度に関する初期校正データなどである。しかしながら、真空チャンバ3に導入されるガスのガス種は、記憶部240に記憶されている排気特性データのガス種と同じとは限らない。ガス種が異なると、式(2)に基づく予測圧Ppの演算結果が異なり、
図3のロジックに基づくオープン制御に悪影響を及ぼす。
【0031】
また、調圧制御は式(1)の排気の式に基づいて行われるが、排気の式(1)には排気特性データの一つである実効排気速度Seが含まれる。そのため、記憶部240に記憶されている実効排気速度Seのガス種が実際に流れているガス種と異なると、調圧制御の精度低下を招く。
【0032】
(ガス種と予測圧Ppとの関係)
前述したように、真空バルブ1のコンダクタンスを含む排気系の実効排気速度は、真空バルブ1の開度θと実効排気速度Seとの相関関係Se(θ)として与えられる。
図6は、ガス種と実効排気速度との関係を示す図であり、縦軸は実効排気速度Se、横軸は開度θである。ラインL11はアルゴンガスの実効排気速度Se(θ)を示しており、ラインL12はヘリウムガスの実効排気速度Se(θ)を示しており、ラインL13はキセノンガスの実効排気速度Se(θ)を示している。開度θに応じて実効排気速度Se(θ)は変化するが、ガス種による実効排気速度Se(θ)の大小関係は、開度θによらずL12>L11>L13となっている。
【0033】
一般に、排気系の実効排気速度Se(θ)は、ガス種ごとに、真空ポンプ4の排気速度Spと真空バルブ1のバルブコンダクタンスC(θ)と真空チャンバ3の構造によってほぼ決まる。実効排気速度Se(θ)は、開度θが大きい領域を除いて真空バルブ1のバルブコンダクタンスCが支配的になり、調圧制御が行われる低開度領域θ=0%~約20%ではバルブコンダクタンスC(θ)でほぼ決まる。なお、実効排気速度Seは開度θだけでなくガス流量Qinにも依存するが、ガス流量Qin の影響は開度θよりも小さいので、本実施の形態における説明では、実効排気速度Seは開度θのみの関数として扱うことにする。
【0034】
図7は、ガス流量Qin一定でガス種が異なる場合の圧力推移を示す。ラインL1Aは
図5に示したラインL1Aと同一のものであり、その場合の実効排気速度をSe1とする。ラインL2Aの実効排気速度Se2はSe2>Se1を満たし、ラインL3Aの実効排気速度Se3はSe1>Se3を満たしている。実効排気速度Se2(>Se1)のラインL2Aの圧力平衡値Pe2(θse0)はラインL1Aの圧力平衡値Pe(θse0)よりも低く、逆に、実効排気速度Se3(<Se1)のラインL3Aの圧力平衡値Pe3(θse0)は圧力平衡値Pe(θse0)よりも高い。また、破線で示したラインL1Bは、ラインL1Aの予測圧Ppを表している。
【0035】
ここで、実際に流れているガスの実効排気速度がSe1で、記憶部240に記憶されている実効排気速度がSe2であった場合を考える。t=t10における圧力計測値はPr0である。実際に流れているガスに対する実効排気速度はSe1であるので、その場合の予測圧はラインL1Aの予測圧を示すラインL1Bに基づいて予測されるべきである。
【0036】
しかしながら、記憶部240に記憶されている実効排気速度はSe2であり、Se2に基づいて推定演算される予測圧は、Se1に基づく本来の予測圧を示すラインLIBより下方となり、t=t10ではPr4となる。すなわち、記憶部240に記憶されている実効排気速度Se2に、実際に流れているガスの実効排気速度Se1に対してSe2>Se1のような誤差があると、圧力計測値PrのラインL1Aに対する予測圧のラインは、ラインL1Bよりも下方のラインL1Cのようになる。逆に、実効排気速度Se3(<Se1)が記憶部240に記憶されている場合には、圧力計測値のラインL1Aに対する予測圧はラインL1Bよりも上方のラインL1Dのようになる。
【0037】
図7において、ラインL1Aで示す圧力計測値PrがPr>Psとなるタイミングに対して、ラインL1B,L1C,L1Dが圧力目標値Psを超えるタイミングを比較する。ラインL1Bで示す予測圧が圧力目標値Psを超えるタイミングは、Pr>PsとなるタイミングよりもΔt秒前となる。一方、ラインL1C,L1Dが圧力目標値Psを超えるタイミングをそれぞれΔt1秒前、Δt2秒前とすると、
図7からΔt1<Δt<Δt2であることが分かる。ラインL1Cを用いた場合には予測時間がΔtよりも短くなって、ラインL1Bの場合よりも予測タイミングが遅れてしまう。逆に、ラインL1Dを用いた場合には予測時間がΔtよりも長くなり、ラインL1Bの場合よりも早くPr>Psとなるタイミングを予測できる。
【0038】
このように、実際に流れているガスの実効排気速度に対して記憶部240に記憶されている実効排気速度の値がずれている場合、
図4に示した状態(θr、Pr)の軌跡は、
図8に示すような軌跡に変化する。破線で示す軌跡は記憶部240に実効排気速度Se2(>Se1)が記憶されている場合であって、予測圧Ppが目標圧力値Psを越えるタイミング、すなわち開度θを増加方向に反転させるタイミングがSe1の場合よりも遅れる。そのため、圧力目標値Psよりも過大な圧力にオーバーシュートする可能性が高くなる。逆に、記憶部240に実効排気速度Se3(<Se1)が記憶されている場合には、一点鎖線で示すように開度θを減少方向に反転させるタイミングがSe1の場合よりも早くなる。そのため、座標原点(θse、Ps)から大きく離れた状態からクローズ制御を開始することになり、調圧時間が長くなってしまう。
【0039】
(調圧途中における実効排気速度推定)
上述したように、記憶部240に予め記憶されている実効排気速度と実際に流れているガスの実効排気速度との間に誤差があると、オーバーシュートが発生したり、調圧時間が長くなったりするという問題が生じる。このような課題に対して、本実施の形態では、実効排気速度を調圧の途中で推定することで、実際に流れているガスに対応する実効排気速度を求めるようにした。そのように取得した実効排気速度を予測圧の演算や調圧制御に用いることで、調圧応答の改善を図るようにした。
【0040】
調圧用の真空バルブ1が使用される半導体プロセスでは、チャンバへ導入されるガス種、ガス流量Qin、目標圧力値Ps等の条件が所定時間ごとに変更される多数の調圧イベントから構成される。各調圧イベントでは、開始直後に流量コントローラ32にてガス流量Qinが所定流量値に収束され、並行して真空バルブ1の弁体開度を調整して実効排気速度Seを制御することで圧力計測値(チャンバ圧力)Prが目標圧力値Psへ収束される。
【0041】
一般に、流量コントローラ32による流量制御収束完了タイミングは、真空バルブ1による圧力制御収束完了タイミングより早い。さらに、調圧制御処理において実効排気速度を推定するタイミングにおいても、早々に流量値Qinは一定の値Qin0にほぼ収束する。ガス種についても、変更後のガス種に置き換わるとみなすことができる。
【0042】
ここで、上記の圧力制御収束完了タイミング付近において開度θが固定される期間を設けると、すなわち、
図5の開度θse0に固定される期間(t≧t0)を設けると、ガス種、流量、開度が一定なので実効排気速度Seも一定の値Se0であると考えて良い。その場合、開度θが固定されている期間中の任意の時点t1,t2において次式(5),(6)が成り立つ。Pr1およびPr2はt=t1、t2における圧力計測値であり、dPr1/dtおよびdPr2/dtはt=t1、t2における圧力計測値の時間的な圧力変化率である。Vはチャンバ容積であり、初期校正等により求められ記憶部240に記憶されている。
Qin0=V×dPr1/dt+Se0×Pr1 …(5)
Qin0=V×dPr2/dt+Se0×Pr2 …(6)
【0043】
式(5),(6)から、上述した実効排気速度Se0は次式(5)で表せる。
Se0=-V×(dPr2/dt-dPr1/dt) /(Pr2-Pr1) …(7)
式(7)を用いることにより、時刻t1、t2において計測される圧力計測値Pr1,Pr2および圧力変化率dPr1/dt,dPr2/dtと記憶部240に記憶されているチャンバ容積Vとから、実効排気速度Se0を推定することができる。
【0044】
(実効排気速度比a_gs)
通常、圧力変化率dPr1/dt,dPr2/dtは直接計測することはできないので、圧力計測値の差分値で代用される。式(5)の右辺分子=(dPr2/dt-dPr1/dt)は圧力変化率の差分であるため圧力計測のノイズの影響を受け易く、そのままでは信頼性が低い。そこで、本実施の形態では下記のような処置を施す。
【0045】
記憶部240には実効排気速度等に関するデータが記憶されている。例えば、初期校正で得られる実効排気速度と開度との相関関係Se(θ)、あるいは、予め出荷時に記憶部240に記憶されるバルブコンダクタンスC(θ)が記憶されている。前述したように、調圧制御が行われる開度領域では実効排気速度はほぼバルブコンダクタンスと同じであると考えることができるので、記憶部240に記憶されているデータ(Se(θ)、C(θ))をSer(θ)のように表し、基準排気速度と呼ぶことにする。この基準排気速度Ser(θ)は既知のガス種に関する実効排気速度である。
【0046】
式(7)で算出される実効排気速度Se0は、固定された開度θse0における実効排気速度である。ガス種が未知であるこの実効排気速度Se0は、ガス種が既知の基準排気速度Ser(θ)を用いて次式(8)のように表すことができる。式(8)において、係数a_gsを実効排気速度比と呼ぶことにする。式(7)を用いると、実効排気速度比a_gsは次式(9)のように表される。
Se0=a_gs×Ser(θ) …(8)
a_gs=-(V/Ser(θ))×(dPr2/dt-dPr1/dt) /(Pr2-Pr1) …(9)
【0047】
(予測圧Pp)
開度θをθse0に固定してから以後の予測圧Ppは、実効排気速度S(θse0)=Se0に基づいて算出される。上述したように流量Qinも所定の流量値Qin0に収束しているとみなせるので、式(3),(4)の定数AはA=0となる。また、式(4)のCp(k)、 Cq(k)に含まれる実効排気速度Se(k×Δt)は開度の計画値に依存しているが、
図5のt=t0において開度θが固定されているので、Se(k×Δt)には開度θse0における実効排気速度Se0が用いられる。また、実効排気速度比a_gsと既知の基準排気速度Ser(θ)を用いて、Se0=a_gs×Ser(θ)を採用しても良い。さらに、式(5)から、Qin(現在)=Qin0=V×dPr1/dt+Se0×Pr1と表せる。これらを式(3)、(4)に適用することによりΔt秒先の予測圧Ppを算出することができる。
【0048】
(実効排気速度Se0および実効排気速度比a_gsの信頼性判定)
上述したように、調圧制御が行われる開度領域θ=0%~約20%では、実効排気速度はバルブコンダクタンスでほぼ決定される。特に、開度θがθ<約5%のような低開度である場合には、バルブコンダクタンスはガスの分子量Mに対して√Mに反比例する。例えば、分子量M=40のアルゴン(Ar)ガスを排気したときの実効排気速度を基準排気速度Ser(θ)とした場合、分子量M=2の水素(H2)ガスに関する実効排気速度比a_gsは約4.5で、分子量M=131のキセノン(Xe)ガスに関する実効排気速度比a_gsは約0.55である。よって、分子量M=2から分子量M=131までのガス種に関する実効排気速度比a_gsは、だいたいa_gs =0.55~4.5となる。なお、高開度領域では真空ポンプの排気速度が支配的であるが、ターボ分子ポンプを用いた場合には、高開度領域における実効排気速度比a_gsはa_gs =0.55~4.5の範囲内に収まる。
【0049】
よって、式(9)で算出される実効排気速度比a_gsが0.55~4.5の範囲内であれば、算出された実効排気速度比a_gsの信頼性が高いと判定することができる。算出された実効排気速度比a_gsが0.55~4.5の範囲内であればその実効排気速度比a_gsを採用し、範囲外の場合には不採用とすることで、実効排気速度比a_gsの信頼性を確保することができる。
【0050】
なお、演算式(7)で算出される実効排気速度Se0は、開度一定の場合の実効排気速度であるので、式(9)で算出される実効排気速度比a_gsも理想的には一定となる。そこで、算出される実効排気速度比a_gsがその許容範囲(0.55~4.5)に所定の時間留まれば、あるいは、許容範囲を複数に分割した分割区間の各々に所定の時間留まれば、算出された実効排気速度比a_gsは信頼性ありと判定して採用するのがより好ましい。
【0051】
また、式(9)で算出される実効排気速度比a_gsは、(dPr2/dt-dPr1/dt)の部分が圧力計測値Prのノイズの影響を受け易い。そこで、このノイズの影響を低減するために、圧力変化率(圧力計測値の差分)の移動平均処理、さらには実効排気速度比a_gsそのものの移動平均処理を行い、滞在判定を行えば、信頼性の向上をより図れる。ただし、圧力応答が極端に速い条件では上記滞在時間を十分に確保できず、採用成立の割合と信頼性確保はトレードオフするので、そのことに留意して適宜判定閾値を定めることになる。
【0052】
図9,10は、
図5に示すような起点の圧力Psttから圧力が上昇するアップケースの典型的な応答関係における、実効排気速度比a_gsの算出例を示したものである。
図9は実効排気速度比a_gsの信頼性が十分に確保されている場合を示し、
図10は信頼性が不十分な場合を示す。
図9では、算出される実効排気速度比a_gsが許容範囲(0.55~4.5)に十分な時間以上滞在しており、a_gs=3であると推定される。
【0053】
一方、
図10の場合には、算出される実効排気速度比a_gsの変動が大きく許容範囲(0.55~4.5)に入ったり出たりしており、信頼性が確保できない。このような場合には、記憶部240に記憶されている基準ガス種に関する基準排気速度Ser(θ)に基づいて、すなわち実効排気速度比a_gsがa_gs=1であるとして調圧制御を行う。
【0054】
なお、実効排気速度Se0の推定演算は開度固定条件が必要なため、
図9、10の時刻t0以降からa_gs信号が出力される。ちなみに、
図10の例のように推定値が確定できないケースは、圧力応答が極端に速い条件や、圧力信号(圧力計測値Pr)のSNが悪い場合に発生し易い。
【0055】
(a_gsの適用例)
図11,12は、推定した実効排気速度比a_gsの調圧制御への適用例を示す図である。上述したように確定された実効排気速度比a_gsを予測圧Ppの演算に用いることにより、予測圧Ppが補正されることになる。
【0056】
図11は、
図7のラインL1A,L1B,L2AおよびL1Cを示したものであり、実際に流れているガスに関する実効排気速度がSe1で、記憶部240に記憶されている実効排気速度がSe2(>Se1)の場合について説明する。例えば、実際に流れているガスはXeであるが、記憶部240に記憶されている基準排気速度Ser(θ)(=Se2)がArに関する実効排気速度である場合に相当する。t=t20は実効排気速度比a_gsが確定された時刻である。
【0057】
圧力計測値Prは、実効排気速度Se1の場合のラインL1Aで表される。実効排気速度比a_gsが確定されるまでは、すなわちt<t20においては記憶部240に記憶されている基準排気速度Ser(θ)=Se2に基づいて予測圧Ppが算出される。すなわち、実効排気速度比a_gs はa_gs=1であって、そのときの予測圧Ppは、ラインL1Aに対する予測圧のラインL1B(Pp’)ではなくて、圧力計測値Pr(ラインL1A)に実効排気速度Se2の場合の予測圧を適用した場合のラインL1C(Pp)で与えられる。そのため、算出される予測圧Ppには誤差が生じており、ラインL1B(Pp’)を用いた場合の予測圧Pp’よりも小さな値となる。
【0058】
推定された実効排気速度Se0に基づいて、t=t20において実効排気速度比sがa_gs(=Se0/Ser(θ)=Se1/Se2<1)のように確定される。t=t20に実効排気速度比a_gsが確定されると、予測圧は確定された実効排気速度比a_gsすなわち実効排気速度Se1(=a_gs×Se2)に基づいて算出されるので、ラインL1B(Pp’)で表される誤差の無いPp’に補正される。t≧t20においては、予測圧Pp’を用いて予測圧が判定閾値(=Ps)を越えたか否かを判定することになる。
【0059】
図12は、
図7のラインL1A,L1B,L3AおよびL1Dを示したものであり、実際に流れているガスに関する実効排気速度がSe1で、記憶部240に記憶されている実効排気速度がSe3(<Se1)の場合について説明する。例えば、実際に流れているガスはHeであるが、記憶部240に記憶されている基準排気速度Ser(θ)(=Se3)がArに関する実効排気速度である場合に相当する。t=t20は実効排気速度比a_gsが確定された時刻である。
【0060】
圧力計測値Prは、実効排気速度Se1の場合のラインL1Aで表される。実効排気速度比a_gsが確定されるまでは、すなわちt<t20においては記憶部240に記憶されている基準排気速度Ser(θ)=Se3に基づいて予測圧が算出される。すなわち、実効排気速度比a_gs はa_gs=1であって、そのときの予測圧は、ラインL1Aに対する予測圧Pp'のラインL1B(Pp')ではなくて、圧力計測値Pr(ラインL1A)に実効排気速度Se3の場合の予測圧Ppを適用した場合のラインL1D(Pp)で与えられる。そのため、算出される予測圧Ppには誤差が生じており、ラインL1B(Pp')を用いた場合の予測圧Pp'よりも大きな値となる。
【0061】
推定された実効排気速度Se0に基づいて、t=t20において実効排気速度比sがa_gs(=Se0/Ser(θ)=Se1/Se3>1)のように確定される。t=t20に実効排気速度比a_gsが確定されると、予測圧は確定された実効排気速度比a_gsすなわち実効排気速度Se1(=a_gs×Se3)に基づいて算出されるので、ラインL1B(Pp')で表される誤差の無いPp’に補正される。t≧t20においては、予測圧Pp’を用いて予測圧が判定閾値(=Ps)を越えたか否かを判定することになる。
【0062】
なお、圧力応答が速い条件ほど、採用成立のタイミングにおける圧力計測値Prは目標圧力値Psにより近づく。そのため、場合によっては予測圧Ppが判定閾値(例えば、目標圧力値Ps)を越えた後にa_gs値が確定され、補正処理が間に合わないこともある。その場合には、記憶部240に記憶されている基準ガスデータ(基準排気速度Ser(θ))を適用した予測圧、すなわち、Se0=a_gs×Ser(θ)においてa_gs=1を適用した予測圧Ppを用いて判定閾値を越えたか否かの判定を継続することになる。
以上、圧力の目標値Psが起点の圧力Psttよりも大きい場合について説明したが、逆に、圧力の目標値Psが起点の圧力Psttよりも小さい場合についても同様に推定して調圧への適用が可能であり、調圧制御の精度向上を図ることができる。
【0063】
(Se0、a_gsの初期校正処理への適用)
上述した実施の形態では、調圧中に開度θをθse0に固定したときに実効排気速度Se0や実効排気速度比a_gsを求め、それらを用いて予測圧を補正したり、それらを調圧制御へ適用したりすることで、調圧応答の改善を図るようにした。以下では、実効排気速度Se0や実効排気速度比a_gsの初期校正処理への適用について説明する。
【0064】
初期校正処理とは、記憶部240に記憶されている基準ガスデータ(基準排気速度Ser(θ))を、実際の真空系に適したデータに校正するための処理である。校正処理の指令が外部装置(例えば、真空処理装置のメインコントローラ)から調圧制御部21に入力されると、調圧制御部21は通常の調圧モードから校正モードになって一連の校正処理を行う。例えば、ユーザが、校正処理のマニュアルに従って真空処理装置のメインコントローラの操作部を操作して指令をバルブ制御装置1bに送信し、調圧制御部21に校正処理を行わせる。
【0065】
図13、14は校正モードにおける一連の処理を示すフローチャートである。また、
図15は、校正処理時においてエンコーダ130で検出される開度計測値θr(ラインL31)と、真空計31により計測される圧力計測値Pr(ラインL32)とを示す図である。
図13、14のフローチャートは調圧制御部21により実行され、校正処理の指令が外部装置から調圧制御部21に入力されるとスタートする。
【0066】
図13のステップS10では、記憶部240に真空チャンバ3のチャンバ容積Vが記憶されているか否かを判定する。記憶部240にチャンバ容積Vが記憶されていない場合には、ステップS12へ進んでチャンバ容積Vの送信を要求する指令を外部装置へ送信する。以下では、外部装置が真空装置のメインコントローラMCであるとして説明する。メインコントローラMCはチャンバ容積Vの要求指令があることをメインコントローラMCの表示装置等に表示して、ユーザにチャンバ容積Vの入力を促す。ステップS14では、メインコントローラMCからはチャンバ容積Vを受信したか否かを判定し、受信した場合(yes)にはステップS16において記憶部240に記憶させ、その後、ステップS20へ進む。
【0067】
ステップS10において記憶部240にチャンバ容積Vが記憶されていると判定された場合、もしくは、ステップS16でチャンバ容積Vを記憶した場合には、ステップS20において開度をθ=100%に設定する。すなわち、
図2の演算部210から開度指令θ=100%を出力する。ここではθ=100%に設定したが、100%でなくても構わない。
図15においてt=t1にθ=100%に設定されると、圧力計測値Pr(ラインL32)は減少する。
【0068】
ステップS30では、所定のガス種を所定の流量Qin0だけ流入させる指令をメインコントローラMCに送信する。ユーザは、校正処理のマニュアルで指定されているガス種のガスを、指定されている所定流量Qin0だけ流入させる命令をメインコントローラに入力する。ステップS40では、圧力計測値Prの上昇からガスが流入されたか否かを検知する。ステップS40でガス流入が検知された場合には、ステップS50に進んで開度θをθ=100%から所定の開度θtestへと減少させる。
図15では、t=t3にガス流入が検知されて開度θがθ=θtestに設定される。この開度θtestは
図5の固定された開度θse0に相当するものである。
【0069】
ステップS50の処理が終了すると、
図14のステップS60へと進む。ステップS60では、上述した式(5),(6)に基くガス流量Qin0の算出、および、式(9)により算出される実効排気速度比a_gsに基づくガス種の推定を行う。式(5)の両辺にPr2を乗じたものと式(6)の両辺にPr1を乗じたものとの差分を取ることにより、流量Qin0が次式(10)により算出される。
Qin0=V×(Pr2×dPr1/dt-Pr1×dPr2/dt)/(Pr2-Pr1) …(10)
ちなみに、式(6)と式(8)よりQin0=V×dPr2/dt+a_gs×Ser(θtest)×Pr2から算出して求めても良い。
【0070】
また、式(9)において、記憶部240に記憶されている基準排気速度Ser(θ)がバルブコンダクタンスC(θ)であった場合、実効排気速度比a_gsは次式(11)により算出される。開度θtestが小さい場合には、実効排気速度におけるバルブコンダクタンスの影響が支配的になり、実効排気速度SeはバルブコンダクタンスCに近い値となる。
a_gs=-(V/C(θtest))×(dPr2/dt-dPr1/dt) /(Pr2-Pr1) …(11)
【0071】
なお、式(11)により算出される実効排気速度比a_gsは、バルブコンダクタンスCを基準とするものである。記憶部240に初期状態で記憶されているバルブコンダクタンスCとしては、Arガスに関するコンダクタンス用いるのが一般的であり、以下では、Arガスを流した場合のコンダクタンスであるとして説明する。そのため、マニュアルに記載のガス種は、バルブコンダクタンスCのガス種と同一のものが記載されている。式(11)で算出される実効排気速度比a_gsがほぼ1であれば、指示通りArガスが導入されていると判定することができる。なお、実効排気速度比a_gsの演算誤差を考慮して判定基準に1±Δのような許容範囲Δを設けても良く、1-Δ≦a_gs≦1+ΔであればArガスが導入されていると判定する。
【0072】
ステップS70では、ステップS60で推定されたガス流量Qin0およびガス種が、マニュアルに記載されている条件を満足しているか否かを判定する。条件を満足している場合にはステップS80へ進む。一方、条件を満足していない場合、すなわちガス流量Qin0およびガス種の少なくとも一方がマニュアルの記載と異なっている場合には、ステップS72へ進んでガス導入条件を確認すべき指令DをメインコントローラMCへ送信し、
図13のステップS40へ戻る。
【0073】
一方、ステップS70からステップS80へ進んだ場合には、複数の開度θ(i)における圧力計測値Prを取得する処理を行う。なお、i=1~N(正の整数)である。校正処理においては、演算部210から校正用の開度指令θ(i)が出力される。
図15に示す例では、t=t11に開度θが100%から0%へと変更される。開度変更により圧力計測値Prは上昇するが、圧力計測値Prが安定してほぼ一定値となった時点で圧力計測値Pr(1)を取得する。同様に、
図15の時刻t12,t13,・・・,t1Nにおいて開度指令θ(i)をθ(2),θ(3),・・・,θ(N)の順に出力し、それぞれに対して圧力計測値Pr(2),Pr(3),・・・,Pr(N)を取得する。すなわち、N個の開度θ(i)に対して圧力計測値Pr(θ(i))が得られる。
【0074】
ステップS90では、ガス流量Qin0と取得された圧力計測値Pr(θ(i))とを用いて、次式(12)により実効排気速度Se(θ(i))を算出する。式(11)は厳密には平衡状態において成り立つ式であるが、
図15におけるt11,t12,t13,・・・,t1Nの時間間隔を十分大きく設定することで、ほぼ平衡状態を満たす。
Se(θ)=Qin0/P(θ) …(12)
【0075】
なお、ステップS80およびS90における実効排気速度の計算では、開度変更後の圧力計測値Prがほぼ収束するまで待って、その値から式(12)より実効排気速度Se(θ)を算出したが、圧力変化率を取得して式(7)により実効排気速度Se(θ)を算出しても良い。この場合、圧力計測値Prがほぼ収束するまで待つ必要が無いので、校正処理に要する時間の短縮を図ることができる。
【0076】
ステップS100では、校正処理によって取得された実効排気速度Se(θ(i))を調圧制御部21の記憶部240に記憶する。なお、記憶部240に予め実効排気速度Seが記憶されている場合には、その実効排気速度Seを校正処理により取得された実効排気速度Se(θ(i))で補正したり、あるいは、そのまま書き替える。
【0077】
上述のように、ステップS70,S72を設けて、ユーザがマニュアル通りのガス種を所定の流量Qin0だけ流入させているか確認することで、間違ったガス種や流量で校正処理が行われてしまうのを防止することができる。ガス種や流量でマニュアル通りでないと調圧精度が低下するが、上述のような校正処理を行うことにより、そのような調圧精度が低下を防止できる。
【0078】
なお、
図13に示すフローチャートでは、ステップS10~ステップS16までの処理を設けて、記憶部240にチャンバ容積Vが記憶されていない場合にユーザに入力させるようにしたが、ビルドアップ法によりチャンバ容積を推定演算して記憶部240に記憶させるようにしても良い。ビルドアップ法では、弁体開度を0%にするだけでなく弁体を押しつけて完全に密閉状態とした状態(実効排気速度=0)にて、ガス導入量Qinを固定したときの圧力変化率dP/dtとから、チャンバ容積Vが次式(13)により算出される。
V=Qin/(dP/dt) …(13)
【0079】
また、校正用のガス種をArガスに限定せず、例えば、Arガスおよび窒素ガスからガス種を選択できるようにしても良い。その場合、記憶部240に記憶されているバルブコンダクタンスCはArガスを流したときの値なので、記憶部240にArガスの場合の実効排気速度比a_gs=1と、Arガスを基準とする窒素ガスの実効排気速度比a_gs=1.2とを記憶させておく。そして、導入するガス種としてユーザがArガスを選択した場合には、その選択情報に基づいて、ガス種判定に用いる実効排気速度比a_gsとして窒素ガス用のa_gs=1.2を選択する。すなわち、ステップS60で算出された実効排気速度比a_gsの値がほぼ1.2である場合には、ユーザが申告した通りの窒素ガスが導入されたと、導入条件を満足していると判定できる。
【0080】
上述した例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0081】
[1]一態様に係るバルブ制御装置は、真空バルブが装着されたチャンバの圧力計測値と前記チャンバの圧力目標値とに基づいて弁体開度を制御し、前記チャンバの調圧を行うバルブ制御装置において、前記チャンバへのガス導入時に前記弁体開度を一定に固定する開度設定部と、前記弁体開度が一定に固定されているときの前記圧力計測値の変化情報に基づいて、前記真空バルブの排気情報を推定する推定部と、を備え、前記排気情報に基づいて前記弁体開度を制御し、前記チャンバの調圧制御を行う。
【0082】
例えば、
図2の演算部210は推定部および開度設定部として機能し、演算部210は、弁体開度が一定値θse0に固定されているときの圧力計測値の変化情報、すなわち、圧力変化率dPr1/dt,dPr2/dtに基づいて、式(7)より算出される実効排気速度Se0、式(9)により算出される実効排気速度比a_gs、および式(10)により算出される流量Qin0を排気情報として推定する。それらは、実際に流れているガスのガス種に応じた排気情報であるので、推定された排気情報に基づいて予測圧Ppの演算や調圧制御を行うことにより、調圧制御の精度向上を図ることができる。
【0083】
[2]上記[1]に記載のバルブ制御装置において、前記排気情報に基づいて、前記圧力計測値に対する所定時間経過後の圧力予測値を算出する予測圧演算部をさらに備え、前記圧力予測値が上限閾値を越えると前記弁体開度を増加させる、あるいは前記圧力予測値が下限閾値を越えると前記弁体開度を減少させる。
【0084】
図11のt≧t20のように、推定された実効排気速度は、実際に流れているガスのガス種に対応した実効排気速度Se1となり、その実効排気速度Se1を用いて算出される圧力予測値(予測圧)は、ラインL1Bで表される誤差の無い予測圧Pp’となる。その結果、弁体開度θを増加方向に反転させるタイミングが遅れたり、早まったりするのを防止でき、圧力応答においてオーバーシュートが発生したり、逆に、調圧時間が長くなったりするのを防止できる。なお、推定される実効排気速度(Se0)と実効排気速度比a_gsと式(8)の関係があるので、排気情報としてガス種情報である実効排気速度比a_gsを推定し、推定された実効排気速度比a_gsと式(8)とから圧力予測値を算出しても良い。
【0085】
[3]上記[1]に記載のバルブ制御装置において、前記排気情報は前記チャンバに導入されているガスのガス種情報を含み、前記推定部は、基準ガスに関する基準排気速度と前記変化情報とに基づいて前記ガス種情報を推定する。排気情報の一つである実効排気速度比a_gsは、式(8)で示すように真空チャンバ3に導入されているガスのガス種に応じた値であって、式(9)のように、基準ガス(例えば、Arガス)に関する基準排気速度Serと圧力Pr1,Pr2と圧力変化率dPr1/dt,dPr2/dtとに基づいて推定される。
【0086】
[4]上記[1]に記載のバルブ制御装置において、前記排気情報は、前記チャンバへ導入されるガスの流量およびガス種の少なくとも一方に関する情報を含み、推定した前記排気情報が基準流量および基準ガス種と一致するか否かを判定する判定部と、前記判定部の判定結果を出力する出力部と、を備える。
【0087】
図13、14に示す校正処理に示すように、真空チャンバ3へ導入されるガスの流量およびガス種を排気情報として推定し(ステップS60)、その推定結果に基づいて、推定されたガス流量およびガス種がマニュアルで指定されているガス流量(基準流量)およびガス種(基準ガス種)と一致するか否かを判定し(ステップS70)、その判定結果を出力する(ステップS72)。ユーザは、その判定結果(条件確認指令D)により、導入したガスの導入条件(ガス流量およびガス種)が基準導入条件(基準流量および基準ガス種)と異なっていることを認識することができ、校正処理を正しいガス導入条件で行うことができる。
【0088】
[5]一態様に係る推定装置は、チャンバに装着された真空バルブの排気情報を推定する推定装置であって、前記真空バルブの弁体開度が一定のときの前記チャンバの圧力計測値の変化情報に基づいて、バルブ排気速度、前記チャンバに導入されているガスの流量および前記ガスのガス種情報の少なくとも一つを前記排気情報として推定する。その推定結果をバルブ制御に利用することにより、推定された排気情報に基づいて予測圧Ppの演算や調圧制御を行うことができ、調圧制御の精度向上を図ることができる。なお、推定装置はバルブ制御装置と独立して構成されても良いし、バルブ制御装置に組み込まれた構成としても良い。
【0089】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、上述した実施の形態では、校正処理をバルブ制御装置1bの調圧制御部21で行う構成したが、バルブ制御装置1bとは別に独立した校正装置を設けて、その校正装置の指令により校正処理を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0090】
1…真空バルブ、1a…バルブ本体、1b…バルブ制御装置、3…真空チャンバ、12…弁体、21…調圧制御部、210…演算部、Pr…圧力計測値、Ps…圧力目標値、Pp…予測圧