(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】積層薄膜および電子デバイス
(51)【国際特許分類】
H10N 35/85 20230101AFI20240110BHJP
H10N 30/076 20230101ALI20240110BHJP
H10N 30/077 20230101ALI20240110BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20240110BHJP
H04R 23/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H10N35/85
H10N30/076
H10N30/077
H10N30/853
H04R23/02
(21)【出願番号】P 2019189507
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 隆男
(72)【発明者】
【氏名】岡野 靖久
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-026980(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157526(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/110423(WO,A1)
【文献】特開平03-283476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 35/85
H10N 30/076
H10N 30/077
H10N 30/853
H04R 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピタキシャル成長膜から成る圧電体薄膜と、
前記圧電体薄膜の上方に形成してある強磁性体薄膜と、を有し、
前記強磁性体薄膜が、結晶相と非晶質相とを含
み、
前記結晶相が面心立方構造である積層薄膜。
【請求項2】
前記強磁性体薄膜は少なくともFeを含む
請求項1に記載の積層薄膜。
【請求項3】
前記強磁性体薄膜の厚さが、前記強磁性体薄膜に含まれる前記結晶相の面内方向の平均粒径よりも大きい
請求項1または2に記載の積層薄膜。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の積層薄膜を有する電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体部分と強磁性体部分とを有する積層薄膜を有する電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体部分と磁歪材部分(強磁性体)とを含む電子デバイスが開発されている。この種の電子デバイスは、たとえば磁気電気センサ、磁気センサ、電気センサ、光電子デバイス、マイクロ波電子デバイス、磁気電気または電気磁気変換器などとして用いられることが検討されている(たとえば特許文献1)。
【0003】
しかしながら、たとえば特許文献1に示す電子デバイスでは、圧電体部分と磁歪材部分とをバルクで製造し、これらを接着剤で接合している。このため、従来では、磁気電気結合が小さく、変換効率(センサの場合は検出感度)が低いと言う課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、本発明の目的は、優れた圧電特性と優れた磁歪特性とを兼ね備える積層薄膜と、変換効率が高い電子デバイスとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る積層薄膜は、
エピタキシャル成長膜から成る圧電体薄膜と、
前記圧電体薄膜の上方に形成してある強磁性体薄膜と、を有し、
前記強磁性体薄膜が、結晶相と非晶質相とを含む。
【0007】
本発明の積層薄膜では、圧電体薄膜がエピタキシャル成長膜から成ることから、高配向の圧電膜となり、圧電特性に優れている。また、この圧電体薄膜の上方に形成してある強磁性体薄膜は、磁歪を発生するためのしきい磁場HTHおよび保持力Hcの値が小さく、低磁場でのdλ/dH(単位磁場(あるいは単位磁場強度)あたりの磁歪変化量)が大きい磁歪薄膜として機能することができる。そのため、本発明に係る積層薄膜を有する素子は、変換効率が高い電子デバイスとして効果的に用いることができる。
【0008】
好ましくは、前記結晶相が面心立方構造である。このように構成することで、積層薄膜の磁歪特性がさらに向上すると共に、電子デバイスの変換効率がさらに高くなる。
【0009】
好ましくは、前記強磁性体薄膜は少なくともFeを含む。このように構成することで、積層薄膜の特性がより向上し、電子デバイスの出力が高くなる。
【0010】
好ましくは、前記強磁性体薄膜の厚さ(t2)が、前記強磁性体薄膜に含まれる結晶相の面内方向の平均粒径(D2)よりも大きい。このように構成することで、積層薄膜の特性がより向上し、低磁場での入力に対する電子デバイスの変換効率がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係る積層薄膜の要部断面図である。
【
図2】
図2は
図1に示す積層薄膜を有する電子デバイスの一例を示す平面図である。
【
図3】
図3は
図2に示すIII-III線に沿う断面図である。
【
図5】
図5は本発明の一実施例に係る電子デバイスの磁歪特性を示すグラフである。
【
図6】
図6は本発明の一実施例に係る磁歪薄膜のX線回折結果を示すグラフである。
【
図7A】
図7Aは、圧電体薄膜のX線回折結果を示すグラフである。
【
図7B】
図7Bは、圧電体薄膜のX線回折結果を示すグラフである。
【
図7C】
図7Cは、圧電体薄膜のX線回折結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0013】
第1実施形態
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層薄膜2は、圧電体薄膜10と、圧電体薄膜10の上に直接または間接的に(電極膜や結晶性制御層など何らかの層を介して)形成してある強磁性体薄膜20とを有する。以下、圧電体薄膜10の特徴と、強磁性体薄膜20の特徴とを説明する。
【0014】
(圧電体薄膜10)
圧電体薄膜10は、圧電材料で構成してあり、圧電効果または逆圧電効果を奏する。圧電効果とは、外力(応力)が加わることで電荷を発生する効果を意味し、逆圧電効果とは、電圧を加えることで歪が発生する効果を意味する。このような効果を奏する圧電材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3)、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN:(K,Na)NbO3)、ジルコン酸チタン酸バリウムカルシウム(BCZT:(Ba,Ca)(Zr,Ti)O3)、などが例示される。
【0015】
本実施形態では、上記の圧電材料のうち、特に、PZT、KNN、およびBCZTなどのペロブスカイト構造を有する圧電材料を用いることが好ましい。圧電体薄膜10として、ペロブスカイト構造の圧電材料を使用することで、優れた圧電特性と、高い信頼性と、を両立して得ることができる。なお、圧電体薄膜10を構成する上記の圧電材料には、特性を改善するために、適宜他の元素が添加してあっても良い。
【0016】
圧電体薄膜10の厚みt1は、好ましくは0.5~10μmの範囲内である。厚みt1は、たとえば、
図1に示すような断面写真を画像解析することで求められる。この場合、厚みt1は、面内方向で3点以上の箇所で計測を行い、その平均値として算出することが好ましい。なお、厚みt1のばらつきは、±5%以下と少ない。
【0017】
本実施形態において、圧電体薄膜10は、エピタキシャル成長膜であり、エピタキシャル成長膜とは、エピタキシャル成長した膜を意味する。ここで、エピタキシャル成長とは、成膜の際に、膜の結晶が、下地材料の結晶格子に整合する形で、膜厚方向(Z軸方向)および面内方向(X軸およびY軸方向)に揃いながら成長することをいう。そのため、本実施形態に係る圧電体薄膜10は、成膜中の高温状態においては、結晶が、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の3軸すべての方向において揃って配向した状態の結晶構造をとり(エピタキシャル膜)、成膜後の室温状態においては、結晶粒界がほとんど形成されず、単結晶に近い(完全な単結晶ではない)結晶構造を有する(エピタキシャル成長(した)膜)。
【0018】
エピタキシャル成長しているか否かは、薄膜形成過程において反射高速電子線回折評価(RHEED評価)を行うことで確認できる。成膜中の膜表面において、結晶配向に乱れがある場合には、RHEED像は、リング状に伸びたパターンを示す。一方で、上記のようにエピタキシャル成長している場合には、RHEED像は、スポット状またはストリーク状のシャープなパターンを示す。上記のようなRHEED像は、あくまでも成膜中の高温状態で観測される。成膜後の室温状態(すなわちエピタキシャル成長膜)において、圧電体薄膜10は、以下に示すような結晶構造を有することが好ましい。
【0019】
成膜後の室温状態において、本実施形態の圧電体薄膜10は、複数の結晶相を有することが好ましく、また、少なくとも3種のドメイン(域)を含むドメイン構造を有することが好ましい。圧電体薄膜10がドメイン構造を有することで、圧電特性がより向上し、外部応力に対する圧電応答性が高まる。
【0020】
ドメイン構造の具体的な構成は、使用する圧電材料によって異なる。たとえば、圧電体薄膜10がPZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶と菱面体晶の少なくとも2種の結晶構造を有することが好ましい。そして、この場合、正方晶は、c軸(直方体(結晶格子)の長手方向の軸)が膜厚方向を向いたドメインと、c軸が面内方向を向いたドメインと、を有することが好ましい。すなわち、圧電体薄膜10がPZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、菱面体晶のドメインとの計3種のドメインを含むことが好ましい。
【0021】
なお、上記において、c軸が膜厚方向を向いたドメインとは、膜厚方向に対して正方晶の(001)面が略垂直(または直交)となるように配向したドメインを意味し、以下、cドメインと呼ぶ。一方、c軸が面内方向を向いたドメインとは、膜厚方向に対して正方晶の(001)面が略平行となるように配向したドメインを意味し、以下、aドメインと呼ぶ。
【0022】
一方、圧電体薄膜10がKNNのエピタキシャル成長膜である場合には、斜方晶の2種のドメインと、単斜晶の1種のドメインと(計3種のドメイン)を有することが好ましい。また、圧電体薄膜10がBCZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、斜方晶の2種のドメインと(計4種のドメイン)を有することが好ましい。上記の場合、斜方晶の2種のドメインとは、斜方晶の(001)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメインと、斜方晶の(010)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメインとが存在し得る。なお、ペロブスカイト構造の圧電材料の場合、結晶相としては、上述したような、正方晶、菱面体晶、斜方晶、および単斜晶などの結晶構造が含まれ得る。
【0023】
上述したような複数のドメインは、共通のドメイン境界を挟んで接しているため、各ドメインの結晶軸の向きは、膜厚方向や面内方向から最大数度程度ずれていても良い。また、上述したような複数のドメインは、少なくとも成膜時の高温状態においては、同じ結晶系の同じ方位に配向した等価なドメインであり、成膜後に室温や使用温度に冷却される過程で、より安定な結晶相やドメインに転移することで形成される。
【0024】
なお、上述したような複数のドメインが混在して存在する様子は、圧電体薄膜10を、透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折またはX線回折(XRD)などで分析することにより確認できる。たとえば、XRDを用いてCu-Kα線によるθ-2θ測定をした場合、2θ=42°~46°の範囲には、圧電体薄膜10に由来する反射ピークが確認される。
図7A~7Cは、圧電体薄膜10に由来する反射ピークを、模式的に示す概略図である。
【0025】
圧電体薄膜10に単一のドメインしか存在しない場合は、
図7Cに示すような反射ピークが現れる。
図7Cでは、2θ=42°~46°の範囲(特に2θ=44°付近)において、シャープな単一の反射ピークのみが確認され、当該反射ピークの半値幅は、0.1°程度もしくは0.1°以下となる。これに対して、圧電体薄膜10に複数のドメインが混在する場合には、
図7Aもしくは
図7Bに示す反射ピークが現れる。
【0026】
図7Aでは、2θ=42°~46°の範囲において、圧電体薄膜10に由来する複数の反射ピークが確認される。
図7Aにおいて、反射ピークの数は、圧電体薄膜10に含まれるドメインの数に対応している。たとえば、PZTの圧電体薄膜10が3種のドメインを有する場合、2θ=43°~44°において、正方晶のcドメインを示す反射ピーク(P1)が現れ、2θ=44°付近において、菱面体晶のドメインを示す反射ピーク(P2)が現れ、2θ=44°~45°において、正方晶のaドメインを示す反射ピーク(P3)が現れる。
【0027】
また、複数の反射ピークが確認されない場合であっても、
図7Bに示すように、2θ=44°付近において、ブロードな反射ピークが確認される場合がある。
図7Bの場合、複数の反射ピークが重なることでブロードな反射ピークとなっている。具体的に、2θ=44°付近に観測されるピークの半値幅が0.2°以上である場合には、少なくとも3種のドメインが存在すると判断する。
【0028】
(強磁性体薄膜20)
本実施形態の強磁性体薄膜20は、強磁性体を含む。強磁性体としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの純金属、または、上記金属元素のうち少なくとも1種を含む合金(たとえば、Fe-Co系、Fe-Ni系、Fe-Si系、Fe-Si-Al系の合金など)、もしくは、上記金属元素の酸化物を含む酸化物磁性体を用いることができる。また、強磁性体薄膜20は、上記の強磁性体を含む単一膜であっても良いし、複数の層からなる多層膜や、強磁性体と反強磁性体との積層膜であっても良い。
【0029】
本実施形態において、強磁性体薄膜20は、特に、優れた磁歪効果を有することが好ましい。磁歪効果とは、外部磁場によって歪を発生する性質を意味する。強磁性体の多くは、磁歪効果を示すが、比較的大きな磁歪効果を有する材質としては、鉄にガリウム(Ga)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、または希土類元素(サマリウム(Sm)、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)など)を添加した合金が例示され、一般的には、Fe-Dy-Tb系合金や、Fe-Ga系合金が知られている。本実施形態においては、特に、強磁性体薄膜20を構成する主成分として、Fe-Co系合金、Fe-Co-Si-B系合金、またはFe-Ga-B系合金などを用いることが好ましい。
【0030】
図1に示すように、強磁性体薄膜20は、非晶質相22と、非晶質相22の厚み方向に延びる結晶相24とを有する。結晶相24は、薄膜20の厚み方向に延びており、薄膜20を貫通するように延びる結晶相24と、薄膜20の下面から延びて上面には届かない結晶相24と、薄膜20の上面から延びて下面には届かない結晶相24とがある。
【0031】
強磁性体薄膜20の厚みt2は、好ましくは0.1~5μmの範囲内である。薄膜20の厚みt2を、この範囲に制御することで、圧電体薄膜10を十分に歪ませることが可能になり、圧電体薄膜10から大きな電気出力を得ることができる。また、薄膜20の厚みt2を厚すぎないようにすることで、薄膜20の生産性も向上する。
【0032】
なお、厚みt2は、厚みt1と同様にして測定される。この厚みt2も、面内方向のばらつきが小さく、厚みt1と同程度のばらつきである。本実施形態では、厚みt1に対する厚みt2の比率(t2/t1)は、好ましくは、1/10~10の範囲内である。
【0033】
また、本実施形態では、強磁性体薄膜20の厚みt2は、薄膜20に含まれる結晶相24の平均粒径D2よりも大きい。好ましくは、D2/t2は、1未満であり、さらに好ましくは0.01~0.7である。ここで、結晶相24の平均粒径D2は、断面写真(BF像)を画像解析することで求められる。より具体的には、平均粒径D2は、少なくとも3個以上の結晶相24のそれぞれについて、厚み方向で3点以上の箇所で粒径を測定し、その平均値として算出することが好ましい。
【0034】
前述したように、本実施形態の強磁性体薄膜20は、非晶質相22と、結晶相24とを有する。特に、強磁性体薄膜20においては、含まれる結晶相24のほとんどが、面心立方構造(fcc)を有することが好ましい。ただし、少なくとも一部の結晶相24に、体心立方構造(bcc)の結晶相24が混じっていてもよい。
【0035】
強磁性体薄膜20は、圧電体薄膜10の上に直接または間接的に形成されるが、下層の圧電体薄膜10が結晶配向性に優れたエピタキシャル成長膜である場合、通常、強磁性体薄膜20も結晶化し易くなる。特に、強磁性体薄膜20に鉄が含まれる場合には、体心立方構造で結晶化されることが通常である。本実施形態では、強磁性体薄膜20の形成において、成膜するための装置と、成膜条件と、を適切に選択することで、非晶質相22と面心立方構造を有する結晶相24とを混在させることができる。
【0036】
強磁性体薄膜20と圧電体薄膜10との間に、導電性材料からなる多結晶電極膜、または多結晶相と非晶質相からなる電極膜を形成しても良い。その場合、電極膜は、面心立方構造の多結晶膜、または非晶質相と面心立方構造の結晶相とからなる膜であることが好ましい。このような電極膜は、その上に形成される強磁性体膜の結晶性を制御するための結晶性制御層としても機能することができる。すなわち、この結晶性制御層を介してエピタキシャル圧電体薄膜10の上に強磁性体薄膜20を形成することで、非晶質相22と面心立方構造の結晶相24からなる強磁性体薄膜20と、エピタキシャル成長した圧電体薄膜10とを有する積層薄膜2が得やすくなる。
【0037】
強磁性体薄膜20において、非晶質相22と結晶相24とが混在する様子は、強磁性体薄膜20の結晶構造を、TEMの電子線回折またはX線回折(XRD)などで分析することにより確認できる。たとえば、XRDを用いてCu-Kα線によるθ-2θ測定をした場合、
図6に示すような、強磁性体薄膜20に由来する反射ピークが確認される。
図6では、本実施形態の強磁性体薄膜20に由来する反射ピークを実線ex1で示している。また、比較として、強磁性体薄膜20が非晶質相22のみで構成された場合の反射ピークを破線ce1で示し、強磁性体薄膜20が結晶相24のみで構成された場合の反射ピークを一点鎖線ce2で示している。
【0038】
図6の破線ce1に示すように、強磁性体薄膜20が非晶質相22のみで構成された場合には、周期配列構造に起因するシャープなピークは検出されず、ブロードで幅が広いハローパターンのみが現れる。また、
図6の一点鎖線ce2に示すように、強磁性体薄膜20が結晶相24のみで構成された場合には、半値幅が狭い極めてシャープな反射ピークのみが検出される。
【0039】
これに対して、本実施形態の強磁性体薄膜20の場合は、非晶質相22と結晶相24とが混在して存在するため、
図6の実線ex1で示すように、非晶質相22の存在を示すブロードな盛り上がり(ハロー)部分と、結晶相24の存在を示すシャープなピーク部分とを共に有する反射ピークが検出される。なお、結晶相24の結晶構造(面心立方構造であるか否か)は、上記の回折パターンを解析することで判別することができる。
【0040】
また、非晶質相22と結晶相24との割合は、
図6に示す反射ピークに対してプロファイルフィッティングを行い、結晶化度を算出することで確認できる。具体的には、
図6に示す反射ピークにおいて、結晶相部分(ピーク部分)と非晶質相部分(ハロー部分)のフィッティングを行い、各部分の積分強度(面積)を測定する。そして、結晶化度(%)は、結晶相部分の積分強度(Ic)と非晶質相部分の積分強度(Ia)との和(すなわち全ピーク面積)に対する、結晶相部分の積分強度(Ic)の比(Ic/(Ic+Ia)×100)で表される。本実施形態では、強磁性体薄膜20の結晶化度は、好ましくは、1%~50%、より好ましくは、5%~20%である。
【0041】
なお、非晶質相22と結晶相24との割合は、上記の算出方法の他に、
図1に示す断面において、強磁性体薄膜20の所定の面積に占める結晶相24の面積割合として算出しても良い。この場合でも、結晶相24の面積割合は、好ましくは、1%~50%、より好ましくは、5%~20%である。なお、断面における結晶相24の面積割合は、強磁性体薄膜20の断面写真を3箇所以上で撮影し、各断面写真において、画像解析により500nm×5000nmの範囲に存在する結晶相24の面積を測定し、その平均値を算出することで得る。
【0042】
(その他の機能膜)
なお、
図1では図示していないが、積層薄膜2には、圧電体薄膜10と強磁性体薄膜20の他に、その他の機能膜が形成してあっても良い。たとえば、前述したように、圧電体薄膜10の下層、および上層(すなわち圧電体薄膜10と強磁性体薄膜20との間)には、導電性の電極膜が形成してあっても良い。導電性の電極膜が形成してあることで、圧電体薄膜10から電気出力を効率よく取り出すことができる。この場合、電極膜としては、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)などの面心立方構造の金属薄膜や、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO
3)やニッケル酸リチウム(LiNiO
3)などのペロブスカイト構造の酸化物導電体薄膜などを形成することが好ましい。
【0043】
また、積層薄膜2の最下層には、エピタキシャル成長を効率よく促すために、バッファ層が形成してあっても良い。バッファ層としては、酸化ジルコニウム(ZrO2)、もしくは、希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)を主成分とすることが好ましい。さらに、強磁性体薄膜20の上方には、絶縁性の保護層などが形成してあっても良い。
【0044】
(積層薄膜2の製造方法)
続いて、
図1に示す積層薄膜2の製造方法の一例について、以下に説明する。
【0045】
積層薄膜2は、
図1では図示しない基板上に作製される。使用する基板は、Si、MgO、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)などの各種単結晶から選択することができるが、特に、表面がSi(100)面の単結晶となっているシリコン基板を使用することが好ましい。単結晶シリコン基板を使用する場合、シリコン基板上には、まず、バッファ層と電極膜とを、エピタキシャル成長させ、その上に圧電体薄膜10を形成することが好ましい。この際、バッファ層と電極膜とをエピタキシャル成長させる方法は、公知の方法を採用すればよい。
【0046】
圧電体薄膜10は、各種薄膜作製法により形成する。薄膜作製法としては、蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、CVD法、PLD法などの物理的または化学的な方法を用いることができる。本実施形態において、圧電体薄膜10の薄膜作製法は、特に限定されないが、特に、スパッタリング法を選択することが好ましい。スパッタリング法では、圧電特性の高い膜を、大面積に安定的に作製することができる。
【0047】
たとえば、スパッタリング法により圧電体薄膜10を形成する場合、安定的にエピタキシャル成長をさせるためには、スパッタリングターゲットの組成、基板温度、成膜速度、ガス組成、真空度、基板-ターゲット間距離などを適正に制御する。
【0048】
また、圧電体薄膜10がドメイン構造(少なくとも3つのドメインを含む)を有するためには、スパッタリングターゲットの組成、基板温度、もしくは、積層する強磁性体薄膜20の応力などを制御する。
【0049】
たとえば、スパッタリングターゲットの組成は、材料に応じて複数のドメインや結晶相が形成されやすい組成を選択するとともに、蒸気圧の高い元素を化学量論的組成の20~120%増しとすることが好ましい。PZTを例にとると、Pb/(Zr+Ti)原子比が1.2~2.2、Zr/(Zr+Ti)原子比が1~1.5となるように制御することが好ましい。また、スパッタリング時の基板温度は、550~650℃となるように制御することが好ましい。さらに、強磁性体薄膜20の応力は、圧縮応力とすることが好ましい。加えて、圧電体薄膜10をエピタキシャル成長させた後で、酸化雰囲気において、300~500℃の温度でアニール処理することも、上述したドメイン構造を得るために効果的である。
【0050】
強磁性体薄膜20も、圧電体薄膜10と同様に、各種の薄膜作製法で形成し得るが、本実施形態においては、特に、スパッタリング法を採用することが好ましい。スパッタリング法の場合、非晶質相22と結晶相24とを混在させるためには、真空度、基板温度、ガス組成、ガス圧力、パワー、基板距離などの成膜条件を適切に制御すればよい。たとえば、チャンバー内の真空度は、0.01~0.1Paとすることが好ましく、基板温度は、20℃~200℃とすることが好ましい。特に、結晶相24を面心立方構造とするためには、基板加熱を行わずに、ターゲットと基板との距離を100mm以上に離すことで、成膜時の基板温度を200℃以下に保つことが好ましい。
【0051】
上記のような方法により、積層薄膜2が形成された基板が得られる。得られた基板については、適宜パターニング加工などを施し、所定の形状に加工することで、積層薄膜2を有する磁気電気変換素子や圧電素子となる。
【0052】
なお、圧電体薄膜10と強磁性体薄膜20との間には、用途に応じて適宜電極膜などを形成しても良い。また、圧電体薄膜10と強磁性体薄膜20との位置関係は反転していても良い。すなわち、強磁性体薄膜20は、圧電体薄膜10の上側にあっても、下側にあってもよい。さらに、圧電体薄膜10の上下両側に強磁性体薄膜20を設けることも可能である。異なる基板に、強磁性体薄膜20と圧電体薄膜10とを、それぞれ薄膜作製法によって形成したのち、両者を接合して積層構造を得てもよいが、好ましくは、前述したように、圧電体薄膜10の上に強磁性体薄膜20を薄膜法で成膜することが好ましい。なお、必要に応じて片側または両側の基板の少なくとも一部を除去して、積層膜のみの構造や、一方の基板で積層膜を保持した形状にすることもできる。
【0053】
(第1実施形態のまとめ)
本実施形態の積層薄膜2では、圧電体薄膜10がエピタキシャル成長膜から成り、圧電体薄膜10の内部に結晶粒界がほとんど存在しない。すなわち、積層体薄膜2に含まれる圧電体薄膜10は、優れた結晶配向性を有する。そのため、本実施形態の圧電体薄膜10では、結晶粒界による物理量の攪乱が抑制され、優れた圧電特性を示す。
【0054】
また、この圧電体薄膜10の上方に形成してある強磁性体薄膜20は、非晶質相22と結晶相24とを有し、非晶質相22の特性と結晶相24の特性とを兼ね備えている。すなわち、本実施形態の強磁性体薄膜20では、非晶質相22の特性に起因して、入力磁場に対する応答性を向上させることができる。つまり、磁歪を発生するために必要なしきい磁場HTHおよび保持力Hcを、小さくすることができる。そのうえ、本実施形態の強磁性体薄膜20では、結晶相24の特性に起因して、低磁場でのdλ/dH(単位磁場(あるいは単位磁場強度)あたりの歪変化量)を大きくすることができる。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る積層薄膜2では、高配向で優れた圧電特性を有する圧電体薄膜10と、磁歪特性に優れる強磁性体薄膜20とを好適に組み合わせて構成してある。そのため、本実施形態に係る積層薄膜2を有する素子(磁気電気変換素子や圧電素子)は、高い変換効率(たとえば磁気-電気の変換効率)と、優れた検出感度(応答性が高く、ノイズが小さい)とを兼ね備える電子デバイスとして好適に用いることができる。
【0056】
また、本実施形態では、強磁性体薄膜20に含まれる結晶相24が、面心立方構造である。このように構成することで、積層薄膜2の磁歪特性がさらに向上すると共に、電子デバイスの変換効率がさらに高くなる。
【0057】
さらに、本実施形態では、強磁性体薄膜20は少なくともFeを含む。このように構成することで、積層薄膜2の特性がより向上し、電子デバイスの出力がさらに高くなる。
【0058】
また本実施形態では、強磁性体薄膜20の厚さ(t2)が、強磁性体薄膜20に含まれる結晶相24の面内方向の平均粒径(D2)よりも大きい。このように構成することで、積層薄膜2の特性がより向上し、低磁場での入力に対する電子デバイスの変換効率がより向上する。
【0059】
(積層薄膜2の産業上の利用分野)
本実施形態の積層薄膜2は、所定の基板上に形成され、その基板は、磁気電気変換素子や圧電素子に組み込まれて利用される。積層薄膜2を有する磁気電気変換素子または圧電素子は、電源や電気/電子回路と接続され、回路基板に搭載するかパッケージされることにより電子デバイスを構成する。
【0060】
たとえば、一例として、積層薄膜2を有する磁気電気変換素子に、増幅器と整流回路を接続しパッケージすれば、磁気センサが得られる。同じく磁気電気変換素子に蓄電素子と整流電力管理回路を接続すれば、外部からの磁場や振動から電力を発電するエネルギー変換デバイス(エネルギーハーベスタ)が得られる。ほかにも、インクジェットプリンタヘッド、マイクロアクチュエータ、ジャイロスコープ、モーションセンサなど、様々な圧電デバイスや磁気電気デバイスに利用できる。
【0061】
特に、上述したエネルギー変換デバイスは、電源システムやウェアラブル端末(イヤホン/ヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス(眼鏡)、スマートコンタクトレンズ、人工内耳、心臓ペースメーカーなど)などに組み込まれ利用される。
【0062】
第2実施形態
第2実施形態では、本発明の一実施形態に係る電子デバイスの一例として、磁気電気変換素子30(以下、素子30とも称する)について説明する。
図2~
図4に示すように、磁気電気変換素子30は、第1実施形態における積層薄膜2(圧電体薄膜10と強磁性体薄膜20とを含む)を有する。なお、
図2~
図4において、X軸、Y軸およびZ軸は、相互に略垂直であり、Z軸が積層方向に一致する。
【0063】
本実施形態の磁気電気変換素子30は、離間したところから非接触で送信される磁場や、電磁波、超音波などのエネルギーを受けて、これらのエネルギー(入力信号)を電気出力に変換する。たとえば、外部から磁場が印加されると、強磁性体薄膜20は、磁歪効果によって歪を発生させる。ここで発生した歪によって、強磁性体薄膜20の下方に位置する圧電体薄膜10も歪むこととなり、圧電体薄膜10の表面では、圧電効果により電荷が発生する。発生した電荷は、第1電極膜50および第2電極膜52を介して電気出力として取り出される。本実施形態では、上記のような性能を有する磁気電気変換素子に30ついて、詳細な構成を一例として説明する。
【0064】
まず、磁気電気変換素子30の形態を、図面に基づいて説明する。
図2に示すように、磁気電気変換素子30は、機能膜が積層された膜積層部32と、膜積層部32の外側を取り囲む外周部34とを有する。
【0065】
図3に示すように、Z軸方向の最下層には基板40が存在する。この基板40は、X-Y平面の略中央部、すなわち膜積層部32の部分において、開口部42を有している。つまり、基板40は、実質的に磁気電気変換素子30の外周部34にのみ存在している。開口部42のZ軸上方に位置する膜積層部32には、第1電極膜50と、積層薄膜2と、第2電極膜52とが、この順に積層してある。ただし、第2電極膜52は、積層薄膜2に含まれる圧電体薄膜10と強磁性体薄膜20との間に形成してあっても良い。
【0066】
第1電極膜50は、端部50aと中央部分50bとを一体的に有する。
図2に示す平面視において、第1電極膜50の中央部分50bは、開口部42の開口面よりも小さい略矩形の形状を有する。また、第1電極膜50の端部50aは、中央部分50bのX軸方向の両端に位置し、
図2に示す平面視において、中央部分50bよりもY軸方向の幅が小さい略矩形の形状を有する。第1電極膜50は、上記のような形状を有するため、
図3に示す断面(III-III線に沿う断面)において、開口部42のZ軸方向の上部開口面を、X軸方向に掛け渡すように存在している。そして、第1電極膜50の端部50aのみが、素子30の外周部34に位置する基板40の表面に存在している。
【0067】
一方で、
図4に示す断面(
図2のIV-IV線に沿う断面)においては、第1電極膜50の中央部分50bの断面のみが現れ、端部50aが存在しない。そのため、
図4に示す断面では、第1電極膜50が、開口部42の上方において、浮遊しているように見える。開口部42の上方で浮遊しているように見える膜積層部32は、積層されている各膜の応力の不均衡によって反りが発生しやすいが、膜積層部32の第1電極膜50の中央部分50bの下面と、基板40に接触している第1電極膜50の端部50aの下面とで、Z軸方向の高さ(位置)がおおよそ一致し面一となっていることが好ましい。
【0068】
積層薄膜2は、第1電極膜50のZ軸方向の上方に位置し、第1電極膜50と同様の平面視形状を有する。ただし、
図2に示す平面視において、積層薄膜2の大きさは、第1電極膜50よりも小さくなっている。また、積層薄膜2のZ軸方向の上方には、第2電極膜52が存在し、第2電極膜52は、略矩形の平面視形状を有する。
【0069】
なお、前述したように、第2電極膜52は、圧電体薄膜10と強磁性体薄膜20との間に位置していても良い。その場合、圧電体薄膜10のみが、第1電極膜50と第2電極膜52とで挟まれる積層構造となり、第2電極膜52の上に強磁性体薄膜20が位置することとなる。このように構成したほうが、圧電体薄膜10で発生する電荷をより効率よく取り出すことが可能となる。
【0070】
また、第2電極膜52が圧電体薄膜10と強磁性体薄膜20との間に位置する場合、第2電極膜52は面心立方構造の多結晶膜、または、非晶質相と面心立方構造の結晶相とからなる膜、であることが好ましい。この上に強磁性体薄膜20を形成することで、エピタキシャル成長した圧電体薄膜10と、非晶質相22と面心立方構造の結晶相24からなる強磁性体薄膜20とが積層された積層薄膜2が得やすくなる。
【0071】
図3に示すように、第1電極膜50の一方の端部50aには、第1取出電極膜51の先端が接続してある。第1取出電極膜51の後端には、第1電極パッド51aが基板40の表面に形成してある。第1電極パッド51aには、図示しない外部回路が接続可能になっている。
【0072】
また、第1電極膜50の他方の端部50aは、積層薄膜2の表面の一部と共に、絶縁膜54で覆われている。そして、絶縁膜54の上をX軸方向に掛け渡すように、第2取出電極53が形成してあり、第2取出電極53の先端は、第2電極膜52に接続してある。第2取出電極膜53の後端には、第2電極パッド53aが基板40の表面に形成してある。第2電極パッド部53aには、図示しない外部回路が接続可能になっている。なお、絶縁膜54があるため、第2取出電極53は、第1電極膜50に対して絶縁されている。
【0073】
本実施形態において、基板40の材質は、Si、MgO、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)などの各種単結晶から選択することができるが、特に、表面がSi(100)面の単結晶となっているシリコン基板を使用することが好ましい。
【0074】
また、第1電極膜50の材質は、Pt、Ir、Auなどの面心立方構造の金属薄膜か、SrRuO3 やLaNiO3 などのペロブスカイト型構造の酸化物導電体膜とすることが好ましい。また、上記の金属薄膜と上記の酸化物導電体膜とを積層しても良い(例えば、Pt電極/SrRuO3 など)。この場合(複数積層の場合)、第1電極膜50の圧電体薄膜10側(すなわちZ軸方向の上方)には、酸化物導電体膜が存在することが好ましい。第1電極膜50の厚みは、30nm~200nmとすることが好ましい。
【0075】
積層薄膜2に含まれる圧電体薄膜10および強磁性体薄膜20については、第1実施形態と同様とすればよく、説明を省略する。また、第2電極膜52には、第1電極膜50と同様に、Pt、Ir、Auなどの面心立方構造の金属薄膜、もしくは、SrRuO3 やLaNiO3 などのペロブスカイト型構造の酸化物導電体膜などが含まれることが好ましい。第2電極膜における金属薄膜もしくは酸化物導電体膜の厚みは、3nm~100nmとすることが好ましい。
【0076】
なお、第1取出電極膜51および第2取出電極膜53については、導電性を有していればよく、その材質や厚みは特に限定されない。たとえば、Ptのほか、Ag、Cu、Au、Alなどの導電性金属を含むことができる。また、
図2~4では、図示していないが、磁気電気変換素子30の最上層には、保護層が形成してあってもよい。保護層としては、絶縁性の膜が好ましいが、たとえば、SiO
2、Al2O3、ポリイミドなどの絶縁膜のほか、TiやTaなどの金属膜を使用することができ、その厚みは、特に制限されず、10nm程度で良い。
【0077】
さらに、第1電極膜50のZ軸方向の下方(すなわち、基板40と第1電極膜との間)には、バッファ層が形成してあっても良い。バッファ層としては、第1実施形態でも述べたように、酸化ジルコニウム(ZrO2)、もしくは、希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)を主成分とすることが好ましい。バッファ層が形成してあることで、バッファ層より上層に位置する膜のエピタキシャル成長が促進される(高品質となる)。また、バッファ層は、開口部42を形成する際に、エッチングストッパ層としても機能する。バッファ層を形成する場合、その厚みは、5nm~100nmとすることが好ましい。
【0078】
本実施形態では、素子30が上記のような構成を有することで、素子30の中央部は、特定の周波数の振動モードを有する振動子、特に、面内伸縮振動子として機能する。ここで、面内伸縮振動子とは、弾性体の面内方向にわたって発生する面内伸縮振動モードを利用する振動子を意味する。
図2~4では、振動子として矩形型の形態を示しているが、その他、円板型、カンチレバー型などの形態を取り得る。好ましくは、
図2~4に示すような矩形型である。
【0079】
振動子としての機能に着目した場合、素子30の中央部分で第1電極膜50と積層薄膜2と第2電極膜52とが積層してある膜積層部32が振動部32となり、第1電極膜50の端部50aと積層薄膜2の端部が積層してある部分(特に、振動部32を開口部42の上方で支持している部分)が支持部(または支持腕)36となる。支持部36は、振動部32と素子30の外周部34とを接続している。
【0080】
支持部36は、振動部32の動き(面内伸縮振動)を妨げないように、振動部32に対して剛性の低い形態であることが好ましい。たとえば、支持部36のY軸方向幅は、振動部32のY軸方向幅(支持部36の延びるX軸方向に直交する方向の長さ)に対して狭くする。あるいは、支持部36のZ軸方向厚みは、振動部32のZ軸方向厚みに対して小さくする。支持部36の厚みと幅の積は、振動部32のそれに対して90%よりも小さいことが好ましく、75%よりも小さいことがより好ましい。このように構成することによって、大きな振幅の面内伸縮振動を誘起でき、磁気電気変換素子30の出力が高まる。
【0081】
また、支持部36の長さは振動部32を伝わる振動の波長の1/4程度であることが好ましい。こうすることによって、効率的にエネルギーを振動部に閉じ込めることができ、大きな出力が得られるとともに、アレー化した場合の素子間の干渉を抑制することができる。
【0082】
また、振動部32の表面(すなわち、第1電極膜50および第2電極膜52の表面)は、平坦であることが好ましい。より具体的に、表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)または要素の平均長さ(Rms)で、1μmよりも小さいことが好ましく、振動部32を伝わる振動の波長の1/10以下となることがより好ましい。
【0083】
素子30の振動方向(Y軸方向)の幅は、振動部32が電磁波に比べ速度の遅い音波の波長で振動するため、同じ周波数の電磁波の波長に比べ極めて小さいサイズであることが好ましい。具体的に、素子30の振動方向(Y軸方向)の幅は、真空中の電磁波の波長の1/10よりも小さいことが好ましい。一方、振動方向に直交する方向(X軸方向)には素子の大きさが制限されることは無く、振動部32は直線状に長く伸びた形状や、ミアンダ状や渦巻き状に折りたたんだ形状をとり得る。
【0084】
また、本実施形態では、強磁性体薄膜20を面内方向(すなわちX-Y面方向)に伸縮振動するように構成することが好ましい。この場合、振動子の振動モードが面内コントアモードとなり、振動の鋭さを表す特性であるQが大きくなる。磁気電気変換素子30において、Qが大きい振動モードをとることで、より大きな出力を得ることができ、効率よくエネルギーを電力に変換できる。
【0085】
なお、Qは以下の式で表すことができる。
Q=f0/(f1-f2)
上記式で、f0は振動子の固有周波数、f1は出力または振幅が固有周波数での値の半分になる点の周波数のうち高い方の周波数、f2は同じく低い方の周波数である。本実施形態の素子30は、Qが100より大きい。
【0086】
素子30の固有周波数は、使用される振動モード、素子の形状、大きさ、材料等によって決まる。素子30の固有周波数に等しい周波数のエネルギーを素子に照射するか、エネルギー場の中に素子を置くことによって、素子30は固有振動を引き起こされ、それによって圧電体薄膜10が伸縮し電気出力を発生させる。
【0087】
素子30は、単一素子であっても、複数の単一素子30が共通の基板40上に一体的に形成されたアレー素子であってもよい。
【0088】
以下、
図2~4に示す磁気電気変換素子30の製造方法について、説明する。
【0089】
磁気電気変換素子30の製造では、まず、シリコンウェハなどの基板40の上に、第1電極膜50と、積層薄膜2と、第2電極膜52とを、各種の薄膜製作法により形成する。薄膜製作法としては、蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、CDV法、PLD法などが適用でき、特に好ましくは、スパッタリング法である。なお、圧電体薄膜10までの層は、エピタキシャル成長させて形成することが好ましい。圧電体薄膜10および強磁性体薄膜20の具体的な形成方法は、第1実施形態と同様にすれば良い。
【0090】
なお、第2電極膜52は、積層薄膜の圧電体薄膜10と強磁性体薄膜20の間に形成されていてもよい。また、強磁性体膜20が金属や合金などの導電性材料から構成されている場合には、強磁性体膜20が第2電極膜52として機能することができるため、別途第2電極膜52を設けなくてもよい。
【0091】
上記のように積層膜を形成した基板については、
図2に示すようなパターンとなるように、パターニング加工を施す。パターニング加工は、公知の方法を採用できる。ただし、この際、素子30の長手方向(X軸方向)または短手方向(Y軸方向)が、積層薄膜2における圧電体薄膜10の<110>方向、および基板40の<110>方向にほぼ一致するように、パターニングすることが好ましい。つまりは、
図2に示すX-Y平面において、圧電体薄膜10の<110>方向が、X軸方向またはY軸方向と略平行となる。また、基板40の<110>方向も、X軸方向またはY軸方向と略平行となる。なお、上記において、略平行とは、完全に平行な方向に対して、±3度の範囲内であることを意味する。
【0092】
ここで、<110>方向とは、[110]、[101]などの等価な方位を包括的に示した方向を意味する。上記と等価な方位とは、たとえば立方晶の場合、
などが例示される。第1実施形態で述べたように、圧電体薄膜10には、正方晶と菱面体晶など、複数の相が含まれるが、正方晶の[110]、[101]方向と、菱面体晶の[110]方向と、および、これらと等価な方向とが、それぞれ素子30の長手方向または短手方向とほぼ平行となるようにする。こうすることによって、本実施形態の磁気電気変換素子30は、外部からの応力や入力に対して破断しにくく、耐久性が高くなる。
【0093】
パターニング加工を施した後には、第1取出電極膜51および第2取出電極膜53と、絶縁膜54とを、
図2に示すような所定のパターンで形成する。また、基板40の開口部42を、Deep-RIE法などのドライエッチングや、異方性ウェットエッチングにより形成する。これにより、
図2~4に示す磁気電気変換素子30が得られる。
【0094】
得られた磁気電気変換素子30については、第1実施形態でも述べたように、電源や電気/電子回路を接続し、回路基板に搭載するか、もしくはパッケージすることにより、各種センサや圧電アクチュエータなどの電子デバイスを構成する。磁気電気変換素子30で構成された電子デバイスは、第1実施形態の積層薄膜2を有するため、高い変換効率と優れた検出感度とを両立して満足する。
【0095】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0097】
実験1
(実施例1)
実施例1では、以下に示す手順で、本発明の積層薄膜2を有する電子デバイス用基板を作製した。まず、基板として、表面がSi(100)面の単結晶となっているシリコン基板を準備した。準備したシリコン基板のサイズは、6インチであった。このシリコン基板上に、以下に示す積層膜を形成する。
【0098】
まず、ZrO2とY2O3からなる下地酸化物薄膜(バッファ層として機能する)と、Pt下部電極膜と、SrRuO3(以下、SROと記す)からなる導電性酸化物薄膜とを、シリコン基板上に、エピタキシャル成長させた。この際、薄膜製作法としては、スパッタリング法を採用した。また、下地酸化物薄膜を形成する際の基板温度は、700℃~900℃とし、成膜終了時の基板温度は、成膜開始時の基板温度よりも低温となるように調整した。さらに、Pt下部電極膜を形成する際の基板温度は、600℃~800℃とし、下地酸化物薄膜の成膜終了時よりも低い温度となるように調整した。
【0099】
Pt下部電極膜を形成した後は、基板をいったん大気中に取り出し、Pt表面を空気中の酸素に暴露させた。その後、基板を再び成膜装置に投入し、SrRuO3からなる導電性酸化物薄膜を成膜した。なお、各層の膜厚は、下地酸化物薄膜が50nm、Pt下部電極膜が100nm、導電性酸化物薄膜が30nmとなるように成膜条件を調整した。
【0100】
実施例1では、導電性酸化物薄膜の上に、PZTの圧電体薄膜10をエピタキシャル成長させた。この際、使用したスパッタリングターゲットの組成は、原子数比で、Pb:Zr:Tiが、1.3:0.55:0.45であった。また、PZT膜を形成する際の基板温度は、600℃とし、成膜速度は、0.1nm/secとした。その他、スパッタリング時の導入ガスは、酸素10モル%-アルゴン(Ar)90モル%の混合ガスとし、導入ガスの圧力は0.3Paとし、基板とターゲットの距離は200mmとして、膜厚が1μmのPZT膜を形成した。
【0101】
また、PZT膜の成膜後の基板については、アニール処理を施した。アニール処理の条件は、処理雰囲気を、1気圧の酸素雰囲気下とし、350℃で1時間保持することとした。
【0102】
なお、下地酸化物薄膜からPZT膜までの成膜時には、RHEED評価を行い、各層がエピタキシャル成長しているか否かを確認した。その結果、下地酸化物薄膜からPZT膜までの各層は、すべて、成膜過程においてエピタキシャル成長していることが確認できた。
【0103】
PZT膜の上方に、さらに、SROの導電性酸化物薄膜(SRO密着層と呼ぶ)と、Pt上部電極膜とを形成した。SRO密着層の厚みは50nmとし、Pt上部電極膜の厚みは100nmとした。なお、Pt上部電極膜の形成時には、基板温度を200℃とし、Pt上部電極膜が多結晶構造となるように、その他の成膜条件を制御した。
【0104】
Pt上部電極膜の形成後、その上にFeCoSiBの強磁性体薄膜20を形成した。強磁性体薄膜20の形成では、超高真空DCスパッタリング装置を使用し、1×10-4Pa(より好ましくは、5×10-5Pa)以下の真空度まで排気したのち、成膜を行った。成膜に使用したターゲットの組成は、モル比で、Fe70%-Co8%-Si12%-B10%であった。また、成膜時には、基板加熱は行わずに、基板温度が上昇しないようにターゲットと基板間距離を十分に確保して成膜した。その他の成膜条件は、導入ガスとしてArガスを使用し、導入ガスの圧力を0.05Paとし、出力を150W(DC)として、膜厚が500nmの強磁性体薄膜20を形成した。
【0105】
強磁性体薄膜20の成膜後は、その上にさらに絶縁性の保護膜を10nmの厚みで形成した。このような手順で各層を成膜することで、本発明の積層薄膜2を含む電子デバイス用基板を得た。
【0106】
なお、作製した電子デバイス用基板に含まれる強磁性体薄膜20(FeCoSiB)の結晶構造は、XRDおよびTEMの電子線回折により確認した。その結果、XRDでは、
図6の実線ex1に示すような強磁性体薄膜20に由来する反射ピークが確認された。この反射ピークでは、非晶質相22の存在を示すブロードな盛り上がり部分(ハロー部分)と、面心立方構造の結晶相24の存在を示す鋭いピーク部分とが確認された。よって、実施例1の電子デバイス用基板に含まれる強磁性体薄膜20は、非晶質相22と、面心立方構造の結晶相24とを混在して含むことが確認できた。
【0107】
また、作製した電子デバイス用基板については、以下に示す評価を行った。
【0108】
(磁歪特性の測定)
磁歪特性の評価は、作製した電子デバイス用基板に対して、外部磁場を0~80Oeの範囲で変化させて印加し、基板に発生するひずみ(単位はppm)を測定することで行った。なお、ひずみの測定においては、作製した電子デバイス用基板から切り出した長さ4cm×幅1cmのサンプルを試験片として用いた。そして、ひずみは、その試験片に外部磁場を印加した際の反りをレーザー変位計で計測することで得た。測定結果を
図5に示す。
【0109】
(磁気センサとしての特性評価)
まず、作製した電子デバイス用基板について、パターニング加工を施し、
図2に示すような磁気電気変換素子30を作製した。そして、この磁気電気変換素子30に、圧電体薄膜10で発生する電荷を検出する回路(増幅器と整流回路とを含む回路)を接続し、パッケージすることで磁気センサ(電子デバイスの一例)を作製した。このようにして作製した磁気センサについて、検出限界値(単位はnT)と、ノイズフロア(単位はmV)の測定を行った。
【0110】
検出限界値とは、磁気センサの感度を表す指標である。磁気センサでは、入力として交流磁場(外部磁場)を印加すると、その印加した磁場の大きさに応じた電圧を出力する。検出限界値は、磁気センサが応答する(すなわち電圧を出力する)最小の入力値を意味し、入力値は磁束密度で表される。すなわち、検出限界値は、値が小さいほど、磁気センサとしての特性が優れることを意味する。本実施例では、具体的に、素子30に、バイアス磁場として1mTのDC磁場を印加しながら、素子30の固有周波数付近(約10kHz)の交流磁場を加え、その交流磁場の周波数を固有周波数付近でスキャンしながら大きさを減衰させていくことで、検出下限値を求めた。測定した結果を、表1に示す。
【0111】
ノイズフロアとは、素子30自体が発生するノイズのレベルを表す指標である。磁気センサでは、信号を入力していない状態(すなわち外部磁場を印加していない状態)でも、何らかのノイズが出力される。このノイズの値が大きいと、入力信号がノイズに埋もれてしまう。そのため、ノイズは磁気センサの変換効率や感度に影響を及ぼし、ノイズフロアの値が小さいほど、磁気センサとしての特性が優れることを意味する。本実施例では、具体的に、以下の手順でノイズフロアを測定した。まず、磁気センサを磁場シールドフォイルで覆い、外部磁場の影響を完全に無くした状態とした。そのうえで、スペクトラムアナライザーを用いて、磁気センサ自体が発生する出力(ノイズフロア)を測定した。測定した結果を、表1に示す。
【0112】
(比較例1)
比較例1では、強磁性体薄膜を、非晶質の磁歪膜とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1の電子デバイス用基板を作製した。ただし、比較例1では、PZT膜の成膜後にアニール処理を実施していない。
【0113】
また、比較例1では、非晶質の磁歪膜を得るために、実施例1とは異なり、FeCoSiB合金の強磁性体薄膜を、Pt上部電極膜上に厚さ5nmのSiO2アモルファス膜を介して、DCスパッタリング法で成膜した。具体的な成膜条件は、導入ガスとしてArガスを使用し、導入ガスの圧力を1Paとし、出力を500W(DC)とした。なお、比較例1でも、強磁性体薄膜の厚みは500nmであった。
【0114】
また、比較例1の電子デバイス用基板においても、XRDおよびTEMの電子線回折により、強磁性体薄膜の結晶構造解析を行った。その結果、XRDでは、
図6の破線ce1に示すような強磁性体薄膜に由来する反射ピークが確認された。比較例1の反射ピークでは、非晶質相22の存在を示すブロードな盛り上がり部分(ハロー部分)のみが確認された。
【0115】
なお、比較例1についても、実施例1と同様の評価を実施しており、磁歪特性の評価結果を
図5に示し、磁気センサとしての特性評価の結果を表1に示す。
【0116】
(比較例2)
比較例2では、強磁性体薄膜を、多結晶の磁歪膜とした以外は、実施例1と同様にして、比較例2の電子デバイス用基板を作製した。なお、比較例2でも、PZT膜の成膜後にアニール処理を実施していない。
【0117】
また、比較例2では、多結晶の磁歪膜を形成するために、実施例1とは異なり、FeCoSi合金の強磁性体薄膜を蒸着法により形成した。具体的には、蒸着装置内を3×10-4Paまで排気したのち、基板温度を300℃として、FeCoSiB合金膜を成膜した。なお、比較例2でも、強磁性体薄膜の厚みは500nmであった。
【0118】
また、比較例2の電子デバイス用基板においても、XRDおよびTEMの電子線回折により、強磁性体薄膜の結晶構造解析を行った。その結果、XRDでは、
図6の一点鎖線ce2に示すような強磁性体薄膜に由来する反射ピークが確認された。比較例2の反射ピークでは、体心立方構造の結晶相24の存在を示す鋭いピークのみが確認された。
【0119】
なお、比較例2についても、実施例1と同様の評価を実施しており、磁歪特性の評価結果を
図5に示し、磁気センサとしての特性評価の結果を表1に示す。
【0120】
(比較例3)
比較例3では、圧電体薄膜を、多結晶のPZT膜とした以外は、実施例1と同様にして、比較例3の電子デバイス用基板を作製した。
【0121】
具体的に、比較例3では、まず、シリコン基板に熱酸化処理を施し、シリコン基板の表面に、SiO2からなる下地酸化物薄膜を形成した。そして、下地酸化物薄膜の上に、Ti薄膜、Pt下部電極膜、および、PZTの圧電体薄膜を形成した。Pt下部電極膜とPZT膜の形成方法は、実施例1と共通している。ただし、比較例3では、実施例1とは異なり、非晶質のSiO2下地酸化物薄膜と多結晶のTi薄膜を介して、圧電体薄膜(PZT膜)を形成している。なお、比較例3において、PZT膜より上方の各層(SRO密着層、Pt上部電極膜、および強磁性体薄膜)は、実施例1と同様の実験条件で成膜し、比較例3の電子デバイス用基板を得た。
【0122】
なお、比較例3において、圧電体薄膜の成膜時にRHEED評価を行ったところ、比較例3では、RHEED像がリング状に伸びたパターンとなり、形成されるPZTがエピタキシャル成長していないことが確認された。また、比較例3で得られた電子デバイス用基板について、XRDおよびTEMの電子線回折を行ったところ、比較例3の圧電体薄膜は、配向性を有しない多結晶膜であることが確認された。
【0123】
また、比較例3においても、実施例1と同様にして、比較例3の磁気センサ試料を作成し、磁気センサとしての特性評価を行った。その結果を、表1に示す。
【0124】
【0125】
評価1
図5では、実施例1と、比較例1および2の磁歪特性を示すグラフである。実施例1の磁歪特性は実線で示し、比較例1の磁歪特性は破線、比較例2の磁歪特性は一点鎖線で示している。強磁性体薄膜が非晶質膜である比較例1では、低磁場(1Oe近傍)においてもひずみの発生が確認されるものの、グラフの傾きが小さい。すなわち、比較例1では、dλ/dH(単位磁場あたりの磁歪変化量)が小さい結果となった。強磁性体薄膜が多結晶膜である比較例2では、グラフの傾きが大きいものの、外部磁場をおよそ40Oe印加しないとひずみが発生しない。
【0126】
これに対して、実施例1では、外部磁場が1Oe以下であってもひずみが発生している。また、グラフの傾きが比較例1よりも大きく、dλ/dH(単位磁場あたりの磁歪変化量)が大きくなっている。この結果から、強磁性体薄膜の結晶構造を、非晶質相22と結晶相24との混在状態とすることで、磁歪を発生するためのしきい磁場HTHおよび保持力HCの値が小さくなり、かつ、低磁場でのdλ/dH(単位磁場あたりの磁歪変化量)が大きくなることが立証できた。すなわち、実施例1の電子デバイス用基板は、比較例1~2よりも磁歪特性が特に優れている。実施例1の電子デバイス用基板(磁気特性が優れる基板)を磁気センサに利用した場合、高い変換効率が得られる。
【0127】
実際に、表1に示すように、比較例1~3に比較して、実施例1の磁気センサでは、検出限界値が最も小さく、ノイズフロアも最も小さくなっており、両特性が共に優れていることが確認できた。以上の
図5および表1に示す結果から、本発明に係る積層薄膜2を有する電子デバイスでは、高い変換効率と、優れた検出感度とを、両立して満足できることが確認できた。
【0128】
実験2
(実施例2)
実施例2では、強磁性体薄膜20の粒径D2と厚みt2との関係を、表2に示す関係としたとした以外は、実施例1と同様にして、電子デバイス用基板を作製した。そのうえで、実施例2の電子デバイス用基板を用いて、実施例1と同様にして、磁気センサを作製し、検出感度とノイズフロアの測定を行った。結果を表2に示す。
【0129】
なお、実施例2では、粒径D2と厚みt2との関係を、表2に示す関係とするために、実施例1とは異なり、成膜時の基板温度を180℃として、強磁性体薄膜20を形成した。
【0130】
(実施例4)
実施例4では、強磁性体薄膜20における結晶相の割合を、表2に示す数値としたとした以外は、実施例1と同様にして、電子デバイス用基板を作製した。なお、結晶相の割合は、XRDで強磁性体薄膜20の結晶化度を測定することで算出した。また、実施例4の電子デバイス用基板を用いて、実施例1と同様にして、磁気センサを作製し、検出感度とノイズフロアの測定を行った。結果を表2に示す。
【0131】
なお、実施例4では、結晶相の割合の数値を、表2に示す数値とするために、実施例1とは異なり、成膜時のArガス(導入ガス)の圧力を0.02Paとして、強磁性体薄膜20を形成した。
【0132】
(実施例5)
実施例5では、強磁性体薄膜20を、非晶質相22と、体心立方構造の結晶相24とを含むFeCoSiB合金膜とした以外は、実施例1と同様にして、電子デバイス用基板を作製した。そのうえで、実施例5の電子デバイス用基板を用いて、実施例1と同様にして、磁気センサを作製し、検出感度とノイズフロアの測定を行った。結果を表2に示す。
【0133】
なお、実施例5では、結晶相24の結晶格子を体心立方構造とするために、実施例1とは異なり、SRO密着層やPT上部電極膜を介さずに、エピタキシャル成長したPZT膜の上に、直接、強磁性体薄膜20を形成した。
【0134】
【0135】
評価2
表2に示すように、実施例2~5に比較して、実施例1が優れていることが確認できた。
【0136】
実験3
実験2では、圧電体薄膜10を、PZTの代わりに、KNN、BCZT、AlN、ZnOで構成した以外は、実施例1と同様にして、電子デバイス用基板を作製し、同様な評価を行った。その結果、圧電体薄膜10の材質を変えた場合であっても、上述した実施例1と同様な結果が得られることが確認できた。
【0137】
実験4
実験3では、強磁性体薄膜20を、FeCoSiB合金の代わりに、FeCo合金や、FeDyTb合金(Terfenol-D)、FeGa合金(Galfenol)、FeGaB合金で構成した以外は、実施例1と同様にして、電子デバイス用基板を作製し、同様な評価を行った。その結果、強磁性体薄膜20の材質を変えた場合であっても、上述した実施例1と同様な結果が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0138】
2… 積層薄膜
10… 圧電体薄膜
20… 強磁性体薄膜(磁歪薄膜)
22… 非晶質相
24… 結晶相
30… 磁気電気変換素子
32… 膜積層部(振動部)
34… 外周部
36… 支持部
40… 基板
42… 開口部
50… 第1電極膜
50a … 端部
50b … 中央部分
51… 第1取出電極膜
52… 第2電極膜
53… 第2取出電極膜
54… 絶縁膜