(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ボールねじナット、転舵ユニット、及びボールねじナットの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20240110BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240110BHJP
F16H 25/20 20060101ALI20240110BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20240110BHJP
F16H 55/48 20060101ALI20240110BHJP
F16H 7/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F16H25/24 B
B62D5/04
F16H25/20 E
F16H25/22 Z
F16H55/48
F16H7/02 A
(21)【出願番号】P 2019194949
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】近藤 美雄
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090081(JP,A)
【文献】国際公開第2018/225296(WO,A1)
【文献】特開2013-252650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
B62D 5/04
F16H 25/20
F16H 25/22
F16H 55/48
F16H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にボール転動溝が螺旋状に形成されている筒状のナット部と、
前記ナット部の外周側において前記ナット部と一体成形されているとともに、外歯を有する筒状のプーリ部とを備え、
前記プーリ部は、軸方向に延びるとともに前記ナット部と径方向に対向する筒状部と、前記筒状部から径方向内側に延出されて前記ナット部と軸方向に対向する延出部とを有し、
前記延出部における前記ナット部との対向面及び前記ナット部における前記延出部との対向面の間には、前記ナット部と前記プーリ部との相対回転を規制する規制部が設けられ
、
前記プーリ部の外周面のうち、前記延出部が設けられている軸方向範囲を除いた、前記筒状部が設けられている軸方向範囲には、前記外歯が形成されており、
前記ナット部の外周面及び前記筒状部の内周面は、前記外歯の形成された軸方向範囲全域にわたって円周面をなし、
前記プーリ部は、樹脂材のみをモールド材として、前記ナット部の外周にインサート成形されたものであるボールねじナット。
【請求項2】
前記ナット部の対向面及び前記プーリ部の対向面のいずれか一方の対向面は凸部を有し、
前記ナット部の対向面及び前記プーリ部の対向面のいずれか他方の対向面は前記凸部が嵌る凹部を有し、
前記規制部は、前記凸部及び前記凹部を含んで構成されている請求項
1に記載のボールねじナット。
【請求項3】
モータと伝達機構とを備える転舵ユニットであって、
前記伝達機構は、
請求項1
または2に記載のボールねじナットと、
外周面にボール転動溝が螺旋状に形成されているボールねじ軸と、
前記ボールねじ軸のボール転動溝及び前記ボールねじナットのボール転動溝の間に設けられている複数のボールと、
前記モータの回転軸に連結されているとともに外周面に外歯が形成されている駆動プーリと、
前記駆動プーリの外歯及び前記プーリ部の外歯に噛み合う内歯が形成されているとともに、前記駆動プーリと前記プーリ部との間に掛け渡される歯付きベルトとを有する転舵ユニット。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載のボールねじナットの製造方法であって、
前記プーリ部は、前記ナット部を挿入体とするインサート成形により前記ナット部と一体成形されているボールねじナットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじナット、転舵ユニット、及びボールねじナットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従動プーリがボールねじナットの外周面に一体成形されたステアリング装置が開示されている。ボールねじナットの外周面には、ボールねじナット及び従動プーリの周方向における相対回転を規制するように、セレーション等の凹凸が設けられている。ボールねじナットの外周面に一体成形された従動プーリの内周面には、ボールねじナットの外周面に形成された凹凸に嵌る凹凸が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボールねじナットの外周面に一体成形された従動プーリには、ボールねじナットの外周面に形成された凹凸に対応するように、その内周面に凹凸が形成されるため、肉厚が厚い部分と薄い部分とが存在する。従動プーリの肉厚が厚い部分では従動プーリの成形時の熱収縮が比較的大きいのに対し、従動プーリの肉厚が薄い部分では従動プーリの成形時の熱収縮が比較的小さい。これにより、従動プーリの熱収縮量は、従動プーリの肉厚によってばらつくことになる。このため、従動プーリの外周に形成されている外歯の歯先の精度に影響を及ぼすことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するボールねじナットは、内周面にボール転動溝が螺旋状に形成されている筒状のナット部と、前記ナット部の外周側において前記ナット部と一体成形されているとともに、外歯を有する筒状のプーリ部とを備え、前記プーリ部は、軸方向に延びるとともに前記ナット部と径方向に対向する筒状部と、前記筒状部から径方向内側に延出されて前記ナット部と軸方向に対向する延出部とを有し、前記延出部における前記ナット部との対向面及び前記ナット部における前記延出部との対向面の間には、前記ナット部と前記プーリ部との相対回転を規制する規制部が設けられている。
【0006】
上記構成では、規制部がナット部とプーリ部とが軸方向において対向する部位に設けられることから、例えばナット部とプーリ部とが径方向に対向する部位に規制部を設ける場合と比べて、プーリ部の肉厚のばらつきを抑え易い。このため、プーリ部の外周面における熱収縮量がばらつくことを抑えている。
【0007】
上記のボールねじナットにおいて、前記ナット部の外周面及び前記筒状部の内周面は、前記外歯の形成された軸方向範囲全域にわたって円周面をなしていることが好ましい。
上記構成では、ナット部の外周面及び筒状部の内周面が外歯の形成された軸方向範囲全域にわたって円周面をなしていない場合と比べて、プーリ部の肉厚のばらつきを抑えることができる。このため、外歯の形成された軸方向全域にわたって、プーリ部の外周面における熱収縮量のばらつきを抑えることができる。
【0008】
上記のボールねじナットにおいて、前記プーリ部は、樹脂材のみをモールド材として、前記ナット部の外周にインサート成形されたものであることが好ましい。
上記構成では、樹脂材をモールド材としてプーリ部をインサート成形することから、金属材によってプーリ部を成形する場合よりも、プーリ部を軽量化することができる。
【0009】
上記のボールねじナットにおいて、前記プーリ部は、金属粉末を含む樹脂材をモールド材として、前記ナット部の外周にインサート成形されたものであることが好ましい。
ナット部の外周にプーリ部をインサート成形する場合には、プーリ部のインサート成形時にプーリ部に熱収縮が生じる。金属粉末が含まれているモールド材を用いてプーリ部をインサート成形する場合には、樹脂材のみのモールド材を用いてプーリ部をインサート成形する場合に比べて、インサート成形時のプーリ部の熱収縮量を小さくすることができる。このため、プーリ部の外周面における熱収縮量がばらつくことをさらに抑えている。
【0010】
上記のボールねじナットは、前記ナット部の対向面及び前記プーリ部の対向面のいずれか一方の対向面は凸部を有し、前記ナット部の対向面及び前記プーリ部の対向面のいずれか他方の対向面は前記凸部が嵌る凹部を有し、前記規制部は、前記凸部及び前記凹部を含んで構成されていることが好ましい。
【0011】
上記構成では、凸部が凹部に嵌ることによって、ナット部とプーリ部との相対回転を規制することができる。
上記課題を解決する転舵ユニットは、モータと伝達機構とを備えるものであって、前記伝達機構は、上記ボールねじナットと、外周面にボール転動溝が螺旋状に形成されているボールねじ軸と、前記ボールねじ軸のボール転動溝及び前記ボールねじナットのボール転動溝の間に設けられている複数のボールと、前記モータの回転軸に連結されているとともに外周面に外歯が形成されている駆動プーリと、前記駆動プーリの外歯及び前記プーリ部の外歯に噛み合う内歯が形成されているとともに、前記駆動プーリと前記プーリ部との間に掛け渡される歯付きベルトとを有している。
【0012】
上記構成では、モータの回転力は、モータの回転軸に連結されている駆動プーリから、歯付きベルトを介してプーリ部へと伝達される。ナット部は、プーリ部と一体となって回転する。ナット部の回転力は、ナット部のボール転動溝及びボールねじ軸のボール転動溝の間でボールが転動することによって、ボールねじ軸の軸方向移動に変換される。上記ボールねじナットでは、プーリ部の外歯の歯先の精度が低下することが抑制されることから、歯付きベルトの内歯との噛み合いが低下することを抑制できる。これにより、モータの回転力をナット部に伝達する伝達効率が低下することを抑制できる。
【0013】
上記課題を解決するボールねじナットの製造方法は、上記のボールねじナットを製造するものであって、前記プーリ部は、前記ナット部を挿入体とするインサート成形により前記ナット部と一体成形することが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のボールねじナット、転舵ユニット、及びボールねじナットの製造方法によれば、プーリ部の外歯の歯先の精度低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】電動パワーステアリング装置の伝達機構近傍の軸方向に沿った断面図。
【
図3】外歯の図示を省略したボールねじナットの軸方向と直交する断面図であって、
図2のIII-III線断面図。
【
図4】プーリ部を成形するための金型がナット部の外周に組み付けられた状態において、キャビティに溶融樹脂が注入されていない状態での軸方向に沿った断面図。
【
図5】プーリ部を成形するための金型がナット部の外周に組み付けられた状態において、溶融樹脂の固化後の状態での軸方向に沿った断面図。
【
図6】他の実施形態のボールねじナットの軸方向に沿った断面図。
【
図7】他の実施形態のボールねじナットの軸方向に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ボールねじナットを備えた電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、EPS1は、ステアリングホイール2が連結されるステアリング軸3と、ボールねじ軸としてのラック軸51の両端に連結される転舵輪5を転舵させる転舵ユニット4とを備えている。
【0017】
ステアリング軸3は、ステアリングホイール2側から順に、コラム軸31、中間軸32、及びピニオン軸33を連結することにより構成されている。ピニオン軸33には、ステアリングホイール2と反対側の端部の外周面において、全周にわたってピニオン歯33aが形成されている。
【0018】
転舵ユニット4は、モータ41と、伝達機構42と、ラック軸51が往復移動可能に挿通されるとともに伝達機構42を収容するハウジング43とを備えている。
ラック軸51には、所定の軸方向範囲にわたってラック歯51aが形成されている。ハウジング43は、それぞれ筒状に形成された第1ハウジング44と第2ハウジング45とを軸方向において連結してなる。ピニオン軸33とラック軸51とは、第1ハウジング44内において所定の交差角をもって配置されている。ラック軸51に形成されたラック歯51aとピニオン軸33に形成されたピニオン歯33aとが噛合されることでラックアンドピニオン機構6が構成されている。ラック軸51の両端には、タイロッド7が連結されている。タイロッド7の先端は、転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。したがって、EPS1では、ステアリング操作に伴うステアリング軸3の回転がラックアンドピニオン機構6によりラック軸51の軸方向移動に変換され、この軸方向移動がタイロッド7を介してナックルに伝達されることにより、転舵輪5の転舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0019】
転舵ユニット4について詳しく説明する。なお、以下では、説明の便宜上、ラック軸51におけるラックアンドピニオン機構6と反対側、すなわち
図2の左側を軸方向一端側とする。また、ラック軸51におけるラックアンドピニオン機構6側、すなわち
図2の右側を軸方向他端側とする。
【0020】
図2に示すように、第1ハウジング44は、第1筒状部44aと、第1筒状部44aの軸方向一端側に形成された第1収容部44bとを有している。第1収容部44bは、第1筒状部44aよりも大径の筒状に形成されている。第1収容部44bには、その周壁の一部をモータ41が配置された側に膨出した形状の膨出部44cが形成されている。膨出部44cの端壁には、ラック軸51の軸方向に貫通した挿入孔44dが形成されている。
【0021】
第2ハウジング45は、第2筒状部45aと、第2筒状部45aの軸方向他端側に形成された第2収容部45bとを有している。第2収容部45bは、第2筒状部45aよりも大径の筒状に形成されている。第2収容部45bには、第1ハウジング44の膨出部44cの開口を覆うカバー部45cが形成されている。
【0022】
モータ41の回転軸41aは、膨出部44cに形成されている挿入孔44dを介して膨出部44c内に挿入されている。モータ41は、回転軸41aがラック軸51と平行になる姿勢で、ボルト41bによって第1ハウジング44に取り付けられている。
【0023】
伝達機構42は、ボールねじ軸としての上記ラック軸51と、ラック軸51の外周に同軸配置されたボールねじナット100と、ラック軸51とボールねじナット100との間に設けられた複数のボール52と、モータ41の回転軸41aに連結されている駆動プーリ53と、歯付きベルト54とを備えている。
【0024】
ボールねじナット100は、内周面にボール転動溝111が螺旋状に形成されている筒状のナット部110と、外歯121を有する筒状のプーリ部120とを備えている。プーリ部120は、ナット部110の外周側においてナット部110と一体成形されている。プーリ部120は、樹脂材のみをモールド材として、ナット部110の外周にインサート成形されたものである。
【0025】
ナット部110は、外径が異なる段付きの円筒状に形成されている。ナット部110は、大径筒部112と、大径筒部112の軸方向一端側に設けられた小径筒部113とを有している。大径筒部112の外径は、小径筒部113の外径よりも大きく設定されている。大径筒部112と小径筒部113との間には、大径筒部112及び小径筒部113よりも径方向外側に延出した円環状の支持部114が形成されている。大径筒部112の外周面は、中心軸線から外周面までの距離が一定の円周面をなしている。ナット部110は、鉄等の金属材によって構成されている。
【0026】
小径筒部113の外周には、軸受60が支持部114の軸方向一端側の端面に隣接して嵌合されるとともに、リテーナ61が軸受60の内輪の軸方向一端側の端面に隣接して嵌合されている。小径筒部113の外周における軸方向一端側寄りの部分には、その全周にわたって延びる円環状の固定溝113aが形成されている。リテーナ61は、その一部が固定溝113aに密着するようにかしめられることにより、軸受60の内輪の軸方向他端側の端面を支持部114に押し付けた状態で軸受60を固定している。これにより、ボールねじナット100は、第1収容部44b及び第2収容部45b内で回転可能に支持されている。なお、軸受60には、複列アンギュラ玉軸受が採用されている。軸受60は、その内部隙間が設定された隙間となるように、リテーナ61によって与圧が付与されている。
【0027】
軸受60の外輪の軸方向における両側には、保持部62が隣接して配置されている。保持部62には、ゴムや金属ばね等の弾性体が用いられている。保持部62は、第1ハウジング44と軸受60の外輪における軸方向他端側の端面との間、及び第2ハウジング45と軸受60の外輪における軸方向一端側の端面との間でそれぞれ圧縮された状態で配置されている。これにより、軸受60の外輪は、第1ハウジング44及び第2ハウジング45に対して弾性支持される。
【0028】
ナット部110の内周面には、ボール転動溝111が螺旋状に形成されている。ラック軸51の外周面には、ボール転動溝111に対応するボール転動溝51bが螺旋状に形成されている。ナット部110に形成されているボール転動溝111及びラック軸51に形成されているボール転動溝51bは、互いに対向している。これらボール転動溝111及びボール転動溝51bが互いに対向することによって螺旋状の転動路Rが形成されている。転動路R内には、複数のボール52がボール転動溝111及びボール転動溝51bによって挟まれた状態で配置されている。つまり、ナット部110は、ラック軸51の外周に複数のボール52を介して螺合されている。これにより、各ボール52は、ラック軸51とナット部110との間の相対回転に伴い、その負荷を受けつつ転動路R内を転動する。そして、各ボール52の転動によってラック軸51とナット部110との軸方向の相対位置が変位することにより、モータ41のトルクがアシスト力としてラック軸51に付与される。また、図示しないが、ナット部110には、転動路Rの2箇所に開口して、当該2箇所の開口部分を短絡する循環路が設けられている。複数のボール52は、循環路を介して転動路R内を無限循環することができる。
【0029】
図3に示すように、ナット部110の軸方向他端側の端面には、複数の凹部116が形成されている。ナット部110の軸方向他端側の端面は、後述するように、プーリ部120と軸方向において対向する対向面115である。複数の凹部116は、周方向において等間隔に配置されている。本実施形態では、凹部116は、対向面115において4つ形成されている。各凹部116は、ナット部110の対向面115において、外周縁部と内周縁部との径方向における中間位置に形成されている。各凹部116は、円形穴である。各凹部116は、ナット部110にプーリ部120を一体成形する前に予め形成されている。
【0030】
図2に示すように、プーリ部120は、内径が異なる段付きの有底円筒状に形成されている。プーリ部120は、筒状部122と、筒状部122の軸方向他端側に形成された延出部123と、筒状部122の軸方向一端側に形成された鍔部124とを有している。筒状部122の内径は、延出部123の内径よりも大きく設定されている。プーリ部120は、樹脂材によって構成されている。
【0031】
筒状部122は、軸方向に延びる円筒形状をなしている。筒状部122は、ナット部110の大径筒部112の外周面に一体成形されている。筒状部122の内周面は、中心軸線から内周面までの距離が一定の円周面をなしている。ナット部110にプーリ部120が一体成形されていることから、筒状部122の内周面と大径筒部112の外周面とは径方向において互いに密着している。筒状部122の外周面には、外歯121が形成されている。外歯121の歯筋は、周方向に等間隔に形成されている。外歯121は、その歯筋が軸方向に対して傾斜した斜歯として形成されている。外歯121は、筒状部122の外周面において、周方向全域かつ軸方向全域にわたって形成されている。
【0032】
延出部123は、筒状部122の内径よりも内径の小さい円筒形状をなしている。延出部123は、筒状部122の軸方向他端側の面から径方向内側に延出されている。延出部123の内径は、ナット部110の内径及びラック軸51の外径よりも大きく設定されている。すなわち、延出部123は、ナット部110の内周面及びラック軸51の外周面よりも径方向外側に位置している。延出部123における軸方向一端側の対向面125と、ナット部110における軸方向他端側の対向面115とは、軸方向において対向している。ナット部110にプーリ部120が一体成形されていることから、対向面115及び対向面125は軸方向において互いに密着している。
【0033】
鍔部124は、筒状部122の外径よりも外径の大きい円筒形状をなしている。鍔部124は、筒状部122の軸方向一端側の面から径方向外側に延出されている。鍔部124は、外歯121の軸方向一端側に形成されている。
【0034】
図3に示すように、延出部123の軸方向一端側の対向面125には、複数の凸部126が形成されている。複数の凸部126は、複数の凹部116と同数形成されていて、凹部116と同様に周方向において等間隔に配置されている。すなわち、本実施形態では、凸部126は、対向面125に4つ形成されている。各凸部126は、円柱状をなしている。各凸部126は、ナット部110にプーリ部120を一体成形する際に形成されている。ナット部110にプーリ部120が一体成形された際に、各凸部126が各凹部116に凹凸嵌合することによって、ナット部110とプーリ部120との周方向における相対回転を規制する規制部130が構成されている。
【0035】
図2に示すように、駆動プーリ53は、円筒状をなしている。駆動プーリ53は、モータ41の回転軸41aの外周面に一体回転可能に取り付けられている。駆動プーリ53の外周面には、外歯53aが形成されている。外歯53aは、プーリ部120の外歯121に対応している。外歯53aの歯筋は、周方向に等間隔に形成されている。外歯53aは、その歯筋が軸方向に対して傾斜した斜歯として形成されている。外歯53aは、駆動プーリ53の外周面において、全周にわたって形成されている。また、外歯53aは、駆動プーリ53の外周面において軸方向一端側の端部及び軸方向他端側の端部を除いた軸方向範囲に形成されている。外歯53aは、軸方向に対して傾斜した斜歯である。
【0036】
歯付きベルト54は、駆動プーリ53とボールねじナット100のプーリ部120との間で所定の張力が発生するように巻き掛けられている。歯付きベルト54の内周面には、駆動プーリ53の外歯53a及びプーリ部120の外歯121に対応した内歯54aが形成されている。内歯54aの歯筋は、周方向に等間隔に形成されている。内歯54aは、外歯53a及び外歯121が斜歯であることに対応して、その歯筋が軸方向に対して傾斜した斜歯として形成されている。内歯54aは、外歯53a及び外歯121と周方向において噛み合っている。歯付きベルト54は、樹脂材によって構成されている。モータ41のトルクが、回転軸41aに取り付けられている駆動プーリ53、歯付きベルト54、及びボールねじナット100のプーリ部120の順に伝達されることにより、ボールねじナット100は軸線mを回転中心として回転する。
【0037】
一体成形されたボールねじナット100のうちプーリ部120と、駆動プーリ53と、歯付きベルト54とにより、モータ41の回転をボールねじナット100に伝達するベルト減速機が構成されている。また、一体成形されたボールねじナット100のうちナット部110と、ラック軸51と、ボール52とにより、ベルト減速機を介して伝達されたモータ41の回転をラック軸51の軸方向移動に変換するボールねじ装置が構成されている。
【0038】
外歯121の軸方向における形成範囲は、筒状部122の外周面において、軸方向における全域に形成されている。本実施形態では、外歯121は、延出部123の外周面には形成されていない。規制部130は、外歯121の形成範囲に対応するプーリ部120の内周側の部分及びナット部110の外周側の部分を除いた範囲のみに設けられている。すなわち、規制部130は、プーリ部120における外歯121の歯先の精度低下に影響を与えにくい部分に設けられている。
【0039】
ボールねじナット100の製造方法について説明する。
図4に示すように、ナット部110の外周にプーリ部120を一体成形する前に、まずナット部110を製造する。金属製の円筒状素材を例えば冷間鍛造により塑性加工することによって上記の形状を有したナット部110が製造されている。この製造の際に、ナット部110の内周面にボール転動溝111が成形されるとともに、ナット部110の対向面115に規制部130として機能する凹部116が成形される。
【0040】
ナット部110の成形後、ナット部110の外周にプーリ部120を一体成形する。まず、成形されたナット部110の外周を覆うように、円環状の第1金型200及び有底筒状の第2金型201が組み付けられている。第1金型200の内径は、ナット部110の大径筒部112の外径と等しく設定されている。第1金型200は、ナット部110の支持部114の軸方向他端側に隣接した状態で、ナット部110の大径筒部112の外周面に組み付けられている。第1金型200は、径方向において2分割された金型片200a,200bを組み合わせることにより構成されている。金型片200a,200bは同一形状をなしている。第2金型201は、第1金型200の軸方向他端側に隣接した状態で、大径筒部112の径方向外側に隙間を空けた状態で大径筒部112の外周側に配置されている。第2金型201は、ナット部110の内周面の軸方向他端側の端部に当接する内軸部202を有している。第2金型201は、内周面にプーリ部120の外歯121を成形するための外歯成形部203を有している。外歯成形部203は、外歯121が斜歯であることに対応した歯筋が等間隔に形成されている。また、第2金型201の底部204には、軸方向に貫通する樹脂注入口205が形成されている。ナット部110、第1金型200、及び第2金型201は、樹脂成形品であるプーリ部120を成形するための金型として機能する。ナット部110の大径筒部112の外周面、ナット部110の軸方向他端側の対向面115、第1金型200の軸方向他端側の面、第2金型201の内周面、第2金型201の底部204、及び第2金型201の内軸部202の外周面により囲まれる空間は、プーリ部120を成形するためのキャビティCVである。キャビティCVは、プーリ部120をインサート成形するための形状をなしている。
【0041】
ナット部110の外周に第1金型200及び第2金型201を組み付けた後、溶融樹脂を注入する樹脂注入装置のノズルを樹脂注入口に挿入する。そして、樹脂注入装置は、所定のタイミングで溶融樹脂の注入を開始する。樹脂注入装置から注入された溶融樹脂は、樹脂注入口205を通過してからキャビティCVに充填される。樹脂注入装置は、キャビティCV内の溶融樹脂の圧力を一定に保つように溶融樹脂をキャビティCV内に充填する。そして、キャビティCV内に充填された溶融樹脂が冷却されることにより固化することになる。
【0042】
図5に示すように、溶融樹脂の固化が完了すると、第1金型200及び第2金型201をナット部110及び成形されたプーリ部120から取り外す。この際、第2金型201は、プーリ部120の外歯121の斜歯の歯筋に沿って回転させながら軸方向他端側に向けて取り外す。これにより、第2金型201の取り外しに際して、外歯成形部203が外歯121に与える影響を抑えることができる。また、第1金型200は、金型片200a,200bに分けた状態で径方向から取り外す。これにより、ナット部110の外周にプーリ部120を一体成形されたボールねじナット100の製造が完了する。
【0043】
本実施形態の作用を説明する。
ナット部110とプーリ部120との周方向における相対回転を規制する規制部130は、プーリ部120における外歯121が形成されている筒状部122と大径筒部112とが対向する部位ではなく、ナット部110とプーリ部120とが軸方向において対向する部位である対向面115及び対向面125の間に設けられている。このことから、例えばナット部110とプーリ部120とが径方向に対向する部位に規制部を設ける場合と比べて、外歯121の形成されている筒状部122の径方向の肉厚のばらつきを抑え易い。本実施形態では、筒状部122の内周面は円周面をなしていることから、外歯121の歯先及び歯底の肉厚差を除いて、筒状部122の径方向の肉厚は一定である。プーリ部120の肉厚が厚い部分では成形時の熱収縮量が比較的大きいのに対し、プーリ部120の肉厚が薄い部分では成形時の熱収縮量が比較的小さくなる。外歯121の歯先及び歯底の肉厚差を除いて筒状部122の径方向の肉厚は一定であることから、プーリ部120の外周面における熱収縮量がばらつくことを抑えている。
【0044】
本実施形態の効果を説明する。
(1)ナット部110の外周にプーリ部120が一体成形されているボールねじナット100において、外歯121の歯先及び歯底の肉厚差を除いて筒状部122の径方向の肉厚は一定であることから、筒状部122の外周面に形成されている外歯121の歯先の精度低下を抑制できる。
【0045】
(2)ナット部110の外周面及び筒状部122の内周面が円周面をなしていることから、ナット部110の外周面及び筒状部122の内周面が外歯121の形成された軸方向範囲全域にわたって円周面をなしていない場合と比べて、プーリ部120の外周面における熱収縮量のばらつきを抑えることができる。
【0046】
(3)樹脂材をモールド材としてプーリ部120をインサート成形することから、金属材によってプーリ部120を成形する場合よりも、プーリ部120を軽量化することができる。
【0047】
(4)ナット部110の対向面115に形成された凹部116がプーリ部120の対向面125に形成された凸部126に嵌るようにプーリ部120はナット部110の外周に一体成形されている。これにより、ナット部110とプーリ部120とが周方向において相対回転した際には、凹部116と凸部126とが当接することによって、ナット部110とプーリ部120との周方向における相対回転を規制することができる。また、ナット部110とプーリ部120との相対回転を規制するためにボルト等の別部材を用いなくてよい分、伝達機構42の部品点数を少なくすることができる。
【0048】
(5)モータ41の回転力は、モータ41の回転軸41aに連結されている駆動プーリ53から、歯付きベルト54を介してボールねじナット100のプーリ部120へと伝達される。規制部130によってナット部110とプーリ部120との間の周方向における相対回転が規制されることから、ナット部110は、プーリ部120と一体となって周方向に回転する。ナット部110の回転力は、ナット部110のボール転動溝111及びラック軸51のボール転動溝51bの間でボール52が転動することによって、ラック軸51の軸方向移動に変換される。本実施形態のボールねじナット100では、プーリ部120の外歯121の歯先の精度が低下することが抑制されることから、歯付きベルト54の内歯54aとの噛み合いが低下することを抑制できる。これにより、モータ41の回転力をナット部110に伝達する伝達効率が低下することを抑制できる。
【0049】
(6)ナット部とプーリ部とが一体成形されておらず、これらが別体である場合には、ナット部の外周にプーリ部を組み付けることができるようにするために、ナット部の外周面とプーリ部の内周面との間にクリアランスを形成する必要がある。特に、プーリ部が樹脂材によって成形されたものである場合には、ナット部の外周にプーリ部を圧入することが困難であることからクリアランスを形成せざるを得ない。このようにクリアランスが形成される場合には、ナット部の外周にプーリ部が偏心して組み付けられるおそれがあるため、ナット部の軸心とプーリ部の軸心との同軸度が低下する。本実施形態では、ナット部110の外周にプーリ部120が一体成形されていることから、ナット部110の外周面とプーリ部120の内周面とを密着させることができる。これにより、ナット部110の軸心とプーリ部120の軸心との同軸度を向上させることができる。
【0050】
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・プーリ部120に形成された外歯121は、斜歯に限らず、例えばその歯筋が軸方向に沿って形成された平歯であってもよい。また、駆動プーリ53に形成された外歯53a及び歯付きベルト54に形成された内歯54aは、斜歯に限らず、例えばその歯筋が軸方向に沿って形成された平歯であってもよい。
【0051】
・本実施形態では、凹部116は対向面115において4つ形成されていたが、これに限らない。凹部116は、対向面115において1~3つ形成されてもよいし、5つ以上形成されてもよい。また、凸部126は対向面125において4つ形成されていたが、これに限らない。凸部126は、対向面125において1~3つ形成されてもよいし、5つ以上形成されてもよい。
【0052】
・本実施形態では、凹部116は周方向において等間隔に対向面115に配置されていたが、等間隔に配置されなくてもよい。また、凸部126は周方向において等間隔に対向面125に配置されていたが、等間隔に配置されなくてもよい。
【0053】
・本実施形態では、ナット部110の対向面115に凹部116が形成され、プーリ部120の対向面125に凸部126が形成されたが、これに限らない。
図6に示すように、例えば、ナット部110の対向面115に凸部116aが形成され、プーリ部120の対向面125に凸部116aに嵌る凹部126aが形成されてもよい。この場合、規制部130は、対向面115に形成された凸部116aと対向面125に形成された凹部126aとにより構成されている。
【0054】
図7に示すように、例えば、ナット部110の対向面115に凹部116bが形成され、プーリ部120の対向面125に凹部116bと軸方向において対向する凹部126bが形成され、これらの凹部116b,126bに別部材のピン140が嵌るようにしてもよい。この場合、規制部130は、対向面115に形成された凹部116bと、対向面125に形成された凹部126bと、これら凹部116b,126bに嵌る別部材のピン140とにより構成されている。別部材のピン140を用いて規制部130を構成する場合には、ナット部110の外周に第1金型200及び第2金型201を組み付ける際に、対向面115に形成された凹部116bに別部材のピン140を嵌めた状態で、キャビティCV内に溶融樹脂を注入することによりボールねじナット100を製造する。
【0055】
・ナット部110の対向面115に形成された凹部116と、プーリ部120の対向面125に形成された凸部126とが凹凸嵌合することによって、規制部130はナット部110とプーリ部120との周方向における相対回転を規制したが、これに限らない。例えば、ナット部110の対向面115の表面を粗く形成して、プーリ部120の対向面125の表面を対向面115との間の摩擦を高めるようにしてもよい。この場合、対向面115の表面には摩擦を高めるための微小な凹凸が形成され、かつ対向面125の表面にも摩擦を高めるための微小な凹凸が形成されていることから、一種の凹凸嵌合である。
【0056】
・プーリ部120は、樹脂材のみをモールド材として、ナット部110の外周にインサート成形されたものであったが、これに限らない。例えば、プーリ部120は、金属粉末を含む樹脂材をモールド材として、ナット部110の外周にインサート成形されたものであってもよい。すなわち、プーリ部120は、樹脂成形によって成形されたものに限らず、金属粉末射出成形によって成形されたものであってもよい。金属粉末が含まれているモールド材を用いてプーリ部120をインサート成形する場合には、樹脂材のみのモールド材を用いてプーリ部120をインサート成形する場合に比べて、インサート成形時のプーリ部120の熱収縮量を小さくすることができる。このため、プーリ部120の外周面における熱収縮量がばらつくことをさらに抑えることができる。
【0057】
・プーリ部120には、筒状部122の軸方向一端側に鍔部124が形成されたが、筒状部122の軸方向他端側に鍔部124が形成されてもよい。また、プーリ部120に鍔部124を形成しないようにしてもよい。
【0058】
・外歯121は、筒状部122の外周面に加えて延出部123の外周面に形成されていてもよい。
・ナット部110の大径筒部112の外周面は円周面をなしており、プーリ部120の内周面は円周面をなしていたが、これに限らない。大径筒部112の外周面及びプーリ部120の内周面はわずかに楕円周面をなしている等の真円周面でない周面をなしていてもよい。
【0059】
・プーリ部120を成形するための金型として第1金型200及び第2金型201を用いたが、これに限らず、金型の形状及び個数は適宜変更可能である。例えば、第1金型200は、金型片200a,200bにより構成されたが、3つ以上の金型片から構成されていてもよい。また、ナット部110に支持部114が形成されていない場合、第1金型200は、1つの金型片によって構成されていてもよい。また、第2金型201についても同様に複数の金型片によって構成されていてもよい。
【0060】
・ボールねじナット100は、転舵ユニット4に具体化したものに限らず、例えば工作機械等、他の装置にも具体化することができる。
・本実施形態では、転舵ユニット4を備えたEPS1に具体化して示したが、これに限らない。例えば、運転者により操舵される操舵ユニットと、運転者の操舵に応じて転舵輪5を転舵させる転舵ユニット4との間の動力伝達が分離したステアバイワイヤ式の操舵装置として構成してもよい。なお、ステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化する場合には、前輪操舵装置としてだけでなく、後輪操舵装置や4輪操舵装置として具体化することもできる。
【符号の説明】
【0061】
1…EPS、2…ステアリングホイール、3…ステアリング軸、4…転舵ユニット、5…転舵輪、6…ラックアンドピニオン機構、7…タイロッド、31…コラム軸、32…中間軸、33…ピニオン軸、33a…ピニオン歯、41…モータ、41a…回転軸、41b…ボルト、42…伝達機構、43…ハウジング、44…第1ハウジング、44a…第1筒状部、44b…第1収容部、44c…膨出部、44d…挿入孔、45…第2ハウジング、45a…第2筒状部、45b…第2収容部、45c…カバー部、51…ラック軸、51a…ラック歯、51b…ボール転動溝、52…ボール、53…駆動プーリ、53a…外歯、54…歯付きベルト、54a…内歯、60…軸受、61…リテーナ、62…保持部、100…ボールねじナット、110…ナット部、111…ボール転動溝、112…大径筒部、113…小径筒部、113a…固定溝、114…支持部、115…対向面、116,116b…凹部、116a…凸部、120…プーリ部、121…外歯、122…筒状部、123…延出部、124…鍔部、125…対向面、126…凸部、126a,126b…凹部、130…規制部、140…ピン、200…第1金型、200a,200b…金型片、201…第2金型、202…内軸部、203…外歯成形部、204…底部、205…樹脂注入口、CV…キャビティ、m…軸線、R…転動路。