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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】転がり軸受及び保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20240110BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240110BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20240110BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
F16C19/16
F16C33/66 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019203153
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021076186
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋元 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐也
(72)【発明者】
【氏名】村上 正之
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-166532(JP,A)
【文献】特開2009-008274(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017115881(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/06
F16C 19/16
F16C 33/41
F16C 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に内輪軌道を有する内輪と、内周に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に設けられている複数の転動体と、前記複数の転動体を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、
前記保持器は、
前記転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、
前記環状体の径方向外側の部分から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、
前記つのの径方向内方に位置しかつ前記環状体の径方向内側の部分から軸方向他方に延びて設けられ前記内輪軌道に接触することで当該保持器の位置決めを行うガイド部と、を有し、
周方向で隣り合う前記つのの間が、前記転動体を収容するポケットであり、
前記つのと前記ガイド部との間に、周方向で隣り合う前記ポケット間を繋ぎ潤滑剤が存在可能であって周方向の中央で溝幅が径方向に拡大している溝が設けられていて、
前記つのに、当該つのの軸方向の一方側から他方側にわたって軸方向他方及び径方向外方に開口する欠損部が形成されていて、
前記つのは、当該欠損部の周方向についての両側に設けられている一対のつの本体と、当該一対のつの本体の間に設けられ前記溝の径方向外側における壁の一部を構成するリブと、を有し、
前記つのの径方向内側面は、周方向の中央で凹んだ形状を有し、
周方向両側の前記つの本体それぞれの径方向内側面は、前記リブの径方向内側面に近づくにつれて軸受中心線からの距離が大きくなる傾斜形状を有する、
転がり軸受。
【請求項2】
外周に内輪軌道を有する内輪と、内周に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に設けられている複数の転動体と、前記複数の転動体を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、
前記保持器は、
前記転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、
前記環状体の径方向外側の部分から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、
前記つのの径方向内方に位置しかつ前記環状体の径方向内側の部分から軸方向他方に延びて設けられ前記内輪軌道に接触することで当該保持器の位置決めを行うガイド部と、を有し、
周方向で隣り合う前記つのの間が、前記転動体を収容するポケットであり、
前記つのと前記ガイド部との間に、周方向で隣り合う前記ポケット間を繋ぎ潤滑剤が存在可能であって周方向の中央で溝幅が径方向に拡大している溝が設けられていて、
前記つのに、当該つのの軸方向の一方側から他方側にわたって軸方向他方及び径方向外方に開口する欠損部が形成されていて、
前記つのは、当該欠損部の周方向についての両側に設けられている一対のつの本体と、当該一対のつの本体の間に設けられ前記溝の径方向外側における壁の一部を構成するリブと、を有し、
前記つのの径方向内側面は、周方向の中央で凹んだ形状を有し、
前記リブの径方向内側面及び前記つの本体の径方向内側面は、一つの円筒面に沿って設けられている、
転がり軸受。
【請求項3】
転がり軸受が備える転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、
前記環状体の径方向外側の部分から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、
前記つのの径方向内方に位置しかつ前記環状体の径方向内側の部分から軸方向他方に延びて設けられ前記転がり軸受が備える内輪の軌道に接触することで当該保持器の位置決めを行うガイド部と、を有し、
周方向で隣り合う前記つのの間が、前記転動体を収容するポケットであり、
前記つのと前記ガイド部との間に、周方向で隣り合う前記ポケット間を繋ぎ潤滑剤が存在可能であって周方向の中央で径方向に拡大している溝が設けられていて、
前記つのに、当該つのの軸方向の一方側から他方側にわたって軸方向他方及び径方向外方に開口する欠損部が形成されていて、
前記つのは、当該欠損部の周方向についての両側に設けられている一対のつの本体と、当該一対のつの本体の間に設けられ前記溝の径方向外側における壁の一部を構成するリブと、を有し、
前記つのの径方向内側面は、周方向の中央で凹んだ形状を有し、
周方向両側の前記つの本体それぞれの径方向内側面は、前記リブの径方向内側面に近づくにつれて軸受中心線からの距離が大きくなる傾斜形状を有する、
保持器。
【請求項4】
転がり軸受が備える転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、
前記環状体の径方向外側の部分から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、
前記つのの径方向内方に位置しかつ前記環状体の径方向内側の部分から軸方向他方に延びて設けられ前記転がり軸受が備える内輪の軌道に接触することで当該保持器の位置決めを行うガイド部と、を有し、
周方向で隣り合う前記つのの間が、前記転動体を収容するポケットであり、
前記つのと前記ガイド部との間に、周方向で隣り合う前記ポケット間を繋ぎ潤滑剤が存在可能であって周方向の中央で径方向に拡大している溝が設けられていて、
前記つのに、当該つのの軸方向の一方側から他方側にわたって軸方向他方及び径方向外方に開口する欠損部が形成されていて、
前記つのは、当該欠損部の周方向についての両側に設けられている一対のつの本体と、当該一対のつの本体の間に設けられ前記溝の径方向外側における壁の一部を構成するリブと、を有し、
前記つのの径方向内側面は、周方向の中央で凹んだ形状を有し、
前記リブの径方向内側面及び前記つの本体の径方向内側面は、一つの円筒面に沿って設けられている、
保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受及び保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、内輪と、外輪と、これら内輪と外輪との間に設けられている複数の転動体と、環状の保持器とを備える。転動体が玉である玉軸受の場合、いわゆる冠型と呼ばれる樹脂製の保持器が用いられる。冠型の保持器は、転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、複数のつのとを有する。つのは、環状体から軸方向他方に延びて設けられている。特許文献1に、冠型の保持器を備える転がり軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-35317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転がり軸受はグリース等の潤滑剤によって潤滑される。転がり軸受が、特に高速で回転すると、遠心力によって潤滑剤は外輪側に飛ばされることがある。この場合、内輪側で潤滑剤が不足して潤滑状態が悪化する可能性がある。
【0005】
そこで、本開示は、内輪側で潤滑剤が不足するのを抑えることが可能となる転がり軸受、及びこれを可能とする保持器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の転がり軸受は、外周に内輪軌道を有する内輪と、内周に外輪軌道を有する外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に設けられている複数の転動体と、前記複数の転動体を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、前記保持器は、前記転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、前記環状体の径方向外側の部分から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、前記つのの径方向内方に位置しかつ前記環状体の径方向内側の部分から軸方向他方に延びて設けられ前記内輪軌道に接触することで当該保持器の位置決めを行うガイド部と、を有し、周方向で隣り合う前記つのの間が、前記転動体を収容するポケットであり、前記つのと前記ガイド部との間に、周方向で隣り合う前記ポケット間を繋ぎ潤滑剤が存在可能であって周方向の中央で溝幅が径方向に拡大している溝が設けられている。
【0007】
前記転がり軸受によれば、つのとガイド部との間の溝に潤滑剤が溜められたり、溝を潤滑剤が通過したりする。保持器の溝に潤滑剤が存在し、その潤滑剤が溝から転動体を通じて内輪側に供給され、内輪側で潤滑剤が不足するのを抑えることが可能となる。
【0008】
また、前記ガイド部の径方向外側面が、周方向の中央で凹んだ形状を有していてもよいが、好ましくは、前記つのの径方向内側面が、周方向の中央で凹んだ形状を有する。
この構成により、つのとガイド部との間の前記溝は、周方向の中央で溝幅が径方向に拡大する形状を有する。また、前記溝において潤滑剤は遠心力により径方向外側に移動することから、前記構成によれば、潤滑剤の保持性能が高い。
【0009】
また、好ましくは、前記つのに、当該つのの軸方向の一方側から他方側にわたって軸方向他方及び径方向外方に開口する欠損部が形成されていて、前記つのは、当該欠損部の周方向についての両側に設けられている一対のつの本体と、当該一対のつの本体の間に設けられ前記溝の径方向外側における壁の一部を構成するリブと、を有する。
この場合、つのに欠損部が形成されていることで、つのの重量が小さくなり、保持器に働く遠心力を小さくできる。つのに欠損部が設けられていても、その径方向内方の前記溝において、潤滑剤が保持される。
【0010】
また、本開示の保持器は、転がり軸受が備える転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、前記環状体の径方向外側の部分から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、前記つのの径方向内方に位置しかつ前記環状体の径方向内側の部分から軸方向他方に延びて設けられ前記転がり軸受が備える内輪の軌道に接触することで当該保持器の位置決めを行うガイド部と、を有し、周方向で隣り合う前記つのの間が、前記転動体を収容するポケットであり、前記つのと前記ガイド部との間に、周方向で隣り合う前記ポケット間を繋ぎ潤滑剤が存在可能であって周方向の中央で径方向に拡大している溝が設けられている。
【0011】
前記保持器によれば、つのとガイド部との間の溝に潤滑剤が溜められたり、溝を潤滑剤が通過したりする。保持器の溝に潤滑剤が存在し、その潤滑剤が溝から転動体を通じて転がり軸受の内輪側に供給され、内輪側で潤滑剤が不足するのを抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本開示の発明によれば、転がり軸受の内輪側で潤滑剤が不足するのを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】転がり軸受の断面図である。
図2】保持器の斜視図である。
図3】保持器及びその周囲を示す断面図である。
図4】保持器の一部を軸方向他方側から見た拡大図である。
図5図4におけるV矢視の断面図である。
図6】保持器の一部を径方向外側から見た拡大図である。
図7】溝の変形例を示す、保持器の一部を軸方向他方側から見た拡大図である。
図8】グリースの流れを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、転がり軸受の断面図である。図1に示す転がり軸受10は、内輪11と、外輪12と、これら内輪11と外輪12との間に設けられている複数の転動体と、環状の保持器14とを備える。本開示の前記転動体は、玉13であり、転がり軸受10は玉軸受(深溝玉軸受)である。本開示の転がり軸受10では、潤滑剤としてグリースが用いられる。なお、潤滑剤はオイルであってもよい。図1は、転がり軸受10の中心線C(「軸受中心線C」とも言う。)を含む断面を示す。
【0015】
本開示において、転がり軸受10の中心線Cに沿った方向が、転がり軸受10の軸方向であり、単に「軸方向」と称する。この軸方向には、中心線Cに平行な方向も含まれる。図1における右側を軸方向一方と定義し、図1における左側を軸方向他方と定義する。軸受中心線Cに直行する方向が、転がり軸受10の径方向であり、単に「径方向」と称する。軸受中心線Cを中心として転がり軸受10(本開示では内輪11)が回転する方向が、転がり軸受10の周方向であり、単に「周方向」と称する。
【0016】
図1に示す転がり軸受10は、更に、軸方向両側にシール15を備える。シール15は、内輪11と外輪12との間に形成される環状空間16(「軸受内部」とも言う。)のグリースが外部(軸受外部)へ漏れるのを防ぐ。また、シール15は、軸受外部の異物が軸受内部へ侵入するのを防止する機能も備える。
【0017】
内輪11は環状の部材であり、その外周に、玉13が転がり接触する内輪軌道21が形成されている。図1に示す断面において、内輪軌道21は、玉13の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有する溝により構成されている。内輪11の軸方向両側部それぞれの外周面に、凹溝23が形成されている。凹溝23とシール15の内周部とが隙間を有して対向している。この隙間によりラビリンス隙間が構成される。
【0018】
外輪12は環状の部材であり、その内周に、玉13が転がり接触する外輪軌道22が形成されている。図1に示す断面において、外輪軌道22は、玉13の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有する溝により構成されている。外輪12の軸方向両側部それぞれの内周面に、シール溝24が形成されている。シール溝24にシール15の外周部が取り付けられている。
【0019】
玉13は、内輪軌道21と外輪軌道22との間に複数介在している。転がり軸受10(内輪11)が回転すると、玉13は内輪軌道21及び外輪軌道22を転動する。
【0020】
図2は、保持器14の斜視図である。図3は、保持器14及びその周囲を示す断面図である。保持器14は、環状体(環状部)31と、複数のつの(柱部)32と、ガイド部33とを有する。環状体31は、円環形状の部分であり、玉13よりも軸方向一方に位置する。つの32はすべて同じ形状である。つの32は、環状体31の径方向外側の部分31a(図3参照)から軸方向他方に延びて設けられている。環状体31の軸方向他方側であって、周方向で隣り合う一対のつの32,32の間が、玉13を収容するポケット30となる。ポケット30は周方向に沿って複数形成されている。
【0021】
ガイド部33は、つの32の径方向内方に設けられている。ガイド部33は、環状体31の径方向内側の部分31bから軸方向他方に延びて設けられている。つの32とガイド部33との間に径方向の隙間が設けられている。この隙間は、周方向で隣り合う一対のポケット30,30間を繋ぐ溝17となる。
【0022】
以上より、保持器14は、複数の玉13を周方向に間隔をあけて保持することができる。つの32の周方向に望む面28を有する部分(後述のつの本体38)がポケット30の一部となる。面28は、軸受中心線Cとポケット30の中心を含む仮想平面に対して平行であり、向かい合う面28は前記仮想平面との距離が同一である。その面28に玉13が接触可能である。環状体31の軸方向他方側に望む面29を有する部分が、前記ポケット30の他部となる。面29は、軸受中心線Cに垂直な面に沿った平面である。その面29に玉13が接触可能である。保持器14は、例えばポリアミド等の樹脂製(合成樹脂製)であり、射出成形によって製造される。環状体31とつの32とガイド部33とは一体成形されており、保持器14は単一部材からなる。
【0023】
ガイド部33について更に説明する。ガイド部33は、環状体31の径方向内側の部分31b(図3参照)から軸方向他方に延びて設けられている。ガイド部33は、環状体31に接続するガイド部本体61と、ガイド部本体61の軸方向他方側の径方向内方側に設けられている突出部35とを有する。突出部35は、内輪11側に突出している。突出部35の一部が、内輪軌道21に接触可能となる。
【0024】
保持器14の中心線が、軸受中心線Cと一致する状態で(図3の状態で)、突出部35と内輪軌道21との間に隙間が形成される。この状態から、保持器14が径方向に変位すると、突出部35が内輪軌道21に径方向から接触する。これにより、保持器14の径方向の変位が制限される。図3の状態から、保持器14が軸方向一方に変位すると、突出部35が内輪軌道21に軸方向から接触する。これにより、保持器14の軸方向一方の変位が制限される。なお、図3の状態から、保持器14が軸方向他方に変位すると、環状体31の前記面29が玉13に接触する。これにより、保持器14の軸方向他方の変位が制限される。
【0025】
このように、ガイド部33は、保持器14の径方向及び軸方向の移動を制限する機能を有する。つまり、ガイド部33は、内輪軌道21に接触することで保持器14の位置決めを行う。ガイド部33が内輪軌道21に接触(滑り接触)することによって保持器14の回転が案内される。すなわち、本開示の保持器14は、軌道ガイド(内輪軌道ガイド)の保持器となる。
【0026】
図4は、保持器14の一部を軸方向他方側から見た拡大図である。図5は、図4におけるV矢視の断面図である。なお、図3は、図4におけるIII矢視の断面図である。図6は、保持器14の一部を径方向外側から見た拡大図である。図4図5及び図6に示すように、つの32に、欠損部37が形成されている。欠損部37は、つの32の軸方向の一方側から他方側にわたって設けられていて、軸方向他方及び径方向外方に開口している。
【0027】
欠損部37により、つの32は、その欠損部37の周方向についての両側に一対のつの本体(柱本体部38)を有する。一対のつの本体38,38それぞれは、ポケット30の一部30aを構成する(図6参照)。なお、ポケット30の残りの他部30bは、環状体31により構成される。一対のつの本体38,38の間にリブ40が設けられている。リブ40は、つの本体38よりも径方向の寸法が小さい板状である。
【0028】
図6に示すように、リブ40は、欠損部37に設けられていて、環状体31と一対のつの本体38,38とを繋ぐ。リブ40は、一対のつの本体38,38の間のうちの径方向内側寄りの位置に設けられている(図4図5参照)。リブ40(リブ40の重心P)は、つの本体38における径方向についての中心の線S(図5参照)よりも径方向内側に設けられている。図6に示すように、リブ40の軸方向他方側の側面40aと、つの本体38の軸方向他方側の側面38aとは、共通する平面上に存在する。その平面は、軸受中心線Cに直交する面である。リブ40は溝17を径方向外側から覆っていて、溝17のグリースが径方向外方に逃げにくくなっている。
【0029】
図4に示すように、溝17は、周方向で隣り合う一対のポケット30,30間を繋ぐ。溝17は、グリース(潤滑剤)を存在可能とする凹溝である。溝17は、つの32とガイド部33とにより径方向に囲まれた空間である。溝17は軸方向他方側で開口すると共に、軸方向一方側で環状体31により塞がれている。各溝17は、周方向の中央で溝幅が径方向に拡大している。図4では、溝17の周方向の中央における溝幅の寸法が「Wa」であり、溝17の周方向の両側それぞれにおける溝幅の寸法が「Wb」である。溝幅に関してWa>Wbとなっている。
【0030】
ガイド部33が、溝17の径方向内側における壁を構成する。リブ40が、溝17の径方向外側における壁の一部を構成し、リブ40の両側のつの本体38,38が、溝17の径方向外側における壁の他部(残りの部分)を構成する。ガイド部33の径方向外側面51は、軸受中心線Cを中心とする円筒面に沿った形状を有する。リブ40の径方向内側面50は、軸受中心線Cを中心とする円筒面に沿った形状を有する。周方向両側のつの本体38それぞれの径方向内側面52は、リブ40の径方向内側面50に近づくにつれて軸受中心線Cからの距離が大きくなる傾斜形状を有する。
【0031】
以上より、つの32の径方向内側面34は、周方向の中央で凹んだ形状を有していて、各溝17は、周方向の中央で溝幅が径方向に拡大した形状を有する。
なお、図7に示すように、つの32の径方向内側面34は、一つの円筒面に沿った形状であってもよい。つまり、リブ40の径方向内側面50及びつの本体38の径方向内側面52が、一つの円筒面に沿って設けられている。この場合、その円筒面は、ガイド部33の径方向外側面51よりも半径が小さい。これにより、つの32の径方向内側面34は、周方向の中央で凹んだ形状を有していて、各溝17は、周方向の中央で溝幅が拡大した形状となる。
【0032】
図2において、玉13が収容されている一つのポケット30を挟んで、周方向両側のつの32,32に着目する。これらつの32,32のうち、一方を第一のつの32-1とし、他方を第二のつの32-2とする。周方向で隣り合う一対のつの32-1,32-2それぞれの軸方向他方側の先端の間隔Qは、玉13の直径よりも大きい。
【0033】
このため、保持器14が軸方向一方に変位しようとすると、その保持器14の変位は玉13によって制限されない。そこで、前記のとおり保持器14のガイド部33が内輪軌道21に軸方向から接触可能である(図1参照)。このため、保持器14は、内輪11と外輪12との間から脱落しない。
【0034】
なお、一般的な深溝玉軸受の場合、いわゆる冠型の保持器が採用される。その冠型の保持器は、つのの先端側に爪部を有し、周方向で隣り合う一対のつのの爪部の間隔は、玉の直径よりも小さい。この構成により、冠型の保持器は、玉によって軸方向の移動が規制され、これにより、その保持器は、内輪と外輪との間から脱落しない。
このような冠型の保持器に対して、本開示の保持器14では、一般的な冠型の保持器のような玉の直径よりも間隔が小さくなる一対の前記爪部が存在しない。このような爪部が設けられないことで、本開示の保持器14はつの32を短くでき軽量化される。
【0035】
以上のように、本開示の転がり軸受10では、保持器14が、環状体31と、複数のつの32と、つの32の径方向内方に位置しているガイド部33とを有する。ガイド部33は、ガイド部33が有する突出部35が内輪軌道21に接触することで保持器14の位置決めを行う。周方向で隣り合うつの32,32の間が、玉13を収容するポケット30である。つの32とガイド部33との間に、周方向で隣り合うポケット30,30間を繋ぐ溝17が設けられている。溝17には、グリースが存在可能であって、周方向の中央で溝幅が径方向に拡大している(図4図7参照)。
【0036】
この転がり軸受10(内輪11)が高速で回転した場合、内輪軌道21に存在するグリースは遠心力で外輪12側に移動しようとする。しかし、前記構成によれば、そのグリースがつの32によって受け止められ、つの32とガイド部33との間の溝17にグリースが溜められたり、溝17を潤滑剤が通過したりする。つまり、保持器14の溝17にグリースが存在する。図8は、グリースの流れを説明する図である。図8において外輪12が固定され、内輪11が時計回り(周方向他方)に回転すると、玉13は自転しながら内輪軌道21及び外輪軌道22に沿って公転する。これにより、周方向の一方側(図8では左側)の玉13及びポケット30から、グリースが溝17に侵入する。そのグリースの移動を矢印G1で示す。
【0037】
溝17に侵入したグリースは、その一部が溝17に滞留し、別の一部は溝17を周方向の他方側(図8では右側)へ通過する。溝17を通過したグリースは、周方向他方側の玉13の表面に付着する。その玉13の自転により、その表面に付着したグリースが、内輪軌道21側へ移動する。そのグリースの移動を矢印G2で示す。このように、グリースが溝17から玉13を通じて内輪11側に供給されることで、内輪11側で潤滑剤が不足するのを抑えることが可能となる。この結果、転がり軸受10の長寿命化を実現することが可能となる。特に、本開示の転がり軸受10(保持器14)は、高速回転に好適である。なお、前記のとおり、グリースが、溝17から内輪11側へ供給されてもよいが、溝17に溜まるグリースに含まれる基油が、玉13を通じて内輪11側へ供給されてもよい。
【0038】
図4を参考にして説明すると、つの32とガイド部33との間の溝17が、周方向の中央で溝幅が径方向に拡大する形状を有するために、ガイド部33の径方向外側面51が、図示しないが、周方向の中央で凹んだ形状を有していてもよい。しかし、溝17においてグリースは遠心力により径方向外側に移動することから、本開示では、つの32の径方向内側面34が、周方向の中央で凹んだ形状を有する。この構成によれば、ガイド部33の径方向外側面51が周方向の中央で凹んだ形状を有する場合と比較して、溝17におけるグリースの保持性能が高い。
【0039】
本開示の保持器14では、前記のとおり、つの32に欠損部37が形成されている。このため、つの32の重量が小さくなり、つの32に働く遠心力を小さくできる。この結果、保持器14の変形が生じにくい。
そして、つの32は、一対のつの本体38,38の間に設けられているリブ40を有する。リブ40は、溝17の径方向外側における壁の一部を構成する。このため、つの32に欠損部37が設けられていても、その径方向内方の溝17において、リブ40が壁となって存在することから、グリースが保持される。
【0040】
また、転がり軸受10が回転すると玉13が進み遅れ等によって、つの32(つの本体38)に周方向から接触する。つの32の強度が欠損部37により低下するが、リブ40により、つの32の強度の低下を防ぐことができる。つまり、リブ40により、欠損部37が形成されているつの32における周方向の剛性が高まる。以上より、つの32の重量を小さくして遠心力によってつの32が変形し難くなると共に、リブ40によりつの32の強度低下を防ぐことができる。
【0041】
本開示では、保持器14はガイド部33を有する。ガイド部33は、内輪軌道21(図1参照)に接触することで保持器14の位置決めを行う。つまり、ガイド部33は、保持器14の径方向及び軸方向の移動を規制し、保持器14の回転を案内する。内輪軌道21に玉13が転がり接触することから、例えば研磨等の機械加工が行われる。このような内輪軌道21にガイド部33を接触させることで、保持器14が安定してガイドされる。
【0042】
保持器14の回転は内輪11によってガイドされる構成であるため、保持器14が内輪11寄りに位置する。このため、保持器14の外径を小さくすることが可能となる。遠心力は、質量、角速度、回転中心からの距離(半径)のいずれかを小さくすれば、小さくなる。よって、本開示の保持器14によれば、保持器14が内輪11寄りに位置するため、保持器14に働く遠心力をより一層小さくすることが可能である。
【0043】
内輪ガイドの保持器14であるため、ポケット30と玉13との間の隙間を、(図示しないが)保持器が玉によってガイドされる転動体ガイドの場合よりも、広く設定することが可能となる。よって、保持器14のつの32が遠心力によって弾性変形しても、玉13とポケット30とが部分的に接触して保持器14の偏摩耗を防ぐことが可能となる。
【0044】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内での全ての変更が含まれる。
前記実施形態では、転がり軸受が深溝玉軸受である場合について説明したが、アンギュラ玉軸受であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
10:転がり軸受 11:内輪 12:外輪
13:玉(転動体) 14:保持器 17:溝
21:内輪軌道 22:外輪軌道 30:ポケット
31:環状体 31a:径方向外側の部分 31b:径方向内側の部分
32:つの 33:ガイド部 34:つのの径方向内側面
37:欠損部 38:つの本体 40:リブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8