(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】塗装金属板及び絞りしごき缶
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240110BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240110BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20240110BHJP
C09D 167/06 20060101ALI20240110BHJP
B65D 25/34 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B32B15/08 G
B32B15/08 Q
B32B27/36
C09D167/00
C09D167/06
B65D25/34 C
(21)【出願番号】P 2019203562
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018213330
(32)【優先日】2018-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 宏美
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 新
(72)【発明者】
【氏名】張 楠
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514370(JP,A)
【文献】特開2003-26992(JP,A)
【文献】特開2011-88083(JP,A)
【文献】特表2018-516163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-10/00
B65D 1/00,1/12,25/34
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に塗膜を有する塗装金属板において、前記塗膜が、主剤としてポリエステル樹脂、及び硬化剤としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物を含有し、前記塗膜のMEK抽出率が14%以上であることを特徴とする塗装金属板。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂が未アクリル変性ポリエステル樹脂又はアクリル樹脂成分の含有量が10質量%未満であるアクリル変性ポリエステル樹脂である請求項1記載の塗装金属板。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度が20~120℃である請求項1又は2記載の塗装金属板。
【請求項4】
前記塗膜の膜厚が30μm未満である請求項1~3の何れかに記載の塗装金属板。
【請求項5】
前記塗膜が水性塗料組成物から形成される請求項1~4の何れかに記載の塗装金属板。
【請求項6】
請求項1~4の何れかに記載の塗装金属板から成る絞りしごき缶。
【請求項7】
缶胴側壁中央部の厚みが、缶底部の厚みの20~75%の厚みであることを特徴とする請求項6記載の絞りしごき缶。
【請求項8】
ポリエステル樹脂を主剤とし、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物を硬化剤として含有する水性塗料組成物を、金属板の少なくとも片面に塗工した後、200℃より高く320℃以下の温度で5~60秒間加熱することにより、MEK抽出率が14~50%の塗膜を形成することを特徴とする塗装金属板の製造方法。
【請求項9】
前記ポリエステル樹脂が、未アクリル変性ポリエステル樹脂又はアクリル樹脂成分の含有量が10質量%未満であるアクリル変性ポリエステル樹脂である請求項8記載の塗装金属板の製造方法。
【請求項10】
請求項1~5の何れかに記載の塗装金属板を、絞りしごき加工した後、得られた絞りしごき缶を加熱工程に付することにより、前記塗膜のMEK抽出率を14%未満とすることを特徴とする絞りしごき缶の製造方法。
【請求項11】
前記加熱工程における加熱条件が、150~250℃で20~180秒間である請求項10記載の絞りしごき缶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装金属板及び該塗装金属板から成る絞りしごき缶に関するものであり、より詳細には、絞り加工やしごき加工等の過酷な加工に付された場合にも、金属露出が有効に防止される優れた製缶加工性を有し、かつ成形後の熱処理時にも塗膜剥離が生じない塗膜剥離耐性に優れる絞りしごき缶用塗装金属板及び絞りしごき缶に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム等の金属板を有機樹脂フィルムで被覆した有機樹脂被覆金属板は、缶用材料として古くから知られており、この有機樹脂被覆金属板を絞り加工或いは絞り・しごき加工等に付して、飲料等を充填するためのシームレス缶とし、或いはこれをプレス成形してイージーオープンエンド等の缶蓋とすることもよく知られている。例えば、エチレンテレフタレート単位を主体としたポリエステル樹脂から成る熱可塑性樹脂フィルムを有機樹脂被覆層として有する有機樹脂被覆金属板は、絞りしごき加工により成形されるシームレス缶用の製缶材料として使用されている(特許文献1等)。このような有機樹脂被覆金属板は、液体クーラントを使用しないドライ条件下で絞りしごき成形を行うことができるため、有機樹脂で被覆していない金属板を、多量の液体クーラントを用いて絞りしごき成形する場合に比して、環境負荷を大幅に低減できるという利点がある。
【0003】
このような有機樹脂被覆金属板は、熱可塑性ポリエステル樹脂等の予め形成されたフィルムを金属板に熱接着により貼り合せる方法、押出された熱可塑性ポリエステル樹脂等の溶融薄膜を金属板に貼り合せる押出しラミネート法等のフィルムラミネート方式により製造されている。
しかしながら、フィルムラミネート方式は、薄膜での製膜が難しいことから、フィルムの厚みが厚くなりやすく、経済性の面で問題となる場合がある。
【0004】
このようなフィルムラミネート方式による有機樹脂被覆金属板に代えて、薄膜での成膜が可能な塗装方式により金属板上に塗膜を形成した塗装金属板から、ドライ条件下で絞りしごき缶を製造することも提案されている。
例えば下記特許文献2には、両面塗装金属板であって、加工後に缶内面側となる皮膜の乾燥塗布量が90~400mg/100cm2、ガラス転移温度が50~120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度H以上、伸び率200~600%及び動摩擦係数0.03~0.25の範囲内にあるものであり、加工後に缶外面側となる皮膜の乾燥塗布量が15~150mg/100cm2、ガラス転移温度が50~120℃であり、かつ60℃の試験条件において、鉛筆硬度H以上である絞りしごき缶用塗装金属板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-246695号公報
【文献】特許第3872998号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2では、缶内面側塗料としてポリエステル樹脂とレゾール型フェノール樹脂、缶外面側塗料としてポリエステル樹脂とアミノ樹脂及び/又はレゾール型フェノール樹脂を含有する塗料組成物を用いており、そのような塗料組成物から形成される塗膜は、塗膜中にフェノール樹脂又はアミノ樹脂の自己縮合体に由来する硬く脆いドメインが形成されるため、そうしたドメインが塗膜の加工性低下を招き、製缶加工性の点で問題となる場合があった。また、レゾール型フェノール樹脂を用いた場合においては、形成される塗膜がフェノール樹脂特有の黄色味を帯びるため、外面側への適用など用途によっては塗膜色調が問題となる場合があった。
一方、塗装金属板から成形された絞りしごき缶において、缶体成形後に、加工により生じた塗膜の残留歪みの除去、或いは表面に印刷した印刷インキ、ニスの乾燥硬化を目的とした熱処理を施すような場合においては、過酷な加工により生じた塗膜の内部応力(残留応力)が緩和されるに伴い、特に缶胴側壁部の加工が厳しく薄肉化されている部位において、塗膜が金属基材から剥離する場合があった。
【0007】
従って本発明の目的は、上記のような問題を生じることがなく、ドライ条件下での絞りしごき加工等の過酷な加工にも適用可能な優れた製缶加工性を有すると共に、缶体成形後の熱処理時にも塗膜が剥離することのない優れた塗膜剥離耐性を有する塗装金属板及び該塗装金属板から成る絞りしごき缶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、少なくとも片面に塗膜を有する塗装金属板において、前記塗膜が、主剤(主成分)としてポリエステル樹脂、及び硬化剤(架橋剤)としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物を含有し、前記塗膜のMEK抽出率が14%以上であることを特徴とする塗装金属板が提供される。
本発明の塗装金属板においては、
1.前記ポリエステル樹脂が未アクリル変性ポリエステル樹脂又はアクリル樹脂成分の含有量が10質量%未満であるアクリル変性ポリエステル樹脂であること、
2.前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度が20~120℃であること、
3.前記塗膜の膜厚が30μm未満であること、
4.前記塗膜が水性塗料組成物から形成されること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、塗装金属板から成る絞りしごき缶が提供される。
本発明の絞りしごき缶においては、缶胴側壁中央部の厚みが、缶底部の厚みの20~75%の厚みであることが好適である。
【0010】
本発明によれば更に、ポリエステル樹脂を主成分とし、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物を硬化剤として含有する水性塗料組成物を、金属板の少なくとも片面に塗工した後、200℃より高く320℃以下の温度で5~60秒間加熱することにより、MEK抽出率が14%以上の塗膜を形成することを特徴とする塗装金属板の製造方法が提供される。
本発明の塗装金属板の製造方法においては、前記ポリエステル樹脂が、未アクリル変性ポリエステル樹脂又はアクリル樹脂成分の含有量が10質量%未満であるアクリル変性ポリエステル樹脂であることが好適である。
【0011】
本発明によれば更にまた、上記塗装金属板を、絞りしごき加工した後、得られた絞りしごき缶を加熱工程に付することにより、前記塗膜のMEK抽出率を14%未満とする絞りしごき缶の製造方法が提供される。
本発明の絞りしごき缶の製造方法においては、前記加熱工程における加熱条件が、150~250℃で20~180秒間であることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明者らは、前述の背景を鑑み、本用途に適した塗装金属板について鋭意検討した結果、特定のポリエステル樹脂、及び硬化剤としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物を含有し、硬化度が適度に制御された塗膜が形成された塗装金属板を用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明の塗装金属板は、塗膜の伸び性や加工性に優れており、ドライ条件下での絞り加工やしごき加工のような過酷な加工に付された場合にも、缶胴側壁部での破断(本発明で破胴ということがある)が生じてしまうことはもちろん、金属露出が有効に防止されるため、優れた製缶加工性を有していると共に、塗膜は無色透明であり、塗膜色調が問題となるおそれもない。さらに、塗膜の硬化度が制御されていることから、製缶加工によって発生する内部応力を低減でき、熱処理時にも塗膜が剥離するおそれがなく、絞りしごき缶に用いる塗装金属板として適している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(塗装金属板)
本発明の塗装金属板は、金属板の少なくとも片面に形成される塗膜が、主成分としてポリエステル樹脂、硬化剤(架橋剤)としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物を含有し、該塗膜のMEK抽出率が14%以上であることが重要な特徴である。
塗装金属板から絞りしごき缶等を成形する場合、塗装金属板は、成形発熱による温度上昇を伴いながら、過酷な加工・変形に付されることになる。その際、塗装金属板上に形成された塗膜が、高い温度域での充分な伸び性や加工性を有していなければ、金属基材の加工に追従することができず、金属露出の発生や破胴が生じるおそれがある。さらに、塗膜の硬化度が高い、すなわちポリエステル樹脂等の主剤樹脂が硬化剤により高度に架橋されている場合においては、加工により生ずる内部応力が特に大きくなるため、その状態のまま、外面印刷の乾燥工程等で、主剤樹脂のガラス転移温度を超える温度(200℃程度)に加熱される熱処理が施されると、内部応力が緩和されるに伴い、塗膜と金属基体界面に収縮応力が働き、それにより塗膜剥離が発生してしまう場合があった。
【0014】
これに対し、主成分としてポリエステル樹脂、硬化剤としてβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物を含有した塗膜を有する本発明の塗装金属板は、塗膜が高い温度域で充分な伸び性を発現することができるため、絞りしごき加工時も金属露出の発生が有効に抑えられる。さらに、塗膜の硬化度の尺度となるMEK抽出率を上記値以上とすることにより、硬化度、すなわちポリエステル樹脂の架橋度合いが適度に抑えられ、加工により生ずる内部応力を低減することが可能となる。それにより、成形後に熱処理を施しても、塗膜の剥離を有効に抑えることが出来る。
上述の通り、本発明の塗装金属板においては、上記塗膜のMEK抽出率が14%以上であることが重要であり、好ましくは14%~50%、より好ましくは14~40%、更に好ましくは16~35%の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもMEK抽出率が低い場合には、塗膜の硬化度が高く、加工により生ずる内部応力が大きくなるため、熱処理時に塗膜剥離が発生するおそれがある。一方MEK抽出率が大きい場合には、塗膜の硬化度が低くなり、耐熱性が低下する傾向にあるため、絞りしごき缶を高速かつ連続で成形する場合においては、温度上昇がより顕著になるため、成形した際に塗膜が金型に張り付きやすくなる。特に缶内面側においては、絞りしごき成形後、成形パンチから缶体を抜き取る時点で、缶体が成形パンチに張り付き、成形パンチと缶体が分離しにくくなる現象(ストリッピング性不良)が生じ、それにより缶体が座屈、または破胴するなど、生産性が低下するおそれがある。一方、缶外面側においては、塗膜削れなどの外面不良が発生するおそれがある。また、未架橋の成分が多くなるため、塗膜のバリア性が劣り、耐食性や耐レトルト性が劣るようになる。
【0015】
本発明の塗装金属板においては、上記塗膜のガラス転移温度(Tg)が20~120℃、好ましくは25~90℃、より好ましくは35~85℃、更に好ましくは40~80℃の範囲にあることが好適である。上記範囲よりもTgが高い場合には、加工性及び伸び性が低下し、成形により金属露出が発生するおそれがある。また、加工時の内部応力が大きくなるため、缶体成形後の熱処理時に塗膜剥離が生じやすくなるおそれがある。一方で上記範囲よりもTgが低い場合には、内部応力が小さくなる傾向にあるため、熱処理時の塗膜剥離が生じにくくなるが、塗膜の耐熱性が低くなるため、塗膜が金型に張り付きやすくなり、成形パンチの抜け性(ストリッピング性)等の不良による生産性の低下が懸念されると共に、塗膜のバリア性が低下し耐食性が劣るおそれがある。
【0016】
また上記塗膜の膜厚は、乾燥膜厚で30μm未満、好ましくは2μmより大きく20μm未満、より好ましくは3μm以上15μm未満、更に好ましくは4~14μmの範囲にあることが好適である。上記範囲よりも薄膜の場合は、成形時に金属露出が発生しやすくなり、製缶加工性に劣るようになる。一方上記範囲よりも厚膜の場合は、更なる性能向上が望めず、経済性に劣るようになる。
【0017】
(ポリエステル樹脂)
本発明の塗装金属板において、塗膜を構成する主剤としてポリエステル樹脂を用いるが、ここで主剤とは、塗膜を構成する成分の中で最も含有量(質量比率)の多いものとする。ポリエステル樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)が20~120℃、好ましくは25~90℃、より好ましくは35~85℃、更に好ましくは40~80℃の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもTgが高い場合には、形成される塗膜が硬くなり、塗膜の伸び率が不足し、所望の製缶加工性が得られない。また、加工時に生じる残留歪みが大きくなるため、缶体成形後の熱処理時に塗膜剥離が生じやすくなる。一方上記範囲よりもTgが低い場合には、内部応力が小さくなる傾向にあるため、熱処理時の塗膜剥離が生じにくくなるが、塗膜の耐熱性が低くなるため、塗膜が金型に張り付きやすくなり、成形パンチの抜け性(ストリッピング性)等の不良による生産性の低下が懸念されると共に、塗膜のバリア性が低下し耐食性が劣るおそれがある。
【0018】
本発明においては、Tgの異なる2種以上のポリエステル樹脂をブレンドして用いることもでき、Tgの異なるポリエステル樹脂をブレンドすることで、ポリエステル樹脂1種のみを使用した場合に比べ、耐衝撃性に優れ、外部から衝撃を受けても塗膜欠陥のできにくい塗膜を形成できる場合がある。
その場合においても、下記式(1)により算出されるポリエステル樹脂ブレンドのTgmixが上記のTg範囲にあれば良い。
1/Tgmix=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+…+(Wm/Tgm)
・・・(1)
W1+W2+…+Wm=1
式中、Tgmixはポリエステル樹脂ブレンドのガラス転移温度(K)を表わし、Tg1,Tg2,…,Tgmは使用する各ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂1,ポリエステル樹脂2,…ポリエステル樹脂m)単体のガラス転移温度(K)を表わす。また、W1,W2,…,Wmは各ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂1,ポリエステル樹脂2,…ポリエステル樹脂m)の質量分率を表わす。
【0019】
本発明の塗装金属板に用いる塗料組成物においては、ポリエステル樹脂として、Tgが35℃~100℃のポリエステル樹脂(A)と、Tgが-30℃~25℃のポリエステル樹脂(B)を混合して用いることが、塗膜の耐衝撃性の観点から特に好ましい。その場合の配合比率は質量比で(A):(B)=98:2~10:90、特に95:5~30:70であることが好ましい。また、上記式(1)で算出されるガラス転移温度(Tgmix)が35℃以上であることが、耐食性や耐レトルト性の観点から好ましい。
【0020】
またポリエステル樹脂の酸価は5mgKOH/gより高く50mgKOH/g未満、好ましくは10~40mgKOH/g、更に好ましくは10mgKOH/g以上30mgKOH/g未満、特に好ましくは15mgKOH/g以上30mgKOH/g未満の範囲にあることが好適である。
すなわち、主剤となるポリエステル樹脂が適度なカルボキシル基量(酸価)を有することにより、硬化性及び加工性、更に塗膜の密着性を兼ね備えることが可能になる。上記範囲よりも酸価が小さい場合には、硬化剤との架橋点となるカルボキシル基が少なく充分な硬化性を得ることができないおそれがあり、また塗膜と金属基体間の密着性に寄与するカルボキシル基が少ないため、塗膜の密着性が劣るようになる。一方上記範囲よりも酸価が大きい場合には、硬化剤との架橋点が多くなることで硬化性には優れるものの、架橋密度が過度に高くなりやすく、製缶加工性が劣るようになる。
なお、上記範囲よりも酸価が大きい場合においても、硬化剤の配合量を少なくするなど調整すれば架橋密度を低く抑えることは可能であるが、その場合においては、架橋に用いられない遊離のカルボキシル基が塗膜に残存することになるため、塗膜の耐水性に劣るようになり、結果として充分な耐食性が得られない。
【0021】
また、本発明においては、単独の酸価が上記範囲内にある2種以上のポリエステル樹脂をブレンドした混合ポリエステル樹脂を用いても良く、その場合においては各々のポリエステル樹脂の酸価と質量分率を乗じて得られた値の総和を、混合ポリエステル樹脂の平均酸価(Avmix)とする。
なお、単独の酸価が上記範囲内のポリエステル樹脂と、単独の酸価が上記範囲外のポリエステル樹脂をブレンドして用いる場合においては、全ポリエステル樹脂量(ポリエステル樹脂の総質量)に対して、単独の酸価が上記範囲内のポリエステル樹脂の含有量は30質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%より大きいことが好ましい。また、単独の酸価が5mgKOH/g未満の低酸価ポリエステル樹脂をブレンドして用いる場合においては、全ポリエステル樹脂量(ポリエステル樹脂の総質量))に対して、前記低酸価ポリエステル樹脂の含有量は60質量%未満、好ましくは50質量%未満、更に好ましくは40質量%未満とすることが望ましい。上述の低酸価ポリエステル樹脂は、硬化剤との反応点となるカルボキシル基が極めて少ないため、前記低酸価ポリエステル樹脂自体は架橋構造に組み込まれにくく、焼付け後も未架橋のまま塗膜に残存する可能性が高い。従って、酸価が5mgKOH/g未満の低酸価ポリエステル樹脂の全体に占める割合が50質量%以上になると充分な硬化性を得ることが困難となる。
【0022】
さらに、主剤として用いるポリエステル樹脂としては、ポリエステル樹脂(α)と、該ポリエステル樹脂(β)よりも酸価が高く、ポリエステル樹脂(α)との酸価の差が5mgKOH/g以上となるポリエステル樹脂(β)を混合した混合ポリエステル樹脂を用いることが、塗膜の加工性及び硬化性を、より高いレベルで両立する上で好ましい。
なお、ポリエステル樹脂(α)とポリエステル樹脂(β)の酸価の差は、上記の通り5mgKOH/g以上、好ましくは10~30mgKOH/gの範囲にあることが好ましく、酸価の差が5mgKOH/g未満では、酸価の異なるポリエステル樹脂を組み合わせることによる効果を得ることは難しい。
【0023】
上記効果を効率よく奏するためには、ポリエステル樹脂(α)とポリエステル樹脂(β)の酸価の差が5mgKOH/g以上であることを条件に、ポリエステル樹脂(α)として酸価が5mgKOH/gより高く20mgKOH/g以下、特に5mgKOH/gより高く15mgKOH/g以下の範囲にあるポリエステル樹脂、及びポリエステル樹脂(β)として酸価が12mgKOH/g以上50mgKOH/g未満、特に15~45mgKOH/gの範囲にあるポリエステル樹脂を用いることが好適であり、かかるポリエステル樹脂(α)とポリエステル樹脂(β)を、(α):(β)=95:5~5:95、特に90:10~10:90の範囲(質量比)となるように混合することが好適である。
なお、本発明においては、下記式(2)で表される、上記ポリエステル樹脂(α)及び(β)を混合して成る混合ポリエステル樹脂の酸価(Avmix)が10~40mgKOH/g、好ましくは10mgKOH/g以上30mgKOH/g未満の範囲にあることが好適である。
Avmix=[(Avα・Wα/(Wα+Wβ)+(Avβ・Wβ/(Wα+Wβ)]
・・・(2)
式中、Avmixは混合ポリエステル樹脂の酸価(mgKOH/g)を表わし、Avα,Avβは使用するポリエステル樹脂(α)及び(β)の酸価(mgKOH/g)、Wα、Wβはポリエステル樹脂(α)及び(β)の質量分率を表わす。
【0024】
本発明で用いるポリエステル樹脂は、上述した酸価及びガラス転移温度を有すると共に、更にアクリル樹脂で変性していない未アクリル変性ポリエステル樹脂であることが望ましい。
ポリエステル系水性塗料組成物においては、重合性不飽和モノマーをポリエステル樹脂にグラフト重合させる等の方法によりアクリル樹脂で変性したアクリル変性ポリエステル樹脂を用いることが広く提案されているが、アクリル樹脂で変性されたポリエステル樹脂は、形成される塗膜の加工性が劣る傾向にあると共に、その変性のために製造工程数が増え、製造コストも高くなる場合があるため、本発明に用いるポリエステル樹脂としては、アクリル樹脂で変性していないポリエステル樹脂(未アクリル変性ポリエステル樹脂)であることが好ましい。もしアクリル樹脂変性ポリエステル樹脂を用いる場合は、アクリル変性ポリエステル樹脂全体に占めるアクリル樹脂成分(重合性不飽和モノマーの重合体成分)の含有量(質量比率)が10質量%未満、特に5質量%未満であることが好ましい。
【0025】
本発明で用いるポリエステル樹脂は、製缶加工性という観点から、上述した範囲のガラス転移温度及び酸価を有し、かつ未アクリル変性であることが好適であるが、それ以外は、塗料組成物に用いられる公知の水分散性及び/又は水溶性のポリエステル樹脂を使用することができる。
水分散性ポリエステル樹脂及び水溶性ポリエステル樹脂は、親水基を成分として含むポリエステル樹脂であり、これらの成分は、ポリエステル分散体表面に物理吸着されていてもよいが、ポリエステル樹脂骨格中に共重合されていていることが特に好ましい。
親水基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、又はこれらの誘導体や金属塩、エーテル等であり、これらを分子内に含むことにより水に分散可能な状態で存在することができる。
親水性基を含む成分としては、具体的には無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン等の水酸基含有ポリエーテルモノマー、5-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸等のスルホン酸含有モノマーの金属塩、又はアンモニウム塩等を挙げることができる。
【0026】
本発明においては、ポリエステル樹脂としては、親水基としてカルボキシル基を有するカルボキシル基含有ポリエステル樹脂を好適に用いることができる。
【0027】
また、前記親水性基を含むモノマーと組み合わせて、ポリエステル樹脂を形成するモノマー成分としては、ポリエステル樹脂の重合に通常用いられるモノマーであれば特に限定されるものではない。ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、テルペン-マレイン酸付加体などの不飽和ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸等の3価以上の多価カルボン酸等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を選択し使用できる。
本発明においては、耐食性や耐レトルト性、フレーバー性等の観点からポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分に占めるテレフタル酸やイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸の割合が60モル%以上であることが好ましく、特に80%以上であることが好ましい。
【0028】
ポリエステル樹脂を構成する多価アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1-メチル-1,8-オクタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、4-プロピル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、などの脂肪族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のエーテルグリコール類、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカングリコール類、水添加ビスフェノール類、などの脂環族ポリアルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、などの3価以上のポリアルコール等から1種、または2種以上の組合せで使用することができる。
本発明においては、上記の多価アルコール成分の中でも、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-メチル-1,3-プロパンジオールを、ポリエステル樹脂を構成する成分として好適に用いることができる。
【0029】
ポリエステル樹脂は、上記の多価カルボン酸成分の1種類以上と多価アルコール成分の1種類以上とを重縮合させることや、重縮合後に多価カルボン酸成分、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、無水トリメリット酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等で解重合する方法、また、重縮合後に酸無水物、例えば 無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリト酸、エチレングリコールビストリメリテート二無水物等を開環付加させること等、公知の方法によって製造することができる。
【0030】
ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)はこれに限定されるものではないが、1,000~100,000、特に3,000~50,000の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも小さいと塗膜が脆くなり、加工性に劣る場合があり、上記範囲よりも大きいと塗料安定性が低下するおそれがある。
【0031】
塗料組成物におけるポリエステル樹脂の平均分散粒子径は10~1,000nm、特に20~500nmの範囲にあることが好ましい。
【0032】
ポリエステル樹脂の水酸基価については、これに限定されるものではないが、20mgKOH/g以下、より好ましくは10mgKOH/g以下であることが好ましい。硬化剤として、ポリエステル樹脂のカルボキシル基とは反応するが、水酸基とは反応しにくい、或いは反応しないと考えられる、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物を用いた場合は、ポリエステル樹脂の水酸基の大部分は未反応のまま塗膜に残存することとなる。そのため、上記範囲よりも水酸基価が大きい場合は、残存する水酸基が多くなり、耐食性が低下するおそれがある。
【0033】
(硬化剤)
本発明の塗装金属板においては、主成分であるポリエステル樹脂が有するカルボキシル基と架橋反応可能な官能基として、β-ヒドロキシアルキルアミド基を有するβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物から成る硬化剤を用いることが重要な特徴である。
βーヒドロキシアルキルアミド化合物から成る硬化剤は、硬化剤同士で自己縮合反応しにくい、或いは自己縮合反応しないことから、一般にポリエステル系塗料組成物の硬化剤として使用されているレゾール型フェノール樹脂やアミノ樹脂等のように、硬化剤同士の自己縮合反応による加工性の低下を招くおそれがない。また自己縮合反応により硬化剤の反応点(官能基)が消費されてしまうことなく、必要最低限の量で十分な硬化性を得ることができるため効率的であると共に、塗膜中の硬化剤量も少なくでき、結果として加工性及び耐食性に優れた塗膜を形成することができる。さらに、フェノール樹脂を用いた場合のように、塗膜が着色するおそれがなく、無色透明な塗膜を形成できる。フレーバー性等の観点からは原料としてホルムアルデヒドを使用しないことも利点である。
【0034】
β-ヒドロキシアルキルアミド化合物から成る硬化剤としては、例えば下記一般式〔I〕で示されるものが挙げられる。
一般式〔I〕;
[HO―CH(R1)―CH2―N(R2)―CO―]m―A―[―CO―N(R2’)―CH2―CH(R1’)―OH]n
[式中、R1およびR1’は水素原子又は炭素数1から5までのアルキル基、R2およびR2’は水素原子又は炭素数1から5までのアルキル基又は一般式〔II〕で示されるもの、Aは多価の有機基、mは1又は2、nは0から2(mとnの合計は少なくとも2である。)を表わす。]
【0035】
一般式〔II〕;HO―CH(R3)―CH2―
[式中、R3は水素原子又は炭素数1から5までのアルキル基を表わす。]
【0036】
前記一般式〔I〕中のAは、脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素であることが好ましく、炭素数2から20の脂肪族、脂環族又は芳香族炭化水素がより好ましく、炭素数4から10の脂肪族炭化水素が更に好ましい。
前記一般式〔I〕におけるmとnの合計は、2又は3又は4であることが好ましい。
【0037】
またβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物における官能基当量としては、30~500g/eqであることが好ましく、特に40~200g/eqの範囲にあることが好ましい。尚、本明細書において官能基当量とは、分子量を硬化剤1分子当たりの官能基数(β-ヒドロキシアルキルアミド基数)で除した値であり、硬化剤の前記官能基1個当たりの分子量を意味する。官能基当量が上記範囲よりも小さいと架橋点間距離を長くとることができないため、塗膜の柔軟性が低下し、加工性が劣る。一方で上記範囲よりも大きすぎると硬化性が不足する。
更に硬化剤の平均分子量は1000以下であることが好ましい。上記範囲よりも大きいと、主剤のポリエステル樹脂との相溶性が低下するおそれがあり、反応性が低下する場合がある。さらに、硬化剤1分子当たりの平均官能基数が3以上であることが、良好な硬化性を得る上で好ましい。
【0038】
上記一般式〔I〕で示されるもの中でも、硬化剤として用いるβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物としては、特にN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミド[CAS:6334-25-4、製品例:EMS社製Primid XL552]やN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミド[CAS:57843-53-5、製品例:EMS社製Primid QM1260]が好ましい。これらの中でも、硬化性や耐レトルト性の観点からN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミドを用いることがより好ましい。N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミドに比べて、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミドの方が、ポリエステル樹脂との反応性が高く、硬化性に優れると共に、より緻密な架橋構造を形成することで、レトルト時にも塗膜が白化しにくく、耐レトルト性に優れた塗膜を形成することができる。
【0039】
硬化剤は、ポリエステル樹脂(固形分)100質量部に対して、1~15質量部で配合することが好ましく、2~10質量部がより好ましく、3~8質量部が更に好ましい。上記範囲よりも硬化剤の配合量が少ない場合には、充分な硬化性を得ることができず、一方上記範囲よりも硬化剤の配合量が多い場合には、ポリエステル樹脂のカルボキシル基量に対して、硬化剤の官能基が大過剰になると、硬化剤1分子が2分子以上のポリエステル樹脂と反応することが困難になり、結果として架橋形成に不備が生じ、かえって硬化性が低下する場合がある。また長期保存の安定性に劣るおそれがある。
また、ポリエステル樹脂のカルボキシル基に対する硬化剤のβ-ヒドロキシアルキルアミド基由来の水酸基の当量比(OH基/COOH基モル比)が、0.3~3.0、好ましくは0.5~2.5、より好ましくは0.8~2.0の範囲にあることが望ましい。
【0040】
(塗料組成物)
本発明の塗装金属板において、上述した特性を有する塗膜を形成するには、ポリエステル樹脂を主剤(主成分)とし、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物を硬化剤として含有する水性塗料組成物から形成することができる。なお、本発明の水性塗料組成物においては、水性塗料組成物中の塗膜を形成する固形成分(水や溶剤などの揮発する物質を除いた不揮発成分)の中で、最も含有量(質量割合い)が多い成分を、主剤(主成分)として定義する。
【0041】
(水性媒体)
本発明に用いる水性塗料組成物は、上述したポリエステル樹脂及び硬化剤と共に、水性媒体を含有する。
水性媒体としては、公知の水性塗料組成物と同様に、水、或いは水とアルコールや多価アルコール、その誘導体等の有機溶剤を混合したものを水性媒体として用いることができる。有機溶剤を用いる場合には、水性塗料組成物中の水性媒体全体に対して、1~45質量%の量で含有することが好ましく、特に5~30質量%の量で含有することが好ましい。上記範囲で溶剤を含有することにより、製膜性能が向上する。
このような有機溶媒としては、両親媒性を有するものが好ましく、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n―ブタノール、エチレングリコール、メチルエチルケトン、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールエチレングリコールモノブルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メチル3-メトキシブタノールなどが挙げられる。
【0042】
(塩基性化合物)
本発明に用いる塗料組成物において、ポリエステル樹脂に水分散性又は水溶性を付与するために、ポリエステル樹脂のカルボキシル基を中和可能な塩基性化合物が含有されていることが好ましい。塩基性化合物としては塗膜形成時の焼付で揮散する化合物、すなわち、アンモニア及び/又は沸点が250℃以下の有機アミン化合物などが好ましい。
具体的には、トリメチルアミン、トリエチルアミン、n-ブチルアミン等のアルキルアミン類、2-ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、ジメチルアミノメチルプロパノール等アルコールアミン類等が使用される。またエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等多価アミンも使用できる。更に、分岐鎖アルキル基を有するアミンや複素環アミンも好適に使用される。分岐鎖アルキル基を有するアミンとしては、イソプロピルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、イソアミルアミン等の炭素数3~6、特に炭素数3~4の分岐鎖アルキルアミンが使用される。複素環アミンとしては、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン等の1個の窒素原子を含む飽和複素環アミンが使用される。
本発明においては、上記の中でもトリエチルアミン、又は2-ジメチルアミノエタノールを好適に使用することができ、その使用量は、カルボキシル基に対して0.5~1.5当量で用いるのがよい。
【0043】
(潤滑剤)
本発明に用いる塗料組成物には、必要に応じ潤滑剤を含有することができる。ポリエステル樹脂100質量部に対し、潤滑剤0.1質量部~10質量部を加えることが好ましい。
潤滑剤を加えることにより、成形加工時の塗膜の傷付きを抑制でき、また成形加工時の塗膜の滑り性を向上させることができる。
【0044】
塗料組成物に加えることのできる潤滑剤としては、例えば、ポリオール化合物と脂肪酸とのエステル化物である脂肪酸エステルワックス、シリコン系ワックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ワックス、ポリエチレンなどのポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、ラノリン、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、およびシリコン系化合物、ワセリンなどを挙げることができる。これらの潤滑剤は一種、または二種以上を混合し使用できる。
【0045】
(その他)
本発明に用いる塗料組成物には、上記成分の他、従来より塗料組成物に配合されている、レベリング剤、顔料、消泡剤等を従来公知の処方に従って添加することもできる。
また、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂と併せてその他の樹脂成分が含まれていても良く、例えばポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリルアミド、アクリルアミド系化合物、ポリエチレンイミン、澱粉、アラビアガム、メチルセルロース等の水分散或いは水溶性樹脂が含まれていても良い。
【0046】
本発明に用いる塗料組成物においては、ポリエステル樹脂が固形分として5~55質量%の量で含有されていることが好適である。上記範囲よりも樹脂固形分が少ない場合には、適正な塗膜量を確保することができず、被覆性が劣るようになる。一方、上記範囲よりも樹脂固形分が多い場合には、作業性及び塗工性に劣る場合がある。
【0047】
(塗装金属板の製造方法)
本発明によれば、上述の塗料組成物を、金属板の少なくとも片面に塗工した後、200℃より高く320℃以下の温度で5~60秒間加熱することにより、MEK抽出率が14%~50%の塗膜を有する塗装金属板を製造できる。
塗装方法としては、ロールコーター塗装、スプレー塗装、ディップ塗装などの公知の塗装方法によって、金属板の少なくとも缶内面側となる面に、好適には両面に塗装した後、コイルオーブン等の加熱手段によって焼き付けることにより製造することができる。
塗料組成物の焼き付け条件は、ポリエステル樹脂、硬化剤の種類や配合比、金属基材の種類、塗工量等によって適宜調節されるが、焼付け後の塗膜のMEK抽出率を前述の範囲にするため、焼付け温度が200℃より高く320℃以下、好ましくは230℃~300℃の温度で、5~60秒間、好ましくは5~45秒間の条件で加熱硬化させることが好ましい。またここで言う温度は焼き付け時の雰囲気温度(オーブンの炉内温度)を指す。
上記範囲よりも焼き付け温度が低い場合には、充分な硬化度を得られないおそれがある。一方で、上記範囲よりも焼き付け温度が高い場合には、過度な加熱によりポリエステル樹脂が熱分解するおそれがあるがあると共に、MEK抽出率が上記範囲よりも小さくなるおそれがある。上記範囲よりも焼付け時間が短い場合には、充分な硬化度を得られないおそれがあり、上記範囲よりも焼付け時間が長い場合には、MEK抽出率が上記範囲よりも小さくなるおそれがあると共に、経済性や生産性に劣る。
【0048】
塗装金属板に用いる金属板としては、これに限定されないが、例えば、熱延伸鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウム板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板、銅板、銅メッキ鋼板、ティンフリースチール、ニッケルメッキ鋼板、極薄スズメッキ鋼板、クロム処理鋼板などが挙げられ、必要に応じてこれらに各種表面処理、例えばリン酸クロメート処理やジルコニウム系の化成処理、ポリアクリル酸などの水溶性樹脂と炭酸ジルコニウムアンモン等のジルコニウム塩を組み合わせた塗布型処理等を行ったものが使用できる。
本発明においては、上記金属板の中でもアルミニウム板、具体的には「JIS H 4000」における3000番台、5000番台、6000番台のアルミニウム合金板を好適に使用することができる。金属板の厚みは、缶体強度、成形性の観点から0.1~1.00mmの範囲内にあるのが良い。
また、上記塗装金属板の塗膜上に更に、有機樹脂被覆層としてポリエステル樹脂フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムをラミネートし、有機樹脂被覆塗装金属板を形成することもできる。
【0049】
(絞りしごき缶)
本発明の絞りしごき缶は、上述した塗装金属板を用いる限り、従来公知の成形法により製造することができる。本発明の塗装金属板の塗膜が優れた加工性、及び密着性を有していることから、過酷な絞り・しごき加工の際にも、破胴や缶口端での塗膜剥離を生じることなく、絞りしごき缶を成形することができる。なお、本発明の塗装金属板は、成形性や潤滑性に優れるものであるから、液体のクーラントを用いる場合はもちろん、液体クーラントを用いず、ドライ条件下で成形を行った場合でも、絞りしごき缶を成形することができる。
【0050】
絞りしごき成形に先立って塗装金属板の表面には、ワックス系潤滑剤、例えば、パラフィン系ワックス、白色ワセリン、パーム油、各種天然ワックス、ポリエチレンワックス等を塗布することが好ましく、これによりドライ条件下で効率よく絞りしごき加工を行うことができる。ワックス系潤滑剤が塗布された塗装金属板を、カッピング・プレスで、ブランクを打抜き、絞り加工法により、絞りカップを成形する。本発明においては、下記式(3)で定義される絞り比RDが、トータル(絞りしごき缶まで)で1.1~2.6の範囲、特に1.4~2.6の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりも絞り比が大きいと、絞りしわが大きくなり、塗膜に亀裂が発生して金属露出を発生するおそれがある。
RD=D/d・・・(3)
式中、Dはブランク径、dは缶胴径を表す。
【0051】
次いで、前記絞りカップを、再絞り-一段又は数段階のしごき加工を行うが、この際本発明においては、成形パンチの温度が10~80℃となるように温度調節されていることが好ましい。
本発明においては、下記式(3)で表されるしごき率Rが、25~80%、特に40~70%の範囲にあることが望ましい。上記範囲よりもしごき率が低いと、十分に薄肉化できず、経済性の点で十分満足するものではなく、一方上記範囲よりもしごき率が高い場合には、金属露出のおそれがある。
R(%)=(tb-tw)/tb×100・・・(4)
式中、tbは元の塗装金属板の厚み、twは絞りしごき缶の缶胴側壁中央部の厚みを表す。
また本発明の絞りしごき缶においては、缶胴側壁中央部の厚みが、缶底(中央部)の厚みの20~75%、好ましくは30~60%の厚みであることが好適である。
【0052】
本発明によれば、前記塗装金属板を、絞りしごき加工した後、得られた絞りしごき缶を熱処理工程に付することにより、前記塗膜のMEK抽出率を14%未満とする絞りしごき缶の製造方法が提供される。
成形後の絞りしごき缶に、少なくとも一段の熱処理を施すことにより、未反応のまま塗膜に残存しているポリエステル樹脂及び硬化剤の官能基同士を架橋反応させ、最終的な塗膜の硬化度を上げる、すなわちMEK抽出率を下げることにより、より耐食性や耐レトルト性等が優れた塗膜とすることができる。なお、この熱処理は、当然加工により生じる塗膜の残留歪みを除去することや、表面に印刷した印刷インキを乾燥硬化させる等の別の目的を兼ねていても良い。熱処理の条件としては、150~250℃の温度範囲で20~180秒間で加熱することが好ましい。
熱処理後は急冷或いは放冷した後、所望により、一段或いは多段のネックイン加工に付し、フランジ加工を行って、巻締用の缶とする。また、絞りしごき缶を成形した後、その上部を変形させてボトル形状にすることもできるし、底部を切り取って、他の缶端を取り付けてボトル形状とすることもできる。
【0053】
本発明の塗装金属板は、優れた製缶加工性を有することから、絞りしごき缶の製造のように過酷な加工にも耐え、金属露出のない耐食性に優れた絞りしごき缶を成形することができる。したがって、本発明の塗装金属板は、絞りしごき缶以外の用途、例えば従来公知の製法による絞り缶(DR缶)、深絞り缶(DRD缶)、引っ張り絞りしごき加工缶(DTR缶)、又は缶蓋等にも好適に適用できる。缶蓋の形状は、内容物注出用開口を形成するためのスコア及び開封用のタブが設けられたイージーオープン蓋等の従来公知の形状を採用することができ、フルオープンタイプ又はパーシャルオープンタイプ(ステイ・オン・タブタイプ)の何れであってもよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。実施例において単に部とあるものは質量部を示す。
【0055】
ポリエステル樹脂A~Eの各種測定項目は以下の方法に従った。なお、ポリエステル樹脂A~Eはいずれも未アクリル変性ポリエステル樹脂である。
(数平均分子量の測定)
ポリエステル樹脂の固形物を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した。
(ガラス転移温度の測定)
ポリエステル樹脂の固形物を用いて、示差走査熱量計(DSC)によって測定した。
(酸価の測定)
ポリエステル樹脂の固形物1gを10mlのクロロホルムに溶解し、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定し、樹脂酸価(mgKOH/g)を求めた。指示薬はフェノールフタレインを用いた。ポリエステル樹脂が溶解しない場合には、溶媒にテトラヒドロフラン等の溶媒を用いた。
(モノマー組成の測定)
ポリエステル樹脂の固形物30mgを重クロロホルム0.6mlに溶解させ、1H-NMR測定し、ピーク強度からモノマー組成比を求めた。なおごく微量な成分(全モノマー成分に対して1モル%未満)は除き、組成比を決定した。
【0056】
各実施例、比較例の塗装金属板の内面塗膜の特性(MEK抽出率)、および各実施例、比較例で得られた塗装金属板において、下記の試験方法に従って試験を行った。
【0057】
(MEK抽出率)
各実施例および比較例に用いた水性塗料組成物を、表1に示す各実施例、比較例の塗装金属板の内面塗膜の膜厚、焼付け条件と同じになるようにリン酸クロメート系表面処理アルミニウム板(3104合金、板厚:0.28mm、表面処理皮膜中のクロム重量:20mg/m2)にバーコーターにて塗装し焼付けを行い、塗装金属板を作製した。塗装金属板から5cm×5cmサイズの試験片を切り出し、試験片の質量測定後(W1)、200mlのMEK(メチルエチルケトン)を用い、沸騰しているMEK(80℃還流下)に試験片を1時間浸漬させ、沸点で1時間のMEK抽出を行った。抽出後の試験片をMEKで洗浄した後、120℃で1時間の条件で乾燥し、抽出後の試験片の質量(W2)を測定した。さらに塗膜を濃硫酸による分解法で剥離・除去し、洗浄・乾燥し、試験片の質量(W3)を測定した。塗装金属板の塗膜のMEK抽出率(質量%)は下記式(5)で求められる。結果を表1に示す。
MEK抽出率%=100×(W1-W2)/(W1-W3)・・・(5)
なお、両面に塗膜を形成した塗装金属板で測定する場合は、測定しない片側の塗膜をサンドペーバーで削るなどして除去した後、上記方法により塗装金属板の塗膜のMEK抽出率を測定することができる。
【0058】
(絞りしごき缶の作成)
各実施例、比較例の塗装金属板の両面に、パラフィンワックスを塗油した後、直径142mmの円形に打ち抜き、浅絞りカップを作成した。次いで、この浅絞りカップを、油圧プレスを用いて、ドライ条件下で外径Φ66mmのパンチ(温調あり)を速度1m/sにて移動させ、まず再絞り加工を行いし、次いで三回のしごき加工を施し、トータルの絞り比2.15、しごき率64%の絞りしごき缶(缶高さ:約130mm、缶胴側壁中央部の厚みが缶底中央部の厚みの38.5%)を得た。
【0059】
(製缶加工性評価)
上記で得られた絞りしごき缶において、硫酸銅試験により成形後の内面塗膜の被覆性(金属露出度合い)を評価した。缶体のフランジより約10mmまで硫酸銅水溶液[20部の硫酸銅(II)五水和物、70部の脱イオン水、及び10部の塩酸(36%)を混合して調製]を満たし、約2分間放置後させた。次いで、缶体から硫酸銅溶液を出し、水洗して缶を切り開き、内面側の銅の析出の程度により金属露出度合いを観察し評価した。
【0060】
評価基準は以下の通りである。
○:金属露出が認められない。
×:金属露出が認められる。
【0061】
(塗膜剥離耐性評価)
上記で得られた絞りしごき缶において、熱処理を施し、熱処理後の内面塗膜の剥離度合いを評価した。オーブンを用いて、成形後の缶体に201℃で75秒間の熱処理を施した後、缶を切り開き、塗膜剥離度合いを観察し評価した。
【0062】
評価基準は以下の通りである。
◎:塗膜剥離が認められない。
○:缶胴側壁の最も加工が厳しく薄肉化されている部位の一部で塗膜剥離が認められ
る。
△:缶胴側壁の最も加工が厳しく薄肉化されている部位で塗膜剥離が認められる。
×:缶胴側壁の広範囲において塗膜剥離が認められる。
【0063】
(絞りしごき缶の熱処理後のMEK抽出率)
実施例1の塗装金属板から得られた絞りしごき缶において熱処理を施し、熱処理後の内面塗膜のMEK抽出率を評価した。オーブンを用いて、成形後の缶体に201℃で75秒間の熱処理を施した後、缶胴側壁中央部から5cm×5cmサイズの試験片を切り出し、外面側の塗膜をサンドペーバー(紙やすり)で削り、洗浄・乾燥した。得られた試験片において、上述のMEK抽出率の測定方法と同様にして内面側の塗膜のMEK抽出率を測定した。結果はMEK抽出率12%であった。
【0064】
(水性塗料組成物の調製及び塗装金属板の作成)
(実施例1)
主剤のポリエステル樹脂としてポリエステル樹脂A(酸価:23mgKOH/g、Tg:80℃、Mn=8,000、モノマー組成:テレフタル酸成分/エチレングリコール成分/プロピレングリコール成分=50/10/40mol%)とポリエステル樹脂D(Tg:8℃、Mn=19,000、酸価:8mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/セバシン酸成分/エチレングリコール成分/ネオペンチルグリコール成分=30/5/15/22/28mol%)、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物としてN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)アジポアミド[EMS-GRILTECH社製Primid QM1260;表中「β-ヒドロキシアルキルアミドA」と表記]を用いた。ポリエステル樹脂(A)の水分散液(固形分濃度:30質量%、イソプロビルアルコール濃度:18質量%)とポリエステル樹脂(B)の水分散液(固形分濃度:30質量%)を固形分質量比で70:30となるように混合した混合ポリエステル樹脂(Avmix:19mgKOH/g、Tgmix:55℃)の水分散液(固形分濃度:30質量%)を333部(固形分100部)、予めイオン交換水を用いて調整しておいたβ-ヒドロキシアルキルアミド化合物Aの水溶液(固形分濃度:30wt%)を16.7部(固形分5部)をガラス容器内に入れて10分間攪拌し、固形分濃度30質量%、固形分配合比がポリエステル樹脂/硬化剤=100/5(質量比)の水性塗料組成物を得た。
【0065】
上記で得られた水性塗料組成物を用い、塗装金属板を作成した。なお、塗装金属板の内面側、外面側の塗膜は、同一の水性塗料組成物を用いて形成した。金属板としてリン酸クロメート系表面処理アルミニウム板(3104合金、板厚:0.28mm、表面処理皮膜中のクロム重量:20mg/m2)を用い、まず、成形後に外面側となる面に、焼付け後の塗膜の膜厚が3μmになるようバーコーターにて塗装し120℃で60秒間乾燥を行った。その後、反対側の内面側となる面に、焼付け後の塗膜の膜厚が9μmとなるようにバーコーターにて塗装し、250℃(オーブンの炉内温度)で30秒間焼付けを行なうことにより、塗装金属板を作成した。
【0066】
(実施例2~15、比較例1,2)
表1に示すようにポリエステル樹脂の種類、硬化剤の種類、或いは、固形分配合比を変えた以外は実施例1と同様に水性塗料組成物を調製し、表1に示すように水性塗料組成物の組成、焼付け条件(焼付け時間)、内面塗膜の膜厚を変えた以外は実施例1と同様に塗装金属板を作成した。
なお、ポリエステル樹脂として、前述のポリエステル樹脂以外は、ポリエステル樹脂B(Tg:67℃、Mn=9,000、酸価:18mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/エチレングリコール成分/ネオペンチルグリコール成分=36/14/24/26mol%)、ポリエステル樹脂C(Tg:20℃、Mn=17,000、酸価:8mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/セバシン酸成分/エチレングリコール成分/ネオペンチルグリコール成分=31/7/12/30/20mol%)、ポリエステル樹脂E(Tg:-25℃、Mn=17,000、酸価:11mgKOH/g、モノマー組成:テレフタル酸成分/イソフタル酸成分/セバシン酸成分/1,4-ブタンジオール成分=14/17/19/50mol%)を用いて水性塗料組成物を調製した。また、実施例14,15においては、β-ヒドロキシアルキルアミド化合物として、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)アジポアミド(EMSーGRILTECH社製Primid XL-552;表中「β-ヒドロキシアルキルアミドB」と表記)を用いて水性塗料組成物を調製した。
【0067】
表1に各実施例、比較例における各水性塗料組成物の組成(ポリエステル樹脂の種類、硬化剤の種類、固形分配合比等)、塗装条件(焼付け条件、塗膜厚み)、塗膜特性(MEK抽出率)、及び塗装金属板の評価結果を示す。
【0068】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の塗装金属板は、絞り加工やしごき加工等の過酷な加工に付された場合にも、金属露出が有効に防止される優れた製缶加工性を有し、且つ得られる絞りしごき缶は、成形後の熱処理時にも塗膜剥離が生じない優れた塗膜剥離耐性を有しているため、絞りしごき缶の製造に好適に使用できる。