(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】光走査装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G02B 26/12 20060101AFI20240110BHJP
B41J 2/47 20060101ALI20240110BHJP
H04N 1/113 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G02B26/12
B41J2/47 101D
H04N1/113
(21)【出願番号】P 2019207359
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 亮
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 崇
(72)【発明者】
【氏名】谷山 彰
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-117377(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第19750829(DE,A1)
【文献】特開昭63-298315(JP,A)
【文献】特開平11-326813(JP,A)
【文献】米国特許第05083138(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0010160(KR,A)
【文献】実開平03-122416(JP,U)
【文献】特開2007-006697(JP,A)
【文献】特開2010-256382(JP,A)
【文献】特開平02-135415(JP,A)
【文献】特開平10-288747(JP,A)
【文献】特開2008-020589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/12
G02B 5/09
B41J 2/47
H04N 1/113
H02K 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反射面を有する回転多面鏡を回転させて光ビームを走査する光走査装置であって、
前記回転多面鏡は、前記回転多面鏡を厚み方向に貫通する孔を少なくとも1つ有し、
前記孔は、前記回転多面鏡の回転中心と同心の円周方向に伸びた形状を有する
と共に、前記回転多面鏡の回転中心を中心とする大小2つの円弧を有し、
前記孔の中心位置は、前記回転多面鏡の回転中心から前記反射面に垂直に下ろした線上に配置され、
前記孔は、前記反射面ごとに設けられると共に、前記回転多面鏡の回転中心に対して対称に配置され、
前記回転多面鏡の外形に内接する内接円の半径をR(mm)、前記回転多面鏡の回転中心から前記孔の中心位置までの距離をL(mm)、前記円周方向における前記孔の寸法をω(mm)、前記内接円の半径方向における前記孔の寸法をa(mm)、前記反射面の数をnとした場合に、下記(1)式、下記(2)式および下記(3)式を満たす
光走査装置。
{2.4(L/R)+3.7(ω/R)}<1 …(1)
ω<(2πL/n) …(2)
(ω/a)>1 …(3)
【請求項2】
前記回転多面鏡を回転させるモータと、
前記回転多面鏡と前記モータとを密閉空間に収納する収納容器と、
を備える
請求項
1に記載の光走査装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の光走査装置を備える
画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の光走査装置には、回転多面鏡を有する光偏光器が搭載されている。このような光走査装置を備える画像形成装置では、画像出力速度の高速化や画像解像度の高密度化の要求に応えるための手段として、回転多面鏡を回転させるモータの回転数を上げることが挙げられる。モータの回転数を上げるには、より多くの電流をモータに供給する必要があるため、モータの発熱量が増加する。また、モータの回転数を上げると、回転多面鏡の周囲に乱流が発生し、この乱流が回転多面鏡の回転抵抗として作用するため、回転多面鏡の回転に必要なモータ電流値の増大によってモータの発熱量が増加する。
【0003】
特許文献1には、高速で回転する回転多面鏡の風切り音による騒音を低減するために、回転多面鏡とモータとを容器内に密閉する構成が記載されている。この構成ではモータの発熱量の増加によって容器内の温度が著しく上昇する。容器内の温度が上昇すると、光偏光器を構成している、異なる材料の部品間の熱膨張差によって回転多面鏡の回転姿勢が変化したり、回転多面鏡の反射面が変形したり、あるいは、回転多面鏡の近傍に配置される光学レンズが変形したりする。その結果、光ビームの走査位置にズレが生じたり、光ビームのスポットサイズやスポット形状が変化するなどして、画像品質の劣化を招く恐れがある。
【0004】
特許文献2には、「固定あるいは位置決めに用いる孔以外に、少なくとも1つ以上の軸方向に貫通した空孔を有することを特徴とする回転多面鏡」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-20589号公報
【文献】特開昭63-298315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、回転多面鏡とモータとを密閉する容器の上部にフィンを設けると共に、モータが発生する熱をフィン側に移動させるために、回転多面鏡と容器側面との間に広い隙間を確保している。このため、光偏光器が大型化してしまう。
【0007】
一方、特許文献2に記載の技術では、回転多面鏡が空孔(貫通孔)を有しているため、この回転多面鏡を用いて光偏光器を構成することにより、回転多面鏡の空孔を通してモータの熱をフィン側に移動させることはできるが、回転多面鏡に空孔を設けたことで回転多面鏡の回転抵抗が増大する恐れがある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、回転多面鏡の回転抵抗の増大を抑制すると共に、光偏光器の排熱効率を向上させることができる光走査装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数の反射面を有する回転多面鏡を回転させて光ビームを走査する光走査装置であって、回転多面鏡は、回転多面鏡を厚み方向に貫通する孔を少なくとも1つ有し、その孔は、回転多面鏡の回転中心と同心の円周方向に伸びた形状を有すると共に、回転多面鏡の回転中心を中心とする大小2つの円弧を有し、孔の中心位置は、回転多面鏡の回転中心から反射面に垂直に下ろした線上に配置され、孔は、反射面ごとに設けられると共に、回転多面鏡の回転中心に対して対称に配置され、回転多面鏡の外形に内接する内接円の半径をR(mm)、回転多面鏡の回転中心から孔の中心位置までの距離をL(mm)、円周方向における孔の寸法をω(mm)、内接円の半径方向における孔の寸法をa(mm)、反射面の数をnとした場合に、下記(1)式、下記(2)式および下記(3)式を満たす
光走査装置である。
{2.4(L/R)+3.7(ω/R)}<1 …(1)
ω<(2πL/n) …(2)
(ω/a)>1 …(3)
また、本発明は、このような光走査装置を備える画像形成装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転多面鏡の回転抵抗の増大を抑制すると共に、光偏光器の排熱効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る画像形成装置の全体構成を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る光走査装置の構成を示す概略斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る光偏光器の構成を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る回転多面鏡の構成を示す平面図である。
【
図5】回転多面鏡の回転によって反射面が変形する原理を説明する平面図である。
【
図6】比較例1に係る回転多面鏡の構成を示す平面図である。
【
図7】比較例2に係る回転多面鏡の構成を示す平面図である。
【
図8】比較例1に係る回転多面鏡上の圧力分布を示す図である。
【
図9】比較例2に係る回転多面鏡上の圧力分布を示す図である。
【
図10】実施例1に係る回転多面鏡上の圧力分布を示す図である。
【
図11】比較例3に係る回転多面鏡の構成を示す平面図である。
【
図12】実施例に係る回転多面鏡と比較例に係る回転多面鏡とを対象に、反射面の変形についてシミュレーションした結果を示す図である。
【
図13】反射面の変形を抑制するのに好ましい条件を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<画像形成装置>
図1は、本発明の実施形態に係る画像形成装置の全体構成を示す概略図である。
図1に示すように、画像形成装置1は、電子写真式の画像形成装置であって、記録媒体2に対して画像の形成を行う装置である。
【0013】
画像形成装置1は、装置本体となる筐体10の上部に画像読取部11を備えている。また、画像形成装置1は、筐体10の内部に、画像形成部20と、転写部30と、定着装置40と、記録媒体供給部50とを備えている。さらに、画像形成装置1は、操作部8および表示部9を備えている。
【0014】
(画像読取部)
画像読取部11は、原稿トレイ12と、原稿台13と、自動原稿送り機構14と、撮像部15とを備えている。自動原稿送り機構14は、原稿トレイ12に置かれた原稿を原稿台13へと順に送り込むものである。画像読取部11は、原稿台13に直接置かれた原稿の画像、または、自動原稿送り機構14によって原稿台13に送られた原稿の画像を、撮像部15によって読み取って画像データを生成するものである。なお、印刷ジョブの対象となる画像データは、撮像部15によって読み取った画像データだけでなく、画像形成装置1に接続されたパーソナルコンピュータや他の画像形成装置などの外部装置から受信した画像データであってもよい。
【0015】
(画像形成部)
画像形成部20は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色のトナー像を形成するための4つの画像形成ユニット20y,20m,20c,20kを備えている。画像形成ユニット20yは、感光体21と、帯電器23と、光走査装置25と、現像器27とを備え、他の画像形成ユニット20m,20c,20kも、それぞれ、感光体21と、帯電器23と、光走査装置25と、現像器27とを備えている。
【0016】
感光体21は、トナー像が形成される像担持体であって、ドラム状に形成されている。感光体21は、図示しない感光体駆動モータの駆動にしたがって回転する。感光体21の周囲には、感光体21の回転方向の上流側から下流側に向かって帯電器23、光走査装置25および現像器27が順に配置されている。
【0017】
感光体21の外周面は像担持面となっている。感光体21の像担持面は、帯電器23によって一様に帯電され、帯電した像担持面に光走査装置25による露光走査によって静電潜像が形成される。光走査装置25による露光走査は、画像読取部11で読み取られた画像データ、または外部装置から受信した画像データに基づいて行われる。
【0018】
現像器27は、静電潜像が形成された感光体21の像担持面にトナーを供給することにより、静電潜像にトナーを付着させるものである。これにより、画像形成ユニット20yが有する感光体21の像担持面にはイエローのトナー像が形成される。また、画像形成ユニット20mが有する感光体21の表面にはマゼンタのトナー像が形成され、画像形成ユニット20cが有する感光体21にはシアンのトナー画像が形成され、画像形成ユニット20kが有する感光体21にはブラックのトナー像が形成される。
【0019】
(転写部)
転写部30は、画像形成部20と並列して配置されている。転写部30は、回転する無端ベルトとして構成された中間転写ベルト31と、中間転写ベルト31を支持する複数のベルト支持ローラ32と、一次転写部33とを備えている。また、転写部30は、二次転写ローラ33aと、除電ローラ34と、クリーニングユニット35とを備えている。
【0020】
中間転写ベルト31は、複数のベルト支持ローラ32に掛け渡されてループ状に配置されている。中間転写ベルト31の外周面は像担持面31aとなっている。中間転写ベルト31の像担持面31aは、画像形成ユニット20y,20m,20c,20kの各感光体21に接触する状態で配置されている。中間転写ベルト31は、画像形成ユニット20y,20m,20c,20kの各感光体21の回転とは逆方向に回転するようになっている。
【0021】
複数のベルト支持ローラ32は、4つの画像形成ユニット20y,20m,20c,20kに対応する4つの感光体21のすべてに中間転写ベルト31の像担持面31aが接触するように、中間転写ベルト31の内周側に配置されている。複数のベルト支持ローラ32のうちの1つは、中間転写ベルト31を回転させるためのベルト駆動ローラとして構成されている。
【0022】
一次転写部33は、各々の感光体21と対向する位置に1つずつ配置されている。各々の一次転写部33は、中間転写ベルト31の内周側に配置されるとともに、それぞれに対応する感光体21との間に中間転写ベルト31を挟持する状態で配置されている。各々の一次転写部33は、トナーと反対の極性の電荷を中間転写ベルト31に与えることにより、感光体21の像担持面上に付着したトナーを中間転写ベルト31の像担持面31aに転写させる。
【0023】
二次転写ローラ33aは、中間転写ベルト31の像担持面31aに転写されたトナー像を記録媒体2に転写するものである。二次転写ローラ33aは、上述した複数のベルト支持ローラ32のうちの1つに対向する状態で配置されている。二次転写ローラ33aは、ベルト支持ローラ32との間に中間転写ベルト31を挟持する状態で配置されている。二次転写ローラ33aとベルト支持ローラ32とが接触する位置は、中間転写ベルト31の像担持面31aに転写されたトナー像を記録媒体2へと転写するときの転写位置となる。
【0024】
除電ローラ34は、中間転写ベルト31の回転方向において、画像形成ユニット20yの感光体21に対向する一次転写部33の上流側で、かつ、二次転写ローラ33aの下流側に配置されている。除電ローラ34は、中間転写ベルト31の電荷を除電するためのもので、中間転写ベルト31を挟持する一対のローラによって構成されている。
【0025】
クリーニングユニット35は、中間転写ベルト31の回転方向において、画像形成ユニット20yの感光体21に対向する一次転写部33の上流側で、かつ、除電ローラ34の下流側に配置されている。クリーニングユニット35は、中間転写ベルト31の像担持面31aに残留するトナーを除去するためのもので、像担持面31aに対向する状態で配置されている。
【0026】
(定着装置)
定着装置40は、定着ローラ41と加圧ローラ43とを備えている。定着ローラ41には、図示しないヒータが内蔵されている。加圧ローラ43は、定着ローラ41に対して押圧されている。これにより、定着ローラ41と加圧ローラ43とは互いに圧着され、この圧着部分に定着ニップ部44が形成されている。記録媒体2は、この定着ニップ部44を通過するときに加熱および加圧され、これによって記録媒体2にトナー像が定着される。
【0027】
(記録媒体供給部)
記録媒体供給部50は、複数の供給トレイ51と、記録媒体2を搬送する搬送路53とを備えている。筐体10の下部には、サイズや種類の異なる記録媒体2を別々に収納できるように複数の供給トレイ51が設けられている。各々の供給トレイ51は、トレイ内に収容した記録媒体2を1枚ずつ搬送路53に供給する。
【0028】
搬送路53は、各々の供給トレイ51から供給される記録媒体2を、1枚ずつ二次転写ローラ33aへと搬送する個別搬送路53aを備えている。また、画像形成装置1は、筐体10の外部に手差トレイ10aを備えており、搬送路53は、この手差トレイ10aから延在する手差搬送路53bを備えている。手差トレイ10aから供給される記録媒体2は、手差搬送路53bを通して二次転写ローラ33aへと搬送される。また、搬送路53は、定着装置40を通過した記録媒体2を表裏反転させて再び二次転写ローラ33aへと供給するための反転搬送路53cと、定着装置40を通過した記録媒体2を排出するための排出搬送路53dとを備えている。
【0029】
上述した個別搬送路53a、手差搬送路53bおよび反転搬送路53cは、二次転写ローラ33aの上流側で1つの合流搬送路53gとして合流する。このため、各供給トレイ51から供給される記録媒体2、手差トレイ10aから供給される記録媒体2、および、反転搬送路53cから供給される記録媒体2は、いずれも、合流搬送路53gを通して二次転写ローラ33aに供給される。一方、排出搬送路53dは、定着装置40を通過した記録媒体2を排出ローラ55へと搬送する搬送路である。排出ローラ55は、画像形成を終えた記録媒体2を排出トレイ等に排出するローラである。
【0030】
(操作部)
操作部8は、画像形成に関する各種の設定や条件などを入力するためのものである。操作部8は、たとえば、筐体10の上面部分に設けられた操作キーや、表示部9の表示面に設けられたタッチパネルであってもよい。また、操作部8は、画像形成装置1に接続されるパーソナルコンピュータなどの外部装置に設けられていてもよい。
【0031】
(表示部)
表示部9は、画像形成に関する各種の設定や条件などを表示するためのものである。表示部9は、たとえば、筐体10の上面部分に設けられた薄型ディスプレイによって構成される。表示部9は、表示面に操作部8としてタッチパネルを備えたものであってもよい。また、表示部9は、画像形成装置1に接続されたパーソナルコンピュータなどの外部装置に設けられていてもよい。
【0032】
<光走査装置>
図2は、本発明の実施形態に係る光走査装置の構成を示す概略斜視図である。
図2に示すように、光走査装置25は、ハウジング61と、光源62と、コリメータレンズ63と、第1シリンドリカルレンズ64と、光偏光器65と、fθレンズ66と、第2シリンドリカルレンズ67と、タイミング検出用ミラー68と、同期検出器69とを備えている。光源62は、光ビームを出射するもので、たとえば、半導体レーザーによって構成される。光偏光器65は、回転多面鏡71を有している。
【0033】
上記構成からなる光走査装置25において、光源62から出射した光ビーム(レーザ光)は、コリメータレンズ63によって平行光とされ、第1シリンドリカルレンズ64を通して回転多面鏡71に入射する。回転多面鏡71に入射した光ビームは、回転多面鏡71によって反射されると共に、回転多面鏡71の回転によって偏向される。こうして偏向された光ビームは、fθレンズ66および第2シリンドリカルレンズ67を順に透過して感光体21(
図1参照)上に集光される。これにより、感光体21上においては、主走査方向であるX方向に光ビームが走査される。その際、1ラインごとの同期をとるために、光偏光器65によって偏向させた光ビームをタイミング検出用ミラー68で反射して同期検出器69により検出する。
【0034】
<光偏光器>
図3は、本発明の実施形態に係る光偏光器の構成を示す概略断面図である。
図3に示すように、光偏光器65は、上述した回転多面鏡71に加えて、モータ72と収納容器80とを備えている。回転多面鏡71の構成については後段で詳しく説明する。
【0035】
(モータ)
モータ72は、回転軸73を中心に回転多面鏡71を回転させるものである。回転軸73は、上下一対の軸受74によって回転自在に支持されている。回転多面鏡71の下面側には保持部材76が取り付けられている。保持部材76は、回転多面鏡71および回転軸73と一体に回転するものである。
【0036】
モータ72は、コイル77と磁石79とを有している。コイル77は、基板78上に配置されている。基板78は、ネジ止め等によって収納容器80の底部に固定されている。基板78と軸受74との間は、軸受支持部材75が介装されている。軸受支持部材75は、基板78と収納容器80とに固定されている。磁石79は、保持部材76によって保持されている。磁石79は、コイル77と所定のギャップを介して対向するように配置されている。
【0037】
なお、回転多面鏡71を回転させるための構成は種々の変更が可能である。たとえば、回転多面鏡71を回転自在に支持するための軸受には、空気動圧軸受を採用することが可能である。
【0038】
(収納容器)
収納容器80は、回転多面鏡71とモータ72とを収納する容器である。収納容器80は、容器本体81と蓋体82とによって構成されている。容器本体81は、たとえば、アルミニウム合金によって構成されるもので、上部を開口した箱形に形成されている。容器本体81は、底板部81aと、底板部81aの外周縁から垂直に起立する側板部81bとを有している。底板部81aと側板部81bとは一体構造になっている。容器本体81は、上述したハウジング61(
図2参照)と一体に形成することが可能である。
【0039】
収納容器80の側板部81bは、回転軸73に直交する方向において、回転多面鏡71の近傍に配置されている。このため、側板部81bの内面と回転多面鏡71の外面との隙間Gは狭くなっている。このように側板部81bと回転多面鏡71との隙間Gを狭くすると、回転多面鏡71を高速で回転させた場合に、隙間Gの部分に乱流が発生しにくくなる。このため、回転多面鏡71の回転抵抗を小さく抑えるうえで有利になる。また、隙間Gを狭くすると、収納容器80の寸法が小さくなるため、光偏光器65の小型化を図るうえで有利になる。
【0040】
収納容器80の側板部81bには、光透過部86が設けられている。光透過部86は、上述した光源62から出射される光ビームを収納容器80内に取り込むとともに、回転多面鏡71によって反射される光ビームを収納容器80外に取り出すために、光ビームを透過させる部分である。光透過部86は、収納容器80の側板部81bに形成された開口窓87と、この開口窓87を塞ぐように側板部81bに取り付けられた光学レンズ88とによって構成されている。
【0041】
蓋体82は、容器本体81の上端部に取り付けられている。蓋体82は、容器本体81の上部の開口を閉塞している。これにより、収納容器80の内部には密閉空間89が形成されており、この密閉空間89に回転多面鏡71とモータ72とが収納されている。蓋体82の下面側にはフィン83が形成され、蓋体82の上面側にもフィン84が形成されている。フィン83およびフィン84は、蓋体82の表面積を増やすことにより、熱交換の効率を高めるものである。フィン83は、回転軸73の中心軸方向において、回転多面鏡71と対向するように配置されている。フィン83は、収納容器80の密閉空間89の熱を回収(吸熱)する機能を果たし、フィン84は、フィン83によって回収した熱を収納容器80の外部に放出(放熱)する機能を果たす。
【0042】
<回転多面鏡>
図4は、本発明の実施形態に係る回転多面鏡の構成を示す平面図である。
図4に示すように、回転多面鏡71は、六角形の外形を有するもので、その外形部分に6つの反射面90を有している。回転多面鏡71は、上述した回転軸73の軸線上に存在する回転中心85を中心に回転する。反射面90は、上述した光ビームを反射する面である。回転多面鏡71の回転中心85は、回転多面鏡71を平面視した場合(正面方向から見た場合)に、回転多面鏡71の中心に位置している。
【0043】
回転多面鏡71には、複数の孔92が設けられている。孔92は、回転多面鏡71の反射面90ごとに設けられている。このため、孔92の数は、反射面90の数と同じ6つとなっている。孔92は、回転多面鏡71を厚み方向に貫通する孔である。このため、孔92は、回転多面鏡71の上面および下面の両方に開口している。
図3に示すように、容器本体81の内部では、回転多面鏡71の位置によって区分される密閉空間89の上側空間と下側空間とが、上述した隙間Gの部分だけでなく、孔92が形成された部分でも連通している。
【0044】
再び
図4に戻って説明すると、各々の孔92は、回転多面鏡71の回転中心85と同心の円周方向に伸びた形状を有している。よって、各々の孔92の長手方向は、回転多面鏡71の回転中心85と同心の円周方向に沿う方向となっている。「同心」とは、「中心が同じ」という意味である。孔92は、回転多面鏡71の回転中心85を中心とする大小2つの円弧92a,92bを稜線に持つ孔である。各々の孔92は、回転多面鏡71の回転中心85を中心とする同一円周上に形成されている。孔92の中心位置93は、回転多面鏡71の回転中心85から回転多面鏡71の反射面90に垂直に下ろした線95上に配置されている。また、各々の孔92は、回転多面鏡71の回転中心85に対して対称に配置されている。
【0045】
ここで、回転多面鏡71の外形に内接する内接円94の半径をR(mm)、回転多面鏡71の回転中心85から孔92の中心位置93までの距離をL(mm)、回転多面鏡71の回転中心85と同心の円周方向における孔92の寸法をω(mm)、内接円94の半径方向における孔92の寸法をa(mm)、回転多面鏡71における反射面90の数をnとする。
【0046】
そうした場合、回転多面鏡71の孔92は、下記(1)式、下記(2)式および下記(3)式を満たすように形成されている。
{2.4(L/R)+3.7(ω/R)}<1 …(1)
ω<(2πL/n) …(2)
(ω/a)>1 …(3)
【0047】
(1)式は、回転多面鏡71をモータ72によって回転させる場合に、反射面90の変形を抑制するのに有効な条件式である。(1)式の技術的な意義については後段で説明する。(2)式および(3)式は、回転多面鏡71の回転中心85と同心の円周方向に沿って孔92を形成する場合に、孔92の形状を保つために必要な条件式である。
【0048】
<実施形態の効果>
本発明の実施形態においては、回転多面鏡71に孔92が設けられているため、モータ72のコイル77で発生した熱が、孔92を通して蓋体82側に移動する。これにより、収納容器80の密閉空間89において、コイル77が配置される下側空間と、フィン83が配置される上側空間との間で熱交換が促進される。また、孔92は、回転多面鏡71の回転中心85と同心の円周方向に伸びた形状を有している。このため、回転多面鏡71をモータ72によって回転させたときに、密閉空間89の空気流の乱れが抑制される。これにより、回転多面鏡71の回転抵抗の増大を抑制すると共に、光偏光器65の排熱効率を向上させることができる。また、側板部81bと回転多面鏡71との隙間Gを狭くした場合でも、光偏光器65の排熱効率を良好に保つことができる。
【0049】
また、本発明の実施形態においては、孔92の中心位置93が、回転多面鏡71の回転中心85から回転多面鏡71の反射面90に垂直に下ろした線95上に配置されている。このため、回転多面鏡71の回転時における反射面90の変形を抑制することができる。その理由は次のとおりである。
【0050】
まず、回転多面鏡71に孔92が設けられていない場合は、
図5において、回転多面鏡71の回転中心85から反射面90の頂点部90aまでの積算質量が、回転多面鏡71の回転中心85から反射面90の中心部90bまでの積算質量に比べて、多くなる。このため、回転多面鏡71を回転させると、回転多面鏡71に作用する遠心力により、反射面90の頂点部90aが中心部90bよりも外側に大きく変形(変位)する。その結果、反射面90は、中心部90b付近が凹形状となるように変形する。
【0051】
これに対し、孔92の中心位置93が線95上に配置されるように、回転多面鏡71に孔92が設けられている場合は、孔92の存在によって回転多面鏡71の中心部90b付近の剛性が低くなる。このため、回転多面鏡71を回転させたときに、回転多面鏡71の中心部90b付近が外側に変形しやすくなる。したがって、反射面90の頂点部90aにおける外側への変形量と、反射面90の中心部90bにおける外側への変形量との差が小さくなる。よって、反射面90の変形を抑制することができる。反射面90の変形を抑制すると、感光体21の表面を光ビームで走査する場合に、光ビームの走査位置のズレが小さくなるため、画像品質の向上を図ることができる。
【0052】
また、本発明の実施形態においては、孔92は、回転多面鏡71の反射面90ごとに設けられると共に、回転多面鏡71の回転中心85に対して対称に配置されている。このため、回転多面鏡71が有するすべての反射面90の変形を抑制することができる。
【0053】
以下に、本発明者が実施したシミュレーションの結果を述べる。
【0054】
(収納容器の密閉空間の温度上昇について)
まず、収納容器80の密閉空間89の温度上昇についてシミュレーションした結果を述べる。
このシミュレーションでは、上記
図4に示すように回転多面鏡71に6つの孔92を設けた構成を実施例1とし、
図6に示すように回転多面鏡71に孔92を設けない構成を比較例1として、それぞれ、密閉空間89の温度を計算によって求めた。実施例1および比較例1では、いずれの構成においても、モータ72のコイル77を発熱源とし、コイル77の発熱量を12(W)とした。また、収納容器80の底板部81aおよび側板部81bをそれぞれ断熱壁とみなし、蓋体82を熱交換箇所として、そこでの熱伝達率を100(W/(m
2K))とした。また、回転多面鏡71の回転数を10000(rpm)とし、この回転数で回転多面鏡71を継続して回転させて密閉空間89の温度が平衡状態となったときの温度(以下、「平衡温度」という。)を計算によって求めた。その結果、比較例1の場合は、平衡温度が約95℃であったのに対し、実施例1の場合は、平衡温度が約75度であった。このシミュレーション結果からも、回転多面鏡71に孔92を設けることが、光偏光器65の排熱効率を高めるうえで有効であることが分かる。
【0055】
(回転多面鏡の回転抵抗について)
次に、回転多面鏡71の回転抵抗についてシミュレーションした結果を述べる。
このシミュレーションでは、上記
図4に示すように回転多面鏡71に6つの孔92を設けた構成を実施例1とし、上記
図6に示すように回転多面鏡71に孔92を設けない構成を比較例1とし、
図7に示すように回転多面鏡71に真円形の孔(以下、「丸孔」という。)96を設けた構成を比較例2として、それぞれ、回転多面鏡71の上面の圧力分布を計算によって求めた。比較例2においては、回転多面鏡71の回転中心85から反射面90に垂直に下ろした線95上に丸孔96の中心位置96aが配置されている。回転多面鏡71の上面の圧力分布は、回転多面鏡71の上面に垂直に作用する圧力の分布である。この圧力分布の計算条件として、回転多面鏡71の回転数は10000(rpm)に設定した。
【0056】
まず、比較例1の圧力分布では、
図8に示すように、回転多面鏡71の上面に、圧力の異なる複数の領域E1~E9が表れている。複数の領域E1~E9における圧力の大小関係は、「E1>E2>E3>E4>E5>E6>E7>E8>E9」である。この点は、後述する比較例2および実施例1の圧力分布でも同様である。
比較例1では、回転多面鏡71の回転中心85付近に高圧部(領域E1,E2,E3)が集中している。回転多面鏡71の上面に作用する圧力は、回転多面鏡71の回転抵抗として働く。この回転抵抗は、回転多面鏡71の回転中心85付近に高圧部が集中する方が、回転多面鏡71の外周部側に高圧部が集中する場合に比べて、大きくなる。したがって、回転多面鏡71の回転抵抗の増大を抑制するには、回転多面鏡71の回転中心85付近に高圧部を集中させることが有効である。
【0057】
比較例2の圧力分布では、
図9に示すように、高圧部(領域E1,E2,E3)が回転多面鏡71の回転中心85から径方向外側に離れたところに集中している。このため、回転多面鏡71の回転抵抗は、比較例1の場合よりも大きくなる。したがって、回転多面鏡71に丸孔96を設けた構成では、回転多面鏡71の回転抵抗の増加に伴って、より多くの電流をコイル77に供給する必要があり、モータ72の発熱量が増加してしまう。
【0058】
一方、実施例1の圧力分布では、
図10に示すように、高圧部(領域E1,E2,E3)が、比較例1の場合と同程度に回転多面鏡71の回転中心85付近に集中している。このため、回転多面鏡71の回転抵抗は、比較例1の場合と同程度に抑えられる。したがって、回転多面鏡71に孔92を設けた構成では、回転多面鏡71の回転抵抗の増大を抑制し、モータ72の発熱量を低く抑えることができる。
【0059】
(回転多面鏡の反射面の変形について)
次に、回転多面鏡71の反射面90の変形についてシミュレーションした結果を述べる。
このシミュレーションでは、上記
図4に示すように、回転多面鏡71の回転中心85から回転多面鏡71の反射面90に垂直に下ろした線95上に孔92の中心位置93を配置した構成を実施例1とし、
図11に示すように、回転多面鏡71の回転中心85と反射面90の頂点部90aとを結ぶ線97上に孔92の中心位置93を配置した構成を実施例2として、それぞれ、反射面90の変形量を計算によって求めた。その結果を
図12に示す。
【0060】
図12において、縦軸は反射面90の変形量(μm)、横軸は反射面90の主走査位置を示している。反射面90の変形量は、回転多面鏡71を回転させたときに反射面90に生じる変形量であって、回転多面鏡71の頂点部90aにおける外側への変形量と反射面90の各々の主走査位置での変形量との差によって表される。反射面90の主走査位置は、回転多面鏡71の回転によって光ビームをX方向(
図2参照)に走査するときに、光ビームを偏向させるための反射面90の位置である。反射面90の主走査位置は、回転多面鏡71の円周方向で隣り合う2つの頂点部90aの間で、反射面90の中心部90bの位置をゼロとしている。また、反射面90の主走査位置は、反射面90の中心部90bから一方の頂点部90aに向かって正の値、他方の頂点部90aに向かって負の値となっている。
【0061】
図12から分かるように、実施例2においては、反射面90の主走査位置の違いによって反射面90の変形量が大きく変化している。そして、反射面90の主走査位置がゼロ、すなわち反射面90の中心部90bにおいて、反射面90の変形量が最大になっている。これに対し、実施例1においては、反射面90の主走査位置の違いによらず、反射面90の変形量が一様に小さく抑えられている。よって、反射面90の変形を抑制するうえでは、実施例1の構成を採用した方が好ましい。
【0062】
続いて、反射面90の変形に関して、下記(1)式の技術的な意義について説明する。
{2.4(L/R)+3.7(ω/R)}<1 …(1)
本発明者は、上記
図4に示す回転多面鏡71を対象に、上記(1)式における{2.4(L/R)+3.7(ω/R)}の値と反射面90の変形比との関係を計算によって求めた。その結果を
図13に示す。
図13において、縦軸は反射面90の変形比、横軸は{2.4(L/R)+3.7(ω/R)}の値を示している。そして、横軸の値を1未満から1以上までの範囲で変えたときに、横軸の各値で得られる反射面90の変形比をプロットしている。反射面90の変形比は、回転多面鏡71の回転を停止させた状態、すなわち変形前の反射面90を基準面とし、回転多面鏡71を回転させたときに、反射面90の頂点部90aが上記基準面よりも外側に変形する変形量をA(μm)、反射面90の中心部90bが上記基準面よりも外側に変形する変形量をB(μm)とした場合に、それらの比「A/B」で表される。なお、回転多面鏡71に孔92を設けない場合の反射面90の変形比Dは、1.07であった。
【0063】
図13から分かるように、反射面90の変形比は、横軸の値が小さくなると低減し、横軸の値が大きくなると増加する傾向にある。この傾向により、横軸の値が1未満であれば、反射面90の変形比は、上述した変形比D以下に抑えられる。したがって、上記(1)式を満たすように回転多面鏡71に孔92を設けることにより、反射面90の変形を、孔92を設けない場合と同等以下に抑えることができる。また、{2.4(L/R)+3.7(ω/R)}の値を0.9以下とすれば、反射面90の変形をより小さく抑えることができる。
【0064】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0065】
たとえば、上記実施形態においては、回転多面鏡71の構成として反射面90ごとに孔92を設けた構成を採用しているが、所期の目的を達成するうえでは、回転多面鏡71に少なくとも1つの孔92を設けた構成であればよい。
【0066】
また、上記実施形態においては、回転多面鏡71の外形が六角形となっているが、本発明はこれに限らず、回転多面鏡71の外形は多角形であればよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、収納容器80を密閉容器とするための蓋体82にフィン83およびフィン84を形成した構成を採用しているが、本発明はこれに限らず、フィン83およびフィン84のうちのいずれか一方を蓋体82に形成した構成、あるいは、蓋体82にフィンが形成されていない構成であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…画像形成装置
25…光走査装置
65…光偏光器
71…回転多面鏡
72…モータ
80…収納容器
85…回転中心
89…密閉空間
90…反射面
92…孔