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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】算出方法、プログラム及びシステム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/13 20200101AFI20240110BHJP
   E04B 1/00 20060101ALI20240110BHJP
   E04G 23/00 20060101ALI20240110BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20240110BHJP
   G01N 3/00 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
G06F30/13
E04B1/00
E04G23/00 ESW
G06F30/23
G01N3/00 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019209467
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021082048
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米澤 健次
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-222281(JP,A)
【文献】特開2013-256819(JP,A)
【文献】特開2002-090230(JP,A)
【文献】特開2007-264840(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104992004(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107239640(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/13
E04B 1/00
E04G 23/00
G06F 30/23
G01N 3/00
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の有限要素モデルに対する有限要素解析を前記コンクリート構造物の物性に基づき実行し、
前記有限要素モデル上の領域における初期面積と前記領域におけるひびわれ直交方向のひびわれ相当ひずみとの積に基づいて、前記コンクリート構造物の少なくとも一部のひび割れ面積を算出する方法。
【請求項2】
前記積に、初期状態からのひび割れ長さの変化に基づくひび割れ面積増減量を加えることにより、前記ひび割れ面積を算出する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
数1に基づいて、前記コンクリート構造物の少なくとも一部のひび割れ面積を算出する、請求項2に記載の方法。
【数1】
【請求項4】
前記ひび割れ面積を用いて前記コンクリート構造物の性能評価を行う、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
コンクリート構造物の有限要素モデルに対する、前記コンクリート構造物の物性に基づく有限要素解析の出力データを取得し、
前記有限要素モデル上の領域における初期面積と前記領域におけるひび割れ直交方向のひびわれ相当ひずみとの積に基づいて、前記コンクリート構造物の少なくとも一部のひび割れ面積を算出する処理を、コンピュータに実行させるプログラム。
【請求項6】
コンクリート構造物の有限要素モデルに対する有限要素解析を前記コンクリート構造物の物性に基づき実行するためのプログラムを記憶する記憶装置と、
前記プログラムを実行可能な制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記有限要素モデル上の領域における初期面積と前記領域におけるひび割れ直交方向のひびわれ相当ひずみとの積に基づいて、前記コンクリート構造物の少なくとも一部のひび割れ面積を算出する、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は算出方法、プログラム及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、コンクリート構造物を有限要素でモデル化し、このモデルに対する有限要素解析を実行して、コンクリート構造物の性能を評価する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-171190号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】K. Naganuma, et. al.: Simulation of Nonlinear Dynamic Response of Reinforced Concrete Scaled Model Using Three-dimensional Finite Element Method, 13th World Conference on Earthquake Engineering, Vancouver, B.C., Canada, Paper No.586, 2004.8
【文献】H. Nakamura and T. Higai: Compressive Fracture Energy and Fracture Zone Length of Concrete, Seminar on Post-Peak Behavior of RC Structures Subjected to Seismic Load, JCI-C51E, Vol.2, pp.259-272, 1999.10
【文献】日本建築学会:鉄筋コンクリート造建物の靱性保証型耐震設計指針・同解説,1999
【文献】日本建築学会:原子力施設における建築物の維持管理指針・同解説, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術を用いて有限要素解析(以下、FEM解析とも記載する)を実行し、コンクリート構造物の性能評価を試みる場合、コンクリート構造物に発生したひび割れを定量的に算定することは困難であった。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、コンクリート構造物のひび割れを定量的に算定し、コンクリート構造物の性能評価に用いることのできる方法、またはこれを用いたプログラム若しくはシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は一態様として、コンクリート構造物の有限要素モデルに対する有限要素解析を実行し、前記有限要素モデル上の領域における初期面積とひびわれ直交方向のひびわれ相当ひずみとの積に基づいて、前記コンクリート構造物の少なくとも一部のひび割れ面積を算出する方法を提供する。
【0008】
本発明は一態様として、コンクリート構造物の有限要素モデルに対する有限要素解析の出力データを取得し、前記有限要素モデル上の領域における初期面積とひび割れ直交方向のひびわれ相当ひずみとの積に基づいて、前記コンクリート構造物の少なくとも一部のひび割れ面積を算出する処理を、コンピュータに実行させるプログラムを提供する。
【0009】
また、本発明は一態様として、有限要素によってモデル化したコンクリート構造物の有限要素解析を実行するためのプログラムを記憶する記憶装置と、前記プログラムを実行可能な制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記有限要素モデル上の領域における初期面積とひび割れ直交方向のひびわれ相当ひずみとの積に基づいて、前記コンクリート構造物の少なくとも一部のひび割れ面積を算出するシステムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コンクリート構造物のひび割れ量を定量的に算定し、コンクリート構造物の性能評価に用いることのできる方法、またはこれを用いたプログラム若しくはシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)微小領域におけるひび割れ面積の算定方法の概略、(b)領域全体におけるひび割れ面積の算定方法の概略、及び(c)コンクリートの機械ひずみ―応力関係グラフである。
図2】変形例に係るひび割れ面積の算定方法の概略である。
図3】実施形態に係る(a)コンクリート構造物の一例、(b)該鉄筋コンクリート構造物の有限要素解析モデルを示す図、(c)解析モデルの加力および変形の状況を示す図、(d)解析モデル要素のひび割れ面積の算出方法を示す図、(e)解析モデル要素のひび割れ面積の算定式、(f)解析モデルのひび割れ面積の算出方法、及び(g)解析モデル要素のひび割れ面積の別の算出方法を示す図である。
図4】実施形態に係る性能評価のフローを示す図である。
図5】実験に用いた試験体の図面である。
図6】試験体の諸元を示す図であり、(a)寸法及び配筋、(b)コンクリートの調合、(c)コンクリートの材料試験結果、及び(d)鉄筋の引張試験結果を示す。
図7】試験体に描いたメッシュと、鉄筋ひずみ計測位置とを示す図である。
図8】試験体における(a)変形角の算定方法、及び(b)ひび割れ面積の計測方法を示す概略図である。
図9】実験結果のうち、水平荷重-変形角を示すグラフである。
図10】試験体の解析モデルを、要素分割の状況が分かるように示した図である。
図11】実験及び解析について、耐震壁の水平荷重-変形角関係を比較したグラフである。
図12】実験及び解析について、耐震壁の変形角に対するひび割れ面積を比較したグラフである。
図13】実験により得られた壁及び柱のひび割れ状況を(a)図に示す。また、解析より得られた壁及び柱のひび割れ状況を(b)図に示す。
図14】(a)熱ひずみによって要素が変形した状態と、(b)2軸応力下で要素が変形した状態とを示す図である。
図15】本実施形態に係るコンピュータシステムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1図15を参照して、実施形態に係る、コンクリート構造物の性能評価方法について以下に説明する。なお、コンクリート構造物の具体例としては、鉄筋コンクリート、鋼板コンクリート、コンクリート充填鋼管など、各種のコンクリート構造物が想定される。
【0013】
また、性能評価には、コンクリート構造物の漏洩率(気密・水密性)評価、及び負圧維持機能評価、放射線遮蔽性能評価が含まれる。また、コンクリート構造物に発生した損傷を評価することも、本発明での性能評価に含まれる。
【0014】
<実施形態>
実施形態に係る性能評価方法は、有限要素を用いてコンクリート構造物をモデル化し、ひび割れ面積を算出することによって行われる。ひび割れ面積は、ひび割れ面積算定式を導出することにより算出される。まず以下では、ひび割れ面積算定式の導出手順を説明する。なお、ひび割れ面積とは、コンクリート構造物において設定された領域内で発生した、ひび割れの面積の総和を指す。また、解析モデルにおいては、所定の要素やモデル全体など、解析者が設定した領域内で発生したひび割れの面積総和を指す。
【0015】
また、ひび割れ面積の算定の対象は、構造物や、解析モデル要素の表面、側面に現れたひび割れに限定されず、コンクリート構造物の断面や、要素断面におけるひび割れも含む。
【0016】
ひび割れ面積算定式の導出にあたり、コンクリートまたはそのモデル上において、まず図1(a)に示すような任意の形状を持った領域Sを想定し、この領域S内のひび割れ面積を算出することを考える。また領域Sにおける、ひび割れ長さ方向(ひび割れが延びる方向)をx軸方向とし、ひび割れ直交方向をy軸方向と定義する。
【0017】
領域Sにおいて、x軸及びy軸に延びる矩形の微小領域を抽出すると、この微小領域におけるひび割れ幅wcrは、図1(a)の式(1)のように表される。また、この微小領域のx軸方向長さがひび割れの長さに等しいため、ひび割れ面積acrは、図1(a)の式(2)のように計算できる。ここでy軸方向のひび割れ相当ひずみは、図1(c)のように定義される。すなわち、コンクリートに発生した、ひび割れ直交方向における機械ひずみから、ひび割れ発生時のひずみ(ひび割れひずみ)を除いたものである。なお、式(6)における全ひずみの定義は一例である。コンクリート構造物に実際に発生する荷重、ひずみによって、熱ひずみ、クリープひずみ以外にも、収縮ひずみなどが式(6)の右辺に加わり得ることは明らかである。
【0018】
領域Sにおけるひび割れ面積は、微小領域におけるひび割れ面積を、領域S全域に亘って加算することにより求められる。すなわち、領域Sにおける微小要素の数をj個とすると、ひび割れ面積は、図1(b)の式(3)のように表される。
【0019】
式(3)は、微小領域の大きさを極限まで小さくすることによりx軸方向およびy軸方向の二重積分の式(4)に変換され、結果として式(5a)が得られる。式(5a)に示すように、領域Sにおけるひび割れ面積は、領域Sにおけるひび割れ相当ひずみの平均値と領域Sの初期面積の積として表される。初期面積とは、領域Sにひずみが発生していない状態での面積である。
【0020】
なお、ひびわれ相当ひずみが一定値である場合や領域Sが十分小さい場合、領域S内の代表点を定め、この代表点におけるひび割れ相当ひずみを用いて代表値とし、ひび割れ面積を得てもよい(式(5b))。また、複数の代表点に基づいてひび割れ相当ひずみ代表値を定めてもよい。代表点の例として、領域Sが有限要素解析の要素である場合、積分点を選択することが考えられる。代表値の設定方法としては、領域Sでの平均値を用いることに限定されず、代表点の値をそのまま使用する方法や、複数の代表点に対してシンプソンの公式やガウス積分公式を適用して求めるなど、様々な方法が考えられる。
【0021】
<変形例>
また、以下のように考えてひび割れ面積算定式を導出することも可能である。変形例として説明する。
【0022】
変形例では、図2のように、領域Sの微小要素において、ひび割れ長さをx軸方向における微小要素の実長と等しいと考える。ひび割れ面積は、ひび割れ幅×ひび割れ長さであるため、ひび割れ直交方向のひずみだけでなく、ひび割れ長さ方向のひずみにも影響を受けると考えるができる。この場合、微小要素におけるひび割れ面積は、x軸方向の全ひずみを用いて図2の式(8)のように表すことができる。式(8)は、図1の式(2)において、微小要素の幅としてΔxの代わりに(1+εtot,x)Δxを用いることによって得られる。
【0023】
その結果、領域Sにおけるひび割れ面積は、図2の式(9a)、(9b)として表される。導出の過程は、上記の実施形態で行ったもの(図1)と同様である。式(9a)、(9b)は、図1での式(5a)、(5b)に対応するものとなる。なお、式(9a)、(9b)のx軸方向の全ひずみには、特に全ひずみが領域Sで一様でない場合などにおいて、領域Sにおける平均値または代表値を用いてもよい。
【0024】
また、これらの式(9a)、(9b)の右辺を変形して式(10)を経ることにより、式(11a)、(11b)が得られる。式(11a)、(11b)に示すように、これらのひび割れ面積は、式(5a)、(5b)で得られるひび割れ面積に対して、初期状態からのひび割れ長さの変化に基づくひび割れ面積増減量をそれぞれ加えたものであることがわかる。
【0025】
<性能評価フロー>
上記で得られた式に基づき、具体的なコンクリート構造物について性能評価を行う方法について以下に述べる。ここでは、図3のように矩形の鉄筋コンクリート耐震壁100Aを解析モデル100としてモデル化し、有限要素解析の後に性能評価を行うケースを想定する。鉄筋コンクリート耐震壁100Aは、水平方向及び鉛直方向に延びる平板状の部材である。鉄筋コンクリート耐震壁100Aの下端部は、図3(a)に示すように、ローラーとピンによって単純支持される。
【0026】
解析モデル100は、図3(b)のように複数の節点1~9と、各節点によって規定される複数の矩形要素11~22によって構成される。解析モデル100の節点7には、鉄筋コンクリート耐震壁100Aと同様に、水平力が加えられる(図3(c))。解析モデル100の下端部は、鉄筋コンクリート耐震壁100Aと同様に、ローラーとピンによって支持される。解析モデルには、分散ひび割れモデル(非特許文献1。smeared crack modelともいう)が用いられるものとする。コンクリート及び鉄筋の構成則は、実際の物性を考慮して適当なものが選択される。
【0027】
性能評価は、図4に示すフローに基づいて実行される。まずステップS1において、節点11~22に対して荷重や変位など、予め設定した条件を入力し、これに対する解析モデル100の応答を求める。応答は、一般的な有限要素解析の手法に基づき、数値解として求められる。すなわち、各要素11~22の剛性行列から解析モデル100の全体剛性行列を求め、これを用いて近似解を求める手法である。
【0028】
ステップS2において、解析モデル100における各要素のひずみ、応力を出力する。なお、出力は解析ステップごとに行われても良い。以降のステップでは、ひずみを取得することによって、ひび割れ面積の算定が行われる。ひずみの算定方法は解析過程から抽出する方法や、節点変位から求める方法など様々考えられ、どのような方法を選択するかは、解析の目的などに応じて適宜決定される。
【0029】
ステップS3では、ひび割れ面積を算定する。ひび割れ面積の算定には、図1の式(5a)、(5b)に基づいて導出した、図3(e)の式(12a)、(12b)を用いる。式(12a)、(12b)は、図1の式(5a)、(5b)において、領域Sを要素mnに置換したものである。式(12a)、(12b)に示すように、ステップS3では、図3(d)のように、要素ごとのひび割れ面積をまず算定している。次に、図3(f)式(13)に示すように、各要素でのひび割れ面積の総和を取ることにより、要素解析モデル全体でのひび割れ面積を得ることができる。その後、各要素のひび割れ面積の総和(すなわち、要素解析モデル全体でのひび割れ面積)と、要素の初期面積の総和との比率により、ひび割れ率を算出する(図3(f)、式(14))。
【0030】
なお、図3(g)に示すように、要素をさらに複数の領域に分割して、各領域におけるひび割れ面積を求める方法を用いても良い。例えば、図3(g)では、要素mnを4つの領域に分割し、これらの領域ごとにひび割れ面積を算出している。この場合における要素mnのひび割れ面積は、これら4つの領域におけるひび割れ面積の総和として表すことができる。あるいは、複数の要素によって構成される領域を定め、この領域内におけるひび割れ相当ひずみの平均値を用いて、ひび割れ面積を算出しても良い。
【0031】
最後にステップS4において、鉄筋コンクリート耐震壁100Aの性能評価を行う。ステップS3において得られたひび割れ面積またはひび割れ率を用いて、例えば漏洩率評価のように、鉄筋コンクリート耐震壁100Aの性能評価が実行される。
【0032】
なお、性能評価をするにあたり、必ずしも解析モデル全体についてのひび割れ面積を求める必要はない。解析モデルの一部の領域や要素についてひび割れ面積を算出し、鉄筋コンクリート耐震壁100Aの性能評価を行っても良い。
【0033】
<実験と解析の比較>
上述の性能評価方法の妥当性について検証を試みるため、試験体を用いて実験を行い、実験結果と本発明による算定結果とを比較した。以下に詳述する。
【0034】
〔試験体〕
図5には、試験体形状を、図6には試験体諸元を示す。試験体は鉄筋コンクリート造耐震壁である。試験体は、中央部に耐震壁(以下、壁板ともいう)を有し、その左右に側柱を配置している。また耐震壁の上下には左右に延出するスタブが固定されている。ひび割れを観察しやすくするため、壁及び柱の表面は白ペンキで塗装し、100mm角のメッシュを描いた(図7)。
【0035】
試験体の壁筋比は0.5%とした(図6(a))。試験体の壁部分と両側の柱の芯は一致させ、壁横筋は柱内に直線定着(定着長さ30d)させた(図5)。壁縦筋は基礎スタブ底面において鉄板に溶接して固定し、加力スタブには直線定着(定着長さ50d)させた。
【0036】
図6(b)に示すように、セメントは普通セメントを使用し、粗骨材の最大寸法は9mmとした。図6(c)にコンクリートの材料試験結果を、図6(d)に鉄筋の引張試験結果を示す。いずれの材料試験においても供試体は3体用いられており、各図にはそれらの平均値を示している。
【0037】
〔加力方法、計測方法〕
加力方法について述べる。実験では、図5に示すように、最初に両側柱の上部にそれぞれ146kNの柱軸力を加えた。柱軸力は試験体のコンクリート圧縮強度に対して軸力比を0.1となるように算定した。
【0038】
次に、柱軸力を一定に保持した状態で、加力スタブの高さ中央位置に正負交番漸増水平方向加力を行った。加力中は壁脚部に対する水平力載荷位置の水平方向相対変位より変形角を算定し(図8(a))、0.1%、0.15%、0.2%、0.25%で正負繰返し載荷(0.2%は2回、その他は1回)を行った後、正方向に押し切った。
【0039】
〔ひび割れ幅及びひび割れ面積の計測〕
ひび割れ幅の計測は、初亀裂発生時、繰返し載荷における各変形ピーク時、各ピークからの除荷時、変形角+0.3%到達時において実施した。
【0040】
ひび割れ1本ずつに対し、ひび割れ幅とひび割れ長さを乗じることによって、ひび割れ面積を算定した。このようにして耐震壁部分におけるすべてのひび割れについてひび割れ面積を計算し、これらの総和を耐震壁におけるひび割れ面積とした。
【0041】
詳細には、ひび割れ面積(Acr)は、図8(b)に示す方法及び式により求めた。ここで,wiはi点で計測したひび割れ幅(ミリメートル、mm)である。wS,wEはそれぞれ始点、終点のひび割れ幅(mm)であり、最も近い計測点のひび割れ幅(図8(b)の例では wS = w1, wE = w4)とした。Li→i+1はi点からi+1点の間のひび割れ長さ(mm)であり、2点間の直線距離ではなく、ひび割れをトレースした多点折れ線の軌跡の長さとした。これを全ひび割れについて算定して合計したものをひび割れ面積とした。なお、計測したひび割れ幅が、本実験で使用したクラックスケールの最小目盛り0.03mmよりも小さかった場合、wi = 0mmとした。
【0042】
〔実験結果概要〕
図9に水平荷重-変形角関係を示す。初亀裂発生点は壁の斜めひび割れを最初に目視確認した点である。また、壁筋の降伏点は、耐震壁(壁板)の中央に設置した壁縦横筋に150mm間隔で貼付したひずみゲージ(図7)の値より、降伏ひずみに達した箇所が最初に現れた点である。
【0043】
初亀裂は変形角±0.02%近傍で発生した。その後、変形が大きくなるにつれ、壁のひび割れが増大し、剛性が低下した。試験体は、変形角が-0.18%に達したところで壁縦筋が降伏した。また、最終押し切り載荷において、変形角+0.5%を超えたところで壁横筋が降伏し、変形角+0.6%近傍で最大荷重に至った。
【0044】
図13(a)に、変形角+0.2%における壁と柱のひび割れ状況を示す。初亀裂は耐震壁左右端の上から3~4番目のメッシュ近傍から斜め下方向に延びるひび割れであった。また、本試験は加力スタブの左右片側からの加力を行ったため、壁の左右非加力側の上部には殆どひび割れを生じなかった。
【0045】
〔解析モデル〕
次に、試験体を有限解析モデルMによってモデル化し、解析結果を実験結果と比較した。以下に詳述する。
【0046】
図10には、解析モデルMの要素分割を示す。解析モデルMは対称条件を考慮して壁厚方向の1/2をモデル化した3次元モデルとした。コンクリートは六面体要素、柱主筋は線材要素、壁筋及び柱帯筋は埋込み鉄筋でモデル化した。コンクリートと柱主筋の間にはばね要素を挿入し、付着すべり特性を考慮した。配筋は試験体と同様にモデル化し、壁筋比0.5%とした。
【0047】
解析モデルMでは、底面の全節点において全方向の変位を拘束し、対称軸上の切断面において壁厚方向の節点変位を拘束した。実験と同様に、柱上部に軸力を載荷した後、加力スタブ中央高さにおいて、強制変位による正負交番載荷を行った。
【0048】
材料モデルの選定は非特許文献1を参考とした。コンクリートは等価一軸ひずみに基づく直交異方性体とし、非直交分散ひび割れモデルを用いて、多方向に生じるひび割れを考慮した。圧縮側応力―ひずみ関係は修正Ahmadモデルにより表し、ひび割れ後の圧縮強度低減を考慮した。コンクリートの破壊基準はOttosenの4パラメータモデルにより表し、最大圧縮強度到達後は中村らの圧縮破壊エネルギーに基づく軟化勾配(非特許文献2)を定義した。引張側応力―ひずみ関係はひび割れ強度まで線形とし、強度後の特性は長沼らのモデルにより表した(非特許文献1)。ひび割れ面におけるせん断伝達特性は長沼らのモデルにより表した(非特許文献1)。
【0049】
鉄筋の応力-ひずみ関係は完全弾塑性モデルにより表した。繰返し応力下の履歴特性にはCiampiらのモデルを適用した。柱主筋の付着強度は靱性指針(非特許文献3)に則り算定した付着信頼強度とし、強度時のすべり量は1.0mmと仮定した。
【0050】
〔実験と解析との比較:荷重-変形関係〕
図11に実験とFEM解析の荷重-変形関係を示す。解析は、負側加力において実験よりも荷重がやや高かったが、荷重-変形関係の骨格曲線、耐震壁の初亀裂発生タイミング等については、FEM解析により実験結果を精度良く再現できている。
【0051】
〔実験と解析との比較:壁のひび割れ状況〕
耐震壁の範囲全体でのひび割れ面積と、解析モデルMから算定した耐震壁の面積を比較した。図12には、耐震壁の変形角に対するひび割れ面積の実験と解析の比較を示す。解析モデルMにおけるひび割れ面積の算定では、まず図3(d)の式(10)に基づいて、各要素のひび割れ面積を求めた。その後、各要素のひび割れ面積の総和を取ることにより、解析モデルM全体のひび割れ面積を得た(図3(e)、式(11))。FEM解析から算出したひび割れ面積は、ピーク時においても、除荷時においても、実験の結果と同程度の値であった。また、壁の変形の増大に対して概ね線形に増大しており、これも実験結果におけるひび割れ面積の増大傾向と一致した。
【0052】
図13(b)には、変形角0.2%(1回目)における壁及び柱のひび割れ状況に関する、FEM解析の結果を示す。なお、図13に示すひび割れの分布は、従来技術によるFEM解析の結果であり、ひび割れ面積等の算定の結果を反映したものではないことに留意されたい。図13では、FEM解析が、ひび割れの方向など、実験結果(図13(a))を定性的に表せていることがわかる。しかし一方で、従来のFEM解析では、図12に示す結果と異なり、ひび割れ幅や間隔などの定量的な結果を正確には表せていないことが分かる。
【0053】
上記のように、本実施形態に係る方法によって算出したひび割れ面積は、実験結果とよく一致することが分かる。
【0054】
<効果>
上記の算定式では、初期面積とひび割れ相当ひずみを用いることによって、領域内のひび割れ面積を算出することができる。そのため、温度荷重、クリープなどの荷重条件やひずみが複合している場合においても、正確な値を算出することが可能である。
【0055】
例えば、図14(a)のように熱ひずみが発生している場合では、要素には、ひび割れ分の変形に加え、熱ひずみに起因する変形(図中、点線で示す)が発生する。また、図14(b)のように、2軸方向に荷重が加わっている場合などでは、要素が変形しても要素面積が変化しないケースもある。ひび割れ面積を求める方法としては、例えば要素の面積増分に基づいてコンクリート構造物のひび割れ面積を算出する方法が考えられるが、このようにコンクリート要素またはコンクリート構造物の変形量、変位、及び面積増分を計測するだけではひび割れ面積を直接得ることが困難な場合が有る。このような場合においても上記方法を用いることによって、正確に、コンクリート要素またはコンクリート構造物のひび割れ面積を算定することが可能となる。すなわち本方法は、既存の方法に比較して、適用できる条件や範囲が広い。
【0056】
なお、上記実施形態において示した算定方法は、あくまでも一例である。本発明によるひび割れ面積の算定は、必ずしも要素ごとにひび割れ面積を求める方法に限定されるものではない。また、コンクリート構造物の性能評価を行うにあたり、ひび割れ面積の算定式に任意の係数を乗じることによって、ひび割れ面積又は性能を評価してもよい。
【0057】
また、上記実施形態において有限要素として六面体一次要素を用いたが、あくまでも一例である。コンクリート構造物を三角形一次要素、三角形二次要素、四辺形一次要素、四辺形二次要素、四面体一次要素、四面体二次要素、六面体二次要素を含む任意の有限要素でモデル化し、それぞれの要素に応じた適当な方法で面積を算定してもよい。また、使用する有限要素は1種類に限定されず、複数の種類の有限要素で構成されたモデルに対して面積を算定してもよい。
【0058】
上記において要素のひび割れ面積とは、各図の通り、要素の表面または側面の面積として説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。特に立体要素を考慮する場合など、ひび割れ面に直交する断面を想定し、この断面におけるひび割れ面積を導出することができる。
【0059】
なお、本発明の性能評価方法または解析方法は、コンピュータ上で機能可能なプログラムとして構成して、該コンピュータ上で機能させれば、自動的かつ簡便・迅速に実行されることとなる。例えば、図15のブロック図に示す様に、該プログラムを記憶する記憶装置30と制御装置40とを互いに通信可能に備えたコンピュータシステムCを構成し、上記の方法を実行させることが可能である。また、ポスト処理により、例えば図13のようなフォーマットでひび割れ面積を可視化することで、性能評価がさらに容易となる。
【0060】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0061】
100、M 解析モデル
100A コンクリート構造物
図1
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