(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】張出床構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/00 20060101AFI20240110BHJP
E04B 1/348 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
E04B1/00 501A
E04B1/348 L
(21)【出願番号】P 2019209986
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】冨安 正史
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204998(JP,A)
【文献】特開平09-032102(JP,A)
【文献】特開2001-065058(JP,A)
【文献】特開2002-188211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/348
E04B 1/00
E04H 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁部の一部をそれぞれ構成し上下に対向して配置された天井梁
及び床梁
に対して固定され上下方向に
延在された間柱と、
前記間柱に固定され屋外側に張り出された床側張出梁と、
前記間柱に対して長手方向の一端部が固定され、前記床側張出梁に対して長手方向の他端部が固定され、張力の調整が可能な第1調整支持手段と
、
前記床側張出梁に対して上下方向の上側に対向して配置され、前記間柱に固定され屋外側に張り出された天井側張出梁と、
前記間柱に対して長手方向の一端部が固定され、かつ前記天井側張出梁に対して長手方向の他端部が固定され、第1調整支持手段と対向可能に配置され張力の調整が可能な第2調整支持手段と、
を備えた張出支持部が対を成して張出部が形成された張出床構造。
【請求項2】
建物が複数の建物ユニットを含んで構成され、
前記張出部を形成する一対の張出支持部のうち、一方の張出支持部は、隣り合って配置された建物ユニットのうち一方の建物ユニットに設けられ、他方の張出支持部は、隣り合って配置された建物ユニットのうち他方の建物ユニットに設けられている請求項1に記載の張出床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、張出床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建物ユニットに設けられる張出しユニットに関する技術が開示されている。この先行技術では、張出しユニットが、柱部と、柱部の上下端からそれぞれ同一方向に延びる上下の梁部と、によって構成された側面視でコ字状を成すコ字状フレームを備えており、梁部の先端に位置し張出しユニットのコーナ部を成す柱部を不要としている。これにより、先行技術では、張出しユニットによって形成される張出部において、開放感のある空間を得るというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術では、張出しユニットが、柱部の上下端からそれぞれ延びる梁部による、いわゆる片持ち梁構造となっており、張出しユニットによって形成される張出部に重量物を載荷した場合、重量物による応力が当該梁部の根元部に集中してしまう。
【0005】
このため、張出部において、張出し寸法、載荷荷重が制限され、張出し寸法、載荷荷重に応じて、コ字状フレームの柱部の部材断面や梁材の接合方法、コ字状フレームの建物ユニットへの連結箇所等を変更する必要がある。つまり、張出部の張出し寸法、載荷荷重に応じて、コ字状フレームのサイズを変える必要があり、張出部の生産性がよくない。また、施工時の張出部の先端の垂れ下がりを調整できない。
【0006】
本発明は上記事実を鑑みてなされたものであり、設計の自由度を確保しつつ、張出し寸法、載荷荷重に応じて梁部の耐力の調整が可能な張出床構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様に係る張出床構造は、建物の外壁部の一部をそれぞれ構成し上下に対向して配置された天井梁と床梁とを上下方向に架け渡す間柱と、前記間柱に固定され屋外側に張り出された床側張出梁と、前記間柱に対して長手方向の一端部が固定され、前記床側張出梁に対して長手方向の他端部が固定され、張力の調整が可能な第1調整支持手段と、を備えた張出支持部が対を成して張出部が形成されている。
【0008】
第1の態様に係る張出床構造では、間柱と床側張出梁と第1調整支持手段とを備えた張出支持部が対を成して張出部が形成されている。ここで、本態様では、間柱は、建物の外壁部の一部をそれぞれ構成し上下に対向して配置された天井梁と床梁とを上下方向に架け渡している。一方、床側張出梁は、間柱に固定されており、屋外側に張り出されている。そして、第1調整支持手段は、張力の調整が可能とされており、長手方向の一端部は間柱に固定され、長手方向の他端部は床側張出梁に固定されている。
【0009】
このように、本態様では、張出部において、上下方向に架け渡された間柱及び当該間柱から屋外側に張り出された床側張出梁に対して第1調整支持手段を固定することによって、間柱と床側張出梁と第1調整支持手段との間で三角形が形成される。つまり、当該張出部では、間柱と床側張出梁と第1調整支持手段との間でトラス構造が構成されることとなる。
【0010】
比較例として、例えば、張出部に第1調整支持手段が設けられていない場合、床側張出梁は片持ち状態となり、床側張出梁には、当該床側張出梁の根元部を中心とする曲げモーメントが作用することになる。
【0011】
これに対して、本態様では、前述のように、張出部では、間柱と床側張出梁と第1調整支持手段との間でトラス構造が構成されているため、床側張出梁に生じる曲げモーメントを、トラス構造によって間柱、床側張出梁及び第1調整支持手段に作用する軸力(引張力、圧縮力)に変換することができる。
【0012】
すなわち、本態様では、当該床側張出梁において、曲げモーメントを低減することが可能となる。そして、第1調整支持手段において、張力を調整することによって当該軸力を調整し、張出部において、張出し寸法、載荷荷重に応じて曲げ耐力の調整が可能となる。
【0013】
また、本態様では、張出部において、床側張出梁は、天井梁と床梁とを上下方向に架け渡す間柱に対して長手方向の一端部が固定されている。例えば、床梁に床側張出梁を固定する場合と比較して、本態様では、間柱の上下方向の任意の位置に床側張出梁を固定することができる。つまり、本態様では、張出部において、設計の自由度を向上させることが可能となる。
【0014】
なお、「張力の調整」について、第1調整支持手段の間柱への固定位置、床側張出梁への固定位置の変更によって張力の調整は可能であるが、これ以外にも、第1調整支持手段が伸縮可能な部材で構成され当該第1調整支持手段を伸縮させることによって張力の調整を図ることもできる。このように、第1調整支持手段を伸縮させる場合、第1調整支持手段が固定された状態で張力の微調整が可能であるため、便利である。
【0015】
第2の態様に係る張出床構造は、第1の態様に係る張出床構造において、前記張出支持部は、前記床側張出梁に対して上下方向の上側に対向して配置され、前記間柱の上部側に固定され屋外側に張り出された天井側張出梁と、前記間柱に対して長手方向の一端部が固定され、かつ前記天井側張出梁に対して長手方向の他端部が固定され、張力の調整が可能な第2調整支持手段と、をさらに備えている。
【0016】
第2の態様に係る張出床構造では、張出部において、張出支持部は、さらに、天井側張出梁と第2調整支持手段とを備えている。本態様では、天井側張出梁は、床側張出梁に対して上下方向の上側に対向して配置されており、間柱に固定され屋外側に張り出されている。そして、第2調整支持手段は、例えば、間柱への固定位置、天井側張出梁への固定位置又はその両方を変更することで張力の調整が可能とされており、長手方向の一端部が間柱に固定され、長手方向の他端部が天井側張出梁に固定されている。
【0017】
このように、本態様では、張出部において、上下方向に架け渡された間柱及び当該間柱から屋外側に張り出された天井側張出梁に対して第2調整支持手段を固定することによって、間柱と天井側張出梁と第2調整支持手段との間で三角形が形成される。つまり、当該張出部では、間柱と天井側張出梁と第2調整支持手段との間でトラス構造が構成される。
【0018】
これにより、本態様では、張出部において、天井側張出梁に生じる曲げモーメントを、トラス構造によって間柱、天井側張出梁及び第2調整支持手段に作用する軸力に変換することができ、当該天井側張出梁において、曲げモーメントを低減することが可能となる。そして、第2調整支持手段において、間柱への固定位置、天井側張出梁への固定位置又はその両方を変更することで張力を調整することによって軸力を調整し、当該張出部において、張出し寸法、載荷荷重に応じて曲げ耐力の調整が可能となる。
【0019】
特に、本態様では、張出部において、間柱と床側張出梁と第1調整支持手段との間で構成されたトラス構造に加え、間柱と天井側張出梁と第2調整支持手段との間でトラス構造が構成される。このため、当該張出部では、第1調整支持手段による張力によって間柱に作用する荷重負担のうち張出部の屋根部及び天井部の荷重を第2調整支持手段によって分散することができる。その結果、間柱に作用する曲げモーメントを低減することが可能となる。
【0020】
第3の態様に係る張出床構造は、第1の態様又は第2の態様に係る張出床構造において、建物が複数の建物ユニットを含んで構成され、前記張出部を形成する一対の張出支持部のうち、一方の張出支持部は、隣り合って配置された建物ユニットのうち一方の建物ユニットに設けられ、他方の張出支持部は、隣り合って配置された建物ユニットのうち他方の建物ユニットに設けられている。
【0021】
第3の態様に係る張出床構造では、建物が複数の建物ユニットで構成されており、張出部を形成する一対の張出支持部のうち、一方の張出支持部は、隣り合って配置された建物ユニットのうち一方の建物ユニットに設けられている。また、他方の張出支持部は、隣り合って配置された建物ユニットのうち他方の建物ユニットに設けられている。つまり、張出部は、隣り合って配置された2つの建物ユニットに亘って設けることができ、設計の自由度をさらに向上させることが可能となる。
【0022】
なお、ここでの「隣り合って配置された」は、張出部が、建物の左右に配置される場合以外に、建物の上下に配置される場合が含まれる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本態様に係る張出床構造は、張出し寸法、載荷荷重に応じて耐力を調整することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態に係る張出床構造が適用された張出部を備えた建物の斜視図である。
【
図2】本実施の形態に係る張出床構造が適用された張出部の骨格を示す側面図である。
【
図3】比較例としての
図2に対応する側面図である。
【
図4】リフォーム前の状態を示す
図5に対応する断面図である。
【
図5】本実施の形態に係る張出床構造が適用された張出部の実施例を示すリフォーム後の状態を示す断面図である。
【
図6】(A)は、
図1に対応する平面図であり、(B)は本実施の形態に係る張出床構造が適用された張出部の変形例1を示す平面図である。
【
図7】(A)は、本実施の形態に係る張出床構造が適用された張出部の変形例2を示す平面図であり、(B)は本実施の形態に係る張出床構造が適用された張出部の変形例3を示す建物の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(張出床構造の構成)
【0026】
まず、本実施の形態に係る張出床構造が適用された張出部の構成について説明する。
図1には、本実施の形態に係る張出床構造10が適用された張出部12を備えたユニット式の建物14の斜視図が示されている。
【0027】
図1に示されるように、この建物14は、鉄骨によって枠組みされた鉄骨ラーメン構造の躯体で構成された複数の建物ユニット16が縦横に配列して形成された2階建てとされており、下階(1階部分)18と、上階(2階部分)20と、を含んで構成されている。 また、建物14は、建物本体22の周囲が外壁部24によって囲われており、屋根部26は、陸屋根とされている。なお、建物14は、鉄骨ラーメン構造の躯体に限らず、例えば、鉄骨軸組構造の躯体で構成されてもよい。また、屋根部26は、陸屋根に限らず、勾配屋根等であってもよい。
【0028】
当該建物ユニット16は、図示はしないが、四隅に立設された4本の柱と、当該柱の上端部に結合された矩形枠状の天井フレームと、当該柱の下端部に結合された矩形枠状の床フレームと、によって構成されている。
【0029】
当該天井フレームは、互いに対向して配置された長辺側の天井大梁及び短辺側の天井大梁を含んで構成されており、長辺側の天井大梁間には、所定間隔で架け渡された複数の天井小梁が設けられている。
【0030】
また、床フレームは、天井フレームと同様に、互いに対向して配置された長辺側の床大梁及び短辺側の床大梁を含んで構成されており、長辺側の床大梁間には、所定間隔で架け渡された複数の床小梁が設けられている。
【0031】
ここで、本実施形態では、建物14の上階20に張出部12が設けられている。張出部12は、建物本体22の外壁部24の外壁面24Aから屋外30側に張り出しており、片持ち状とされている。
【0032】
図2には、張出部12の骨格を示す側面図が示されている。
図1、
図2に示されるように、本実施形態では、当該張出部12は、一対の張出支持部32を含んで構成されており、張出支持部32は、間柱34と、床側張出梁36と、両側羽子板付ターンバックル(第1調整支持手段)38と、天井側張出梁60と、溝形鋼(第2調整支持手段)62と、を備えている。なお、第2調整支持手段として、ここでは溝形鋼を用いているが、圧縮力に耐えられる部材であればよいため、必ずしも溝形鋼に限るものではない。
【0033】
当該間柱34は、建物ユニット16の天井フレーム40の一部を構成する天井大梁(天井梁)42と、床フレーム44の一部を構成する床大梁(床梁)46と、を上下方向に架け渡している。
【0034】
具体的に説明すると、本実施形態では、天井大梁42のウェブ面42Aに間柱34の上端部34Aがボルト45及びナット47を含んで固定され、床大梁(床梁)46のウェブ面46Aに間柱34の下端部34Bがボルト45及びナット47を含んで固定されている(それぞれ結合部49)。
【0035】
また、間柱34の下端部34Bには、床側張出梁36の長手方向の一端部(以下、「床側張出梁36の端部」という)36Aが、ボルト48及びナット50を介して間柱34に固定されている(ボルト結合部52)。なお、以下の説明では、ボルト及びナットを介して固定(いわゆるピン結合)される固定部を「ボルト結合部」と称し、ボルト及びナットについての説明を省略する。
【0036】
そして、間柱34と床側張出梁36との間で三角形が形成されるようにして両側羽子板付ターンバックル38が固定されている。当該両側羽子板付ターンバックル38は、伸縮して張力の調整が可能とされており、両側羽子板付ターンバックル38の長手方向の一端部(以下、「両側羽子板付ターンバックル38の端部」という)38Aは、間柱34の下部34C側に固定(ボルト結合部54)されている。また、両側羽子板付ターンバックル38の長手方向の他端部(以下、「両側羽子板付ターンバックル38の端部」という)38Bは、床側張出梁36の長手方向の他端部(以下、「床側張出梁36の自由端部」という)36B側に固定(ボルト結合部56)されている。
【0037】
このように、間柱34及び床側張出梁36に対して、両側羽子板付ターンバックル38を固定(ボルト結合部54、56)することによって、間柱34と床側張出梁36と両側羽子板付ターンバックル38との間で三角形が形成され、間柱34と床側張出梁36と両側羽子板付ターンバックル38とでトラス構造58が構成されることとなる。
【0038】
一方、間柱34の上部34D側には、天井側張出梁60の長手方向の一端部(以下、「天井側張出梁60の端部」60Aが固定されている(ボルト結合部64)。天井側張出梁60は、床側張出梁36に対して上下方向の上側に対向して配置されており、床側張出梁36が略水平方向に沿って配置されているのに対して、天井側張出梁60は外壁部24から屋外30側へ向かうにつれて下方側へ向かって傾斜している。
【0039】
そして、間柱34と天井側張出梁60との間で三角形が形成されるようにして溝形鋼62が固定されている。前述のように、本実施形態では、天井側張出梁60は傾斜して配置されている。したがって、ここでは、当該溝形鋼62は、略水平方向に沿って配置されている。
【0040】
このため、例えば、天井側張出梁60が略水平方向に沿って配置された場合、溝形鋼62は傾斜して配置されることとなる。ここで、本実施形態では、間柱34と床側張出梁36、天井側張出梁60をそれぞれ固定する部材として、両側羽子板付ターンバックル38、溝形鋼62を用いたが、張力の調整が可能であればよいため、両側羽子板付ターンバックル38、溝形鋼62に限るものではない。なお、両側羽子板付ターンバックル38は、当該両側羽子板付ターンバックル38が固定された状態で張力の微調整が可能である、便利である。
【0041】
ところで、当該溝形鋼62は、固定位置を変更することで張力の調整が可能とされており、溝形鋼62の長手方向の一端部(以下、「溝形鋼62の端部」という)62Aは、間柱34に固定(ボルト結合部66)されている。また、溝形鋼62の長手方向の他端部(以下、「溝形鋼62の端部」という)62Bは、天井側張出梁60の長手方向の他端部(以下、「天井側張出梁60の自由端部」という)60B側に固定(ボルト結合部68)されている。間柱34には長手方向(上下方向)に複数の固定孔が設けられており、固定位置を変更することで張力の調整を行うことができる。
【0042】
このように、間柱34及び天井側張出梁60に対して、溝形鋼62を固定(ボルト結合部66、68)することによって、間柱34と天井側張出梁60と溝形鋼62との間で三角形が形成され、間柱34と天井側張出梁60と溝形鋼62とでトラス構造70が構成される。
【0043】
以上のように、本実施形態では、
図1に示されるように、張出部12を構成する張出支持部32では、張出部12の下部側にトラス構造58が構成され、張出部12の上部側にトラス構造70が構成されている。当該張出支持部32では、このトラス構造58とトラス構造70を繋ぐようにしてつなぎ柱72が設けられてもよい。なお、このつなぎ柱72は床側張出梁36と天井側張出梁60の間に架け渡される。
【0044】
また、互いに対向する一対の張出支持部32間を繋ぐつなぎ梁74、75が設けられてもよい。なお、つなぎ梁74は一対の床側張出梁36間に架け渡され、つなぎ梁75は一対の天井側張出梁60間に架け渡される。さらに、隣り合う間柱34間をつなぎ梁76によって架け渡してもよい。
【0045】
(張出床構造の作用及び効果)
次に、本実施の形態に係る張出床構造10が適用された張出部12の作用及び効果について説明する。
【0046】
図2に示されるように、本実施形態では、張出部12は、一対の張出支持部32を含んで構成されており、張出支持部32は、間柱34と、床側張出梁36と、両側羽子板付ターンバックル38と、天井側張出梁60と、溝形鋼62と、を備えている。
【0047】
具体的に説明すると、本実施形態では、建物14の外壁部24(
図1参照)の一部をそれぞれ構成し建物ユニット16の上下に対向して配置された天井大梁42と床大梁46の間を間柱34が上下方向に架け渡されている。そして、当該間柱34の下端部34Bに床側張出梁36が固定され、床側張出梁36は屋外30側に張り出されている。また、間柱34及び床側張出梁36に両側羽子板付ターンバックル38が固定され、両側羽子板付ターンバックル38の端部38Aが間柱34に固定され、両側羽子板付ターンバックル38の端部38Bが床側張出梁36に固定されている。
【0048】
このように、本実施形態では、張出部12において、上下方向に架け渡された間柱34及び当該間柱34から屋外30側に張り出された床側張出梁36に対して、両側羽子板付ターンバックル38を固定することによって、間柱34と床側張出梁36と両側羽子板付ターンバックル38との間でトラス構造58が構成される。
【0049】
例えば、比較例として、
図3に示されるように、張出部100において、両側羽子板付ターンバックル38(
図2参照)が設けられていない場合、床側張出梁102は片持ち状態となり、床側張出梁102には、当該床側張出梁102と柱部104との結合部106において、当該結合部106を中心とする曲げモーメントMが作用することになる。これにより、当該床側張出梁102は曲げ変形により撓み、床側張出梁102の自由端部側が垂れ下がる可能性がある。また、結合部106では局部変形が生じる可能性がある。
【0050】
したがって、張出部100では、床側張出梁102の曲げ変形を抑制するため、図示はしないが、控え梁を用いたり、床側張出梁102、結合部106自体の剛性を上げるため、例えば、床側張出梁102の梁成を大きくしたり、結合部106を剛結合にしたりする必要が生じる。さらには、床側張出梁102の長手方向の寸法を短く設定する場合もある。
【0051】
このように、床側張出梁102の梁成を大きくした場合、張出部100自体が大きくなってしまい、コストアップに繋がってしまう。また、張出部100自体が大きくなってしまうと、当該張出部100と隣接する部材と干渉してしまう可能性もあり、張出部100の位置やサイズが制限されてしまう。
【0052】
これに対して、本実施形態では、
図2に示されるように、張出部12において、間柱34と床側張出梁36と両側羽子板付ターンバックル38との間でトラス構造58が構成されている。これにより、床側張出梁36に生じる曲げモーメントM(
図3参照)を、間柱34、床側張出梁36及び両側羽子板付ターンバックル38に作用する軸力に変換することができる。
【0053】
すなわち、本実施形態では、当該床側張出梁36において、曲げモーメントを低減することが可能となる。そして、両側羽子板付ターンバックル38において、伸縮して張力を調整することによって当該軸力を調整し、張出部12において、床側張出梁36の曲げ変形を抑制することが可能となる。裏を返せば、張出部12において、張出し寸法、載荷荷重に応じて曲げ耐力の調整が可能となる。
【0054】
以上のように、本実施形態では、張出部12において、床側張出梁36と間柱34とのボルト結合部52に作用する外力を低減することができると共に、ボルト結合部52によるトラス構造58を採用することによって、張出床構造10を単純化することができる。
【0055】
また、本実施形態では、張出部12において、床側張出梁36は、天井大梁42と床大梁46とを上下方向に架け渡す間柱34に対してその端部36Aが固定されている。例えば、図示はしないが、建物ユニット16の床大梁46に床側張出梁36を固定する場合と比較して、本実施形態では、間柱34の上下方向の任意の位置に床側張出梁36を固定することができるため、張出部12において、設計の自由度を向上させることが可能となる。
【0056】
さらに、本実施形態では、張出部12において、トラス構造58の一部を成す部材として、張力の調整が可能な両側羽子板付ターンバックル38を用いている。これにより、本実施形態では、床側張出梁36の曲げ変形の状況(撓み量)に応じて、張力の調整を行うことで床側張出梁36の自由端部36Bの垂れ下がりを調整することができる。
【0057】
すなわち、本実施形態では、張出部12の位置と張出部12の張出量、張出部12の幅寸法等、張出部12のサイズに合わせて両側羽子板付ターンバックル38の張力を変える等して、対応することが可能となる。その結果、本実施形態では、張出部12のサイズを任意に決めることができ、設計の自由度が広がることとなる。
【0058】
また、本実施形態では、張出部12において、載荷荷重に応じて両側羽子板付ターンバックル38の張力を変えるため、張出部12自体の部材断面の大きさは変わらない。したがって、張出部12自体が大きくなることによって生じる、当該張出部12と隣接する部材との干渉の問題を回避することが可能となる。
【0059】
さらに、本実施形態では、張出部12において、張出支持部32は、天井側張出梁60と溝形鋼62とを備えている。天井側張出梁60は、床側張出梁36に対して上下方向の上側に対向して配置されており、間柱34に固定され屋外30側に張り出されている。そして、間柱34及び天井側張出梁60に溝形鋼62が固定され、溝形鋼62の端部62Aが間柱34に固定され、溝形鋼62の端部62Bが天井側張出梁60に固定されている。
【0060】
このように、本実施形態では、張出部12において、上下方向に架け渡された間柱34及び当該間柱34から屋外30側に張り出された天井側張出梁60に対して、溝形鋼62を固定することによって、間柱34と天井側張出梁60と溝形鋼62との間でトラス構造70が構成される。
【0061】
これにより、本実施形態では、張出部12において、天井側張出梁60に生じる曲げモーメントを、トラス構造70によって間柱34、天井側張出梁60及び溝形鋼62に作用する軸力に変換することができ、当該天井側張出梁60において、曲げモーメントを低減することが可能となる。そして、溝形鋼62において、固定位置を変更することで張力を調整することによって軸力を調整し、張出部12において、張出し寸法、載荷荷重に応じて曲げ耐力の調整が可能となる。
【0062】
特に、本実施形態では、張出部12の張出支持部32において、間柱34と床側張出梁36と両側羽子板付ターンバックル38との間で構成されたトラス構造58に加え、間柱34と天井側張出梁60と溝形鋼62との間でトラス構造70が構成される。
【0063】
このため、当該張出部12では、両側羽子板付ターンバックル38を介して間柱34に作用する荷重負担のうち張出部12の屋根部及び天井部(図示省略)の荷重を溝形鋼62によって分散することができる。その結果、間柱34に作用する曲げモーメントを低減することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態では、張出部12において、床側張出梁36及び天井側張出梁60は、それぞれ間柱34に固定されるため、前述のように、床側張出梁36、天井側張出梁60は、間柱34の上下方向の任意の位置に固定することができる。
【0065】
このため、図示はしないが、例えば、張出部12の張出方向や張出部12の上下左右側に設けられた既存の屋根の軒先や軒天井と張出部12との干渉を回避することができ、張出部12の配置において制約を受けにくい。また、間柱34の大きさを変えることによって、張出部12の下方側に位置する外壁部24(
図1参照)との干渉を回避することもできる。
【0066】
さらに、本実施形態では、張出部12において、トラス構造58、70を採用することによって、各部材間の結合はボルト結合(ピン結合)とされている。これにより、溶接を含む剛結合と比較して、各部材間の結合をより簡易的にすることができる。
【0067】
例えば、図示はしないが、床側張出梁36が床大梁46に対して溶接による結合とされた場合、現地の状況に合わせて床側張出梁36の自由端部36Bの撓み量を調整することはできない。
【0068】
これに対して、本実施形態では、ボルト結合により、床側張出梁36が間柱34に固定されると共に床側張出梁36及び間柱34に両側羽子板付ターンバックル38が固定されている。この場合、現地の状況に合わせて、当該両側羽子板付ターンバックル38の張力を調整して床側張出梁36の自由端部36Bの撓み量を調整することができる。
【0069】
また、本実施形態では、床側張出梁36及び間柱34に両側羽子板付ターンバックル38等がボルトによって結合される。このため、張出部12において、各部品単位で現場に納品し現場で組み立てることができるので、現場での取り回しがし易い。
【0070】
ところで、本実施形態では、張出部12において、トラス構造58、70を採用することで、床側張出梁36と両側羽子板付ターンバックル38、天井側張出梁60と溝形鋼62との間でそれぞれ所定の角度θ1、θ2が形成される。このトラス構造58、70における角度θは、45°が好ましいが、これに限るものではない。例えば、本実施形態では、θ1は約30°、θ2は約15°となっている。
【0071】
また、床側張出梁36の撓み量を考慮すると、両側羽子板付ターンバックル38の端部38Bと床側張出梁36とのボルト結合部56は、床側張出梁36の自由端部36Bが好ましいが、これに限るものではない。
【0072】
例えば、床側張出梁36の自由端部36Bにつなぎ柱72(
図1参照)が設けられる場合、当該つなぎ柱72との干渉を回避するため、両側羽子板付ターンバックル38の端部38Bは、床側張出梁36の長手方向の中央側に結合される。この場合、両側羽子板付ターンバックル38では、両側羽子板付ターンバックル38の端部38Bが床側張出梁36の自由端部36Bに結合された場合と比較して、角度θ1を45°に近づけたり、張力を大きくしたりする。
【0073】
つまり、本実施形態では、張出部12の構成(つなぎ柱72、つなぎ梁74、控え梁76の有無)に対応して、間柱34、床側張出梁36、天井側張出梁60に対して、両側羽子板付ターンバックル38、溝形鋼62が固定される結合部(ボルト結合部52、56、66、68)の位置及び張力を変えることができる。加えて、つなぎ柱72により床側張出梁36と天井側張出梁60との間で荷重伝達が可能となり、床側トラス構造58と天井側トラス構造70との荷重負担率を調整することができ、さらに設計上の自由度が向上する。
【0074】
(実施例)
ここで、具体的な実施例として、当該張出部12が適用された浴室80について説明する。
【0075】
例えば、
図4には リフォーム前の建物110の下階112及び上階114を示す断面図が示されている。この建物110の上階114の建物ユニット116には、外壁部118に沿って浴室120が設けられており、浴室120に隣接して洗面室122が設けられている。
【0076】
一方、
図5には、リフォーム後の建物14の下階18及び上階20を示す断面図が示されている。本実施形態では、
図5に示されるように、建物14の上階20に張出部12を設け、いわゆる増し床拡張を行い、
図4に示すリフォーム前と比較して、洗面室82の面積を広くすると共に浴室80のスペースを広くしている。
【0077】
図2に示されるように、本実施形態における張出部12は、張出支持部32が、間柱34と床側張出梁36と両側羽子板付ターンバックル38と天井側張出梁60と溝形鋼62とを含んで構成され、間柱34と床側張出梁36と両側羽子板付ターンバックル38との間でトラス構造58を構成すると共に、間柱34と天井側張出梁60と溝形鋼62との間でトラス構造70を構成している。
【0078】
これにより、本実施形態における張出部12では、床側張出梁36、天井側張出梁60に生じる曲げモーメントをトラス構造58、70によってそれぞれ軸力に変換して、当該曲げモーメントを低減させるようにしている。そして、両側羽子板付ターンバックル38、溝形鋼62において、張力を調整することによって、当該張出部12において、張出し寸法、載荷荷重に応じて曲げ耐力の調整が可能となると共に張出部12の先端の垂れ下がり調整も可能となる。
【0079】
したがって、本実施形態では、
図5に示されるように、張出部12において、重量物の載置を可能とし、張出部12に浴槽81を設けている。これにより、浴室80として充分な広さを確保することができる。また、これに伴って、洗面室82のスペースも広くすることも可能となる。
【0080】
ところで、一般に、浴室80の洗い場83の床面83Aと浴槽81の上端81Aとの高低差(以下、「またぎ寸法」という)Hは、子供、高齢者等に対する配慮から、できるだけ高く(例えば、約500mm)ならないように設定した方がよく、400mm程度が適切とされている。
【0081】
例えば、浴室80の洗い場83の床面83Aと浴槽81の上端81Aとの高低差Hを低くする方法として、浴槽81の上端81Aの高さを下げる方法が挙げられる。本実施形態では、
図2に示されるように、間柱34の上下方向の任意の位置に床側張出梁36を固定することができるため、間柱34に対して床側張出梁36が固定される位置を下方側にずらすことができる。これにより、
図5に示す浴槽81の高さ位置を下げることが可能となり、またぎ寸法Hができるだけ高くならないようにする設定することができる。
【0082】
一方、本実施形態では、
図2に示されるように、間柱34は、建物ユニット16の天井大梁42及び床大梁46のウェブ面42A、46Aにそれぞれボルト結合されている(結合部49)。
図4に示されるリフォーム前の建物110の天井大梁及び床大梁(それぞれ図示省略)には、外壁部118を取り付けていたボルト孔があるため、増し床拡張を行う際、増し床する建物ユニット116の外壁部118を撤去後、このボルト孔を利用して間柱34を取り付けることができる。
【0083】
つまり、既に形成されているボルト孔を利用して、
図2に示す天井大梁42及び床大梁46に間柱34を固定することができるため、天井大梁42及び床大梁46に間柱34を固定するために、天井大梁42及び床大梁46に対して、別途ボルト孔を形成する場合と比較して作業性がよい。なお、孔径や孔位置が合わない場合は、新規に間柱接続用のボルト孔を設けてもよいのは勿論のことである。
【0084】
(本実施形態の変形例)
以上の実施形態では、
図1、
図6(A)に示されるように、1つの建物ユニット16に張出部12が設けられた例について説明したが、本態様の適用は、これに限るものではない。
【0085】
例えば、変形例1として、
図6(B)に示されるように、隣り合って配置された2つの建物ユニット124、126間に架け渡されるようにして張出部128が設けられてもよい。この場合、一方の間柱34は建物ユニット124側に設けられ、他方の間柱34は建物ユニット126側に設けられる。
【0086】
また、これ以外にも、変形例2として、
図7(A)に示されるように、入隅部130が設けられたユニット建物132において、当該入隅部130を構成する2つの建物ユニット134、136に亘って張出部138が設けられてもよい。この場合、一方の間柱34は建物ユニット134側に設けられ、他方の間柱34は建物ユニット136側に設けられる。
【0087】
なお、本実施形態では、一方の間柱34は、建物ユニット134の長辺側の天井大梁(図示省略)と床大梁140の間に架け渡され、他方の間柱34は、建物ユニット136の短辺側の天井大梁(図示省略)と床大梁142の間に架け渡される。また、本実施形態では、建物ユニット134側の間柱34に固定された床側張出梁36の自由端と建物ユニット136側の間柱34に固定された床側張出梁36の自由端が互いに結合されてもよい。
【0088】
さらに、以上の実施形態では、水平方向に沿って隣り合う建物ユニットに張出部が設けられる場合について説明したが、変形例3として、
図7(B)に示されるように、上下に配置された建物ユニット144、146間に架け渡されるようにして張出部148が設けられてもよい。この場合、間柱34は、建物ユニット144、146に設けられることとなり、床側張出梁36は建物ユニット146側の間柱34に固定され、天井側張出梁60は建物ユニット144側の間柱34に固定される。
【0089】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明の実施形態は、上記に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0090】
10 張出床構造
12 張出部
14 建物
16 建物ユニット
24 外壁部
30 屋外
32 張出支持部
34 間柱
36 床側張出梁
38 両側羽子板付ターンバックル(第1調整支持手段)
38A 端部(第1調整支持手段の長手方向の一端部)
38B 端部(第1調整支持手段の長手方向の他端部)
42 天井大梁(天井梁)
46 床大梁(床梁)
60 天井側張出梁
62 溝形鋼(第2調整支持手段)
62A 端部(第2調整支持手段の長手方向の一端部)
62B 端部(第2調整支持手段の長手方向の他端部)
80 浴室(張出部)
81 浴槽(張出部)
124 建物ユニット
126 建物ユニット
128 張出部
132 ユニット建物(建物)
134 建物ユニット
136 建物ユニット
138 張出部
140 床大梁(床梁)
142 床大梁(床梁)
144 建物ユニット
146 建物ユニット
148 張出部