(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ブロック共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 293/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C08F293/00
(21)【出願番号】P 2019214684
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智文
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】河合 道弘
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087316(JP,A)
【文献】特表2007-537323(JP,A)
【文献】Synthesis of Poly(2-hydroxyethyl methacrylate) in Protic Media through Atom Transfer Radical Polymerization Using Activators Generated by Electron Transfer,Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry,2006年,Vol.44,p.3787-3796
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 293/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック共重合体をリビングラジカル重合法により製造する方法であって、
前記リビングラジカル重合法は、可逆的付加-開裂連鎖移動重合法であり、
前記ブロック共重合体は、単量体(X)に由来する構造単位を有する重合体ブロック(A)と、単量体(Y)に由来する構造単位を有する重合体ブロック(B)とを有し、
前記重合体ブロック(A)及び前記重合体ブロック(B)のうち一方の重合体ブロックは、SP値が11.5超であり、他方の重合体ブロックは、SP値が11.5以下であり、
前記重合体ブロック(A)を有する重合体の存在下で前記単量体(Y)を重合して、前記重合体ブロック(A)と前記重合体ブロック(B)とが連結した構造を有する共重合体を得る重合工程を含み、
前記重合工程は、第1級アルコール及び第3級アルコールよりなる群から選択される少なくとも一種である特定溶媒と、前記特定溶
媒とは異なる有機溶媒であるその他の溶媒との混合溶媒であって、かつ前記混合溶媒のSP値が10.0以上12.5以下である溶媒中で前記単量体(Y)を重合する工程であ
り、
前記その他の溶媒は、ケトン系溶媒及びエステル系溶媒よりなる群から選択される少なくとも一種である、ブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記その他の溶媒は、SP値が8.0以上11.5未満の有機溶媒である、請求項1に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記一方の重合体ブロックは、カルボキシル基、水酸基及びアミド基よりなる群から選択される少なくとも一種の官能基を有する、請求項1
又は2に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記単量体(X)及び前記単量体(Y)は、(メタ)アクリル系化合物である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記他方の重合体ブロックは、下記式(1)で表される単量体に由来する構造単位を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載のブロック共重合体の製造方法。
CH
2=CR
1-C(=O)-O-(R
2O)n-R
3 (1)
(式(1)中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、R
2は炭素数2~6の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し、R
3は炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を表す。nは0又は1を表す。ただし、R
3が炭素数1~20のアルキル基である場合、nは0である。)
【請求項6】
前記ブロック共重合体は、ブロック数が3個以上のマルチブロック共重合体である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のブロック共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の重合技術の進歩により、従来の重合法では製造できなかった新規なポリマー構造の設計及び製造が可能となっている。代表的な重合法にリビング重合法があり、リビング重合法を利用することでビニルモノマーの精密重合が可能となっている。リビング重合法は、中でもブロック共重合体の製造に有用である。
【0003】
ブロック共重合体の一つとして、親水性モノマーからなるセグメントと、疎水性モノマーからなるセグメントとの両方を有する両親媒性ブロック共重合体が報告されている。例えば、代表的な親水性モノマーとして、カルボキシル基を有するモノマーである(メタ)アクリル酸からなるセグメントを有する両親媒性ブロック共重合体が報告されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、重合活性種がラジカル種であるリビングラジカル重合法の一つであるRAFT重合法を利用して、エタノール溶媒中で、数平均分子量15,000の(ポリアクリル酸n-ブチル)-b-(ポリアクリル酸)ジブロック共重合体を製造することが開示されている。
【0005】
非特許文献1には、重合活性種がアニオンであるリビングアニオン重合を利用して、数平均分子量が8万程度の(ポリアクリル酸t-ブチル)―b-(ポリスチレン)-b-(ポリアクリル酸t-ブチル)トリブロック共重合体を製造した後、アクリル酸t-ブチルユニットのt-ブチル基を脱保護することで、数平均分子量が6万程度の(ポリアクリル酸)―b-(ポリスチレン)-b-(ポリアクリル酸)トリブロック共重合体を製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】「Macromolecules」、1990年、23巻、p.3893
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の重合法では、より高分子量の両親媒性ブロック共重合体を製造しようとしても、重合反応の途中において、ポリマーが重合溶媒に不溶となって析出してしまい、目的のポリマーを製造できないことがある。非特許文献1に記載の製造方法では、直接親水性モノマーを重合するのではなく、疎水性モノマーを重合した後、脱保護基反応を行う工程が必要である。そのため、生産性に劣ることが懸念される。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、脱保護等の後処理を必要とせずに、重合反応の途中でポリマーが析出することを抑制でき、かつ重合制御性が良好な高分子量のブロック共重合体を製造する方法を提供することである。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の溶媒を使用することによって本発明を完成したものである。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0011】
〔1〕ブロック共重合体をリビングラジカル重合法により製造する方法であって、前記ブロック共重合体は、単量体(X)に由来する構造単位を有する重合体ブロック(A)と、単量体(Y)に由来する構造単位を有する重合体ブロック(B)とを有し、前記重合体ブロック(A)及び前記重合体ブロック(B)のうち一方の重合体ブロックは、SP値が11.5超であり、他方の重合体ブロックは、SP値が11.5以下であり、前記重合体ブロック(A)を有する重合体の存在下で前記単量体(Y)を重合して、前記重合体ブロック(A)と前記重合体ブロック(B)とが連結した構造を有する共重合体を得る重合工程を含み、前記重合工程は、第1級アルコール及び第3級アルコールよりなる群から選択される少なくとも一種である特定溶媒と、前記特定溶媒とは異なる有機溶媒であるその他の溶媒との混合溶媒であって、かつ前記混合溶媒のSP値が10.0以上12.5以下である溶媒中で前記単量体(Y)を重合する工程である、ブロック共重合体の製造方法。
【0012】
〔2〕前記その他の溶媒は、SP値が8.0以上11.5未満の有機溶媒である、〔1〕のブロック共重合体の製造方法。
〔3〕前記その他の溶媒は、ケトン系溶媒及びエステル系溶媒よりなる群から選択される少なくとも一種である、〔1〕又は〔2〕のブロック共重合体の製造方法。
〔4〕前記一方の重合体ブロックは、カルボキシル基、水酸基及びアミド基よりなる群から選択される少なくとも一種の官能基を有する、〔1〕~〔3〕のいずれかのブロック共重合体の製造方法。
〔5〕前記単量体(X)及び前記単量体(Y)は、(メタ)アクリル系化合物である、〔1〕~〔4〕のいずれかのブロック共重合体の製造方法。
【0013】
〔6〕前記他方の重合体ブロックは、下記式(1)で表される単量体に由来する構造単位を有する、〔1〕~〔5〕のいずれかのブロック共重合体の製造方法。
CH2=CR1-C(=O)-O-(R2O)n-R3 (1)
(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素数2~6の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し、R3は炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を表す。nは0又は1を表す。ただし、R3が炭素数1~20のアルキル基である場合、nは0である。)
〔7〕前記ブロック共重合体は、ブロック数が3個以上のマルチブロック共重合体である、〔1〕~〔6〕のいずれかのブロック共重合体の製造方法。
〔8〕前記リビングラジカル重合法は、可逆的付加-開裂連鎖移動重合法である、〔1〕~〔7〕のいずれかのブロック共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、ブロック共重合体を得るための重合反応の途中でポリマーが析出することを抑制でき、重合制御性に優れ、かつ高分子量のブロック共重合体を得ることができる。また、ブロック共重合体の製造に際し、脱保護等の後処理を必要としないため、製造工程が増加することを抑制でき、生産性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を意味する。
【0016】
《ブロック共重合体の製造方法》
本開示のブロック共重合体の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう)は、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とが連結した構造を有するブロック共重合体をリビングラジカル重合法により製造する方法である。本製造方法により得られるブロック共重合体(以下、「ブロック共重合体(P)」ともいう)は、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)のうち一方の重合体ブロックが、SP値が11.5超の親水性ブロックであり、他方の重合体ブロックが、SP値が11.5以下の疎水性ブロックである両親媒性ブロック共重合体である。
【0017】
<親水性ブロック>
親水性ブロックの製造に使用される単量体(以下、「単量体(M1)」ともいう)は、SP値が11.5超の重合体ブロックを得ることが可能な単量体であればよく、特に限定されない。単量体(M1)は、極性基を有する単量体を含むことが好ましく、極性基としてカルボキシル基、水酸基及びアミド基よりなる群から選択される少なくとも一種の官能基を有する単量体(以下、「官能基含有単量体」ともいう)を含むことがより好ましい。官能基含有単量体は、ブロック重合体(P)をリビングラジカル重合法により比較的簡便に製造できる点、及び選択の自由度が高い点で、好ましくはビニル単量体であり、その好ましい例として、カルボキシル基含有ビニル化合物、水酸基含有ビニル化合物、アミド基含有ビニル化合物等が挙げられる。
【0018】
官能基含有単量体の具体例としては、カルボキシル基含有ビニル化合物として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸β-カルボキシエチル、アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸等を;
水酸基含有ビニル化合物として、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、アクリル酸2-ヒドロキシブチル、アクリル酸3-ヒドロキシブチル及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類、ポリエチレングリコールモノアクリル酸エステル、アリルアルコール、ヒドロキシスチレン等を;
アミド基含有ビニル化合物として、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルイソブチルアミド等を、それぞれ挙げることができる。
【0019】
官能基含有単量体は、上記のうち(メタ)アクリル系化合物が好ましく、カルボキシル基含有の(メタ)アクリル系化合物がより好ましく、(メタ)アクリル酸が特に好ましい。ここで、本明細書において「(メタ)アクリル系化合物」とは(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいい、(メタ)アクリル酸エステル類及び(メタ)アクリルアミド類を含む意味である。単量体(M1)は、ブロック共重合体(P)の製造に使用する単量体の選択の自由度が高い等の観点から、(メタ)アクリル系化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましい。
【0020】
なお、SP値が11.5超の重合体ブロックを得ることができれば、単量体(M1)として、単独重合体としたときの重合体のSP値が11.5以下となる単量体を併用してもよい。官能基含有単量体の使用量は、親水性ブロックの製造に使用される単量体(M1)の全量に対して、50質量%超が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。単量体(M1)としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
親水性ブロックのSP値の下限については、親水性ブロックに対し疎水性ブロックと相分離する性質を付与する観点から、好ましくは12.0以上であり、より好ましくは12.5以上であり、更に好ましくは13.0以上である。また、親水性ブロックのSP値の上限については、下限と同様の観点から、好ましくは16.0以下であり、より好ましくは15.5以下であり、更に好ましくは15.0以下である。なお、本明細書において、親水性ブロック及び疎水性ブロックのSP値は、各ブロックの重合体につき、Fedors法により算出した値であり、単位は[cal/cm
3]
1/2である。具体的には、R.F.Fedorsにより著された「Polymer Engineering and Science」14(2),147(1974)に記載の計算方法によって算出することができる。より具体的には、下記数式(1)に示す計算方法による。
【数1】
(数式(1)中、δは、SP値((cal/cm
3)
1/2)を表し、ΔE
vapは各原子団のモル蒸発熱(cal/mol)を表し、Vは、各原子団のモル体積(cm
3/mol)を表す。)
【0022】
親水性ブロックにつき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、5,000~200,000の範囲であることが好ましい。Mnが5,000以上あると、ブロック共重合体(P)の一部の領域に対して親水性を十分に付与できる点で好ましい。また、Mnが200,000以下であると、塗工性等の加工性及び取扱い性を良好にすることができる点で好ましい。親水性ブロックのMnは、より好ましくは7,000以上であり、更に好ましくは10,000以上であり、特に好ましくは12,000以上である。また、親水性ブロックのMnは、より好ましくは150,000以下であり、更に好ましくは100,000以下であり、特に好ましくは70,000以下である。
【0023】
親水性ブロックにつき、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、8,000~300,000の範囲であることが好ましい。親水性ブロックのMwは、より好ましくは10,000以上であり、更に好ましくは12,000以上であり、特に好ましくは20,000以上である。親水性ブロックのMwの下限については、より好ましくは200,000以下であり、更に好ましくは100,000以下であり、特に好ましくは80,000以下である。
【0024】
親水性ブロックにおいて、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)の値を数平均分子量(Mn)の値で除して得られる分子量分布(Mw/Mn)は、分散度が低く、所望の特性を示す両親媒性ブロック共重合体を得る観点から、2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.8以下であることが更に好ましい。
【0025】
<疎水性ブロック>
疎水性ブロックの製造に使用される単量体(以下、「単量体(M2)」ともいう)は、SP値が11.5以下の重合体ブロックを得ることが可能な単量体であればよく、特に限定されない。単量体(M2)は、ブロック共重合体(P)をリビングラジカル重合法により比較的簡便に製造できる点、及び単量体の選択の自由度が高い点で、ビニル単量体が好ましく、(メタ)アクリル系化合物がより好ましく、下記式(1)で表される化合物を含むことが更に好ましい。
CH2=CR1-C(=O)-O-(R2O)n-R3 (1)
(式(1)中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は炭素数2~6の直鎖状又は分岐状アルキレン基を表し、R3は炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を表す。nは0又は1を表す。ただし、R3が炭素数1~20のアルキル基である場合、nは0である。)
【0026】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸n-オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物;
(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等の(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル化合物;
メタクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル等の(メタ)アクリル酸の芳香族エステル化合物等が挙げられる。
【0027】
疎水性を十分に発現させる観点から、上記式(1)で表される化合物としては、上記式(1)中の基「-(R2O)n-R3」(つまり、エステル部分)の炭素数が2以上である化合物が好ましく、これらの中でも、エステル部分の炭素数が3以上である化合物がより好ましい。上記式(1)中の基「-(R2O)n-R3」の炭素数の上限については、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下である。単量体(M2)が、炭素数2~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物を含む場合、親水性ブロックに対して高い相分離性を付与できるという点で特に好適である。
【0028】
なお、SP値が11.5以下の重合体ブロックを得ることができれば、単量体(M2)として、単独重合体としたときの重合体のSP値が11.5超となる単量体を併用してもよい。上記式(1)で表される化合物の使用量は、疎水性ブロックの製造に使用される単量体(M2)の全量に対して、50質量%超が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。単量体(M2)としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
疎水性ブロックのSP値の上限については、疎水性ブロックに対し親水性ブロックと相分離する性質を付与する観点から、好ましくは10.8以下であり、より好ましくは10.5以下であり、更に好ましくは10.0以下である。疎水性ブロックのSP値の下限については、得られるブロック共重合体が混合溶媒への溶解性に優れる点で、好ましくは8.0以上であり、より好ましくは8.5以上であり、更に好ましくは9.0以上である。
【0030】
疎水性ブロックにつき、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、10,000~300,000の範囲であることが好ましい。Mnが10,000以上あると、ブロック共重合体(P)が疎水性のセグメントを有するようにすることができる点で好ましい。また、Mnが300,000以下であると、塗工性等の加工性及び取扱い性を良好にすることができる点で好ましい。疎水性ブロックのMnは、より好ましくは15,000以上であり、更に好ましくは20,000以上であり、特に好ましくは30,000以上である。また、疎水性ブロックのMnは、より好ましくは250,000以下であり、更に好ましくは200,000以下であり、特に好ましくは150,000以下である。
【0031】
疎水性ブロックにつき、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、20,000~500,000の範囲であることが好ましい。疎水性ブロックのMwは、より好ましくは25,000以上であり、更に好ましくは30,000以上であり、特に好ましくは35,000以上である。また、疎水性ブロックのMwは、より好ましくは400,000以下であり、更に好ましくは300,000以下であり、特に好ましくは250,000以下である。
【0032】
疎水性ブロックにおいて、分子量分布(Mw/Mn)は、2.5以下であることが好ましい。Mw/Mnは、より好ましくは2.3以下であり、更に好ましくは2.0以下であり、特に好ましくは1.8以下である。
【0033】
なお、ブロック共重合体(P)の1分子中に同一の重合体ブロックが複数個存在する場合、「重合体ブロックの数平均分子量」及び「重合体ブロックの重量平均分子量」とは、ブロック共重合体(P)1分子が有する複数個の重合体ブロック全体の分子量を意味する。例えば、ブロック共重合体(P)が、(親水性ブロック)-(疎水性ブロック)-(親水性ブロック)型のトリブロック体である場合、このトリブロック体における親水性ブロックのMnは、分子鎖の両末端に存在する2個の親水性ブロックのMnを足し合わせた値である。
【0034】
ブロック共重合体(P)において、親水性ブロックと疎水性ブロックとの比率(質量比)は、特に限定されないが、一分子内に親水性を示す部分と疎水性を示す部分とを有するものとする観点から、親水性ブロックと疎水性ブロックとの比率(親水性ブロック/疎水性ブロック)は、質量比で、1/99~99/1とすることが好ましい。親水性ブロックと疎水性ブロックとの比率は、より好ましくは2/98~80/20であり、更に好ましくは5/95~70/30であり、特に好ましくは10/90~50/50である。なお、親水性ブロックと疎水性ブロックとの比率は、親水性ブロックの製造に使用される単量体(M1)と、疎水性ブロックの製造に使用される単量体(M2)との比率を調整することによって適宜選択され得る。
【0035】
ブロック共重合体(P)のSP値の下限については、重合溶媒である混合溶媒への溶解性に優れる点で、好ましくは9.5以上であり、より好ましくは10.0以上であり、更に好ましくは10.5以上である。また、ブロック共重合体(P)のSP値の上限については、下限と同様の観点から、好ましくは13.5以下であり、より好ましくは13.0以下であり、更に好ましくは12.5以下である。なお、本明細書において、ブロック共重合体(P)のSP値は、Fedors法により算出した各重合体ブロックSP値につき、各重合体ブロックの質量分率による加重平均により算出した値であり、単位は[cal/cm3]1/2である。
【0036】
<ブロック共重合体(P)の製造>
ブロック共重合体(P)は、リビングラジカル重合法により、上記単量体を重合することにより得ることができる。溶液重合法による場合、有機溶媒及び単量体を反応器に仕込み、ラジカル重合開始剤を添加して、好ましくは加熱して共重合することにより、目的とするブロック共重合体(P)を得ることができる。各原料の仕込み方法は、全ての原料を一括して仕込むバッチ式の初期一括仕込みでもよく、少なくとも一部の原料を連続的に反応器中に供給するセミ連続仕込みでもよく、全原料を連続供給し、同時に反応器から連続的に生成物を抜き出す連続重合方式でもよい。
【0037】
ブロック共重合体(P)の製造に際し、リビングラジカル重合法としては、公知の重合法を採用することができる。用いるリビングラジカル重合法の具体例としては、交換連鎖機構のリビングラジカル重合法、結合-解離機構のリビングラジカル重合法、原子移動機構のリビングラジカル重合法等が挙げられる。これらの具体例としては、交換連鎖機構のリビングラジカル重合として、可逆的付加-開裂連鎖移動重合法(RAFT法)、ヨウ素移動重合法、有機テルル化合物を用いる重合法(TERP法)、有機アンチモン化合物を用いる重合法(SBRP法)、有機ビスマス化合物を用いる重合法(BIRP法)等を;
結合-解離機構のリビングラジカル重合として、ニトロキシラジカル法(NMP法)等を;原子移動機構として、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)等を、それぞれ挙げることができる。これらの中でも、最も広範囲なビニル単量体に適用でき、かつ重合の制御性に優れている点で、交換連鎖機構のリビングラジカル重合法が好ましく、実施の簡便さの観点から、RAFT法によることが特に好ましい。
【0038】
RAFT法では、重合制御剤(RAFT剤)及びフリーラジカル重合開始剤の存在下、可逆的な連鎖移動反応を介して重合が進行する。RAFT剤としては、ジチオエステル化合物、ザンテート化合物、トリチオカーボネート化合物及びジチオカーバメート化合物等、公知の各種RAFT剤を使用することができる。RAFT剤は、活性点を1箇所のみ有する単官能型の化合物を用いてもよいし、活性点を2箇所以上有する多官能型の化合物を用いてもよい。A-(BA)n型構造又はB-(AB)n型構造のブロック共重合体を効率的に得やすい点で、二官能型のRAFT剤を用いることが好ましい。RAFT剤の使用量は、用いる単量体及びRAFT剤の種類等により適宜調整される。
【0039】
RAFT法による重合の際に用いる重合開始剤としては、アゾ化合物、有機過酸化物及び過硫酸塩等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。これらの中でも、安全上取り扱いやすく、ラジカル重合時の副反応が起こりにくい点で、アゾ化合物が好ましい。アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。ラジカル重合開始剤としては、1種類のみ使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
ラジカル重合開始剤の使用量は、特に制限されないが、分子量分布がより小さい重合体を得る点から、RAFT剤1モルに対して、0.5モル以下とすることが好ましく、0.2モル以下とすることがより好ましい。また、重合反応を安定的に行う観点から、ラジカル重合開始剤の使用量の下限については、RAFT剤1モルに対して、0.01モル以上とすることが好ましく、0.05モル以上とすることがより好ましい。RAFT剤1molに対するラジカル重合開始剤の使用量は、0.01~0.5モルが好ましく、0.05~0.2モルがより好ましい。
【0041】
RAFT法による重合反応において、反応温度は、好ましくは40℃以上100℃以下であり、より好ましくは45℃以上90℃以下であり、更に好ましくは50℃以上80℃以下である。反応温度が40℃以上であると、重合反応を円滑に進めることができる点で好ましく、反応温度が100℃以下であると、副反応を抑制できるとともに、使用できる開始剤や溶剤に関する制限が緩和される点で好ましい。また、反応時間は、使用する単量体等に応じて適宜設定され得るが、1時間以上48時間以下であることが好ましく、3時間以上24以下であることがより好ましい。重合の際には、必要に応じて連鎖移動剤(例えば、炭素数2~20のアルキルチオール化合物等)の存在下で実施してもよい。
【0042】
例えば、RAFT重合により親水性ブロック-疎水性ブロック-親水性ブロックからなるトリブロック共重合体を得る場合、具体的な重合方法としては、〔1〕単官能型のRAFT剤を用いて各ブロックを順次重合することにより、目的とするトリブロック共重合体を製造する方法、〔2〕二官能型のRAFT剤を用いて二段階の重合を行うことにより、目的とするトリブロック共重合体を製造する方法、等が挙げられる。
【0043】
上記〔1〕の方法では、まず、第1の工程として、単官能型のRAFT剤及びラジカル重合開始剤の存在下、単量体(M1)を重合して親水性ブロックを得る。次いで、第2の工程として、親水性ブロックの存在下、単量体(M2)を重合して、親水性ブロック-疎水性ブロックを得る。さらに、第3の工程として、親水性ブロック-疎水性ブロックの存在下、単量体(M1)を重合することにより、親水性ブロック-疎水性ブロック-親水性ブロックからなるトリブロック共重合体が得られる。また、これらの工程を繰り返すことにより、ブロック数が4個以上のブロック共重合体(P)を得ることができる。
【0044】
上記〔2〕の方法では、まず、第1の工程として、二官能型のRAFT剤及びラジカル重合開始剤の存在下、単量体(M2)を重合して疎水性ブロックを得る。次いで、第2の工程として、疎水性ブロックの存在下、単量体(M1)を重合することにより、親水性ブロック-疎水性ブロック-親水性ブロックからなるトリブロック共重合体が得られる。二官能型のRAFT剤を用いる方法によれば、製造工程の簡略化を図ることができ、生産効率を向上できる点で好適である。
【0045】
本製造方法の一態様は、重合体ブロック(A)を構成する単量体を単量体(X)、重合体ブロック(B)を構成する単量体を単量体(Y)とした場合、まず、単量体(X)を重合して、重合体ブロック(A)を有する重合体を得て、次いで、重合体ブロック(A)を有する重合体の存在下で単量体(Y)を重合することにより、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とが連結した構造を有するブロック共重合体を得ることにより、ブロック共重合体(P)を製造する方法である。以下、単量体(X)を重合する工程を「重合工程X」、単量体(Y)を重合する工程を「重合工程Y」とし、各工程について詳細に説明する。
【0046】
<重合工程X>
重合工程Xで製造される重合体ブロック(A)は、親水性ブロック及び疎水性ブロックのいずれであってもよい。重合体ブロック(A)が疎水性ブロックである場合には、重合工程Xでは、ラジカル重合開始剤等の存在下、単量体(M2)を重合することにより疎水性ブロックを得る。この場合、単量体(M2)が単量体(X)に相当する。一方、重合体ブロック(A)が親水性ブロックである場合には、重合工程Xでは、ラジカル重合開始剤等の存在下、単量体(M1)を重合することにより親水性ブロックを得る。この場合、単量体(M1)が単量体(X)に相当する。
【0047】
重合工程Xの重合反応は、リビングラジカル重合において公知の重合溶媒を用い、溶媒中で行うことが好ましい。使用する重合溶媒は、単量体を溶解可能な有機溶媒が好ましい。重合工程Xにおいて、単量体(X)を重合して疎水性ブロックからなる重合体を製造する場合、重合溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びアニソール等の芳香族化合物;酢酸メチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン化合物、等が挙げられる。なお、重合溶媒は1種が単独で使用されてもよく、2種以上が組み合わされてもよい。一方、重合工程Xにおいて親水性ブロックからなる重合体を製造する場合、単量体(X)の重合の際に使用する重合溶媒は、例えばアルコール、水等が挙げられる。
【0048】
重合工程Xでの重合を溶媒中で行う場合、重合溶媒の使用量は、反応に使用する単量体の合計量100質量部に対して、5~200質量部となる量が好ましく、10~100質量部となる量がより好ましい。重合溶媒の使用量を100質量部以下とすると、短時間で高い重合率とすることができる点で好ましい。
【0049】
単量体(X)の重合反応における反応温度及び反応時間は、採用する重合方法に応じて適宜設定することができる。例えば、RAFT重合法による場合、反応温度は、好ましくは40℃以上100℃以下であり、より好ましくは45℃以上90℃以下である。反応時間は、30分以上24時間以下であることが好ましく、1時間以上12時間以下であることがより好ましい。
【0050】
重合工程Xにより得られた重合体は、そのまま次の重合工程Yでの重合に用いてもよいし、再沈殿法により回収して次の重合工程Yで使用してもよい。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)が小さく、重合制御性により優れたブロック共重合体(P)を得る観点から、再沈殿法により回収することが好ましい。再沈殿に用いる溶媒としては、例えば、アルコール類やアルカン類の単独溶媒、又は2種以上の混合溶媒が挙げられる。また、再沈殿法の他に、分液操作やカラム操作、限外ろ過操作等により、単量体、オリゴマー等の低分子成分を除去しつつ重合体を回収してもよい。
【0051】
重合工程Xにおける単量体(X)の重合反応の重合率は、重合工程Yでの重合反応を十分に進行させる観点から、好ましくは40%以上であり、より好ましくは45%以上であり、更に好ましくは50%以上である。また、リビングラジカル重合制御基の末端残存率の観点から、単量体(X)の重合反応の重合率は、好ましくは95%以下であり、より好ましくは90%以下であり、更に好ましくは85%以下である。なお、本明細書において重合率は、ガスクロマトグラフィー(GC)により測定した残存モノマー量より算出した値である。
【0052】
<重合工程Y>
重合工程Yでは、重合体ブロック(A)を有する重合体の存在下で単量体(Y)を重合することにより、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とが連結したブロック構造を有する共重合体を得る。重合体ブロック(A)が疎水性ブロックである場合、重合工程Yでは、ラジカル重合開始剤等の存在下、単量体(M1)を重合することにより親水性ブロックを製造する。この場合、単量体(M1)が単量体(Y)に相当する。一方、重合体ブロック(A)が親水性ブロックである場合には、重合工程Yでは、ラジカル重合開始剤等の存在下、単量体(M2)を重合することにより疎水性ブロックを製造する。この場合、単量体(M2)が単量体(Y)に相当する。重合工程Yで使用されるラジカル重合開始剤は、重合工程Xと同一の化合物でも異なる化合物でもよい。
【0053】
重合工程Yで使用される、重合体ブロック(A)を有する重合体は、重合体末端にリビングラジカル重合制御基を有すればよい。したがって、重合体ブロック(A)を有する重合体は、リビングラジカル重合制御基を有する限り、重合体ブロック(A)からなる重合体、すなわち、単量体(X)に由来する構造単位からなる重合体であってもよく、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とが連結した構造を有し、重合体主鎖のうち少なくとも一方の端部が重合体ブロック(A)により形成されてなるブロック共重合体であってもよい。
【0054】
重合工程Yの重合反応は、溶液重合法により行われる。重合工程Yでは、第1級アルコール及び第3級アルコールよりなる群から選択される少なくとも一種である特定溶媒と、特定溶媒とは異なる有機溶媒(以下、「その他の溶媒」という)との混合溶媒であって、かつその混合溶媒のSP値が10.0以上12.5以下である液体組成物が重合溶媒として使用される。
【0055】
特定溶媒は、直鎖状の化合物でも分岐状の化合物でもよい。特定溶媒の具体例としては、第1級アルコールとして、メタノール、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、イソアミルアルコール、2,2-ジメチル-1-ブタノール等を;第3級アルコールとして、tert-ブタノール、tert-アミルアルコール等を、それぞれ挙げることができる。これらのうち、重合工程Yでの重合途中におけるブロック共重合体の析出を十分に抑制できる点で、特定溶媒は、炭素数1~4の第1級アルコール及び炭素数4の第3級アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、メタノール、エタノール、n-プロパノール及びtert-ブタノールよりなる群から選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0056】
その他の溶媒としては、特定溶媒とその他の溶媒との混合溶媒のSP値を10.0以上12.5以下の範囲とすることができる化合物であって、単量体を溶解可能かつ単量体と反応しない化合物が好ましく使用される。その他の溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン及びアニソール等の芳香族系溶媒;酢酸メチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン系溶媒、等が挙げられる。その他の溶媒は、特定溶媒との混合溶媒とした場合にポリマーの析出を十分に抑制でき、かつ重合反応を安定性に進行させることができる点で、これらの中でも、ケトン系溶媒及びエステル系溶媒よりなる群から選択される少なくとも一種の有機溶媒が好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル及び酢酸エチルよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。なお、その他の溶媒としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0057】
その他の溶媒のSP値は、特定溶媒とその他の溶媒との混合溶媒のSP値が10.0以上12.5以下となれば特に限定されないが、重合溶媒の調製に使用される特定溶媒のSP値と同じ値又は特定溶媒のSP値よりも低い値であることが好ましい。特定溶媒とSP値が同じ又は特定溶媒よりもSP値が低い溶媒をその他の溶媒として用いることにより、SP値が所望の値となる重合溶媒を調製しやすい点で好適である。具体的には、その他の溶媒のSP値は、8.0以上であることが好ましく、8.3以上であることがより好ましく、8.5以上であることが更に好ましく、9.0以上であることが特に好ましい。その他の溶媒のSP値の上限については、11.5未満であることが好ましく、11.0以下であることがより好ましく、10.5以下であることが更に好ましい。
【0058】
特定溶媒とその他の溶媒との混合溶媒を均質な溶媒とし、重合途中においてブロック重合体の析出を抑制する観点から、特定溶媒とその他の溶媒との差ΔSPは、5.5以下であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましく、4.0以下であることが更に好ましい。また、ΔSPの下限は特に限定されず、0以上とすることができる。
【0059】
ここで、本明細書において、溶媒(特定溶媒、その他の溶媒及び混合溶媒を含む)のSP値は、「化学便覧 基礎編」改訂5版、日本化学会編(丸善)に記載された値を用い、単位は[cal/cm3]1/2である。具体的な重合溶媒のSP値の例としては、シクロヘキサン(SP値:8.2)、トルエン(SP値:8.9)、酢酸エチル(SP値:9.1)、テトラヒドロフラン(SP値:9.9)、ベンゼン(SP値:9.2)、メチルエチルケトン(SP値:9.3)、アセトン(SP値:10.0)、t-ブタノール(SP値:10.6)、イソプロピルアルコール(SP値:11.5)、アセトニトリル(SP値:12.1)、エタノール(SP値:12.8)、メタノール(SP値:14.5)等が挙げられる。なお、混合溶媒のSP値は、各々の溶媒の体積分率による加重平均により算出することができる。
【0060】
重合工程Yで使用する重合溶媒において、特定溶媒とその他の溶媒との配合割合は、特定溶媒の配合量をS1、その他の溶媒の配合量をS2とした場合に、S1/S2が、質量比で1/99~99/1となるような比率とすることが好ましい。S1/S2がこの範囲内であると、重合工程Yの重合途中でブロック共重合体が析出しにくく好適である。S1/S2は、より好ましくは5/95~80/20であり、更に好ましくは10/90~70/30であり、特に好ましくは15/85~60/40である。
【0061】
単量体(Y)の重合反応における反応温度及び反応時間は、採用する重合方法に応じて適宜設定することができる。例えば、RAFT重合法による場合、反応温度は、好ましくは40℃以上100℃以下であり、より好ましくは45℃以上90℃以下である。反応時間は、30分以上24時間以下であることが好ましく、1時間以上12時間以下であることがより好ましい。重合工程Yにより得られた共重合体は、再沈殿法等の公知の脱溶媒方法、及び加熱処理等の乾燥方法により単離することができる。
【0062】
なお、本製造方法において、重合工程Yにより得られた重合体の存在下で単量体(X)の重合を行うことにより、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)と重合体ブロック(A)とがこの順に連結したトリブロック構造を有するブロック共重合体を得ることができる。重合工程Yの後の単量体(X)の重合は、特定溶媒とその他の溶媒との混合溶媒であって、かつその混合溶媒のSP値が10.0以上12.5以下である溶剤中で行われるとよい。
【0063】
重合工程Yを含むブロック共重合体の製造方法によれば、親水性ブロックと疎水性ブロックとを有するブロック共重合体(P)を得ることができる。得られたブロック共重合体(P)につき、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、55,000~500,000の範囲であることが好ましい。Mnが55,000以上あると、所望とする特性をブロック共重合体に発現させることが可能となる点で好ましい。また、Mnが500,000以下であると、塗工性等の加工性及び取扱い性を十分に確保することができる点で好ましい。ブロック共重合体(P)のMnは、より好ましくは60,000以上であり、更に好ましくは70,000以上であり、特に好ましくは75,000以上である。また、ブロック共重合体(P)のMnは、より好ましくは300,000以下であり、更に好ましくは250,000以下であり、特に好ましくは150,000以下である。
【0064】
特に本製造方法によれば、Mnが好ましくは60,000以上、より好ましくは65,000以上、更に好ましくは70,000以上、より更に好ましくは75,000以上、特に好ましくは90,000以上の高分子量の両親媒性ブロック共重合体を得ることができる点で好適である。
【0065】
ブロック共重合体(P)につき、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、80,000~700,000の範囲であることが好ましい。ブロック共重合体(P)のMwは、より好ましくは90,000以上であり、更に好ましくは950,000以上であり、特に好ましくは100,000以上である。また、ブロック共重合体(P)のMwは、より好ましくは500,000以下であり、更に好ましくは300,000以下であり、特に好ましくは250,000以下である。
【0066】
ブロック共重合体(P)の分子量分布(Mw/Mn)は、ミクロ相分離構造を形成する重合体を得る観点から、3.0以下であることが好ましい。分子量分布(Mw/Mn)は、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2.3以下であり、より更に好ましくは2.0以下であり、特に好ましくは1.7以下である。分子量分布(Mw/Mn)の下限値は、通常1.0である。
【0067】
本製造方法により製造されるブロック共重合体(P)は、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とを有する限り、一分子内における重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)の数や配列順序等は特に限定されない。ブロック共重合体(P)の具体例としては、例えば重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とからなる(AB)ジブロック体、重合体ブロック(A)/重合体ブロック(B)/重合体ブロック(A)からなる(ABA)トリブロック体、重合体ブロック(B)/重合体ブロック(A)/重合体ブロック(B)からなる(BAB)トリブロック体等が挙げられる。また、ブロック共重合体(P)は、重合体ブロックを4個以上有するブロック共重合体であってもよく、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)以外の重合体ブロックを更に有するものであってもよい。これらのうち、ブロック共重合体(P)は、重合体ブロックを3個以上有するマルチブロック共重合体であることが好ましく、ABA型構造又はBAB型構造のトリブロック共重合体であることが特に好ましい。ブロック共重合体(P)として、ハードブロック-ソフトブロック-ハードブロックからなるトリブロック共重合体(例えば、(ポリアクリル酸)―b-(ポリアクリル酸n-ブチル)-b-(ポリアクリル酸)からなるトリブロック共重合体)を本製造方法により製造する場合、ミクロ相分離構造の形成等により疑似架橋構造を形成し得る重合体を簡便に製造できる点で好ましい。
【0068】
本製造方法により得られるブロック共重合体(P)は、幅広い用途において使用することができる。具体的には、例えば、分散剤、工業用ゴム、バインダー、粘接着剤、塗料、界面活性剤等の種々の用途に適用することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。重合体の分子量測定方法は以下のとおりである。
【0070】
<分子量測定>
得られた重合体について、以下の条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、ポリスチレン換算による数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を得た。また、得られたMn及びMwの値から分子量分布(Mw/Mn)を算出した。なお、アクリル酸由来の構造を有する重合体を測定する際は、下記の前処理を行い、カルボキシル基をメチルエステル化した重合体として測定した。
○前処理(カルボキシル基のメチルエステル化反応)
メタノール/アセトン=2/8(w/w)混合溶媒を用いて、重合体の0.25%溶液を調製した。次いで、10%TMSジアゾメタン/ヘキサン溶液を、TMSジアゾメタン由来の黄色がわずかに残るまで添加した後、12時間室温で撹拌した。溶媒を留去した後、THFを加えることでGPC測定用の0.1%溶液を調製した。
○測定条件
カラム:東ソー製TSKgel SuperMultiporeHZ-M×4本
溶媒:テトラヒドロフラン
温度:40℃
検出器:RI
流速:600μL/min
【0071】
1.RAFT剤の合成
[合成例1]1,4-ビス(n-ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼンの合成
ナス型フラスコに、1-ドデカンチオール(42.2部)、20%KOH水溶液(63.8部)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(1.5部)を加えて氷浴で冷却し、二硫化炭素(15.9部)、テトラヒドロフラン(以下、「THF」ともいう)(33.7部)を加え、20分攪拌した。α、α’-ジクロロ-p-キシレン(16.6部)のTHF溶液(151部)を30分かけて滴下した。室温で1時間反応させた後、クロロホルムから抽出し、純水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製した後、酢酸エチルから再結晶することにより、下記式(2)で表される1,4-ビス(n-ドデシルスルファニルチオカルボニルスルファニルメチル)ベンゼン(以下、「DLBTTC」という)を収率80%で得た。
1H-NMR測定より、7.2ppm、4.6ppm、3.4ppmに目的物のピークを確認した。
【化1】
【0072】
2.重合体ブロック(A)の製造
[製造例1]重合体1の製造
攪拌機、温度計を装着したフラスコに、DLBTTC(0.67部)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(以下、「ABN-E」という)(0.048部)、アクリル酸ブチル(以下、「nBA」ともいう)(100部)及びアニソール(42部)を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、60℃の恒温槽で重合を開始した。6時間後、室温まで冷却し反応を停止した。次いで、重合溶液をメタノールから再沈殿精製、真空乾燥することで、重合体1を得た。ガスクロマトグラフィー(GC)測定により残モノマー量を計測し、重合率を算出したところ、64%であった。得られた重合体1の分子量については、GPC測定(ポリスチレン換算)により、Mn72,000、Mw88,500、Mw/Mn1.23であった。
【0073】
[製造例2]重合体2の製造
仕込み原料、仕込み量及び重合条件を表1の通り変更した以外は、製造例1と同様の操作を行うことにより、重合体2を得た。なお、表1中、「PhOEA」は、フェノキシエチルアクリレートである。
【0074】
【0075】
3.ブロック共重合体の製造
[実施例1]
撹拌機、温度計を装着したフラスコに、製造例1で得られた重合体1(163.3部)、アクリル酸(以下、「AA」ともいう)(100部)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(以下、「V-65」という)(0.099部)、メタノール(97部)及びアセトン(225部)を仕込み、窒素バブリングで十分脱気し、55℃の恒温槽で重合を開始した。4時間後、室温まで冷却し反応を停止し、(親水性ブロック)-(疎水性ブロック)-(親水性ブロック)からなるトリブロック共重合体を得た。得られたトリブロック共重合体の分子量をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定(ポリスチレン換算)により測定したところ、Mn98,500、Mw148,200、Mw/Mn1.50であった。重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)のSP値を、重合体ブロック(A)の組成及び重合体ブロック(B)の組成を用いて、上記数式(1)からそれぞれ算出し、表2に記載した。また、重合体ブロック(B)のモノマーの重合率を基に重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)との組成比を算出した結果、(A)/(B)=71.8/28.2(質量%)であった。さらに、ブロック共重合体のSP値を上記数式(1)から算出し、表2に記載した。
【0076】
[実施例2~4、比較例1~4]
仕込み原料、仕込み量及び重合条件を表2の通り変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。この操作により、実施例2~4及び比較例4では、(親水性ブロック)-(疎水性ブロック)-(親水性ブロック)からなるトリブロック共重合体を得た。得られたトリブロック共重合体の分子量をそれぞれ測定し、表2に記載した。なお、表2中、結果欄の「-」の標記は、重合途中にポリマーが析出したため、該当する項目について測定不能及び算出不能であったことを表す。
【0077】
【0078】
4.評価結果
特定溶媒とその他の溶媒との混合溶媒中でモノマーを重合する製造方法によれば、実施例1~4の結果から明らかなように、重合途中にポリマーが析出せず、数平均分子量(Mn)が9万以上、重量平均分子量(Mw)が14万以上の高分子量のブロック共重合体が得られた。また、得られたブロック共重合体の分子量分布は1.55以下と小さく、重合制御性に優れていた。
これらに対して、単独溶媒を用いた比較例1~3は、重合途中にポリマーが析出し、ブロック共重合体を得ることができなかった。また、特定溶媒に代えて2級アルコールを用いた比較例4は、重合途中にポリマーが析出しなかったものの、得られたブロック共重合体は、数平均分子量(Mn)が51,100、重量平均分子量(Mw)が107,800と小さかった。また、比較例4のブロック共重合体は、分子量分布が2.0超となり、重合制御性に劣る結果であった。