(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/18 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01N27/18
(21)【出願番号】P 2019217999
(22)【出願日】2019-12-02
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】海田 佳生
(72)【発明者】
【氏名】松尾 裕
(72)【発明者】
【氏名】田邊 圭
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-267895(JP,A)
【文献】特開2004-144504(JP,A)
【文献】実開平04-115058(JP,U)
【文献】国際公開第2018/135100(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0353607(US,A1)
【文献】特開2019-060848(JP,A)
【文献】特開2016-170161(JP,A)
【文献】特開昭61-278749(JP,A)
【文献】特開2014-089048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスの濃度に応じて抵抗値が変化する第1の測温体と、前記第1の測温体を加熱する第1のヒータ抵抗を含む第1のガスセンサ部と、
環境温度を測定するための温度センサ部であって、前記環境温度に応じて抵抗値が変化する第2の測温体を含む温度センサ部と、
第3の測温体と、前記第3の測温体を加熱する第2のヒータ抵抗を含む第2のガスセンサ部と、
前記第1のヒータ抵抗に第1の制御電圧を印加する第1の電圧印加部と、
前記第2のヒータ抵抗に第2の制御電圧を印加する第2の電圧印加部と、を備え、
前記第1の測温体と前記第3の測温体は直列に接続され、
前記第1の電圧印加部は、前記温度センサ部の出力電圧に基づいて前記第1の制御電圧を変化させる第1のバッファ回路を含み、
前記第2の電圧印加部は、前記温度センサ部の出力電圧に基づいて前記第2の制御電圧を変化させる第2のバッファ回路を含み、
前記第1の制御電圧と前記第2の制御電圧が互いに異なる値であり、これにより前記第1の測温体と前記第3の測温体が互いに異なる温度に加熱されることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記温度センサ部は、前記第2の測温体に対して直列に接続された第1の抵抗を含み、
前記温度センサ部の出力電圧は、前記第2の測温体と前記第1の抵抗の接続点の電圧であり、
前記第1の電圧印加部は、前記温度センサ部の出力電圧に基づいて第1の調整電圧を生成する第1の分圧回路と、第1の基準電圧を生成する第1の基準電圧源とをさらに含み、
前記第1のバッファ回路は、前記第1の基準電圧に対して前記第1の調整電圧を加算又は減算することによって前記第1の制御電圧を生成することを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記第1のバッファ回路と前記温度センサ部の間に接続された第1のスイッチ回路と、
前記第1のバッファ回路と前記第1の基準電圧源の間に接続された第2のスイッチ回路と、をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記第2の電圧印加部は、前記温度センサ部の出力電圧に基づいて第2の調整電圧を生成する第2の分圧回路と、第2の基準電圧を生成する第2の基準電圧源とをさらに含み、
前記第2のバッファ回路は、前記第2の基準電圧に対して前記第2の調整電圧を加算又は減算することによって前記第2の制御電圧を生成することを特徴とする請求項
3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記第1の分圧回路と前記第2の分圧回路の分圧比が互いに異なることを特徴とする請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記第2のバッファ回路と前記第2の基準電圧源の間に接続された第3のスイッチ回路をさらに備え、
前記第1のスイッチ回路は、前記第1及び第2のバッファ回路と前記温度センサ部の間に接続されていることを特徴とする請求項4又は5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記第1のバッファ回路と前記第1のヒータ抵抗の間に接続され、前記第1の制御電圧を保持するサンプルホールド回路をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記温度センサ部は、前記第2の測温体に対して並列に接続された第2の抵抗をさらに含むことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気中に含まれるガスを検出するガスセンサに関し、特に、サーミスタなどの測温体を加熱するヒータ抵抗を備えたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、雰囲気中に含まれる測定対象ガスの濃度を検出するものであり、中でも、ヒータ抵抗によってサーミスタなどの測温体を加熱するタイプのガスセンサは小型化に優れている。例えば、特許文献1に記載されたガスセンサは、ヒータ抵抗によって加熱されるサーミスタと基準抵抗を直列に接続し、その接続点の電位に基づいて測定対象ガスの濃度を検出している。
【0003】
特許文献1に記載されたガスセンサは、環境温度測定素子をさらに備えている。そして、環境温度測定素子によって得られた環境温度に応じて、ヒータ抵抗に流す電流量を微調整することにより、環境温度によらずサーミスタを一定の温度で加熱している。特許文献1に記載されたガスセンサにおいては、環境温度測定素子から出力される電圧値をA/D変換し、得られたデジタル値に基づいてヒータ抵抗に流す電流量を示す指示値を算出し、さらに指示値をD/A変換することによってヒータ抵抗に流す電流を生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方式では、ヒータ抵抗に流す電流を高精度に制御するためにはA/DコンバータやD/Aコンバータのビット数を増やす必要があり、回路規模が大きくなるという問題があった。また、指示値の演算においても誤差が生じるため、ヒータ抵抗に流す電流を高精度に制御することは必ずしも容易ではなかった。しかも、A/D変換、演算、D/A変換には所定の時間が必要であることから、環境温度の変化に対する応答速度を高めることも容易ではなかった。
【0006】
したがって、本発明は、ヒータ抵抗によってサーミスタなどの測温体を加熱するタイプのガスセンサにおいて、デジタル処理を行うことなく、ヒータ抵抗に流す電流量を環境温度に応じて自動的に変化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるガスセンサは、測定対象ガスの濃度に応じて抵抗値が変化する第1の測温体及び第1の測温体を加熱する第1のヒータ抵抗を含む第1のガスセンサ部と、環境温度に応じて抵抗値が変化する第2の測温体を含む温度センサ部と、第1のヒータ抵抗に第1の制御電圧を印加する第1の電圧印加部とを備え、第1の電圧印加部は、温度センサ部の出力電圧に基づいて第1の制御電圧を変化させる第1のバッファ回路を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、温度センサ部の出力電圧に基づき、第1のバッファ回路を用いて第1の制御電圧をリニアに変化させていることから、デジタル処理などを行うことなく、第1のヒータ抵抗に流す電流量を環境温度に応じて自動的に変化させることができる。これにより、環境温度に関わらず、第1の測温体を一定の温度に加熱することが可能となる。
【0009】
本発明において、第1の電圧印加部は、温度センサ部の出力電圧に基づいて第1の調整電圧を生成する第1の分圧回路と、第1の基準電圧を生成する第1の基準電圧源とをさらに含み、第1のバッファ回路は、第1の基準電圧に対して第1の調整電圧を加算又は減算することによって第1の制御電圧を生成しても構わない。これによれば、環境温度に応じた第1の調整電圧の変化量を第1の分圧回路の分圧比によって調整することが可能となる。
【0010】
本発明によるガスセンサは、第1のバッファ回路と温度センサ部の間に接続された第1のスイッチ回路と、第1のバッファ回路と第1の基準電圧源の間に接続された第2のスイッチ回路とをさらに備えていても構わない。これによれば、第1のヒータ抵抗に対して第1の制御電圧を間欠的に印加できることから、消費電力を低減することが可能となる。
【0011】
本発明によるガスセンサは、第3の測温体及び第3の測温体を加熱する第2のヒータ抵抗を含む第2のガスセンサ部と、第2のヒータ抵抗に第2の制御電圧を印加する第2の電圧印加部とをさらに備え、第1の測温体と第3の測温体は直列に接続され、第2の電圧印加部は、温度センサ部の出力電圧に基づいて第2の制御電圧をリニアに変化させる第2のバッファ回路を含み、第1の制御電圧と第2の制御電圧が互いに異なる値であり、これにより第1の測温体と第3の測温体が互いに異なる温度に加熱されるものであっっても構わない。これによれば、測定対象ガスの濃度に応じた検出信号を第1の測温体と第3の測温体の接続点から得ることが可能となる。
【0012】
本発明において、第2の電圧印加部は、温度センサ部の出力電圧に基づいて第2の調整電圧を生成する第2の分圧回路と、第2の基準電圧を生成する第2の基準電圧源とをさらに含み、第2のバッファ回路は、第2の基準電圧に対して第2の調整電圧を加算又は減算することによって第2の制御電圧を生成しても構わない。これによれば、環境温度に応じた第2の調整電圧の変化量を第2の分圧回路の分圧比によって調整することが可能となる。
【0013】
本発明において、第1の分圧回路と第2の分圧回路の分圧比が互いに異なっていても構わない。これによれば、環境温度に応じた第1及び第2の調整電圧の変化量をそれぞれ個別に設計することが可能となる。
【0014】
本発明によるガスセンサは、第2のバッファ回路と第2の基準電圧源の間に接続された第3のスイッチ回路をさらに備え、第1のスイッチ回路は、第1及び第2のバッファ回路と温度センサ部の間に接続されていても構わない。これによれば、第1及び第2のヒータ抵抗に対してそれぞれ第1及び第2の制御電圧を間欠的に印加できることから、消費電力を低減することが可能となる。
【0015】
本発明によるガスセンサは、第1のバッファ回路と第1のヒータ抵抗の間に接続され、第1の制御電圧を保持するサンプルホールド回路をさらに備えていても構わない。これによれば、第1のヒータ抵抗を用いた加熱中において第1の制御電圧を固定することが可能となる。
【0016】
本発明において、温度センサ部は、第2の測温体に対して直列に接続された第1の抵抗と、第2の測温体に対して並列に接続された第2の抵抗をさらに含み、出力電圧は、第2の測温体と第1の抵抗の接続点の電圧であっても構わない。これによれば、環境温度に応じた出力電圧の変化量を第1及び第2の抵抗の抵抗値によって調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明によるガスセンサによれば、デジタル処理を行うことなく、ヒータ抵抗に流す電流量を環境温度に応じて自動的に変化させることが可能となる。このため、回路規模を縮小しつつ、環境温度の変化に応じてヒータ抵抗に流す電流を高精度且つ高速に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態によるガスセンサ10Aの構成を示す回路図である。
【
図2】
図2は、センサ部Sの構成を説明するための上面図である。
【
図4】
図4は、環境温度と電圧Va,Vb,Vd,Vmh1の関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、環境温度と電圧Va,Vc,Ve,Vmh2の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、環境温度と電圧Vmh1,Vmh2,V
CO2の関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、第1の実施形態におけるスイッチ回路SW1~SW3の制御タイミングの一例を示すタイミング図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施形態によるガスセンサ10Bの構成を示す回路図である。
【
図9】
図9は、第2の実施形態におけるスイッチ回路SW1~SW3の制御タイミングの一例を示すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態によるガスセンサ10Aの構成を示す回路図である。
【0021】
図1に示すように、第1の実施形態によるガスセンサ10Aは、センサ部Sと信号処理回路20を備えている。特に限定されるものではないが、本実施形態によるガスセンサ10Aは、雰囲気中におけるCO
2ガスの濃度を検出するものである。
【0022】
センサ部Sは、検出対象ガスであるCO2ガスの濃度を検出するための熱伝導式のガスセンサであり、第1のガスセンサ部S1、第2のガスセンサ部S2及び温度センサ部S3を有している。第1のガスセンサ部S1は、第1の測温体であるサーミスタRd1及びこれを加熱するヒータ抵抗MH1からなる。同様に、第2のガスセンサ部S2は、第3の測温体であるサーミスタRd2及びこれを加熱するヒータ抵抗MH2からなる。一方、温度センサ部S3は、第2の測温体であるサーミスタRd3からなる。
【0023】
図1に示すように、サーミスタRd1,Rd2は、電源電位Vccが供給される配線と接地電位GNDが供給される配線との間に直列に接続されている。一方、サーミスタRd3と抵抗R1は、電源電位Vccが供給される配線と接地電位GNDが供給される配線との間に直列に接続されるとともに、サーミスタRd3に対して並列に抵抗R2が接続されている。サーミスタRd1~Rd3は、例えば、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウムなどの負の抵抗温度係数を持つ材料からなる。このうち、サーミスタRd1,Rd2はいずれもCO
2ガスの濃度を検出するものであるが、後述するように動作温度が互いに異なっている。
【0024】
サーミスタRd1は、ヒータ抵抗MH1によって加熱される。ヒータ抵抗MH1によるサーミスタRd1の加熱温度は例えば150℃である。サーミスタRd1を加熱した状態で測定雰囲気中にCO2ガスが存在すると、その濃度に応じてサーミスタRd1の放熱特性が変化する。かかる変化は、サーミスタRd1の抵抗値の変化となって現れる。サーミスタRd1の加熱温度が150℃である場合、サーミスタRd1の抵抗値は、CO2ガスの濃度に応じて第1の感度で変化する。第1の感度は、サーミスタRd1とサーミスタRd2の接続点に現れる検出電圧VCO2を十分に変化させることが可能な感度を有している。また、測定雰囲気中に水蒸気が存在すると、その濃度に応じてサーミスタRd1の放熱特性が変化する。
【0025】
サーミスタRd2は、ヒータ抵抗MH2によって加熱される。ヒータ抵抗MH2によるサーミスタRd2の加熱温度は例えば300℃である。サーミスタRd2を加熱した状態で測定雰囲気中にCO2ガスが存在しても、サーミスタRd2の抵抗値はほとんど変化しない。これは、サーミスタRd2の加熱温度が300℃である場合、サーミスタRd2の抵抗値は、CO2ガスの濃度に応じて第2の感度で変化するものの、第2の感度は第1の感度よりも大幅に低く、好ましくは第1の感度の1/10以下、より好ましくはほぼゼロだからである。このため、CO2ガスの濃度が変化しても、サーミスタRd2の抵抗値はほとんど変化しない。一方、測定雰囲気中に水蒸気が存在すると、その濃度に応じてサーミスタRd2の放熱特性が変化する。
【0026】
上述の通り、サーミスタRd1とサーミスタRd2は直列に接続されており、その接続点から検出電圧VCO2が出力される。一方、サーミスタRd3と抵抗R1の接続点からは、温度センサ部S3の出力電圧Vaが出力される。尚、温度センサ部S3に抵抗R2を設けることは必須でないが、サーミスタRd3に対して抵抗R2を並列に接続することにより、温度変化に対する出力電圧Vaの直線性を高めることが可能となる。検出電圧VCO2及び出力電圧Vaは、信号処理回路20に入力される。
【0027】
信号処理回路20は、電圧印加部V1,V2、バッファ25、差動アンプ26、ADコンバータ(ADC)27、DAコンバータ(DAC)28、制御部29及びスイッチ回路SW1~SW3を備えている。バッファ25は、出力電圧Vaをバッファリングすることによって温度信号Vtempを生成する。また、差動アンプ26は、検出電圧VCO2とリファレンス電圧Vrefを比較し、その差を増幅する。バッファ25から出力される温度信号Vtemp及び差動アンプ26から出力されるガス検出信号Vampは、ADコンバータ27に入力される。
【0028】
ADコンバータ27は温度信号Vtemp及びガス検出信号Vampをデジタル変換し、その値を制御部29に供給する。一方、DAコンバータ28は、制御部29から供給されるリファレンス信号をアナログ変換することによってリファレンス電圧Vrefを生成する。制御部29は、デジタル変換されたガス検出信号Vampに基づいて、現在のCO2ガスの濃度を示す出力信号Voutを生成する。また、制御部29は、スイッチ回路SW1~SW3の制御も行う。
【0029】
電圧印加部V1は、ヒータ抵抗MH1に印加する制御電圧Vmh1を生成するための回路であり、分圧回路21、基準電圧源23及びアナログバッファA1を含んでいる。同様に、電圧印加部V2は、ヒータ抵抗MH2に印加する制御電圧Vmh2を生成するための回路であり、分圧回路22、基準電圧源24及びアナログバッファA2を含んでいる。
【0030】
電圧印加部V1に含まれる分圧回路21は、スイッチ回路SW3がオン状態である場合に調整電圧Vbを生成する。分圧回路21は抵抗R3,R4が直列に接続された構成を有しており、抵抗R3,R4の接続点から調整電圧Vbが得られる。調整電圧VbはアナログバッファA1に供給される。また、基準電圧源23は、基準電圧Vdを生成する。基準電圧Vdは、スイッチ回路SW1がオン状態である場合にアナログバッファA1に供給される。アナログバッファA1は、基準電圧Vdから調整電圧Vbを減算することによって制御電圧Vmh1を生成する(Vmh1=Vd-Vb)。制御電圧Vmh1はヒータ抵抗MH1に印加される。
【0031】
電圧印加部V2に含まれる分圧回路22は、スイッチ回路SW3がオン状態である場合に調整電圧Vcを生成する。分圧回路22は抵抗R5,R6が直列に接続された構成を有しており、抵抗R5,R6の接続点から調整電圧Vcが得られる。調整電圧VcはアナログバッファA2に供給される。また、基準電圧源24は、基準電圧Veを生成する。基準電圧Veは、スイッチ回路SW2がオン状態である場合にアナログバッファA2に供給される。アナログバッファA2は、基準電圧Veから調整電圧Vcを減算することによって制御電圧Vmh2を生成する(Vmh2=Ve-Vc)。制御電圧Vmh2はヒータ抵抗MH2に印加される。
【0032】
図2は、センサ部Sの構成を説明するための上面図である。また、
図3は、
図2に示すA-A線に沿った断面図である。尚、図面は模式的なものであり、説明の便宜上、厚みと平面寸法との関係、デバイス相互間の厚みの比率などは、本実施形態の効果が得られる範囲内で現実の構造とは異なっていても構わない。
【0033】
センサ部Sは、CO
2ガスの濃度に応じた放熱特性の変化に基づいてガス濃度を検出する熱伝導式のガスセンサであり、
図2及び
図3に示すように、2つのガスセンサ部S1,S2と、ガスセンサ部S1とガスセンサ部S2の間に配置された温度センサ部S3と、これらセンサ部S1~S3を収容するセラミックパッケージ51を備えている。
【0034】
セラミックパッケージ51は、上部が開放された箱形のケースであり、上部にはリッド52が設けられている。リッド52は複数の通気口53を有しており、これにより、雰囲気中のCO
2ガスがセラミックパッケージ51内に流入可能とされている。尚、図面の見やすさを考慮して、
図2においてはリッド52が省略されている。
【0035】
特に限定されるものではないが、本実施形態においては単一の基板61上に3つのセンサ部S1~S3が集積されている。基板61には、3つのセンサ部S1~S3にそれぞれ対応する3つのキャビティ61a~61cが形成されている。
【0036】
基板61は、絶縁膜62,63と、絶縁膜63上に設けられたヒータ抵抗MH1,MH2と、ヒータ抵抗MH1,MH2を覆うヒータ保護膜64と、キャビティ61a~61cと重なる位置においてそれぞれヒータ保護膜64上に設けられたサーミスタRd1~Rd3及びサーミスタ電極35,45,65と、サーミスタRd1~Rd3及びサーミスタ電極35,45,65を覆うサーミスタ保護膜66とを備える。
【0037】
基板61は、適度な機械的強度を有し、且つ、エッチングなどの微細加工に適した材質であれば特に限定されるものではなく、シリコン単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミック基板、石英基板、ガラス基板などを用いることができる。絶縁膜62,63は、酸化シリコン又は窒化シリコンなどの絶縁材料からなる。ヒータ抵抗MH1,MH2は、比較的高融点の材料からなる金属材料、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。サーミスタRd1~Rd3は、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウムなどの負の抵抗温度係数を持つ材料からなる。ここで、測温体としてサーミスタを用いているのは、白金測温体などに比べて抵抗温度係数が大きいことから、大きな検出感度を得ることができるためである。ヒータ保護膜64の材料としては、絶縁膜63と同じ材料を用いることができる。
【0038】
サーミスタ電極35,45,65は、所定の間隔を持った一対の電極であり、一対のサーミスタ電極35間にサーミスタRd1が設けられ、一対のサーミスタ電極45間にサーミスタRd2が設けられ、一対のサーミスタ電極65間にサーミスタRd3が設けられる。これにより、一対のサーミスタ電極35,45,65間における抵抗値は、それぞれサーミスタRd1~Rd3の抵抗値によって決まる。サーミスタ電極35,45,65の材料としては、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。
【0039】
図2に示すように、ヒータ抵抗MH1の両端は電極パッド37a,37bにそれぞれ接続され、ヒータ抵抗MH2の両端は電極パッド47a,47bにそれぞれ接続される。また、サーミスタ電極35の両端は電極パッド37c,37dにそれぞれ接続され、サーミスタ電極45の両端は電極パッド47c,47dにそれぞれ接続され、サーミスタ電極65の両端は電極パッド67a,67bにそれぞれ接続される。これらの電極パッドは、ボンディングワイヤ55を介して、セラミックパッケージ51に設けられたパッケージ電極54に接続される。パッケージ電極54は、セラミックパッケージ51の裏面に設けられた外部端子56を介して、
図1に示す信号処理回路20に接続される。
【0040】
以上が本実施形態によるガスセンサ10Aの構成である。次に、本実施形態によるガスセンサ10Aの動作について説明する。
【0041】
本実施形態によるガスセンサ10Aは、CO2ガスの熱伝導率が空気の熱伝導率と大きく異なっている点を利用し、CO2ガスの濃度によるサーミスタRd1,Rd2の放熱特性の変化をガス検出電圧VCO2として取り出す。しかしながら、測定雰囲気の熱伝導率は、CO2ガスの濃度だけでなく、湿度、つまり水蒸気の濃度によっても変化するため、湿度の影響が測定誤差となってしまう。そこで、本実施形態によるガスセンサ10Aは、ヒータ抵抗MH1を用いてサーミスタRd1を例えば150℃に加熱し、ヒータ抵抗MH2を用いてサーミスタRd2を例えば300℃に加熱している。加熱温度が150℃である場合、CO2ガスの濃度に応じてサーミスタRd1の放熱特性が大きく変化するのに対し、加熱温度が300℃である場合、CO2ガスの濃度に応じたサーミスタRd2の放熱特性はほとんど変化しない。一方、加熱温度が150℃である場合も300℃である場合も、湿度によってサーミスタRd1,Rd2の放熱特性が変化することから、サーミスタRd1,Rd2を直列に接続することによって、湿度の影響をキャンセルすることができる。ここで、湿度に対するサーミスタRd1,Rd2の感度に差がある場合には、サーミスタRd1又はサーミスタRd2に対して並列に補正抵抗を接続することによって、感度差を低減することが可能である。
【0042】
さらに、本実施形態によるガスセンサ10Aは、環境温度が変化しても、ヒータ抵抗MH1,MH2にそれぞれ印加する制御電圧Vmh1,Vmh2のレベルが電圧印加部V1,V2によって自動調整される。
【0043】
図4は環境温度と電圧Va,Vb,Vd,Vmh1の関係を示すグラフであり、
図5は環境温度と電圧Va,Vc,Ve,Vmh2の関係を示すグラフである。
【0044】
図4に示すように、環境温度が高くなると、サーミスタRd3の抵抗値が低くなるため、温度センサ部S3の出力電圧Vaが上昇する。出力電圧Vaは、分圧回路21によって所定の分圧比で分圧され、調整電圧Vbが生成される。調整電圧Vbも環境温度に応じて高くなるが、分圧回路21によって分圧されているため、調整電圧Vbのレベル及び環境温度に応じた変化は、出力電圧Vaよりも小さくなる。そして、アナログバッファA1によって基準電圧Vdから調整電圧Vbが減算され(Vd-Vb)、制御電圧Vmh1が生成される。これにより、制御電圧Vmh1のレベルは環境温度が高くなるほど低くなるため、環境温度に関わらず、サーミスタRd1を一定の温度(例えば150℃)で加熱することが可能となる。
【0045】
同様に、出力電圧Vaは分圧回路22によって所定の分圧比で分圧され、調整電圧Vcが生成される。
図5に示すように、調整電圧Vcも環境温度に応じて高くなるが、分圧回路22によって分圧されているため、調整電圧Vcのレベル及び環境温度に応じた変化は、出力電圧Vaよりも小さくなる。そして、アナログバッファA2によって基準電圧Veから調整電圧Vcが減算され(Ve-Vc)、制御電圧Vmh2が生成される。これにより、制御電圧Vmh2のレベルは環境温度が高くなるほど低くなるため、環境温度に関わらず、サーミスタRd2を一定の温度(例えば300℃)で加熱することが可能となる。
【0046】
図6は、環境温度と電圧Vmh1,Vmh2,V
CO2の関係を示すグラフである。
【0047】
図6に示す制御電圧Vmh1,Vmh2の変化は
図4及び
図5と同じであり、環境温度が高くなるほど低くなる。これにより、環境温度に関わらず、サーミスタRd1,Rd2がそれぞれ所望の一定温度で加熱されることから、測定雰囲気中に含まれるCO
2ガスの濃度が一定であれば、環境温度に関わらずガス検出電圧V
CO2のレベルは一定となる。
【0048】
このように、本実施形態によれば、環境温度に関わらず、サーミスタRd1,Rd2をそれぞれ所望の一定温度で加熱することが可能となる。しかも、温度変化に応じた制御電圧Vmh1,Vmh2の調整をデジタル処理によって行うのではなく、分圧回路及びアナログバッファを用いてリニアに行っていることから、DAコンバータやADコンバータの分解能に起因する制御電圧Vmh1,Vmh2の誤差が生じないだけでなく、制御電圧Vmh1,Vmh2の調整を極めて高速に行うことが可能となる。
【0049】
図7は、スイッチ回路SW1~SW3の制御タイミングの一例を示すタイミング図である。
図7に示す例では、スイッチ回路SW1~SW3を同時且つ間欠的にオンさせることにより、調整電圧Vb,Vcを間欠的に生成するとともに、基準電圧Vd,VeをアナログバッファA1,A2に間欠的に入力している。これにより、調整電圧Vb,Vc及び基準電圧Vd,Veが発生している期間にのみ制御電圧Vmh1,Vmh2が生成されることから、消費電力を低減することが可能となる。
【0050】
図8は、本発明の第2の実施形態によるガスセンサ10Bの構成を示す回路図である。
【0051】
図8に示すように、第2の実施形態によるガスセンサ10Bは、サンプルホールド回路SH1,SH2が追加されている点において、
図1に示した第1の実施形態によるガスセンサ10Aと相違している。その他の基本的な構成は、第1の実施形態によるガスセンサ10Aと同一であることから、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0052】
サンプルホールド回路SH1は、アナログバッファA1とヒータ抵抗MH1の間に接続されており、制御部29による制御によって、制御電圧Vmh1のサンプリング動作及びホールド動作を行う。同様に、サンプルホールド回路SH2は、アナログバッファA2とヒータ抵抗MH2の間に接続されており、制御部29による制御によって、制御電圧Vmh2のサンプリング動作及びホールド動作を行う。
【0053】
図9は、第2の実施形態におけるスイッチ回路SW1~SW3の制御タイミングの一例を示すタイミング図である。
図9に示す例では、
図7に示した例と比べてスイッチ回路SW1~SW3のオン時間が短縮されているとともに、スイッチ回路SW1~SW3がオンしている期間にサンプルホールド回路SH1,SH2によるサンプリング動作が行われている。そして、サンプリング動作を行った後、一定期間ホールド動作を行うことによって、サンプリングした制御電圧Vmh1,Vmh2を出力する。これによれば、ヒータ抵抗MH1,MH2による加熱動作によって温度センサ部S3の出力電圧Vaが変化(上昇)しても、制御電圧Vmh1,Vmh2をそれぞれ一定に保つことが可能となる。また、ホールド期間中に環境温度が変化した場合であっても、制御電圧Vmh1,Vmh2がそれぞれ一定に保たれることから、安定した制御を行うことが可能となる。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0055】
例えば、上記実施形態では、測定対象ガスがCO2ガスである場合を例に説明したが、本発明がこれに限定されるものではない。また、本発明において使用するセンサ部が熱伝導式のセンサであることは必須でなく、接触燃焼式など他の方式のセンサであっても構わない。
【0056】
また、上記実施形態では、アナログバッファによって基準電圧から調整電圧を減算しているが、基準電圧と調整電圧を加算しても構わない。例えば、温度センサ部S3に白金測温体など正の抵抗温度係数を持つ材料を用いたり、或いは、サーミスタRd3と抵抗R1の位置を入れ替えたりする場合のように、環境温度が高くなるほど出力電圧Vaが低くなるよう設計した場合には、アナログバッファによって基準電圧と調整電圧を加算することにより、ヒータ抵抗を一定の温度で加熱することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
10A,10B ガスセンサ
20 信号処理回路
21,22 分圧回路
23,24 基準電圧源
25 バッファ
26 差動アンプ
27 ADコンバータ
28 DAコンバータ
29 制御部
35,45,65 サーミスタ電極
37a~37d,47a~47d,67a,67b 電極パッド
51 セラミックパッケージ
52 リッド
53 通気口
54 パッケージ電極
55 ボンディングワイヤ
56 外部端子
61 基板
61a~61c キャビティ
62,63 絶縁膜
64 ヒータ保護膜
65 サーミスタ電極
66 サーミスタ保護膜
A1,A2 アナログバッファ(バッファ回路)
MH1,MH2 ヒータ抵抗
R1~R6 抵抗
Rd1~Rd3 サーミスタ
S センサ部
S1 第1のガスセンサ部
S2 第2のガスセンサ部
S3 温度センサ部
SH1,SH2 サンプルホールド回路
SW1~SW3 スイッチ回路
V1,V2 電圧印加部