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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/18 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
G01N27/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019218000
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021089156
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】海田 佳生
(72)【発明者】
【氏名】松尾 裕
(72)【発明者】
【氏名】田邊 圭
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-278749(JP,A)
【文献】特開2019-060848(JP,A)
【文献】特開昭61-278750(JP,A)
【文献】特開昭62-002148(JP,A)
【文献】特開2012-244679(JP,A)
【文献】特開2014-215073(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135100(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0353607(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電源に接続され、検出対象ガスの濃度に応じて抵抗値が変化する第1の測温体を含む第1のガスセンサ部と、
前記第1のガスセンサ部から出力される検出電圧に基づいて、前記検出対象ガスの濃度を示す出力信号を算出する信号処理回路と、を備え、
前記信号処理回路は、前記第1の電源の電圧を分圧する分圧回路を含み、
前記信号処理回路は、前記分圧回路から出力される分圧電圧に応じて前記出力信号を補正することを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記信号処理回路は、キャリブレーション動作時に取得した前記分圧電圧と、測定動作時に取得した前記分圧電圧の差又は比に応じて、前記出力信号を補正することを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記信号処理回路は、キャリブレーション動作時に取得した前記検出電圧と前記分圧電圧の差又は比に応じて、前記出力信号の補正量を調整することを特徴とする請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記第1の電源に接続され、環境温度に応じて抵抗値が変化する第2の測温体を含む温度センサ部をさらに備え、
前記第1のガスセンサ部は、前記第1の測温体を加熱する第1のヒータ抵抗をさらに含み、
前記信号処理回路は、前記温度センサ部の出力電圧と前記第1の電源の電圧に応じて、前記第1のヒータ抵抗に印加する第1の制御電圧を算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記温度センサ部は、前記第1の電源と接地電位の間に直列に接続された前記第2の測温体と第1の抵抗を含み、
前記分圧回路は、前記第1の電源と接地電位の間に直列に接続された第2及び第3の抵抗を含み、
前記温度センサ部から出力される前記出力電圧は、前記第2の測温体と前記第2の抵抗の接続点から出力され、
前記分圧回路から出力される前記分圧電圧は、前記第2の抵抗と前記第3の抵抗の接続点から出力され、
前記第1乃至第3の抵抗の抵抗値の差が1%以下であることを特徴とする請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
第3の測温体と、前記第3の測温体を加熱する第2のヒータ抵抗を含む第2のガスセンサ部をさらに備え、
前記第1の測温体と前記第3の測温体は、前記第1の電源と接地電位の間に直列に接続され、
前記検出電圧は、前記第1の測温体と前記第3の測温体の接続点から出力され、
前記信号処理回路は、前記温度センサ部の出力電圧と前記第1の電源の電圧に応じて、前記第2のヒータ抵抗に印加する第2の制御電圧を算出し、
前記第1の制御電圧と前記第2の制御電圧が互いに異なる値であり、これにより前記第1の測温体と前記第3の測温体が互いに異なる温度に加熱されることを特徴とする請求項4又は5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記信号処理回路は、前記第1の電源とは異なる第2の電源によって動作し、
前記第1の電源の電圧は、前記第2の電源の電圧よりも高いことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気中に含まれるガスを検出するガスセンサに関し、特に、検出電圧に基づいて検出対象ガスの濃度を示す出力信号を算出するガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、雰囲気中に含まれる測定対象ガスの濃度を検出するものであり、中でも、ヒータ抵抗によってサーミスタなどの測温体を加熱するタイプのガスセンサは小型化に優れている。例えば、特許文献1に記載されたガスセンサは、排ガス側電極、基準ガス側電極及びヒータを備えており、電源電圧の変化に応じて制御デューティ比を変化させることにより、ヒータ通電の制御性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-50226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電源電圧が変化すると、センサ素子から出力される検出電圧も変化することから、検出電圧に基づいて検出対象ガスの濃度を示す出力信号をそのまま算出すると、電源電圧の変動に起因する誤差が生じるという問題があった。
【0005】
したがって、本発明は、検出電圧に基づいて検出対象ガスの濃度を示す出力信号を算出するタイプのガスセンサにおいて、電源電圧が変動した場合であっても、検出対象ガスの濃度を示す出力信号を正しく算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるガスセンサは、第1の電源に接続され、測定対象ガスの濃度に応じて抵抗値が変化する第1の測温体を含む第1のガスセンサ部と、第1のガスセンサ部から出力される検出電圧に基づいて、検出対象ガスの濃度を示す出力信号を算出する信号処理回路とを備え、信号処理回路は、第1の電源の電圧に応じて出力信号を補正することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、第1の電源の電圧に応じて出力信号を補正していることから、第1の電源の電圧が変動した場合であっても、検出対象ガスの濃度を示す出力信号を正しく算出することが可能となる。
【0008】
本発明において、信号処理回路は第1の電源の電圧を分圧する分圧回路を含み、信号処理回路は、分圧回路から出力される分圧電圧に応じて出力信号を補正しても構わない。これによれば、第1の電源の電圧が高い場合であっても、現在の電圧値を正しく把握することが可能となる。
【0009】
本発明において、信号処理回路は、キャリブレーション動作時に取得した分圧電圧と、測定動作時に取得した分圧電圧の差又は比に応じて、出力信号を補正しても構わない。これによれば、測定動作時の電圧に応じた補正を行うことが可能となる。
【0010】
本発明において、信号処理回路は、キャリブレーション動作時に取得した検出電圧と分圧電圧の差又は比に応じて、出力信号の補正量を調整しても構わない。これによれば、より正確な補正が可能となる。
【0011】
本発明によるガスセンサは、第1の電源に接続され、環境温度に応じて抵抗値が変化する第2の測温体を含む温度センサ部をさらに備え、第1のガスセンサ部は、第1の測温体を加熱する第1のヒータ抵抗をさらに含み、信号処理回路は、温度センサ部の出力電圧と第1の電源の電圧に応じて、第1のヒータ抵抗に印加する第1の制御電圧を算出しても構わない。これによれば、電源電圧に応じた適切な制御電圧を第1のヒータ抵抗に印加することが可能となる。
【0012】
本発明において、温度センサ部は、第1の電源と接地電位の間に直列に接続された第2の測温体と第1の抵抗を含み、分圧回路は、第1の電源と接地電位の間に直列に接続された第2及び第3の抵抗を含み、温度センサ部から出力される出力電圧は、第2の測温体と第2の抵抗の接続点から出力され、分圧回路から出力される分圧電圧は、第2の抵抗と第3の抵抗の接続点から出力され、第1乃至第3の抵抗の抵抗値の差が1%以下であっても構わない。これによれば、抵抗値のばらつきに起因する誤差を低減することが可能となる。
【0013】
本発明によるガスセンサは、第3の測温体と第3の測温体を加熱する第2のヒータ抵抗を含む第2のガスセンサ部をさらに備え、第1の測温体と第3の測温体は、第1の電源と接地電位の間に直列に接続され、検出電圧は、第1の測温体と第3の測温体の接続点から出力され、信号処理回路は、温度センサ部の出力電圧と第1の電源の電圧に応じて、第2のヒータ抵抗に印加する第2の制御電圧を算出し、第1の制御電圧と第2の制御電圧が互いに異なる値であり、これにより第1の測温体と第3の測温体が互いに異なる温度に加熱されるものであっっても構わない。これによれば、測定対象ガスの濃度に応じた検出信号を第1の測温体と第3の測温体の接続点から得ることが可能となる。
【0014】
本発明において、信号処理回路は第1の電源とは異なる第2の電源によって動作し、第1の電源の電圧は、第2の電源の電圧よりも高くても構わない。これによれば、高い検出感度を得ることができるとともに、消費電力を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によるガスセンサによれば、電源電圧が変動した場合であっても、検出対象ガスの濃度を示す出力信号を正しく算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の一実施形態によるガスセンサ10の構成を示す回路図である。
図2図2は、センサ部Sの構成を説明するための上面図である。
図3図3は、図2に示すA-A線に沿った断面図である。
図4図4は、ガスセンサ10の動作を説明するためのフローチャートである。
図5図5は、環境温度と制御電圧Vmh1,Vmh2の関係を示すグラフである。
図6図6は、電源電位Vcc1の変動とCOガスの検出誤差との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態によるガスセンサ10の構成を示す回路図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態によるガスセンサ10は、センサ部Sと信号処理回路20を備えている。特に限定されるものではないが、本実施形態によるガスセンサ10は、雰囲気中におけるCOガスの濃度を検出するものである。
【0020】
センサ部Sは、検出対象ガスであるCOガスの濃度を検出するための熱伝導式のガスセンサであり、第1のガスセンサ部S1、第2のガスセンサ部S2及び温度センサ部S3を有している。第1のガスセンサ部S1は、第1の測温体であるサーミスタRd1及びこれを加熱するヒータ抵抗MH1からなる。同様に、第2のガスセンサ部S2は、第3の測温体であるサーミスタRd2及びこれを加熱するヒータ抵抗MH2からなる。一方、温度センサ部S3は、第2の測温体であるサーミスタRd3からなる。
【0021】
図1に示すように、サーミスタRd1,Rd2は、電源電位Vcc1が供給される配線と接地電位GNDが供給される配線との間に直列に接続されている。一方、サーミスタRd3と抵抗R1は、電源電位Vcc1が供給される配線と接地電位GNDが供給される配線との間に直列に接続されている。サーミスタRd1~Rd3は、例えば、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウムなどの負の抵抗温度係数を持つ材料からなる。このうち、サーミスタRd1,Rd2はいずれもCOガスの濃度を検出するものであるが、後述するように動作温度が互いに異なっている。
【0022】
サーミスタRd1は、ヒータ抵抗MH1によって加熱される。ヒータ抵抗MH1によるサーミスタRd1の加熱温度は例えば150℃である。サーミスタRd1を加熱した状態で測定雰囲気中にCOガスが存在すると、その濃度に応じてサーミスタRd1の放熱特性が変化する。かかる変化は、サーミスタRd1の抵抗値の変化となって現れる。サーミスタRd1の加熱温度が150℃である場合、サーミスタRd1の抵抗値は、COガスの濃度に応じて第1の感度で変化する。第1の感度は、サーミスタRd1とサーミスタRd2の接続点に現れる検出電圧VCO2を十分に変化させることが可能な感度を有している。また、測定雰囲気中に水蒸気が存在すると、その濃度に応じてサーミスタRd1の放熱特性が変化する。
【0023】
サーミスタRd2は、ヒータ抵抗MH2によって加熱される。ヒータ抵抗MH2によるサーミスタRd2の加熱温度は例えば300℃である。サーミスタRd2を加熱した状態で測定雰囲気中にCOガスが存在しても、サーミスタRd2の抵抗値はほとんど変化しない。これは、サーミスタRd2の加熱温度が300℃である場合、サーミスタRd2の抵抗値は、COガスの濃度に応じて第2の感度で変化するものの、第2の感度は第1の感度よりも大幅に低く、好ましくは第1の感度の1/10以下、より好ましくはほぼゼロだからである。このため、COガスの濃度が変化しても、サーミスタRd2の抵抗値はほとんど変化しない。一方、測定雰囲気中に水蒸気が存在すると、その濃度に応じてサーミスタRd2の放熱特性が変化する。
【0024】
上述の通り、サーミスタRd1とサーミスタRd2は直列に接続されており、その接続点から検出電圧VCO2が出力される。一方、サーミスタRd3と抵抗R1の接続点からは、温度センサ部S3の出力電圧Vaが出力される。検出電圧VCO2及び出力電圧Vaは、信号処理回路20に入力される。
【0025】
信号処理回路20は、分圧回路21、バッファ22、差動アンプ23、ADコンバータ(ADC)24、DAコンバータ(DAC)25及び制御部26を備えている。分圧回路21は、電源電位Vcc1が供給される配線と接地電位GNDが供給される配線との間に直列に接続された抵抗R2,R3からなり、抵抗R2と抵抗R3の接続点から分圧電圧1/2Vcc_inが出力される。信号処理回路20を構成するその他の回路には、電源電位Vcc1とは異なる電源電位Vcc2が供給され、電源電位Vcc2と接地電位GNDの間の電圧によって動作する。特に限定されるものではないが、電源電位Vcc1は電源電位Vcc2よりも高い。一例として、電源電位Vcc1は3Vであり、電源電位Vcc2は1.8Vである。このように、Vcc1>Vcc2であれば、センサ部Sの検出感度が高められるとともに、信号処理回路20の消費電力を抑えることが可能となる。電源電位Vcc1が高いと電圧変動が生じやすくなるが、後述するように、本実施形態においては、電源電位Vcc1の電圧変動に起因する測定誤差がキャンセルされる。
【0026】
バッファ22は、出力電圧Vaをバッファリングすることによって温度信号Vtempを生成する。また、差動アンプ23は、検出電圧VCO2とリファレンス電圧Vrefを比較し、その差を増幅する。バッファ22から出力される温度信号Vtemp及び差動アンプ23から出力されるガス検出信号Vampは、ADコンバータ24に入力される。
【0027】
ADコンバータ24は、分圧電圧1/2Vcc_inの値、温度信号Vtemp及びガス検出信号Vampをデジタル変換し、その値を制御部26に供給する。一方、DAコンバータ25は、制御部26から供給されるリファレンス信号をアナログ変換することによってリファレンス電圧Vref、制御電圧Vmh1,Vmh2を生成する。制御部26は、デジタル変換されたガス検出信号Vampに基づいて、現在のCOガスの濃度を示す出力信号Voutを算出する。詳細については後述するが、出力信号Voutの算出においては、現在の分圧電圧1/2Vcc_inに応じた補正が行われる。また、制御電圧Vmh1,Vmh2のレベルは、温度信号Vtempを用いて算出される。
【0028】
図2は、センサ部Sの構成を説明するための上面図である。また、図3は、図2に示すA-A線に沿った断面図である。尚、図面は模式的なものであり、説明の便宜上、厚みと平面寸法との関係、デバイス相互間の厚みの比率などは、本実施形態の効果が得られる範囲内で現実の構造とは異なっていても構わない。
【0029】
センサ部Sは、COガスの濃度に応じた放熱特性の変化に基づいてガス濃度を検出する熱伝導式のガスセンサであり、図2及び図3に示すように、2つのガスセンサ部S1,S2と、ガスセンサ部S1とガスセンサ部S2の間に配置された温度センサ部S3と、これらセンサ部S1~S3を収容するセラミックパッケージ51を備えている。
【0030】
セラミックパッケージ51は、上部が開放された箱形のケースであり、上部にはリッド52が設けられている。リッド52は複数の通気口53を有しており、これにより、雰囲気中のCOガスがセラミックパッケージ51内に流入可能とされている。尚、図面の見やすさを考慮して、図2においてはリッド52が省略されている。
【0031】
特に限定されるものではないが、本実施形態においては単一の基板61上に3つのセンサ部S1~S3が集積されている。基板61には、3つのセンサ部S1~S3にそれぞれ対応する3つのキャビティ61a~61cが形成されている。
【0032】
基板61は、絶縁膜62,63と、絶縁膜63上に設けられたヒータ抵抗MH1,MH2と、ヒータ抵抗MH1,MH2を覆うヒータ保護膜64と、キャビティ61a~61cと重なる位置においてそれぞれヒータ保護膜64上に設けられたサーミスタRd1~Rd3及びサーミスタ電極35,45,65と、サーミスタRd1~Rd3及びサーミスタ電極35,45,65を覆うサーミスタ保護膜66とを備える。
【0033】
基板61は、適度な機械的強度を有し、且つ、エッチングなどの微細加工に適した材質であれば特に限定されるものではなく、シリコン単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミック基板、石英基板、ガラス基板などを用いることができる。絶縁膜62,63は、酸化シリコン又は窒化シリコンなどの絶縁材料からなる。ヒータ抵抗MH1,MH2は、比較的高融点の材料からなる金属材料、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。サーミスタRd1~Rd3は、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウムなどの負の抵抗温度係数を持つ材料からなる。ここで、測温体としてサーミスタを用いているのは、白金測温体などに比べて抵抗温度係数が大きいことから、大きな検出感度を得ることができるためである。ヒータ保護膜64の材料としては、絶縁膜63と同じ材料を用いることができる。
【0034】
サーミスタ電極35,45,65は、所定の間隔を持った一対の電極であり、一対のサーミスタ電極35間にサーミスタRd1が設けられ、一対のサーミスタ電極45間にサーミスタRd2が設けられ、一対のサーミスタ電極65間にサーミスタRd3が設けられる。これにより、一対のサーミスタ電極35,45,65間における抵抗値は、それぞれサーミスタRd1~Rd3の抵抗値によって決まる。サーミスタ電極35,45,65の材料としては、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれら何れか2種以上を含む合金などが好適である。
【0035】
図2に示すように、ヒータ抵抗MH1の両端は電極パッド37a,37bにそれぞれ接続され、ヒータ抵抗MH2の両端は電極パッド47a,47bにそれぞれ接続される。また、サーミスタ電極35の両端は電極パッド37c,37dにそれぞれ接続され、サーミスタ電極45の両端は電極パッド47c,47dにそれぞれ接続され、サーミスタ電極65の両端は電極パッド67a,67bにそれぞれ接続される。これらの電極パッドは、ボンディングワイヤ55を介して、セラミックパッケージ51に設けられたパッケージ電極54に接続される。パッケージ電極54は、セラミックパッケージ51の裏面に設けられた外部端子56を介して、図1に示す信号処理回路20に接続される。
【0036】
以上が本実施形態によるガスセンサ10の構成である。次に、本実施形態によるガスセンサ10の動作について説明する。
【0037】
本実施形態によるガスセンサ10は、COガスの熱伝導率が空気の熱伝導率と大きく異なっている点を利用し、COガスの濃度によるサーミスタRd1,Rd2の放熱特性の変化をガス検出電圧VCO2として取り出す。しかしながら、測定雰囲気の熱伝導率は、COガスの濃度だけでなく、湿度、つまり水蒸気の濃度によっても変化するため、湿度の影響が測定誤差となってしまう。そこで、本実施形態によるガスセンサ10は、ヒータ抵抗MH1を用いてサーミスタRd1を例えば150℃に加熱し、ヒータ抵抗MH2を用いてサーミスタRd2を例えば300℃に加熱している。加熱温度が150℃である場合、COガスの濃度に応じてサーミスタRd1の放熱特性が大きく変化するのに対し、加熱温度が300℃である場合、COガスの濃度に応じたサーミスタRd2の放熱特性はほとんど変化しない。一方、加熱温度が150℃である場合も300℃である場合も、湿度によってサーミスタRd1,Rd2の放熱特性が変化することから、サーミスタRd1,Rd2を直列に接続することによって、湿度の影響をキャンセルすることができる。ここで、湿度に対するサーミスタRd1,Rd2の感度に差がある場合には、サーミスタRd1又はサーミスタRd2に対して並列に補正抵抗を接続することによって、感度差を低減することが可能である。
【0038】
また、本実施形態によるガスセンサ10は、環境温度が変化しても、サーミスタRd1,Rd2の加熱温度がそれぞれ一定となるよう、温度信号Vtemp及び現在の分圧電圧1/2Vcc_inに基づいて制御電圧Vmh1,Vmh2のレベルが調整される。さらに、本実施形態によるガスセンサ10は、出力信号Voutの算出においても、電源電位Vcc1の変動の影響がキャンセルされるよう、現在の分圧電圧1/2Vcc_inに応じた補正が行われる。
【0039】
図4は、本実施形態によるガスセンサ10の動作を説明するためのフローチャートである。
【0040】
ガスセンサ10の動作においては、まずキャリブレーション動作が行われる(ステップS10)。キャリブレーション動作は、環境温度、湿度、測定対象ガスの濃度が安定した状態で、分圧電圧1/2Vcc_inとガス検出信号Vampを読み込み、所定の演算を行う動作である。キャリブレーション動作は、ガスセンサ10の起動時に実行する他、起動後においても一定期間ごとに実行しても構わない。キャリブレーション動作においては、まず、分圧電圧1/2Vcc_inとガス検出信号VampをADコンバータ24によってデジタル変換し、分圧電圧1/2Vcc_inの初期レベルを保存するとともに(ステップS11)、制御部26によって電圧比Aを算出する(ステップS12)。電圧比Aは、分圧電圧1/2Vcc_inと検出電圧VCO2の比(1/2Vcc_in÷VCO2)を算出することにより行う。電圧比Aを算出する代わりに、分圧電圧1/2Vcc_inと検出電圧VCO2の差を算出しても構わない。検出電圧VCO2は、制御部26によって式(1)の演算を行うことによって算出することができる。
CO2=(Vamp-Vref)/AMP+Vref ・・・(1)
ここで「AMP」は、差動アンプ23の増幅比である。算出された電圧比Aは、制御部26の内部に保存される(ステップS13)。
【0041】
一連のキャリブレーション動作(ステップS10)が完了した後、実際に測定対象ガスの濃度を測定する測定動作を行う(ステップS20)。測定動作は、所定期間ごとに間欠的に行っても構わない。測定動作においては、まず、分圧電圧1/2Vcc_inの読み込みを行う(ステップS21)。分圧電圧1/2Vcc_inのレベルは、理想的にはキャリブレーション動作時に取得した初期レベルと同じであるが、電源電位Vcc1に変動が生じている場合、両者間に電位差が生じるため、かかる電位差Vdifを算出する(ステップS22)。電位差Vdifの代わりに、ステップS11で保存した分圧電圧1/2Vcc_inとステップS21で読み込まれた分圧電圧1/2Vcc_inの比を用いても構わない。次に、読み込まれた分圧電圧1/2Vcc_inの値を2倍することによって、現在の電源電位Vcc1のレベルを算出する(ステップS23)。
【0042】
次に、温度信号Vtempを読み込み(ステップS24)、ステップS23で算出した電源電位Vcc1のレベルと、ステップS24で読み込んだ温度信号Vtempのレベルに基づいて、温度値Taを算出する(ステップS25)。温度値Taの算出は、式(2)の演算を行うことによってサーミスタRd3の現在の抵抗値Rrefを算出した後、式(3)の演算を行うことによって算出する。
【0043】
【数1】
【0044】
式(2),(3)において、「R」は抵抗R1の抵抗値、「B」はサーミスタRd3の温度係数、Rref@25は、環境温度が25℃である場合におけるサーミスタRd3の抵抗値であり、いずれも制御部26にあらかじめ保存されているデジタル値を使用する。また、「1/2Vcc_in」は分圧電圧1/2Vcc_inのデジタル値であり、「Va」は温度信号Vtempのデジタル値である。
【0045】
次に、ステップS25で算出した温度値Taを用いて、リファレンス電圧Vref及び制御電圧Vmh1,Vmh2の算出を行う(ステップS26)。制御電圧Vmh1,Vmh2は、それぞれ式(4)、(5)の演算を行うことによって算出することができる。
Vmh1=-0.00301×Ta+1.15 ・・・(4)
Vmh2=-0.00151×Ta+2.19 ・・・(5)
これにより、差動アンプ23には、現在の環境温度に応じたリファレンス電圧Vrefが与えられるとともに、サーミスタRd1,Rd2は、それぞれ所定の温度(例えば150℃及び300℃)に加熱される。図5は、環境温度と制御電圧Vmh1,Vmh2の関係を示すグラフである。図5に示すように、制御電圧Vmh1,Vmh2は、環境温度が高くなるにつれてリニアに低下することが分かる。
【0046】
次に、ガス検出信号Vampを読み込み(ステップS27)、電位差Vdifを用いてガス検出信号Vampを補正した後(ステップS28)、出力信号Voutを算出する(ステップS29)。ガス検出信号Vampの補正は、制御部26によって式(4)を演算することによって行う。
Vamp(補正後)=Vamp+Vdif×AMP/A ・・・(4)
これにより、電源電位Vcc1の変動に起因するガス検出信号Vampのオフセットがキャンセルされ、正しい出力信号Voutを生成することが可能となる。
【0047】
図5は、電源電位Vcc1の変動とCOガスの検出誤差との関係を示すグラフであり、実線は本実施形態によるガスセンサ10における検出誤差を示し、破線は現在の分圧電圧1/2Vcc_inを用いた補正を行わない場合における検出誤差を示している。
【0048】
図5に示すように、現在の分圧電圧1/2Vcc_inを用いた補正を行わない場合には、電源電位Vcc1の僅かな変動によって大きな検出誤差が生じるのに対し、本実施形態によるガスセンサ10によれば、電源電位Vcc1が変動しても、検出誤差がほとんど発生しないことが分かる。
【0049】
COガスの検出誤差は、抵抗R1~R3の抵抗値のばらつきによっても発生する。抵抗R1~R3の抵抗値のばらつきに起因する検出誤差を低減するためには、抵抗R1~R3の抵抗値を互いに同じ値に設計し、且つ、抵抗値のばらつきを1%以下に抑えることが有効である。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0051】
例えば、上記実施形態では、測定対象ガスがCOガスである場合を例に説明したが、本発明がこれに限定されるものではない。また、本発明において使用するセンサ部が熱伝導式のセンサであることは必須でなく、接触燃焼式など他の方式のセンサであっても構わない。
【符号の説明】
【0052】
10 ガスセンサ
20 信号処理回路
21 分圧回路
22 バッファ
23 差動アンプ
24 ADコンバータ
25 DAコンバータ
26 制御部
35,45,65 サーミスタ電極
37a~37d,47a~47d,67a,67b 電極パッド
51 セラミックパッケージ
52 リッド
53 通気口
54 パッケージ電極
55 ボンディングワイヤ
56 外部端子
61 基板
61a~61c キャビティ
62,63 絶縁膜
64 ヒータ保護膜
65 サーミスタ電極
66 サーミスタ保護膜
MH1,MH2 ヒータ抵抗
R1~R3 抵抗
Rd1~Rd3 サーミスタ
S センサ部
S1 第1のガスセンサ部
S2 第2のガスセンサ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6