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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】耐熱性アクリル系接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/02 20060101AFI20240110BHJP
   C09J 175/14 20060101ALI20240110BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C09J4/02
C09J175/14
C09J11/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019218494
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2021088632
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100151688
【弁理士】
【氏名又は名称】今 智司
(72)【発明者】
【氏名】小谷 準
(72)【発明者】
【氏名】緑川 智洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦彦
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-241585(JP,A)
【文献】特開平09-125011(JP,A)
【文献】特開2009-197160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アクリロイルモルホリン、
(B)(メタ)アクリル酸脂環式エステル
(C)重量平均分子量25,000以上のポリエーテル系ウレタンアクリレート、
(D)重量平均分子量6,000以下のポリエーテル系ウレタンアクリレート、
(E)有機過酸化物、
(F)還元剤、
を必須成分とする二液混合型アクリル系接着剤組成物。
【請求項2】
さらにメタクリル酸を含む請求項1に記載の二液混合型アクリル系接着剤組成物。
【請求項3】
さらにリン酸エステル基を含む(メタ)アクリル酸エステルを含む請求項1又は2に記載の二液混合型アクリル系接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の二液混合型アクリル系接着剤組成物の硬化物。
【請求項5】
請求項に記載の硬化物を構成要素として有する製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系接着剤に関する。特に、本発明は、高温下での接着強度に優れ、かつ硬化物の伸びに優れたアクリル系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
室温下で反応硬化するアクリル系接着剤のひとつとして、過酸化物とその分解促進剤の混合により反応硬化が進行する二液混合型アクリル系接着剤があり、第二世代アクリル系接着剤(SGA)として知られている。この第二世代アクリル系接着剤は、短時間で接着強度が発現すること、各成分の混合比率の許容範囲が広いこと、金属、プラスチック等種々の材料に対しての接着性に優れること等の利点を有することから、電気・機械・自動車・建築・土木等の各分野において広く利用されている。
【0003】
第二世代アクリル系接着剤は、他の接着剤と比較すると耐熱性が良好であるという特徴を有するが、近年耐熱性に対する要求はますます高まっている。この課題を解決するために、特許文献1には、アクリル系接着剤に、末端に重合性不飽和二重結合を有する液状ゴムを添加することが提案されているが、特許文献2に記載されているように、液状ゴムを多量に配合すると接着剤の粘度が高くなり、被着体に良好に塗布することを妨げる他、液状ゴムはアクリル系モノマーとの相溶性が悪いため、経時変化により組成物が分離し接着性能を著しく低下させ、また液状ゴムを多量に含有すると粘度が上昇するため接着剤としては使用できないという問題があった。
【0004】
特許文献3には、マレイミド化合物をモノマーの一部として使用することで耐熱性を向上させる技術が提案されているが、その効果は十分ではない上に、マレイミド化合物を用いる事で接着剤の弾性率が高くなる傾向にあり、線膨張係数の異なる異種基材を接着するときなどに歪が生じて剥がれるといった課題がある。
【0005】
特許文献4には、このような課題を解決するために、平均粒子径が5.0μm以下の酸化チタンを接着剤組成物中に加えることで、高温時の接着強度を向上する技術が提案されているが、その効果は十分ではない。
【0006】
一方、近年の接着剤に求められる特性として硬化物の伸びがあり、異なる線膨張係数の材料を貼り合わせた場合に硬化物の伸びが乏しいと、複数種の基材間に生じる応力を吸収できずに耐久劣化し、接合面の剥がれ等の問題が生じる場合ある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-241585号公報
【文献】特開2019-89889号公報
【文献】特開2018-172565号公報
【文献】特開2000-355647号公報
【文献】特開2015-182248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
接着剤およびそれを用いた接合部材に要求される耐熱条件は年々厳しくなってきており、上記の方法では高温下における接着強度が不十分であるという課題がある。例えば、特許文献4に記載の二液混合型アクリル系接着剤においては、23℃の常温下での接着強度に対して120℃の高温下では11%乃至19%の接着強度しか発現しておらず、熱に対して耐久性が要求される環境中においての使用に耐える接合部材を得ることはできない。さらに、接着剤に求められる特性として、硬化物の伸びの向上も求められているが、高耐熱下での接着強度と硬化物の伸びは相反する特性であり、両立することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高温下での接着強度に優れ、かつ硬化物の伸びに優れた二液混合型アクリル系接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討の結果、アクリル系接着剤において特定のウレタンアクリレート樹脂と特定のモノマーを組み合わせることにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の二液混合型アクリル系接着剤組成物は、次の発明に関する。
【0011】
(1)(A)アクリロイルモルホリン、(B)(A)以外の重合性ビニルモノマー、(C)重量平均分子量25,000以上のポリエーテル系ウレタンアクリレート、(D)重量平均分子量6,000以下のポリエーテル系ウレタンアクリレート、(E)有機過酸化物、(F)還元剤、を必須成分とする二液混合型アクリル系接着剤組成物。
(2)(B)(A)以外の重合性ビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸エステルである(1)に記載の二液混合型アクリル系接着剤。
(3)(B)(A)以外の重合性ビニルモノマーが、(メタ)アクリル酸脂環式エステルを含む(1)または(2)に記載の二液混合型アクリル系接着剤組成物。
(4)(B)(A)以外の重合性ビニルモノマーが、メタクリル酸を含む(1)または(2)に記載の二液混合型アクリル系接着剤。
(5)(B)(A)以外の重合性ビニルモノマーが、リン酸エステル基を含む(メタ)アクリル酸エステルを含む(1)または(2)に記載の二液混合型アクリル系接着剤組成物。
(6)(1)~(5)に記載の二液混合型アクリル系接着剤の硬化物。
(7)(6)に記載の二液混合型アクリル系接着剤の硬化物を構成要素として有する製品。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、高温下での接着強度に優れ、かつ硬化物の伸びに優れたアクリル系接着剤を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、(A)アクリロイルモルホリン、(B)(A)以外の重合性ビニルモノマー、(C)重量平均分子量25,000以上のポリエーテル系ウレタンアクリレート、(D)重量平均分子量6,000以下のポリエーテル系ウレタンアクリレート、(E)有機過酸化物、(F)還元剤、を必須成分とする二液混合型アクリル系接着剤組成物が提供される。
【0014】
((A)アクリロイルモルホリン)
(A)アクリロイルモルホリンは、モルホリン環の窒素原子上にアクリロイル基を有するN-アクリロイルモルホリンである。アクリロイルモルホリンとしては、KJケミカルズ株式会社製のACMOなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
(A)成分の含有量は、(B)~(D)成分の添加量を決定し、その合計量と(A)成分の合計量が100重量部となるように適宜選択すればよい。
【0016】
((B)重合性ビニルモノマー)
(B)重合性ビニルモノマーは(A)成分以外のビニルモノマーであって、様々な重合性ビニルモノマーを用いることができる。具体的に、ラジカル重合が可能である各種の重合性ビニルモノマーを用いることができる。重合性ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、α-アルキルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルエーテル、ジビニルエーテル、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、マレイミド化合物、N-ビニルピロリドン、2-ビニルピリジン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
これらの中で、良好な反応性を有するという観点から、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0017】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、以下の(i)~(vi)で示される化合物が挙げられる。
【0018】
(i)一般式が、Z-O-Rで表される単量体
式(i)中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rは水素又は炭素数1~20のアルキル基、シクロアルキル基、ベンジル基、フェニル基、テトラヒドロフルフリル基、グリシジル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、(メタ)アクリロイル基、イソボルニル基を表す。
【0019】
一般式(i)で表される単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、グリセロール(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
【0020】
(ii)一般式が、Z-O-(RO)p-Rで示される単量体
式(ii)中、Z及びR1は上記と同一である。また、Rは、-C-、-C-、-CHCH(CH)-、-C-、又は-C12-を示し、pは1~25の整数を表す。
【0021】
一般式(ii)で表される単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、及び1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
(iii)一般式が、Z-(OR)q-O-pH-C(R-pH-O-(RO)q-Zで示される単量体
式(iii)中、Z及びRは上記と同一である。Rは水素又は炭素数1~4のアルキル基を表し、qは0~8の整数を表し、pHはフェニレン基を表す。
【0023】
一般式(iii)で表される単量体としては、例えば、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、及び2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のEO変性エポキシ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
(iv)アクリルアミドモノマー
アクリルアミドモノマーとしては、アクリロイルモルホリン以外のアクリルアミドモノマーであり、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0025】
(v)一般式(i)、一般式(ii)、一般式(iii)、又は一般式(iv)で表される単量体を除く多官能アクリレート類
(v)に含まれる多官能アクリレート類としては、例えば、1、3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサングリコールジ(メタ) アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレ-ト、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルジアクリレート、エチレンオキサイド変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロイルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
(vi)(メタ)アクリロイルオキシ基を有する、(C)成分、(D)成分以外のオリゴマー類
(vi)に含まれるオリゴマー類としては、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するポリ(メタ)アクリル酸エステルオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレート系オリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート系、エポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマー、ポリカーボネート系オリゴマー、エポキシ系オリゴマー、飽和炭化水素系オリゴマー、不飽和炭化水素系オリゴマー等が挙げられる。これらのオリゴマー類の具体例は、特開2018-188602の段落0029~段落0039に記載されているものを用いることができる。
【0027】
これらの(B)成分である重合性ビニルモノマーは、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。(B)成分の配合量は(A)~(D)成分の合計量を100重量部とした場合に20~80重量部が好ましく、更には、30~70重量部がより好ましい。
【0028】
重合性ビニルモノマーの配合量が20重量部未満であると接着剤組成物の粘度が高くなり作業性に劣るとともに接着強度が低下する場合がある。また、70重量部を超えると接着剤の伸びが低下する場合がある。
【0029】
接着剤硬化物のTgが高く接着強度に優れることから、(メタ)アクリル酸脂環式エステルが好ましい。また、入手性の点から、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸イソボルニルが好ましい。
【0030】
(メタ)アクリル酸脂環式エステルの配合量は(A)~(D)成分の合計量を100重量部とした場合、10~50重量部が好ましく、更には、15~40重量部がより好ましい。(メタ)アクリル酸脂環式エステルの配合量が10重量部未満であると耐熱性が低下する場合がある。また、50重量部を超えると接着剤の伸びが低下する傾向にあり、接着性も低下する場合がある。
【0031】
また、接着剤の硬化物のTgが高く接着強度に優れ、さらに耐熱性も向上することから、重合性ビニルモノマーとして、メタクリル酸を含むことが好ましい。
【0032】
メタクリル酸の配合量は(A)~(D)成分の合計量を100重量部とした場合、0.1~30重量部が好ましく、更には、5~20重量部がより好ましい。メタクリル酸の配合量が30重量部を超えると硬化物の伸びが低下する場合がある。
【0033】
金属基材への接着性、接着強度が優れることから、リン酸エステル基を含む(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。具体的には、2-メタアクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタアクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、ビス(2-メタアクリロイルオキシエチルアシッド)ホスフェート等が挙げられる。
リン酸エステル基を含む(メタ)アクリル酸エステルの配合量は(A)~(D)成分を100重量部として0.1~5重量部が好ましく、更には、0.3~3重量部がより好ましい。リン酸エステル基を含む(メタ)アクリル酸エステルの配合量が0.1重量部未満であると金属基材への接着性向上が不十分となる場合があり、3重量部を超えると経済的に不利になるばかりでなく、接着剤組成物の貯蔵安定性が低下する場合がある。
【0034】
((C)重量平均分子量25,000以上のポリエーテル系ウレタンアクリレート)
(C)重量平均分子量25,000以上のポリエーテル系ウレタンアクリレートとしては、一般的に入手できる種々のポリエーテル系ウレタンアクリレートを用いることができる。なお、本発明における重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算重量平均分子量である。
【0035】
ポリエーテル系ウレタンアクリレートの合成に用いるポリエーテルとしては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリオールを使用することができる。これらのポリエーテルは、単独、或いは、2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
ポリエーテル系ウレタンアクリレートの合成方法としては、従来公知の方法を用いることができ特に限定されないが、例えば、ポリオールの両末端の水酸基に、ジイソシアネート化合物を介して、(メタ)アクリロイル基を有するヒドロキシ化合物を結合させたオリゴマーを用いることもできるし、(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物を結合させたオリゴマーを用いることもできる。
【0037】
(C)成分として使用するオリゴマーは、重量平均分子量が25,000以上のものが好ましく、30,000以上のものがより好ましく、更に好ましくは35,000以上である。重量平均分子量が25,000未満では、得られる接着剤硬化物の伸びが不十分となり耐久性に劣ることがある。
【0038】
本発明に用いられる(C)成分として具体的には、MIWON社製MiramerUA5216(Mw=30,000)、三菱ケミカル社製紫光UV-3700B(Mw=38,000)、根上工業社製アートレジンUN-6305(Mw=27,000)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
(C)成分の配合量
は(A)~(D)成分の合計量を100重量部とした場合、20~40重量部が好ましい。(C)成分の配合量が20重量部未満であると伸びが低下し、耐熱性改良が十分ではない場合がある。また、40重量部を超えると接着剤としての粘度が上がり作業性が低下したり、また耐熱性が低下する場合がある。
【0040】
((D)重量平均分子量6,000以下のポリエーテル系ウレタンアクリレート)
(D)重量平均分子量6,000以下のポリエーテル系ウレタンアクリレートとしては、一般的に入手できる種々のポリエーテル系ウレタンアクリレートを用いることができる。
【0041】
(D)成分の原料や合成方法等は、前記重量平均分子量25,000以上のポリエーテル系ウレタンアクリレートと同様のものが使用可能であり、重量平均分子量が6,000以下であればよい。
【0042】
(D)成分として使用するオリゴマーは、重量平均分子量が6,000以下のものであって、その中でも2,000以上であることが好ましく、3,000以上であることがより好ましい。重量平均分子量が6,000より大きい場合には、接着剤硬化物が柔軟になり、接着強度が劣る場合があり、2,000より小さい場合には硬化物が硬くなって伸びが出ず、その結果剥離強度に劣る場合がある。
【0043】
本発明に用いられる(D)成分として具体的には、MIWON社製Miramerシリーズや、三菱ケミカル社製紫光シリーズ、根上工業社製アートレジンシリーズ、新中村科学社製NKオリゴシリーズ、SARTMOER社製ウレタンアクリレートオリゴマーシリーズ等数多くのものの中から、該当するウレタンアクリレートオリゴマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
より具体的には、(C)成分との相溶性に優れ、また耐湿熱接着性も良好であることから、三菱ケミカル社製紫光UV-6640Bがもっとも好ましい。
【0045】
(D)成分の配合量は(A)~(D)成分の合計量を100重量部とした場合、1~15重量部が好ましく、更には、3~10重量部がより好ましい。(D)成分の配合量が1重量部未満であると耐熱性改良が不十分であったり、耐湿熱性や接着性が低下する場合がある。また、15重量部を超えると硬化物の伸びが低下する場合がある。
【0046】
((E)有機過酸化物)
(E)有機過酸化物としては、種々の有機過酸化物を用いることが可能である。有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルパーオキシベンゾエート、クメンハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド及びベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0047】
これらの有機過酸化物は、単独、或いは、2種以上組み合わせて用いることができるが、これらの中では、常温環境下で安定であり、取り扱いが簡便であることと、還元剤との併用により常温環境下で容易に反応が開始することから、ハイドロパーオキサイド類が好ましく、特にクメンハイドロパーオキサイドを用いることが好ましい。
【0048】
有機過酸化物の配合量は(A)~(D)成分の合計量を100重量部とした場合、0.1~10重量部が好ましく、更には、0.5~5重量部がより好ましい。有機過酸化物の配合量が0.1重量部未満であると、硬化速度が低下する場合がある。また、10重量部を超えると組成物の保存安定性が悪化する場合がある。
【0049】
((F)還元剤)
(F)還元剤としては、有機過酸化物が還元剤と反応してラジカルを発生する各種の化合物を用いることができる。還元剤としては、例えば、アミンとアルデヒドとの反応縮合物、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルパラトルイジン、2-メルカプトベンズイミダゾール、メチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、バナジウム化合物等が挙げられる。
【0050】
バナジウム化合物としては、バナジルアセチルアセトネート、バナジルステアレート、
バナジウムナフテネート、バナジウムアセチルアセトネート、バナジウムベンゾイルアセ
トネート等が挙げられる。これらの中では、ハイドロパーオキサイドとの反応性が良好なことからバナジルアセチルアセトネートやエチレンチオ尿素が好ましい。
【0051】
これらの還元剤は、単独、或いは、2種以上組み合わせて用いることができる。還元剤の配合量は(A)~(D)成分の合計量を100重量部とした場合、0.005~10重量部が好ましく、更には、0.01~5重量部がより好ましい。還元剤の配合量が0.005重量部未満であると硬化速度が遅くなる場合がある。また、10重量部を超えると重合性ビニルモノマーと共存させた場合に保存安定性が低下する場合がある。
【0052】
(その他の添加剤)
本発明の二液型アクリル系接着剤には、硬化性や硬化物の接着性等の機能を損なわない範囲で、必要に応じ、硬化物に靱性若しくは可撓性を与えるエラストマー、ゴム微粒子、接着付与剤、禁止剤、フィラー、粘着付与樹脂、増量剤、物性調整剤、補強剤、着色剤、難燃剤、タレ防止剤、チキソトロピー剤、沈殿防止剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、香料、顔料、染料等の各種添加剤を加えてもよい。
更に、空気接触面の硬化性を改良するためのパラフィン、蜜ロウ等、あるいは硬化速度を調整するために種々の反応促進剤、硬化調整剤、貯蔵安定剤を配合してもよい。
【0053】
(エラストマー)
エラストマーとしては、特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-メチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ウレタンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリイソプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム及びブタジエンゴム等の各種合成ゴム、天然ゴム、液状ポリブタジエン、末端アクリル変性液状ポリブタジエン、液状アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等の液状ゴム、スチレン-ポリブタジエン-スチレン合成ゴム等のスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエチレン-EPDM合成ゴム等のオレフィン系熱可塑性エラストマー、カプロラクトン型、アジペート型、及びPTMG型等のウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールマルチブロックポリマー等のポリエステル系熱可塑性エラストマー、ナイロン-ポリオールブロック共重合体やナイロン-ポリエステルブロック共重合体等のポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらのエラストマーは、単独で用いることも、相溶性が認められる範囲で2種以上を併用することもできる。
【0054】
(ゴム微粒子)
ゴム微粒子は、接着剤組成物の粘度調整、チクソトロピー性の付与とともに、硬化後の接着剤層の衝撃緩和剤としての役割を有する。ゴム粒子は少なくともゴム層からなる微粒子単独でもよいし、ゴムからなるコア層とさらにその外側を樹脂層で覆ったシェル層を有するコアシェル型のいずれの粒子でもよい。コアシェルゴム微粒子は、コア層の存在下に、グラフト共重合可能なモノマー成分をグラフト重合してシェル層を形成したポリマー微粒として合成可能である。コア層のゴムとしては、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリルゴム等を用いることができるがこれらに限定されるものではない。シェル層は一般的に(メタ)アクリレートモノマーあるいは芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル等を用いるが、それ以外のモノマーを用いてもよい。コア層のゴム種、シェル層のモノマーについては、所望の特性に応じて1種類あるいは2種類以上用いてもよい。
【0055】
(チキソトロピー剤)
また、チキソトロピー(揺変性)の付与を目的として微粉末ポリエチレン、ジベンジリデン-D-ソルビトール、セルローストリアセテート、ステアリン酸アミド、ベントナイト、微粉末ケイ酸等のチキソトロピー剤を配合することができる。
【0056】
(貯蔵安定剤)
貯蔵安定剤としては、重合禁止剤を含む各種の酸化防止剤等を使用することができる。酸化防止剤としては例えば、p-メトキシフェノール、ハイドロキノン、ベンゾキノン、2,6-ジ-ターシャリーブチル-p-クレゾール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、トリフェニルホスファイト、フェノチアジン及びN-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。これらの中では、ハイドロキノン、ベンゾキノンが好ましい。
【0057】
(エポキシ樹脂)
本発明の二液型アクリル系接着剤には、さらに、エポキシ樹脂を含有してもよい。組成物にエポキシ樹脂を添加することにより、架橋構造により組成物の硬さを調節すること、エポキシ基が開環することで生じる水酸基により金属との接着性を向上すること、ポリマー凝集力向上させること、希釈剤として粘度を低下させることなどができる。
エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノール-A やビスフェノール-F型グリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボン酸エステルや3,4エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボン酸エステルのような脂環式エポキシ化合物、及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0058】
[実施の形態の効果]
本発明に係る二液型アクリル系接着剤は、特定のアクリルモノマーと特定のポリエーテル系ウレタンアクリレートを用いて、有機過酸化物と還元剤の作用により硬化室温で速やかに硬化する。得られる接合体の耐熱性に優れるとともに、種々の金属・樹脂類への接着性に優れ、耐熱老化・耐湿熱老化・耐温水老化等の耐久性に優れている。また、硬化物の伸びが良好であるから、破断時に接合体が脆性破壊することなく延性破壊することが期待される。同時に耐衝撃性も良好で信頼性の高い接着剤が提供される。なお、本発明のアクリル系接着剤は、各種電気・電子分野用、自動車用、機械用、建築物用、土木用等の様々な分野に用いることができる。
【実施例
【0059】
以下に実施例を挙げて更に具体的に説明する。なお、これらの実施例は例示であり、限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0060】
(実施例1~5、比較例1~3)
表1に示す配合割合で各配合物質をそれぞれ添加し、混合攪拌して二液型アクリル系接着剤A剤、B剤を調整した。A剤:B剤=10:1の割合で計量し、混合後に接着剤として用いた。
【0061】
【表1】
【0062】
表1において、各配合物質の配合量の単位は「重量部」である。また、配合物質の詳細は下記のとおりである。
・アクリロイルモルホリン(製品名「ACMO」 (KJケミカルズ社製)
・メタクリル酸イソボルニル(製品名「ライトエステルIB-X」、共栄社化学社製)
・メタクリル酸(製品名「メタクリル酸」、三菱ケミカル社製)
・ライトエステルBP-2EM(ビスフェノールAのEO付加物ジメタクリルレート、共栄社化学社製)
・ライトエステルP-1M(2-メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、共栄社化学社製)
・紫光UV-3700B(ポリエーテル系ウレタンアクリレート、Mw=38,000、三菱ケミカル社製)
・紫光UV-6640B(ポリエーテル系ウレタンアクリレート、Mw=5,000、三菱ケミカル社製)
・紫光UV-2750B(ウレタンアクリレート、Mw=3,000、三菱ケミカル社製)
・紫光UV-3000B(ポリエステル系ウレタンアクリレート、Mw=18,000、三菱ケミカル社製)
・EBECRYL230(脂肪族ウレタンアクリレート、Mw=5,000、ダイセル・オルネクス社製)
・CHP(クメンハイドロパーオキサイド、商品名「パークミルH80」、日油社製)
・カネエースM521(MBS樹脂コアシェルポリマー、カネカ社製)
・EDTA(エチレンジアミン4酢酸ナトリウム4水和物、商品名「キレスト400」、キレスト社製)
・タルクDNB(タルク、日本タルク社製)
・ノクラックCD(アミン系老化防止剤、大内新興社製)
・jER828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)
・AO-60(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ADEKA社製)
・ナーセムバナジル(バナジルアセチルアセトン錯体、日本化学産業社製)
【0063】
(耐熱性)
二液型アクリル系接着剤を、アセトンで表面処理したSPCC鋼板(幅25mm×長さ100mm×厚み1.6mm)に、25mm×12.5mmに均一に塗布し、同材料同士を貼りあわせた。接着剤層の厚みは0.25mmに調整した。
【0064】
その後、23℃50%RH環境下で1日間以上養生し、JIS K 6850に準拠して、引張速度50mm/min、23℃下で引張りせん断接着強さを測定した。
【0065】
同様にして作製した試験体について、120℃下で引張りせん断強さを測定し、
120℃における接着強さの維持率(%)=100×120℃での引張せん断接着強さ/23℃での引張せん断接着強さ、で求められる値を耐熱性の指標とした。
【0066】
この値は120℃における接着強さが23℃(常温)における接着強さの何%となるかを示す値であり、この値が大きい方が常温下での接着強さにより近い接着強さとなるため、より耐熱性が高いと言える。
【0067】
(伸び)
二液型アクリル系接着剤を、厚み1mm厚みのEPDM製3号ダンベル型の片枠に流し込み、23℃50%RH環境下で1日間以上養生し、試験片を作製した。JIS K 6251に準拠して、引張速度100mm/minで引張試験を行い、破断時の伸びを測定した。50%RH環境下で1週間養生し、硬化物を得た。得られた硬化物から3号ダンベル試験片を打ち抜き、JISK6251に準拠して、標線間距離が50%伸長するまで200mm/分で伸長させることで50%モジュラスを測定した。
【0068】
実施例1~5から明らかなように、本発明の二液型アクリル系接着剤を用いれば、常温下での接着強さと120℃での接着強さの比は30%以上であり、従来の接着剤の耐熱性を上回る結果が得られている。さらにダンベルの伸びも30%以上であり、接着部が延性破壊するためには十分な伸びを有しているが、比較例1~3はいずれも30%未満の伸びしか示さず、伸びに劣る結果となっている。
【0069】
(実施例6~8)
表2に示す配合割合で各配合物質をそれぞれ添加し、混合攪拌して二液型アクリル系接着剤A剤、B剤を調整した。A剤:B剤=1:1の割合で計量し、混合後に接着剤として用いた。
【0070】
【表2】
【0071】
表2において、各配合物質の配合量の単位は「重量部」である。また、配合物質の詳細は下記のとおりである。
・マイカ(マイカ 100メッシュ品、大阪マイカ工業社製)
【0072】
実施例6~8についても、実施例1等と同様の条件で耐熱性および伸びを試験した。
【0073】
実施例6~8から明らかなように、本発明の二液型アクリル系接着剤を用いれば、常温下での接着強さと120℃での接着強さの比は30%以上であり、従来の接着剤の耐熱性を上回る結果となっている。さらにダンベルの伸びも30%以上であり、接着部が延性破壊するためには十分な伸びを有している。
【0074】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せのすべてが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点、及び本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能である点に留意すべきである。