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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】端面燃焼型ロケットモータ用点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02K 9/95 20060101AFI20240110BHJP
   F02K 9/22 20060101ALI20240110BHJP
   F02K 9/30 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F02K9/95
F02K9/22
F02K9/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019222763
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021092179
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】濱田 亨
(72)【発明者】
【氏名】三木 聡司
(72)【発明者】
【氏名】詫間 浩和
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-004349(JP,A)
【文献】特開2009-214084(JP,A)
【文献】特開平02-116387(JP,A)
【文献】特開昭60-047853(JP,A)
【文献】実開昭58-158144(JP,U)
【文献】国際公開第2014/022836(WO,A2)
【文献】米国特許第3392673(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/22
F02K 9/30
F02K 9/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進方向と反対側の鏡板に固定されたイニシエータと、前記イニシエータの周囲の鏡板に固定された火薬成分で形成された火薬製容器と、前記火薬製容器に装填した点火薬と、を備え、前記火薬製容器は焼尽性を有し、前記火薬成分はコンポジット推進薬、又はダブルベース推進薬であることを特徴とする、端面燃焼型ロケットモータ用点火装置。
【請求項2】
前記点火薬を可燃性フィルム内に収納し、前記可燃性フィルムに収納した点火薬を火薬製容器に装填したことを特徴とする、請求項1記載の端面燃焼型ロケットモータ用点火装置。
【請求項3】
ロケットモータのノズル開口部の本体側の端部と外周壁面との間の鏡板上に固定されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の端面燃焼型ロケットモータ用点火装置。
【請求項4】
複数のノズルを有するロケットモータにおいて、前記複数のノズルの開口部の本体側の端部と端部の間の鏡板上に固定されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の端面燃焼型ロケットモータ用点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端面燃焼型ロケットモータ用点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロケットモータは、固体の燃料と酸化剤を混錬した固体燃料からなる推進薬(以下、「固体推進薬」という。)を用いるロケット推進機関である。ロケットモータは、防衛用ロケット弾、ミサイル、人工衛星打ち上げ用ロケットの推進機関、観測用ロケット、姿勢制御用ロケット、人工降雨用ロケット等として広く利用されている。
【0003】
ロケットモータは、主にモーターケース、ノズル、固体推進薬、点火装置(イニシエータ)で構成される。ロケットモータのモーターケースは、中空形状であり、内部に固体推進薬が装填されている。また、モーターケースの後端にはノズルが設けられる。そして、モーターケースに装填された固体推進薬を点火装置により着火、燃焼させ、モーターケース内部に高温、高圧の燃焼ガスを発生させる。この燃焼ガスがノズルから高速流出することによりロケットモータの推進力を得ることができる。
【0004】
ロケットモータの点火装置は、電流を流すことで発火するイニシエータ(スクイブや点火玉)とイニシエータの火炎で着火・燃焼する点火薬、さらに点火装置の燃焼時間や燃焼エネルギーを増加させる点火装薬も必要に応じて点火装置内に収納されている。点火装置を点火すると、内部で点火薬や点火装薬が燃焼し、点火装置のケースに設けられた火炎噴出孔から点火薬や点火装薬の燃焼火炎が噴出して、推進薬を点火する。
【0005】
推進薬の中心に機軸方向の空洞(内孔)が設けられている内面燃焼推進薬の場合、点火装置はノズルと反対のモータ前方部に設置されており、点火装置が燃焼すると燃焼火炎は推進薬内孔内をノズル側に流れ、推進薬を発火させる。
【0006】
例えば、特許文献1には、推進薬に空洞を設け、ここに点火薬を直接装填するか、可燃性容器に点火薬を詰めて装填する内面燃焼型のロケットモータ用点火装置が開示されている。ロケットモータの推進薬に空洞を設けて点火装置を収納する構成となっている。固体推進薬の発火は点火装置に近いモータ前方側から生じるが、着火した推進薬の燃焼火炎も内孔をノズル側に流れるため、内孔上流側の推進薬が着火すれば内孔下流側の推進薬は速やかに着火する。このため、内面燃焼推進薬では比較的少ない点火薬量で速やかに全面着火することができる。
【0007】
また、特許文献2には、焼尽性を有するメタクリレート樹脂容器に点火薬を詰めた点火装置が開示されている。
【0008】
更に、特許文献3には、焼尽性を持たせるために、プラスチック材を使用したカーボンファイバークロス等で強化された点火装置容器を用いて、モータ燃焼中に容器が燃え尽きることを特徴とする点火装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実開昭48-96304号公報
【文献】特開平2-116387号公報
【文献】特開平3-130566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、推進薬のノズル側端面から前方に向けて燃焼する端面燃焼推進薬の場合、点火装置はノズル側の壁面に設置され、点火薬の火炎を推進薬面に吹き付けて点火する。
点火装置の火炎で推進薬が発火しても、その推進薬の燃焼火炎はノズル側に流れて排出されるため、内面燃焼推進薬に比べて多量の点火薬が必要であり、点火装置が大型化する傾向にある。
【0011】
また、端面燃焼型ロケットモータの点火装置はノズルの近くに設置されるため、推進薬の燃焼時には点火装置は高温の推進薬火炎に晒される。端面燃焼型モータは一般的に長時間燃焼させるため、点火装置は高温火炎に長時間晒されることになる。この間、点火装置が溶け落ちて部品がノズルを塞ぐことがないよう、点火装置周囲には断熱材を施工して点火装置の焼損を防止する必要がある。このため、点火装置は大型化し、部品数が増加して価格も高価になるという問題がある。
【0012】
また、特許文献2のようにメタクリレート樹脂容器に点火薬を詰めた点火装置の場合、着火性の低い端面燃焼推進薬に対しては、十分な着火性能が得られないことが想定される。更に、特許文献3に開示されるようなカーボンファイバー等で補強した容器は、高価であると同時に、焼尽性といっても完全に燃え尽きることはなく、可撓性を有する小さな破片や粒が発生することが示されている。この結果、ノズルが損傷したり、ロケットモータ後方へ破片等が飛散したりする可能性がある。
【0013】
そこで、本発明の課題は、小型で低コストを実現可能な端面燃焼型ロケットモータ用の点火装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を重ねた結果、点火装置のケースは内部に点火薬を収納しており、点火時は点火薬の燃焼火炎で推進薬を点火する機能を果たすが、推進薬を点火した後の点火装置のケースは不必要なものである点に着目した。
【0015】
つまり、点火装置の燃焼時にケースが消滅すれば、推進薬の燃焼火炎から保護するための断熱材等の部品が不要になる。そこで、点火装置のケースを火薬成分で製造して点火薬と一体として焼尽性を持たせることにより、小型で低コスト化が可能になると同時に、確実な着火性能も担保する端面燃焼モータ用の点火装置を提供することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の端面燃焼型ロケットモータ用点火装置である。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の点火装置は、推進方向と反対側の鏡板に固定されたイニシエータと、前記イニシエータの周囲の鏡板に固定された火薬製容器と、前記火薬製容器に装填した点火薬と、を備え、前記火薬製容器は焼尽性を有することを特徴とするものである。
この点火装置によれば、イニシエータに接する点火薬を火薬成分で製造した点火薬容器に装填する構成とし、点火装置全体に焼尽性を付与することで、推進薬燃焼時に必要となる点火装置の容器に耐熱強度を持たせる必要がなくなる。その結果、点火装置について、断熱材が不要となり、軽量化、かつ、低コスト化を実現させると同時に、端面燃焼推進薬を着火させるために必要な高温火炎と圧力を十分な時間供給できるため、確実な着火性能を発揮することができる。
【0017】
更に、本発明の点火装置の一実施態様によれば、点火薬を可燃性フィルム内に収納し、前記可燃性フィルムに収納した点火薬を火薬製容器に装填したことを特徴とする。
この特徴によれば、可燃性フィルムに収納した点火薬を火薬製容器に装填することで、可燃性フィルムを多様な形状とすることができ、より高い着火性能やその持続性等の機能設計が可能となるため、軽量化、かつ、低コスト化を実現しながら、同時に確実な着火性能が担保されるという本発明の効果をより発揮することができる。
【0018】
更に、本発明の点火装置の一実施態様によれば、ロケットモータのノズル開口部の本体側の端部と外周壁面との間の鏡板上に固定されていることを特徴とする。
この特徴によれば、点火装置をノズル開口部の本体側の端部と外周壁面との間の鏡板上に固定することにより、例えば、ノズル内や、ノズルの本体側開口部上に固定する場合と比較して、点火装置を固定するための装置が必要とならず、固体推進薬着火後の燃焼火炎の直撃を回避することができるため、点火装置の小型で低コスト化が可能となるという本発明の効果をより発揮することができる。なお、ここでいう「外周壁面」とはモーターケースの内側の側壁のことをいう。
【0019】
更に、本発明の点火装置の一実施態様によれば、複数のノズルを有するロケットモータにおいて、前記複数のノズルの開口部の本体側の端部と端部の間の鏡板上に固定されていることを特徴とする。
この特徴によれば、点火装置を複数のノズルを有するロケットモータに適用する場合に、複数のノズルの開口部の本体側の端部と端部の間の鏡板上に固定することにより、固体推進薬への均一で確実な着火性能を担保すると同時に、固体推進薬着火後の燃焼火炎の直撃を回避することができるため、点火装置の小型で低コスト化が可能になるという本発明の効果をより発揮することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、固体推進薬を着火する点火装置において、小型で低コストを実現可能な端面燃焼型ロケットモータ用の点火装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施態様のロケットモータの一例を示す概略縦断面図である。
図2】本発明の一実施態様の点火装置の一例を示す概略縦断面図である。
図3】本発明の一実施態様の点火装置の一例を示す概略縦断面図である。
図4】本発明の一実施態様のロケットモータの一例を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る点火装置の実施態様を詳細に説明する。なお、実施態様に記載する点火装置、ロケットモータ等の各部材の構造や、形状等の具体的態様等については、本発明に係る点火装置を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0023】
[ロケットモータ]
本発明のロケットモータについて、図1を用いて説明する。図1は、本発明の一実施態様のロケットモータの一例を示す概略縦断面図である。
【0024】
図1に示すように、ロケットモータ1は、本体部14とノズル部13により構成されている。この本体部14は更に、モーターケース12と鏡板16からなる。また、ノズル部13は、ノズル本体3と噴出口32から構成されている。
【0025】
ノズル部13は、噴出口32側から本体部14側に向かってノズル本体3の内部が縮径する形状となっている。ノズル部13は、噴出口32を外側に向けて本体部14の内部に挿入される。また、ノズル部13の本体部14側の外周面にはOリング(不図示)が設けられており、ノズル部13の本体部14側の外周面と本体部14の内周面は密閉した状態で固定されている。
【0026】
モーターケース12内部のノズル本体3の開口開始点からモーターケース12の外周円筒部の間の鏡板16上には点火装置2が固定されており、本体部14内には固体推進薬18が充填されている。また、図2に示すように、点火装置2が固定された鏡板16は、点火装置2からモーターケース12の内側に向かって燃焼火炎を噴出するように本体部14に接続されている。これにより、点火装置2を発火させると、点火薬26と火薬製容器22が燃焼し、固体推進薬18に燃焼火炎が吹き付けられる。なお、点火装置2と鏡板16を固定する際に、これらの間にOリング等の密閉手段を介して固定してもよい。これにより、鏡板16の本体部14側の外周面と本体部14の内周面は密閉した状態で固定される。このように構成することによって、固体推進薬18の燃焼により発生した圧縮ガスは、ノズル部13の噴出口32のみから噴出することができる。
【0027】
以下、各構成について詳細に説明する。
<ノズル部>
ノズル部13は、ロケットモータ1内で発生した高温高圧のガスを、ロケットモータ1外へ放出させる部分であり、前記高温高圧のガスによりロケットモータ1に推進力を発生させる部分である。
ノズル部13は、ノズル本体3と噴出口32を備え、噴出口32を外側に向けて鏡板16の内部に挿入されている。また、ノズル3の鏡板16側の外周面にはOリング(不図示)が設けられており、ノズル3の鏡板16側の外周面と鏡板16の内周面は密閉した状態で固定されている。
【0028】
ノズル本体3はロケットモータ1において、最外端に備えられ、高温高圧のガスを外部に放出させる部分である。ノズル本体3の形状は特に限定されないが、高温高圧のガスを放出するために内部が空洞の構造である必要があり、先端になるに従って縮径する構造(テーパリング構造)であってもよく、広がる構造でもあってもよい。高温高圧ガスを超音速に加速するうえでは、出口に向けて広がる構造が好ましい。その材質は、特に限定されないが、耐熱性の材料が好ましく、特にグラファイトが好ましい。
また、ノズル本体3の長さは、特に限定されないが、ロケットモータ1が推進力を得られる長さに適宜設定することができる。
【0029】
Oリング(不図示)は、ロケットモータ1内部の気密性を確保するための一部材である。Oリング(不図示)の材料については特に限定されないが、耐熱性を有する材料であることが好ましい。また、ロケットモータ1内部の気密性を確保するために、弾性を有する材料であることが好ましく、ゴム状の物質であることがより好ましい。
Oリング(不図示)の内径や断面積については特に限定されないが、ロケットモータ1の大きさに併せて適宜設定することができる。
【0030】
<モーターケース>
モーターケース12は、内部で固体推進薬18を燃焼させて、高温高圧のガスを前記のノズル部13に送るための部分である。
本体部14は、円筒形状のモーターケース12と、モーターケース12の一方に固定された鏡板16から構成される。
【0031】
モーターケース12における本体部14は、固体推進薬18を燃焼させて高温高圧のガスを発生させる部分である。
本体部14空部分以外の部分に固体推進薬18が装填されている。また、本体部14の形状は、中空形状であればよく、外観形状については特に限定されない。例えば、図1に示すような円筒形状であってもよく、略球状の形状であってもよい。なお、本体部14内部に充填した固体推進薬18の燃焼により、高温高圧のガスが発生するため、耐圧性を鑑みると、本体部14の形状としては、直方体や立方体のように角を有する構造よりは、円筒状や球状構造の方がより好ましい。
【0032】
本体部14に装填する固体推進薬18としては、例えば、ニトロセルロース、ニトログリセリンを主とするダブルベース推進薬、あるいは酸化剤として過塩素酸アンモニウム、燃料兼粘結剤としてHTPB(末端水酸基ポリブタジエン)系バインダー、金属燃料としてアルミ粉等からなるコンポジット推進薬を用いることができる。なお、固体推進薬18の燃焼速度を高めるために、例えば、過塩素酸アンモニウムを微粒化したものを使用する、あるいは燃焼触媒として酸化鉄等を用いてもよく、金属や合金からなる熱伝導物質を配合させてもよい。
固体推進薬18の形状は、本体部14に装填可能な形状であれば特に限定されず、ロケットモータ1が所定の時間、所定の推進力を得るための形状のものを適宜設計することができる。
また、固体推進薬18を燃焼させる方法としては、後述する点火装置2からの発生火炎を用いて燃焼させる。
【0033】
モーターケース12における鏡板16は、固体推進薬18を燃焼させるための火炎を発生させる構成を備える部分である。固体推進薬18は、一般に常温での保管が可能である一方、燃焼には高い熱流量が必要となる。したがって、燃焼火炎のような高い熱流量を発生する装置を用いて、固体推進薬18に瞬時に着火し、燃焼させる。
【0034】
図1に示すように、ロケットモータ1のノズル本体3の開口部の本体部14側の端部とロケットモータ1の外周壁面との間の鏡板16上には、点火装置2が固定されている。このように構成することで、例えば、ノズル本体3内や、ノズル本体3の本体側開口部上に固定する場合と比較して、点火装置2を固定するための装置が必要とならず、かつ、固体推進薬18着火後の燃焼火炎の直撃を回避することができるため、点火装置2の小型で低コスト化が可能となる。鏡板16は、点火装置2からモーターケース12の内側に向かって火炎を噴出するように本体部14に挿入される。
また、鏡板16は、ロケットモータ1内部の気密性を確保するOリング(不図示)を備えている。
【0035】
(点火装置)
点火装置2は、鏡板16の内部に密閉した状態で固定されている。点火装置2の固定手段としては、ガスケット等を用いて埋設してもよく、鏡板16の内部と溶接、ネジ結合、又は接着剤を用いる方法で結合させてもよい。点火装置2の焼尽性を担保する観点から接着剤による接着が好ましい。接着剤としては、特に限定されないが、例えば、耐熱性を有する接着剤が好ましく、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤等が挙げられる。なお、点火装置2と鏡板16を固定する際に、これらの間にOリング等の密閉手段を介して固定してもよい。
点火装置2の配置については特に限定されないが、固体推進薬18への燃焼が確実な位置に配置すればよい。
【0036】
本発明の点火装置2について、図2を用いて詳細に説明する。図2は、本発明の一実施態様の点火装置の一例を示す概略縦断面図である。
点火装置2は、固体推進薬18を燃焼させるための燃焼火炎を発生させる部分である。点火装置2は、イニシエータ28と、その上面に固定された可燃性フィルム24と、火薬製容器22で構成されている。
可燃性フィルム24の内部には、点火薬26が収納されている。イニシエータ28は、火薬製容器22の内側で前記の点火薬26と接触し、また火薬製容器22の外側で電源部分と接続している(不図示)。火薬成分で形成した火薬製容器22が、イニシエータ28と可燃性フィルム24の周囲を取り囲むように鏡板16上に固定されている。
【0037】
イニシエータ28は、電線(不図示)から供給される点火電流を印加することによって少量の火薬が発火して小さな火炎を発生する火工品であり、スクイブや点火玉と呼ばれているものであり、本発明の火薬製容器22内に充填される点火薬26を点火させる部材である。イニシエータ28には、電流が印加され赤熱する電橋線が使用できる。電橋線の導電性線材料としては、例えば、白金線やニクロム線等が挙げられる。
【0038】
可燃性フィルム24内に充填される点火薬26は、火薬製容器22に着火させる部材である。点火薬26としては、例えば、BP(黒色火薬)、BK(ホウ素/硝酸カリウム)、AL/KP(アルミニウム/過塩素酸カリウム)、又はMTV(マグネシウム/テフロン(登録商標)/ヴァイトン(登録商標)等の一般的な点火薬が使用できる。また、金属粒子、若しくは、非鉄金属粒子、又は導電性酸化物粒子等を含有するものであってもよい。金属粒子、非鉄金属粒子としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、ボロン等が好ましい。導電性酸化物粒子としては、酸化チタンや酸化マンガン等の酸化物が好ましい。
【0039】
この点火薬26の形状としては、粉体、顆粒状、又はペレット状であってもよい。イニシエータ28からの点火の容易性や、点火薬26から火薬製容器22への着火の容易性の観点から、流動性を有する粉体や顆粒状であることが好ましい。後述する可燃性フィルム24の形状に合わせて点火薬26が配置できるため、所望の点火性能を発揮することができる。また、着火した火炎の伝搬が均等に進行するため、火薬製容器22に邑なく着火することができる。更に、顆粒の粒子径が大きく、空隙率が高いほうが、印加した燃焼火炎の伝搬速度が大きくなるため好ましい。
また、焼尽性を有する火薬製容器22に点火薬26を装填することにより、相対的に着火性能が高い、流動性を有する点火薬26を使用する場合であっても、火薬製容器22によって点火薬26を把持することができ、点火薬26と火薬製容器22が一体として、確実な着火性能を発揮するという本発明の効果をより発揮することができる。
【0040】
可燃性フィルム24は、点火薬26を収納し、火薬製容器22に装填するための部材である。この可燃性フィルム24は、焼尽性を有する材質、例えば、非耐熱性樹脂、布、紙、又はアルミニウム、マグネシウム等の燃えやすい金属等で構成される。ここで、焼尽性を有するとは、固体推進薬18の燃焼により、発生する燃焼火炎に晒されることで焼失し、焼尽残渣を生じないことをいう。万が一、焼尽残渣を生じたとしても、その焼尽残渣が、ノズルを詰めたり傷をつけたりすることはなく、固体推進薬18の燃焼に影響を及ぼさない程度の微細なものであればよい。なお、点火薬26がペレット状等の成形された形状であれば、可燃性フィルム24は必須ではない。
【0041】
可燃性フィルム24の固定方法については、特に限定はされない。イニシエータ28に接着剤で接着してもよいし、後述する焼尽性蓋23を設ける構成として、火薬製容器22の内部に把持されるようにしてもよい。
【0042】
可燃性フィルム24の形状としては、点火薬26から生じる着火火力が火薬製容器22に均等に伝わるような形状であれば特に限定はされない。直方体や、円筒状、又は球状であってもよい。
【0043】
可燃性フィルム24の厚さとしては、特に限定はされない。使用する材料にもよるが、10μm~300μmであることが好ましい。10μm以上であれば、燃焼ガスの圧力の上昇により破砕され燃焼ガスが噴き出す場合の圧力を高くすることができ、強い勢いで燃焼ガス及び燃焼火炎が噴出することになる。他方、300μm以下であれば、可燃性フィルム24の焼尽性の担保が容易となる。
【0044】
また、可燃性フィルム24の形状、及び大きさを調整することにより、火薬製容器22との間に所望の空間を設けることが好ましい。このように構成することにより、イニシエータ28により印加された点火薬26の燃焼火炎及び燃焼ガスの通路ができ、点火薬26の延焼と、火薬製容器22の着火を速やかに進行させることができる。前記空間の幅は、ロケットモータ1の大きさや推進持続時間により変更可能であり、特に限定されないが、0.5mm~10mmであることが好ましい。0.5mm以上であることにより、燃焼火炎及び燃焼ガスが容易に移動することができる。また、10mm以下であることにより、火薬製容器22への均等で確実な着火性能が担保できる。なお、当該空間の幅は、火薬製容器22の内側側面の任意の位置からの法線方向への可燃性フィルム24との距離の平均値として算出することができる。
【0045】
火薬製容器22(点火装薬ともいう)は、イニシエータ28と可燃性フィルム24の周囲の鏡板上に固定されている。この火薬製容器22は火薬成分で形成されており、燃焼時に高温の燃焼ガスを発生して推進薬を着火させる機能を有する。また、容器として容易に成形可能な火薬成分を使用することが好ましい。前記火薬成分としては、コンポジット推進薬、又はダブルベース推進薬が使用できる。コンポジット推進薬としては、例えば、酸化剤として過塩素酸アンモニウムと燃料兼粘結材として合成ゴム系バインダーに、金属燃料として少量のアルミニウム粉を混ぜた一般的なコンポジット推進薬組成物が使用できる。あるいは、点火薬燃焼時の煙を減らしたい場合は、ニトロセルロースとニトログリセリンを主成分とする無煙性の一般的なダブルベース推進薬を使用してもよい。また、容器として成形容易とするために、切削加工品を使用することが好ましい。火薬製容器22の形状は、イニシエータ28や点火薬26を収納した可燃性フィルム24を装填するため、円筒状、リング状、球状又は角型の容器形状を適宜用いることができる。
【0046】
次に、図3は、本発明の点火装置2の別の実施態様の一例を示す概略縦断面図である。図3においては、図2に示す実施例のように点火薬26を可燃性フィルム24に収納するのではなく、火薬製容器22の内部全体に点火薬26を充填し、火薬製容器22の上部に焼尽性材料からなる焼尽性蓋23を接着して密閉したものである。焼尽性蓋23の材料には、樹脂フィルム、薄いプラスチック板、紙、金属箔のような焼尽性の材料が使用可能である。図3の構造は図2よりも点火薬26の量を増やすことができるため、点火薬26の燃焼時に多量の燃焼ガスを発生してモータ内圧力を高め、火薬製容器22や固体推進薬18の点火をより短時間で効率的に行うことができる。図3は、火薬製容器22の上に平板状の焼尽性蓋23を取り付けているが、点火薬量をさらに増やしたい場合は焼尽性蓋23をドーム形状にしたり、円筒キャップ形状の蓋にしたりすることもできる。
【0047】
焼尽性蓋23の厚さは、本発明の効果を奏する限り限定はされないが、10μm~500μmであることが好ましい。10μm以上であれば、火薬製容器22及び点火薬26から生ずる燃焼火炎と燃焼ガスによる圧力を高めることができ、固体推進薬18への着火性能を向上させることが可能となる。500μm以下であれば、焼尽性蓋23の焼尽性を容易に担保することができる。
【0048】
焼尽性蓋23を一定程度以上(例えば、0.1mm以上)の厚さとして、火炎噴出孔(不図示)として所定の孔径の貫通孔を設ける構成としてもよい。火炎噴出孔の孔径は、特に限定されず、0.1~20mm程度であり、好ましくは0.5~10mmであり、より好ましくは1~5mmである。ロケットモータ1内における固体推進薬18までの距離や固体推進薬18の端面の直径等に合わせて適宜設計することができる。前記火炎噴出孔は二以上の複数設けてもよく、固体推進薬18の点火装置2側の端面に対し垂直に設けてもよいし、斜めに設けることとしてもよい。その結果、それぞれの火炎噴出孔から噴出される火炎の軌道が重なり合うことで、高い熱流量を有する火炎として噴出する。これにより、前記火炎噴出孔よりも広い面積を有し、高い熱流量の火炎を、固体推進薬18端面に対して均一に吹き付けることが可能となる。
【0049】
次に、図4は、本発明のロケットモータ1の別の実施態様の一例を示す概略縦断面図である。図4においては、ノズル本体3が鏡板16の中心ではなく、鏡板16の周辺に複数配置されている。このようなロケットモータ1では、推力は各ノズル部13で発生する推力ベクトルの合力の方向に発生するため、ノズル部13が機軸位置になくても機軸前方方向に推力を発生することができる。この場合、点火装置2はノズル本体3の開口開始点にかからない位置であり、複数のノズル本体3の開口部の本体側の端部と端部の間の鏡板16上に設置されることが好ましい。このように構成することにより、点火薬26や火薬製容器22の燃焼火炎によって固体推進薬18に確実に、かつ、均一に着火でき、燃焼後は点火装置2が残らずに焼尽性を付与することができる。なお、複数のノズル部13の配置が対称性を有している場合には、この中心付近の鏡板16上に点火装置2が配置されることが好ましい。
【0050】
なお、上述した実施態様は点火装置及びロケットモータの一例を示すものである。本発明に係る点火装置及びロケットモータは、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る点火装置及びロケットモータを変形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の点火装置は、イニシエータに接する点火薬を火薬成分で製造した点火薬容器に装填する構成とし、点火装置全体に焼尽性を付与することで、推進薬燃焼時に必要となる点火装置の容器に耐熱強度を持たせる必要がなくなる。その結果、点火装置について、断熱材が不要となり、軽量化、かつ、低コスト化を実現させることができるため、ロケットモータのみならず、ガス発生器、防衛装備品等の用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1・・・ロケットモータ、12・・・モーターケース、13・・・ノズル部、14・・・本体部、16・・・鏡板、18・・・固体推進薬、2・・・点火装置、22・・・火薬製容器、23・・・焼尽性蓋、24・・・可燃性フィルム、26・・・点火薬、28・・・イニシエータ、3・・・ノズル本体、32・・・噴出口
図1
図2
図3
図4