(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】クリアランス調整機構
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
E04H9/02 301
(21)【出願番号】P 2019231618
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光永 有
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-019479(JP,A)
【文献】特開2003-056189(JP,A)
【文献】特開2002-161539(JP,A)
【文献】特開2011-141010(JP,A)
【文献】特開平10-061248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制震装置で連結された第1建物と第2建物との間
で、クリアランスが適正量より広大な場所が存在して不均衡が生じている場合に、引張方向の水平力を作用させていずれか一方の姿勢を変形させて、クリアランスを調整するクリアランス調整機構であって、
一端が第1建物に設けられ、他端にウェイトが装着される索状材と、
前記第2建物に
設けられるとともに、前記索状材が掛け回される方向転換シーブと、
を備えることを特徴とするクリアランス調整機構。
【請求項2】
請求項1に記載のクリアランス調整機構において、
前記ウェイトに、移動方向を案内するレールが備えられることを特徴とするクリアランス調整機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固有周期の異なる建物どうしを制震装置で連結した連結制震構造に用いるクリアランス調整機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物に入力した地震エネルギーを制震部材などで吸収する制震構造システムの一種として、二つの固有周期が異なる建物を制震装置で連結することにより両者の地震時の応答を低減する、連結制震構造が一般に知られている。
【0003】
例えば特許文献1では、上下方向に延びるボイド空間が内部に設けられている筒状の外部建物と、ボイド空間内に構築され、外部建物に比べて剛性の高い内部建物との間に、制震装置が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
連結制震構造は、連結した建物各々の動きの差を利用して制震装置を作動させ振動エネルギーを吸収するものである。したがって、二つの建物を設計施工する際には、平常時において、連結した二つの建物の間に、建物各々に生じる可能性のある水平変位量を足し合わせた長さ以上のクリアランスを確保している。
【0006】
しかし、構築後の建物は、その形状が経時的に微小ながらも変化することが知られており、例えば、コンクリート造の建物では、時間の経過とともにひずみが増大するいわゆるクリープ現象が不均一に発生する。このため、特許文献1のような、外部建物のボイド空間に構築された内部建物に変形が生じると、外部建物との間で、クリアランスが設計より減少している箇所や増大している箇所が混在するといった、クリアランスの不均等が起こりうる。
【0007】
すると、クリアランスが減少した箇所では、地震等により両建物に揺れを生じた際に、内部建物と外部建物とが衝突するなどして損傷しかねない。一方、クリアランスが増大した箇所では、制震装置がこの増大量だけ既に伸長している可能性がある。このような場合、制震装置は、設計計画時のストローク長を確保できていないから、地震発生時に予定した制震性能を発揮できない事態となりやすい。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、連結制震構造を適用した建物間のクリアランスを、適正量に調整することの可能な、クリアランス調整機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明のクリアランス調整機構は、制震装置で連結された第1建物と第2建物との間で、クリアランスが適正量より広大な場所が存在して不均衡が生じている場合に、引張方向の水平力を作用させていずれか一方の姿勢を変形させて、クリアランスを調整するクリアランス調整機構であって、一端が第1建物に設けられ、他端にウェイトが装着される索状材と、前記第2建物に設けられるとともに、前記索状材が掛け回される方向転換シーブと、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のクリアランス調整機構によれば、ウェイトの自重により索状材に付与した引張力を水平力として、第1建物及び第2建物に作用させることができるから、第1建物及び第2建物もしくはいずれか一方の姿勢をこの水平力により変形させて、両者間のクリアランスを適正量に調整することが可能となる。
【0011】
また、方向転換シーブを介して索状材に横方向部と下方向部を形成し、この下方向部にウェイトを装着することから、クリアランス調整機構を設置したのちの供用時に、地震等が発生して第1建物及び第2建物に水平変位が生じても、横方向部の長さが変化するとともにウェイトが上下動するのみで、ウェイトの自重により索状材に付与される引張力は、ほぼ一定量を保持できる。したがって、第1建物及び第2建物に作用する水平力はほぼ変動しないから、この水平力により変形させた姿勢を、地震時であっても平常時と同様に保持することが可能となる。
【0012】
さらに、第1建物及び第2建物に作用させる水平力は、ウェイトを増減させて索状材に付与する引張力を変化させることで容易に調整できる。したがって、多大な手間を要することなく、第1建物及び第2建物もしくはいずれか一方の姿勢を所望の変形量だけ変形させることができ、両者間のクリアランスを高い精度で適正量に調整することが可能となる。
【0013】
また、構造が簡略であるため、設置作業を容易に行うことができるだけでなく、設置することにより、第1建物及び第2建物自身の剛性や固有周期を変化させたり、制振装置の動作に影響を及ぼすこともないため、連結制震構造に設計計画時に予定した制震性能を損なうこともない。
【0014】
本発明のクリアランス調整機構は、前記ウェイトに、移動方向を案内するレールが備えられることを特徴とする。
【0015】
本発明のクリアランス調整機構によれば、索状材の下方向部より垂下されたウェイトは、レールにより移動方向が規制されるため、地震等の発生した際に第1建物及び第2建物を破損させるような挙動を抑止することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ウェイトの自重により索状材に付与した引張力を水平力として、第1建物及び第2建物に作用させるから、第1建物及び第2建物もしくはいずれか一方の姿勢を、この水平力により変形させて、両者間のクリアランスを適正量に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態におけるクリアランス調整機構の第1の実施の形態を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態におけるレール及びウェイトの落下防止手段の詳細を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態におけるレール及びウェイトの落下防止手段の他の事例を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態におけるクリアランス調整機構の第2の実施の形態を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態におけるクリアランス調整機構の第3の実施の形態を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態におけるクリアランス調整機構の第3の実施の形態における他の事例を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態におけるクリアランス調整機構の第4の実施の形態の他の事例を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態におけるクリアランス調整機構の第4の実施の形態の索状材の掛け回し状態を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態におけるクリアランス調整機構の他の事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のクリアランス調整機構は、連結制震構造を適用した建物の姿勢を、建物の剛性や固有周期を変化させたり、制振装置の動作に影響を与えることなく修正し、制震装置で連結した建物間のクリアランスを調整するための装置である。以下に、
図1~
図9を参照しつつ、クリアランス調整機構の詳細を説明する。
【0019】
図1(a)(b)で示すように、外部建物11と内部建物12は、複数の制振装置13により連結されて連結制震構造を構成している。外部建物11は、内側にボイド空間111を有する鉄骨造の筒状建物であり、内部建物12は、ボイド空間111に構築された、外部建物11とは固有周期の異なる鉄筋コンクリート造の建物である。
【0020】
また、これらを連結する複数の制振装置13は、オイルダンパー、摩擦ダンパー、粘性ダンパー、粘弾性ダンパー、履歴型ダンパー等いずれでもよく、複数の制振装置13のすべてに同じ種類のダンパーを使用してもよいし、異なるダンパーを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0021】
このような連結制震構造をなす内部建物12と外部建物11との間は、平常時において適正量L1のクリアランスが均等に確保されている。適正量L1とは少なくとも、地震時に生じることが想定される外部建物11の水平変位δ1と、内部建物12の水平変位δ2とを足し合わせた大きさをいう。
【0022】
しかし、経年使用や不慮の事象等により、例えば
図1(a)では内部建物12が傾斜して、内部建物12と外部建物11との距離が狭小な場所xと広大な場所yが存在する等、クリアランスに不均等が生じている。そこで、
図1(b)で示すようにクリアランス調整機構1を、外部建物11と内部建物12に引張方向の水平力を作用させ、内部建物12の姿勢を修正できる位置に配置し、内部建物12と外部建物11との間のクリアランスを全域で均等となるように修正している。
【0023】
≪第1の実施の形態≫
図1(b)で示すように、外部建物11と内部建物12との間に配置されたクリアランス調整機構1は、索状材2と、方向転換シーブ3と、ウェイト4と、及びレール5と、を備えている。
【0024】
索状材2は、紐状部材もしくは帯状部材であればいずれを採用してもよく、本実施の形態ではワイヤーを採用している。また、索状材2の一端2sは外部建物11に設けられるとともに他端2eはウェイト4が装着され、その中間位置には、方向転換シーブ3が掛け回されている。
【0025】
方向転換シーブ3は、索状材2の延在方向を横方向から下方向に転換するためのシーブであり、内部建物12に設けられている。この方向転換シーブ3を挟んで索状材2には、一端2s側に横方向に延在する横方向部21が形成され、他端2e側に下方向に延在する下方向部22が形成される。
【0026】
ウェイト4は、索状材2の下方向部22に連続する他端2eに装着されることにより垂下状態に配置され、索状材2に引張力を付与するものである。その構造は、自身の重量により索状材2に引張力を付与でき、かつ重量を自在に調整可能であればいずれを採用してもよい。
【0027】
このような構成のクリアランス調整機構1は、ウェイト4の自重により索状材2に付与した引張力を水平力として外部建物11と内部建物12に作用させ、内部建物12の姿勢をこの水平力により変形させる。つまり、内部建物12を外部建物11側に引き寄せてその姿勢を修正し、内部建物12と外部建物11との間のクリアランスに適正量L1を全域にわたって確保することができる。
【0028】
また、外部建物11と内部建物12に作用させる水平力は、ウェイト4の重量を増減させて索状材2に付与する引張力を変化させることで容易に調整できるから、多大な手間を要することなく、内部建物12を所望の変形量だけ変形させることができ、外部建物11と内部建物12の間のクリアランスを高い精度で適正量L1に調整することが可能となる。
【0029】
さらに、クリアランス調整機構1はその構造が簡略であるため、設置作業を容易に行うことができるだけでなく、設置することにより、外部建物11と内部建物12の剛性や固有周期を変化させたり、制振装置13の動作に影響を及ぼすこともないため、連結制震構造に設計計画時に予定した制震性能を損なうこともない。
【0030】
また、クリアランス調整機構1を設置したのちの供用時に、地震等が発生して外部建物11と内部建物12に水平変位が生じると、横方向部21の長さが追随して変化し、また、ウェイト4が上下動するのみで、ウェイト4の自重により索状材2に付与される引張力はほぼ一定量を保持できる。
【0031】
したがって、外部建物11と内部建物12に作用する水平力はほぼ変動しないから、水平力により変形させた内部建物12の姿勢を、地震時であっても平常時と同様に保持することが可能となる。
【0032】
このように、高さ方向に移動するウェイト4は、索状材2の下方向部22を介して垂下状態となっているため、その移動方向を制御するレール5を設け、このレール5内を移動させている。なお、本実施の形態では、レール5を内部建物12の壁面に設けているが、これに限定されるものではなく、外部建物11及び内部建物12から独立させて設けてもよい。
【0033】
レール5は、ウェイト4における下方向(鉛直方向や斜め下方向を含む)の移動を許容しつつ、その他の方向の移動を抑制できる構造であればいずれでもよい。このようなレール5を設けると、地震時や風雨等の影響を受けて、ウェイト4が振り子のように挙動したり、外部建物11及び内部建物12に衝突するような方向に動作する事象を回避することができる。
【0034】
具体的には、例えば
図2(a)で示すように、レール5を、断面がリップ溝形鋼のごとく構成された長尺部材により構成し、長手方向を下方向に向けて、内部建物12の側面であって方向転換シーブ3の下方に設置する。このとき、ウェイト4は、その外形形状をレール5の内面全面と接する直方体形状に形成している。
【0035】
また、レール5内には、ばね材等の弾性部材を用いた緩衝材51をウェイト4の落下防止手段として設置しておくとよい。こうすると、索状材2に破断が生じてウェイト4が落下する等の不慮の事態が生じた際に、緩衝材51によりウェイト4を受け止めつつ衝撃を吸収することができる。
【0036】
なお、ウェイト4の落下防止手段は、緩衝材51に限定するものではなく、例えば、レール5の下方における内面に摩擦抵抗を大きくする粗面を形成したり、
図2(b)で示すように、レール5に対して下方に進むにつれて内部空間が狭小となるよう形成したテーパー部52を設けてもい。この場合には、ウェイト4の下方側面にも、テーパー部52に当接する傾斜面を設けておくとよい。
【0037】
さらには、
図3で示すような、ウェイト係止装置6を設けてもよい。ウェイト係止装置6は、ウェイト4の下端面から突出させたウェッジ61及び鉛直ロッド62と、鉛直ロッド62に装着された弾性部材63と、を備える。加えて、弾性部材63に支持される係止板64と、係止板64の上面に設けられ、横方向に延在する一対の係止棒65とを備える。
【0038】
このような構成のウェイト係止装置6は、一対の係止棒65に付勢部材が内装されており、通常時において
図3(a)で示すように、弾性部材63に支持された係止板64上で、他端をレール5の側部に向け、一端をウェッジ61に押し付けた状態にある。
【0039】
そして、索状材2が切断されるなどしてウェイト4が降下すると、
図3(b)で示すようにウェッジ61が、一対の係止棒65各々をレール5の側部に向けて押し出しながら、係止板64の挿通孔に挿入される。すると、ウェイト係止装置6は、係止棒65の他端をレール5の側部に当接させながらウェイト4ともに降下するが、レール5の側部に貫通孔53が設けられた高さ位置まで降下したところで、この貫通孔53に係止棒65の他端が嵌まり込み、これにより、ウェイト4の落下は阻止される。
【0040】
≪第2の実施の形態≫
上記のクリアランス調整機構1に対して、縦シーブ7を追加して設けた事例を、第2の実施の形態として、以下に説明する。
【0041】
図4(a)で示すように、縦シーブ7は、索状材2の下方向部22が掛け回されるものであり、外部建物11に設けられる。これにより、縦シーブ7を設けない場合の2倍の水平力を外部建物11と内部建物12に作用させることが可能となる。
【0042】
なお、
図4(b)で示すように、縦シーブ7は、複数設けてもよく、この場合には、外部建物11と内部建物12に交互に索状材2の下方向部22を掛け回すことができるよう配置すればよい。そして、最下端の縦シーブ7が外部建物11に位置する場合は、ウェイト4も外部建物11側に位置することとなるから、レール5も外部建物11側に設置する。一方、最下端の縦シーブ7が内部建物12に位置する場合は、レール5も内部建物12側に設置する
【0043】
なお、本実施の形態では、縦シーブ7を外部建物11と内部建物12との間で、下方に向けて千鳥上に配置したが、横方向に千鳥上に配置してもよい。
【0044】
≪第3の実施の形態≫
上記の第2の実施の形態では、クリアランス調整機構1に縦シーブ7を追加する事例を示したが、地震等の外力が作用した際に、平面的にXY2方向に変位する外部建物11及び内部建物12に対して、よりスムーズに追従することの可能な、クリアランス調整機構1に対をなす横シーブ81,82を追加して設ける事例を、第3の実施の形態として、以下に説明する。
【0045】
図5(a)で示すように、対をなす横シーブ81,82は、索状材2の横方向部21が掛け回されるものであり、外部建物11と内部建物12の各々に高さ位置を同じくして設けられる。そして、
図5(b)の平面図で示すように、一端2sを内部建物12に設けられた索状材2の横方向部21が、まず、内部建物12に設けられた横シーブ82に掛け回される。
【0046】
次に、外部建物11に設けられた横シーブ81に掛け回されたのち、内部建物12に設けられた方向転換シーブ3に掛け回される。すると、
図5(a)で示すように、索状材2の他端2e側には方向転換シーブ3を挟んで下方向部22が形成され、ウェイト4が装着される。方向転換シーブ3が内部建物12に設けられているから、ウェイト4が移動するレール5も、内部建物12に配置される。
【0047】
また、対をなす横シーブ81、82は1組にとどまらず、複数組設けてもよくこの場合には、
図6で示すように、外部建物1に固定する横シーブ81どうし及び内部建物12に固定する横シーブ82どうしを、それぞれ同軸上に配置するとよい。
【0048】
そして、索状材2の横方向部21を掛け回す際には、最上端に配置された対をなす横シーブ81、82から下方に向けて順次掛け回し、外部建物11に設けられた最下端の横シーブ81に掛け回したのち、方向転換シーブ3に掛け回せばよい。
【0049】
なお、対をなす横シーブ81,82は外部建物11もしくは内部建物12に直接設けてもよいが、本実施の形態では、制震装置13を外部建物11もしくは内部建物12に設置する際の固定具14を利用している。
【0050】
具体的には、制震装置13を外部建物11もしくは内部建物12に対して横方向に回転自在に設けるために用いられている軸ピン141、142を利用している。こうすると、外部建物11もしくは内部建物12を現状のまま保全しながら、容易に対をなす横シーブ81,82を設置することが可能となる。
【0051】
≪第4の実施の形態≫
次に、クリアランス調整機構1に対して、対をなす横シーブ81,82を制震装置13を挟んだ上下にそれぞれ3組ずつ備えた事例を、第4の実施の形態として、以下に説明する。
【0052】
図7で示すように、クリアランス調整機構1には、制震装置13の上部に3組の対をなす横シーブ81,82と案内シーブ9が設けられ、制震装置13の下部には、3組の対をなす横シーブ81,82と方向転換シーブ3が設けられている。なお、案内シーブ9は、下方向に回転するシーブであり、内部建物12に設置されている。
【0053】
そして、制震装置13の上部及び下部に設けられた合計で6組の対をなす横シーブ81,82はいずれも、制震装置13を外部建物11もしくは内部建物12に固定する際に用いる固定具14の軸ピン141、142を利用して設けられている。
【0054】
こうして、対をなす横シーブ81,82を複数組積層して設ける場合に、制震装置13を挟んだ上下に分散して設置すると、
図6で示すような制震装置13の上側もしくは下側の一方側にのみ設ける場合と比較して、最上段及び最下段に配置される横シーブ81,82と固定具14との距離を短くとることができる。すると、索状材2に引張力が付与され最上段及び最下段に配置される横シーブ81,82を介して水平力が作用された場合にも、軸ピン141、142の曲げ応力を小さく抑えることができ、構造的に有利となる。
【0055】
このような構成のクリアランス調整機構1は、
図8(a)で示すように、一端2sを内部建物12に設けられた索状材2の横方向部21が、まず、内部建物12に設けられた横シーブ82に掛け回されたのち、外部建物11に設けられた横シーブ81に掛け回される。次に、その下方に位置する横シーブ82、横シーブ81に掛け回されたのち、
図8(b)で示すように、3対目の横シーブ81に掛け回わされる。ここまで、索状材2は、時計回りに掛け回されている。
【0056】
こののち、索状材2は、内部建物12に設けられた案内シーブ9に掛け回されて折り返される。これにより、索状材2は、
図8(c)で示すように、制震装置13の下方に設けられた最上部の横シーブ81,82に対して、横シーブ81、横シーブ82の順に反時計回りに掛け回されたのち、再度横シーブ81に掛け回されて、掛け回し方向が逆転される。
【0057】
こうして時計回りに戻されたところで、2対目及び3対目の横シーブ81,82に駆け回れたのち、
図8(d)で示すように、3対目の外部建物11に設けられた横シーブ81から内部建物12に設けられた方向転換シーブ3に掛け回される。これにより、
図7で示すように、索状材2の他端2e側には方向転換シーブ3を挟んで下方向部22が形成され、ウェイト4が装着される。
【0058】
このような対をなす横シーブ81、82を採用すると、索状材2の掛け数を、対をなす横シーブ81、82の組数の2倍だけ確保することができる。したがって、
図5で示すように1組であればウェイト重量の2倍、
図6で示すように2組であればウェイト重量の4倍、
図7で示すように6組であればウェイト重量の12倍といった、多大な水平力を外部建物11と内部建物12に対して作用させることが可能となる。
【0059】
また、対をなす横シーブ81、82を採用すると、クリアランス調整機構1を設置したのちの供用時に、地震等が発生して外部建物11と内部建物12に水平変位が生じた際、索状材2の横方向部21の長さをよりスムーズに追随させることができ、外部建物11と内部建物12に作用する水平力をより安定して一定に保持することができる。
【0060】
ところが、対をなす横シーブ81、82の組数を増加させることにより索状材2の掛け数を増やすと、外部建物11と内部建物12に水平変位が生じた際に、ウェイト4は、対をなす横シーブ81、82の離間距離に索状材2の掛け数を乗じた長さ分の上下動を生じることとなる。
【0061】
また、ウェイト4の加速度は9.8m/s2が上限であるから、外部建物11と内部建物12の相対加速度が、9.8m/s2に索状材2の掛け数を除する量を超える場合には、ウェイト4の上下動が追随できないこととなる。したがって、対をなす横シーブ81、82を採用してウェイト4の重量を調整する場合には、これらの条件や部材間に生じる摩擦等を考慮し設計を行うとよい。
【0062】
なお、本実施の形態では、横シーブ81、82を制震装置13の固定具14に備えた軸ピン141、142を利用して設置したが、クリアランス調整機構1に用いる部材はいずれも、外部建物11と内部建物12に設けられている設備や部材を適宜利用して設置することが可能である。
【0063】
上記のとおり、本発明のクリアランス調整機構1は少なくとも、方向転換シーブ3を介して索状材2に横方向部21と下方向部22を形成し、この下方向部22にウェイト4を設ける簡略な構成で、ウェイト4の自重により索状材2に付与した引張力を水平力として、外部建物11と内部建物12に作用させ、外部建物11と内部建物12もしくはいずれか一方の姿勢を、この水平力により変形させて、両者間のクリアランスを適正量L1に調整することが可能となる。
【0064】
なお、本発明のクリアランス調整機構1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0065】
例えば、本実施の形態では、内側にボイド空間111を有する筒状の外部建物11と、ボイド空間111に構築される内部建物12との間に、クリアランス調整機構1を設けたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、
図9(a)で示すように、連結制震構造を適用した建物であれば、隣り合う第1建物15と第2建物16との間に設けてもよい。
【0066】
また、本実施の形態では、外部建物11と内部建物12との間に、クリアランス調整機構1を1組だけ設けたが、必ずしもこれに限定するものではなく、
図9(b)の平面図で示すように、クリアランス調整機構1を2組以上設けてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 クリアランス調整機構
2 索状材
21 横方向部
22 下方向部
2s 一端
2e 他端
3 方向転換シーブ
4 ウェイト
5 レール
51 緩衝材
52 テーパー部
53 貫通孔
6 ウェイト係止装置
61 ウェッジ
62 鉛直ロッド
63 弾性部材
64 係止板
65 係止棒
7 縦シーブ
81 横シーブ
82 横シーブ
9 案内シーブ
11 外部建物(第1建物)
111 ボイド空間
12 内部建物(第2建物)
13 制震装置
14 固定具
141 軸ピン
142 軸ピン
15 第1建物
16 第2建物
X 狭小な離間空間(クリアランス)
Y 広大な離間区間(クリアランス)
L1 適正量